三話『接触』
「なるほど、かつて純粋に人を襲う怪物だったものが、人類の伴侶となるべく変化した生き物……ねぇ」
一件の騒動の後、駆けつけた剛二と合流した翔一たちは現場の処理を部下たちに任せ、事の対処にあたっていた二人を連れて本部へと戻り、物事の顛末を語っていた。
その後、件の石に知っていることを聞き出そうとし、魔物娘の存在を知らされて、今に至る
『そうだ、まだ色々と問題は残ってはいるが、表面上は上手く行っている』
「なーんか引っかかる言い方だねぇ……うん、でもまあ彼女たちのことはおおよそ分かったからいいや、次は君自身のことがおじさん聞きたいなぁ」
この時、密かに剛二の眼光が鋭くなるのを猛は感じ取る、彼が本格的にこの件に介入する意思を察知した猛は無意識に喉を鳴らした。
『そうだな……インキュバスの存在については、さっき話したな?』
「たしか、魔物に合わせて寿命が延び、場合によっては若返り、性交能力が著しく上昇し、高い魔力を得る……だったか?」
「いやぁ、綺麗な嫁さん取れて、更に自分もピッチピチだろぅ? なんともまぁ都合のいい存在だよねぇ」
『その通り、まさにインキュバスは魔物に合わせて進化した存在と言えるだろう……だが、それだけではなかったのだ』
意味深に言葉を区切る石に焦れったい様子で翔一が急かす、彼は直接石と関わった人物であるためもしとんでもない秘密があったらと気が気でないのだろう
「と言うと?」
『インキュバス化した者の中には勇者のように元から絶大な魔力を持つ者や、ロクに魔力も使わないのに魔物娘との交わりで長い寿命の間、延々と魔力を増やし続けた者が居る』
「まぁ、僕らの感覚から言わせてもらえば魔法なんて使う機会がないから当たり前だよねぇ」
『最初はせいぜい強力なインキュバス程度だったものが、その体内に過剰なまでの力を溜め込み続け、ついに人の範疇を超えた時に起こった新たな異形への進化……まぁ、一部例外もいるが、何はともあれ余を含めた殆どの者がそれを【ロード・インキュバス】と呼称している』
「【ロード・インキュバス】? ……さらに性欲が強くなる、とか?」
『それは力の一部に過ぎん、余も詳しいことはわかりきってはいないのだがその一突きは魔物であれど十を超える回数で昇天させ、一日に巨大な湖を築き上げる程の精を放たなければその者の性は決して満たされることは無いという、実際、伝承に語られるロード・インキュバスの大半が最低でも百体規模のハーレムを築き上げていた事からあながち間違いでもないだろう』
淡々と語られる石の説明の内容を聞いた翔一はドン引き、猛は顔を渋らせ、剛二は飄々と薄ら笑いを崩さない
「……そこまで来るとバケモンだな」
「人間が相手したら死ぬねぇ、間違いなく」
『他にも人間とは比べ物にならんぐらいに身体能力が強化される、そしてそんなロード・インキュバスを模して作られたのが余こと『ロード・コア』こと『アダムス』という訳だ』
「なるほどなぁ……ん? つーことはさっき俺が変身したのって……」
『うむ、あれもロード・インキュバスの姿の一つだ』
「ブゥーーーーーーーー!?」
あっさりと認めるアダムスに翔一は思わず飲みかけていたコーヒーを盛大に吹き出した。
テーブルが汚れ、猛と剛二が思いっきり顔を顰めたが今の翔一にそんなことを気にするだけの余裕はない
「ちょ、なんてモンに変身させてんだお前ええええ!?」
『何、あくまで魔力で展開した擬似的なものだ、後遺症もないから安心するがいい』
「そういう問題じゃねぇよ……」
意気消沈といった様子で項垂れる翔一と、吹き出したコーヒーを後片付けする猛を他所に、剛二はアダムスと会話を続けていく
「なるほど……で、なんだってそんなスゴイ力を持った君たちがわざわざここに来たんだい? 聞いた限りの性質じゃあ別に世界征服しに来たって感じでもなさそうだし」
『魔物娘たちの目的については……余が口を挟むより、時間の結果を待つほうがいいだろう、その方がわかりやすい』
「ふ〜ん……それは、楽しみというか、おっかないというか……」
多少不満げな剛二だったが、それを決してアダムスに悟られるような顔をせずに肩を竦める
『そして余は……特に深い目的などない』
「あん? でもさっき力がどうのって言ってなかったか?」
何とか復活し、猛から掃除を引き継ぎ、細かくテーブルを拭いている翔一が眉をひそめてアダムスに尋ねる
『うむ、せいぜい……ショウイチと言ったな? 貴様の体を使って酒池肉林の限りを尽くし、全生物の頂点に君臨することぐらいしか考えておらん』
「思いっきり目的あんじゃん……しかも内容が最低だしよ」
『このぐらいの願望、生き物が本能的に持っているものに過ぎん、ヒトの夢とは違う』
その言葉を放つ際、アダムスの自虐的な声の響きに翔一が僅かに疑問を感じるが、そこに思考が及ぶ前に部屋の扉が開かれる
「現場処理、及び近隣住民の避難、完了しました」
「ん、お疲れさん」
「そして、続けて報告します……例の『門』から、今度はまた別の女性が出て来、こちらとの対談を望んでいるそうです」
「わかった、通してあげて……泉くんと広瀬くんは外の警戒を頼むよ、特に広瀬くんは今のところ我々唯一の対抗手段だから、申し訳ないけど負担をかけるよ」
「いえ、こうなったからにはちゃんと手伝いますよ、任せてください」
頭を下げてから、翔一は猛と共に部屋を後にし、報告に来た部下も書類を置いたあとに一礼して部屋を後にする
「さあって、きっとここは歴史の分岐点だ。後世の人に笑われないようがんばるぞぉ〜」
たった一人残った部屋、そこでもヘラヘラとした笑みを浮かべながら剛二はうんと伸びをした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
世界各地の首脳達が集まっての会談が終わって数日後、ところ変わって魔界と呼ばれるある場所、そこには見目麗しい美女たちが集まっているのだが、今は全員が例外なく眉間にしわを寄せ、頭を抱えていた。
「先日の交渉、完全に失敗しちゃいましたね〜……」
涙目でそうこぼすのは、とんがった耳に、森の自然物の衣服や装飾品をあしらった女性、『ティターニア』である『シルヴィ』だ。
「一応、あの街に移住できるようにはなりましたが……様々な制限はかかりましたし、出だしは順調とは言えませんね……」
忙しなく鉄のチョーカーをカリカリと描いている『デュラハン』の『ティレル』は、その落ち着けない原因にもなっている一人の幼女の魔物娘にチラリと横目を見やる
「なんじゃこの『倫理的問題が懸念されるため幼体の魔物との交流を制限する』とは! 奴らめ……そんなに熟れた女が好きかっ! だったらワシなんかもう年齢三桁じゃあああ!!」
ガンガンと拳を地面に叩きつける『バフォメット』、『クリス』は時には喚き、時にはブツブツと呪詛の言葉を吐いておりその幼い外見にあるまじき姿を晒し、完全に荒れている状態だった。
「私の所も『交流に洗脳に近しき誘惑、同意なしでの関係を強引に持とうとする危険性の高い魔物』に該当する子がたくさんいて、制限だらけで不満が多いわ……斯く言う私もその一人だし」
褐色肌が特徴的な『ファラオ』こと『ギィエルミーナ』も疲労と不満を表すように大きなため息を吐く、圧倒的な『王の力』を持ち、本人の否応無しに他者を従えてしまう彼女は真っ先に危険視されてしまったのである
「でも何より痛かったのが『魔族の子は魔族しか生まれない』欠点を見抜かれてしまった事ね……」
陰りのある顔で、今回の異世界交渉のリーダー格である『リリム』こと『リリィン』は完全に気落ちした様子で椅子に座り込む
今回、彼女たち魔物娘が異世界の交流を図った理由はひとえに単純、魔物娘の欠点によって発生した『圧倒的な男性不足』を解消するために世界の扉を開いたのだ。
しかし、アダムスによって先んじて魔物娘の情報を伝えられた一部の人々は交流に及び腰になりがちになってしまい、魔物娘の思惑より大きく外れた結果となってしまった。
「先に魔物娘を送って幸せな生活のケースを取り上げてメリットを強調する作戦も大失敗でしたね……」
「あそこで封印したロード・コアが復活なんて誰でも予想できないわよ」
本当は送り込んだ人外的要素の強いスライム二百体に加え、予め潜伏させ、結婚を成し遂げた魔物娘で三百件の実例を取り上げようとしたのだが、送ったスライムの約七割がロード・インキュバスに変身した翔一に妨害されてしまったため、強引な手段も相まってかえって交渉の足を引っ張る形となってしまった。
「せめて母様が主神に勝てていたら話は別だったのでしょうけど……」
現在、魔物娘と主神の力は未だ拮抗しており、欠点は克服しきれていない、一応男児も生まれることもあるのだが確率は十分の一とかなり低い
「とにかく、いつまでもこうしていても始まらないわ、次の交渉のことを考えましょう」
「そうですね、頑張りましょう! えいえいお〜!」
「はぁ……先は長いのう」
各々が改めて仕切り直し、数々の不安を抱えながら再び意見を交わしていく、全てはかけがえのない同胞の魔物娘と愛すべき人間の未来を信じて――
◇◆◇◆◇◆◇◆
『――と、このように魔物娘との交流は檜室一箇所に留まり――』
「へぇ、魔物娘かあ、ちょっと怖そうだけど……面白そうじゃん」
しかし、この時誰もが予想し得なかった。
「おわっ、スッゲー美女……これはチャンスか?」
ささやかな交流として始まった翔一の街、『檜室』にて、波乱の騒動が起こることなど――
「……ついに、俺の時代が来たか?」
これが、二つの種族が時に触れ合い、時にぶつかり合う物語の序章に過ぎないなど、誰一人として分からなかった。
一件の騒動の後、駆けつけた剛二と合流した翔一たちは現場の処理を部下たちに任せ、事の対処にあたっていた二人を連れて本部へと戻り、物事の顛末を語っていた。
その後、件の石に知っていることを聞き出そうとし、魔物娘の存在を知らされて、今に至る
『そうだ、まだ色々と問題は残ってはいるが、表面上は上手く行っている』
「なーんか引っかかる言い方だねぇ……うん、でもまあ彼女たちのことはおおよそ分かったからいいや、次は君自身のことがおじさん聞きたいなぁ」
この時、密かに剛二の眼光が鋭くなるのを猛は感じ取る、彼が本格的にこの件に介入する意思を察知した猛は無意識に喉を鳴らした。
『そうだな……インキュバスの存在については、さっき話したな?』
「たしか、魔物に合わせて寿命が延び、場合によっては若返り、性交能力が著しく上昇し、高い魔力を得る……だったか?」
「いやぁ、綺麗な嫁さん取れて、更に自分もピッチピチだろぅ? なんともまぁ都合のいい存在だよねぇ」
『その通り、まさにインキュバスは魔物に合わせて進化した存在と言えるだろう……だが、それだけではなかったのだ』
意味深に言葉を区切る石に焦れったい様子で翔一が急かす、彼は直接石と関わった人物であるためもしとんでもない秘密があったらと気が気でないのだろう
「と言うと?」
『インキュバス化した者の中には勇者のように元から絶大な魔力を持つ者や、ロクに魔力も使わないのに魔物娘との交わりで長い寿命の間、延々と魔力を増やし続けた者が居る』
「まぁ、僕らの感覚から言わせてもらえば魔法なんて使う機会がないから当たり前だよねぇ」
『最初はせいぜい強力なインキュバス程度だったものが、その体内に過剰なまでの力を溜め込み続け、ついに人の範疇を超えた時に起こった新たな異形への進化……まぁ、一部例外もいるが、何はともあれ余を含めた殆どの者がそれを【ロード・インキュバス】と呼称している』
「【ロード・インキュバス】? ……さらに性欲が強くなる、とか?」
『それは力の一部に過ぎん、余も詳しいことはわかりきってはいないのだがその一突きは魔物であれど十を超える回数で昇天させ、一日に巨大な湖を築き上げる程の精を放たなければその者の性は決して満たされることは無いという、実際、伝承に語られるロード・インキュバスの大半が最低でも百体規模のハーレムを築き上げていた事からあながち間違いでもないだろう』
淡々と語られる石の説明の内容を聞いた翔一はドン引き、猛は顔を渋らせ、剛二は飄々と薄ら笑いを崩さない
「……そこまで来るとバケモンだな」
「人間が相手したら死ぬねぇ、間違いなく」
『他にも人間とは比べ物にならんぐらいに身体能力が強化される、そしてそんなロード・インキュバスを模して作られたのが余こと『ロード・コア』こと『アダムス』という訳だ』
「なるほどなぁ……ん? つーことはさっき俺が変身したのって……」
『うむ、あれもロード・インキュバスの姿の一つだ』
「ブゥーーーーーーーー!?」
あっさりと認めるアダムスに翔一は思わず飲みかけていたコーヒーを盛大に吹き出した。
テーブルが汚れ、猛と剛二が思いっきり顔を顰めたが今の翔一にそんなことを気にするだけの余裕はない
「ちょ、なんてモンに変身させてんだお前ええええ!?」
『何、あくまで魔力で展開した擬似的なものだ、後遺症もないから安心するがいい』
「そういう問題じゃねぇよ……」
意気消沈といった様子で項垂れる翔一と、吹き出したコーヒーを後片付けする猛を他所に、剛二はアダムスと会話を続けていく
「なるほど……で、なんだってそんなスゴイ力を持った君たちがわざわざここに来たんだい? 聞いた限りの性質じゃあ別に世界征服しに来たって感じでもなさそうだし」
『魔物娘たちの目的については……余が口を挟むより、時間の結果を待つほうがいいだろう、その方がわかりやすい』
「ふ〜ん……それは、楽しみというか、おっかないというか……」
多少不満げな剛二だったが、それを決してアダムスに悟られるような顔をせずに肩を竦める
『そして余は……特に深い目的などない』
「あん? でもさっき力がどうのって言ってなかったか?」
何とか復活し、猛から掃除を引き継ぎ、細かくテーブルを拭いている翔一が眉をひそめてアダムスに尋ねる
『うむ、せいぜい……ショウイチと言ったな? 貴様の体を使って酒池肉林の限りを尽くし、全生物の頂点に君臨することぐらいしか考えておらん』
「思いっきり目的あんじゃん……しかも内容が最低だしよ」
『このぐらいの願望、生き物が本能的に持っているものに過ぎん、ヒトの夢とは違う』
その言葉を放つ際、アダムスの自虐的な声の響きに翔一が僅かに疑問を感じるが、そこに思考が及ぶ前に部屋の扉が開かれる
「現場処理、及び近隣住民の避難、完了しました」
「ん、お疲れさん」
「そして、続けて報告します……例の『門』から、今度はまた別の女性が出て来、こちらとの対談を望んでいるそうです」
「わかった、通してあげて……泉くんと広瀬くんは外の警戒を頼むよ、特に広瀬くんは今のところ我々唯一の対抗手段だから、申し訳ないけど負担をかけるよ」
「いえ、こうなったからにはちゃんと手伝いますよ、任せてください」
頭を下げてから、翔一は猛と共に部屋を後にし、報告に来た部下も書類を置いたあとに一礼して部屋を後にする
「さあって、きっとここは歴史の分岐点だ。後世の人に笑われないようがんばるぞぉ〜」
たった一人残った部屋、そこでもヘラヘラとした笑みを浮かべながら剛二はうんと伸びをした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
世界各地の首脳達が集まっての会談が終わって数日後、ところ変わって魔界と呼ばれるある場所、そこには見目麗しい美女たちが集まっているのだが、今は全員が例外なく眉間にしわを寄せ、頭を抱えていた。
「先日の交渉、完全に失敗しちゃいましたね〜……」
涙目でそうこぼすのは、とんがった耳に、森の自然物の衣服や装飾品をあしらった女性、『ティターニア』である『シルヴィ』だ。
「一応、あの街に移住できるようにはなりましたが……様々な制限はかかりましたし、出だしは順調とは言えませんね……」
忙しなく鉄のチョーカーをカリカリと描いている『デュラハン』の『ティレル』は、その落ち着けない原因にもなっている一人の幼女の魔物娘にチラリと横目を見やる
「なんじゃこの『倫理的問題が懸念されるため幼体の魔物との交流を制限する』とは! 奴らめ……そんなに熟れた女が好きかっ! だったらワシなんかもう年齢三桁じゃあああ!!」
ガンガンと拳を地面に叩きつける『バフォメット』、『クリス』は時には喚き、時にはブツブツと呪詛の言葉を吐いておりその幼い外見にあるまじき姿を晒し、完全に荒れている状態だった。
「私の所も『交流に洗脳に近しき誘惑、同意なしでの関係を強引に持とうとする危険性の高い魔物』に該当する子がたくさんいて、制限だらけで不満が多いわ……斯く言う私もその一人だし」
褐色肌が特徴的な『ファラオ』こと『ギィエルミーナ』も疲労と不満を表すように大きなため息を吐く、圧倒的な『王の力』を持ち、本人の否応無しに他者を従えてしまう彼女は真っ先に危険視されてしまったのである
「でも何より痛かったのが『魔族の子は魔族しか生まれない』欠点を見抜かれてしまった事ね……」
陰りのある顔で、今回の異世界交渉のリーダー格である『リリム』こと『リリィン』は完全に気落ちした様子で椅子に座り込む
今回、彼女たち魔物娘が異世界の交流を図った理由はひとえに単純、魔物娘の欠点によって発生した『圧倒的な男性不足』を解消するために世界の扉を開いたのだ。
しかし、アダムスによって先んじて魔物娘の情報を伝えられた一部の人々は交流に及び腰になりがちになってしまい、魔物娘の思惑より大きく外れた結果となってしまった。
「先に魔物娘を送って幸せな生活のケースを取り上げてメリットを強調する作戦も大失敗でしたね……」
「あそこで封印したロード・コアが復活なんて誰でも予想できないわよ」
本当は送り込んだ人外的要素の強いスライム二百体に加え、予め潜伏させ、結婚を成し遂げた魔物娘で三百件の実例を取り上げようとしたのだが、送ったスライムの約七割がロード・インキュバスに変身した翔一に妨害されてしまったため、強引な手段も相まってかえって交渉の足を引っ張る形となってしまった。
「せめて母様が主神に勝てていたら話は別だったのでしょうけど……」
現在、魔物娘と主神の力は未だ拮抗しており、欠点は克服しきれていない、一応男児も生まれることもあるのだが確率は十分の一とかなり低い
「とにかく、いつまでもこうしていても始まらないわ、次の交渉のことを考えましょう」
「そうですね、頑張りましょう! えいえいお〜!」
「はぁ……先は長いのう」
各々が改めて仕切り直し、数々の不安を抱えながら再び意見を交わしていく、全てはかけがえのない同胞の魔物娘と愛すべき人間の未来を信じて――
◇◆◇◆◇◆◇◆
『――と、このように魔物娘との交流は檜室一箇所に留まり――』
「へぇ、魔物娘かあ、ちょっと怖そうだけど……面白そうじゃん」
しかし、この時誰もが予想し得なかった。
「おわっ、スッゲー美女……これはチャンスか?」
ささやかな交流として始まった翔一の街、『檜室』にて、波乱の騒動が起こることなど――
「……ついに、俺の時代が来たか?」
これが、二つの種族が時に触れ合い、時にぶつかり合う物語の序章に過ぎないなど、誰一人として分からなかった。
16/06/19 21:20更新 / BUM
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