廃墟のアポピス
「ウフフフフッ♥」
残忍な笑みを浮かべた蛇女は、トーヴ少年の首筋に容赦無く毒牙を突き立てる。そこより淫毒が伝い、少年の体の中に流れ込んでいく。
「う……あっ…」
やがて女が少年を放すも、少年はかすれた呻き声をあげ、力無く地面に倒れる。
「うぅ……」
体が思うように動かない。頭がぼんやりし、クラクラする。
「……♥」
そんな身動きの取れぬ少年を、女は笑みを浮かべて見下ろす。しかし、そんな彼女の顔に浮かぶのは嘲りでなく、“期待”であった。
「や…めて…よ」
そんな女に恐怖を感じ、拙い言葉でやめるよう懇願する少年。彼の人生において、このような真似をされたのは初めてであったのだ。
主神教団の支配する地域では、魔物娘は『魔物は人を殺す』といった、有りもしないデタラメがまかり通っている。そして、赤子の頃から魔物娘に囲まれて育ったトーヴは、それが嘘だと知っていた。
魔物娘は何の理由もなく人を傷つけたりしないし、人間に悪意を向ける事も無い。事実、彼が出会った魔物娘達は皆そうであった。
彼女達は皆優しく、人間に理不尽な暴力を振るう事など無い。どんな種族であれ、それは共通していた真実だ。
「…♪」
しかし、この女だけは違った。突然現れたこの蛇女は面識すら無いメティトを尻尾の一撃で叩き伏せ、ファラオの息子である自分にも躊躇無く牙を突き立てた。
それがこの少年には怖かった。目の前の女は自分の知る魔物娘とは違う、何処か別の世界や次元の生き物にさえ思われた。
(こ…こわいよ……メティト…!)
声さえまともに出せなくなりつつあった少年は、縋るような思いで蛇女の後ろに倒れるアヌビスを見やる。それが助けを求める一言さえ出ない今の少年に出来る精一杯の事であった。
「………!」
しかし、少年の淡い期待はアヌビスを目にした瞬間見事に打ち砕かれた。
仰向けに倒れるメティトはトーヴと同じく動けないのか、荒い息遣いで顔と体を赤く染め、時折苦しそうに身を震わせるばかりである。
「ダメ♥」
トーヴの視線から、彼の関心が自分でなく、無様に倒れるアヌビスにある事に気づいた蛇女。
自分の方を見るよう、尻尾の先端を少年に巻きつけて持ち上げ、正対させる。
「ぁ…ぅ」
改めて蛇女の顔を見させられる少年。彼女は何故か熱の籠った目でトーヴを見つめるが、それはこの少年の恐怖を和らげる事には役立たなかった。
「! ちゃんと私の顔を見て!」
恐怖から、そしてささやかな反抗としてトーヴは女から顔を背けるも、女は尻尾を操り無理矢理少年に正面を向かせる。
「ウフフ…」
可愛らしい少年の顔を目にし、蛇女は上機嫌となる。
「……っ!」
一方、正対したことで爛々と輝く恐ろしげな金色の瞳を見ることとなったため、少年はますます恐怖に怯え、涙を浮かべた。
しかし、そんな事は些細な事だと気にせず、蛇女はトーヴ少年をまじまじと見つめ続ける。
「………」
しばらく一方的に見つめたところで満足したのか、蛇女は視線を移す。荒い息を吐きながらメティトが体をよじらせているのは変わらず、またこの場に自分達以外は誰もいない事を女は確かめる。
「ふん」
女は倒れるメティトを鼻で嗤うと、動けぬトーヴ少年を大事そうに抱きかかえたまま、蛇体を這いずらせて何処かへと消えたのだった。
――宮殿・食堂――
「遅いわね。いつまで遊んでるのかしら…」
椅子に座り、苛立ちのあまりテーブルを指で叩くファラオ。息子と部下が夕食の時間になっても帰ってこないため、メシェネトは段々と心配になってきていた。
「メシェネト様!」
そんな中、マミーが青い顔で入ってくる。
「! 何事?」
部下のただならぬ様子を感じ取り、険しい表情で尋ねるメシェネト。
「そ…それが…」
「早くおっしゃい!」
「お…王子様が何者かに拐われました!!」
「!!? なんですって!?」
報告が信じられず、愕然とするメシェネト。
「トーヴにはメティトが付いていたはず! 彼女は何をしていたの!?」
「メティト様は襲撃の場にいて下手人に懸命に抵抗されたようですが力及ばず、為す術もなく連れ去られたとの事で…」
「っ!」
なんという事だ。命よりも大切な息子が連れ去られてしまった。
「………………」
しかし、ここで取り乱してはならない。そんな事をすれば、部下達は余計動揺する。
沸き上がる憤怒を一旦心の底へ押し留め、ファラオは平静を取り繕う。
「下手人から何か要求はあった? それと、その者の容姿についての特徴はメティトから何か聞いているかしら?」
メティトの方は何とか帰還した以上は、犯人を目撃しているはずだ。
「は、はい。メティト様が申されるには初めて見る種族だそうで…」
「………」
一瞬、絶世の美貌に似つかわしくない不愉快そうな表情を浮かべるメシェネト。
種族、というからには人間ではない。愛しい息子に無礼を働く不届きな雌豚がまだこの地にいたのかと思うと、はらわたが煮えくり返りそうだった。
「で、特徴は?」
「はい。メティト様が申されるところによりますと下手人はラミア属には間違いないとの事です。ちなみに肌は薄紫色で、瞳は金色、下半身は黒かったそうで…」
「…!!!!」
マミーの話を聞いたメシェネトは卒倒しそうになる。子どもの頃に味わった絶望を思い出してしまったのだ。
かつて彼女の両親を陥れ、メシェネトが孤独にさすらう要因となった邪悪な魔物。それと同じ特徴をトーヴを拐った下手人は持っている。
「アポピス…!」
「え…?」
普段の理知的で温厚なファラオらしからぬ荒ぶった怒りに戸惑うマミー。歯噛みし拳を震わせる王に面食らい、体を覆う包帯がずれて肌がやや露わになったほどだ。
「メシェネト様はそやつをご存知なので?」
「……いえ、忘れてちょうだい。それ以上伝える事が無いなら、もう下がっていいわよ」
「…はっ。では失礼いたします」
戸惑いながらも、息子を拐われた以上は取り乱すのも仕方なかろうと納得し、部屋を出ていくマミー。
「………………」
最悪の記憶を思い出した事で皮肉にも幾分か冷静さが戻ったファラオは愛しい息子の事、そして過去の記憶を思い出していた。
(………許せない…)
積極的に口に出しはしなかったが、メシェネトは今も偉大な母と父を尊敬していた。けれども、その両親は陥れられ、国を奪われてしまった。
その犯人はファラオの宿敵であるアポピスという魔物である。そして、今回息子を拐ったであろう魔物の特徴もまたあの忌々しい蛇と一致する。
(私から両親を奪うだけに飽き足らず、愛しいトーヴまで!!)
一人国から逃げ出し、このオアシスに辿り着くまでの道のりは長く険しく、何より孤独だった。優しい両親と突如引き離され、一体どれほどあてもなく彷徨っただろう。
それでもやがてこの地に辿り着き、両親と同じように国を造り、さらには愛しい息子を得る事が出来た。しかし、両親を失った時と同じく、彼女は己の一番大切な物を奪われてしまった。
「………………」
だが考えてみれば、何故アポピスはトーヴを拐ったのか? ファラオである自分に狙いを定め、その王位を奪い取るための算段だろうか?
(違う…)
いやそれならば、そもそもそんな小細工など使いはしないだろう。なにせアポピスはファラオと同等の力を持つ上級種族だ。
種族的な性質としては強気で執念深く、例えファラオ相手であろうと臆する事はない。自ら軍勢を率いて、ファラオの治める都市へと真正面から攻め込んできた話さえある。
(考えたくないけれど、やはり……)
ならば何故?――1番考えたくないが、恐らくは『トーヴを個人的に気に入った』のだろうか。
「っ……!」
なんとおぞましい話だ。愛しい息子にあの忌々しい蛇が這い寄り、白い肌に指を食い込ませ、いやらしく舌で舐め回し、蛇体を巻きつけて交合しているのを想像しただけで気が狂いそうになる。
どんなに美しく身分の高い女であろうと、誰もあの子には釣り合わない。アヌビスも、スフィンクスも、マミーも、ギルタブリルも、所詮は皆同じ。性欲を満たすためにトーヴに近づく、豚以下の浅ましい売女ばかりだ。
(もし、そうだったら………………“消す”しかないわね……)
メシェネトは怒りのあまり歯噛みし、そして息子可愛さのあまり魔物娘らしからぬ決断に至る。
(これは貴方の健やかなる成長と生涯において必要なもの。貴方は売女どもに誑かされてはならないのよ)
これは“母”としての覚悟であって、決して“女”としての嫉妬ではない――と己に言い聞かせるメシェネト。
トーヴはいつまでも清らかな存在であらねばならない。自分以外の雌と体を重ねて交わる事などあってはならないのだ。
(でも、もし……)
メシェネトの脳裏に最悪の事態が浮かぶ。目を逸らしたいが、どうしても頭から離れない。
(もし、トーヴが犯されてしまっていたら)
好きでもない女に無理矢理犯され、母に助けを求めて泣き叫ぶ息子。そんな場面を想像するだけで、ファラオの胸は張り裂けそうだった。
(私はきっと自分の中の怒りを抑えきれない。私はきっとその者を……)
そして、そんな真似をした愚か者は。愛しい息子を穢し、傷つけた薄汚い雌は――
(八つ裂きにしても飽き足らない)
暗い決意を胸に秘め、母は下手人を捕らえるべく動き出す。
すぐさま玉座の間にスフィンクス、ギルタブリル、マミーなど、配下の魔物娘達を集めると、アポピス捕縛のために差し向けたのである。
「う…ぅ」
薄暗がりの中、囚われの王子は目を覚ます。
「おはよう。いえ、こんばんは…かしらね?」
「は!」
だが起きて早々、自身がとぐろを巻く蛇体によって拘束されている事に気づいたのだった。
「い…イヤだ! 放してよ!」
「あら、己の立場が解っていないようね」
早速パニックを起こしてもがき泣き叫ぶ少年をさらに追い込むように、薄ら笑いを浮かべた蛇女の上半身が彼の眼前へと進み出る。
「貴方はもう私の物なのよ」
「え…?」
「そう、私だけの物なの…♥」
状況があまり呑み込めず一転して呆気にとられるトーヴ。だが、蛇女の方はそんな彼の心情を知ってか知らずか、この現状に陶酔し、不快なほどににやけている。
「その証拠に貴方のココはこんなじゃない♥」
「?…っ!?」
起きたばかりか、それとも毒がまだ効いているのかは分からぬが、ぼんやりしていて気づかなかった己の変化。淫乱な魔物娘が指摘する通り、トーヴ少年の歳の割には大きい逸物が、性的興奮が無いにもかかわらずパンパンに膨れ上がっていたのである。
「な、なにこれ…」
「ウフフ。坊や、おねえさんに抱き締められたから興奮して、ココをこんなにしてるんじゃないのぉ?」
「うぁ…っ!」
蛇女がそんな彼の変化を嬉しそうに笑いながら、尻尾の先端で敏感な亀頭を弄ると、少年は戸惑いつつも喘いでしまう。
「ねぇ♥ もっとしてあげようか?」
「うぅっ!」
そう宣った蛇女は尻尾で逸物を弄り続けながら、トーヴの上半身に豊満な胸を押し付けながら抱きつく。さらにはその細長い舌で少年の左耳の穴をほじくり回し、少年の反応を見て愉しむ。
「遠慮する事なんてないのよ? ここは私と貴方の二人だけ、どんなにいやらしい事をしたって誰も見てやしないもの」
「…っ!」
薄明かりの中で段々と目が慣れてきて気づいたのだが、周りは石造りの壁となっているようだ。とはいえ、彼女の言う通り人や生き物の気配は無いため、このやり取りを覗かれる事も、誰かに助けを求める事も出来なそうだった。
ちなみに少年の推測は当たっている。ここは遥か昔に滅びた遺跡の中にある王城蹟であり、助けを求めたところで周囲は砂漠地帯なので人や魔物娘の往来もほぼ無かった。
「まぁ私もノッてきたし、イヤだって言ってもしちゃうけど♥」
「!?」
薄暗がりで分かりづらいが、少年の肉体を堪能したくなった蛇女は艶っぽくも邪悪な笑みを浮かべる。
トーヴに一応同意を求めはしたが、断られたところで続けるつもりではあった。暗闇の中、トーヴの体をまさぐり、その白い肌の温もりを感じている内に、彼女の魔物娘としての本能に火が点いてしまったのだ。
「ウフフ♥」
初めて好きになった男と抱き合っていれば、我慢出来るはずがない。蛇女は少年の両手首を掴んで押さえつけて持ち上げると、尻尾で彼の腰巻きと下着を器用に剥ぎ取ってしまう。
「な、なにをするんだ!」
「何って……“ナニ”でしょぉ?」
「ひっ!」
この後起きる事を想像し、黒い瞳で見つめ、舌舐めずりする蛇女。しかし、トーヴにはそれが獲物を丸呑みする前の蛇の仕草そのものに見え、顔をひきつらせると共に上ずった悲鳴が出てしまう。
「あらぁ、知らない? じゃあ、今から私が教えてあげる♥」
知らないのなら教えてやろうという善意で、蛇女はトーヴへの愛撫を続ける。
「うっ…くぅぅ…」
だが、思ったよりこの少年は頑固強情であり、素直に身を委ねれば良いものを無駄に耐えようとし、さらには反抗的な目でこちらを睨んできさえする。
「ふぅん……」
その理由は大体予想はつく。恐らくは、あのアヌビスを叩き伏せた事を恨んでいるのだろう。この子はあの野良犬と親しかったに違いない。
「ウフフ…」
とはいえ、そんな反抗的な意思も所詮は一時。彼の周りに群がりながらも何故か手を出さなかった愚かな雌どもの事など、快楽でいくらでも塗り潰せる。
それを確信する蛇女は早速それを実行に移す。
「んっ…♥」
「っ!?」
毒のせいで敏感な少年の体。その各所へ執拗な愛撫により、もどかしい刺激が齎されていたところで、耳孔より引き抜かれた舌が彼の口の中へと差し込まれる。
「んっ…んふっ……」
重なる唇。さらには唾液をたっぷりと帯びた舌が彼の口に突き入れられ、魅力的な唇と共に動かされる。
「〜〜〜〜っ?」
今まで耐えられたはずの責めとは違い、トーヴにとってこの接吻は刺激が強すぎるものだった。どうにか耐えたのは最初の一瞬だけで、やがて蛇女の淫らさに毒されるかのように、彼もまた口の動きを合わせ、貪り合うように吸い合っていった。
「ふ、ぁ…」
「♥」
ひとしきり味を愉しんだところで、一旦口を離す蛇女。一方、拒否していたはずの少年はキスの味で一気に“目覚めて”しまったらしく、怯えているのは相変わらずだが快楽で蕩けた目で彼女を見つめている。
「フフ、もっとイイコトしてあげるわよぉ…?」
少年の受け容れる準備が整ったと見た蛇女は、彼の眼前に胴と蛇体の継ぎ目にある秘裂をさらす。
「あ、ぁ…」
か細い声を漏らし、発情した少年は同じく発情した雌蛇の陰部から漂う淫らな匂いを堪能し――
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!」
「アァァンッ♥」
そして濡れそぼったそこに吸いつき、舐めしゃぶる。
「あっ、うっ、ふぅっぅ! 上手よぉ坊やァン♥」
童貞でも魔物娘に囲まれて育ったインキュバスというだけあり、囚われの王子は誰に教えられずとも女の体の扱いを既に心得ていた。
両手で蛇女の腰を抱え、まだ未使用の穴に舌をねじ込み掻き回し、時には陰核を舌で転がし、その都度漏れ出す愛液を啜る。その巧みさに蛇女は驚きつつも、快楽と共に湧き出る愛情、さらには少年らしからぬ雄性を感じ、ますます淫らさを増していく。
「あ、ああぁっ! ああっ、あっ、あっ……アァァ〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!」
そして、“それ”は意外に早く訪れた。昂った快楽が限界まで達し、蛇女はビクビクと腰を痙攣させると、陰部から派手に潮を噴く。
「あっ、は……♥」
妖しい美貌と豊満な肉体らしからぬ感度の良さ。いや、彼女が感じやすいというよりは、運命を感じた男の手と口だからこそ鋭敏過ぎる快感が齎されたというべきか。
彼女はこれほど早く果てた己に戸惑いつつも、同時に何処か幸福感を覚え、心が満たされつつあった。
「…!」
しかし、まだ幼いこの少年には運命というものは感じられなかったらしい。陰部から謎の液体を顔面に浴びせられた事で、まだ体が火照りつつも正気に戻る。
同時に、下半身に巻き付く蛇体が多少緩み、また彼女の意識がややぼんやりとしているのを見て取った。
(今だ!)
少年はこの機を逃さなかった。脱がされて全裸にされてしまったが、かえってその汗ばんだ白い肌が露わになった事を利用し、そのぬめりを利用して力の抜けた蛇体から逃れたのだ。
「あっ!?」
蛇女は下半身をしならせ、トーヴを再び捕らえようとするも――
「えぃっ!」
「ぅうっ!?」
尻尾が巻きつけられる前に蛇女の顔面へと砂が叩きつけられ、目潰しをされる。
石造りとはいえ長らく放置されていた廃墟のため、床の所々には砂が積もっていた。トーヴは逃れる際、手にその塊を握っていたのである。
「目っ、目が…!」
砂を浴びせられた両目を押さえ、悶える蛇女。ラミア属ではあるが、魔物娘である以上は上半身は人間とほとんど同じである。
当然、ただの蛇と違って視力は普通にあり、その分視覚に異変があれば混乱する。
「っ!」
あまり運動神経は良くないトーヴ王子であるが、この時ばかりは誰もが驚く速度で一直線に走り出す。目指すは入り口らしき扉の残骸である。
「えっ!?」
だが、唯一の希望はあっさりと消え去る。星明かりの注ぐ外界への唯一の出入り口だが、まるで見えない壁があるかのように少年のこれ以上の逃走を拒んだ。
「やってくれるわね!」
「!!」
希望が潰える中声をかけられ、怯えた表情でトーヴが後ろを振り返ると、黒い瞳を血走らせ、彼の元へとゆっくり這いずってくる蛇女の姿が目に入った。
「もうちょっと大人しい子だと思っていたけど、まさかここまでやんちゃだったとはね。これはおしおきが必要かしらぁ?」
先ほどと違い、その声には妖艶さや余裕というものが無い。そのやや低い声にトーヴは怯え、
「ひ…!」
両肩を掴まれ、怒りの表情で見下されても尚、蛇に睨まれた蛙のように動くことが出来なかった。
「痛っ!」
上半身は人間であるが、牙を突き立てる動きは下半身と同じく素早かった。
「貴方の反応を愉しみたかったから毒は薄めにしてたけど、その必要は無かったようねぇ」
蛇女はメティトの時と違い、トーヴには毒を薄めにしていた。それは少年の体躯の小ささもあるが、どちらかと言うと犯した際、素の反応を見てみたかったのもある。
だが、その気遣いは無用であったようだ。なにせトーヴの元気が良すぎたため、こんな風に逃げ出そうとまでする。
「さぁ、坊や♥ 続きをしましょう♥」
「あ……あ…」
「返事は聞く必要なさそうね♥」
多量の淫毒を打ち込まれ、正気を取り戻していた少年の意識は再び性の悦楽を求めてしまう。
そして眼前に熟れた極上の女体がある以上は、未熟な少年にその衝動を抑える事は最早出来ない。
「ウフフ…♥」
発情する少年を抱きかかえ、蛇女は廃墟の最奥へと姿を消す。
「あっ、あっ………うあああああああッッ!!!!」
「んっ……アハァァァァンンッッ♥♥♥♥」
そして痛々しいほどに膨張しきった肉竿が、同じく発情しきって濡れきった女陰に突き入れられたのもすぐの事である。
蛇女は流れ出る鮮血と痛みに一瞬歯を食いしばりながらも、すぐにそれを遥かに上回る快楽の嵐に襲われ、夢中で腰を動かした。囚われの王子もまた未知の快感に脳が焼き切れそうになりながらも、叩きつけられる蛇の腰をいつしか抱き締めていた。
(……かあさま………メティト……)
だが、後悔は無かったわけではない。彼はずっと続くと思っていた平穏で楽しい日々が、二度と来ないような予感に襲われていた。
快楽と共に、母や家臣達の顔が頭に浮かんでは消える。だが交わっている内、次第にそんな事も思わなくなっていく。
「イイわよ坊やァ♥♥ おねえさんの中に一番濃いのブチこんでぇッ♥♥ 私を孕ませて欲しいのぉ♥♥♥♥」
卑猥な水音と破裂音を廃墟の一室に響かせながら、両者は淫らに腰を打ちつけ、結合部から愛液を撒き散らし、欲棒を肉襞で淫らに扱く。
だが、それも限界だ。火山の噴火の如き快楽と共に、少年の逸物に痛みが走り――
「うっうぅぅッ!!!!」
「ああああああああ!!!! きっ、キタァ!! 中でビュルビュル弾けてるぅぅ〜〜〜〜♥♥」
生涯初めてとなる膣内射精。誰が見ても驚くほどの量の精液が蛇女の子宮に無理矢理流し込まれていく。
その勢いと快感に蛇女は髪を振り乱し、爆乳を弾ませながら感じ入る。
「はぁっ……最高よぉ、坊やぁ♥ んっ、ちゅ♥」
涙を流しながら満足気に微笑みかける蛇女。そして喜びの表現とばかりに再び唇を重ねるが、
「………………」
涙を流す少年は心ここにあらずという様子。だが、蛇女はかまわず舌を絡ませ、嬉しそうに交合を再開するのだった。
「ふんふん、あそこにいるのね〜?」
「そっ、そうだよ! わたしたちあぽぴすにおいだされたの!」
夜の砂漠で月明かりに照らされ、話し合う二人の魔物娘。
ミミズに似た巨大な胴体から、ピンク色の女体が顔を覗かせるサンドウォーム。一方、その異形の者と興奮した様子で話すのは、甲虫を思わせる黄金色の装束に身を包んだケプリの少女であった。
「きょうからここにはわたしたちがすむから、おまえたちはさっさとでてけって…」
「ふんふん。それはたいへんだったね〜」
「それにあんなにカワイイおとこのこをみせつけてきたくせに、えっちさせてくれないんだ!」
サンドウォームは怒りの収まらぬケプリを宥めつつ、情報を聞き出していく。
「ありがとぉ〜」
「ぜったいあいつをやっつけて!」
そして、ひとしきり聞き出したところで、サンドウォームは主の元へと帰るべくケプリと別れ、砂漠を掘り進んだ。
「メシェネト様、アポピスの居場所の目星がついたそうです」
「!」
部下のギルタブリルの報告を聞き、喜色を浮かべて玉座から立ち上がるファラオ。
「中の様子が判明し次第、捕縛にかかります」
「相手はアポピスよ。私も同行するわ」
「! メシェネト様直々に…!?」
「愛しい息子が捕まっているのですもの。だからこそ、母である私が出向かなくてはならないわ」
そう述べてギルタブリルに微笑むメシェネトであるが、本心はやや異なる。
(もし息子を犯しでもしたら、ただじゃおかない)
相手がアポピス故、自分が直々に現場で指揮をとろうと思っていたのは確かに事実である。だが、アポピスへの憎しみに燃える彼女は、どんな手段を用いても息子からアポピスを引き離し、そしてもしアポピスが息子の童貞を奪っているようであるなら――
(この世の地獄を見せた後、あの世の地獄に叩き落としてあげるわ)
その先を言う必要は無いだろう。ただ一つ言えるのは、部下達と違い、メシェネトの武器である鎌剣と三日月斧は、魔界銀製でなく『魔界でも変化しない』特別な鋼鉄製であるという事ぐらいであろうか。
残忍な笑みを浮かべた蛇女は、トーヴ少年の首筋に容赦無く毒牙を突き立てる。そこより淫毒が伝い、少年の体の中に流れ込んでいく。
「う……あっ…」
やがて女が少年を放すも、少年はかすれた呻き声をあげ、力無く地面に倒れる。
「うぅ……」
体が思うように動かない。頭がぼんやりし、クラクラする。
「……♥」
そんな身動きの取れぬ少年を、女は笑みを浮かべて見下ろす。しかし、そんな彼女の顔に浮かぶのは嘲りでなく、“期待”であった。
「や…めて…よ」
そんな女に恐怖を感じ、拙い言葉でやめるよう懇願する少年。彼の人生において、このような真似をされたのは初めてであったのだ。
主神教団の支配する地域では、魔物娘は『魔物は人を殺す』といった、有りもしないデタラメがまかり通っている。そして、赤子の頃から魔物娘に囲まれて育ったトーヴは、それが嘘だと知っていた。
魔物娘は何の理由もなく人を傷つけたりしないし、人間に悪意を向ける事も無い。事実、彼が出会った魔物娘達は皆そうであった。
彼女達は皆優しく、人間に理不尽な暴力を振るう事など無い。どんな種族であれ、それは共通していた真実だ。
「…♪」
しかし、この女だけは違った。突然現れたこの蛇女は面識すら無いメティトを尻尾の一撃で叩き伏せ、ファラオの息子である自分にも躊躇無く牙を突き立てた。
それがこの少年には怖かった。目の前の女は自分の知る魔物娘とは違う、何処か別の世界や次元の生き物にさえ思われた。
(こ…こわいよ……メティト…!)
声さえまともに出せなくなりつつあった少年は、縋るような思いで蛇女の後ろに倒れるアヌビスを見やる。それが助けを求める一言さえ出ない今の少年に出来る精一杯の事であった。
「………!」
しかし、少年の淡い期待はアヌビスを目にした瞬間見事に打ち砕かれた。
仰向けに倒れるメティトはトーヴと同じく動けないのか、荒い息遣いで顔と体を赤く染め、時折苦しそうに身を震わせるばかりである。
「ダメ♥」
トーヴの視線から、彼の関心が自分でなく、無様に倒れるアヌビスにある事に気づいた蛇女。
自分の方を見るよう、尻尾の先端を少年に巻きつけて持ち上げ、正対させる。
「ぁ…ぅ」
改めて蛇女の顔を見させられる少年。彼女は何故か熱の籠った目でトーヴを見つめるが、それはこの少年の恐怖を和らげる事には役立たなかった。
「! ちゃんと私の顔を見て!」
恐怖から、そしてささやかな反抗としてトーヴは女から顔を背けるも、女は尻尾を操り無理矢理少年に正面を向かせる。
「ウフフ…」
可愛らしい少年の顔を目にし、蛇女は上機嫌となる。
「……っ!」
一方、正対したことで爛々と輝く恐ろしげな金色の瞳を見ることとなったため、少年はますます恐怖に怯え、涙を浮かべた。
しかし、そんな事は些細な事だと気にせず、蛇女はトーヴ少年をまじまじと見つめ続ける。
「………」
しばらく一方的に見つめたところで満足したのか、蛇女は視線を移す。荒い息を吐きながらメティトが体をよじらせているのは変わらず、またこの場に自分達以外は誰もいない事を女は確かめる。
「ふん」
女は倒れるメティトを鼻で嗤うと、動けぬトーヴ少年を大事そうに抱きかかえたまま、蛇体を這いずらせて何処かへと消えたのだった。
――宮殿・食堂――
「遅いわね。いつまで遊んでるのかしら…」
椅子に座り、苛立ちのあまりテーブルを指で叩くファラオ。息子と部下が夕食の時間になっても帰ってこないため、メシェネトは段々と心配になってきていた。
「メシェネト様!」
そんな中、マミーが青い顔で入ってくる。
「! 何事?」
部下のただならぬ様子を感じ取り、険しい表情で尋ねるメシェネト。
「そ…それが…」
「早くおっしゃい!」
「お…王子様が何者かに拐われました!!」
「!!? なんですって!?」
報告が信じられず、愕然とするメシェネト。
「トーヴにはメティトが付いていたはず! 彼女は何をしていたの!?」
「メティト様は襲撃の場にいて下手人に懸命に抵抗されたようですが力及ばず、為す術もなく連れ去られたとの事で…」
「っ!」
なんという事だ。命よりも大切な息子が連れ去られてしまった。
「………………」
しかし、ここで取り乱してはならない。そんな事をすれば、部下達は余計動揺する。
沸き上がる憤怒を一旦心の底へ押し留め、ファラオは平静を取り繕う。
「下手人から何か要求はあった? それと、その者の容姿についての特徴はメティトから何か聞いているかしら?」
メティトの方は何とか帰還した以上は、犯人を目撃しているはずだ。
「は、はい。メティト様が申されるには初めて見る種族だそうで…」
「………」
一瞬、絶世の美貌に似つかわしくない不愉快そうな表情を浮かべるメシェネト。
種族、というからには人間ではない。愛しい息子に無礼を働く不届きな雌豚がまだこの地にいたのかと思うと、はらわたが煮えくり返りそうだった。
「で、特徴は?」
「はい。メティト様が申されるところによりますと下手人はラミア属には間違いないとの事です。ちなみに肌は薄紫色で、瞳は金色、下半身は黒かったそうで…」
「…!!!!」
マミーの話を聞いたメシェネトは卒倒しそうになる。子どもの頃に味わった絶望を思い出してしまったのだ。
かつて彼女の両親を陥れ、メシェネトが孤独にさすらう要因となった邪悪な魔物。それと同じ特徴をトーヴを拐った下手人は持っている。
「アポピス…!」
「え…?」
普段の理知的で温厚なファラオらしからぬ荒ぶった怒りに戸惑うマミー。歯噛みし拳を震わせる王に面食らい、体を覆う包帯がずれて肌がやや露わになったほどだ。
「メシェネト様はそやつをご存知なので?」
「……いえ、忘れてちょうだい。それ以上伝える事が無いなら、もう下がっていいわよ」
「…はっ。では失礼いたします」
戸惑いながらも、息子を拐われた以上は取り乱すのも仕方なかろうと納得し、部屋を出ていくマミー。
「………………」
最悪の記憶を思い出した事で皮肉にも幾分か冷静さが戻ったファラオは愛しい息子の事、そして過去の記憶を思い出していた。
(………許せない…)
積極的に口に出しはしなかったが、メシェネトは今も偉大な母と父を尊敬していた。けれども、その両親は陥れられ、国を奪われてしまった。
その犯人はファラオの宿敵であるアポピスという魔物である。そして、今回息子を拐ったであろう魔物の特徴もまたあの忌々しい蛇と一致する。
(私から両親を奪うだけに飽き足らず、愛しいトーヴまで!!)
一人国から逃げ出し、このオアシスに辿り着くまでの道のりは長く険しく、何より孤独だった。優しい両親と突如引き離され、一体どれほどあてもなく彷徨っただろう。
それでもやがてこの地に辿り着き、両親と同じように国を造り、さらには愛しい息子を得る事が出来た。しかし、両親を失った時と同じく、彼女は己の一番大切な物を奪われてしまった。
「………………」
だが考えてみれば、何故アポピスはトーヴを拐ったのか? ファラオである自分に狙いを定め、その王位を奪い取るための算段だろうか?
(違う…)
いやそれならば、そもそもそんな小細工など使いはしないだろう。なにせアポピスはファラオと同等の力を持つ上級種族だ。
種族的な性質としては強気で執念深く、例えファラオ相手であろうと臆する事はない。自ら軍勢を率いて、ファラオの治める都市へと真正面から攻め込んできた話さえある。
(考えたくないけれど、やはり……)
ならば何故?――1番考えたくないが、恐らくは『トーヴを個人的に気に入った』のだろうか。
「っ……!」
なんとおぞましい話だ。愛しい息子にあの忌々しい蛇が這い寄り、白い肌に指を食い込ませ、いやらしく舌で舐め回し、蛇体を巻きつけて交合しているのを想像しただけで気が狂いそうになる。
どんなに美しく身分の高い女であろうと、誰もあの子には釣り合わない。アヌビスも、スフィンクスも、マミーも、ギルタブリルも、所詮は皆同じ。性欲を満たすためにトーヴに近づく、豚以下の浅ましい売女ばかりだ。
(もし、そうだったら………………“消す”しかないわね……)
メシェネトは怒りのあまり歯噛みし、そして息子可愛さのあまり魔物娘らしからぬ決断に至る。
(これは貴方の健やかなる成長と生涯において必要なもの。貴方は売女どもに誑かされてはならないのよ)
これは“母”としての覚悟であって、決して“女”としての嫉妬ではない――と己に言い聞かせるメシェネト。
トーヴはいつまでも清らかな存在であらねばならない。自分以外の雌と体を重ねて交わる事などあってはならないのだ。
(でも、もし……)
メシェネトの脳裏に最悪の事態が浮かぶ。目を逸らしたいが、どうしても頭から離れない。
(もし、トーヴが犯されてしまっていたら)
好きでもない女に無理矢理犯され、母に助けを求めて泣き叫ぶ息子。そんな場面を想像するだけで、ファラオの胸は張り裂けそうだった。
(私はきっと自分の中の怒りを抑えきれない。私はきっとその者を……)
そして、そんな真似をした愚か者は。愛しい息子を穢し、傷つけた薄汚い雌は――
(八つ裂きにしても飽き足らない)
暗い決意を胸に秘め、母は下手人を捕らえるべく動き出す。
すぐさま玉座の間にスフィンクス、ギルタブリル、マミーなど、配下の魔物娘達を集めると、アポピス捕縛のために差し向けたのである。
「う…ぅ」
薄暗がりの中、囚われの王子は目を覚ます。
「おはよう。いえ、こんばんは…かしらね?」
「は!」
だが起きて早々、自身がとぐろを巻く蛇体によって拘束されている事に気づいたのだった。
「い…イヤだ! 放してよ!」
「あら、己の立場が解っていないようね」
早速パニックを起こしてもがき泣き叫ぶ少年をさらに追い込むように、薄ら笑いを浮かべた蛇女の上半身が彼の眼前へと進み出る。
「貴方はもう私の物なのよ」
「え…?」
「そう、私だけの物なの…♥」
状況があまり呑み込めず一転して呆気にとられるトーヴ。だが、蛇女の方はそんな彼の心情を知ってか知らずか、この現状に陶酔し、不快なほどににやけている。
「その証拠に貴方のココはこんなじゃない♥」
「?…っ!?」
起きたばかりか、それとも毒がまだ効いているのかは分からぬが、ぼんやりしていて気づかなかった己の変化。淫乱な魔物娘が指摘する通り、トーヴ少年の歳の割には大きい逸物が、性的興奮が無いにもかかわらずパンパンに膨れ上がっていたのである。
「な、なにこれ…」
「ウフフ。坊や、おねえさんに抱き締められたから興奮して、ココをこんなにしてるんじゃないのぉ?」
「うぁ…っ!」
蛇女がそんな彼の変化を嬉しそうに笑いながら、尻尾の先端で敏感な亀頭を弄ると、少年は戸惑いつつも喘いでしまう。
「ねぇ♥ もっとしてあげようか?」
「うぅっ!」
そう宣った蛇女は尻尾で逸物を弄り続けながら、トーヴの上半身に豊満な胸を押し付けながら抱きつく。さらにはその細長い舌で少年の左耳の穴をほじくり回し、少年の反応を見て愉しむ。
「遠慮する事なんてないのよ? ここは私と貴方の二人だけ、どんなにいやらしい事をしたって誰も見てやしないもの」
「…っ!」
薄明かりの中で段々と目が慣れてきて気づいたのだが、周りは石造りの壁となっているようだ。とはいえ、彼女の言う通り人や生き物の気配は無いため、このやり取りを覗かれる事も、誰かに助けを求める事も出来なそうだった。
ちなみに少年の推測は当たっている。ここは遥か昔に滅びた遺跡の中にある王城蹟であり、助けを求めたところで周囲は砂漠地帯なので人や魔物娘の往来もほぼ無かった。
「まぁ私もノッてきたし、イヤだって言ってもしちゃうけど♥」
「!?」
薄暗がりで分かりづらいが、少年の肉体を堪能したくなった蛇女は艶っぽくも邪悪な笑みを浮かべる。
トーヴに一応同意を求めはしたが、断られたところで続けるつもりではあった。暗闇の中、トーヴの体をまさぐり、その白い肌の温もりを感じている内に、彼女の魔物娘としての本能に火が点いてしまったのだ。
「ウフフ♥」
初めて好きになった男と抱き合っていれば、我慢出来るはずがない。蛇女は少年の両手首を掴んで押さえつけて持ち上げると、尻尾で彼の腰巻きと下着を器用に剥ぎ取ってしまう。
「な、なにをするんだ!」
「何って……“ナニ”でしょぉ?」
「ひっ!」
この後起きる事を想像し、黒い瞳で見つめ、舌舐めずりする蛇女。しかし、トーヴにはそれが獲物を丸呑みする前の蛇の仕草そのものに見え、顔をひきつらせると共に上ずった悲鳴が出てしまう。
「あらぁ、知らない? じゃあ、今から私が教えてあげる♥」
知らないのなら教えてやろうという善意で、蛇女はトーヴへの愛撫を続ける。
「うっ…くぅぅ…」
だが、思ったよりこの少年は頑固強情であり、素直に身を委ねれば良いものを無駄に耐えようとし、さらには反抗的な目でこちらを睨んできさえする。
「ふぅん……」
その理由は大体予想はつく。恐らくは、あのアヌビスを叩き伏せた事を恨んでいるのだろう。この子はあの野良犬と親しかったに違いない。
「ウフフ…」
とはいえ、そんな反抗的な意思も所詮は一時。彼の周りに群がりながらも何故か手を出さなかった愚かな雌どもの事など、快楽でいくらでも塗り潰せる。
それを確信する蛇女は早速それを実行に移す。
「んっ…♥」
「っ!?」
毒のせいで敏感な少年の体。その各所へ執拗な愛撫により、もどかしい刺激が齎されていたところで、耳孔より引き抜かれた舌が彼の口の中へと差し込まれる。
「んっ…んふっ……」
重なる唇。さらには唾液をたっぷりと帯びた舌が彼の口に突き入れられ、魅力的な唇と共に動かされる。
「〜〜〜〜っ?」
今まで耐えられたはずの責めとは違い、トーヴにとってこの接吻は刺激が強すぎるものだった。どうにか耐えたのは最初の一瞬だけで、やがて蛇女の淫らさに毒されるかのように、彼もまた口の動きを合わせ、貪り合うように吸い合っていった。
「ふ、ぁ…」
「♥」
ひとしきり味を愉しんだところで、一旦口を離す蛇女。一方、拒否していたはずの少年はキスの味で一気に“目覚めて”しまったらしく、怯えているのは相変わらずだが快楽で蕩けた目で彼女を見つめている。
「フフ、もっとイイコトしてあげるわよぉ…?」
少年の受け容れる準備が整ったと見た蛇女は、彼の眼前に胴と蛇体の継ぎ目にある秘裂をさらす。
「あ、ぁ…」
か細い声を漏らし、発情した少年は同じく発情した雌蛇の陰部から漂う淫らな匂いを堪能し――
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!」
「アァァンッ♥」
そして濡れそぼったそこに吸いつき、舐めしゃぶる。
「あっ、うっ、ふぅっぅ! 上手よぉ坊やァン♥」
童貞でも魔物娘に囲まれて育ったインキュバスというだけあり、囚われの王子は誰に教えられずとも女の体の扱いを既に心得ていた。
両手で蛇女の腰を抱え、まだ未使用の穴に舌をねじ込み掻き回し、時には陰核を舌で転がし、その都度漏れ出す愛液を啜る。その巧みさに蛇女は驚きつつも、快楽と共に湧き出る愛情、さらには少年らしからぬ雄性を感じ、ますます淫らさを増していく。
「あ、ああぁっ! ああっ、あっ、あっ……アァァ〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!」
そして、“それ”は意外に早く訪れた。昂った快楽が限界まで達し、蛇女はビクビクと腰を痙攣させると、陰部から派手に潮を噴く。
「あっ、は……♥」
妖しい美貌と豊満な肉体らしからぬ感度の良さ。いや、彼女が感じやすいというよりは、運命を感じた男の手と口だからこそ鋭敏過ぎる快感が齎されたというべきか。
彼女はこれほど早く果てた己に戸惑いつつも、同時に何処か幸福感を覚え、心が満たされつつあった。
「…!」
しかし、まだ幼いこの少年には運命というものは感じられなかったらしい。陰部から謎の液体を顔面に浴びせられた事で、まだ体が火照りつつも正気に戻る。
同時に、下半身に巻き付く蛇体が多少緩み、また彼女の意識がややぼんやりとしているのを見て取った。
(今だ!)
少年はこの機を逃さなかった。脱がされて全裸にされてしまったが、かえってその汗ばんだ白い肌が露わになった事を利用し、そのぬめりを利用して力の抜けた蛇体から逃れたのだ。
「あっ!?」
蛇女は下半身をしならせ、トーヴを再び捕らえようとするも――
「えぃっ!」
「ぅうっ!?」
尻尾が巻きつけられる前に蛇女の顔面へと砂が叩きつけられ、目潰しをされる。
石造りとはいえ長らく放置されていた廃墟のため、床の所々には砂が積もっていた。トーヴは逃れる際、手にその塊を握っていたのである。
「目っ、目が…!」
砂を浴びせられた両目を押さえ、悶える蛇女。ラミア属ではあるが、魔物娘である以上は上半身は人間とほとんど同じである。
当然、ただの蛇と違って視力は普通にあり、その分視覚に異変があれば混乱する。
「っ!」
あまり運動神経は良くないトーヴ王子であるが、この時ばかりは誰もが驚く速度で一直線に走り出す。目指すは入り口らしき扉の残骸である。
「えっ!?」
だが、唯一の希望はあっさりと消え去る。星明かりの注ぐ外界への唯一の出入り口だが、まるで見えない壁があるかのように少年のこれ以上の逃走を拒んだ。
「やってくれるわね!」
「!!」
希望が潰える中声をかけられ、怯えた表情でトーヴが後ろを振り返ると、黒い瞳を血走らせ、彼の元へとゆっくり這いずってくる蛇女の姿が目に入った。
「もうちょっと大人しい子だと思っていたけど、まさかここまでやんちゃだったとはね。これはおしおきが必要かしらぁ?」
先ほどと違い、その声には妖艶さや余裕というものが無い。そのやや低い声にトーヴは怯え、
「ひ…!」
両肩を掴まれ、怒りの表情で見下されても尚、蛇に睨まれた蛙のように動くことが出来なかった。
「痛っ!」
上半身は人間であるが、牙を突き立てる動きは下半身と同じく素早かった。
「貴方の反応を愉しみたかったから毒は薄めにしてたけど、その必要は無かったようねぇ」
蛇女はメティトの時と違い、トーヴには毒を薄めにしていた。それは少年の体躯の小ささもあるが、どちらかと言うと犯した際、素の反応を見てみたかったのもある。
だが、その気遣いは無用であったようだ。なにせトーヴの元気が良すぎたため、こんな風に逃げ出そうとまでする。
「さぁ、坊や♥ 続きをしましょう♥」
「あ……あ…」
「返事は聞く必要なさそうね♥」
多量の淫毒を打ち込まれ、正気を取り戻していた少年の意識は再び性の悦楽を求めてしまう。
そして眼前に熟れた極上の女体がある以上は、未熟な少年にその衝動を抑える事は最早出来ない。
「ウフフ…♥」
発情する少年を抱きかかえ、蛇女は廃墟の最奥へと姿を消す。
「あっ、あっ………うあああああああッッ!!!!」
「んっ……アハァァァァンンッッ♥♥♥♥」
そして痛々しいほどに膨張しきった肉竿が、同じく発情しきって濡れきった女陰に突き入れられたのもすぐの事である。
蛇女は流れ出る鮮血と痛みに一瞬歯を食いしばりながらも、すぐにそれを遥かに上回る快楽の嵐に襲われ、夢中で腰を動かした。囚われの王子もまた未知の快感に脳が焼き切れそうになりながらも、叩きつけられる蛇の腰をいつしか抱き締めていた。
(……かあさま………メティト……)
だが、後悔は無かったわけではない。彼はずっと続くと思っていた平穏で楽しい日々が、二度と来ないような予感に襲われていた。
快楽と共に、母や家臣達の顔が頭に浮かんでは消える。だが交わっている内、次第にそんな事も思わなくなっていく。
「イイわよ坊やァ♥♥ おねえさんの中に一番濃いのブチこんでぇッ♥♥ 私を孕ませて欲しいのぉ♥♥♥♥」
卑猥な水音と破裂音を廃墟の一室に響かせながら、両者は淫らに腰を打ちつけ、結合部から愛液を撒き散らし、欲棒を肉襞で淫らに扱く。
だが、それも限界だ。火山の噴火の如き快楽と共に、少年の逸物に痛みが走り――
「うっうぅぅッ!!!!」
「ああああああああ!!!! きっ、キタァ!! 中でビュルビュル弾けてるぅぅ〜〜〜〜♥♥」
生涯初めてとなる膣内射精。誰が見ても驚くほどの量の精液が蛇女の子宮に無理矢理流し込まれていく。
その勢いと快感に蛇女は髪を振り乱し、爆乳を弾ませながら感じ入る。
「はぁっ……最高よぉ、坊やぁ♥ んっ、ちゅ♥」
涙を流しながら満足気に微笑みかける蛇女。そして喜びの表現とばかりに再び唇を重ねるが、
「………………」
涙を流す少年は心ここにあらずという様子。だが、蛇女はかまわず舌を絡ませ、嬉しそうに交合を再開するのだった。
「ふんふん、あそこにいるのね〜?」
「そっ、そうだよ! わたしたちあぽぴすにおいだされたの!」
夜の砂漠で月明かりに照らされ、話し合う二人の魔物娘。
ミミズに似た巨大な胴体から、ピンク色の女体が顔を覗かせるサンドウォーム。一方、その異形の者と興奮した様子で話すのは、甲虫を思わせる黄金色の装束に身を包んだケプリの少女であった。
「きょうからここにはわたしたちがすむから、おまえたちはさっさとでてけって…」
「ふんふん。それはたいへんだったね〜」
「それにあんなにカワイイおとこのこをみせつけてきたくせに、えっちさせてくれないんだ!」
サンドウォームは怒りの収まらぬケプリを宥めつつ、情報を聞き出していく。
「ありがとぉ〜」
「ぜったいあいつをやっつけて!」
そして、ひとしきり聞き出したところで、サンドウォームは主の元へと帰るべくケプリと別れ、砂漠を掘り進んだ。
「メシェネト様、アポピスの居場所の目星がついたそうです」
「!」
部下のギルタブリルの報告を聞き、喜色を浮かべて玉座から立ち上がるファラオ。
「中の様子が判明し次第、捕縛にかかります」
「相手はアポピスよ。私も同行するわ」
「! メシェネト様直々に…!?」
「愛しい息子が捕まっているのですもの。だからこそ、母である私が出向かなくてはならないわ」
そう述べてギルタブリルに微笑むメシェネトであるが、本心はやや異なる。
(もし息子を犯しでもしたら、ただじゃおかない)
相手がアポピス故、自分が直々に現場で指揮をとろうと思っていたのは確かに事実である。だが、アポピスへの憎しみに燃える彼女は、どんな手段を用いても息子からアポピスを引き離し、そしてもしアポピスが息子の童貞を奪っているようであるなら――
(この世の地獄を見せた後、あの世の地獄に叩き落としてあげるわ)
その先を言う必要は無いだろう。ただ一つ言えるのは、部下達と違い、メシェネトの武器である鎌剣と三日月斧は、魔界銀製でなく『魔界でも変化しない』特別な鋼鉄製であるという事ぐらいであろうか。
18/01/23 11:00更新 / フルメタル・ミサイル
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