連載小説
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恋の寄り道
「ごめんなさいね〜、一泊だけのつもりだったのに、うっかり三泊もしちゃったわ…………」
「いえいえ、よくあることですからご心配なさらず。それだけ当ホテルを気に入っていただけたという証でもありますし♪」

 セシリアが、滞在日数を大幅に超過してしまったことを申し訳なさそうに謝ったが、受付の店員はむしろ嬉しそうな笑顔で許してくれた。
 エレオノーラ姉妹もなんだかんだ言って、愛する人と一夜を共にするのも、ホテルの施設を利用するのも初めてだったせいで、気づかないうちにはまってしまったのだろう。
 ホテル側も、フリッツと姉妹のような時間を忘れて超過利用してしまう客には慣れているようで、「初回利用割引」と言って追加料金をタダにしてくれた。

「うふふ、次回ご利用の際には、長めのご予約をお勧めしますわ♪ またたっぷりおもてなしさせてくださいね♪」
「そ、そうね…………あ〜あ、やちゃったわ」
「大丈夫だよっマノンお姉さん、それにセシリアお姉さんもっ! 間違うことは誰にもあるから、ね?」

 今まで、完全無欠な頼れるお姉さんのイメージを醸し出していた二人だったが、こういったおちゃめな面も見ることができて、フリッツはむしろ親近感がわいた。
 一日目のころは、果たして自分がこの奇麗なお姉さんたちと一緒にいていいのだろうか…………という遠慮がちな心があったが、三日間ずっと心と体を重ねたことで、お互いの距離がぐっと近くなったようだった。

 ホテルを出て再びゴンドラに乗ると、前と同じようにセシリアとマノンの間にフリッツが座り、両手を姉妹それぞれの手とキュっとにぎる。

「さ、行きましょうフリッツ君♪ 今日はどこを見せてあげようかしら」
「うふふ……おなかすいたり、のどが乾いたら、いつでも言ってね。そ・れ・に……疲れたら、休憩もね♥」
「う、うん…………じゃあ今日は、神殿を見に行きたいな」

 以前は緊張しっぱなしだったフリッツだったが、今では手をつなぐと安心してほっこりした気持ちになる。
 肌から直接伝わる温もりと、柔らかい感触、それに握る強さの強弱で、今どんなことを考えているのかわかる気さえしてきた。

 三人を乗せたゴンドラは、裏路地を通って広い水路に入り、同じ観光目的のゴンドラと何回もすれ違った。
 フリッツもエレオノーラ姉妹も、すれ違うたびに相手の方に手を振り、そして向こうも手を振り返してきた。

「なんでだろう……? 船に乗ると手を振りたくなっちゃうね」
「あら、たしかに」
「そういえばそうね。私たちがフリッツ君を見つけたときも…………手を振ってたわ」
「もしかしたら、陸と違ってお互いに少し離れてるから、手でアピールしないと届かないかもって思っちゃうのかもね」

 一日目では緊張しっぱなしで余裕がなかったフリッツも、ホテルの内装の良さに気が付いた時のように、船で移動する良さについて考える余裕も生まれたようだ。
 もちろん、姉妹のことが気にならなくなったわけではなく――――――時々彼の視界にちらっと映る、薄い服から浮き出た胸の突起を見ると、思わずドキッとしてしまう。

 そんな幸せなゴンドラの旅を続けていると、進行方向の先で数隻のゴンドラが水路の真ん中で止まっているのが見えた。

「あれ? あんなところで船の渋滞? なんで?」
「そういえばここは…………ふふふっ♪」
「ちょうどいいタイミングだったわ。ね、フリッツ君、今からとっても面白いことが起こるから、よ〜く見ててね♪」

 周りに何か見るべきものがあるのかと思い、あたりをきょろきょろと見まわすフリッツだったが、陸の上には繁華街があるというだけで、特に絵画や彫像などがあるわけではなかった。しいて言うなら、道の一部に欄干がない場所があるだけ。

 しかし、その欄干がない場所の片方に青い髪の青年が立ち、もう一方に淡い緑色髪のエルフが立って、双方の視線が重なった瞬間―――――突然、運河の底から立派な桟橋が現れた!
 唖然とするフリッツの目の前で、青年が恥ずかしそうに桟橋へ一歩ずつ足を踏み出すと、対岸のエルフがまるで堰を切った鉄砲水のごとく駆け出し、まだ半分にも到達していなかった青年の胸に勢いよく飛び込んで、がっちりと抱きしめてしまった。
 二人が抱き合った瞬間、双方の岸と水上のゴンドラから祝福の拍手喝さいが鳴り響き、どこからかなり響くハンドベルの音とともに、二人が永遠に結ばれたことを祝う歌が紡がれたのだった。

「どう? すごい? びっくりしたでしょう?」
「あれは、アル・マール名物『恋の架け橋』っていうの♪」
「対岸同士に相性ピッタリな男女がいると、こうして浮き上がってきて〜」
「渡った二人は必ず結ばれるのよっ♪」
「へえぇ……ちょっとびっくりしたけど、なんてロマンチックなんだろう!」
「そうでしょうそうでしょう! いつでも見れるものじゃないから、通りかかってラッキーだったわ」
「やっぱりそうなんだ…………。それもそうか、ここにいつもベストカップルがいるわけじゃないもんね」
「そうね、少ない日だと一日に5回くらいしかないし」
「それでも一日5回あるんだ…………」

 結構多いんだなと思いながらフリッツが橋の上の二人を見ていると、抱き着いたエルフが祝福の歌で感極まったのか、大勢の人に囲まれた中で青年に思い切り唇を重ねた。

「あらあら、やっぱり♪」
「ん? やっぱりって?」
「実はね、私たち地元の人魚の間には、この橋にまつわるもう一つの言い伝えがあるの」
「もう一つの……いいつたえ?」
「それはね、恋の架け橋で出会った男女が橋のどの位置で結ばれるかで、その後の夫婦の将来が決まるって言われているのよ」

 二人の意味深な言葉に、フリッツののどがゴクリと鳴る。
 もしかして、場所によってはその後別れてしまうというジンクスがあるのか、それとも………

「まず、真ん中で結ばれたらその二人は未来永劫、お互い仲睦ましく穏やかに過ごせるといわれてるわ」
「うんうん……それで、端っこだと……?」
「男の子が真ん中を超えて女の子のところに行っちゃったときは〜」
「旦那様が伴侶を一生屈服させて、まるでご主人様と性奴隷のような過激な愛が未来永劫続くの♪」
「え? でもそれって……」
「逆に今回のように女の子が、真ん中を超えて男の子を襲っちゃった場合は〜♪」
「男の子は未来永劫ずっと女の子にされるがまま♥ とろけるような愛を受け続けて赤ちゃんのようになるの♥」
「それも『未来永劫』なんだね………」

 そもそも魔物娘たちの辞書に「離婚」の文字はないので、当然といえば当然である。
 橋の上の二人は、エルフが真ん中を大きく超えて想い人を抱きしめ、その場で襲ってしまいそうな雰囲気すらあるので、エレオノーラ姉妹の話もあながち嘘ではなさそうだった。

「あはは……なんかもう、笑っちゃうね。この町らしいや! もし僕がこの橋のこっち側にいて、セシリアお姉さんやマノンお姉さんがあっちにいたら、この桟橋も浮き上がってくれるかな?」
「もちろん、当然そうなるわっ♪ あ、でも私的には…………」
「私はむしろ、姉さんがこっちで私があっちにいて♥」
「そして真ん中にいるフリッツ君を、二人で挟み撃ちにするの♥」
「なにそれこわい!?」

 橋の両側から迫りくる、妖艶なマーメイドの二人の間で、おろおろして逃げられないまま二人にギュッとされてしまうフリッツの姿が容易に想像できる。
 もはやロマンティックも何もあったものではない。

「あら〜? フリッツ君、お姉さんたちに迫られる想像したら、興奮しちゃった?♥」
「へ……あ、えっと、これは……」
「うふふ、あの二人見てたら……のどが渇いてきちゃったかな♥」
「あ、あううぅ…………」

 姉妹に挟み撃ちにされる妄想で、なぜか興奮してしまった様子のフリッツを、セシリアとマノンは見逃さなかった。
 二人は周囲のゴンドラにばれないように、服の胸の部分をチラリと開いて、ピンと立っている桜色の突起をみせた。
 こうなってはフリッツに抵抗は不可能。フリッツが小さく無言でこくんと頷くと、姉妹はゆっくりとゴンドラを動かして、再び人気のない水路に入っていった。
20/08/16 15:53更新 / ヘルミナ
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■作者メッセージ
忙しくて更新がだいぶ相手申し訳ないっ!
しかし……前回の更新の際に、連載の一番上の方に移動しなかったけど、何かのバグだったのだろうか?


〜返信コーナー〜

望遠鏡様!
>まさか3日間も交わっていたとは・・・
>でも母親からお許しは得られたようで良かったですね.
>両親もアル・マールとホテルの虜に・・・
>ま、まさか・・・?
>今日はどんな展開になるのかな、楽しみです!
>今回もありがとうございました、これからも頑張って下さい!

更新と感想返信遅くなりましたっ!
楽しみにされていたのに待たせてごめんなさい……
今まで甘えん坊がいたせいで、戸尾さん母さんはなかなか兄弟姉妹を作れなかったようなので、これを機に新たな家族計画を企てているのかもしれません♪
果たしてフリッツにとって、妹が先になるか、娘が先になるか……

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