第四章 エリエールの日記 その二 (ほのぼの、ギャグ)
なんと言えばいいのだろうか?
こういう場合。
私たちは今、現段階で謎の人物でもあるターキン=レオンについていき、あまり人の通らない裏通りを進み、ギルドと呼ばれる場所にやってきた。
そこまではよかった。
しかし、私が今悩んでいるのはこの目の前にあるギルドと呼ばれている建物だ。
・・・・・・・・・・・・
やはりどう考えてもあの言葉しか、あの形容句しか見当たらない。
一言で言えば。
物凄くボロイ。
「あの本当にここ冒険者ギルドなんですか?」
「ああ、そうだ。ここがシンボリ大陸で一番大きい冒険者ギルドさ」
その言葉を聞きさらに顔をしかめるフレイヤ。
その顔はまさに信じられないと言った顔だった。
「そんな顔をするなよ、せっかくの美人が台無しだぜ」
彼は笑いながら、そんなことを言ってきた。
「からかわないでください。なぜこんなに建物が荒れているんですか?」
そう彼女の疑問はそこにある。エリエールの冒険者ギルドはシンボリ一、それなのに建物からは人の気配が感じられない。
「その理由も兼ねて中で教えてやる。とりあえず入ろうぜ、なっ」
ポンっと肩を叩いて彼はギルドの中に入っていく。
ギィイイイ ガコン
「姉貴、とりあえず考えても始まらないんだし入ろうぜ!!」
「そうだな」
カリンに言われて中に入る決意をした。
ギィイイイ ガコン ガコン ガコン ガコン
金具が錆び付いているのか少々うるさい音が響いた。
中に入ってみると外とは違いなかなかキレイにされていた。
壁にはたくさんの紙が張り巡らされていたがそれ以外は至ってキレイだった。
ギルドの中は雰囲気的には酒場に近いものを感じた。
「へぇーなんか外とは違ってキレイじゃん」
「馬鹿、カリン姉さん、そんなことは思っても口にしちゃだめよ」
「い、いけないですよ、お姉ちゃん」
「すまないレオン殿」
「はっはっはっは、いいよ気にするなよ実際事実だからな。
それよりも聞きたいんだろ?オレの事もこのギルドの事も」
「はい」
「そうだな・・・それじゃまずはオレの事からいくか。
座りなよ、立ったままじゃ疲れるだろう?」
そう促されて私たちは近くの椅子に座った。
「名前はさっき言ったから分かるよな?フレイヤたちが気になるのはオレが何者なのか?そんなところだろ。
簡潔に言えばオレはこのギルドでマスターをやっているんだ」
「「「「えっ!?」」」」
「なんだよ、その意外そうな声は」
「だってさぁ、ギルドのマスターって、つまり一番偉い人だろ。
そんな風には見えないんだけど」
「いけないな〜カリンちゃん、人を見た目で判断するといい事ないぜ〜」
「見た目も中身もそういう風に見えないんです」
グサッ
「あ、あまり、見えないです」
グサッグサッ
「グフッ、言葉の攻撃に早くもダウンしそうですオレ」
レオンは心にダメージでも受けたのか、泣きそうな顔になっていた。
こほんこほん
フレイヤが咳払いをする。
「ああすまないな、本題からそれるところだった。次にこのギルドがボロくて、そしてなぜ人がいないかについてだ。
フレイヤたちはアイビスカ大陸って知っているか?」
「ああ本で読んだからその存在は知っている。何でも教団派と親魔物派が対立している世界で一番大きい大陸だと」
レオンはこくりと頷いた。
「その通りだ。実はこのアイビスカ大陸で一年前に戦争が勃発しやっがてな。
現在でも戦争中なんだ。今は教団派が一歩リードしているのが現状だ。
その証拠に大陸の六割は教団派の領土となった」
「馬鹿な戦争だって!?何でそんなおろかなことを!?」
「教団派の準備が完了したということだろう、奴等は魔物を憎んでいるからなその憎み方は異常だ。
まあともかくその戦争が勃発したときにオレのギルドにいた連中はみんなアイビスカに行っちまったんだ。あるやつは金のために、あるやつは親魔物派を助太刀するためにみんな行っちまった」
「なぜあなたは行かなかったんですか?」
「オレも当時は行こうと思っていたんだがな、だがオレがここを離れるわけには行かない理由もあった。一年間オレはずっと我慢してきた」
「なぜですか?何で行かないんですか?行って仲間を助けようとは思わないんですか!?」
「行きてえよ。だがこの街を離れるわけにはいかねえんだ」
レオンの拳はわなわなと震えていた。
彼には本当に行けない理由があるのだろう。
「すいません、出過ぎた真似をしました」
「いやなに、気にすることはない・・・まあそういうわけだから、現段階でギルドに所属しているやつらがいねんだ。だから依頼も受け付けることができなくなっちまってな、ギルドの経営は今深刻なんだ」
「そうだったんですか、苦労しているんですね」
「で、でもさ、オジサンは「お兄さんね」・・・お兄さんはAランクだっけ?
その、物凄い冒険者なんだろ。
なんで自分で依頼を受けないの?」
確かにカリンの言うことももっともなことだ。一人だけでも依頼は受けることができるはず、いったいなぜ?
「あ、いや〜その〜、うん、お兄さんはうんと、べ、別のお仕事もやっていてね、その〜そっちで手一杯なんだよね、ははは、ははははは」
なんだか奥歯に物が詰まったようなしゃべり方で、物凄く困っているレオンがいた。
その時だった。
ギィイイイ ガコン
「おや、兄様どうしたんじゃ仕事を抜け出してギルドにいるとは」
「ゲッ!!な、なんのことかな〜」
レオンから滝のような汗が流れていた。
「ムッ?そちらはどちらさまじゃ?」
声を掛けられたフレイヤたちも汗を流していた。
「な、なんで、こんなところに」
「魔物の中でもトップクラスに入る」
「バ、バ、バ・・・」
「「「バフォメットがいるのーーー!!!」」」
そう、そこに立っていたのは魔物の中でもずば抜けた戦闘力を持つ、あの有名なバフォメットがそこにいた。
「レ、レオン殿、彼女はお知り合いですか?」
「・・・・・・はあ〜、そうだ。オレの妻だ」
「「「な、なんだって〜〜〜〜!!!!!!」」」
「ワシを無視して、何を勝手に話を進めておる。
あとそこのゴブリンどもうるさいから少し黙っておれ」
三姉妹はあわてて口に両手を当てて塞いだ。
「それで、そちらは誰かと聞いたんじゃがな兄様」
何だか少し怒っているようだった。
「ああ、こっちは冒険者志望のヴァル=フレイヤだ。
それで、そこで口を抑えている三姉妹が左からカリンちゃん、コリンちゃん、マリンちゃんだ」
それを聞くとバフォメットは物凄く可愛い笑顔でにぱぁと笑った。
「おおーそうじゃったか、いやーすまぬな兄様がワシという者がありながら女子を4人も囲っているから、つい嫉妬してしまったぞい」
「フッ、馬鹿を言うなよアーニー。オレが愛しているのは世界でたった一人お前だけなんだぜ」
「兄様」
「アーニー」
なんなんだろう、この異常な空間は。
二人の周りが今にもバラとか天使とかハートマークとかが出てきそうなくらいに甘ったるい空間が形成されている。
フレイヤたちが唖然としていると、それに気がついたのかレオンが咳払いをしつつこちらに向き直る。
「はっはっはっはっは、悪いなつい置いてけぼりにしちまったぜ。
改めて紹介するぜ、オレの妻であり、このギルドの副マスターをしている。
ターキン=アーニーだ」
「はじめましてなのじゃ」
「「「「こ、こちらこそ」」」」
アーニーがお辞儀をしたので、こちらもお辞儀をした。
「さて、それよりもよいのか兄様?」
「な、なにがだ」
「なにがだ、ではないぞまた仕事をサボってこんなところで油売っているとまた説教を食らってしまうぞ」
「ハン、説教が怖くて仕事がサボれるかっつうーの」
「レオン殿はギルドのマスター以外に何の仕事をしているのですか?」
「兄様はこの街の領主も勤めているんじゃよ」
耳を疑った。
(そんなはずはないきっと幻聴が聞こえたんだろう。
ふうーどうやら私も少し緊張しているようだ。
深呼吸をして、もう一度聞こう)
スー・・・ハー・・・
「すいません、もう一度いいですか?」
「なんじゃ?聞こえなかったのか?ならばもう一度言おう。
兄様はこの街の領主も勤めているのじゃよ」
「「「な、な、なんだってー!!!!!!」」」
三姉妹がこれでもかというほどの叫びをあげた。
「レオン殿が領主、ですか?」
「なんだよ、オレが領主をやってたらおかしいか?」
「そういうわけじゃないんですが」
私たちは驚きすぎてもう何も言えなかった。
「そうじゃ、兄様さきほどイカロスに会ってのう、あとでギルドにも探しに来るといっておったよ」
「な、なに!?何でもっと早く言わないんだ!
くそこうしちゃいらんねえ、アーニー後のことはまかせるぜ。
オレはイカロスの魔の手から逃げねばならんのだ!!」
「そうか、だそうじゃが。いかがするのじゃイカロス」
その名前を聞いたとたんレオンはビクンと跳ねた。
そして先ほどよりも尋常じゃない汗が止めどなく流れていた。
「いい度胸ですね。レオン様」
「イ、イカロス・・・」
「さあ早く戻りましょうね。レオン様に対する説教と仕事が山のようにあるんですから」
「や、やだ、オレは戻りたくないあんな地獄はもうコリゴリだ!」
「しかしレオン様がやらねば誰がやるというんですか。いい加減にしないと我も怒りますよ」
その言葉を聞き、困った顔をしていたのだが。
諦めたのかしぶしぶ彼女の元に歩いていくレオン
「説教は短めで頼むぜ」
「駄目ですよ、いくら言っても分からないから説教をするんです。
今回は仕事が終わるまで我がずっとそばにいます、逃がしませんからね」
そういってレオンの首根っこをつかまえてズルズルと引きずっていった。
「まったく兄様もしっかり仕事終わらせてから来ればいいのに、しょうのない兄様じゃ・・・どうしたのじゃお主ら、さっきからカチンコチンに固まりおってからに」
「・・・い、いまの、も、もしかして・・・ドラゴン、なのでは」
「その通りじゃが?」
フレイヤは本日二度目の石化を遂げていた。
(なぜだ?いくらこの街が親魔物派の街だからといって、こんな化け物がふたりもいるなんて、どうなっているんだこの街は?)
そんな思考を巡らせているころ。三姉妹はというと。
「「「・・・・・・・・・・」」」
立ったまま気絶していた。
「コラコラお主らシャキとせんかシャキと」
「はっ!?すいませんあまりのことにだいぶ混乱してしまいました」
「まあ仕方がないじゃろう、ドラゴンとバフォメットを二人も同時に見たんじゃ、それが普通の反応じゃ。
それはともかくお主は冒険者になりにきたのじゃろう。
さっさと登録をしようではないか」
「そ、そうですね!」
(そうだ。私は冒険者になりにきたんだ。
このくらいでびっくりしていてどうするんだ。
しっかりしろフレイヤ)
「それではさっそくじゃが、この書類に必要事項を書いて、今までのお主の仕事の経歴を示す書類があればそれをを提出するのじゃ」
「はい」
フレイヤは必要事項を書き、自警団にいた頃の経歴が書かれた書類を出した。
「どれどれ・・・ほう出身はオステカか、そして自警団に二年間所属・・・ふむふむ・・・なるほどのぉ」
沈黙が数分間流れた。
「よし、これなら冒険者として登録も可能じゃ。
お主をエリエールギルド所属の冒険者として登録じゃ」
「本当ですか!?」
「ああ本当じゃ。実力が無いと判断されれば冒険者見習いからのスタートなのじゃが、お主にはその実力がある。胸を張ってよいぞ」
「やったね、姉貴!!」
「おめでとうございます。フレイヤさん」
「お、おめでとう、フレイヤお姉ちゃん」
「ありがとう、みんな」
フレイヤの瞳から一筋の涙がこぼれた。
「大げさじゃなお主らは、ホレこれがお主の冒険者の証じゃ」
その手には「C」と彫られた銅のコインがあった。
フレイヤはそのコインを丁寧に両手で受け取った。
「ありがとうございます」
「うむ、さてそっちの三姉妹、お主らは冒険者にならんのか?」
三姉妹たちは明るい顔から一変して沈んだ表情になる。
「なりたいけどさ」
「あたしたち、ついこの間までは盗賊まがいな事をやっていたから」
「なる資格なんて、ないですよ」
今にも泣きだしそうな、三姉妹たち。
「なるほどの、たしかにそれでは冒険者にはなれないのぉ」
「アーニー殿、どうかカリンたちも冒険者にしていただけませんか、まだ出会って二日だけだけど、とてもいい子達なんです。
どうかお願いします」
「お主、なにか勘違いをしているようだな」
「えっ?」
「たしかにワシは冒険者にはなれんといったが、冒険者の仲間になれないとはいっておらんぞ」
「どういうことですか?」
「登録には二つあってのぉ、一つは今お主がおこなった冒険者登録じゃ。
これは身元がはっきりしておれば登録が可能なのじゃ。
もう一つがパーティ登録じゃ」
「パーティ登録ですか?」
「うむ、パーティ登録とは身元が証明できない者のために作られた制度での。
冒険者として登録している者がおればその仲間として登録できるのじゃ」
「つまり」
「そうつまり、その冒険者をリーダーとし、そのリーダーと同じ扱いの冒険者になれるんじゃよ」
「それじゃあたしたち」
「まだフレイヤさんと」
「ぼ、冒険できるん、ですね」
「その通りじゃ。ホレ、分かったらこの書類に必要事項を書くのじゃ」
「「「はい!!!」」」
三姉妹たちは嬉しさののあまりに笑いながら泣いていた。
数十分後・・・
「おまたせなのじゃ、これがパーティ登録をした証じゃ」
アーニーの手には3枚の銅のコインがあった。
「「「ありがとうございまーす!!!」」」
キャハハハ やったー
三姉妹は嬉しそうにコインを受け取っていた。
その光景はとても微笑ましかった。
「ん、あれ?」
「どうしたのカリン姉さん?」
「ど、どうしたの?」
「姉貴のコインと少しだけ違うなと思って」
「どこが?」
「ここ」
そういってカリンが指したのは「C」と彫られたマークの下のほうだった。
そこには小さくこう彫られていた。
「フレイヤチーム所属 カリン」と。
「本当だ、フレイヤさんとは少し違う」
そう実はフレイヤの方にも同じように小さい字が彫られていて、フレイヤのほうには「エリエールギルド所属 ヴァル=フレイヤ」と彫られていた。
「うむ、正式にはギルド所属ではないからな、リーダーに所属するのがパーティ登録なのじゃ」
「「「へぇーー」」」
「さて、せっかく冒険者になったんじゃ、依頼でも受けてみんか?」
「えっ?依頼あるんですか。たしかレオン殿は一年間依頼を受けていないと言っていましたが」
「確かにの、じゃがこれはワシからの依頼じゃ、受けてみんか?」
「はい。ぜひともお願いします」
「うむ、しばらくはこの大陸から出ることも出来ないのじゃから、当然この街にしばらくは滞在するはずじゃな?」
「はい」
「えっ?どうして出れないの姉貴?」
「冒険者はランクがあることは知ってるな?」
こくりと三姉妹が頷いた。
「冒険者ランクがCだとその所属ギルドでしか依頼が受けられないんだ」
「どうして?」
「ランクCはいわば初心者じゃ、所属させているからにはその冒険者の失敗の責任もギルドの負担になるのじゃ。
だからこそしっかり地元で鍛えてから世界に送り出すのじゃ」
「そうなんだー」
「カリン、本当に分かったのか?」
「ウン、タブン」
「・・・まあいいか。それでさっきの話に戻りますが、どんな依頼なのですか?」
「なに簡単なものじゃ、街の散策じゃよ」
「街の散策ですか?」
「うむ、まずは街のことを知らなければ今後の依頼を受けるときに困るじゃろう、そのための散策じゃ」
「分かりました、この依頼受けます」
「うむギルド依頼だから請負料はいらんぞ」
「分かりました」
「姉貴、請負料ってなに?」
「・・・今度教えてあげるよ」
「さて、散策じゃがこの街は大きいからの四人もおるのだからそれぞれ、どの地区を散策するか決めた方がいいじゃろ」
この街には五つの地区が存在する。
私たちが通った南居住地区
領主の城がある中央地区
いろんな商人が商いをしている東商業地区
いろんな物を作っている西工業地区
そして、反魔物派が住んでいる北居住地区
「よし、私は中央地区と北の居住区を散策する。
カリンは東商業地区を頼む。
コリンは南居住区を。
そしてマリンは西工業地区だ。
これでいいか?」
「「「ラジャー!!」」」
三姉妹は返事とともに敬礼をする。
「散策をしている途中で困っている者がおったら、助けてやってもよいぞ。
そのかわりその助けたことについてはしっかり報告することじゃ、よいな」
「「「「はい!」」」」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
こうして私たちは冒険者登録を済ませ早くも依頼を受けることになった。
初めての依頼、街の散策という簡単なものだったがそれでも私たちの初めての依頼に違いなかった。
この時はそんなに心配はしていなかった。
だが私は知ることになった。
彼らの考え、憎しみを。
今日はここまでにして続きはまた明日書くことにする。
○月×日 ヴァル=フレイヤ
こういう場合。
私たちは今、現段階で謎の人物でもあるターキン=レオンについていき、あまり人の通らない裏通りを進み、ギルドと呼ばれる場所にやってきた。
そこまではよかった。
しかし、私が今悩んでいるのはこの目の前にあるギルドと呼ばれている建物だ。
・・・・・・・・・・・・
やはりどう考えてもあの言葉しか、あの形容句しか見当たらない。
一言で言えば。
物凄くボロイ。
「あの本当にここ冒険者ギルドなんですか?」
「ああ、そうだ。ここがシンボリ大陸で一番大きい冒険者ギルドさ」
その言葉を聞きさらに顔をしかめるフレイヤ。
その顔はまさに信じられないと言った顔だった。
「そんな顔をするなよ、せっかくの美人が台無しだぜ」
彼は笑いながら、そんなことを言ってきた。
「からかわないでください。なぜこんなに建物が荒れているんですか?」
そう彼女の疑問はそこにある。エリエールの冒険者ギルドはシンボリ一、それなのに建物からは人の気配が感じられない。
「その理由も兼ねて中で教えてやる。とりあえず入ろうぜ、なっ」
ポンっと肩を叩いて彼はギルドの中に入っていく。
ギィイイイ ガコン
「姉貴、とりあえず考えても始まらないんだし入ろうぜ!!」
「そうだな」
カリンに言われて中に入る決意をした。
ギィイイイ ガコン ガコン ガコン ガコン
金具が錆び付いているのか少々うるさい音が響いた。
中に入ってみると外とは違いなかなかキレイにされていた。
壁にはたくさんの紙が張り巡らされていたがそれ以外は至ってキレイだった。
ギルドの中は雰囲気的には酒場に近いものを感じた。
「へぇーなんか外とは違ってキレイじゃん」
「馬鹿、カリン姉さん、そんなことは思っても口にしちゃだめよ」
「い、いけないですよ、お姉ちゃん」
「すまないレオン殿」
「はっはっはっは、いいよ気にするなよ実際事実だからな。
それよりも聞きたいんだろ?オレの事もこのギルドの事も」
「はい」
「そうだな・・・それじゃまずはオレの事からいくか。
座りなよ、立ったままじゃ疲れるだろう?」
そう促されて私たちは近くの椅子に座った。
「名前はさっき言ったから分かるよな?フレイヤたちが気になるのはオレが何者なのか?そんなところだろ。
簡潔に言えばオレはこのギルドでマスターをやっているんだ」
「「「「えっ!?」」」」
「なんだよ、その意外そうな声は」
「だってさぁ、ギルドのマスターって、つまり一番偉い人だろ。
そんな風には見えないんだけど」
「いけないな〜カリンちゃん、人を見た目で判断するといい事ないぜ〜」
「見た目も中身もそういう風に見えないんです」
グサッ
「あ、あまり、見えないです」
グサッグサッ
「グフッ、言葉の攻撃に早くもダウンしそうですオレ」
レオンは心にダメージでも受けたのか、泣きそうな顔になっていた。
こほんこほん
フレイヤが咳払いをする。
「ああすまないな、本題からそれるところだった。次にこのギルドがボロくて、そしてなぜ人がいないかについてだ。
フレイヤたちはアイビスカ大陸って知っているか?」
「ああ本で読んだからその存在は知っている。何でも教団派と親魔物派が対立している世界で一番大きい大陸だと」
レオンはこくりと頷いた。
「その通りだ。実はこのアイビスカ大陸で一年前に戦争が勃発しやっがてな。
現在でも戦争中なんだ。今は教団派が一歩リードしているのが現状だ。
その証拠に大陸の六割は教団派の領土となった」
「馬鹿な戦争だって!?何でそんなおろかなことを!?」
「教団派の準備が完了したということだろう、奴等は魔物を憎んでいるからなその憎み方は異常だ。
まあともかくその戦争が勃発したときにオレのギルドにいた連中はみんなアイビスカに行っちまったんだ。あるやつは金のために、あるやつは親魔物派を助太刀するためにみんな行っちまった」
「なぜあなたは行かなかったんですか?」
「オレも当時は行こうと思っていたんだがな、だがオレがここを離れるわけには行かない理由もあった。一年間オレはずっと我慢してきた」
「なぜですか?何で行かないんですか?行って仲間を助けようとは思わないんですか!?」
「行きてえよ。だがこの街を離れるわけにはいかねえんだ」
レオンの拳はわなわなと震えていた。
彼には本当に行けない理由があるのだろう。
「すいません、出過ぎた真似をしました」
「いやなに、気にすることはない・・・まあそういうわけだから、現段階でギルドに所属しているやつらがいねんだ。だから依頼も受け付けることができなくなっちまってな、ギルドの経営は今深刻なんだ」
「そうだったんですか、苦労しているんですね」
「で、でもさ、オジサンは「お兄さんね」・・・お兄さんはAランクだっけ?
その、物凄い冒険者なんだろ。
なんで自分で依頼を受けないの?」
確かにカリンの言うことももっともなことだ。一人だけでも依頼は受けることができるはず、いったいなぜ?
「あ、いや〜その〜、うん、お兄さんはうんと、べ、別のお仕事もやっていてね、その〜そっちで手一杯なんだよね、ははは、ははははは」
なんだか奥歯に物が詰まったようなしゃべり方で、物凄く困っているレオンがいた。
その時だった。
ギィイイイ ガコン
「おや、兄様どうしたんじゃ仕事を抜け出してギルドにいるとは」
「ゲッ!!な、なんのことかな〜」
レオンから滝のような汗が流れていた。
「ムッ?そちらはどちらさまじゃ?」
声を掛けられたフレイヤたちも汗を流していた。
「な、なんで、こんなところに」
「魔物の中でもトップクラスに入る」
「バ、バ、バ・・・」
「「「バフォメットがいるのーーー!!!」」」
そう、そこに立っていたのは魔物の中でもずば抜けた戦闘力を持つ、あの有名なバフォメットがそこにいた。
「レ、レオン殿、彼女はお知り合いですか?」
「・・・・・・はあ〜、そうだ。オレの妻だ」
「「「な、なんだって〜〜〜〜!!!!!!」」」
「ワシを無視して、何を勝手に話を進めておる。
あとそこのゴブリンどもうるさいから少し黙っておれ」
三姉妹はあわてて口に両手を当てて塞いだ。
「それで、そちらは誰かと聞いたんじゃがな兄様」
何だか少し怒っているようだった。
「ああ、こっちは冒険者志望のヴァル=フレイヤだ。
それで、そこで口を抑えている三姉妹が左からカリンちゃん、コリンちゃん、マリンちゃんだ」
それを聞くとバフォメットは物凄く可愛い笑顔でにぱぁと笑った。
「おおーそうじゃったか、いやーすまぬな兄様がワシという者がありながら女子を4人も囲っているから、つい嫉妬してしまったぞい」
「フッ、馬鹿を言うなよアーニー。オレが愛しているのは世界でたった一人お前だけなんだぜ」
「兄様」
「アーニー」
なんなんだろう、この異常な空間は。
二人の周りが今にもバラとか天使とかハートマークとかが出てきそうなくらいに甘ったるい空間が形成されている。
フレイヤたちが唖然としていると、それに気がついたのかレオンが咳払いをしつつこちらに向き直る。
「はっはっはっはっは、悪いなつい置いてけぼりにしちまったぜ。
改めて紹介するぜ、オレの妻であり、このギルドの副マスターをしている。
ターキン=アーニーだ」
「はじめましてなのじゃ」
「「「「こ、こちらこそ」」」」
アーニーがお辞儀をしたので、こちらもお辞儀をした。
「さて、それよりもよいのか兄様?」
「な、なにがだ」
「なにがだ、ではないぞまた仕事をサボってこんなところで油売っているとまた説教を食らってしまうぞ」
「ハン、説教が怖くて仕事がサボれるかっつうーの」
「レオン殿はギルドのマスター以外に何の仕事をしているのですか?」
「兄様はこの街の領主も勤めているんじゃよ」
耳を疑った。
(そんなはずはないきっと幻聴が聞こえたんだろう。
ふうーどうやら私も少し緊張しているようだ。
深呼吸をして、もう一度聞こう)
スー・・・ハー・・・
「すいません、もう一度いいですか?」
「なんじゃ?聞こえなかったのか?ならばもう一度言おう。
兄様はこの街の領主も勤めているのじゃよ」
「「「な、な、なんだってー!!!!!!」」」
三姉妹がこれでもかというほどの叫びをあげた。
「レオン殿が領主、ですか?」
「なんだよ、オレが領主をやってたらおかしいか?」
「そういうわけじゃないんですが」
私たちは驚きすぎてもう何も言えなかった。
「そうじゃ、兄様さきほどイカロスに会ってのう、あとでギルドにも探しに来るといっておったよ」
「な、なに!?何でもっと早く言わないんだ!
くそこうしちゃいらんねえ、アーニー後のことはまかせるぜ。
オレはイカロスの魔の手から逃げねばならんのだ!!」
「そうか、だそうじゃが。いかがするのじゃイカロス」
その名前を聞いたとたんレオンはビクンと跳ねた。
そして先ほどよりも尋常じゃない汗が止めどなく流れていた。
「いい度胸ですね。レオン様」
「イ、イカロス・・・」
「さあ早く戻りましょうね。レオン様に対する説教と仕事が山のようにあるんですから」
「や、やだ、オレは戻りたくないあんな地獄はもうコリゴリだ!」
「しかしレオン様がやらねば誰がやるというんですか。いい加減にしないと我も怒りますよ」
その言葉を聞き、困った顔をしていたのだが。
諦めたのかしぶしぶ彼女の元に歩いていくレオン
「説教は短めで頼むぜ」
「駄目ですよ、いくら言っても分からないから説教をするんです。
今回は仕事が終わるまで我がずっとそばにいます、逃がしませんからね」
そういってレオンの首根っこをつかまえてズルズルと引きずっていった。
「まったく兄様もしっかり仕事終わらせてから来ればいいのに、しょうのない兄様じゃ・・・どうしたのじゃお主ら、さっきからカチンコチンに固まりおってからに」
「・・・い、いまの、も、もしかして・・・ドラゴン、なのでは」
「その通りじゃが?」
フレイヤは本日二度目の石化を遂げていた。
(なぜだ?いくらこの街が親魔物派の街だからといって、こんな化け物がふたりもいるなんて、どうなっているんだこの街は?)
そんな思考を巡らせているころ。三姉妹はというと。
「「「・・・・・・・・・・」」」
立ったまま気絶していた。
「コラコラお主らシャキとせんかシャキと」
「はっ!?すいませんあまりのことにだいぶ混乱してしまいました」
「まあ仕方がないじゃろう、ドラゴンとバフォメットを二人も同時に見たんじゃ、それが普通の反応じゃ。
それはともかくお主は冒険者になりにきたのじゃろう。
さっさと登録をしようではないか」
「そ、そうですね!」
(そうだ。私は冒険者になりにきたんだ。
このくらいでびっくりしていてどうするんだ。
しっかりしろフレイヤ)
「それではさっそくじゃが、この書類に必要事項を書いて、今までのお主の仕事の経歴を示す書類があればそれをを提出するのじゃ」
「はい」
フレイヤは必要事項を書き、自警団にいた頃の経歴が書かれた書類を出した。
「どれどれ・・・ほう出身はオステカか、そして自警団に二年間所属・・・ふむふむ・・・なるほどのぉ」
沈黙が数分間流れた。
「よし、これなら冒険者として登録も可能じゃ。
お主をエリエールギルド所属の冒険者として登録じゃ」
「本当ですか!?」
「ああ本当じゃ。実力が無いと判断されれば冒険者見習いからのスタートなのじゃが、お主にはその実力がある。胸を張ってよいぞ」
「やったね、姉貴!!」
「おめでとうございます。フレイヤさん」
「お、おめでとう、フレイヤお姉ちゃん」
「ありがとう、みんな」
フレイヤの瞳から一筋の涙がこぼれた。
「大げさじゃなお主らは、ホレこれがお主の冒険者の証じゃ」
その手には「C」と彫られた銅のコインがあった。
フレイヤはそのコインを丁寧に両手で受け取った。
「ありがとうございます」
「うむ、さてそっちの三姉妹、お主らは冒険者にならんのか?」
三姉妹たちは明るい顔から一変して沈んだ表情になる。
「なりたいけどさ」
「あたしたち、ついこの間までは盗賊まがいな事をやっていたから」
「なる資格なんて、ないですよ」
今にも泣きだしそうな、三姉妹たち。
「なるほどの、たしかにそれでは冒険者にはなれないのぉ」
「アーニー殿、どうかカリンたちも冒険者にしていただけませんか、まだ出会って二日だけだけど、とてもいい子達なんです。
どうかお願いします」
「お主、なにか勘違いをしているようだな」
「えっ?」
「たしかにワシは冒険者にはなれんといったが、冒険者の仲間になれないとはいっておらんぞ」
「どういうことですか?」
「登録には二つあってのぉ、一つは今お主がおこなった冒険者登録じゃ。
これは身元がはっきりしておれば登録が可能なのじゃ。
もう一つがパーティ登録じゃ」
「パーティ登録ですか?」
「うむ、パーティ登録とは身元が証明できない者のために作られた制度での。
冒険者として登録している者がおればその仲間として登録できるのじゃ」
「つまり」
「そうつまり、その冒険者をリーダーとし、そのリーダーと同じ扱いの冒険者になれるんじゃよ」
「それじゃあたしたち」
「まだフレイヤさんと」
「ぼ、冒険できるん、ですね」
「その通りじゃ。ホレ、分かったらこの書類に必要事項を書くのじゃ」
「「「はい!!!」」」
三姉妹たちは嬉しさののあまりに笑いながら泣いていた。
数十分後・・・
「おまたせなのじゃ、これがパーティ登録をした証じゃ」
アーニーの手には3枚の銅のコインがあった。
「「「ありがとうございまーす!!!」」」
キャハハハ やったー
三姉妹は嬉しそうにコインを受け取っていた。
その光景はとても微笑ましかった。
「ん、あれ?」
「どうしたのカリン姉さん?」
「ど、どうしたの?」
「姉貴のコインと少しだけ違うなと思って」
「どこが?」
「ここ」
そういってカリンが指したのは「C」と彫られたマークの下のほうだった。
そこには小さくこう彫られていた。
「フレイヤチーム所属 カリン」と。
「本当だ、フレイヤさんとは少し違う」
そう実はフレイヤの方にも同じように小さい字が彫られていて、フレイヤのほうには「エリエールギルド所属 ヴァル=フレイヤ」と彫られていた。
「うむ、正式にはギルド所属ではないからな、リーダーに所属するのがパーティ登録なのじゃ」
「「「へぇーー」」」
「さて、せっかく冒険者になったんじゃ、依頼でも受けてみんか?」
「えっ?依頼あるんですか。たしかレオン殿は一年間依頼を受けていないと言っていましたが」
「確かにの、じゃがこれはワシからの依頼じゃ、受けてみんか?」
「はい。ぜひともお願いします」
「うむ、しばらくはこの大陸から出ることも出来ないのじゃから、当然この街にしばらくは滞在するはずじゃな?」
「はい」
「えっ?どうして出れないの姉貴?」
「冒険者はランクがあることは知ってるな?」
こくりと三姉妹が頷いた。
「冒険者ランクがCだとその所属ギルドでしか依頼が受けられないんだ」
「どうして?」
「ランクCはいわば初心者じゃ、所属させているからにはその冒険者の失敗の責任もギルドの負担になるのじゃ。
だからこそしっかり地元で鍛えてから世界に送り出すのじゃ」
「そうなんだー」
「カリン、本当に分かったのか?」
「ウン、タブン」
「・・・まあいいか。それでさっきの話に戻りますが、どんな依頼なのですか?」
「なに簡単なものじゃ、街の散策じゃよ」
「街の散策ですか?」
「うむ、まずは街のことを知らなければ今後の依頼を受けるときに困るじゃろう、そのための散策じゃ」
「分かりました、この依頼受けます」
「うむギルド依頼だから請負料はいらんぞ」
「分かりました」
「姉貴、請負料ってなに?」
「・・・今度教えてあげるよ」
「さて、散策じゃがこの街は大きいからの四人もおるのだからそれぞれ、どの地区を散策するか決めた方がいいじゃろ」
この街には五つの地区が存在する。
私たちが通った南居住地区
領主の城がある中央地区
いろんな商人が商いをしている東商業地区
いろんな物を作っている西工業地区
そして、反魔物派が住んでいる北居住地区
「よし、私は中央地区と北の居住区を散策する。
カリンは東商業地区を頼む。
コリンは南居住区を。
そしてマリンは西工業地区だ。
これでいいか?」
「「「ラジャー!!」」」
三姉妹は返事とともに敬礼をする。
「散策をしている途中で困っている者がおったら、助けてやってもよいぞ。
そのかわりその助けたことについてはしっかり報告することじゃ、よいな」
「「「「はい!」」」」
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こうして私たちは冒険者登録を済ませ早くも依頼を受けることになった。
初めての依頼、街の散策という簡単なものだったがそれでも私たちの初めての依頼に違いなかった。
この時はそんなに心配はしていなかった。
だが私は知ることになった。
彼らの考え、憎しみを。
今日はここまでにして続きはまた明日書くことにする。
○月×日 ヴァル=フレイヤ
10/12/21 08:18更新 / ミズチェチェ
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