連載小説
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転移勇者Lv1 アルラウネの蔓て煮込んだらおいしそうだよね?
 目が覚めると森だった、そして目の前には湖があった。

 風は心地よく吹き、森はそれに合わせて葉っぱのこすれる音が聞こえてくる。湖は太陽の光が反射しキラキラと輝いている。旅行雑誌で見るような名所を実際に行ってみたらこんな景色なのだろうと思わせる景色だ。

 しかし、そんな中でも心落ち着くことがなく、胸には混乱で埋め尽くされていた。とりあえずここからどうするかなにも思いつかないからだ。こんな自然の山奥に放り込まれたことなど今までなかった。

 それ以前にキャンプすらしたことすらなく強いて言えば、小学校の頃に山奥に合宿したことが一度あるぐらいだ。もしこんなことになるのであれば、食わず嫌いせずにキャンプアニメを見るべきだったと切に思う。

 もしここにネット掲示板があるのなら、この状況を見せたうえで森で生き残るための教えを乞うところだが、残念なことにスマホは圏外となっていた。つまりソシャゲのデイリーすら回せないということだ。

 自身の服装を改めてみる、面接から帰ったままのよれよれのスーツ姿のままだった。上は純白のワイシャツにズボンはぴっちりとしたもの。ムキムキでもなく、太ってもいないため適当に選んで決めたものである。

 ここでふと違和感。左手の人差し指に指輪が一つつけられている。その指輪は禍々しい宝石がつけられており、光を通さないと思えるほどどす黒い色のしていた。その中には幾何学的な文様があり、ふとこれはあの魔本の紋様に似ているなと思いだす。

 試しに取り外そうとするが指輪は離れずがっちりと指に固定されており、試しに目の前の水で濡らしてみるが、まったく外れる気配がなかった。すると、目の前の水が思ったよりも浅い湖だと気づいた。

 試しに手を伸ばすと顔がちょこっと触れるぐらいで底に触れることができた。大体だが腰よりも低い水位なのだろう。大きさはざっと市民プールほどで、遠くにはこの湖に向かって流れる滝が見える。そしてその奥の手前のあたりで溢れた水が再び川となって下流に流れている。

 その先は木々や草木に覆われているので伺うことはできなかった。

「とりあえず…どうすっかなぁ…」

 遭難したときってどうすればいいんだろうね。







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 しばらく俺は何も考えず、原っぱの上で横になっていた。とりあえず何か困ったときとか、どうすればいいのかわからない時はいつもこうやって何も考えず横になっていた。頭からっぽのまま呼吸に意識を向けると不思議とすっきりするのだ。

 考えるのはもうあきらめた。どうやって家に帰るのか、帰ったところで意味はあるのか、これからどう生きていくのか、心の浮かぶのは不安ばかりでまともな思考ができるとは思えなかった。

 人間食べて寝ることさえできれば生きていくことができる。今の自分は死にたくはないし捨てたいとは思わない。だからとりあえず生き延びるために水と食料、そして寝床を確保を目標にしようと思う。

 本当は少しだけ誰かが助けてくれるのでは、女神的な存在がいるのではないかと思ったがそんな気配は全くしなかった。森の音に滝の音、ピーピーと泣く謎鳥の声しか聞こえない。これは一人で頑張れということなのだろう。

 「どっこいしょっと」

 掛け声とともに立ち上がる。水は目の前にあるものを飲むとして、食料は自力で見つけなければいけない。自分には動物を狩る技術もなければ、食べられる植物を見抜く力もない。知識もなく安全に食べられる食料を狙うとすれば果実だろう。正直、それ以外思いつかなかった。

 もちろん毒のある果実があるのは知っているが、流石にそこまでは分からない。そのため出たとこ勝負で行くしかない。それで、もし毒のあるものを食べてしまったのなら自分の運がなかったということだ。

 森は木々でおおわれているが、草は短く歩きやすそうである。なので進む分には問題ないだろう。必要なのは勇気と気力を持って、自分の幸運を信じるだけ。

「行くか」

 いざ、大冒険の始まりだ。

 



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 森の中は思ったよりもサクサク進むことができた。大量にいると覚悟していた虫もそこまで出ないし、坂道も少なく平坦な道が続いている。帰りに関してもそこらへんで拾った木の棒で、地面を削ってきているので恐らく迷わず戻れるだろう。

 しかし、目下目標である果実に関しては今なお見つけることができていなかった。注意深く上も下も眺めているがそれらしいものは何一つ見つからなかった。動物もこの辺りはあまりいないように感じる。

 楽ではあるのだが、このままで食糧確保できるのかという不安が大きくなってくる。漫画やゲームのように果実なんてそうそう見つかるものではないのだろう。わかっていたことではあるが、ここまで見つからないと軽く絶望である。

 疲れたしいったん帰ろうかなと考え始めたころ、かすかに優しい香りが漂ってきた。意識して嗅ぐと、とても甘く食欲をそそられる匂いだった。

 もしかすれば果実のにおいかもしれない。

 もしかすれば当たりを引いたかもしれない。

 この香りはいったいどこから漂っているのか、匂いの元をたどるように先に進んでいく。すると甘い香りはかすかなものから、だんだんと強くはっきりと感じられるようになっていた。

 確実に近づいている感覚がある。これほど甘くおいしそうなにおいのする果実はどんな果実なのだろうか。遭難して初めて楽しみを見つけたかもしれない。

 ドキドキしながら目的の場所にたどり着くと、そこには巨大な赤い花があった。花弁はまるでその中身を守るように閉じられていた。

「あれ、アルラウネじゃん…」

 ここ魔物のいる世界なのか。



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 薄々、そんな気はしていたのだ。魔物図鑑を読んで、謎の光に包まれて、目が覚めたら森の中だったもの。一番最初に考えてた。

 まさか本当にそうだと思わないじゃん。

 改めて、巨大な花を見る。花弁は閉じられている、距離はそこそこあるが、見た感じ大きさは自分よりも少し大きい感じだろうか。茎のあたりは太く頑張れば人を詰められそうだと感じた。

 根っこのほうを眺めてみると、時折蔓の部分がぴくぴくと動いているのが見える。

 魔物図鑑によればアルラウネは甘い香りで人や動物を誘い込み、間抜けにもやってきた生き物を体内で消化する。近づいてきた生物を根っこの蔓を伸ばして捕らえ、中の消化袋で溶かして栄養とする。

 対策は近づかないこと。アルラウネはほとんど動かないため、蔓の届かないところにいれば安全だ。

 なのだが、アルラウネの蜜は欲しい。アルラウネの蜜はアルラウネが分泌する蜜で、非常に滋養強壮がいいらしい。その効果は一口飲めば三日三晩働くことができるほどだそうだ。

 食糧危機である現在、アルラウネの蜜はかなり欲しい。先の見通せない今だからこそ、初めて見つけた食料は見逃したくない。

 どうしよう。

 行こうかな。

 止めようかな、怖いしなぁ。

 木の陰に隠れてウンウン悩んでいると、ぐぱっと目の前の花弁が開いた。急に開いたのでかなりびっくりした。

 そして、その中から緑色の肌をした裸の人間が現れた。

 バツンとした胸に、胸まで届く緑髪、とがった耳は時折ぴくんぴくんと動いている。彼女はこちらを見据えながら、余裕のある態度でこちらに話しかけてきた。

「あら、こんなところにヒトが来るなんて。いらっしゃい、歓迎するわよ」

 乳首が髪で隠れてなければ完璧だったのに。






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「どうしたのかしら、よければこっちに来て話さないかしら?」

 目の前のアルラウネは余裕のある態度を崩さずにこちらに話しかけてくる。その表情から目の前の存在は強い自信にあふれていることがわかる。

「大丈夫よ、怖いことなんて何もしないから。こっち来てみて?」

 アルラウネは図鑑で見た限り、中身は割と気持ち悪い肉の塊だったはずだった。つまりこのアルラウネは変種の可能性がある。

「ねぇ、どうして無視するの? ちょっと私、悲しいわよ」

 じっくりと眺めていればなるほど、男好きする身体に、好意的な態度、見た目が人間に近いこともあり何も知らなければ近づいてしまうだろう。

「ねぇ、聞こえてる? ねぇってば、ねぇー」

 全身がまるでマッサージAVのように輝いているが、あれが間違いなくアルラウネの蜜だろう。下半身あたりを見れば、花の中に蜂蜜っぽいのが見える。

 どうやらあのアルラウネは甘いにおいと女性の体を使い、男性をメインターゲットとして捕食するタイプらしい。図鑑には載っていなかったが、どこかの説明で魔物は変化や進化は珍しいことではないと書かれていたので、これはアルラウネの進化した姿なのだろう。

 目の前のアルラウネはまるでいじけたように、蔓で土をいじっていた。その反応からまるで本物の人間のように感じるが、魔物はどんなことがあっても信じてはいけないと図鑑にも書いてあった。そのためこの魔物に対して最大限の警戒をもって接するべきだろう。

「あの、すみません」

「っ! なにかしら、何か聞きたいことがあるのぉ!」

 今まで無視してきたからだろうか、声をかけた瞬間びくっと反応し、上ずった声で返事を返してきた。

 先ほどと同じように強気な態度をしているが、動揺のあまりきょろきょろと視線を泳がせている。そして、やっぱり乳首は髪に隠れて見えない。

「実はあなたの蜜が欲しいのですが、譲っていただけませんか?」

「蜜? なるほどねぇ、服装から見てただものではないと思ったけど、あなたさては商人ね! しかも、魔物娘相手に直接交渉するなんて…なかなか大した胆力じゃないかしら?」

 何か変な勘違いされている気がする。

 まぁいいか。

「いいわ、その胆力を称賛して譲ってあげる。でも条件があるわ」

「条件とは何でしょうか?」

「当然、お金よ! 物をもらうときには対価が必要なのは常識でしょう? そうねぇ、大体、銀貨十枚といったところかしら? 商人だったらこれぐらい払えるでしょう? というわけ、こっちに来て…」

「あ、すみません。持ってないので帰りますね。では」

「え!? ちょ、ちょっと待って! もしかして高すぎた? だったら銀貨一枚、いえ、銅貨一枚でも…」

「いえ、そもそも私はお金を持っていないのです」

「あなたよくそれで蜜をもらいに来たわねぇ!?」

 条件と言われて嫌な予感はしていたが、まさかお金が必要だとは。しかし、銀貨だとか銅貨だとか貨幣制度が若干古めかしい気がする。

 こういうときはどうするか、とりあえず謝っておくか。

「申し訳ありません、まさか必要だとは思っておりませんでした」

「あー、まぁ確かに、普段はみんなにただで配ってたし…それのせいかも…」

 アルラウネは頭を振って、ウンウン悩み始めた。頭を右に揺らしては髪は右にずれ、左に揺らしては左にずれる。しかし、乳首の部分だけはまるで糊でくっつけたように動かなかった。

 しばらく悩んでいたが、何か思ついたのか、表情を余裕のあるものに変えこちらを見据えてきた。

「いいわ、ここまで来た胆力に免じてあなたにもただで譲ってあげる。その代わり蜜の味の感想を聞かせてもらえないかしら。自信はあるけどヒトがどんな感想を持つか気になるしね? だからほら、入れ物もってこっちにいらっしゃい」

「すみません、それも持ってないので、できればそれも譲ってもらえませんか?」

「あなた本当に厚かましいわね!?」

 そういいつつも、アルラウネはしょーがないわねぇとどこからか酒瓶を取り出し、自身の蜜をそこに流し込んでいく。

「ほら、入れたわよ、取りに来なさい」

「はい、そのままこちらの方に投げてきてください」

「はぁ、あなた何言って…?」

 そこまで言ったところで、アルラウネは先ほどの余裕のある表情を消して無表情のままこちらを眺めてくる。先ほどの態度とのギャップが重苦しい空気を自身に与えてくる。

 しかし当然だろう、これはつまりお前のことを信用していませんと言っているようなものなのだから。相手の機嫌が悪くなるのも仕方ないことだろう。

「ふーん、なるほどねぇ…いいわよ、ほら」

 そういうとアルラウネは自身の手前まで酒瓶を投げてきた。

「ほら、勝手に持っていきなさい」

 酒瓶はおよそ自身の三歩先といったところだ、アルラウネとの距離は充分にある。図鑑で見た蔓の範囲も余裕がある、だから大丈夫。

 …本当に…?

「…どうしたの? 早くもっていったら?」

 アルラウネをもう一度見てみる。先ほどから冷たく、無機質な声しか聞こえない。それは自分が先ほど酷い発言をしたからだ。そして、その結果自分に対し失望したからこその発言だ。

 彼女は先ほどから無表情のままだ。人懐っこかった瞳は冷たい目でこちらを見ていた。しかし、どこか違和感も感じる。失望したのなら侮蔑し見たくもなくなるだろう。もしくは単純に興味がなくなるはずだ。

 それなのに、彼女はじっとこちらを見てくる、こちらの動きを観察するように。そして表情の硬さも気になる。まるで緊張しているみたいだ。彼女を見ているとかつてのクラスメイトを思い出す。美人な先輩に告白し、その返事を待つ彼の姿と重なって見えてしまう。

 彼女は何を待っているのだろう?

 それは自分が瓶をとる瞬間だろう。

 なるほど、となるとアルラウネの習性を考えればおのずと答えは導き出せる。

「あの、すみません」

「…どうしたの? いいからさっさと持って…」

「そこ、蔓とどきますよね?」

 彼女はそこで初めて表情を崩した。そして悔しそうな顔でこちらを睨みつけてくる。

「蜜、欲しいんですけど」

「・・・」

「嘘つくんですか?」

 そこまで言ったところで瓶の下から蔓が飛び出て、こちらの方に転がしてきた。その表情はとてつもなく苦々しい表情だった。

 正直に言うと、アルラウネと話していてもしかすれば彼女はいいやつなのではないかという疑問があった。しかし、その疑念は彼女の態度を見れば杞憂だったようだ。恐らく、酒瓶を取りに来たところで自分を捕獲するつもりだったのだろう。

 そして捕まればきっと、そこまで考えたところで身震いをする。

 しかし、本当に蜜を渡してきたところからもしかすれば、思ったよりも素直な部分があるのかもしれない。

「…蜜、ありがとうございました、それでは…」

「待って! 約束守りなさい!!」

 ここから立ち去ろうとしたところアルラウネに呼び止められる。約束と言えば蜜の味の感想を伝えてほしいというやつだろうか。こうして蜜が手に入った以上別に言うことを聞く必要もない。

 アルラウネはこちらをじっと睨んでくる。その瞳はまるで縋るようにも見える。客観的に見れば今ここで飲まないほうがいいと思っている。しかし、約束したのに破るのはあまりやりたくはなかった。

 蜜をよく見てみる。ぱっと見では蜂蜜のようだが、振ってみるとさらさらとしていて水の様に見える。甘い香りもダイレクトに伝わりとてもおいしそうだった。

 瓶のふたを外し、少しづつゆっくりと口の中に注ぐ。

「あ…」

 アルラウネのか細い声が聞こえてくるがそれどころではなかった。この蜜は今まで食べてきた物の中で一番おいしいと感じられたからだ。

 味も風味ももちろん良いが、それ以上にガツンと自分の中で足りない栄養素を過剰に与えられたような、すごく元気になるお薬を食べたような、激しい運動をした後のスポーツドリンクのような、そんなおいしさがあった。

 ごくごくと瓶の中身を飲んでいく。飲み終わるころには瓶の中身が半分ほどに減っていた。

「おいしかったです、蜜ありがとうございました」

「あ、えっと、ありがとう…」

 感想を伝える、いや本当においしかったので、心の底からおいしかったと伝えた。

 それが伝わったのか彼女からの返答は喜色だった。しかし、若干悲しげにも聞こえた。

 こうして目下目標の食料を確保したので、湖に帰ることにした。

 ライブ感で何となく帰ってるけど、お代わりもらっておけばよかった。










22/06/28 17:29更新 / LV0
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■作者メッセージ
クラスメイトは先輩とうまく付き合えました。

次回はアルラウネ視点そして敗北Hシーンです。

デザインどうすればいいのかわからなかったのですが、サイドバーだと読みづらかったのでノーマルに変えます。

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