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第五章 エリエールの日記 散策編その一 (ほのぼの、百合、微エロ、街紹介)
「うわぁーすんごいいっぱい人がいる」

 あたしは今姉貴に言われて、商業地区に来ている。
今回のあたしの任務は商業地区の散策なのだ。
しかしよくよく考えてみると不思議なもんだな、もしあそこで姉貴に会わなければ今頃あたしたちは盗賊まがいなことを続けていたんだろうな。
姉貴に会えたからこうやって堂々と街も歩ける。人生(?)って不思議だな。

「それにしてもなんでこんなに人がいっぱいなんだ?きょ・・じゅう・・・くだっけ?あそこはそんなに人もいなかったのになぁ」

カリンが不思議に思うのも無理はない、いろんな人や魔物がそこらじゅうを行ったり来たりしているのだから。

「もうすぐ夜になりそうだから、急いで散策しちゃおうっと」

カリンがいうとおり時間は夕方の5時あたりを指していた。
しばらく歩いていると左右に道があるのが見えた。

「道が三つもある、どうしよう?・・・そうだバフォ姉ちゃんからもらった地図があったっけ」

そう言ってズボンのポケットからアーニーからもらった地図を取り出す。
地図は商業地区を書いたものでどこにどういったものがあるかが書かれていた。
今現在いる場所はどうやら大通りの西側で飲食街と商店街の間にいるらしい。

「う〜〜〜〜〜ん・・・・・」

カリンが頭をひねってどちらにいくか迷っているようだ。

「よし!ご飯は最後にしよう!ということで右にレッツゴー!!」

あたりに人がいるのにもかかわらず、元気に声を出して商店街に向かうカリン。
ちなみにまわりの買い物客や冒険者たちはその光景を元気な娘だなとほほえましく見ていたそうな。

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カリンは商店街を歩いていた。
商店街はエリエール市民が生活必需品や食料を買う場所である。
その品揃えは豊富でシンボリ大陸で手に入る物から他の大陸から輸入した物まで何でも揃っている。
しかし生活必需品などの日用品のように腐らない物はまだしも、食料といった物は腐らないかと心配になってしまうだろう。
ところがギッチョン、二年前アーニー率いるサバトがそんななま物を扱う商売人にとっては最高だと言える物が開発された。
そう冷蔵庫である。
しくみとしては冷気が発生し続ける術式を開閉可能な箱の内側に書き込むという単純な物だったが、これが商売人に大当たりした。
いままで鮮度を保つために大量の氷を氷屋に駆け込んでは買いに行く毎日だったがこの冷蔵庫の登場によって、毎日氷を買いに行くという労力と財力を使わないで済むようになった。

余談ではあるがこの冷蔵庫の登場によって氷があまり売れなくなり、数々の氷屋が潰れていったのである。
最近ではアーニーが冷凍庫なる物を作るという噂を聞き生き残っている氷屋は断固反対と言って、アーニーのサバトに抗議活動を行っているという。

「ここはさっきよりも人がいっぱいだぜ」

カリンは商店街でも激戦区に当たる食料品街に来ていた。

「みなさーん、おいしい野菜はぜひうちの旦那様の仕入れた野菜をかってくださいねー」

今聞こえたのは八百屋の前で客引きをしているオークの声だった。
その効果のせいなのかその八百屋にいるのは鼻の穴を延ばしながら買い物をしている男連中だった。
どうやらオークの胸を凝視しているようだった。

「お客さん鼻の穴を延ばしている暇があったら、買い物してくれませんかね?商売の邪魔なんですよ」

この声はどうやら先ほどのオークの旦那様らしい、声を聞く限り少し怒気がはらんでいるようだった。

「男の人ってやっぱり胸が大きいのが好きなのかな・・・」

自分の胸に手を当てつつ、少ししょんぼりした様子で八百屋の前を後にした。



「いらっしゃいませー、海鮮魚屋の鮮度のいい魚はいかがですかー!」

「・・・・・・・・」

また声が聞こえてきたので思わず止まったカリン。
そこには活発に声を出し元気に魚を売っているネレイス。
無口だが「いらっしゃいませ」と書かれた鉢巻をして、「ただいまタイムサービス実施中!!」と書かれた看板を持ったサハギンがいた。
サハギンは一見無表情に見えたがその瞳にはやる気の炎が燃え盛っているように見えた。
ここの客層はなぜか紳士な服装をした男がいっぱいいた。

「シーナさん、私にこの魚を10尾ほどいただけますか」

「ありがとうございます!毎日こんなに買ってもらって大丈夫なんですか?」

「なーにシーナさんのためならいくらでも買いますよ」

「ふふふ、ありがとうございます」

「サンちゃん、おじさんにこの魚をもらえるかな?」

「・・・・・・(コクリ)」

「ありがとう、いつもがんばってえらいねー」

「・・・・・・(えっへん)」

どうやらここの客も女性が目当てらしい。
だがなぜかカリンはうれしい気持ちになっていた。
それがなぜかはわからなかったがともかく嬉しかった。
気分がいいまま魚屋を後にした。



「いらっしゃい!!いらっしゃい!!うまい肉はいらねえか!?そこらの肉よりははるかにうめぇ肉だ。買わねぇと損するぜ!!」

かなりでかい声が聞こえてきたので止まったカリン。
声の主はどうやらミノタウロスのようだ。
ここの客層はどうやら男女関係なく来ているらしい。

「リンダさん!!このお肉もう少し値切れないかしら!?」

「なんだって!?値切りたいって言うのかい!?」

「ええそうよ!!これだと少し高いと思うの!!もう少しだけ値切ってもらえないかしら!?」

「しょうがねぇな!!よし今回は出血大サービスだ!!普通なら100g銅貨5枚だが!!今回は銅貨1枚にまけといてやるぜ!!」

「「「「「きゃあああああ!!リンダ姉さん太っ腹!!」」」」」

かなりの盛り上がりようである。
男性の客は主婦の盛り上がりように若干引いているようだった。
どうやらここでは値切り交渉をすればこのように値切ってもらえるから人気があるようだ。
特に気にすることもなくカリンは肉屋を後にした。

   −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

カリンは歩き回りようやく商店街の散策を終えた。
あの後にもたくさんのお店を見て回ったがどこもすごい活気だった。
散策を終えるころにはかなりへとへとになっていた。

「ふい〜やっと見終わった。次はえっと・・・市場だな!!」

地図を再び広げ場所を確認したカリンは商店街のとなりにある市場に向かった。

 本日の営業は終了しました。早朝から市場を開いているので早朝に出直してください。

と書かれた看板が立っていた。

「なんだ〜しまっちゃってるならしょうがないかー」

カリンは見れなかったようですが、読者の皆様には特別にご紹介いたしましょう。

ここエリエール市場は世界中から品物を集めており、大概の物はここで手に入る世界でも五本の指に入るであろう市場なのだ。
その中でも有名な店が四つある。

ドワーフが経営をしている鉱石商会。
その名のとおり世界中の鉱石を販売する店で採掘所の噂を聞いては組合員を派遣して採掘もしくは鉱石を買い取りに行く。
最近ではどこかの村に宝の山があると聞いて、派遣するかどうか悩んでいるようだ。

ホルスタウロスが経営しているホルス商会。
ホルスタウロスの自慢のミルクを始めとして世界中の食材を販売している店である。
ホルスタウロスは基本的にのんびり屋さんだが食事に関しては意外と強い好奇心があり世界中の食材を食べ歩いていたのだが、ある時ホルス商会の会長となったホルスタウロスが「そうだ皆にもこんなに美味しい物があるということを知ってもらいましょう」という思い付きがこの店を始めた理由だそうだ。
なんでも一度交渉に来たらいい返事がもらえるまでテコでも動かないそうだ。

ゴブリンが経営しているゴブリン商会。
ゴブリン商会が売る商品は世界の観光品や珍品などを売る店だ。
なんでも一番遅れてこの市場に店を構えてしまったせいで、当初はなかなか物が売れず困っていたそうだ。
それならばと他のお店が売っていない物を売ればいいじゃないかということでこの商売を始めたらしい。

アーニーのサバトが経営しているサバト商会。
ご存知領主レオンの妻であり、ギルドの副マスターも勤めているアーニーが開いている店である。
ここで売られているのはエッチな物から冒険者用の道具と何でも揃っている。
基本的に店はサバトの魔女たちによって経営が行われている。
日々良い商品を作ろうと頑張る商品開発部。
可愛い笑顔でお客の心をバッチリ掴む接客店員。
商品の良さをアピールして世界に売り込みに行く営業魔女などかなり本格的に商売を行っている店だ。
ちなみに接客店員や営業魔女はお客にしっかりとサバトの会員にならないかと勧めている。

今の四つのお店が主に市場で有名な店だ。
他の店もあるが、この四つの店に比べると霞んで見えてしまうそうだ。

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「ここが冒険者通りか」

おっと説明している間にカリンが冒険者通りに来てしまったようだ。

「さすがにこれだけ暗いとあまり人もいないなぁ」

現在の時刻は7時を回っていた。

「うーんどこの店も明かりが消えちゃってる、やっぱりもうしまっちゃてるのかな?」

カリンが言うとおり、店の明かりは消えていた。
さてここでまたまた読者にだけ冒険者通りの情報を教えよう。
冒険者通りは基本的に冒険者など旅をする人たち向けの商品が売られている場所で、武器防具はもちろん道具屋など様々な物がある。

武器屋で有名なのがトンヌラの武器屋である。
ここでは世界にある各大陸から取り寄せられた武器が山ほどあるのだ。
短剣やロングソードと言った剣の類からボウガンや弓矢と言った遠距離の武器もある。
ほしい武器はここで大抵手に入るのだから、他の武器屋からしたらたまったものではない。
がしかし、全世界から取り寄せているだけあって値段は少し高めだ。

防具屋で有名なのはネッシーの防具屋である。
種類よりも質を優先しており、品揃えはあまり良くはないがその分質が良いため良く好んで買われるらしい。
例えばフレイヤも装備している皮の鎧、あれは一般的にはコスト削減のため大体が安物の皮で作られるため大した防御力は期待できないのだが、この店の皮の鎧は一味違う。
何がどう違うかと言うとまず材質、材質は普通の斬撃程度なら傷が付くだけで済むほど厚みがあり頑丈なのだ。
この皮は高級品指定にされており、鎧に使われることは滅多にないのだが知り合いに頼んで特別に作ってもらってるそうだ。
値段は普通の防具の約2倍と高くなっている。
他にもかなり無茶な要求をその知り合いに頼んでいるらしい。
もちろん材料代はネッシー持ちである。

道具屋で有名なのがピルタンの道具屋である。
この店は客を得るために重視したのが安さである。
安ければお客は自然とやってくるものだ。
例えば体の傷を治す効果のある薬草、これは一般的な価格は銅貨で3枚の値段だがこの店では銅貨一枚で販売しているのだ。
もちろん赤字ぎりぎりで売っているためお客が来なければ即座に店じまいをしなければいけないのだが、宣伝と口コミで冒険者はこのピルタンの店に良く来るそうだ。

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「うーんとここはどこだろう?なんだか雰囲気が凄いところなんだけど」

おっとまたまた説明している間に次の場所に来てしまったようだ。

「えっと地図だとここは・・・か、歓楽街!!?」

そうカリンはいわゆる大人の聖地でもある(遊び場ともいう)歓楽街に来ていたのだ。

「やっべーこんなところにいたら大変だ、いきなり襲われても文句が言えない場所だもんね」

早々に立ち去ろうとしたら足が何かに捕まって動けないことに気が付いた。
何かと思って見てみると、足には青いグニャグニャした物がまとわり付いていた。

「えっ?なにこれ、離れない・・・この!この!」

「もうやめてよ、そんなに暴れたら危ないじゃない」

突然青いグニャグニャした物から声が聞こえた。

「まっまさか・・・スライム・・さん」

「ピーンポン、当ったりー」

そういうとスライムは女性の体になった。
もちろん逃げられないよう羽交い絞めにしながら。

「お店に出勤する途中で可愛い女の子が見えたから、そのまま連れて行っちゃおうかなと思って捕まえちゃった。テヘッ」

「テヘッじゃないよ!びっくりするじゃん!って今連れて行くって言ったけど冗談ですよね・・・」

「いいえ本気ですよ。私男も好きなんだけど、可愛い女の子も大好きなの!小さい体で一生懸命抵抗して、でも成すすべなく堕ちていく。そんな瞬間を見るのが私大好きなの♪」

「・・・いやー!!!!助けてー!!!あーねーきー!!」

「大丈夫怖いのは最初だけだから、お姉さんにま・か・せ・な・さ・い♪」

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「うっ、グスン、ヒック、あたしの処女スライムに取られちゃった・・・」

どうやらあの後スライムに拉致られて、散々鳴かされたみたいですね。
いやーうらやm・・・ゴホン
かわいそうに。

「まあ迷惑料ってことでお金もらえたからいいけどさ・・・でも女同士って気持ち良いんだな〜・・・今度また行ってみようかな・・・」

どうやらレズの味を覚えてしまったようです。
はっ!?もしかしたら姉妹とフレイヤを交えて禁断の4Pレズプレイが見れるかも・・・って何を考えているんだ俺は・・・仕事に戻ろうと。

「えーとここで最後だったかな?いよいよ待ちに待ったご飯だー!!」

そうカリンは最後の場所の飲食街にやってきていた。

「うわーどこも混んでるよー」

そう今の時刻は8時を回っており、仕事が終わった人たちでいっぱいだった。
仕方がないのでカリンは空いている店を探し始めた。
探しながらもカリンは看板や店の展示商品からは目を離さなかった。
すでに口からは大量のよだれが垂れていた。

ここで読者の皆様に飲食街のお勧めのお店を紹介しましょう。

まずは家族で食事をするならここ「ファミリーレストラン」。
ここでの人気メニューはなんと言ってもハンバーグ。
子供から大人まで好まれている一品です。

次にはるばるジパングからやってきたお店「和食処 和み」
ここでの人気メニューはお寿司です。
生で魚を食したことのなかった大陸人にとっては初めての味だったそうです。
他にもそば、てんぷらなどのジパング料理も負けず劣らずの人気です。

次に仕事帰りには一杯食べに行きたくなる店「ラーメン屋 シンボリ」
ここでの人気メニューは高級食材を使った特製のスペシャルラーメン。
この一杯を食べるだけでその日の疲れがぶっ飛ぶと言う評判です。

「うう〜おなか、すいたよ〜」

 グーーーーーーー

カリンの空腹もかなり限界だった。
なにせ宿で朝食を取ったきり、何も食べてないのだから仕方がないだろう。


しばらく歩くと行き止まりが見えた。

「なんだよ〜行き止まりか〜ちぇ〜」

引き返そうとしたところで、隅っこの方に客もいなくて店に明かりがついているのが見えた。

「メーシー!!!」

 ズギャーーーーーーン ズダダダダダン

猛烈な勢いでその店に向かって走るカリン。

店の前に来るとのれんにはオニギリ屋と書かれていた。

 ガラガラ ガラガラガラ

カリンは店の中に入った。

「あっ・・いらっしゃいませ」

中にいたのはなんとも気弱な青年だった。

「お兄さんなんでも良いから食いもんくれ!!!」

しかしそんなことは気にもせずにとりあえず注文する。

「な、なんでもですか?ウチはオニギリという物しかありませんが、いいですか?」

「何でも良いから早くして〜お腹へって死にそうなんだよ〜」

「・・・わかりました。少し待ってください」

すると青年は慣れた手つきでオニギリを握り始めた。
そのスピードは速く、あっという間にオニギリが5個出来上がった。

「どうぞ・・オニギリセットです」

「いっただっきまーす!!」

 パクっ

一口食べたカリンはしばらくボーっとしていた。

「あ、あの、お口に会いませんでしたか・・・」

心配そうに覗き込む青年。

「・・・・・しぃ・・・」

「えっ?」

「これ!すんごく美味しいよー!!」

 バクバク ムシャムシャ

すごい勢いでオニギリがカリンの口に吸い込まれていく。
まるでブラックホールのようだった。

「ぷはぁー美味しかった。ねえねえおかわり頼んでもいい?」

「・・・・・・あ、ああ、はいただいま作ります」

結局この後オニギリを20個も食べたカリンであった。

「アー食った食った満足じゃ」

「それでは代金をもらっても良いですか」

「うん、いくら?」

「オニギリ20個で銀貨2枚になります」

「銀貨2枚ね、はいどうぞ」

「はいたしかに、ありがとうございます」

なぜカリンがお金を持っているかと言うと先ほど迷惑料をもらったからである。

 さっきから気になってることがあるからちょっと聞いてみようかな?

「ねえお兄さん?なんでお客があたし以外いないの?」

「えっ?い、いやーそれは、お客様には関係ないことですから、気にしないでください」

「いやだって気になるよ。こんなに美味しいのになんでお客がいないのか、もし困っているならあたし力を貸すからさ」

「・・・実は・・・」

青年は語りだした。
自分の名前は木野 強(きの つよし)だと言うこと。
どうやら名前と違って性格はかなり弱気らしく、経営がうまく言ってないということ。
両親が8年前に流行病で死んだことなどいろいろ教えてくれた。

「それじゃ強兄ちゃんは10歳のときからお店やってるの?」

「いや、つい最近だよ。なんとか遺志を継ぎたくて、父さんと母さんが経営していたこのオニギリ屋を僕が継いだんだ」

「ふーん、でなんでお客さんいないの?」

「わからない、店を開きなおした時に一応は宣伝もしたんだけど、ぜんぜん来てくれないんだ」

「それ以降宣伝した?」

「いや、僕はあまり人前に立つのは苦手だから、それ以降はしてないよ」

「わかった!!原因はそれだ!!ぜんぜん宣伝をしてないからお客さんが来ないんだよ」

「そ、そうなの、かな?」

「そうだよ!絶対そう!よーしいっちょあたしが宣伝してきてあげるよ」

そういうとカリンはあっという間に外に飛び出していった。

「き、君!・・・行っちゃった。宣伝、か・・・実は今日でもう店じまいするつもりなんだけどな」



カリンが出て行ってから30分が過ぎた。
時刻は9時を回っていた。

「さて、そろそろ店を閉めるか・・・・最初で最後の客だったな。あんなに美味しそうに食べてもらえて、本当に良かった。もう悔いはないや」

そういって店を閉めようと外に出たところで。

「すいません、オニギリ屋ってここですか?」

「えっ、はっはい、そうですけど」

「よかった、やっと見つかったよ。いやーさっきゴブリンの女の子が一生懸命声を出してオニギリ屋に来てくれって叫んでいてね絶対美味しいから来てってそこまで美味しいなら食べてみたいと思ってきてみたんだが」

「あ、そう、だったんですか・・・でも今日で店畳むんですよ、申し訳ありませんがお引取り願いますか」

「うーむそうは言われても食べてみたいのは本当なんだ。頼むよどうせ閉めるんだからいいじゃないか」

「・・・まあいいですよ、どうぞ中へ」

 まさかまたお客さんが来るとは思ってもみなかったな、あの子が頑張って宣伝してくれたおかげかな。後で感謝しなきゃ。

「お待ちどうさまです。塩ニギリです」

「うむいただこう」

 パクっ

「こ、これは・・・」

「お口に合いませんでしたか?」

「素晴らしい、とても美味しいよ。単純な味のはずなのにたくさん食べたくなってくるこの衝動。ジパングで言うところのおふくろの味と言う奴なのかもしれないね」

「気に入っていただけてうれしいです」

「他にもメニューはあるのかね?」

「ええ、いっぱいありますよ」

その後もそのお客さんが満足するまで営業をつづけた。
カリンが帰ってきたのは閉店時間の10時だった。

「・・・ただいま」

「き、君、まだ宣伝してたのかい?」

「うん、でもお客さん来てくれなかった」

「そうでもないよ、君のおかげでお客さんが一人だけ来たんだ。それだけでも十分だよ、僕は初めて楽しい時間を過ごせた。全部君のおかげだ、ありがとう」

「でも」

「いいんだ。これで思い残すことはなくなったよ。これで店を畳む決心も付いた」

「み、店を畳むって、お店やめちゃうの!?」

「ああ、前から決めてたんだ」

「そんな、そんな簡単にあきらめちゃだめだよ!こんなに美味しいのにもったいないよ」

「でもお客さんが来ないんだから仕方がないよ・・・またお腹空いたんじゃないかい?最後にまたオニギリ食べていかないかい?」

  ぐーーーーー

「う、うん」

「よし決まりだ、これは僕のおごりだからお金は気にしなくて良いよ」

こうしてカリンは泣きながら強の作ったオニギリを食べまくったのである。

  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

翌朝。
青年はついいつものように開店の準備をしていた。

 いけない。もうやめたって決めたのに何で準備してるんだろう。これも癖みたいなものかな?

と準備が終わったところで気づいた強。

「とりあえず腹ごなしするか」

そういってオニギリを作り始めたその時、外がなんだか騒がしいことに気が付き外に向かった。
するとそこには行列が並んでいた。
強は一瞬理解できなかった。
なぜ自分の店の前にこんなにも行列ができているのか。

「もう開店するんですか?」

唖然としていると先頭にいた老人が質問をしてきた。

「えっ、いやその、なんで並んでるんですか」

「んー?お前さんは新聞を見ないのかい?」

「えっ?新聞」

「ほれ、これじゃ」

手渡された新聞には自分の店のことが細かく記されていた。
最後にこの記事を書いた人の名前が載っていた。

 エリエール新聞社 編集長 ニース=ペッパー

 この名前!?たしか昨日のお客さんの名前だ。

「気に入ってくれたかな?」

新聞に釘付けになっていると横から知っている声が聞こえた。
振り向くとそこには昨日のお客さんがいた。

「あ、あなたは」

「すいませんね勝手に記事を書いてしまって、ですが私はあなたにあきらめてほしくなかったんです。これほど素晴らしい才能があるのにこのまま店を閉めさせるにはあまりにも惜しいと思いましてね」

「ぼ、僕なんかのために、編集長自らが書いてくれたんですか?」

「私とて新聞記者の端くれですからね、たまには書きますよ」

「あ、ありがとうございます・・・・・・」

強の瞳からは涙がこぼれていた。

「どうやらお店の準備もできているみたいですし、ここは一つ私の顔を立てると思って開いてもらえませんかね」

「は、はい・・・みなさんおまたせしてすいません、ただいまよりオニギリ屋を開店いたします!!」

こうしてオニギリ屋は飲食街の有名店の仲間入りを果たすことができたのだった。

  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

とこんなものかな・・・だいぶ書けたな。
実はいま姉貴に内緒で日記を書いているのだ。
もちろん姉貴の日記にだ。
そろそろ姉貴が帰ってくるころだから、急いで元に戻さないとバレたら大変だからね。
姉貴の怪我もだいぶ良くなったしこれで一安心だ。
こんど皆で強兄ちゃんのところにいこうかな。


                                   ゴブリン三姉妹 長女カリン ○月×日
10/12/21 08:21更新 / ミズチェチェ
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■作者メッセージ
久しぶりの小説投下ジャー!!
どうもお久しぶりです。
今回はだいぶ長くなってしまいました。
その文字数は9361文字。
おいおい書きすぎだろうオレ。
今回は少しエロっぽいシーンと商業地区の紹介とカリンと強の話を書いてみました。
カリンの単純さがうまく書けていたでしょうか?

ちなみに私の世界のお金は銅貨は100円、銀貨は1000円、金貨は10000円と考えています。

今回も楽しんでいただけたでしょうか?
次回はコリンの南居住区の散策編をお送りいたします。
お楽しみに。

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