ズルズル。ズルズル。俺は、山中を足を引きずりながら歩いた。スライムやラミアは、体にすりより誘惑してくるが、無視をする。どれだけ可愛かろうが、どれだけ誘惑してこようが、今の俺には通用しない。 「何よ。目を一切会わしてくれないなんて。」 だが、ラミアはこれ以上何も言わなかった。それもそうだ。 全身から血を流し、所々矢や槍を刺したまま、ゆっくりと歩く俺を、誰も止めたがらないだろう。 「はぁ…はぁ……。」 知らぬ間に、リザードマンやらマンティスやらと、多種多彩な魔物がいる。不思議なもんだ。こんなに誰かにみられるなんて、初めてだ。だが、死ぬ前に、最期…最期に、したいことをしにいく。 「その先は、『レッドドラゴン』の縄張りだ。行くのは辞めた方が…。」
「うるせぇ!」
「!」 忠告してくれたリザードマンには申し訳ない。だが、ここで止まるわけにはいかないのだ。
木の高さが低くなってきた辺りで、回りにいた魔物達はいなくなった。これから先が、ドラゴンのすむ…。
「貴様、我の縄張りへとノコノコと現れよって…。何ようだ。」 そう、空から声をかけられ、反射的に見る。…ドラゴン。嗚呼…ドラゴンだ! 「おい!聞いておるのか?そのボロボロな身体で、我に一体何のようだ?」 「おお…ドラゴン…。」 「聞いておるのか?おい、おわぁぁぁ!?」 そんな変な声をあげるドラゴン。俺は、勢い余って手を握ってしまったのだ。 「おお…ドラゴンよ!もし私の願いを聞き入れて下さるのなら、死ぬ前に、貴女様を抱き締めてくれませぬか!」 いつに覚えたのか知らぬ、そんな言い方に、彼女は、驚きの顔を見せる。が、 「最期か…。貴様の願いはそれだけか?」 そう言うのだった。俺は、その言葉に首をかしげ、 「どういう事でしょうか?」 そう聞き返す。 「他に、死ぬ前にしたかったことはなんだ、と聞いている。」 「私は…。」 「改まるな。耳が痛くなる。素でいい、素で。」 そう言われたのなら…。 「抱かせてくれ。」 「な!」 彼女は、顔を赤くしながら、目線をそらす。そして、 「……唯、抱きつくだけなら…。」 小声で、彼女は了承してくれた。 「ああ、ありがとう!これで、したいことの夢は叶う!」 そう叫び、思いっきりギュッと抱き締めた。 「ヒィャ…。うう…。」 何かに耐える声が聞こえる気がする。暖かい…。
ああ…。俺、最高の気分…。
………………
…………
……
ドサッと、男は倒れた。その顔は、何だか嬉しそうだった。 「亡くなってしまったか…。我の初めてを奪って、あの世へいくとは…何て奴だ。」 そう、怨みったらしくいう、『レッドドラゴン』サァーシャは、ふとおもいだした。
「そういえば、名前を聞いてなかった…。うう…ドラゴンの癖に消極的とか、酷すぎるでしょ…。」 サァーシャは、男の亡くなった遺体を見ながら、 「……せめて、埋めてあげないと。」 サァーシャは、魔法を使って、男をその場に埋め、石を切り出し、そこに刺した。 「簡単でも、いいか。」 そう言って、石に文字を爪で刻むと、その場を後にした。
そこには、『我の初めてを奪いし者、ここに眠る』とあった。
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