40 春の桜はいつ咲くのかと（後編）
さぁて…【前回の続き】って事で、俺は今、目の前にたっている女性の話を聞くところから物語のスタートさ！！
はたして、どのような話が聞けるのか楽しみだ…
俺が口の中の奥歯に挟まっていた干し肉の破片を必死に舌で取りながら、のんびりと話を聞く体勢に入ると、その女性は少し考えるとこういってきたんだ…
「……今からかなり昔の話だけど、私には思いを寄せる人がいたの…」
…来たよー！！よくありそうな始まり方だけどな…
え…？そんな事はどうでもいいから話を聞かせろって…？
……わ、わかったよ…しょうがないなぁ…
「それで、私は少女時代の全てをささげて彼…安永の事を調べ上げ、好きな人がいないとわかって思い切って告白してみたら、OKが出たのよ…」
「へ、へぇ…それで？」
内心、それって半分ストーカー行為みたいだなとか俺は突っ込まないぜ…
それに、俺は内心では告白系統の話は嫉妬するから苦手なんだって！！
だから…俺にまともな意見を聞こうとするのは無駄なだけだとも思うんだけどなぁ…
その後も散々似たような話を聞かされ続けたので、俺は要点だけを抜き出してみんなに説明するぜ！！
要するに、安永って奴がなぜ自分の元から離れかえってこなかったのか…
それも、結婚式の日の夕暮れにかげよしって男と遊びに行ってから…
その原因を見つけて欲しいっていう頼みごとを俺にしてきたわけだな…
で、俺が導き出した結論はこうだ…
俺には…無理だって！！
…だ、だってさぁ…５００年以上前の話だぜ！？
今の時代でどうやって調べればいいんだ！？
それに、よーく考えたら俺にこの頼みごとを聞く義理は…
ま、まて…ないって言うのはたやすいが、良く考えたら俺の人生はこの女性が握っているんじゃないのか！？
結局、俺に逆らうって選択肢は無いってわけですね！？
結局、またもや頼みごとを断ることが出来なかった俺は、暇だったということと、多分この寺に出る幽霊の正体が彼女だとわかったことの二つの事も合わさって、一応調べてみることにしたんだ…
え…？どこを調べるって…？まずはこの寺にも少なからずあるであろう５００年より少し前の文献を調べて、安永って男の話題が無いかを調べるっていう地味な作業さ！！
ふっ…俺がどれだけ必死になって文献を探したとしても一行でその事実が終わらされるって考えると、複雑な気持ちだぜ…
そしてしばらくして、俺は文献を厳選することができたぜ…
ほらな？俺の作業なんか、わずか一行でショートカットされるのさぁ！！
あと…なんで寺に昔の文献があったかは…追求しないでくれよ？
それで、文献の内容だけど…
『２月２９日 安永影利（やすなが かげとし）が装飾品を作成する為、山に入ってから行方不明に…
捜索隊の操作も難航中で、生死は不明
彼の友達であった幣原影由（しではら かげよし）は彼のために大広場に帰依桜を植えた…
安永は２月２９日に結婚を迎えたばかりで、奥さんの白霊さんはそのことを知らないまま、本日、３月１７日に流行り病の想血病（精神面に負担がかかり、体の免疫力が低下すると急激にかかりやすくなる流行り病…主に、夫の心配をする奥さんがたが感染しやすい）で亡くなった…
今日、彼女は大広場にある帰依桜の元に埋められることになり、葬儀は家族のものだけで行われるようだ。
そして、帰依桜の左を少しいったところにかげよしが、いつまでも安永と幸せにいられるようにと、安永が最後につくりかけていた装飾品を埋めたようだ』
確実にあの女性は白霊さんって事に間違いはないな…
だとしたら、この記事が正しいと仮定して…案外、楽に見つかるかも知れないじゃないか！！
こうやって、簡単に調べ物をしたら見つかるところとか…主人公らしいって思わないか？
普通ならこんな風に探しても見つかることなんてほとんど無いのに…
俺はそう思いながら、あの大きな木…おそらく帰依桜であろうところに向かっていった。
「えっと…デメトリオ…よね？かげよしに似てて紛らわしい…ま、まぁいいわ。なにかわかったの？」
「…まぁ、ためしにいろいろやってみますって！！」
俺はまだ…確信のない事実を言うつもりも無かったので、あの記事のことはあえて伏せておいて、帰依桜の左を地味に調べてみたんだ…
すると、確かに左側にそれらしきものを埋めたって書いてある石碑があったんだ！！
塀の向こう側だけどな！！
ま、まぁ…５００年以上も前の記事だし、地形が変わっていなければそっちの方がおかしいから多めに見るわけだけどね？
で、その石碑を地味に手探りで探っていると…
こ、これは…！？
そこには、綺麗に包み込まれたかんざしが入っていたんだ！！
でも…結構時代を感じるぜ…もう、綺麗に包み込まれていたとはいえ、錆び付いてしまっているからなぁ…
などと思いながらかんざしを見ている俺だったが、いきなり俺の真横に男があらわれたんだよ！！
ふっ…正直に言おう…この男も幽霊的な何かなんですけどぉーー！？
え…？何…？俺には何か変な補正でもついてしまったのか！？えぇ！？
本気でパニック状態の俺を尻目に、その男性は凄く落ち着いた感じだが…
そんな事は俺にはどうでもいいことだった！！
そして俺は落ち着くのに時間がかかったが、一応その場に適応することが出来たぜ…
「…あ、あんたは誰だ？」
「僕は安永…君、僕の作品に何か用なのかい…？」
…こ、この人が安永だったのか！？
な、なんでこんなにも近くにいるのに気付かないんだ！？この塀が邪魔なのか！？だったら、俺がこの塀を崩壊させてやろうか？
それで、このイベントが終わるのなら俺は喜んでそれを実行しただろうが…
関係ないから虚しいよなぁ…
俺はそう思いながら、安永に理由を説明することにした。
「白霊って人があなたのことを探していて、証拠が必要なんですよ…えっと…かげよしって人と俺がなんか似ているみたいで頼まれちゃって…あってやってくれませんか？」
「…あぁー…確かにかげよしだな…でも、僕はすぐには…会いにいけないんだ」
……はぁ！？この塀を越えればすぐだろう！？会いに行けばいいじゃないか！
って口に出すのをぐっとこらえ、俺は理由を聞いてみることにしたんだ。
「なぜ、すぐ近くにいるのに会いにいけないんですか？」
「僕の…作品はまだ…完成していないんだ…」
…この装飾品のことか？こんな錆びたものよりもあんた自身が行ったほうが効果的だって事に気がつかないのか！？
「でも…これは錆びてしまっていますよ？」
「いいんだ…僕は、その装飾品に…銀を…つ…まだ、完成……ない…だよ」
……き、消えてしまったぞおい……
えっと、つまりアレはこの装飾品を完成させてくれって言いたいのか？
確か…銀って言ってたけど…
俺は、一応寺の中を隅々まで探して、銀となりうるものを探してみたんだが…
いくら探しても形が大きいものばかりで、装飾品には似合いそうに無いんだよ…
まぁ、元々錆びているからどんな感じの銀が合うのかもわからないし…
などと、俺が文句を言っていたときだった…
「うぅ…さ、寒いなぁ…しかし、あぁ？デメトリオじゃん…」
後ろから、寝巻き姿のスカニがこっちに歩いてきたのが見えたわけだぜ…
全くのんきなもんだよなぁ…俺からすれば羨ましい限りだ…
などと思っていると、スカニが俺の持っている装飾品に気がついたのか、俺の持っているものを指差してきたわけだな…
「それは…ジパング土産の代名詞のかんざしって奴じゃないか？ずいぶん錆びてるな…ちょっと貸してくれる？」
…どうしようか…？貸してもいいけど、壊されたら凄く困ることになりそうなんだが…
俺は凄く渋っていたわけだ…
だって、このままおいそれと貸してしまって後悔することにはなりたくないしなぁ…
そのまましばらくの間、時間が経過したときだった…
遂にスカニがムカッと来たのか、物凄いけんまくでこう言ってきたんだよ…
「貸せって言ってんだろうが！！素直に貸さないとぼこぼこにするぞ！！」
「ひ、ひぃぃーー！！か、貸しますよ！！」
そして俺は、物凄い怖さを誇っていたスカニに装飾品…別名かんざしを手渡したのだった…
スカニはしばらくかんざしを見たあと、不意に腰の中から変な紙切れを取り出してきたんだが…アレはなんだ？
「す、スカニ…それは一体何なんだ？」
「これは錆び取り紙…コレでこの装飾品を元の姿に復興してみようと思ってね？そこまで壊れていなかったし…」
……ま、まさか５００年前のものが直るというのか！？
き、気になるぜ…もしも直ったとしたら、ぴったり雰囲気に合いそうな銀が見つかるかも知れないしな！！
…で、スカニは目にも留まらないスピードで錆を取っていき、俺がそっちの方に目を向けたときにはすでに錆を取りきっていたんだ…
ま、まさに神速というべきなのか…！？
「まぁ、こんなとこか…じゃあ、あたいトイレ行ったら寝るから…」
「あ…ありがとう…」
これが…言葉を失うって奴だと俺は身をもって実感したのだった…
そして俺は必死で銀を探しているところだが…正直、もうぴったりはまる銀は無いような気がしてきたんだ…
もう、チョコレートの銀紙でも丸めて付けてやろうかと思い始めたぐらいだぜ…
まったく…ん！？
俺がふと目を向けた先に見えた小さな扉…さっきまで気がつかなかったが、あそこにならあるかも知れないぜ…
俺はそっとその扉を開けて中に入ったんだぜ…
全く、扉に小さな紙切れを貼り付けておくのはやめて欲しい…邪魔だし…
それに、変な文字で何かかかれてたしな…まぁ、どうでもいいことさ！
うぅ…小さな扉の中には変なにおいが漂っているんだが…
ん！？あ、あの指輪の銀はぴったりじゃないか！！
俺はその小さな扉の中で指輪の銀を見つけることに成功したんだ！！
いやぁ…こんなヒカリゴケのある場所で結構探すことになるって嫌だったから助かったぜ…
俺は遠慮のカケラもなく、その指輪を飾られていた台座からはずしたんだが…
ガガガガッ……カチッ…
キリキリキリィ……ギシッ…
ガチャンッ！！
な、なんだこの怪しげな音は！？
な、なんだか、早く戻らないといけない気がするぜ…と本能で感じた俺は、一気に入ってきた小さな扉まで駆け出し、一気に扉を開けようと思ったんだが…
「な、なんで開かないんだ！？えぇっ！？」
まさにたとえるとしたら…扉は硬く閉ざされている…って表現がぴったり何だが！？
と、閉じ込められたというのか！？
なぜただの寺の一室にこんな危険な部屋があるんだ！？誰か…俺に教えてくれ！
俺があきらめずに扉をドンドン叩いていると、不意にかなり後ろの方から話し声が聞こえてきたんだ！！
ま、まさか…救いの手か！？
「おやぁ…？封印されていたはずの場所に…男がいるねぇ…ふふっ…」
「３００年間の間…わが一族は衰退の道を歩いていたが…ふっ…」
「また繁殖できそうだわぁ…彼、おいしそうだしぃ…ふふっ…」
す、救いの手じゃなかったーー！！
封印されていたって聞いたんだが！？えぇっ！？
ふ、封印をといた記憶なんて全然無いぞ…そ、そんなことより、誰なんだ…？
少なくとも三人はいた気がするが…
うおぉ…な、なんだろうこのカサカサという音は…？
俺はこれ以上逃げ道の無い扉の前にいるのは危険だと判断し、勇気を持って前の少し広い場所に足を向けてみた…
集中しようとしてみるが…カサカサという音しか聞こえてこないぞ…
俺がそう思った瞬間だった…いきなり後ろと前にデビルバグだがジパングスタイルの女性が降りてきて、俺の逃げ場をふさいできたんだよ！！
ま、まさか…この彼女たちがこの空間には封印されていたというのか！？
「だ…だれだよ！？お、俺を驚かそうとしたって無駄だぞ！！」
「我は佐久原家当主…佐久原 濃芽！！我が一族の繁栄のために…貴様には苗床になってもらおう！！」
さ…佐久原家って…しらねぇ……
どうして俺がこんな出来事に巻き込まれなければいけないのか…
その理由すらも俺にはわからない状況だが…どうすればいいんだ！？
「私は佐久原 薄芽っていうの…本当に、封印をといてくれてありがとうね…？おかげで…空腹に子供達も困らなくて住みそう…ふふっ…」
ま、待った！！凄い嫌な予感がするんだが…！？
俺は思わず薄芽から距離をとろうと後ろに後ずさったんだが…
そうだよ！！後ろにはもう一人いたんだった！！
俺はそのことに気付いたとたんにつかまってしまったものだから…
なんだか凄くやるせない気持ちだぜ…
「ふふっ…姉さんたち驚かさせすぎよぉ…私は佐久原 苦芽…よろしくね？」
そう言ってそっと唇と唇を合わせそうとしてきたので、俺は必死に逃げたんだ！
こういったことは…愛し合ったもの同士でやるべきだ！！
衝動で決めてしまっていいものでは決して無いだろ！！
そうしてしばらく逃げていたときだった…いきなり薄芽が何かに気がついたような表情になって苦芽を止めたんだよ！！
これは…ラッキーと思っていいのだろうか…？
ま、待て…油断させて一気に行く作戦かも知れないから、警戒はしておこう…
俺は三人のことをしっかりと目で確認しながら、三人の話に聞き耳を立ててみたんだ…
ぬ、盗み聞きしているわけじゃないぞ！？き、聞こえてくるだけだからな！
「あの男…まだ身体が魔素に一滴も犯されていないぞ…我が一族の掟の一つに反するのじゃないか…？」
「そうねぇ…掟は大事だしねぇ…どうする苦芽？」
「…薄芽姉さんは困ったときにすぐ私に聞くんだから…そうだなぁ…彼が他の魔物娘と結婚して魔素を身体に含んだら…でどうです？」
「いいわね…それ…そうしましょう」
だ、ダメだ…一体何が言いたいのか全然想像がつかない…
俺はただ、話の流れが読めずにその場であたふたしていたんだ…
そうしていると、いきなり三人がこっちを向いてきたんだ！！
つ、遂に来るのか…！？
「……これ、部屋の鍵…あなたにあげるわ…運がよかったようね…」
そういうと、薄芽は俺に部屋の鍵を投げてそのまま部屋の闇の中へと消えていったんだ…他の二人もだぜ…！？
これは罠だと考えるのが普通だけど…なんでこんなことをするのか理解も出来ないんだが…
俺はしばらくの間…そこから動けないでいたんだ…
俺は封印されていた部屋から出ると、早速月明かりに照らされた場所で部屋から手に入れた銀をかんざしにつけてみたんだが…
おぉ！！な、なんとすばらしい…
まさに、感嘆したんだが…ここまで上手くフィットするなんて狙ったとしか思えないぜ…
さて…早速白霊さんのところに持っていくとするかな！！
俺はそう思って、帰依桜のところにあの記事と一緒に装飾品を持っていったわけだ…
ちょっと待てよ…あの扉封印しておかないと危険なんじゃないのか…？
俺は帰依桜が見える寸前の曲がり角でその事実に気がついたんだ！！
くそっ…ここからあの扉まで２０ｍ…俺は戻るべきなのか…
俺は凄く悩んだ末、封印をするのをあきらめたんだ…
だって、２０ｍ戻るのってめんどくさいじゃないか！！
「おーい！！いいもの持ってきたんだ！！」
俺は帰依桜の近くに行くと、白霊のことを呼んだんだ！！
多分…この二つで良いと思うんだけど…なぁ…
「…見つかったの？」
「あぁ！！ちょっとコレを見てくれ…で、こっちもな」
俺はそっと集めてきた二つの道具を渡したわけだな…
これでダメだったらもう終わりだ…手の討ちようがない…
しばらく待っていると、白霊が信じられないといった表情になるのが見えたんだが…
まぁ、信じられないのは無理も無いぜ…ふっ…
ちょっとかっこつけてみました…
「嘘よ！！ま、まさか、安永が事故で死んでいたなんて！！この記事は偽者よ！デメトリオ…よくも偽者を渡してきたな！！私がどれだけ安永のことを思っていたか…ゆ、ゆるさないぃぃい！！」
えぇーー！？な、なんか怒りの感情が出てきてないか！？
な、なぜこんなことに…そ、それにその記事は本物なんですけど！？
一気に身の危険を感じる俺だが…神は俺のことを見捨ててはいなかった…
なんと、このタイミングで安永さんが出てくるという…
「…ようやく、会えたか…」
「……！！や、安永！！ま、まさか…本物…なの…？」
「本当は…もう少し…早く会いに行きたかった…でも、デメトリオが渡した…かんざしを完成させるまでは…会いにいけなかったんだ…それが…僕の結婚指輪の代わりだから…」
「…安永…安永ぁっ！！うわぁあん！！」
……はいはい…感動なこのシーンで俺が登場してどうもすみませんねっと…
いやぁ…こんな感動的でありきたりな出来事に遭遇すると、とっとと成仏しやがれって思ってしまう俺は…多分最低なんだろうなぁ…
け、決して嫉妬しているわけじゃないんだからね！！
どうする…俺はこの場所から去るべき…だよなぁ…やっぱり…
だって、場違いなことこの上無いもんなぁ…
俺が真剣にそう思い始めたとき、俺はある事実に気がついたんだ…
あ、アレは…朝日じゃないか！！
ナイス！！これで幽霊の二人は存在していることが出来なくなる！！
俺はこれ以上嫉妬しなくてすむんだ！！
「……デメトリオ、手伝ってくれてありがとう…おかげで…会いに来れた…」
そう言って安永が俺に話しかけてくる…ん！？
俺はこのタイミングで重要なことに気がついたんだ！！
後ろにある木が淡く光っているんだよ！！
な、何かが起こるというのか…！？
俺は今日は…もう驚かないぜ…何が起こってもな…？
そう思って身構えている俺…
「「……ありがとう、これで夜の楽しみが出来た」」
二人はそう言ってにこやかにさわやかなスマイルを俺に向けて消えていった…
多分、俺の感だが成仏していない気がする…
そして、俺が振り向いた瞬間…後ろにあった大きな木は見たことのない花を咲かせていたんだ…
なんだか…春が来た気がした…
えっ！？似合わない台詞を言うなって！？
い、いいじゃないか！！カッコつけたかったんだよ！！
俺はそっと、他のみんなが眠っている場所に戻っていった…
いやぁ…眠いぜ…
はたして、どのような話が聞けるのか楽しみだ…
俺が口の中の奥歯に挟まっていた干し肉の破片を必死に舌で取りながら、のんびりと話を聞く体勢に入ると、その女性は少し考えるとこういってきたんだ…
「……今からかなり昔の話だけど、私には思いを寄せる人がいたの…」
…来たよー！！よくありそうな始まり方だけどな…
え…？そんな事はどうでもいいから話を聞かせろって…？
……わ、わかったよ…しょうがないなぁ…
「それで、私は少女時代の全てをささげて彼…安永の事を調べ上げ、好きな人がいないとわかって思い切って告白してみたら、OKが出たのよ…」
「へ、へぇ…それで？」
内心、それって半分ストーカー行為みたいだなとか俺は突っ込まないぜ…
それに、俺は内心では告白系統の話は嫉妬するから苦手なんだって！！
だから…俺にまともな意見を聞こうとするのは無駄なだけだとも思うんだけどなぁ…
その後も散々似たような話を聞かされ続けたので、俺は要点だけを抜き出してみんなに説明するぜ！！
要するに、安永って奴がなぜ自分の元から離れかえってこなかったのか…
それも、結婚式の日の夕暮れにかげよしって男と遊びに行ってから…
その原因を見つけて欲しいっていう頼みごとを俺にしてきたわけだな…
で、俺が導き出した結論はこうだ…
俺には…無理だって！！
…だ、だってさぁ…５００年以上前の話だぜ！？
今の時代でどうやって調べればいいんだ！？
それに、よーく考えたら俺にこの頼みごとを聞く義理は…
ま、まて…ないって言うのはたやすいが、良く考えたら俺の人生はこの女性が握っているんじゃないのか！？
結局、俺に逆らうって選択肢は無いってわけですね！？
結局、またもや頼みごとを断ることが出来なかった俺は、暇だったということと、多分この寺に出る幽霊の正体が彼女だとわかったことの二つの事も合わさって、一応調べてみることにしたんだ…
え…？どこを調べるって…？まずはこの寺にも少なからずあるであろう５００年より少し前の文献を調べて、安永って男の話題が無いかを調べるっていう地味な作業さ！！
ふっ…俺がどれだけ必死になって文献を探したとしても一行でその事実が終わらされるって考えると、複雑な気持ちだぜ…
そしてしばらくして、俺は文献を厳選することができたぜ…
ほらな？俺の作業なんか、わずか一行でショートカットされるのさぁ！！
あと…なんで寺に昔の文献があったかは…追求しないでくれよ？
それで、文献の内容だけど…
『２月２９日 安永影利（やすなが かげとし）が装飾品を作成する為、山に入ってから行方不明に…
捜索隊の操作も難航中で、生死は不明
彼の友達であった幣原影由（しではら かげよし）は彼のために大広場に帰依桜を植えた…
安永は２月２９日に結婚を迎えたばかりで、奥さんの白霊さんはそのことを知らないまま、本日、３月１７日に流行り病の想血病（精神面に負担がかかり、体の免疫力が低下すると急激にかかりやすくなる流行り病…主に、夫の心配をする奥さんがたが感染しやすい）で亡くなった…
今日、彼女は大広場にある帰依桜の元に埋められることになり、葬儀は家族のものだけで行われるようだ。
そして、帰依桜の左を少しいったところにかげよしが、いつまでも安永と幸せにいられるようにと、安永が最後につくりかけていた装飾品を埋めたようだ』
確実にあの女性は白霊さんって事に間違いはないな…
だとしたら、この記事が正しいと仮定して…案外、楽に見つかるかも知れないじゃないか！！
こうやって、簡単に調べ物をしたら見つかるところとか…主人公らしいって思わないか？
普通ならこんな風に探しても見つかることなんてほとんど無いのに…
俺はそう思いながら、あの大きな木…おそらく帰依桜であろうところに向かっていった。
「えっと…デメトリオ…よね？かげよしに似てて紛らわしい…ま、まぁいいわ。なにかわかったの？」
「…まぁ、ためしにいろいろやってみますって！！」
俺はまだ…確信のない事実を言うつもりも無かったので、あの記事のことはあえて伏せておいて、帰依桜の左を地味に調べてみたんだ…
すると、確かに左側にそれらしきものを埋めたって書いてある石碑があったんだ！！
塀の向こう側だけどな！！
ま、まぁ…５００年以上も前の記事だし、地形が変わっていなければそっちの方がおかしいから多めに見るわけだけどね？
で、その石碑を地味に手探りで探っていると…
こ、これは…！？
そこには、綺麗に包み込まれたかんざしが入っていたんだ！！
でも…結構時代を感じるぜ…もう、綺麗に包み込まれていたとはいえ、錆び付いてしまっているからなぁ…
などと思いながらかんざしを見ている俺だったが、いきなり俺の真横に男があらわれたんだよ！！
ふっ…正直に言おう…この男も幽霊的な何かなんですけどぉーー！？
え…？何…？俺には何か変な補正でもついてしまったのか！？えぇ！？
本気でパニック状態の俺を尻目に、その男性は凄く落ち着いた感じだが…
そんな事は俺にはどうでもいいことだった！！
そして俺は落ち着くのに時間がかかったが、一応その場に適応することが出来たぜ…
「…あ、あんたは誰だ？」
「僕は安永…君、僕の作品に何か用なのかい…？」
…こ、この人が安永だったのか！？
な、なんでこんなにも近くにいるのに気付かないんだ！？この塀が邪魔なのか！？だったら、俺がこの塀を崩壊させてやろうか？
それで、このイベントが終わるのなら俺は喜んでそれを実行しただろうが…
関係ないから虚しいよなぁ…
俺はそう思いながら、安永に理由を説明することにした。
「白霊って人があなたのことを探していて、証拠が必要なんですよ…えっと…かげよしって人と俺がなんか似ているみたいで頼まれちゃって…あってやってくれませんか？」
「…あぁー…確かにかげよしだな…でも、僕はすぐには…会いにいけないんだ」
……はぁ！？この塀を越えればすぐだろう！？会いに行けばいいじゃないか！
って口に出すのをぐっとこらえ、俺は理由を聞いてみることにしたんだ。
「なぜ、すぐ近くにいるのに会いにいけないんですか？」
「僕の…作品はまだ…完成していないんだ…」
…この装飾品のことか？こんな錆びたものよりもあんた自身が行ったほうが効果的だって事に気がつかないのか！？
「でも…これは錆びてしまっていますよ？」
「いいんだ…僕は、その装飾品に…銀を…つ…まだ、完成……ない…だよ」
……き、消えてしまったぞおい……
えっと、つまりアレはこの装飾品を完成させてくれって言いたいのか？
確か…銀って言ってたけど…
俺は、一応寺の中を隅々まで探して、銀となりうるものを探してみたんだが…
いくら探しても形が大きいものばかりで、装飾品には似合いそうに無いんだよ…
まぁ、元々錆びているからどんな感じの銀が合うのかもわからないし…
などと、俺が文句を言っていたときだった…
「うぅ…さ、寒いなぁ…しかし、あぁ？デメトリオじゃん…」
後ろから、寝巻き姿のスカニがこっちに歩いてきたのが見えたわけだぜ…
全くのんきなもんだよなぁ…俺からすれば羨ましい限りだ…
などと思っていると、スカニが俺の持っている装飾品に気がついたのか、俺の持っているものを指差してきたわけだな…
「それは…ジパング土産の代名詞のかんざしって奴じゃないか？ずいぶん錆びてるな…ちょっと貸してくれる？」
…どうしようか…？貸してもいいけど、壊されたら凄く困ることになりそうなんだが…
俺は凄く渋っていたわけだ…
だって、このままおいそれと貸してしまって後悔することにはなりたくないしなぁ…
そのまましばらくの間、時間が経過したときだった…
遂にスカニがムカッと来たのか、物凄いけんまくでこう言ってきたんだよ…
「貸せって言ってんだろうが！！素直に貸さないとぼこぼこにするぞ！！」
「ひ、ひぃぃーー！！か、貸しますよ！！」
そして俺は、物凄い怖さを誇っていたスカニに装飾品…別名かんざしを手渡したのだった…
スカニはしばらくかんざしを見たあと、不意に腰の中から変な紙切れを取り出してきたんだが…アレはなんだ？
「す、スカニ…それは一体何なんだ？」
「これは錆び取り紙…コレでこの装飾品を元の姿に復興してみようと思ってね？そこまで壊れていなかったし…」
……ま、まさか５００年前のものが直るというのか！？
き、気になるぜ…もしも直ったとしたら、ぴったり雰囲気に合いそうな銀が見つかるかも知れないしな！！
…で、スカニは目にも留まらないスピードで錆を取っていき、俺がそっちの方に目を向けたときにはすでに錆を取りきっていたんだ…
ま、まさに神速というべきなのか…！？
「まぁ、こんなとこか…じゃあ、あたいトイレ行ったら寝るから…」
「あ…ありがとう…」
これが…言葉を失うって奴だと俺は身をもって実感したのだった…
そして俺は必死で銀を探しているところだが…正直、もうぴったりはまる銀は無いような気がしてきたんだ…
もう、チョコレートの銀紙でも丸めて付けてやろうかと思い始めたぐらいだぜ…
まったく…ん！？
俺がふと目を向けた先に見えた小さな扉…さっきまで気がつかなかったが、あそこにならあるかも知れないぜ…
俺はそっとその扉を開けて中に入ったんだぜ…
全く、扉に小さな紙切れを貼り付けておくのはやめて欲しい…邪魔だし…
それに、変な文字で何かかかれてたしな…まぁ、どうでもいいことさ！
うぅ…小さな扉の中には変なにおいが漂っているんだが…
ん！？あ、あの指輪の銀はぴったりじゃないか！！
俺はその小さな扉の中で指輪の銀を見つけることに成功したんだ！！
いやぁ…こんなヒカリゴケのある場所で結構探すことになるって嫌だったから助かったぜ…
俺は遠慮のカケラもなく、その指輪を飾られていた台座からはずしたんだが…
ガガガガッ……カチッ…
キリキリキリィ……ギシッ…
ガチャンッ！！
な、なんだこの怪しげな音は！？
な、なんだか、早く戻らないといけない気がするぜ…と本能で感じた俺は、一気に入ってきた小さな扉まで駆け出し、一気に扉を開けようと思ったんだが…
「な、なんで開かないんだ！？えぇっ！？」
まさにたとえるとしたら…扉は硬く閉ざされている…って表現がぴったり何だが！？
と、閉じ込められたというのか！？
なぜただの寺の一室にこんな危険な部屋があるんだ！？誰か…俺に教えてくれ！
俺があきらめずに扉をドンドン叩いていると、不意にかなり後ろの方から話し声が聞こえてきたんだ！！
ま、まさか…救いの手か！？
「おやぁ…？封印されていたはずの場所に…男がいるねぇ…ふふっ…」
「３００年間の間…わが一族は衰退の道を歩いていたが…ふっ…」
「また繁殖できそうだわぁ…彼、おいしそうだしぃ…ふふっ…」
す、救いの手じゃなかったーー！！
封印されていたって聞いたんだが！？えぇっ！？
ふ、封印をといた記憶なんて全然無いぞ…そ、そんなことより、誰なんだ…？
少なくとも三人はいた気がするが…
うおぉ…な、なんだろうこのカサカサという音は…？
俺はこれ以上逃げ道の無い扉の前にいるのは危険だと判断し、勇気を持って前の少し広い場所に足を向けてみた…
集中しようとしてみるが…カサカサという音しか聞こえてこないぞ…
俺がそう思った瞬間だった…いきなり後ろと前にデビルバグだがジパングスタイルの女性が降りてきて、俺の逃げ場をふさいできたんだよ！！
ま、まさか…この彼女たちがこの空間には封印されていたというのか！？
「だ…だれだよ！？お、俺を驚かそうとしたって無駄だぞ！！」
「我は佐久原家当主…佐久原 濃芽！！我が一族の繁栄のために…貴様には苗床になってもらおう！！」
さ…佐久原家って…しらねぇ……
どうして俺がこんな出来事に巻き込まれなければいけないのか…
その理由すらも俺にはわからない状況だが…どうすればいいんだ！？
「私は佐久原 薄芽っていうの…本当に、封印をといてくれてありがとうね…？おかげで…空腹に子供達も困らなくて住みそう…ふふっ…」
ま、待った！！凄い嫌な予感がするんだが…！？
俺は思わず薄芽から距離をとろうと後ろに後ずさったんだが…
そうだよ！！後ろにはもう一人いたんだった！！
俺はそのことに気付いたとたんにつかまってしまったものだから…
なんだか凄くやるせない気持ちだぜ…
「ふふっ…姉さんたち驚かさせすぎよぉ…私は佐久原 苦芽…よろしくね？」
そう言ってそっと唇と唇を合わせそうとしてきたので、俺は必死に逃げたんだ！
こういったことは…愛し合ったもの同士でやるべきだ！！
衝動で決めてしまっていいものでは決して無いだろ！！
そうしてしばらく逃げていたときだった…いきなり薄芽が何かに気がついたような表情になって苦芽を止めたんだよ！！
これは…ラッキーと思っていいのだろうか…？
ま、待て…油断させて一気に行く作戦かも知れないから、警戒はしておこう…
俺は三人のことをしっかりと目で確認しながら、三人の話に聞き耳を立ててみたんだ…
ぬ、盗み聞きしているわけじゃないぞ！？き、聞こえてくるだけだからな！
「あの男…まだ身体が魔素に一滴も犯されていないぞ…我が一族の掟の一つに反するのじゃないか…？」
「そうねぇ…掟は大事だしねぇ…どうする苦芽？」
「…薄芽姉さんは困ったときにすぐ私に聞くんだから…そうだなぁ…彼が他の魔物娘と結婚して魔素を身体に含んだら…でどうです？」
「いいわね…それ…そうしましょう」
だ、ダメだ…一体何が言いたいのか全然想像がつかない…
俺はただ、話の流れが読めずにその場であたふたしていたんだ…
そうしていると、いきなり三人がこっちを向いてきたんだ！！
つ、遂に来るのか…！？
「……これ、部屋の鍵…あなたにあげるわ…運がよかったようね…」
そういうと、薄芽は俺に部屋の鍵を投げてそのまま部屋の闇の中へと消えていったんだ…他の二人もだぜ…！？
これは罠だと考えるのが普通だけど…なんでこんなことをするのか理解も出来ないんだが…
俺はしばらくの間…そこから動けないでいたんだ…
俺は封印されていた部屋から出ると、早速月明かりに照らされた場所で部屋から手に入れた銀をかんざしにつけてみたんだが…
おぉ！！な、なんとすばらしい…
まさに、感嘆したんだが…ここまで上手くフィットするなんて狙ったとしか思えないぜ…
さて…早速白霊さんのところに持っていくとするかな！！
俺はそう思って、帰依桜のところにあの記事と一緒に装飾品を持っていったわけだ…
ちょっと待てよ…あの扉封印しておかないと危険なんじゃないのか…？
俺は帰依桜が見える寸前の曲がり角でその事実に気がついたんだ！！
くそっ…ここからあの扉まで２０ｍ…俺は戻るべきなのか…
俺は凄く悩んだ末、封印をするのをあきらめたんだ…
だって、２０ｍ戻るのってめんどくさいじゃないか！！
「おーい！！いいもの持ってきたんだ！！」
俺は帰依桜の近くに行くと、白霊のことを呼んだんだ！！
多分…この二つで良いと思うんだけど…なぁ…
「…見つかったの？」
「あぁ！！ちょっとコレを見てくれ…で、こっちもな」
俺はそっと集めてきた二つの道具を渡したわけだな…
これでダメだったらもう終わりだ…手の討ちようがない…
しばらく待っていると、白霊が信じられないといった表情になるのが見えたんだが…
まぁ、信じられないのは無理も無いぜ…ふっ…
ちょっとかっこつけてみました…
「嘘よ！！ま、まさか、安永が事故で死んでいたなんて！！この記事は偽者よ！デメトリオ…よくも偽者を渡してきたな！！私がどれだけ安永のことを思っていたか…ゆ、ゆるさないぃぃい！！」
えぇーー！？な、なんか怒りの感情が出てきてないか！？
な、なぜこんなことに…そ、それにその記事は本物なんですけど！？
一気に身の危険を感じる俺だが…神は俺のことを見捨ててはいなかった…
なんと、このタイミングで安永さんが出てくるという…
「…ようやく、会えたか…」
「……！！や、安永！！ま、まさか…本物…なの…？」
「本当は…もう少し…早く会いに行きたかった…でも、デメトリオが渡した…かんざしを完成させるまでは…会いにいけなかったんだ…それが…僕の結婚指輪の代わりだから…」
「…安永…安永ぁっ！！うわぁあん！！」
……はいはい…感動なこのシーンで俺が登場してどうもすみませんねっと…
いやぁ…こんな感動的でありきたりな出来事に遭遇すると、とっとと成仏しやがれって思ってしまう俺は…多分最低なんだろうなぁ…
け、決して嫉妬しているわけじゃないんだからね！！
どうする…俺はこの場所から去るべき…だよなぁ…やっぱり…
だって、場違いなことこの上無いもんなぁ…
俺が真剣にそう思い始めたとき、俺はある事実に気がついたんだ…
あ、アレは…朝日じゃないか！！
ナイス！！これで幽霊の二人は存在していることが出来なくなる！！
俺はこれ以上嫉妬しなくてすむんだ！！
「……デメトリオ、手伝ってくれてありがとう…おかげで…会いに来れた…」
そう言って安永が俺に話しかけてくる…ん！？
俺はこのタイミングで重要なことに気がついたんだ！！
後ろにある木が淡く光っているんだよ！！
な、何かが起こるというのか…！？
俺は今日は…もう驚かないぜ…何が起こってもな…？
そう思って身構えている俺…
「「……ありがとう、これで夜の楽しみが出来た」」
二人はそう言ってにこやかにさわやかなスマイルを俺に向けて消えていった…
多分、俺の感だが成仏していない気がする…
そして、俺が振り向いた瞬間…後ろにあった大きな木は見たことのない花を咲かせていたんだ…
なんだか…春が来た気がした…
えっ！？似合わない台詞を言うなって！？
い、いいじゃないか！！カッコつけたかったんだよ！！
俺はそっと、他のみんなが眠っている場所に戻っていった…
いやぁ…眠いぜ…
12/04/24 21:18更新 / デメトリオン
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