連載小説
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 3語目 キョウツウガクロ(共通+通学路)
っ!内定?!
ほ、ほんとですか?!
あ、あ、ありがとうございます!

よっしゃああああああぁぁぁっ!!
第一希望の企業に受かるなんてまるで夢のようだ。
あはは、うふふ、この喜びを誰かと分かち合いたいなぁ

「ひさしぶりじゃのぉ、大樹」

あ、じいちゃん!
俺やったよ、合格したよ!

「うんうん、祝いにこれやる」

ほんと?!なになに

ズッシィィン・・・・ズッシィィン!!

ぎゃあああああああっ!!!!
ド〜〜〜ラ〜〜〜ゴ〜〜〜ン〜〜〜〜〜ッ!!!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「またかよっ!」

・・・・・。
あ、おはようございます。
いや、こんばんはか?
なんせ時間が分からん。
カーテンの隙間から外を見ると夜明けのようで、空が明るくなり始めていた。
オホン、
改めましておはようございます。
突っ込みながらの起床となりました。
器用ですいません。
ちなみに何で突っ込んだかは憶えていません
きっと夢だからすぐ忘れてしまったのでしょうね(笑)
・・・まあ
そんな事はどうでも良くて、もの凄く眠い。
これは二度寝ですな
・・・・・・・・・・・・・・。
その前にトイレ。

トントントン・・・

トイレは1階にしかなく、2階に部屋のある俺はいちいち階段を下りなければならない。
おろ?
キッチンの電気が点いてる。
青葉がもう起きているのだろうか?

「・・・・・んっ・・・・はぅ・・・・」

なんか、いやらしい声が聞こえて参ります。

「んっ・・・・・ぁ・・・・・」

ドキドキ
な、何を、して、いるのかな?
ちょっとだけ、ちょっとだけ覘いてみましょうね。
物陰に隠れながらキッチンへと近づいていく。
青葉の背中が見える位置まで来ると、俺は息を潜め見守る。
ホントになにやってんだろう。
この位置から見える限り、俺の想像していた感じではなさそうだ。
青葉の目の前には
野菜と水筒。
・・・・意味分からん。

青葉は徐にニンジンを手に取った。
ほうほう
そしてそれを丁寧に握ると

「んっ・・・・・」

かしゅっ、かしゅかしゅっ・・・じゅわぁぁ・・・・

に、に、に、握りつぶした!!
ひぃ・・・
なんかストレスでも抱えているのかな
まさか、俺に対する恨み?!
あれか?!いや、まさかあれか?!
って、俺どんだけ気に障るようなことしてたんだよ!!
こ、こういう時って何て言えばいいの??
『怒っている青葉も可愛いね』とか?
・・・・どうしよう、頭の中にグロ画像しか出てこん!!
なんだろう、マジで思いつかん
そんな思考を巡らしている俺を他所に、事態は進行していく。
次は・・・・ギャベツ?!

「ふっ・・・・・ぁっ・・・・っ」

キャベツをしっかりと掴んでいる両手はぷるぷる震え、顔には苦悶の表情が浮かぶ。
いや、それは流石に不・・・

「くぅっ・・・・ぁぅ・・・・ぅっ」

ぐしゃっ、ぐしゅっ・・・・じゅわぁぁ・・・・

かのーーーーーーーーーぅっ!!
え!そんなにですか?!
俺の頭をグシャグシュしてジュワジュワ搾りたいですか???
いやぁぁぁぁーーーーーっ!!助けてーーーーーーーっ!!

「ふぅ・・・」

青葉は一息つくと、額に浮かんだ玉のような汗を捲り上げた袖で拭う。
一度リビングの掛け時計で時間を確認した後、再び潰しにかかる。

「ふふ・・・・」

背筋を凍てつく波動が駆け抜ける
わ、笑ってる・・・トマト持って笑ってる!
詳しい表情は見えないものの、俺の脳内にはもう青葉の残虐な笑みしか浮かんでこない。
青葉はトマトを持つ手にゆっくりと力を加える
順番に、人差し指、中指、薬指、小指、と。

ぐちゅぁぁ・・・・・・

その手つきのいやらしく、残酷なことといったら・・・
だめだぁぁぁぁーーーーーー!!
もう、見てらんない!
俺はキッチンの明かりがあるところまでダッシュ
その勢いで土下座を繰り出す。
人はこれをスライディング土下座という。

「すみませんでしたっ!!」

床に額を擦りつけ、全力で謝罪する。

「きゃっ」

直後
前方からストンという音が聞こえる。
ん?若干青葉の気配が低くなったような・・・?

「ぇ・・・え!どうなされたんですか?」

ようやく俺の存在に気付いたらしく、こちらに近づいてくる。
声の聞こえ方からして、どうやらしゃがんでいるようだ。

「もうしません!だから、それだけは勘弁して下さい!」

「そんな、顔を上げて下さい。何を言っているのかさっぱり・・・」

ゆっくりと顔を上げると目の前にぺたんと座り込んだ青葉がいた。
あ、スカートの中が見え・・・
青葉はそれに気付いたのか、顔を赤くしながらスカートの端を引っ張り
足りない布地を補おうとする。

「それで・・・急にどうされたんですか?」

「いや、さっきお手洗いに起きたら、キッチンに明かりが点いてて、覘いたら、バキグシャボギボギボギってなってたんで、マジすいませんでしたグシャグシャ」

もう頭の中真っ白。
絶対伝わってない!最後擬音語で締めるとかよくわからんし

すっ・・・

頭を下げている俺の両頬に青葉の手が添えられる。
そして少しずつ加えられる力。
・・・はは、そうですよね、許してなんてくれませんよね
変態・・・・ですもんね、そうです、僕変態です。
実は部屋の畳の裏に本を隠しています。
パソコンのお気に入りはほとんどそっち系です。
あと、あと・・・

「ふふふふ・・・」

不敵な笑い声。
千彰へ
先に逝っちゃう親友をどうか許しておくれ。
お前との時間、すごく楽しかった。ありがとう。
思い出すよ
あの日の豚汁、おいしそうだったな・・・
お前が食っちゃったやつ。
あの日の肉まん、おいしそうだったな・・・
お前が食っちゃったやつ。
あの日の・・・・ココア・・・・おいしそう、だったな・・・
お前が・・・・お前、が・・・・・飲んじゃった奴ぅぅぅぅっ!!

「直搾りですよ?」

「へ?」

脳内遺書を書いていた俺には唐突すぎる言葉だった。

「え、何のこと?」

「これです」

青葉は座ったままキッチンを指差す。
・・・・・・・・・!

「まさか!!」

「お飲みになられるようでしたので、作って差し上げようと思いまして」

直搾り野菜ジュース。
俺が昨日購買で買ったことを話した憶えがある。
そんな些細なことを青葉は・・・・
け、健気過ぎです

「では、大樹様は何だと思われたのですか?」

うっ

「非常に言いにくいのですが・・・・ストレス解消かと」

「私が、ですか?」

そうですよね
するわけないですよね
その反応を見なくてもある程度わかってましたけどね。

「・・・・・・・」

「・・・・・・・。」

「・・・・・・・それはないです」

何!この間?!
やるときは殺ると、そういうことですか?!
あわわわ・・・これ以上聞くと、俺が殺られちゃいそうだ!

「に、二度寝しようかな〜」

自ら二度寝なんて言葉を使うほどの強引さで話をはぐらかすと
俺は立ち上がり部屋に向かって歩き出す。

「お、お待ちください」

後ろから声がかかる。
振り向くと、そこには依然として座り込んでいる青葉の姿があった。

「どうしたの?」

「た、立てません・・・」

もしかして
俺のスライディング土下座に腰を抜かしたとか言われるんですか?
勘違い&腰抜かし、とか
俺超邪魔じゃん!!

「申し訳ありませんが、手伝っていただけますか?」

「もちろん!もとはといえば、俺が、全部、悪いわけだし・・・」

むしろありがたい
これで上手く手伝えれば俺の気持ちも晴れるってもんだ。

「で、どうすれば?」

「その・・・・ウエスト部分を支えていただければ・・・」

ウエスト?!
腰ですか!西ですか!!
元気ですかーーーっ?!?!?!

「大樹様?急ぎませんと、お料理の時間が間に合いません」

「ど、ど、ど、どこを支えればよろしくて??」

「ここをお願いします」

青葉はそう言うと、自分のスカートの上部に手を当てる。

「よ、よよよよよよよよよよぉ〜し」

ぴと

SoftTouch...
って、こんなんじゃ持ち上げられるわけない!
青葉、ゴメン
俺は少し強めに青葉の細い腰に力を入れる。

「い、いくぞ?1,2,3っ!!」

だああぁーーーーーっ!!
青葉はいとも簡単に持ち上がった
うおっ、軽っ!
あとは青葉が自力で立てればいいのだが
・・・・そう上手くはいかなかった。

「ぁ・・・・」

立ち損ねた青葉は再びバランスを崩す。
俺はそれを確認すると、すかさず腰を支える手に力を入れる。

ズルっと手が腰からずれてしまった。
ヒロユキッ!!
そして、俺が次の瞬間掴んでいたところは・・・

もにゅ

青葉の脇
しかも指で彼女の胸を掴む形になっている。

「ひゃぅ・・・・」

「・・・・・・っ!!!!!」

密着する俺と青葉の体。
俺は今のアクションで青葉の髪に顔が埋まってしまい
鼻孔に彼女の匂いと湧き上がる血の臭いが充満する。
柔らかいです、青葉さん
もう少しこのままでいいですか?

「大樹様、ん・・・あまり、指を、動かさないで、くださいますか」

「ど、どりょぐじばず(鼻声)」

「・・・・もう一度、お願いします」

皆さんはこんな状況に面したとき、どうするだろうか。
もしや『俺なら冷静に対処できる』とでも?
・・・・・・・・
甘いわぁぁぁぁぁっ!!
本当に出来るのか?ん?無理だろ、無理だよな?
無理でーーーーーーーーす!
理性と本能の狭間にいることは確かだが
未成年の俺に一線を越える勇気などあるわけもなく
つまり何が言いたいかというと
・・・・俺、どうすりゃいいの?
あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
・・・・・・・・

「大樹様、大樹様、お早めにお願いします」

「おらぁっ!!」

がむしゃらに腕に力を入れる俺。
もはや持ち上げたかすらもわからない。
投げ飛ばしちゃったかも・・・?
手から伝わってきていた色々なものの感覚が無くなったことで、だんだんと意識がはっきりしてきた。
視界が晴れ、思考が正常化していく。
目の前にはシンクに掴まりながら立っている青葉が見えるようになり
息を荒くしているものの今のところは大丈夫そうだ。

「はぁ、はぁ、ありがとう、ございます」

「な、なんの、なんの・・・全然重くなかったから・・・」

「・・・・・『おらぁっ』って言われませんでした?」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「ごめんなさい」

俺はその場で再び土下座した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

結局二度寝なんてする余裕もなく
あっという間に登校時間を迎えてしまった。
既に靴を履き替えはしたが
青葉に『少々お待ちください』と言われ、今に至っている。
まあ、時間にはまだ余裕があるし、特に問題ないか・・・
扉越しに見える寒空を見上げていると

「お待たせいたしました」

ようやくお出ましのようだ。

「うしっ、じゃあ行って来・・・・」

振り返ると
そこには弁当箱をふたつ持った
制服姿の青葉が立っていた。

「・・・・・・・・」

「いかがでしょうか?変なところは御座いませんか?」

短いスカートにボタンが飛びそうなくらいに張ったブラウス。
・・・はっきり申し上げましょう、御座います。
それより

「な・・・何で?!」

「昨日決めました、色々と。」

「いろいろ?」

「はい」

そういえば言ってましたね、昨日。
でも学校に行くなんて突発的な話、俺聞いてませんよ・・・

「手続きは?」

「帰国子女という形での入学となります」

まあ妥当な口実だな。
だって見えなくもないもん、青葉。
だけど
そこまでして学校に来る理由があるのだろうか?
さっぱりわからん。
・・・・いや、このままにしておこう。
今色々と考えるべきじゃない。
どうせ学校では、嫌というほど考えることが出来るのだから。
とりあえず今は制服を着ていれば良し

「じゃあ・・・行こっか」

「はい」

片や希望を、片や不安を抱きつつ
初めて二人で玄関を潜る。

「寒っ、そろそろマフラーの欲しい季節だなぁ」

ぴく

隣が反応を示す

「あ、別に催促してる訳じゃないから、ホント、そんなんじゃないから」

危ない危ない
『みんなみんなみんな、叶えてあげる』
みたいなドラ○エモン精神の彼女にとってコレは禁句だった。
・・・・○つけるところドジったな

「そういえば、名前ってどうしたの?」

「そのままトキワ、と」

「苗字は?」

「苗字、ですか・・・・・」

え、苗字無しでいけるもんなんですか?
いやいや、せめて何か考えましょうよ。

「私は・・・・・根本でも構いませんよ?」

躊躇いがちに言う青葉。
うわぁ、すごく可愛い・・・
そうだよね、それが一番いいよね。
って!
誤解されるわっ!!

「うん、でもね、同棲してることがバレたりしたらね、面倒なのよ」

「そう、ですか・・・」

そんな落ち込まないで
なんか罪悪感でいっぱいになっちゃうから

「どうせなら『龍』とか『竜』とか使いたいよなぁ」

「・・・篭城とかどうでしょう?」

なんでそんな追いつめられた名前なんだ
しかも『篭』だし・・・

「いや、それだと何だか切羽詰まったみたいな感じに聞こえちゃう」

「竜宮・・・・」

「USODA!!」

パロはマジでダメ!

「では、どうしましょう」

「う〜〜〜〜〜〜〜〜ん」

脳みそフルスロットルで考える。


「あ、千彰」

考えながら歩いていたら、いつの間にか合流位置に到着していた。

「うん・・・・あれ、青葉・・・?」

「おはようございます、千彰さん」

青葉の存在を認めた千彰は一瞬驚いたように見えたが、彼女の制服姿を確認するとすぐさま俺に耳打ちする。

「変態・・・・・」

意味はすぐに理解できた
俺が制服をエロエロに着させているとでも言うのだろう。
断じて違う!
制服を用意していないどころか、編入手続きをしていたことすら初耳だったのだから

「断じて違・・・」


その言葉を遮るように

「ここからは千彰さんとのキョウツウガクロですね」

青葉力が開花する。

「はい?」

すかさず尋ね返す。

「共通+通学路でキョウツウガクロです」

あなた、確信犯ですね?
絶対俺が聞き返すだろうと、そう予測を立てて説明を用意していましたね?
賢そうですけど全然賢くないですよ?

「そっか・・・・」

でもそんなことを無垢な彼女に言えるはずもなく
とりあえず返事だけすることにした。
てか、言い訳封殺されたな・・・
案の定
未だ俺を誤解しているのか、千彰はこちらを白い目で見ている。

「千彰、その視線、すご〜く痛いんだけど」

「大樹はもっとイタい・・・」

「上手いなちくしょおぉぉっ!!」

返り討ちを喰らったショックから立ち直れない俺を後目に二人は話し始める。

「そういえば、何の話してたの・・・・・?」

「はい、私の苗字についてです」

「苗字・・・・」

「なんでも必要らしいのです、それで大樹様に決めてもらっていました」

「へぇ、必要なんだ・・・・・」

ちょっ
何「初耳です」みたいな顔してんだよ!

「千彰さんは何が良いと思われますか?」

「根本・・・・」

早っ!
しかも、それ「良い」じゃなくて「おもしろくなりそうだぜい」の間違いだよね?!

「大樹様は『龍』や『竜』をつけたら良いのではないかと言われました」

「竜宮・・・・」

「嘘っ!(素)」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「はじめまして、トキワ・ミシェランカと申します。慣れないことも多々ありますが、どうぞよろしくお願いします。」

そう言って深々と礼をする。
クラスの何人かはつられて礼をしてしまっている
恐らく無意識に。
それほどまでに青葉の存在は別格なのだ、容姿、雰囲気、立ち振る舞い、全てが。

・・・・え?苗字?
ああ、その話ね。
結局千彰が一言
「帰国子女なら、外国っぽくていいんじゃない・・・・・?」
その一言で解決しました。
流石は俺の幼馴染みだぜ!!
・・・・・と言ったら、スルーされましたorz

「席は・・・・そうだなぁ、尾形の後ろ、ギリギリ一席入らないか?」

「いける・・・・」

机の配列的に教室の後ろのドア、つまり千彰の後ろが若干空いて見えるのだ。
そこにもう一席、青葉の机を置くということらしい。
つか、普通にタメかよ

「あとは・・・あぁ、根本。お前、家族なんだから、ちゃんと面倒みてやれよ?」

「なっ・・・」

いらんこと言うなやぁぁーーーーーーっ!!
ほら、なんか皆の視線痛くなったしさぁっ!!

ガラガラガラ・・・・・ピシャッ

どっと教室が沸き返る。
青葉はもう姿が見えない、辺りを人が取り囲み質問責めのようだ。

「おい、大樹」

「・・・・・・うぃ」

「詳しく説明してくれるよな?」

「・・・・・・・・」

「あ、はい・・・・」

ち、千彰・・・・最後、なぜ俺の了承を得ず答えた・・・?



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「大丈夫ですか?」

隣を歩く青葉は心配そうに、項垂れた俺を覗き込む。

「うん・・・・疲れただけ」

嘘ではないが言葉が足りないな
尋常じゃないくらい、が抜け落ちてたわ・・・

「私、早く帰っていろいろと準備しちゃいますね?」

「そんな、悪いよ。青葉も疲れてるでしょ?」

実際のところ
一番疲れていそうなのは青葉だ。
授業が終わり、休み時間が来る度に質問責めの繰り返し。
俺だったら・・・・・気絶ものだな
そう思ってしまうくらいの勢いだった。

「いいえ、と言えば嘘になりますが、問題ありません。」

「そ、そうは言っても」

「私が、私がしたいのです・・・・・ダメ、ですか?」

うぐっ
その顔で「ダメ、ですか?」は反則でしょ
もはや強行突破を覚悟しているように見えるよ。

「わかった、無理だけはしないでね」

「はい」

青葉は嬉しそうに返事をすると

「では」

ぺこっとお辞儀するし、そのまま早足で帰って行った。
どんどんと背中が小さくなっていき、とうとう見えなくなってしまった。

「ふぅ・・・・」

近くにベンチを見つけ躊躇いなく腰を降ろす。

「どっこいしょ」

今日は、心身共に、搾り取られたなぁぁ・・・・
特にボロを出さないように喋るのが、もう。
どうしても疲れたことばかり思い出してしまい、なんか憂鬱になる
こんな気持ちになるのはやっぱり秋だからだろうか?
目を瞑り、そのままゆっくりとした時間を過ごす。
・・・・・・・・・・。
そういえば
先程から音がしない
人の声も、車の走る音も、風の音も。
閑散とした住宅街なので珍しいことではないが
これは・・・・・異常じゃないか?
思い過ごしならそれでいい、でも・・・・

「お気づきになったようですね、アンサー」

「!!」

ベンチの後ろに気配を感じる

「あなた一人とは・・・・、もし他のアンサーに見つかっていれば、終わりでしたよ?」

あんさー?
なんだ、こいつは何の話をしているんだ?

「あんた、誰?」

出来るだけ平静を装い尋ねる。

「これは失礼致しました。私、DRコーポレーションより派遣されました者です」

DRコーポレーション・・・・
聞いたことがあるような気がする。
でも、思い出すまでには至らない

「思い出せないのも無理ありません、ですが弊社をご利用して頂いているのは確かです。」

こんな時に冗談を言うのはどうかと思うが
まさか・・・・振り込め詐欺的な感じじゃないよな?
そんな俺の考えは次の瞬間改められることになる。

「青葉」

「っ!!」

その語にハッとする。
確かに彼女は言っていた、自らがDRコーポレーションのものだと。

「思い出して頂けたようですね」

「ああ・・・」

しかし、ここで一つの疑問が残る。
なぜこのタイミングでここに来たのか。
普通、顧客の手元に届いた時点で何らかの説明に現れるはずだ
それがしっかりと手元に届いたのか、不具合が生じていないか等の点検も兼ねて。
なのに、なぜ?
恐らくこの疑問の答えこそが、今回来た使者の言わんとしていること。
そこまではわかっている。
わかってる、けど・・・・

「目的は?」

俺は率直に質問することを決意した。
多分そっちもこの質問を待っていたはずだ。

「お察し頂き感謝します。」

そう言い、一呼吸置いた後
彼女は話し始める。

「『アン・バイレ・デ・ラ・サービエンタ』開催です」
11/01/23 10:27更新 / パっちゃん
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■作者メッセージ
いよいよ本格始動していきます。
バトルも混じりエロも混じる
混じりっ気100%のSSをお楽しみあれ!

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