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第十三話:末日のアフター・フォロー
※長い余分ですので、ご覧にならなくても支障はありません。
 お時間と心に余裕のある時に暇潰しで御覧下さい。






 



 結論から言えば作業は6時間ほどで終了した。
 元々豪が課題を進められなかったのは静かに取り組める環境が無かったせいであり、それさえクリア出来るなら溜まったものを片付けるなど造作も無いのである。
 とはいえ数自体は中々のものであり、俊哉も筆跡を模倣しながら豪の課題の消化を手伝っていった。
 幸い課題はどれも問題集しかない為、夜まで掛かるかと思われていた作業は思いの他早く終了したのである。
 
 「っだー!終わったー。あー目が痛ぇ」

 「お疲れ様、しかし殆ど進んでなかったんだな。こっちも指が痛いよ」

 冷えた麦茶を渡しながら、俊哉は自分の分を一口飲む。
 豪はだらけきった表情でそれを受け取ると脱力した体を座椅子の背もたれに預けた。
 
 「今有麗夜と悠亜がお茶菓子でも買ってくるから。少しのんびりしなよ」

 「ありがてぇなぁ。けど、遠慮しとくわ。これ以上邪魔しちゃ悪いしな」

 疲労しきってはいるものの、憑物の落ちた表情で豪は笑った。
 タイムリミットギリギリとはいえ、何とか形に出来たので安心しているようだ。
 豪は終わらせた課題と筆記用具をバッグに詰めるとそのまま帰り支度をする。
 
 「今日は助かったぜ。サンキュ。学校始まったら昼飯でも奢るよ」

 「そうかい? 悪いね。有麗夜と悠亜も喜んでくれると思うよ」

 「ぐ……そうきたか…………世話になったし、しゃーないな」

 がっくりと項垂れる豪に機嫌の良い笑顔を浮かべる俊哉。
 どうやら、最後に友人を弄れたのが嬉しかったようである。
 話しながら玄関へ向かう二人の前で呼び鈴がなった。
 どうやら訪問者らしい。

 「おや、来客かな? 今日は多いね。珍しい」

 「有麗夜ちゃん達じゃねぇな。いくらなんでも帰ってくるのが早過ぎる。……師匠達か?」

 「それはもっと無いね。父さんと母さんなら鍵を持ってるから。呼び鈴鳴らすより鍵を開けるだろうし」

 そういうと俊哉は居間に据えつけてある小型カメラから玄関前の画像を確認する。
 モニターで外の様子が把握できるインターホンである為、その来客が誰を目的としているか彼はすぐに理解出来た。

 「どうも、豪に用事があるようだね。どうする?」

 俊哉に促されて豪は画面を確認する。
 そこに居る人物は、出来うる限り避けて通りたい者であった。

 「メフィル……何でアイツが」

 「豪の居そうなところを片っ端から探したのかもね。この暑い中大変だったろうに」

 豪は午前中の比較的涼しい時間帯に近江宅を訪れたので体感していないが、夏場は日差しが強く昼間は特に強い。
 もし屋外を駆けずり回って探したというのであれば、魔物娘にとっても中々に辛い所業であろう。

 「で、どうする? 僕が出るかい?」

 それを踏まえた上で俊哉は豪に聞いている。
 即ち、自分が引き止めている間に逃亡するか。
 それとも自分で正面から立ち向かうか。
 どちらか決めろと暗に迫っているのだ。

 豪は考える。
 もし俊哉に応じて貰えば自分は安全に帰宅出来る。
 今まで散々邪魔されてきた課題を、ゆっくりと体調を整えたうえで提出し新しい学期を迎えられる。
 だが、もしそれとは別に自分が応じたとしたら。
 十中八九振り回されるだろう。
 自宅に安寧は無くなり、下手をすると夜通し逃げ回る必要があるかもしれない。
 場合によっては新学期早々遅刻という事も在り得る。
 
 特にメフィルは豪を揶揄(からか)う傾向が強く、その癖相手をしないと求めがどんどんと過激になっていく娘だ。
 他の少女達の姿が見えないのは気に掛かるが、俊哉の言を借りるなら豪の行きそうなところを手分けして探しているのかもしれない。
 
 自分を取るか。彼女達を取るか。
 
 豪は靴を履くと、そのまま玄関の扉を開いた。

 「……よう、悪魔っ娘」

 豪は憮然とした表情を作りメフィルに話し掛ける。
 メフィルは特に気にしないのか、豪の姿を確認すると嬉しそうな表情を浮かべた後――――すぐにそれを曇らせてしまった。
 予想外の流れに、豪は内心言いようの無い焦りを感じたが平静を取り繕って相手の出方を見る事にした。

 後ろで手を組んで視線を豪から外しながら、翳(かげ)りを帯びたままメフィルが口を開く。

 「ご免なさい。大分、貴方に負担を掛けていたようね」

 豪の全く予想していない発言に、今度こそ豪の平静さが崩れる。
 メフィルはその姿が見えていないのか更に続けて言った。

 「私も含めてだけど。あの娘達も普段から長い時間貴方と接せる訳じゃないの。でも、魔物娘(わたしたち)にとってそれは苦痛以外何物でもない。……今回のように長期休暇を取れる機会は皆積極的に利用したかったのよ」

 皆貴方と居たかったからね――――

 メフィルは消え入りそうな声でそう締めた。
 目元が前髪で隠れより翳りが深くなる。
 豪と彼女の間に、重い沈黙が流れていった。

 「……今更なんだけどよ。何で俺なんだ? お前等に好かれるような事をした記憶が全く無いんだよ、俺」

 本人に記憶が無くても魔物娘側が伴侶を求めてやってくるケースは珍しくない。
 だが、その事実を知っている豪からしても1名を除き一度に5名もの魔物娘から同時期に好かれるのは流石に異常としか思えない。
 確かに彼は少々特殊な体質をしているが、まさか全員が全員彼の体質に惹かれた訳でもあるまい。
 その事を話すとメフィルは漸く豪の顔を見るようになった。
 逆光で分かり辛いが、少々目蓋が腫れているようにも思える。

 「呆れた。まさか自分で散々フラグを立てて回収しておいて全くの自覚無しなんて。あれだけ去年のクリスマスで暴れ回って、何にも思われないなんて思ってたの?」

 呆れをそのまま表現する為、わざとらしく半眼になってメフィルは非難する。
 一方豪はメフィルの発言から記憶を洗い出していた。

 「クリスマス? ……もしかして、普通にサンタ役でプレゼント配ってた時にほんのちょっとトラブルに巻き込まれたアレか? おい、アレ絡みって余計分からんぞ。言っておくけど賠償金はチャラになったんだからな。今更払えとかいうなよ」

 「何でそうなるのよ……。まぁいいわ、私達が言いたかったのは貴方の都合を考えずに押し付けて悪かったわねって事よ。自重が難しい娘もいるでしょうけど、貴方の為にならないって言えばきっと納得してくれるでしょうし、これから少しは静かな日々が来るわよ」

 再び降って沸いた予想外の出来事に、豪は勿論後ろで聞いていた俊哉ですら目を丸くする。
 事あるごとに彼の近くに居ようとしていた筆頭が一転、距離を置こうと発言したのだからある意味当然での反応ではあるが。
 
 「唐突だな……何でまた?」

 本来豪にとっては喜ぶべきであろう事だが、相手は彼を手玉に取る小悪魔である。
 普段あの手この手で居座り引っ掻き回す彼女の発言は、彼にとって信じたいものであるが裏があるのでは、と勘繰ってしまう。
 振り回されている者の悲しい習性と言えるだろう。
 
 「言っておくけど、裏なんて無いわよ。提案したのは私だし、他の子達も貴方に嫌われたくはないから文句なんて出なかったわ」

 豪の内情を察したのだろう。
 予め用意していたのか、すらすらとメフィルは言の葉を吐き出す。
 どうやら、本当に豪の生活を脅かしていた事を反省しているようだった。
 彼女の言葉に嘘がない、と判断した豪は肩の力を抜く。

 「今までご免なさいね。お互い、少しの間距離を置きましょう? 今後はきっとお互い良好な関係が築けると思うから」

 「始まってもいないのに何で俺が振られたみたいな感じになるのかは分からんが……まぁ、こっちの事情を鑑みてくれるのは有り難いな」

 恋をすれば一直線でそのままゴールインまで行う魔物娘の行動とは思えない引き際だが、豪は内心胸を撫で下ろす。
 そもそも彼女達は全員美少女揃いなのである。
 未発達な肢体の年下は彼の好みに合わないので受け流しているが、夏休みに入ってからアプローチが激化していた為豪の処理能力を超えつつあった。
 だが、彼女達が線引きをしてくれればそれは彼女達自身が己と向き合う時間を作れるという事であり、自己の置かれている状況に目を向ける事が出来れば豪自身が彼女達に興味を持たない事も理解してくれるだろう。
 そうなれば一人、また一人と離れていって最終的には平穏が戻ってくる。
 彼はそう考えていた。

 「でもお前等が離れるのは少し寂しくなるなぁ、ホント。狭い部屋で本当に色々暴れてくれたからな」

 「ふふっ、そうね。でもあの子達も本気なんだから、そんな事言っちゃ駄目よ? 女心は傷つき易いんだから」

 「あぁ、悪ぃ悪ぃ。そういうところは俺、未だに疎いからな。俺も結構お前等に悪い事してたんだな」

 「やっと分かったかしら? 責任、取らせちゃうわよ?」

 「はは、気をつけるって。勘弁してくれ」

 あくまで社交辞令ではあるが、豪は彼女達との日々を思い出し軽い口調で語り合った。
 メフィルもそれに倣い、二人の間には和やかな空気が流れている。
 だが、豪は気付かなかったがメフィルの目に怪しげな光が瞬いたのを俊哉は見逃さなかった。
 
 押して押してのアプローチを繰り返していた少女達の行動。
 豪を慮(おもんばか)り急に引いたメフィルの態度。
 そして警戒の解けた豪。
 俊哉の中で、カチカチと音を立てて全体像が作られていく。

 「でも、惜しいと思わない? 色んな種族の色んな女の子が選び放題なのに。皆そこまで魅力が無かったかしら?」

 「いやいや、んな事ない。皆可愛いって。愛紗は妹みたいだし美緒は寂しがり屋だから男が放っておかないだろ。愛生と愛弓なんて文字通り天使だしな。惜しいとしたら年齢だけだよなぁ」

 「あら、私貴方より年上よ? この前免許証見せたじゃない」

 メフィルの発言の後で何か小さな音が俊哉の耳には入った。
 しかし、相変わらず豪はメフィルとの会話に集中しているのか気付いた素振りが無い。
 
 「悪いが合法ロリな時点で俺の中では社会的アウトだ。せめてもう少し育ってくれよ」
 
 「それは誰かさんの頑張り次第ねぇ。私が貴方好みになるには沢山必要なものがあるし」

 「時間で解決してくれ。俺が出来るとしたら生温かく見守るだけだ」

 「相変わらずつれないわよね。まぁ、だからこそ堕とし甲斐があるんだけど」

 衣擦れ、呼吸音、よく聞き取れないが恐らく小声での会話。
 豪より少し離れたところに居る俊哉ですら注意すれば聞き取れる範囲の音である。
 渦中にいる豪に聞こえていない筈はないのだが、彼に聞こえている様子は一切無い。
 明らかな異常に俊哉は子細の分からぬ、のっぺりとした全貌を見た気がした。
 
 豪をこのままにしてはいけない。
 自分の予想が正しければ恐らく――――

 「おい豪、ちょっと話したい事が――「貴女達、もう出てきていいわよ」――遅かったか……」

 俊哉の発言を遮ってメフィルは何者かを呼ぶ。
 呼ぶ対象は複数名。
 彼の予想は悪い方向で当たってしまったようだ。
 
 「愛紗、豪兄ぃの妹じゃなくてお嫁さんがいい!」

 「私が寂しがり屋だと……? いいだろう、ならばいくらでも構わせてやるからな」

 「嬉しいお言葉です……首に縄を掛けてでも連れ帰りますわ♪」

 「あ、じゃあお姉様。手足も射抜いてしまいましょう? 確実です♪」

 「後半やたら怖ぇよオイッ! つーか何時から居たお前等!」

 豪の悲鳴に少女達は全員顔を見合わせ、揃って同じ言葉を吐き出した。

 「「「「豪(兄ぃ)(様)(さん)がメフィルちゃんとイチャついてた時から」」」」

 「ただの世間話なんですけどっ!?……はっ! まさか、あの時既に……?」

 「正解。ちなみに手段はメール。慣れれば見なくても打てるわ。プッシュ式の機種だとこんな事も出来るから、案外捨てたもんじゃないのよね」

 豪当人にとって見れば『イチャつく』など誤解以外何物でもない。
 徐々に包囲を狭められる中、豪は薄ら笑いを浮かべているメフィルに視線を向けると半ば吠えるように助けを求めた。

 「おいメフィル! 距離感が大事なんだろ? 離れてお互いを見つめ直すんだろ? 全く逆の事が起きてんぞっ!」

 「その子達は文句は言わなかったけど承諾もしてないわ。距離をとるのは必然的に私だけになるわね」
 
 あっけらかんと死刑宣告をするメフィルに豪は絶句する。
 確かに『彼女達全員がメフィルの提案に従う』とは言っていない。
 言っていないが――――大分黒に近い灰色ではあろう。

 「助けてあげたいんだけどねー。ホラ、お互いの距離感が大事じゃない? この娘達の気持ちも考えると板挟みだわー。……ちなみに、私のいう事聞くなら助けてあげなくも無いけど。どうする?」

 「それが狙いか、この大悪魔ぁあああーーーーっ!!!!」

 そうこうしている間にも、ゆっくりと、しかし着実に包囲網は完成していく。
 豪の後ろには薄く開いた近江家の扉。
 左右からは狩りを行う肉食獣めいた低い姿勢で愛紗と美緒が包囲を狭め、愛生と愛弓は彼女達から少し離れた位置に浮きながらロープと弓矢を手に取っている。
 事後承諾で近江家の中を突っ切る方法もあるが、それでは友人宅に被害が出かねない。
 跳び越えようにも愛生と愛弓に阻まれる可能性が高い。
 もし左右どちらかを強行突破して愛紗と美緒を傷つけてしまった場合は責任を取らされる未来しか見えない。
 少女達は豪の立場と内情を理解した上でこの布陣を敷いたのである。
 単独での脱出は不可能といえた。

 「さて、ご主人様? この小悪魔めはいつでもお助け出来ますが。如何かしら?」

 地獄に垂らす一本の蜘蛛糸のように自らを売り込むメフィル。
 彼女には豪がこの場を切り抜けられるようになる手段がある様子である。
 豪は数瞬悩んだ後、投げやりに叫ぶ。

 「あー!もう分かった、俺の負けだ!メフィル、助けてくれっ!」

 「はいはーい♪」

 パチン、と指を鳴らすと豪の足元に成人男性がすっぽり入りそうな穴が現れる。
 大きく口を開いたその中はあまりに暗く、底が全く見えない。

 「アーーーーレーーーーーーーーッ!?」

 もし付けるなら『すっぽーん』という軽快な擬音と共に豪は直下の穴に飲まれて消えた。
 あまりに唐突な現象に、少女達も目を白黒させるばかりである。
 
 沈黙が場を支配する。
 それを破ったのは、他ならぬメフィルであった。

 「『ソレ』、自宅に繋がってるのよ。追うなら急いだ方がいいわよ?」

 開いた穴を指差しながら放たれたメフィルの言葉に、少女達の瞳に鋭い光が宿った。
 勢いよく次々と飛び込んでは消えていく彼女達を見送ると、メフィルは穿った穴を閉じる。
 静寂が再び訪れた時、近江家の扉が開かれた。

 「貴女は追わないんですか?」

 姿を現したのは住人である俊哉だった。
 事の成り行きがどうなるか見守っていたのである。

 「このまま入っても自分の家に帰るだけになるからいいわ。それに、ちゃんと豪が帰れたか確認しないとね」 
 
 「……約束は守る。という事でしょうか」

 豪が落ちた穴は、豪が入っている時は『豪の自宅』に送られるようになっていたのだろう。
 だが同じ穴に入ってもそれは『それぞれの自宅』に送られる為、結果として豪は誰とも会わずに帰還出来たという事である。
 少女達は続々と入っていったが、彼女達も同様だろうと推測できた。
 そして、まだ陽は出ているが直に夜の帳が下りる。
 家人が居ればまだ幼さの残る少女を出歩かせようとはしないだろう。
 後日にするよう説得する事が予想される為、矢張り豪は無事という事になる。

 「ええ。契約は絶対。悪魔は約束は守るのよ」

 「代償は高くつきそうですけどね」
 
 この場合の代償はこれからメフィルが要求しに行くのか。
 それとも後日彼女達全員が要求するのか。
 苦笑しながら返す俊哉に、『まぁね』とだけ返しながらメフィルは翼を広げる。
 どうやら自力で帰るようだった。
 
 「あぁそうそう。ここに来る前、有麗夜ちゃんと悠亜ちゃんがケーキ店のショーウィンドウでウンウン唸ってたから、ちょっとアドバイスしてあげたわ。オペラは食べる時に注意しなさいね」

 「オペラ?」

 「フランスのチョコレートケーキ。普通は度数の高いお酒のシロップを含ませた生地を層に使うのだけど、あの子達の行ったお店はアルラウネの蜜から作った蜜酒を使ってるのよ」

 「……知ったところでどうにもならない気がしますが」

 「知ると知らないとじゃ心構えが違うでしょ。じゃあね」

 気紛れはお終い、とばかりに羽ばたこうとするメフィル。
 彼女が離れる前に、俊哉は拭えなかった疑問をぶつける事にした。

 「彼女達の動く音が豪には聞こえなかったのは、携帯のボタンを押す時の僅かな音すらしなかった事と関係がありますか?」

 唐突で、しかも俊哉には全く無関係な質問だった。
 だが自分の疑問の解消と共に、その情報は友人の役に立つかもしれないと思って俊哉は疑問を投げ掛けた。
 ややあってメフィルが口を開く。

 「私の名前を改めて読みなさい。そうすれば分かるから」

 「……名前?」
 
 それだけ言い残し、今度こそ彼女は飛び立った。
 地面を離れる時の跳躍音も羽ばたく音も一切しなかった為、俊哉も反応が遅れる。
 気付けばメフィルは夕焼けの中に溶け込んでいた。

 既に見えない彼女の後姿を眺めながら俊哉は思考する。

 距離に関係なく聞き取り出来ない状態。
 特定の音だけが聞こえなかった現象。
 先程の動作が全くの無音であった点。
 そして名前、メフィル・フォン・ファウト。

 そこまで考えて、脳裏に閃くものがあった。

 「そういう事か……」
 
 phon――音の大きさを示すレベルの単位。

 「豪には悪いけど、僕の手に余るね。あれは」

 つまり彼女は――――音を操る悪魔。
 神出鬼没に磨きを掛ける能力の娘に追い回される友人に安息はあるのだろうか。
 
 (いっそ諦めればいいのに)

 それが出来れば今の豪は居ないのだろうが、彼が諦めない限りは手を貸してやろう。
 そう考えながら俊哉は我が家へと戻っていった。





 尚、メフィルが豪に要求したのはメフィルを含む彼女達を今まで通り豪の元に通わせる事。そして彼女達を邪険に扱わない事である。
 結局事態は何も変わっていない事を豪が理解するは、また暫く時が経ってからであった。

14/09/01 23:03更新 / 十目一八
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■作者メッセージ
気付いたら数行で済む話に大量の文字を入れて希釈している。
こんばんは、皆様。十目です。

今回第十三話と銘打っていますが実質第十二話のおまけ話です。
思いついて勢いだけで書いていましたので粗ばかりが目立ってしまいましたね。
作中のクリスマスに関しての言及は昨年投稿予定だったものです。
しかし間に合わず敢え無く断念。現在細々と追記と改稿を繰り返しています。
今年は公開出来ると良いのですが……。こればかりは当方の頑張り次第ですね。

拙い文にお付き合い下さった方々へ、心よりの感謝を。
不定期ではありますがまた次回、お付き合い下さいませ。



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