連載小説
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 2語目 ニオイセイ(匂い+異性)
えっ!内定?!
ほ、ほんとですか?!
あ、あ、ありがとうございます!

よっしゃああああああぁぁぁっ!!
第一希望の企業に受かるなんてまるで夢のようだ。
あはは、うふふ、この喜びを誰かと分かち合いたいなぁ

「ひさしぶりじゃのぉ、大樹」

あ、じいちゃん!
俺やったよ、合格したよ!

「うんうん、祝いにこれやる」

ほんと?!なになに

ズッシィィン・・・・ズッシィィン!!

ぎゃあああああああっ!!!!
ド〜〜〜ラ〜〜〜ゴ〜〜〜ン〜〜〜〜〜ッ!!!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「大樹様、起きて下さい。大樹様」

ゆさゆさ

「おふ・・・」

誰かに揺すられていることに気が付き
がっちり閉まっていた目蓋を開くゆっくり開く。

「おはようございます」

「・・・・で、」

「で?」

「デジャブっ!!」

「きゃっ」

開眼と同時に大声を響かせた俺は
勢い余って立ち上がる。
そんな俺を見て一瞬戸惑った表情をした青葉。
だが流石はメイド、笑顔で

「そうですね」

華麗にイナす。

「うん、おはよう」

何がしたかったんだろう、俺。
寝間着で立ち上がっているところを視姦されるという
とんでもない惨めな状況を作り出してしまった。

「朝食の用意が出来ました」

「うん、ありがとう」

引くに引けないこの空気。
何か、何か打破するものはないか?!

「・・・・・・・。」

「・・・・・・・。」

「あの・・・青葉さん」

「はい?」

「・・・・見なかったことにして頂けますか」

「ご命令とあれば喜んで」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ふぅ・・・」

外は既に冬の到来直前
ついたため息が白色の煙として実体化する。
なんかそれを見ているだけで虚しい気持ちになる

「はぁ・・・」

朝からダメダメだった俺
結局あの後朝食を食べたが、その上手いの何のって
で、やべっ!もう腹一杯っ!とかいって家を出ようとしたら
青葉が一言

「まさかお残しになって学校へ行けるなんて、思ってませんよね?」

背筋が凍りまして・・・
正直敬語ってめっっっっっっちゃ恐い
なんていうの、あの、感情が隠れている感じ?
隠していたものを小出しにしているのか
それとも、隠そうとしても抑えきれないほどの怒りを抱いているのか
未曾有の恐怖ってやつですな。
あ、”みぞうゆ”の恐怖ってやつですな(笑)
・・・とにかく
全部食べる終わるまで解放してもらえず
今に至っているわけだ。

「つか、寒っ」

こんな寒い日に徒歩通学とは酷な話だ。うん。

「おはよう・・・」

「お、おっす」

考え事をしながら歩いていたらいつの間にか隣に千彰がいた。

「考え事?・・・」

「ああ、ちょっとね」

当を得すぎている質問に答えを濁す。

「青葉が絡んでるの?・・・」

「お・・・おう・・・」

だめだ
このままだったら千彰に全部言われてしまう。
いっそのこと俺から全て話してしまおう。

「まあ、どうでもいい・・・」

「えーーーーーーーっ!」

そこまで聞いておいてっ?!
何だよぉ!逆に言いたくなるじゃねぇかよぉ!!

「くぅ・・・・」

にやり

っ?!
こいつ今、笑いやがった!
ハメられたっ
あえて引き離すことで答えを俺の口から引き出そうとしてるんだ!
なんたる戦略、いや悪知恵
我が幼馴染みながら恐ろしい

「くふふふ・・・・」

だがっ
それを見破った俺はその上だ
久しぶりだぜ!この優越感!!

「どうせ、朝食残して怒られたんでしょ・・・」

ズコーーーーーーー

な、何で、分かるんだよぉ・・・・
んなろぅ!やられたまんまでたまるかぃ!!

「おらぁっ」

俺は盛大にこけていた体勢から千彰に殴りかかった
もちろんそれはかわされる。
だがこちらもそんなのお見通しだ!
振り切った腕の戻る力を利用し、千彰目がけてエルボを打つ。
しかし
千彰はその腕の肩付近を殴りつけてきた

ごすっ

「痛っ!!」

ごすっ、ごすっ、ごすっ

「いたい、いたい、いたい、いたい、ちょっ、まじ、リアルにっ」

「千彰は急に止まれない・・・」

「お前は心がけ次第だろうがぁぁぁっ!!」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「いつつつつ〜〜〜・・・・・」

肩に青タンができました。
超痛いんですけどっ!
なんて考えていたら
背後からにゅっと手が伸びてきた。
そちらを振り向くと深刻そうな顔をした男が一人

「だいじょぶか、だれにやられた・・・・」

「お前だっ!お前っ!!」

指を突きつけ猛抗議

「え?・・・・」

千彰はくるっと振り返る

「何イナしてんの?!」

「あ、俺?・・・」

「はぁ・・・」

もう、怒る気も失せた。
いつもこんな感じで上手くやってきたのは事実だけど・・・

「てか完全に出遅れたな」

どこの学校も同じだろうが、昼休みの購買はやっぱり混んでいる。
自分の欲しいものを手に入れるにはロケットスタートを繰り出さなければ入手不可能なのだ。
その時間を既に多く無駄にしてしまった今、行く意味などゼロに等しかった。
だが

「野菜ジュースはまだ売れ残っている可能性がある!行くぞ、千彰!!」

千彰の席に向き直るとそこに彼の姿はなかった。

「ああ、千彰なら購買に行ったぞ?」

・・・ふふふふふ、あはははははっあーはっはっはっは

「待てやゴルアァァァァッ!!」

全力疾走!
とことん俺を陥れなきゃ済まないのかあいつはっ

がやがやがやがや

「うおぃっ!」

購買はやっぱ混んでた。
てか今日は女子率多っ!
しかし、俺には秘策があるのさ
大きく息を吸い込み購買のおばちゃんに向かって叫ぶ

「おばちゃぁぁぁぁん、いつものぉぉぉぉぉぉぉ!!」

それをおばちゃんが聴き、俺に向かって野菜ジュースを投げる。
放物線を描いて人混みの上を飛ぶ。

人混みの中から誰かが大ジャンプ
俺宛に届けられるはずだった野菜ジュースはそいつが浚っていった。
そいつの名は

「ちあきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!」

俺は人混みの中に飛び込む。
今日は何でそんなに絡んでくるんだよ、全く!
どこだ!どこにいる!
人混みをかき分けかき分け探すが一向に見つからない。
その時

”選ばれし人、聞きなさい”

「え?」

女の人の声がする

”あなたの音は最大の武器、あなたの音は最大の防御”

辺りを見回すが女子が多すぎて誰かを特定することは出来ない。

”目覚めの時は近いのです”

「ちょっ!だれっ!ねぇ!」

尋ねるが返答はない。
実際のところ俺に向けられた言葉かすら不明だ。
な、何だったんだ?
言葉の使い方が昔過ぎて何言ってるかさっぱりわからんかったし
・・・だあぁっ!何でもいいけど一度出よう!
一度人混みを出るとターゲットが立っていた。

「お疲れ・・・」

そう言って両手に持っている紙パックの一方を俺に差し出してくる。

「はい、お疲れました。」

苦笑しながらそれを受け取る。
『 青汁 』
あ、ボケ倒すんだ(泣)



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ただいま〜」

「おかえりなさいませ、大樹様」

今日も何気ある1日が終わり
特に何もする事がなかったので直で帰ってきた。

「ふぃ〜、疲れた・・・」

そのまま今のソファーに横たわる。

「お風呂にいたしますか?お食事にいたしますか?」

「う〜〜〜ん・・・・ごはん」

「かしこまりました」

そういって青葉は台所へ戻っていく。
先に風呂という手もあったが
ただでさえ眠たいのもあって食事を先に摂ることにした。
ふわあぁぁ・・・・眠い・・・

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「大樹様、大樹様」

「んが」

目を開けると青葉が微笑みながらこちらを覗き込んでいた。

「お食事の用意、出来ましたよ」

「ああ、ありがとう」

どうやらソファーの上で寝てしまったようだ
テーブルの上では鍋がグツグツと煮立っている。

「鍋か、いいね」

寒い季節にはコレ
流石、わかってるな青葉は。

「いただきます」

「はい、召し上がって下さい」

湯気立ち上る鍋を二人で囲み
団欒しながらゆっくりと食事を楽しむ。
ついこの間まで一人だった食卓が急に華やいで見えた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

食事を終え、寛ぎの一時。
ソファーに座っていた俺の横に青葉が腰掛ける。
うあっ、いい匂い・・・
こういうところにも気を遣っているのだろうか?
なんて考えていたら

「大樹様」

「え?!」

ずいっと俺の首筋に顔を寄せてくる
青葉の息が首筋から伝わり、その感覚に顔が熱くなる。
ど、ど、ど、どうしたんだ?
くんくんと、やたら匂いを嗅いでくる
と、

「・・・・・」

なにかを思案する顔をしながら、ゆっくりと離れていく。
・・・そして

「今日は私にお背中を流させてください」

「っ!!」

俺は一体今どんな顔をしているんだろう?
きっと阿呆みたいな顔だ。
突然の申し出に脳内回路がショートして、表情の作り方すら忘れてしまったようだ。
修復中・・・修復中・・・

「大樹様?」

「オウ」

口から完全な片言が飛び出す。
きっともう一人の俺が場を繋ごうと頑張っているのだろう
今のうちに!
修復中・・・修復中・・・

「ダメ、でしょうか」

「イイゾ」

あっ!この野郎、即答しやがったっ!!

「本当ですかっ!」

顔には笑顔が咲き、喜びの度合いが窺える。
うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!
カチッ
回路修復完了しました

「だあああぁぁぁぁっ!!」

青葉はびくっと体を震わせ、心配そうに俺を見つめる。

「待った!その話待ったっ!!」

手で青葉を制止する。

「なんていうか、その、今さっきの俺は俺じゃなくて」

何言ってるんですか?と言わんばかりに青葉は首を傾げてみせる。
ああーーーーーーっもうっ!

「と・に・か・くっ、何でその話になったかを聞いてから考えます!」

これで伝わったんだろうか?
勢いのまま言っちゃったせいで傷つけてしまったのでは?

「はい・・・」

声色から落胆の色が見える。
ガーーーン
傷つけちゃったぁぁぁーーーー・・・
とりあえず謝ることにしよう。

「ごめん、俺が生返事したばかりに」

「いえ、いきなり申し出た私も悪いですから」

昨夜もそうだったが
俺たちはゴメンゴメン合戦をする傾向がある。
そこは直さねば
・・・とりあえず、今は目先のことに集中しよう。

「なんで急にそう思ったの?」

こういうことを女性に聞いて良いものなのだろうか?
今まで彼女とかそんなの作ったことが無かった俺にとって、ここは未知の領域だった。

「・・・やっぱり、言わなければなりませんか?」

珍しい、青葉が言い淀むとは。

「言いにくいの?」

「・・・・はい、とても」

先程から俺と目線を合わせようとはせず、
視線を落とし、はにかんだ表情を浮かべている。

「どうしてもですか?」

「う、うん、少なくとも風呂に入るのはね」

恐ろしく可愛いです、この人。
”焦らす(じらす)”女性って鬱陶しいイメージありますけど
俺思うんです、やっぱり美人がやれば何でも許されるんだと。

「・・・実は・・・匂いがしたんです」

「な、何の?」

恐る恐る尋ねる。

「・・・・・女性の」

はあ
つまりこういう訳ですか。
俺が学校で女子と必要以上にいちゃいちゃしていると
だから匂いがするのだと・・・

「ないっ!ないないないない」

手を眼前で振り全否定の意思表示をする。
あるわけないじゃないですか、この俺が
今日はいつにもまして千彰と一緒にいたし、女性と触れあう機会なんて何も・・・・

「ぁ・・・・」

ありました。
そういえば今日購買は女子でいっぱいでした、しかも潜りました。

「一回だけありました」

「え・・・」

青葉の顔には明らかにショックの色。

「いやいやいや、つっても購買が女子で混んでただけで、ホント、それだけだから」

我ながら必死な言い訳、ごちそうさまです。
って、そんなこと言っている場合じゃない!
どうしよう、どうしよう

「そ、そ、そ、それで?一緒にお風呂とどんな関係があるの?」

そう言った瞬間
青葉は自分の立場を再認識したらしく、再び顔を赤くする。

「・・・お背中、お流したら・・・私と同じ匂いに、なってくださると、思いまして」

ズキュゥゥーーーーーーン!!
ああ、やばい、耳元で発砲音がした
心臓のど真ん中を打ち抜かれたのかな、出血が止まらない・・・
そうなんですね、これがあなたの嫉妬なんですね。
もう、可愛すぎですっ!

「ダメ・・・でしょうか?」

その目!
やめて、俺はCMのチワワにすら勝てる気がしないんだから

「うぐ・・・ワカッタ」

え?!このタイミングでもう一人の俺?!

「本当ですか!・・・ありがとうございます」

HAHAHA!!
もうドウニデモナレ?!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

かぽーん
こちら現場の大樹です。
湯船にて大樹、待機中です
・・・・・。
いっそのこと死ぬか?

ってことで今から本当に青葉氏が入ってくるそうです。
鼓動で浸かっているお湯が揺れています。
あの、最初に言って置きますけど、風呂、超狭いですから。
二人とかホントぎゅうぎゅうです。
・・・・・ぎゅうぎゅうです、ぎゅうぎゅう。
あまりここで猥談に話を咲かせると先に進まないので、今は勘弁して下さい。

ざばっ

湯船から出て腰に巻いてあるバスタオルを巻き直します。
ここ重要。

「大樹様」

ドクン
心臓発作ばりに鼓動の周期が異常です。

「・・・よろしいですか?」

「オウ、ダイジョウブダ」

既に第二の俺に担当してもらってます。
がんばれよ、俺02!

がらがら

振り返りたい
でもその衝動を必死に抑え、青葉に背を向ける。
俺がその場に正座すると
後ろでタオルを泡立てる音が聞こえる。
・・・そして

「では、お流しいたしますね」

そういって俺の背中にタオルがあてがわれる。
上下左右に洗われ、背中をどんどん網羅していく。

「いかがですか?」

「さいこぉっす」

言葉になりません。
しかもこの言葉、昨日も言いました。
彼女が手を動かすたびにタオルに付いたボディーソープが香ります。
今まで俺の使っていたものとは全くの別物
それどころか青葉専用ではないだろうか、安らぐ匂いだ。

「大樹様、私今日で色々と決めました。」

「ソウカ」

「はい、それでその一つが野菜ジュースの事なんですが、何ていう名前なんですか?」

何だろう、事前に買っておいてくれるとでもいうのだろうか

「ジカシボリヤサイ100」

「直搾り・・・・」

ざばぁぁ・・・・

背中にお湯がかけられ、終わりを告げる至福の時。

「終わりました」

「アリガトウ」

そう言って無意識に振り向いた俺。
視界をバスタオル一枚の青葉が埋め尽くす。
窮屈そうにしている胸がまた何とも・・・
なんてことを考えていると
鼻孔がどんどん熱くなっていく。
目を瞑る
チャ〜〜〜〜〜チャラチャラチャラチャッチャチャチャ〜〜
頭の中にボレロが流れ始める。
そしてそれは一周し、再び始まるのと同時に

ブーーーーー・・・

鼻孔にあった熱いものが噴射

「大樹様?!」

俺は近くにあった壁にもたれ掛かる。
心配して近づいてきてくれる青葉は未だあの姿。
血・・・止まりそうもないな・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「す、すみませんでした、無神経で・・・」

「いや、全然」

あの後、ようやく青葉は自分のやっていることが過激だったことに気付いたらしく
顔を赤くしながら何度も何度も俺に謝罪する。
青葉さん。罪なのはあなたの行動ではなく、あなたの体ですよ。
とか何とかしている間に
再び俺の首筋に顔を寄せる青葉。

「・・・ニオイセイ、しなくなりました」

はい、本日も出ました〜!
青葉辞書ですねぇ〜。

「一応聞くよ?何ていったの?」

「ニオイセイですか?」

毎度毎度「それが何か?」って顔しますけど
中々シュールですからね?その行動。

「何を足したの?」

「匂い+異性です」

「・・・寝よっか」

「はい」

流したつもりだったが、彼女は何事もなかったかのように返事をする。
そりゃあそうだ、自覚がないんだもんな・・・

こうしてまた、彼女と過ごす1日が過ぎていった。
この生活に慣れ始めた今、彼女のいない生活を俺は過ごしていくことが出来るのだろうか?
そんな一抹の不安がよぎる。
きっと
そう思ってしまうほどこの生活を楽しんでいる、という証なのだろう。
しかしそんな不安も彼女を感じるだけですぐに消し飛ぶ。
大切なのは過去でも未来でもない
今だということを思い出させてくれるから・・・



「報告します。オーナーとのバイオコンタクトに成功しました。はい、並びにフレグランス効果で彼女は更なる行動の決意を固めた模様です・・・はい、恐らく・・・はい、はい、分かりました。はい、はい」

通信機の回線を切ると細く変形した月を見上げる。

「新月まであと少し・・・覚醒の時が、近い」



11/01/23 10:27更新 / パっちゃん
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■作者メッセージ
どうですか?メイドとの甘い生活は?
正直憧れますよね・・・・

フラグ、結構立てます。
どうなるかは今後少しずつ明らかにしていくつもりです。
こうご期待!!
・・・とかいうとプレッシャーになりかねないので
まあご期待!!

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