連載小説
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親征する宇宙恐竜 ドラゴニア攻略戦
 ーーアイギアルムの街、クレアの家1階・メイドの部屋ーー

「御主人様〜〜♥」

 ワーキャットのリリーは他の魔物娘が今日家にいないのをいいことに、ゼットン青年を自分の部屋に連れ込んでいた。

「今日は誰もいニャいですニャ。だからリリーをたっぷり可愛がって欲しいニャ〜〜〜〜♥♥」

 この雌猫は浅ましく発情し、愛液でぐっしょり濡れたショーツを主人の左膝に当てて擦りつけて誘っている。

「んん………」

 ところが主人の方はというと、昼までぐっすり寝た挙句つい今リリー起こされたばかり。まだ頭の方はまだ覚醒しきってないらしく、連れてこられて尚寝ぼけ眼である。

「ニャア………………ニャッ!」

 久しぶりに二人きりになれたにもかかわらず、乗り気でない主人を見たリリーは不機嫌そうに鳴く。
 しかしそんな中何かを思いついたのか、リリーは尻尾と両耳をピンと立てる。

「こんなつれない御主人様にはこうニャ!」

 リリーは尻尾を器用に主人のパンツの中、臀部の辺りに這わせーー

「……痛ってぇ!?」

 そのまま主人の肛門にねじ込んだのである。

「ちょ、おまっやめっ」

 異物をいきなり挿入され、ゼットン青年はそのまま身を捩るが、突っ込まれた尻尾は前立腺の辺りに到達。

「……んのわああぁぁ!?」

 普段女陰にブチこみまくっている青年を逆に悶絶させる。

「ふふ〜ん! 御主人様がかまってくれニャいから悪いのニャ!」

 悪い笑みを浮かべたリリーはさらに前立腺を刺激。それに反応し、青年は形容し難い悲鳴と動きをする。

「うっぬぅおあわながぁぁあ!!!!????」
「ニャ? そろそろイキそうニャ?」

 魔物娘故、未経験ながら前立腺の弄り方も、それによって絶頂しかかっていることも把握している。青年の態度と荒い息遣い、大量に流す涙と痙攣の具合からして明らかだ。

「ニャフフ、見ているのは私だけ。だからブザマにイッてくださいニャア!!」
「うっ、うぅぁおあおあぉぉ!!!!」

 ワーキャットに尻尾を肛門に捩じこまれるという異常で屈辱的な状況の中で、青年は未知の快感にただ悶えることしか出来なかった。挿れられて3分も経たぬ内に、獣のように咆哮しながら青年はそのままパンツの中に射精してしまったのである。

「うぅ……」

 寝ぼけていたところへいきなり未知の快楽を叩き込まれ、青年はまともに動くことも出来なかった。そのため、部屋の隅にあったベッドによろよろと倒れ込んだのである。

「にゃ〜〜ん♥」

 しかし、リリーは満足していなかった。彼女は悪魔でなく獣故、ただ弄んで満足する質ではない。ベッドに力なくうつ伏せになる青年にじゃれつき、耳を舐めて甘噛する。

「これでオシマイかニャ……?」

 甘い声で、耳元で挑発的に囁くワーキャット。

「………………!」

 負けず嫌いなゼットン青年がもちろんそれに反応しないはずもない。

「ーーこのっ!」
「ニャアン♥♥」

 動けなかったはずの体を気合で動かし、生意気なメイドをベッドに押し倒す。

「おネムの時にとんでもないモンぶちこんでくれやがって……!」
「ニャ〜〜ン♥♥ リリー一体どうされちゃうニョかニャ〜〜♥♥」

 うつ伏せになるリリーだが、最初から発情していた彼女はもちろん嫌がるどころか臨戦態勢であった。具が透けて見えるほどに濡れた女陰をさらに強調するかの如く尻尾も尻もゆらゆら揺らし、メス臭を部屋に充満させている。

「そんな躾の出来てないおバカなエロネコにはーー」

 ショーツをズリおろした飼い主はいきり立った怒張をほぐれた女陰目掛けーー

「こうだっ!」
「ニャアアアア〜〜〜〜〜〜〜〜ンン♥♥♥♥」

 突き挿れた。待ちに待った物の到来にリリーはたまらず嬌声を上げる。

「ニャ♥ ニャ♥ ニャ♥ ニャ♥ ニャン♥♥」

 突かれる度大きな乳房と尻肉が揺れ、腰が激しく叩きつけられて愛液が撒き散らされる乱暴な後背位。しかし、発情した雌猫はむしろ悦んでいた。彼女は猫らしく野性的な交尾が好きだったのだ。
 主人の方も興が乗ったのか、雌猫の尻を掴んで無言で突きまくる。そしてそのザラザラな舌と同じく濡れそぼるもややザラザラとした膣内を堪能する。

「ニャアア〜〜〜〜ン♥」

 いくら乱暴に犯してもリリーはただ悦んでいるだけだ。そこが癪に障ったゼットン青年は不意に尻をはたくが、ワーキャットはその痛みにもまた甘い嬌声を出して鳴くばかりである。

「このエロネコめ。尻を叩かれて悦ぶとはなんて奴だ!」

 やや嗜虐的な笑みを浮かべる主人とは逆に、エロ猫の方は蕩けた顔である。そこが主人の嗜虐心をさらに刺激する。

「だったら、こうしてやる!」

 犯しながらも主人は雌猫の尻を何度も叩き、その度部屋に快音が響く。

「ニャアア〜〜〜〜ン♥」

 肉付の良い尻は赤くなったが、雌猫は甘い声を上げてむしろ尻を主人の股に擦り付けるばかりである。

「メスクセぇ匂い出して甘えてきやがって♥」

 『雌臭い』ーー人間の女と魔物娘との違いを訊かれた時、ゼットン青年が挙げるであろう点の一つである。この『雌臭い』という表現は色々なものを含んでいるが、同時にそれらを一言で表している。そして、他のインキュバスもまた同意・納得させるであろう言葉だ。

「いっぱい犯してやるからな♥」

 この淫靡な雌猫の雌臭さにさらに興奮した青年。その後も松葉くずしで奥深くまで肉棒を子宮口まで叩き込み、対面座位で激しく口づけを交わしながら突き上げ、屈曲位で押し倒しながら犯す。裸にひん剥いた雌猫の尻を叩き、爆乳を揉みしだき乳首を舐めしゃぶり吸った挙句、さらには各体位のフィニッシュごとに大量に膣内射精で子種と精を大量に流し込んだ。
 ゼットンとリリーは激しい愛撫の果てにお互い体液を浴びまくり、挙げ句両者キスマークだらけ。行われた性交の激しさを窺わせるものであった。





「ニャフフ♥ きっとデキてるニャ♥♥」

 8回射精したところでリリーはようやく満足し、今はベッドでピロートーク中。その最中、はにかみながらリリーは男に告げるがーー

「あっ、うん……」

 男は何故か顔を背けた。

「ご主人さま?」
「………………」

 そして振り返れなかった。隣のワーキャットがハイライトの無い漆黒の瞳で見つめているのが分かっていたからだ。

「まさか……面倒臭い、とか思ってますニャ?」
「………………」

 暗い声で主人に問うリリー。

「デキちゃったら私は捨て猫かニャ?」
「………………」

 その声には下手な反論など許さぬ迫力があった。

「そ、そんなことねぇよ……」

 そんなワーキャットにビビり、上ずった声で返事するゼットン青年。

(子育てなんてメンドクセーよ! 俺はただいろんな魔物娘とセックスして、マンコの中に精液をブチまけたいだけなんだ!)

 しかし、リリーにはそんな青年の身勝手な叫びが聞こえてくるようだった。

「はぁ……」

 心底呆れた顔でため息をつくリリー。もっとも、そんなろくでもない男に惚れたのは自分達であるのだが。
 しかし、まだ希望はある。自分にしろ他の誰かにしろこの男の子供を妊娠すれば、彼の意識も変わるかもしれない。褒めるところの無い本当のクズならば、彼女達は見向きもしなかったのだから。

「あ、後で俺のパンツ洗っとけよ。最初にぶち撒けたのお前のせいだし」
「御主人様のそういうダメ人間な所が妙にクセになるのニャ〜〜」

 そして彼は変な所でマイペースというか空気が読めない。そこが自由気ままでちょっとMなワーキャットの好む所であったのかもしれない。良くも悪くもリリーは飼い猫、いや『飼い慣らされた猫』であった。










 皇帝エンペラ一世の王魔界脱出後、同じく静養中だったエンペラ帝国軍だが、今また親魔物領への攻撃を再開しつつある。しかし魔物側の反撃も激しく、人類最強のエンペラ帝国軍といえど時には撃退されることもあった。

 ーー浮遊島王城・玉座の間ーー

『なに、七万も投入して駄目だったというのか?』
『申し訳ございませぬ』

 跪いてうなだれるデスレムからの報告を受け、驚く皇帝。

『ドラゴニア………さすがに甘く見過ぎていたか』

 エンペラ一世は苦虫を噛み潰したような顔で呟く。
 かつての軍事国家ドラゲイーー今はドラゴニアと名を改めた竜の楽園。旧魔王時代、エンペラ帝国軍でさえついに陥落させられなかった国の一つである。
 現在、レスカティエと同じくエンペラ帝国の世界制覇の障害になると見た皇帝は兵を差し向けたが、激戦の末に撃退されてしまった。投入した爆炎軍団七万は敗れて戻ってきたので、皇帝も驚愕したのだった。

『被害はどれほど受けた?』
『将兵はなんとか回収出来ましたので捕虜になった者もほとんどおりませんが、竜相手の戦いで奮戦し深傷を負った者は多うございます。治療には最低数日ほどかかると見られます』

 爆炎軍団は帝国軍きっての狂暴獰猛な集団故、それはそれは勇敢に戦った。しかし、それがかえって竜どもの闘争心に火を点けてしまい、苛烈な反撃を受けてしまったのである。そして、形勢不利と判断したデスレムの命令で爆炎軍団は撤退したのだった。

『分かった。戻ってきた兵達にはその働きを讃えると共に、十分な休息を取らせよ』
『はっ』
『大儀であった。下がってよいぞ』
『はっ。では失礼いたします』

 デスレムが一礼し背を向けたところで、

『ん』

 玉座の間にやって来た男と目が合った。

『これはこれはデスレム将軍』

 木の杖を突いたこの老人は、メフィラスと同じく黒いローブに身を包んでいるが、顔は露出しているのが異なる。真紅の長髪と滝のような白い髭を生やし、顔には老人らしく所々皺が刻まれていた。

『此度の戦、お疲れ様でございました』

 男はデスレムにしゃがれた声で挨拶するも、顔や態度には謙るどころか蔑みの色さえ見えた。

『陛下に何用だ』
『はい。次のドラゴニア攻め、私に任せていただこうと思いましての』

 エンペラ帝国軍皇帝直轄軍・ジェロニモン隊隊長
 “暗黒司祭”ジェロニモン・マニトウ

『なにぃッッ!!!!』

 ドラゴニア攻略をデスレムは今失敗したばかり。そして、この老魔術師は自分なら出来ると臆面もなく述べたのである。当然デスレムは激昂する。

『そう怒りめされるな。陛下の御前ですぞ』
『………ッ!』

 嫌な笑みを浮かべた老魔術師だが、指摘自体は正しい。そのためデスレムは黙るしかなかった。

『陛下。私がここに参りました理由は今お聞きの通り。そちらの説明は省いてよろしゅうございますかな?』
『よかろう、ジェロニモン。しかし、貴様に任せるにはその先を訊かねばならぬな』
『はいーー』

 ジェロニモンは今回用いる戦力と策を皇帝に丁寧に説明した。

『成程。そちらしいやり方だな』
『数百年コツコツと溜めてきた者を今こそ使う時だと思いまして』
『フ……それだけではない。ドラゴニアのトカゲどもも貴様の下僕にするのだろう?』
『まさに仰る通りで。今は数だけは揃えておりますが、欲を言えば質にもこだわりたいですからな』
『よかろう。許可する』

 主君から許可が出たことで、老魔術師はニンマリ笑った。

『………………』

 そんな主君と老魔術師のやり取りをデスレムは苦々しく見守っていたが、皇帝がジェロニモンの案に乗り気になってしまった以上、彼にはどうにも出来なかった。










 ーードラゴニア近郊の平野ーー

 数日後、帝国軍のドラゴニア攻略第二波としてジェロニモン及びその傘下であるジェロニモン隊が派遣された。その数はなんと20万以上、いくらドラゴニアが強国とはいえ、あまりにも馬鹿げた数である。
 しかし不可解なのは、単なる一部隊に過ぎないジェロニモン隊がこれほどの兵士を擁しているのか? だが、その答えは至極単純である。

「ウァァァァ………………」
「ぁぁぁぁ………」
「ぶぁぁぁぁ………………」

 滅ぼした敵地から魔物娘を回収、そのまま戦力として投入しているのだ。ジェロニモン隊は皇帝直轄軍、いやエンペラ帝国軍全体の中で見ても極めて特殊な『自前の将兵がほとんど存在しない』部隊なのである。

「や、やめろお前達! 何をしているのか分かっているのか!?」

 突如大挙して襲いかかる同胞達にはさすがの勇猛な竜達も面食らった。しかし制止になど聞く耳持たず、相手はかまわず襲いかかってきた。

「何故だ!? 何故魔物娘がドラゴニアを襲う!?」

 ドラゴン、ワイバーン、さらには彼女等に騎乗するインキュバス達にも動揺が走った。だが、そこにつけこむかのように、魔物娘達はエンペラ帝国製の武器を持って、“生前”と変わらぬ強さと技で竜達を翻弄する。





(ほう、思っていた以上にやる。こりゃ爆炎軍団が負けて帰るわけぢゃわい)

 戦地から少し離れた崖の上。そこで老魔術師は煙管を吹かせながら、高みの見物と決め込んでいた。

(しかし、ワシなら落とせる! 他と違い、ワシの場合はいくらでも兵(コマ)の替えは利くからのぅ!)

 煙管を咥えて悪辣な笑みを浮かべ、彼はそう心中で独り言つ。戦うのは人間の兵士でなく魔物娘であるが故、別に失おうがちっとも惜しくはない。

(減ったところでブチ殺した魔物娘(カス)を次の兵士にすりゃぁいいんぢゃからな!)

 敵地から回収してきた魔物娘の死体を蘇生させ、支配下に置く。ジェロニモンは蘇生魔術及び洗脳魔術の大家であり、こうして蘇らせて無理矢理支配した魔物娘達を敵地へと投入、戦わせていた。もちろん戦いの度戦力を損耗するが、後で戦地から新鮮な死体を回収、蘇生出来ないほど負傷の酷い者と入れ替えていたため、痛手にならないのである。

(まぁ、その分犠牲ありきの人海戦術になるがの。数が多い分細かい制御はしておらぬしな)

 もっとも、ジェロニモンのやり方は文字通り“数の暴力”である。いくら人間より強い魔物娘といえど彼自身が戦況に応じて的確に指揮をしているわけではないので雑な運用となる。とはいえ、いくらドラゴニアの猛者達でも20万以上の戦力をぶつければそう容易く追い返せるわけではないが。

(ま、爆炎軍七万を追い返した相手ぢゃ。そう容易く落とせるとは思わぬ)

 時間はかかる。だが、成功率は前回より遥かに高い。

『! ふむ…』

 ここでジェロニモンは招かねざる客の来訪に気づく。ドラゴニアの方向から数体、巨大な竜がこちらへとやってくる。

『ワシの存在に気づいたか。馬鹿なトカゲの集まりかと思っておったが、存外小利口なヤツもいたようぢゃの』

 想定より早い。とはいえ、驚くべきほどというものでもないが。

「問おう。貴様があの哀れな者達の頭目か?」

 空飛ぶ巨体はすぐにジェロニモンの所へと到達、姿を視認するなり殺気を漲らせながらジェロニモンに問うた。

『如何にも。ワシがエンペラ帝国軍皇帝直轄軍・ジェロニモン隊隊長ジェロニモンぢゃよ』

 竜達は大きく、緑色の硬い鱗で覆われた体は長い尻尾を除いても皆20m以上ある。大きな翼を羽ばたかせる度大風が起き、王者の貫禄を帯びた鋭い目は見られた者を圧倒する迫力があった。
 だが、そんな怪物達を前に怯まず、悪辣な笑みを顔に貼り付け、老魔術師は堂々と名乗った。

「今すぐあの者達を止めよ。今ならまだ女王デオノーラ様も許してくださるだろう」
『……ファファファファ!!』

 リーダー格らしきドラゴンにそう命じられるも、ジェロニモンは呵呵大笑するばかり。

『何故やめなければならぬのぢゃ? ワシはただゴミ掃除をしているだけぢゃよーードラゴニアとかいう掃き溜めをこの地上から跡形もなく消し去るためにな!!!!』
「それが返事か!! ならば実力行使といこう!!!!」

 もう問答を続ける意味はない。ドラゴン及びワイバーン達は口から高熱火炎を放射する。

『スゥゥ〜〜〜〜………ボハァァァァ!!!!』

 老魔術師は見た目に似合わぬ軽やかな動きで着弾地点からひらりと跳躍して火炎を躱す。そのまま空中に跳ねると煙管をおもいきり吸い、煙を吐き出す。

「おわっ!?」
「な、何だ動きが」
「と、飛べん!?」

 広範囲に撒かれた煙を浴びた途端、ドラゴン及びワイバーン達は急に飛行の制御が出来なくなり、自身の意思に反して空高く舞い上がっていってしまった。

『ファファファファ!! 邪魔だから引っ込んでおれ!!』

 竜達が空高く消えていったところでまた大笑すると、ジェロニモンは再び崖にどっかと腰を下ろし、魔物娘達のドラゴニア攻略を見守ったのだった。





 そうしてドラゴニアでの死闘は数日続いた。しかし、やがてジェロニモンの卑劣な術のカラクリに気づいた者がおり、洗脳魔術を打ち破るべく対抗策を行使した。だが老魔術師は非常に狡猾であり、絶妙なタイミングでその策に気づいたのである。捨て駒として五千を残し、老魔術師はデスレムに対する自信は何処へやらというほどに残りの戦力と共にあっさり引き上げた。一方、残された五千には文字通りの自爆をさせるべく、特定条件で発動する爆破魔術を体に施して放ったのだ。
 幸い、竜達は言うほど脳筋ではないので違和感を感じて気づき、やがて女王デオノーラの指揮の元、魔術に長けた者達が魔術封じの結界を張って無力化、彼女等の洗脳と爆弾化を解いた。
 幸いなことに自爆テロは防がれた。けれども、あまりにも卑劣過ぎたジェロニモンのやり口はドラゴニアの怒りを買い、倒すべき敵として記憶されるに至ったのだった。










 ーー浮遊島王城・玉座の間ーー

『なに!? デスレムに続きヤプールまでも敗れたのか!?』
『はっ。『不思議の国』にて交戦中の超獣軍団でしたが、異界の法則そのものに翻弄され本来の力を発揮出来なかったようで……』

 ドラゴニアでの二度の敗北から数日後。デスレムに続きヤプール率いる超獣軍団が敗走したという部下からのモバイルクリスタル越しの報告を受け、またも驚愕する皇帝。

『不思議の国は異界。超獣軍団は無事なのか!?』
『今メフィラス宰相御自ら指揮を執られ、雷電軍団全軍を引き連れて救出に向かわれました!』
『! そうか……』

 メフィラス自ら指揮を執るならば間違いはあるまい、と皇帝は安堵した。

『戦力が足りぬのならば遠慮なく申し出るようメフィラスに伝えよ』
『はっ!』
『なんなら余が出向いてもかまわぬ』
『! いえ、その必要はないと思われますが……』

 いちいち部下の救出に皇帝自らが向かうようでは本末転倒。しかし、今の皇帝はそれをやりかねないほど怒りに満ち溢れていた。

『そうだな、今は救出が最優先。小娘め、寿命が伸びたな……!』

 不思議の国を治める魔王の三女『ハートの女王』。その首を引き千切り、魔王の鼻先に突きつけるのは後回しである。










 超獣軍団は不思議の国の異界の法則に阻まれ、得意の次元移動も精細を失っていた。まともに戦いも出来ぬ異界で焦りと絶望は最高潮に達するが、すんでのところで魔術に長けた雷電軍団が救援に到着、なんとか逃げ果せた。
 そこまでならめでたしめでたしと言ったところだが、皇帝の目が届かないのをよいことにメフィラスはつい欲を出してしまう。データ収集のため、殿を引き受けさせた隊長十人に例の“新薬”を投与したのだ。ところが、不思議の国という異界の中でも極端な環境では、飲ませた薬は効果を発揮するどころか、ただ単にその場で隊長十人を即死させる結果に終わってしまう。
 メフィラスも隊長の部下達もこれには仰天し、また後悔したが、ショックを受けたのは敵も同じ。目の前でいきなり敵が服毒自殺を遂げたのだから、人間の生き死にに敏感な魔物娘にとっては無理もないことであろう。その動揺の隙を突いて上手く逃げ果せたのだから情けない話である。
 また、この結果から『不思議の国のような極端に法則の異なる世界では“薬”は効果を発揮せず、飲んでも死ぬだけ』という新たな問題が発覚、メフィラスを大いに悩ませた。
 さらに追い打ちをかけるように、隊長十人はすぐさま蘇生させたものの、その事自体は皇帝にバレてしまう。無為に味方を死なせたことを凄まじい剣幕で長時間詰められてしまい、二重に屈辱を味わったのだった。





『人任せにしたのがまずかったか。ならば余自らやるしかあるまい!』

 デスレム、ヤプール、メフィラスの相次ぐ失態に激怒した皇帝エンペラ一世はついに自ら動くことを決めた。

『まずはトカゲ退治だ! ついてまいれ!!』

 皇帝御自ら出陣の報が皇帝直轄軍に通達。皇帝直々の命令とあって直轄軍1万はすぐさま集結した。
 ゴモラ隊、キングジョー隊、バードン隊、タイラント隊、ロベルガー率いる皇帝親衛隊などエンペラ帝国軍でも別格である一騎当千の強者達が皇帝に付き従い、皇帝と共にドラゴニアの北西15km地点に布陣したのである。
 敵戦力は1万程度であるが、率いるのは魔王夫婦及びデルエラ、竜王バーバラが代わる代わる戦ってようやく倒せた救世主エンペラ一世。ドラゴニアにとっては先のジェロニモン隊とは比べ物にならぬほどの最悪の脅威であった。
20/08/23 01:32更新 / フルメタル・ミサイル
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■作者メッセージ
備考:七妖刀

 “救世主の遺産(セイヴァーズ・レガシー)”と並ぶ、最高級の魔導具。そのどれもが凄まじい力、あるいは不可思議な力を秘めているが、いずれも刀剣という“武器”であるのが特徴。世に現れた時期は救世主の遺産より古い(というよりはあちらが比較的新しい)というが、それぞれの製作者は不明。
 名はそれぞれサカマシ、ゲッコウ、破軍、タルミ、パイロ、カンナリ、ジョンドゥとなっている。
 ちなみに魔王の持つ“ゲッコウ”はエドワード・ニューヘイブン曰く、「自分の神剣パランジャと同じぐらいの力の剣」とのこと。その発言通りならば、エドワードのパランジャは影打ちであるため、雷神インドラの持つ真打ちのパランジャには劣ると思われる。

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