5.黒装束の男
「………世話になった。」
商人たちのキャラバンの馬車から、黒装束の男が飛び降りる。
金属同士がぶつかるような音がわずかに響く。
「いやいや、気にすんな!盗賊どもをぶちのめしてくれた礼だよ!」
ひげ面の男が歯を見せて笑う。
「それにしても、良いのか?もうちょっと先まで乗って行ってもいいんだぜ?」
黒装束の男は小さく笑うと、ひげ面の男に答えた。
「気持ちはありがたいが、こちらも少々事情があってな……。ここまでで十分だ」
「そうか。ならいいんだが……。あ、ちょっと待ちな!」
「なんだ?」
「噂なんだがな、この町に指名手配された……何て言ったかな?とにかくとんでもなく高額な賞金が懸けられた人斬りがいるらしい」
「……ほう?」
黒装束の男は、ひげ面の男の言葉に小さく反応を見せる。
「そうだ、『ウエールズ=ドライグ』って言ったか。お前さんも、聞いたことはあるだろ?」
「……ああ、よく聞く名前だな」
「とんでもないバケモンらしいからな。賞金目当てで近づいて着られないように気をつけんだぞ。」
「……ああ。十分気を付けておこう」
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「ん〜…ふんふん、次は、こっちで……」
薬品と血液をくるくるとかきまぜながら、何やらぶつぶつ呟くベラ。
その様子を眺めながら、三人は菓子をかじっていた。
「おいしいですね」
「んんん、いいお菓子ねえー」
「ああ、悪くないな。美味い美味い」
「あのな、食ってもいいからもうちょっと静かにしてくれんかの?」
そういいながら別の薬品を垂らした瞬間だった。
試験管の中の液体が不気味に光りだした。
「お、お、おお?これは?」
「あら、何かわかりました?」
何か変化が起きたのかと、アネットが試験管に近づいた瞬間だった。
「いや、これは」
ポンッ!と小さな音を立てて、試験管の口から液体が噴き出した。
噴き出した液体は、空中でぱちぱち音を立てながら弾け、床に落ちる。
シュウシュウと泡を立てて蒸発していく液体からは、何とも言えない臭いが漂っている。
「……これ、成功なんですか?」
「うん、まあ、成功というか……結果は出たようじゃなぁ」
「……ベラ様。臭いんで後でちゃんと掃除してくださいね」
「わあっとるわい!……んでな、反応から見るになー。血液中に”何かわからん謎のエネルギー”が含まれとるようじゃな」
「何言ってんですベラ様?」
「いや、だからの」
「精じゃないですか?ヴァンパイアは血から精を吸収しますし」
「やかましいっ!話を聞かんかっ!」
両手を振り回しながら、頬を膨らませる。
「よいか!耳かっぽじってよく聞け!砦での出来事じゃ!教会で大暴れした後にぶっ倒れて、その結果が貧血だったんじゃろ!?」
「それが?」
「いいから聞け!……一応、大昔は使われていた魔法で「血の魔法」と言うものあったらしくてな、血を消費して使うものとして存在していたらしい」
「まんまですねえ。何のヒネリもない名前。名前を付けた人はネーミングセンスがなかったんでしょうね」
「まあ、そう言うな。とりあえず原因はわかったんじゃ!多分これじゃ!」
「まあ……確かに筋は通ってますけど」
「ほぉれみろ!ワシ間違ってないもん!ワシ悪くないもん!」
若干涙目になりながらもぺったんこな胸を張るベラの姿からは、司令官としての威厳は全く感じられなかった。
「(ベラ様、こんなかわいい方だったんですね)」
「(そうよ。いじめたくなるでしょ?)」
「(いえ、そこまでは言いませんけど……)」
「そんなわけじゃから、ロア!お前さんは多分魔法が使える!」
「えっ?私ですか?なんですか?」
「……お前さん、話聞いてたか?」
「聞いてませんでした。ごめんなさい」
「うう……。まあ良い。多分お前さんは魔法が使える」
「えっ!?」
全く予想していなかったベラの言葉に、ロアは驚きの声を上げる。
「しかし、じゃ。魔法の使用には血液が必要になるはずじゃ。つまり、魔法を使いすぎると貧血になる。教会で起こった現象はこれで説明がつく」
ベラが真剣に語るので、三人も黙って話を聞き出した。
「ま!なんで「血の魔法」が使えるのかとか、その辺は全然わからんけども!」
「……」
「そ、そんな目で見るな!」
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オリビア、ロアの二人を部屋に返した後、ベラはアネットだけを「頼みがある」と言って部屋に残した。
「それで、じゃ。アネット、お前さんに頼みがある」
「珍しく真剣そうですね。なんですか?」
「この「血の魔法」に関する情報を探してほしいんじゃ。」
「それは構いませんけど……二人を返したのには、何か訳があるんですか?」
「うん……。いやな、文献にあった血の魔法っちゅうのはな、使い方がかなりエグ〜イものが多かったんじゃよ」
「エグい、と言うと?」
「ストレートに言うなら拷問とか暗殺とかその辺りじゃ。後は相手の血を使って魔法を使うために虐殺が行われたりとか」
「なるほどー、確かにエグい。それで、ロア本人には聞かせないほうがいいと?」
「ん。……そんで、できればな平和的な使用方法がないか探してほしいんじゃ」
「わかりました。……で、司令官は何をするつもりなんです?」
「うん……ワシの方でも「血の魔法」を調べるつもりではいる。古い友人に訪ねてみる」
14/02/17 13:00更新 / ホフク
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