読切小説
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せいぎと愛が必ず勝つ話
「――人がヒトであるところはその不完全さにある。とは中学校の特別授業に呼ばれたもう名前も知らない学者の御弁舌である。
あの学者は何を研究していたのだろうか。
哲学とは総合学問である。
数千年前、学問という言葉と哲学という言葉に明確な違いは存在せず、学問と言えば哲学であり、哲学と言えば学問であった。
というのは、今日の、数学だの、理科だの、社会学だのが存在しなかったのではない。
結局のところ、あらゆる学問は真理の追究に目的があり、その境界が現在のように存在しなかったことにそれの理由はある」
「学びの目的が、今のように、誰それの役に立ちたいだの、良き学び舎に行きたいだの、良き社会に加わりたいだのといわば俗な世界になかった。今の社会で言えば、高尚な理由の元、人々は研究していたのだ」
「人はもってせいぜい100年。その寿命の中で、これまで人間の築き上げてきた英知を全て学び取ることは到底不可能だ。結局、人間は真理を得ることは永久にない。おそらく、未来永劫」
「では人でなくなってしまえばどうか。人は100年しか生きることができない。では、人でなければ、たとえばカメは万年生きるという」
「しかし、それでも結局のところ分母が大きくなっただけで無限に増加する情報をすべて網羅することは不可能に近い」
「ある意味で目的を持って特定の世界の知識に絞って何事かを究めようとするのは当然の帰結であり、そしてそうでなければ今のような秩序ある世界は成り立ちようもない。適材適所、人によってできる事、できないことがあって、そしてそうあるべきなのだ」
「とすれば、あらゆる人のことごとくが同じ目的の元に行動するということがいかに危うい状況かということがわかってくる。独裁社会、特に戦時の人の命のなんという軽さ、あれはまさにその姿を目に見える形で示していると言えるかもしれない」

「ここまで寝ないで話を聞いてくれた一握りの者たち、私が何を言いたいか、何となくでもわかるだろうか」
「そう、この町の男のほとんどが大挙してやってきた魔物の虜になって日夜享楽にばかり身を任せているこの現状を、私は憂え、かつ近い未来起こるであろうおかしな世界を恐れているのだ」

「確かに魔物がやってきて、この町は活気が戻ってきた。作物の凶作は精霊の力によってほぼなくなり、酒場は最近妙に美しくなったという主人の娘を見に毎日満席の大繁盛。今では酔った大工の手で作られた、娘が歌うためのステージまであるそうじゃないか。路上の寒空の中マッチを売っていた少女はなぜか自分の体から炎を放つようになって、いつの間に何が起こったのやら良家の子息との婚約が決まったという」
「確かに餓えや貧困はなくなった。荒れた事件も減り続けている。だが、同時にわれらの中にあった秩序というべきものが失われつつある。公衆便所が真っ当な方法で使われなくなってしまったのももう過去の話で、茂みを歩いているとどこぞのゲームかと言いたいぐらいの頻度で昼間から情事にふける男女と出会う。私はこの集会を定期的に開いているが最近は脱落者が増加の一途だ。まあ、同時に加入者も増加の一途であるから、幸いこの集まりが消えることもないだろうが。しかし、まったくもって男の意思の弱さよ。もはや男の赤子が生まれたら奇跡とまで呼ばれる始末だ」

「諸君、我々は高潔な選ばれし集団である。魔物は確かに魅力的だ。しかし、それを理解しつつも、自らの純潔を守る我々ほど、意思の強い集団は存在しない。この町の秩序は我々にかかっていると言っても過言ではない。耐え抜き、この町の秩序を守るのだ」



「君はこの集会は初めてだな? 今日は来てくれてありがとう。最初から最後まで真剣に聞いてくれたのはほんの一握りだった。そんな限られた男の中の一人が君だ」
「どうだね、この後、さらに幹部だけの特別な集会があるんだ。君は特別だ。一緒に来ないか」






「今日も集会お疲れ様ー」
「は、わたくしめに労いの言葉など」
「んふふー。いい子だねー。で、今日は何人いた?」
「は、今日は3名ほど、我々に刃向う恐れのある男が見受けられました」
「ふーん、で?」
「無論、『特別な集会』に案内しました」
「んふ。ご苦労さま。ちょうど新米デビルが3人入ったところだから、綺麗にカップル成立しそうだね」
「……」
「……んふふふ。もう我慢しなくていいよ。おいでー」
「あああ、〇〇様! 失礼します!」
「……んっ。しかしばかだよねー。けっきょく、魔王様が、んっ、この世を統べちゃえば、はぁはぁ、えっちだけで何もかも補えちゃうんだから、っはっ、秩序なんて、はぁはぁ、そもそも必要ないんだよねぇ」
15/01/20 11:40更新 / 辰野

■作者メッセージ
これが書きたかっただけだろを並べていっただけかもしれない。
実質作業時間15分。

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