白燐のドラゴンVSインキュバス?
コンコン
「入れ」
「失礼します」
ドアをノックし、許しを得て入ってきたのは白燐に包まれたドラゴンだった。
「白燐のアイーリス、お呼びに従い参上いたしました」
「・・・その堅苦しい台詞はどうにかならないのか?」
入ってくるなり跪いてくるアイーリスに対して呆れながら答えるのはこのバトルクラブの主でもあるデルフィニアだ。
「滅相もございません。私はデルフィニア様に敗れたその日から忠誠を誓った身、この言葉遣いもデルフィニア様を思えばこそです」
「良くそんな事が言えたものだ。初めて対峙したときは・・・
『貴様か?最近この辺りの人間を拉致しているというドラゴンは?
別に人間がどうなろうと私には関係は無いが、この辺りは私の縄張りだから荒らされるのは許せないんだ。
私と勝負しろ!!!私に負けたらココから立ち去ってもらおう!!!』
・・・とか意気込んでいたものだが」
デルフィニアが当時の事を思い出し、嫌な笑顔を浮かべて告げる。
「あ・・あの時は!!!その!・・・なんといいますか・・・その・・・」
途端にみるみるうちに小さくなっていくアイーリス。
「ふっ、冗談だ。そんなに気にはしていないからそこまでかしこまらなくて良い。・・・さて今回そなたを呼んだのは他でもないバトルクラブについてだ」
「・・・やはり、そうでしたか」
先ほどまでの冗談はどこへやら、真剣な表情になり、アイーリスも予想していたのかやはりという感じで反応している。
「うむ。今回バトルクラブのDFバトル(デルフィニアファミリーバトル)についてなのだが、今回私は所要でクラブを開ける。当然私はDFバトルには出られない。そこでアイーリス、そなたには我の代理を務めて欲しいのだ」
「私が代理でよろしいのですか?」
「うむ、そなたなら我の4分の1ほどの力を持っているから心配せずに任せる事ができる」
「・・・・・・はっ了解しました。必ずや身代わりを務めて見せましょう」
アイーリスは心中複雑ではあったものの自分が頼られているのだと解釈して気持ちを切り替えて返事をしていた。
「それでは我はさっそく出かける。そなたはあくまで戦闘の代理ゆえクラブの代表代理では無い。クラブの仕事については親友のミレーヌに任せてあるから、そなたは戦闘のみ頑張ればよい。・・・とはいえいきなりDFバトルをやろうと思う愚か者、特に最強の我に挑む者もそうはいないから退屈になると思うが、もし指名されたときは存分に暴れるといい」
「はっ!」
デルフィニアはその返事に満足して、部屋を出て行った。
「・・・さてとりあえずは、私も準備だけはしておかなければな」
そう言って、アイーリスもまた部屋から出て行くのであった。
−−−DFバトル専用闘技場−−−
「・・・・・・まさか、たった数分で早くも出番が来るとは・・・」
現在アイーリスはDFバトル専用闘技場のど真ん中に立っていた。
デルフィニアの部屋から出て、せっかくだから試合でも見物するかと移動を開始しようとした瞬間に。
『アイーリス様・・・ご指名が入りました』
突如現れた、黒服に身を包んだ男が現れそう告げてきたのだ。
「たしか、そうそうこのバトルを選ぶ愚か者はいないと聞いていたのだが・・・いるところにはいるのだな、命知らずの馬鹿者が」
闘技場の中央で待つ事数分・・・チャレンジャー側のゲートから現れた。
その人物の姿は戦士姿にローブを羽織っていて、手には安物であろう両手剣を持った銀の髪の美青年だった。
アイーリスはため息を吐いていた。
(代理とはいえ一応最強の椅子を預かる身として言わせてもらえれば、舐めているのかこいつは・・・・・・どれだけ屈強な戦士が相手なのかと楽しみにしていただけにまさかこんな優男とは)
「貴様が私を指名した者か?」
アイーリスが男に対し質問をする。
男は質問に対してこう言った。
「ああ、ある情報屋にこの闘技場で一番強くて美しい女性は誰かと聞いたら、デルフィ二アというココの主だと聞いたのだが、どうやら不在らしいな」
「ああ、代わりに私がデルフィニア様の代理を務めている」
「・・・・・・」
「?なんだ?」
ジーッと見つめてくる男に対し首をかしげるアイーリス。
「いや、どうやら情報屋のネタは外れだったらしいと思ってね」
「それはデルフィニア様が不在だからか・・・」
「それもあるが、こんな絶世の美女がいるのにその情報が無いから外れだっていったのさ」
「!!!・・・か、からかうのはよせ!」
「からかってなんか無いさ、あんたは俺の好みにドストライクなんだ」
「!!!〜〜〜〜」
アイーリスは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
(な、なぜ私はこんな男の言葉に、これほど・・・ドキドキさせられているんだ?私は魔物の中で最強種と呼ばれるドラゴンだぞ!それがこんな対した実力も無さそうな優男に・・・・・・)
そんな頭の中でいろいろ考えている最中のアイーリスに男が気まずそうに話しかけてきた。
「あ〜赤くなってるとこ悪いんだが、そろそろ始めないか?客が騒ぎ始めてるし」
「えっ?」
ハッと我に返り、辺りを見回すとたしかに客が騒ぎ始めていた。
『おい!何やってんだ!』 『さっさと戦え!!』 『ラブシーン見に来たんじゃねえぞ!!!』 『銀髪野郎もげろ〜!!!!』 『照れるドラゴン、ハァハァ最高!!!!!』
等など様々な野次が飛んでいた。
「すまない、私とした事がこの程度で取り乱すとは・・・審判合図を頼む」
「わかりました。両者構えてください」
この道何十年といった様子の審判が特に慌てる様子も無く、仕事に取り掛かる。
審判に言われたとおりに構えを取る両者。
男は両手剣を抜き、左足を前に出し剣を上段で構える。所謂、八相の構えだ。
対してアイーリスは左足をわずかに動かし、手を何度も握って掻き手を作り、右手だけ胸の前に置いた。
「そういえば名前をまだ名のってなかったな、俺はダンテ・デス=ウォーカーだ。ダンテと呼んでくれ」
「私はアイーリス、白燐のアイーリスだ」
お互いに名前を名のり合った直後、今まで無かった両者の闘気が闘技場を一気に包み込んだ。
その闘気に観客たちは息を呑み、アイーリスは感心していた。
(ほう、さっきまでは優男と思っていたが・・・なかなかどうして楽しめそうだ)
そんな闘気を間近で受けても大した動揺もしていない審判の手がゆっくりと動き。
「試合開始!!!」 カーーーーーーン!!!!!
開始の合図を告げると同時にゴングも鳴った。
最初に動いたのはアイーリスだった。
ドラゴンの馬鹿力に物を言わせて凄まじい脚力で飛び込んでいく、射程距離に入った瞬間にドラゴン特有の鋭い爪で攻撃を開始する。
大振りをすることなく最短距離を走る爪、その攻撃は心臓目掛けてされていた。
普通の人間が拳を使い攻撃したのならあまり大したダメージにはならないが、今回はドラゴンが爪を使い攻撃している、それはつまり当たれば即死級の攻撃になるということだ。
スピード、パワー、どれを取ってもまず人間にはたどり着けない領域にいる。
つまり普通の人間の動体視力なら本気のドラゴンのスピードに反応できず、いつ攻撃されたのかも分からないままその爪で心臓を貫かれるはずだった。
普通の人間ならば・・・。
「やはり、ただの人間ではなかったようだな・・・」
アイーリスの攻撃は当たっていなかった。
ダンテは特に慌てる様子も無く、横に移動して攻撃をかわしたのだ。
「何そんなに感心してるのかは知らないが、普通ただ一直線に突っ込んでくるだけの攻撃をかわせない奴がどうかしていると思うんだが?」
ダンテが言うとおりアイーリスの攻撃はただ一直線に突っ込んだだけの簡単な突進攻撃。
しかし、その突進攻撃はドラゴンが行ったもの、人間が行う突進攻撃とは天と地、月とスッポン、女神と鬼ババアといったくらいの差がある。
それをたやすくかわすダンテはまず普通の人間というカテゴリーには入らないだろう、天才または化け物と呼ばれる類の人間であろう。
「貴様、今の攻撃が見えていたのか?」
「まあな、アレくらいのスピードは結構日常茶飯事で見てるからな、大したスピードじゃないだろう」
アイーリスはため息をつきたくなった。
仮にもドラゴンの最速攻撃を大したスピードじゃないとか断言するこの男に対して、猛烈に呆れていた。
(いったいどういう環境にいれば、ドラゴンのスピードを大したスピードじゃないと言えるのだろうか?)
「しかし、呆れている場合ではないか・・・認識を大幅に変更しなければならないな、貴様は私と同等の実力を持っていると判断する、よって全力を持って貴様を殺す」
その瞬間今まで放っていた闘気がさらに凄みを増し、瞳には殺気を纏い表情はこれまでに無いほどに冷たい微笑を浮かべていた。
観客たちはその雰囲気に完全に呑まれ、大して動揺をしていなかった審判にも薄っすらと汗を浮かべさせていた。
だというのにこのダンテという男は・・・。
「ヒュー♪凄い気迫だ。こりゃちょっと本気ださないとヤバイかな?」
とまるで他人事のように大した焦りや動揺も見せずに軽口を叩いていた。
「その余裕の表情がどこまで持つのか、楽しみだよ」
アイーリスは拳を作り、目に見えるほどの魔力をその拳に一瞬で集め、その拳を地面に向けて放った。
『地裂斬(ちれつざん)!!!』
拳が地面にぶつかった瞬間、大きな衝撃音と共に地面が割れた。
その割れた地面がダンテに向かって凄まじい勢いで迫っていく。
「セイヤァァァァァ!!!!!」
ダンテは気合と共に剣を振り下ろしていた。
ダンテの手前まで来ていた衝撃は剣を振り下ろした瞬間に止まっていた。
「なかなか、面白い技を使うねー」
「お喋りしている余裕は待たない方が良いな」
軽口を叩くダンテの背後に現れるアイーリス、言葉と共に攻撃を繰り出していた。
首を狙った横薙ぎの一撃、それを屈んでかわすダンテ、読んでいたとばかりにアイーリスが攻撃した勢いを利用して、尻尾を横薙ぎに払った、ダンテはこれを前転してやり過ごしすぐに構え直す。
しかし、構え直した時にはすでに目の前にいた。
『双爪連斬(そうしょうれんざん)!!!』
アイーリスの両腕から繰り出される爪の連続攻撃。
ダンテは回避行動を取り、紙一重でかわし、避けきれない攻撃は剣を使っていなし、致命傷を避けていく。
「・・・・!んのぉ、調子に乗んな!!!!!」
それまで避け一辺倒だったダンテが声を荒げてわずかな隙をつき反撃してきた。
攻撃箇所は鱗に包まれていない人間と同じ皮膚部分が現れている腹部だ。
避け切れないと判断したアイーリスは右腕を瞬時に腹部に持っていき鱗の部分でガードをしたのだが。
(なんだ?異様に軽い・・・ハッ!?)
気づいた時にはすでに遅く襲い掛かってきた剣の柄には手が無く、ダンテの体はアイーリスの下にあった。
掌底の構えを取っており、屈んだ状態から右ひじに左手を沿え、立ち上がる勢いを利用し、掌底をひねりながら左手で押し上げてアイーリスの顎に目掛けて放っていた。
(マズイ!!!?)
咄嗟に後ろに仰け反ったおかげで直撃は免れたが・・・。
「くっ・・・あ、足が・・・」
ダンテの掌底はアイーリスの顎を掠めていた。
これにより脳を揺らされたアイーリスは平衡感覚がおかしくなり、足が言う事を聞かない状態になってしまったのだ。
もちろんこの絶好のチャンスを逃すほどダンテは甘い男ではない。
落ちかけていた剣を掴み取り地を駆ける。
「悪いがこいつで決めさせてもらうぜ!!!」
顎に向けて剣の腹を使い峰打ちを打ち込もうとした時だった。
「・・・・・・ハァァァァアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
突然の気合と魔力の放出に思わず攻撃を止め身構えてしまったダンテ。
「グガァァァァァァァアアアアア!!!!!!!!!!」
さらに獣のような雄叫びをあげてアイーリスは魔力による光を発した。
「お、おいおい、マジかよ・・・」
ダンテはここに来てはじめて焦りを見せた。
「まさか、変身能力を持つドラゴンだったのかよ・・・」
魔力の光が徐々に収まり、消えた頃にそこには旧世代の頃より魔王と対等の力を持ち、人間には地上の王者として恐れられた巨大な白きドラゴンが君臨していた。
通常ドラゴンは今の世代になってからは旧世代の姿に戻るには莫大な魔力の消費をしなければならないうえに一時的にしか戻れない事から人の形のままで戦う事が多いがごく稀に長時間旧世代の姿を保ち続けられるドラゴンも存在する。
だがそのほとんどが理性を失い、本能のままに動きその辺りいったいを破壊しつくす凶暴なドラゴンへと変貌する。
元に戻るには、魔力切れを起こすか気絶または殺すかの3択しか存在しない。
「なんて厄介なまねを・・・これじゃ本気を出さざるを得ねえじゃねえか」
「ガァアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
雄叫びをあげ辺りをギロリと睨むアイーリス。
その視線に観客たちは。
「に、に、にげろぉぉぉぉおおおおお!!!!!!!!!」
悲鳴をあげながら雲の子を散らすがごとく逃げ始める観客。
闘技場には二人と1匹しかいなくなっていた。
「あんたは逃げないのかい、審判さん?」
「・・・私は審判です。勝敗を見届けずしてその場を放棄するわけにはいきません。放棄する事即ち、デルフィニア様に対しての冒涜ですので」
「そうかい・・・なら死なないように見届けてくれよ審判さん」
「もちろんです」
ダンテは両手剣を構え直し、アイーリスに目を向ける。
「少々おいたが過ぎたようだな、俺の本気を見せてやるぜ」
「グギャアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
雄叫びをあげて威嚇するアイーリス。
そして威嚇が終わるのと同時に息を吸い込み始め、一気に火球を吐き出してきた。
人一人なら丸々包み込んでしまうであろう火球を横に飛び跳ねて回避して一気に地を駆け出すダンテ、近づいてくる間もアイーリスは火球を連続で吐き出していた。
紙一重で何度もかわしてどんどん近づくダンテ、いよいよ攻撃が出来る距離に入った瞬間だった。
突然鋭い風切音が聞こえ、その大きな爪がダンテ目掛けて振り下ろされていた。
ダンテはそれを飛んでかわした。
続けざまに今度は体を振り回して尻尾を繰り出してくるがそれを体をひねっていなした。
ダンテは地面に着地してから再び飛び跳ねた。
「いくぜ!!!開放!!!!!」
言葉と同時にダンテの体からは信じられないほどの莫大な魔力が噴出された。
ダンテはその魔力を剣に集中させた。
すると一瞬で安物だと思われていた剣は漆黒の剣へと変貌を遂げていた。
そのまま振りかぶり一気に振り下ろしていた。
しかし、アイーリスもすでに攻撃の態勢に入っており至近距離で火球を放とうとしていた、それも密度をあげて最大の威力にして。
「おもしれえ、どっちの力が上か試して見ようぜ!!!!!」
ダンテの言葉を理解したのか、アイーリスは溜めていた火球を一気に吐き出していた。
ダンテもすでに振り下ろしているため回避は不可能だった。
火球と漆黒の剣が激しい音を立ててぶつかり合った。
「はぁあああああああああ!!!!!!!!!!」
気合と共にさらに魔力を込めるダンテ。
その瞬間ダンテは火球を真っ二つに切り裂きその勢いのまま。
ザシュウウウウウウ!!!!! ブッシャァアアアアアアアア!!!!!
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」
アイーリスを切り裂いていた。
盛大に血飛沫をあげ、断末魔の悲鳴をあげるアイーリス。
その巨体はズーンという音と共に地面に倒れたのである。
「許せ、とてもじゃないが峰打ちの余裕は無かった」
ダンテからはいつのまにか魔力は消失していた。
剣も安物の様な剣に戻っていた。
アイーリスの体から光が発していた。
光が収まったころには人形に戻ったアイーリスがうつ伏せになって血の海を作っていた。
審判がすぐに駆け寄り、意識の有無を確認する。
「・・・勝者ダンテ・デス=ウォーカ」
「あんた、プロだな・・・」
「それが、仕事ですから」
そういうと審判は懐から包帯と液体の入った小瓶、そして針と細い糸を取り出した。
「それは?」
「応急手当です。すぐに傷を閉じなければ危険ですから」
そういうと手馴れた様子でアイーリスの応急手当を始める審判。
傷口を針で縫い、液体を沁み込ませた包帯で傷を巻いていく。
そしてこれが最後といわんばかりに見たことのある液体の入った小瓶が懐から取り出された。
「きせきのしずくか」
「そのとおりです」
アイーリスの口に小瓶を入れようとしたが強く閉じられているためなかなか入らなかった。
そしてその小瓶を一旦離したと思ったら自分の口に含み始めて口付けをした。
今まで硬く閉じていたアイーリスの唇がこの口付けにより魔物の本能がはたらき、口を開き審判の舌を絡めとろうと動き出す。
それに自ら舌を絡めてきせきのしずくを流し込んでいく。
流し込むの終えた瞬間、審判は口付けをやめて顔を離す。
「これで応急処置は終わりです。すぐにでも医療班を呼んで来なければ」
「応急処置っていつもあんな事をしてるのか?」
「口が堅い魔物限定ですけどね、口付けのほうが開きやすいんですよ」
「・・・プロだね」
「ありがとうございます。賞金のことですが・・・」
「ああ、そのことなんだがその賞金彼女の医療費にしてくんねえか?」
「よろしいので?」
「ああ、元々は暇つぶしだしなそれに妻に他の女と戦っていたなんてバレたら怖いしな」
「・・・わかりました、その旨代表代理に伝えておきましょう」
「頼むな」
そしてダンテはくるりと背を向けその場を後にした。
−−−医療室−−−
「うっ・・・うーん・・・ハッ!?・・・こ、ここは?」
「気が付いたようじゃな」
「み、ミレーヌ様?・・・!!!くっ!」
「これ、無理をしてはいかんのじゃ!おぬしは丸1日昏睡しておったのじゃぞ」
ミレーヌに気づき体を動かしたアイーリスに激痛が走る。
「・・・私は負けたのですね」
「・・・そのとおりじゃ」
「私、デルフィニア様に合わす顔がありません」
「・・・・・・」
「デルフィニア様の椅子を預かっておきながら、無様に人間ごときに負けてしまうなんて、変身まで使ったというのに」
「・・・・・・」
「なぜ死なせてくれなかったのですか?死なせてくれれば楽になれた『パン!』・・・え?」
突然アイーリスの頬に鋭い衝撃が走る。
ミレーヌがアイーリスの頬を叩いたのである。
「この馬鹿者が、簡単に死ぬなどという言葉を口にするでない!デルフィニアの椅子を預かったからなんじゃというのじゃ、絶対に負けるなと言われたのかおぬしは?違うじゃろ!ただ留守の間代わりを頼まれただけで負けるなとは一言もいわれとらんじゃろうが。死んだところで何の意味も無いのじゃから簡単に死ぬなどとさびしい事は言わんでほしいのじゃ」
「・・・すみませんでした。軽率な発言をお許しください」
「分かってもらえればよいのじゃ」
先ほどまで怒っていた顔をおさめて、ニッコリと笑うミレーヌ。
「それとおぬしはたかだか人間に負けたといったがの、あれはたかだかと呼べる人間ではないぞ」
「?それは実力的ないみでですか?でしたら分かりますが」
「それもあるが、あやつが旧世代のドラゴンと化したおぬしを切るときだと思うのじゃが、普通の人間ではありえないほどの魔力を感知したのじゃ、それもワシを超えるほどの莫大な魔力がの」
「!?それはつまり」
「ああ、恐らくは魔王クラスの化け物じゃよ」
バフォメットであるミレーヌの魔力を超える魔力を持つものがいるとしたらそれは魔王クラスといって良いほどの実力だといえる。
もちろんデルフィニアも魔王クラスの実力を持っている。
その驚愕の事実を知り戦慄するアイーリス。
「まあそんな魔力を出せる人間など限られておるがの、おそらくは魔王の夫じゃろう」
「そうですか・・・・・・!?えっ!?魔王の夫!??」
「それくらいしかおらんじゃろう、しかも魔王の夫は放浪癖があるという噂も良く聞くしのう恐らくは本物じゃろう、良かったのう本当の本気を出されなくて、出されておればおぬしはミンチじゃったろうからな」
「冗談じゃないですよ・・・はあー」
「それでおぬしはこれからどうするつもりじゃ?」
「何がですか?」
ミレーヌの質問に質問で返答すると、意地の悪そうな顔をしてこう言った。
「いくら魔王の夫とはいえ自分を倒した人間が現れたのじゃぞ、魔物としてその辺はどうなんじゃ」
「!!!そ、それは・・・その・・・なんといいますか・・・」
「まああきらめた方が正解じゃな、元々人の夫を奪うのは悪い事じゃしその辺は暗黙のルールでなりたっておるし、しかも魔王の夫を奪おうとするんじゃ魔王に殺されても文句は言えんしの」
「うう、ミレーヌ様意地悪です」
「ワシに与えた心労に比べればマシなほうじゃよ」
「ううう・・・」
「それではワシはもどるかの、安静にしておるんじゃよ、間違っても後を追っかけたりしないようにの」
そういってミレーヌは医務室から去っていった。
医務室に残されたのは後を追いかけるべきか、追いかけないべきかで悩む一人の純情な女性だけだった。
ここはとある地下にある闘技場。
己のすべてをぶつけ合う場所。
一攫千金を狙える場所。
次なる挑戦者はいったい誰か。
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「入れ」
「失礼します」
ドアをノックし、許しを得て入ってきたのは白燐に包まれたドラゴンだった。
「白燐のアイーリス、お呼びに従い参上いたしました」
「・・・その堅苦しい台詞はどうにかならないのか?」
入ってくるなり跪いてくるアイーリスに対して呆れながら答えるのはこのバトルクラブの主でもあるデルフィニアだ。
「滅相もございません。私はデルフィニア様に敗れたその日から忠誠を誓った身、この言葉遣いもデルフィニア様を思えばこそです」
「良くそんな事が言えたものだ。初めて対峙したときは・・・
『貴様か?最近この辺りの人間を拉致しているというドラゴンは?
別に人間がどうなろうと私には関係は無いが、この辺りは私の縄張りだから荒らされるのは許せないんだ。
私と勝負しろ!!!私に負けたらココから立ち去ってもらおう!!!』
・・・とか意気込んでいたものだが」
デルフィニアが当時の事を思い出し、嫌な笑顔を浮かべて告げる。
「あ・・あの時は!!!その!・・・なんといいますか・・・その・・・」
途端にみるみるうちに小さくなっていくアイーリス。
「ふっ、冗談だ。そんなに気にはしていないからそこまでかしこまらなくて良い。・・・さて今回そなたを呼んだのは他でもないバトルクラブについてだ」
「・・・やはり、そうでしたか」
先ほどまでの冗談はどこへやら、真剣な表情になり、アイーリスも予想していたのかやはりという感じで反応している。
「うむ。今回バトルクラブのDFバトル(デルフィニアファミリーバトル)についてなのだが、今回私は所要でクラブを開ける。当然私はDFバトルには出られない。そこでアイーリス、そなたには我の代理を務めて欲しいのだ」
「私が代理でよろしいのですか?」
「うむ、そなたなら我の4分の1ほどの力を持っているから心配せずに任せる事ができる」
「・・・・・・はっ了解しました。必ずや身代わりを務めて見せましょう」
アイーリスは心中複雑ではあったものの自分が頼られているのだと解釈して気持ちを切り替えて返事をしていた。
「それでは我はさっそく出かける。そなたはあくまで戦闘の代理ゆえクラブの代表代理では無い。クラブの仕事については親友のミレーヌに任せてあるから、そなたは戦闘のみ頑張ればよい。・・・とはいえいきなりDFバトルをやろうと思う愚か者、特に最強の我に挑む者もそうはいないから退屈になると思うが、もし指名されたときは存分に暴れるといい」
「はっ!」
デルフィニアはその返事に満足して、部屋を出て行った。
「・・・さてとりあえずは、私も準備だけはしておかなければな」
そう言って、アイーリスもまた部屋から出て行くのであった。
−−−DFバトル専用闘技場−−−
「・・・・・・まさか、たった数分で早くも出番が来るとは・・・」
現在アイーリスはDFバトル専用闘技場のど真ん中に立っていた。
デルフィニアの部屋から出て、せっかくだから試合でも見物するかと移動を開始しようとした瞬間に。
『アイーリス様・・・ご指名が入りました』
突如現れた、黒服に身を包んだ男が現れそう告げてきたのだ。
「たしか、そうそうこのバトルを選ぶ愚か者はいないと聞いていたのだが・・・いるところにはいるのだな、命知らずの馬鹿者が」
闘技場の中央で待つ事数分・・・チャレンジャー側のゲートから現れた。
その人物の姿は戦士姿にローブを羽織っていて、手には安物であろう両手剣を持った銀の髪の美青年だった。
アイーリスはため息を吐いていた。
(代理とはいえ一応最強の椅子を預かる身として言わせてもらえれば、舐めているのかこいつは・・・・・・どれだけ屈強な戦士が相手なのかと楽しみにしていただけにまさかこんな優男とは)
「貴様が私を指名した者か?」
アイーリスが男に対し質問をする。
男は質問に対してこう言った。
「ああ、ある情報屋にこの闘技場で一番強くて美しい女性は誰かと聞いたら、デルフィ二アというココの主だと聞いたのだが、どうやら不在らしいな」
「ああ、代わりに私がデルフィニア様の代理を務めている」
「・・・・・・」
「?なんだ?」
ジーッと見つめてくる男に対し首をかしげるアイーリス。
「いや、どうやら情報屋のネタは外れだったらしいと思ってね」
「それはデルフィニア様が不在だからか・・・」
「それもあるが、こんな絶世の美女がいるのにその情報が無いから外れだっていったのさ」
「!!!・・・か、からかうのはよせ!」
「からかってなんか無いさ、あんたは俺の好みにドストライクなんだ」
「!!!〜〜〜〜」
アイーリスは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
(な、なぜ私はこんな男の言葉に、これほど・・・ドキドキさせられているんだ?私は魔物の中で最強種と呼ばれるドラゴンだぞ!それがこんな対した実力も無さそうな優男に・・・・・・)
そんな頭の中でいろいろ考えている最中のアイーリスに男が気まずそうに話しかけてきた。
「あ〜赤くなってるとこ悪いんだが、そろそろ始めないか?客が騒ぎ始めてるし」
「えっ?」
ハッと我に返り、辺りを見回すとたしかに客が騒ぎ始めていた。
『おい!何やってんだ!』 『さっさと戦え!!』 『ラブシーン見に来たんじゃねえぞ!!!』 『銀髪野郎もげろ〜!!!!』 『照れるドラゴン、ハァハァ最高!!!!!』
等など様々な野次が飛んでいた。
「すまない、私とした事がこの程度で取り乱すとは・・・審判合図を頼む」
「わかりました。両者構えてください」
この道何十年といった様子の審判が特に慌てる様子も無く、仕事に取り掛かる。
審判に言われたとおりに構えを取る両者。
男は両手剣を抜き、左足を前に出し剣を上段で構える。所謂、八相の構えだ。
対してアイーリスは左足をわずかに動かし、手を何度も握って掻き手を作り、右手だけ胸の前に置いた。
「そういえば名前をまだ名のってなかったな、俺はダンテ・デス=ウォーカーだ。ダンテと呼んでくれ」
「私はアイーリス、白燐のアイーリスだ」
お互いに名前を名のり合った直後、今まで無かった両者の闘気が闘技場を一気に包み込んだ。
その闘気に観客たちは息を呑み、アイーリスは感心していた。
(ほう、さっきまでは優男と思っていたが・・・なかなかどうして楽しめそうだ)
そんな闘気を間近で受けても大した動揺もしていない審判の手がゆっくりと動き。
「試合開始!!!」 カーーーーーーン!!!!!
開始の合図を告げると同時にゴングも鳴った。
最初に動いたのはアイーリスだった。
ドラゴンの馬鹿力に物を言わせて凄まじい脚力で飛び込んでいく、射程距離に入った瞬間にドラゴン特有の鋭い爪で攻撃を開始する。
大振りをすることなく最短距離を走る爪、その攻撃は心臓目掛けてされていた。
普通の人間が拳を使い攻撃したのならあまり大したダメージにはならないが、今回はドラゴンが爪を使い攻撃している、それはつまり当たれば即死級の攻撃になるということだ。
スピード、パワー、どれを取ってもまず人間にはたどり着けない領域にいる。
つまり普通の人間の動体視力なら本気のドラゴンのスピードに反応できず、いつ攻撃されたのかも分からないままその爪で心臓を貫かれるはずだった。
普通の人間ならば・・・。
「やはり、ただの人間ではなかったようだな・・・」
アイーリスの攻撃は当たっていなかった。
ダンテは特に慌てる様子も無く、横に移動して攻撃をかわしたのだ。
「何そんなに感心してるのかは知らないが、普通ただ一直線に突っ込んでくるだけの攻撃をかわせない奴がどうかしていると思うんだが?」
ダンテが言うとおりアイーリスの攻撃はただ一直線に突っ込んだだけの簡単な突進攻撃。
しかし、その突進攻撃はドラゴンが行ったもの、人間が行う突進攻撃とは天と地、月とスッポン、女神と鬼ババアといったくらいの差がある。
それをたやすくかわすダンテはまず普通の人間というカテゴリーには入らないだろう、天才または化け物と呼ばれる類の人間であろう。
「貴様、今の攻撃が見えていたのか?」
「まあな、アレくらいのスピードは結構日常茶飯事で見てるからな、大したスピードじゃないだろう」
アイーリスはため息をつきたくなった。
仮にもドラゴンの最速攻撃を大したスピードじゃないとか断言するこの男に対して、猛烈に呆れていた。
(いったいどういう環境にいれば、ドラゴンのスピードを大したスピードじゃないと言えるのだろうか?)
「しかし、呆れている場合ではないか・・・認識を大幅に変更しなければならないな、貴様は私と同等の実力を持っていると判断する、よって全力を持って貴様を殺す」
その瞬間今まで放っていた闘気がさらに凄みを増し、瞳には殺気を纏い表情はこれまでに無いほどに冷たい微笑を浮かべていた。
観客たちはその雰囲気に完全に呑まれ、大して動揺をしていなかった審判にも薄っすらと汗を浮かべさせていた。
だというのにこのダンテという男は・・・。
「ヒュー♪凄い気迫だ。こりゃちょっと本気ださないとヤバイかな?」
とまるで他人事のように大した焦りや動揺も見せずに軽口を叩いていた。
「その余裕の表情がどこまで持つのか、楽しみだよ」
アイーリスは拳を作り、目に見えるほどの魔力をその拳に一瞬で集め、その拳を地面に向けて放った。
『地裂斬(ちれつざん)!!!』
拳が地面にぶつかった瞬間、大きな衝撃音と共に地面が割れた。
その割れた地面がダンテに向かって凄まじい勢いで迫っていく。
「セイヤァァァァァ!!!!!」
ダンテは気合と共に剣を振り下ろしていた。
ダンテの手前まで来ていた衝撃は剣を振り下ろした瞬間に止まっていた。
「なかなか、面白い技を使うねー」
「お喋りしている余裕は待たない方が良いな」
軽口を叩くダンテの背後に現れるアイーリス、言葉と共に攻撃を繰り出していた。
首を狙った横薙ぎの一撃、それを屈んでかわすダンテ、読んでいたとばかりにアイーリスが攻撃した勢いを利用して、尻尾を横薙ぎに払った、ダンテはこれを前転してやり過ごしすぐに構え直す。
しかし、構え直した時にはすでに目の前にいた。
『双爪連斬(そうしょうれんざん)!!!』
アイーリスの両腕から繰り出される爪の連続攻撃。
ダンテは回避行動を取り、紙一重でかわし、避けきれない攻撃は剣を使っていなし、致命傷を避けていく。
「・・・・!んのぉ、調子に乗んな!!!!!」
それまで避け一辺倒だったダンテが声を荒げてわずかな隙をつき反撃してきた。
攻撃箇所は鱗に包まれていない人間と同じ皮膚部分が現れている腹部だ。
避け切れないと判断したアイーリスは右腕を瞬時に腹部に持っていき鱗の部分でガードをしたのだが。
(なんだ?異様に軽い・・・ハッ!?)
気づいた時にはすでに遅く襲い掛かってきた剣の柄には手が無く、ダンテの体はアイーリスの下にあった。
掌底の構えを取っており、屈んだ状態から右ひじに左手を沿え、立ち上がる勢いを利用し、掌底をひねりながら左手で押し上げてアイーリスの顎に目掛けて放っていた。
(マズイ!!!?)
咄嗟に後ろに仰け反ったおかげで直撃は免れたが・・・。
「くっ・・・あ、足が・・・」
ダンテの掌底はアイーリスの顎を掠めていた。
これにより脳を揺らされたアイーリスは平衡感覚がおかしくなり、足が言う事を聞かない状態になってしまったのだ。
もちろんこの絶好のチャンスを逃すほどダンテは甘い男ではない。
落ちかけていた剣を掴み取り地を駆ける。
「悪いがこいつで決めさせてもらうぜ!!!」
顎に向けて剣の腹を使い峰打ちを打ち込もうとした時だった。
「・・・・・・ハァァァァアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
突然の気合と魔力の放出に思わず攻撃を止め身構えてしまったダンテ。
「グガァァァァァァァアアアアア!!!!!!!!!!」
さらに獣のような雄叫びをあげてアイーリスは魔力による光を発した。
「お、おいおい、マジかよ・・・」
ダンテはここに来てはじめて焦りを見せた。
「まさか、変身能力を持つドラゴンだったのかよ・・・」
魔力の光が徐々に収まり、消えた頃にそこには旧世代の頃より魔王と対等の力を持ち、人間には地上の王者として恐れられた巨大な白きドラゴンが君臨していた。
通常ドラゴンは今の世代になってからは旧世代の姿に戻るには莫大な魔力の消費をしなければならないうえに一時的にしか戻れない事から人の形のままで戦う事が多いがごく稀に長時間旧世代の姿を保ち続けられるドラゴンも存在する。
だがそのほとんどが理性を失い、本能のままに動きその辺りいったいを破壊しつくす凶暴なドラゴンへと変貌する。
元に戻るには、魔力切れを起こすか気絶または殺すかの3択しか存在しない。
「なんて厄介なまねを・・・これじゃ本気を出さざるを得ねえじゃねえか」
「ガァアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
雄叫びをあげ辺りをギロリと睨むアイーリス。
その視線に観客たちは。
「に、に、にげろぉぉぉぉおおおおお!!!!!!!!!」
悲鳴をあげながら雲の子を散らすがごとく逃げ始める観客。
闘技場には二人と1匹しかいなくなっていた。
「あんたは逃げないのかい、審判さん?」
「・・・私は審判です。勝敗を見届けずしてその場を放棄するわけにはいきません。放棄する事即ち、デルフィニア様に対しての冒涜ですので」
「そうかい・・・なら死なないように見届けてくれよ審判さん」
「もちろんです」
ダンテは両手剣を構え直し、アイーリスに目を向ける。
「少々おいたが過ぎたようだな、俺の本気を見せてやるぜ」
「グギャアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
雄叫びをあげて威嚇するアイーリス。
そして威嚇が終わるのと同時に息を吸い込み始め、一気に火球を吐き出してきた。
人一人なら丸々包み込んでしまうであろう火球を横に飛び跳ねて回避して一気に地を駆け出すダンテ、近づいてくる間もアイーリスは火球を連続で吐き出していた。
紙一重で何度もかわしてどんどん近づくダンテ、いよいよ攻撃が出来る距離に入った瞬間だった。
突然鋭い風切音が聞こえ、その大きな爪がダンテ目掛けて振り下ろされていた。
ダンテはそれを飛んでかわした。
続けざまに今度は体を振り回して尻尾を繰り出してくるがそれを体をひねっていなした。
ダンテは地面に着地してから再び飛び跳ねた。
「いくぜ!!!開放!!!!!」
言葉と同時にダンテの体からは信じられないほどの莫大な魔力が噴出された。
ダンテはその魔力を剣に集中させた。
すると一瞬で安物だと思われていた剣は漆黒の剣へと変貌を遂げていた。
そのまま振りかぶり一気に振り下ろしていた。
しかし、アイーリスもすでに攻撃の態勢に入っており至近距離で火球を放とうとしていた、それも密度をあげて最大の威力にして。
「おもしれえ、どっちの力が上か試して見ようぜ!!!!!」
ダンテの言葉を理解したのか、アイーリスは溜めていた火球を一気に吐き出していた。
ダンテもすでに振り下ろしているため回避は不可能だった。
火球と漆黒の剣が激しい音を立ててぶつかり合った。
「はぁあああああああああ!!!!!!!!!!」
気合と共にさらに魔力を込めるダンテ。
その瞬間ダンテは火球を真っ二つに切り裂きその勢いのまま。
ザシュウウウウウウ!!!!! ブッシャァアアアアアアアア!!!!!
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」
アイーリスを切り裂いていた。
盛大に血飛沫をあげ、断末魔の悲鳴をあげるアイーリス。
その巨体はズーンという音と共に地面に倒れたのである。
「許せ、とてもじゃないが峰打ちの余裕は無かった」
ダンテからはいつのまにか魔力は消失していた。
剣も安物の様な剣に戻っていた。
アイーリスの体から光が発していた。
光が収まったころには人形に戻ったアイーリスがうつ伏せになって血の海を作っていた。
審判がすぐに駆け寄り、意識の有無を確認する。
「・・・勝者ダンテ・デス=ウォーカ」
「あんた、プロだな・・・」
「それが、仕事ですから」
そういうと審判は懐から包帯と液体の入った小瓶、そして針と細い糸を取り出した。
「それは?」
「応急手当です。すぐに傷を閉じなければ危険ですから」
そういうと手馴れた様子でアイーリスの応急手当を始める審判。
傷口を針で縫い、液体を沁み込ませた包帯で傷を巻いていく。
そしてこれが最後といわんばかりに見たことのある液体の入った小瓶が懐から取り出された。
「きせきのしずくか」
「そのとおりです」
アイーリスの口に小瓶を入れようとしたが強く閉じられているためなかなか入らなかった。
そしてその小瓶を一旦離したと思ったら自分の口に含み始めて口付けをした。
今まで硬く閉じていたアイーリスの唇がこの口付けにより魔物の本能がはたらき、口を開き審判の舌を絡めとろうと動き出す。
それに自ら舌を絡めてきせきのしずくを流し込んでいく。
流し込むの終えた瞬間、審判は口付けをやめて顔を離す。
「これで応急処置は終わりです。すぐにでも医療班を呼んで来なければ」
「応急処置っていつもあんな事をしてるのか?」
「口が堅い魔物限定ですけどね、口付けのほうが開きやすいんですよ」
「・・・プロだね」
「ありがとうございます。賞金のことですが・・・」
「ああ、そのことなんだがその賞金彼女の医療費にしてくんねえか?」
「よろしいので?」
「ああ、元々は暇つぶしだしなそれに妻に他の女と戦っていたなんてバレたら怖いしな」
「・・・わかりました、その旨代表代理に伝えておきましょう」
「頼むな」
そしてダンテはくるりと背を向けその場を後にした。
−−−医療室−−−
「うっ・・・うーん・・・ハッ!?・・・こ、ここは?」
「気が付いたようじゃな」
「み、ミレーヌ様?・・・!!!くっ!」
「これ、無理をしてはいかんのじゃ!おぬしは丸1日昏睡しておったのじゃぞ」
ミレーヌに気づき体を動かしたアイーリスに激痛が走る。
「・・・私は負けたのですね」
「・・・そのとおりじゃ」
「私、デルフィニア様に合わす顔がありません」
「・・・・・・」
「デルフィニア様の椅子を預かっておきながら、無様に人間ごときに負けてしまうなんて、変身まで使ったというのに」
「・・・・・・」
「なぜ死なせてくれなかったのですか?死なせてくれれば楽になれた『パン!』・・・え?」
突然アイーリスの頬に鋭い衝撃が走る。
ミレーヌがアイーリスの頬を叩いたのである。
「この馬鹿者が、簡単に死ぬなどという言葉を口にするでない!デルフィニアの椅子を預かったからなんじゃというのじゃ、絶対に負けるなと言われたのかおぬしは?違うじゃろ!ただ留守の間代わりを頼まれただけで負けるなとは一言もいわれとらんじゃろうが。死んだところで何の意味も無いのじゃから簡単に死ぬなどとさびしい事は言わんでほしいのじゃ」
「・・・すみませんでした。軽率な発言をお許しください」
「分かってもらえればよいのじゃ」
先ほどまで怒っていた顔をおさめて、ニッコリと笑うミレーヌ。
「それとおぬしはたかだか人間に負けたといったがの、あれはたかだかと呼べる人間ではないぞ」
「?それは実力的ないみでですか?でしたら分かりますが」
「それもあるが、あやつが旧世代のドラゴンと化したおぬしを切るときだと思うのじゃが、普通の人間ではありえないほどの魔力を感知したのじゃ、それもワシを超えるほどの莫大な魔力がの」
「!?それはつまり」
「ああ、恐らくは魔王クラスの化け物じゃよ」
バフォメットであるミレーヌの魔力を超える魔力を持つものがいるとしたらそれは魔王クラスといって良いほどの実力だといえる。
もちろんデルフィニアも魔王クラスの実力を持っている。
その驚愕の事実を知り戦慄するアイーリス。
「まあそんな魔力を出せる人間など限られておるがの、おそらくは魔王の夫じゃろう」
「そうですか・・・・・・!?えっ!?魔王の夫!??」
「それくらいしかおらんじゃろう、しかも魔王の夫は放浪癖があるという噂も良く聞くしのう恐らくは本物じゃろう、良かったのう本当の本気を出されなくて、出されておればおぬしはミンチじゃったろうからな」
「冗談じゃないですよ・・・はあー」
「それでおぬしはこれからどうするつもりじゃ?」
「何がですか?」
ミレーヌの質問に質問で返答すると、意地の悪そうな顔をしてこう言った。
「いくら魔王の夫とはいえ自分を倒した人間が現れたのじゃぞ、魔物としてその辺はどうなんじゃ」
「!!!そ、それは・・・その・・・なんといいますか・・・」
「まああきらめた方が正解じゃな、元々人の夫を奪うのは悪い事じゃしその辺は暗黙のルールでなりたっておるし、しかも魔王の夫を奪おうとするんじゃ魔王に殺されても文句は言えんしの」
「うう、ミレーヌ様意地悪です」
「ワシに与えた心労に比べればマシなほうじゃよ」
「ううう・・・」
「それではワシはもどるかの、安静にしておるんじゃよ、間違っても後を追っかけたりしないようにの」
そういってミレーヌは医務室から去っていった。
医務室に残されたのは後を追いかけるべきか、追いかけないべきかで悩む一人の純情な女性だけだった。
ここはとある地下にある闘技場。
己のすべてをぶつけ合う場所。
一攫千金を狙える場所。
次なる挑戦者はいったい誰か。
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11/08/26 01:46更新 / ミズチェチェ
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