読切小説
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ルールと言い訳
満月が照らす、色とりどりの花畑。俺は毎日のようにそこへと向かっていた。
そこにはいつも、月光にきらきらと輝く金髪と、ルビーのような真紅の瞳を持つ二人の少女がいた。

「なんじ、すこやかなるときも、やめるときも、えーっと……どんなときでも、わたしのいもうとをあいせるとちかいますか?」

たどたどしい言葉遣いで、横にいる女の子が俺に尋ねてくる。

「はい、ちかいます」
「アイリスちゃんは、ちかえますか?」

俺と同じ質問を投げかけられた女の子は、どこか緊張したような顔で、俺の目をまっすぐ見つめながら答えた。

「はい、ちかいます」

それを横から見守る女の子は、その答えに笑みを浮かべていた。

「しょうがないから、ふたりをけっこんさせてあげます」


―――――――――――――――――――


「ん………」

窓から差し込む光によって、男の意識は覚醒へと導かれた。
瞼が開くと同時に飛び込んでくる光量に顔をしかめつつ、ベッドから身体を下ろす。
――なんだか、懐かしい夢を見ていた気がする。
欠伸を咬み殺しながら、洗面所へと向かう。顔を洗い、寝巻きを脱ぎ、仕事用の服へと袖を通す。

子供の頃のよくある話。当時は、それがどれだけ重要な事かなんて分からない。
言わば大人が行っている行為そのものに憧れているのであって、相手に恋愛感情すら必要ではない。
身近で、ごっこに付き合ってくれる異性であれば、誰でもいいのだ。
時は止まってはくれない。皆いつか大人になり、幼い頃の約束は、無知からの脱出と共に時効を迎える。

――何が、いけなかったんだろうな。

そんな事を考えながら、男は仕事場である屋敷の中庭へと向かった。




木の剪定は知識とセンス、技術のそれぞれが一定水準以上のレベルで求められる作業だ。
木はその背が高くなればなる程、根元と先端の間に遠近法が発生し、それを考慮に入れた剪定を行わなければならない。客人が訪れた場合にその木が目に留まる角度を割り出し、その全てからなるべく完璧に見えるように仕上げる必要がある。
万が一多く刈りすぎてしまった場合、枝葉は一日や二日で伸びるものではなく、その間主人に恥をかかせることになってしまう。かといって、必要以上に一つ一つに時間をかけてしまうと、今度は枝が成長する速度に剪定が追いつかなくなってくるのが意地の悪いところである。
もっとも、この館の専属庭師である彼の頭にはその全ての情報が知識として詰め込まれており、余った時間を更なる庭の完成度に注ぎ込む時間も十分過ぎる程にあるのだが。

「ん〜、こんなもんかな……」
「おーい、ヘルムーっ♪」

一区画を刈り終え、地面に散らかった葉っぱや枝の掃除に取り掛かっていた男――ヘルムが自分の名を呼ぶ方に顔を上げると、屋敷の中から容姿のよく似た女性が二人、こちらへと歩いてくるところだった。

「どうかなさいましたか、お嬢様方?」
「……他に人もいないのに、その呼び方はやめてよ。何かヘルムに畏まられるとむずむずするから。」
「あはは、すみませんリリィさん」
「分かればよろしい。……あ、もうこんなに刈り終わったの?うんうん、流石は我がブラッドベリー家の専属庭師ね」

怪しい魅力を湛えた真紅の切れ目に絹のような金髪、そしてすらりと伸びた長身。どこか近寄りがたい雰囲気の見た目とは裏腹に、人懐っこい笑顔で笑う彼女の名前はリリィ・ブラッドベリー。この館の主であり、ダンピールという半人半魔の特殊なヴァンパイアの突然変異種である。

「……姉上。主ともあろう者が、使用人にそのような振舞いを許すなど……関心できません」

そして、こちらの見た目通り近づき難い彼女がアイリス・ブラッドベリー。館のもう一人の主であり、リリィさんの妹であり、姉とは違い純粋なヴァンパイアだ。

「えー、いいじゃない、小さい頃は3人でよく遊んだでしょ?」
「あの頃とは立場というものが違います。それに私たちは吸血鬼という高貴な血を引いた――」
「んー、でも私、半分人間だし……」
「……はぁ。では、勝手になさって下さい」

ため息と共にそう言い捨てると、アイリスは踵を返し一人で屋敷の中へと帰っていってしまった。
一人残ったリリィが、ヘルムに申し訳なさそうな苦笑を見せる。

「……ごめんねヘルム。アイリスちゃん、ベッドに入る前で機嫌が悪かったみたい」

ヴァンパイアは怪力に加え膨大な魔力も併せ持つ、限りなく最強に近い種類の魔物であるが、代わりにやたらと弱点が多い。太陽の光はその中でも最も有名なものだろう。
太陽の下にいる限り、ヴァンパイアの魔物としての力は殆ど押さえ込まれ、人間の少女と変わらない程に非力な存在となってしまう。そのためヴァンパイアは、基本的に夜行性の魔物なのだ。
ちなみにダンピールは性質的に人間に近いらしく、特に大きな弱点は存在しない。
……半人半魔の方が純血より強くなっている気がしてならないのだが、そういう訳でもないのだろうか。

「別に、気にしてませんよ……いつもの事ですし。」

丁度、父親からこの館の専属庭師としての技術を全て学び終え、その役目を交代した頃からだ。アイリスは俺の事を話す際、まるで面識のない他人の事を語るように話すようになり、俺が話しかけても見えも聞こえもしないかのように振舞うようになってしまった。
先ほどの会話も、全ては姉のリリィさんとの間でのみ行われたものであり、俺の方へは視線の一つとして向けられる事はなかった。
正直、その兆候が出始めた直後の頃は、本当につらかった。
自分が何か酷い事をしてしまったのではないかと、何度も悩んだものだ。まぁ、結局何も思い浮かばなかったのだけれど……

「あ、そうだ」

肩を落とす俺を見て、何かを考えていた風だったリリィさんがポン、と手を打つ。

「いつもアイリスちゃんが迷惑をかけてるお詫びも兼ねて、今度二人でお茶でもしない?」
「え、それは嬉しいですけど……いいんですか?またアイリスに何か言われるんじゃ−―」
「いいのいいの。ヘルム以外だと、お話しても猫かぶるので大変でねぇ。アイリスちゃんもあんなだし」
「じゃあ、いつにします?」
「んー、明後日ぐらいかしら?場所はここで。それまでにこの庭、もっともっと綺麗にしておいてね♪」

じゃあ、またねと片手を挙げ、リリィも屋敷の中へと戻るために歩き歩き始める。その後ろ姿を目で追っていると――

「……ん?」

一瞬、視界の端で、屋敷の2階の窓から誰かがこちらを見ていた気がした。
が、改めてその窓に目を向けてみても、そこには誰もいない。

――気のせいか?

ヘルムは首を傾げながら、集めた枝葉を移動させるのだった。














「………もうそろそろ、本当に限界よ?」

ポツリと、呟く。




――――――――――――――――――――



「じゃーんっ♪」
「おぉぉぉ………!!!」

テーブルの上に並べられたのは、一品一品がヘルムの給金一日分はするであろうスイーツの数々。
ヘルムはそこまで甘党という訳ではないが、屋敷お抱えとはいえ平民がそうそう食べられるようなものではない。胸が高鳴るのも仕方がない事だろう。
しかも美味しそうな紅茶をリリィさんが淹れてくれて……って

「リリィさん、流石にそれは他の人に見られたら示しがつかないのでは……」
「もー、ヘルムまでアイリスちゃんみたいな事言うんだから」

頬をぷくっと膨らませて抗議するリリィ。アイリスのようになられると勿論それは悲しいが、こっちはこっちで少しフランク過ぎやしないだろうか。

「大体貴族とか、高貴とか、実感としてよく分からないのよね。私なんて、ちょっと強い人間とほとんど変わらないじゃない」
「リリィさんと互角なのをちょっと強い人間の定義にしてしまうと、この世界から強い人間が激減してしまうと思います……」

ついでに、そんな綺麗な人間の女性なんて見たことないです。と心の中で付け加えておく。
にんにくは食べられる。真水に触れても平気。日光に当たっても力を失わない。おまけに気配や魔力も人間の物に近いときた。
もしかすると、ヴァンパイアに貴族の自覚を持たせているのは、その弱点の多さなのかもしれない。
それほどに多くの弱点を抱えて尚、生き延びる事が出来るに留まらず、他者をひれ伏させ、従える事が出来る。その自分の血統と力に対する絶対の自身が、ヴァンパイア特有のプライドの高さへと繋がっているのではないだろうか。
まぁ、いくら考えても純血のヴァンパイアではないリリィや、ただの人間であるヘルムには分からない事であるのだが。
そんな事を考えながら紅茶を飲んでいると、不意にリリィが口を開いた。

「ヘルムって、アイリスちゃんの事、まだ好きなの?」

「ぶっ!?……ごほっ、げほっ!!!」

唐突過ぎる質問に、紅茶が気管に入り激しく咳き込む。
その様子を、くすくすと笑うリリィ。

「ヘルムって、本当に嘘がつけないよね。――まぁ、そんな所に惚れちゃってるんだけど♪」
「っ!?」

今、なんて――!?
そう、口を開こうとして。急に、身体の自由が利かなくなっている事に気がつく。
それに、なんだか、体が熱くて―――

「そのお茶ね、魔界に自生する薬草で淹れたんだ。一時的に軽い痺れ効果のある媚薬で、魔物が男を襲う時に使うんだって。――まぁ私には全然効かなかったから、やっぱり私ってちょっとどころじゃなく人間より強いんだね。うんうん」

椅子からずるりと落ちそうになるヘルムを、リリィは軽々と抱き止め、耳元で囁く。

「アイリスじゃなくて、私じゃだめかなぁ?見た目は殆ど一緒だし――私は、ヘルムを悲ませたりなんてしないよ?」
「っ、ぁ……………」

そしてそのまま、屋敷の中へと消えていった。



―――――――――――――――――――



熱い。熱い。熱い。
まるで高熱が出ているかのように、体中が熱くて仕方がない。

「ほら、ドキドキしてるの、分かる……?」

リリィの私室。下着姿のヘルムは、ネグリジェ姿のリリィによって、天蓋付きのベッドに押し倒されるような形で密着していた。
分かる。とてつもなく大きくて、柔らかくて、それなのに重力で崩れないその胸が。
きゅっとくびれたウエストが。
男ならば誰しも生唾を飲んでしまうような、むっちりとした太ももが。
とてつもなく魅力的なリリィの体がほんのりと赤く染まり、胸が高鳴っているのが分かる。
ぼーっとしているはずなのに、そんな性的な刺激ばかりが、いやに鮮明に頭に飛び込んでくる。

「もう暫くしたら体が動くようになるから、少しだけ我慢してね――?」

押し倒されたヘルムの唇に、リリィのそれがゆっくりと近づけられてゆく。
そしてそれが完全に重なる――

「お姉ちゃんっ!!!!!」

寸前で、部屋のドアが勢いよく開かれた。
そのまま部屋の中へと飛び込んできたアイリスはリリィからヘルムを奪い取り、姉から守るように抱きしめる。

「ヘルム、大丈夫!?お姉ちゃんに何飲まされたの!?」
「あい、りす……?」

涙目でヘルムに問いかけるアイリス。
――あぁ、そういえばこいつ、昔は泣き虫だったっけ。
久しぶりに名前を呼ばれたヘルムは、朦朧とする頭でそんな事を思い出していた。
そんな二人を見て、リリィは悪びれる様子もなく、嬉しそうにニコニコと笑っている。

「うんうん、やっぱり姉上よりお姉ちゃんの方がしっくりくるなぁ」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょう!?ヘルムに何をしたの!?」

「何って……んー、こんなこと?」

リリィが、妹の頭に向かって手をかざす。

「………っ、ぁ、ぁ……!?」

突然、アイリスの体がブルブルと痙攣し始めた。真っ赤に上気した額には脂汗が滲み、息も段々と荒くなっている。
――ヴァンパイアの弱点のうち、一般的に知られていないものに、同族の突然変異種であるダンピールの魔力がある。それはその知名度とは裏腹に、日光のように力を奪い、ニンニクのように理性と思考力を奪うという、ヴァンパイアが最も恐れる強力無比な性質を持つものだ。
手をかざしたまま、ゆっくりとリリィが近寄ってくるのだが、アイリスの身体の震えは強くなるばかりで、反応する事ができない。

「アイ、リス……っ?リリぃさん、何を」
「大丈夫、痛いことはしてないから♪」

手が触れる距離まで近づいてきたリリィは、ヘルムを抱きしめたままのリリィを、さらに後ろから。ヘルムごと抱きしめる。
そうして、ダンピールの姉は、ヴァンパイアの妹の耳元で囁き始めた。

「ずっと、見てたんだよね?お姉ちゃん知ってるんだよ?」
「………っ」
「ヴァンパイアとしてのプライドに目覚めてからも、素直になれない自分にイライラしながら、ずっと、部屋の窓から、お仕事してるヘルムの事を見てたんだよね?」
「ちっ、違っ……!」
「今日も、私とヘルムがお茶してた時から見てたんだよね?当然だよね。わざわざ、リリィの部屋から一番よく見える場所で、見せつけるみたいにお茶してるんだもんね?」

何時の間にか、するすると、リリィの手がアイリスの服を脱がせ始めていた。
アイリスは、抵抗できない。

「それで、ヘルムの様子が急におかしくなったから、いてもたっても居られなくなって、お姉ちゃんの部屋に飛び込んできたんだよね?お姉ちゃんに、好きな人を無理やり取られちゃうんじゃないかって、怖くなったんだよね?」
「っ!違う、誰だってあんな光景を見たら―――!」
「そう、全部私が悪いの♪」

アイリスの身体を隠すものは、もはや下着のみとなっていた。

「ヘルムがこんなに興奮しちゃってるのは、騙して媚薬を飲ませた私のせい。アイリスちゃんに私の悪事がバレちゃったのは、バレるような場所でそれをした私のせい。それを助けに来たアイリスちゃんが今、ヘルムを滅茶苦茶にしたいと思っているのも、私のせい。だから――」


「もしここで、アイリスちゃんがヘルムを襲っちゃっても――しょうがないんじゃないかなぁ♪」


アイリスの耳に息がかかるほど近くで、リリィは囁き続ける。外からは、ダンピールの魔力が。内からは、姉の甘すぎる言葉が。両方からアイリスの理性を溶かしてゆく。

「しょうが、ない……?」
「うんうん。ヴァンパイアが、天敵のダンピールの魔力を浴びて、媚薬を飲まされた、ずっと好きだった男の子を抱きしめてるんだよ?ずっと、噛み付いて、血を啜る事を夢見てた首筋が、目の前にあるんだよ?」

ひょっとしたら、そうなのだろうか。そうなのかもしれない。今こうして我慢しているだけで、私は充分抗ったと言えるのではないだろうか。
私はヘルムの事を好きだったという事実を否定するのも忘れて、目の前にあるヘルムの首筋を凝視する。
不意に、リリィがヘルムの胸板をつぅ、と撫でた。

「っぁ………っ!」
「ねぇ、ヘルムもこんなに体中敏感になっちゃって、かわいそうだよね?ヴァンパイアである前に、魔物として。そんな状態の好きな人が目の前にいたら、助けてあげないとダメだよね?」
「………うん」

そうだ、これからすることは、ヘルムを助けるためなのだ。
――だから、しょうがない。私は、悪くないし、ヴァンパイアのプライドも捨ててない。
リリィは微笑みながら、アイリスの頭をよしよし、と撫でる。

「うんうん。アイリスちゃんはいい子だねぇ♪……食べる前には?」
「いただきます……っ!」

ぞぶり、とアイリスの牙がヘルムの首筋に沈む。

「あ゛ぁぁぁあぁぁぁぁあぁっ!!!?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ♥ 」

ただでさえ媚薬で敏感になっている体に、直接魔力による快楽を打ち込まれたヘルムが絶叫する。
同じような感覚は、血を吸っているアイリスも感じていた。

おいしい、おいしい、おいしい、おいしい………っ!!

アイリスの舌には、それはどんな料理人が贅を尽くした料理よりも、どんな有名な酒蔵で長年寝かせられたワインよりも、ずっとずっと美味なものであるように感じられた。
それだけでなく、嚥下するたびに体が熱くなり、例えようのない陶酔感と興奮で頭がどうにかなりそうになる。

「ほらほら、こっちもお世話してあげないと。苦しそうだよー?」

夢中で血を啜っていたアイリスの手が、リリィによって、極限まで膨らんだ男根へと導かれる。

「ぁ―――」

下着の上からでもはっきりと分かる硬さと熱に、アイリスの胸がとくん、と高鳴る。
もはや逃げる気配のない妹から身体を離したリリィが、ヘルムを抱きしめたままのアイリスに代わって下着を脱がせる。すると、勃起を妨げる物が何もなくなった肉棒が、一度びくん、と跳ねてからそそり立つ。
――すごい。

「これが、ヘルムの……」
「ぅ、ぅ……っ!!」

さわさわと竿の部分を撫でられ、ヘルムの口から掠れた声が漏れる。
自分の手の動きに合わせてペニスがぴくぴくと反応するたび、アイリスの下腹の辺りがじゅん、と疼く。

「ヘルムだけが裸なのは、お姉ちゃん可哀想だと思うなぁ♪」

それもそうだと思い、手を差し出してくる姉へと全裸のヘルムを預ける。不思議と、ヘルムを取られるとは感じなかった。
リリィはそれを受け取り、自らの身体を背もたれにするようにしてヘルムを座らせる。そのヘルムの視線を痛いほど感じながら、アイリスは生まれたままの姿となった。
ごくり、と彼が生唾を飲む音が聞こえる。

「ヘルム……私、変じゃないかな?」
「………へ?い、全然!凄く綺麗だと思うぞ!?」

舌は大分動くようになってきたらしいヘルムが、ハッとしたように慌てて答える。
自分の体に見惚れてくれていたのだろうか。そう考えるだけで蜜がじゅんと溢れ、幸せで頭がくらくらしてくる。
それを必死で堪えながら、アイリスはお姉ちゃんに支えられたヘルムと向き合うような体制になる。対面座位、といっただろうか。

「それじゃ、入れるね……?」
「あ、あぁ………」

お互いに荒い息で見つめ合いながら、数回、くちくちと性器をすり合わせ――
――そして、一気に腰を下ろした。

「あ、あぁぁぁぁあぁぁ………っ♥」
「っ…………!!」

純血を肉の槍が突き破る一瞬の痛みの後、いままでの下腹の疼きを一気に満たすような強烈な快感がアイリスを襲った。だが、その快感は波のようなものであり、最大の快感が持続するわけではない。
それは自分の中に埋まっているペニスの反応から、ヘルムも同じである事が分かった。
だから、ずっと、もっと、目の前の愛する男と一緒に気持ちよくなるために、アイリスは腰を振り始める。

「あ、はぁ……っ。ヘルムぅ……っ!」
「っ、アイリス……っ!」

愛し合うとは、なんと素晴らしいことなのだろう。快楽と共に、相手を愛しいと思う気持ちが膨れ上がって、止まらなくなる。
と、そんなヘルムの視線が自分の胸に向いている事に気がつく。

「んっ、……お姉ちゃん、その……」
「ん、分かったよ♪」

種族が違っても、それが姉妹の成せる技なのか。みなまで言わずとも察したリリィが、ヘルムの手を取りアイリスの胸へと押し付ける。
ネグリジェ越しに背中に押し付けられているリリィのものより幾分か小さいが、姉のふにふにとした柔らかいマシュマロのような感触に対し、ぷにぷにとした弾力性と、手のひらに伝わるコリコリとした乳首の感触がヘルムを更なる興奮へと導く。
もう、限界だった。

「アイリス、そろそろ、俺……っ!!」
「いいよヘルムっ、いっぱい、出して………っ!」

アイリスがヘルムの首へ手を回し、その唇を塞ぐ。
そして、二人は――そのまま、絶頂を迎えた。

「「…………っ!!」」

唇を塞ぎあった二人が、声にならない嬌声をデュエットしながら、最後の一滴まで子宮の奥へと注ぎ込もうと腰をすり合わせる。
あぁ、幸せぇ…………っ♥
自らの胎内へ打ち込まれた子種を感じながら、夢見心地でアイリスは深い息をついた。

「んぅ……ちゅぅ……っ」

そして射精を終えた、膣の中で幾分か柔らかくなった肉棒を愛しく思いながら、キスを繰り返し――

――ヘルムの肩越しに、慈愛に満ちた笑みで二人を見守るリリィの姿が目に入った。

アイリスの頭に、幾分か冷静な思考能力が戻る。
どうしても、姉に聞かねばならない事があった。

「ねぇ、お姉ちゃん……なんでこんな事したの?」
「アイリス、なんでって……」

息が整い、身体の自由もある程度戻ったらしいヘルムが、アイリスを抱きしめながら苦笑する。
アイリスに囁いていた内容から察するに、リリィは両思いなのにまともに話も出来ない自分達の為を思って一芝居打ってくれたのだろう。
だがそれを口にするには、自分達が両思いであった事を含めて言わねばならず、気恥ずかしくて……誤魔化すようにアイリスの髪を撫でる。
だが、アイリスは納得していなかった。

「違うの、お姉ちゃんは――本当に、ヘルムの事が好きなはずなの」
「……はい?」

ヘルムが、慌てて未だ背中から抱きついているリリィへと振り向く。
リリィは、顔色一つ変えずに微笑んでいる。
だが――ヘルムは、その笑顔はなんだか、いつものリリィのものとは違う気がした。そして何より、その笑顔をどこかで見たことがある気がした。

「……さぁ?お姉ちゃん、何の事だかさっぱり――」
「お姉ちゃん、私、ヘルムを見てた時間よりも沢山、お姉ちゃんを見てるんだよ?」

本人は同じように振舞っていたつもりなのかもしれない。実の妹にしか分からない微細な変化だったかもしれない。だが、他の人と接する時と、ヘルムと接する時の姉では、確かに態度が違っていたのだ。
姉が、どれだけ表に態度を出すことがなくとも妹の想いを理解していたように、妹もまた、姉がヘルムに恋をしている事を見抜いていた。

「……ねぇ、なんでこんな事したの?」

そして、自分よりも姉のような者のほうが、きっとヘルムを幸せにしてくれるとも思っていた。実際、今日だって薬など使わず、リリィが普通にヘルムを部屋に誘っていたとしたら……アイリスは、涙を飲んで、ヘルムの事を姉に譲るつもりだったのだから。

「アイリスちゃんの勘違いじゃないかなぁ?うんうん。お姉ちゃんの演技が迫真過ぎて、不安にさせちゃった?」

だから、それを聞かないままに、ただ愛する男を譲られて終わりというのは、アイリスのプライドが許さなかった。ヴァンパイアとしての、ではない。妹として。そして同じ男に恋焦がれた、女としてのプライドが許さなかった。

「………」
「あ、アイリス……っ!?」

アイリスは無言で、ヘルムの首筋に牙を突き立てた。ヘルムの体に再び魔力が打ち込まれ、顔は切なげに歪み、アイリスの中に埋まったままのペニスも硬さを取り戻し始める。

「うんうん。それじゃあ、お邪魔虫は………っ!?」

リリィは、最後まで言葉を続ける事が出来なかった。急に顔を上げたリリィが、ヘルムから離れようとしたリリィの腕を捕まえて引き戻し、口を塞いだからである。
――その、唇で。
その勢いのままにベッドに押し倒すと、手足を押さえ込み、まるでお互いの唾液を交換しあうような、濃厚なキスを始める。

「んぅっ!?アイ、リスちゃ……っ!?」
「ん、っ………♪」

いや、違う。アイリスがリリィに口移ししているのは、己の唾液ではなく、血。ヘルムから吸い上げた血液を己の舌にの乗せ、姉のそれと絡めているのだ。

「……っ!!!!!」

唐突過ぎるアイリスの行動に対する疑問は、目の前のあまりに倒錯的な光景への欲情で塗りつぶされる。吸血鬼の妹が姉をベッドに組み伏せ、無理矢理に唇を奪っているのだ。
しかも徐々にだが、最初は抵抗していたはずのリリィの身体から徐々に力が抜け、目にも欲情の色が入り始めているではないか。

犯したい。二人を、ちゃんと体が動く今の状態で、犯してみたい。そんな欲望がむくりとヘルムのなかで起き上がり、徐々に身体を支配してゆく。

アイリスは、リリィが最早抵抗しなくなったのを見て、ようやく口を離した。

「はぁ……はぁ………っ!!」
「……どう?ヘルムの血、美味しいよね?どうしようもなく体が熱くなって、虚勢なんてどうでもよくなって、おちんちんでめちゃくちゃにして欲しくてたまらなくなるよね?」

ヴァンパイアに準ずる力を持ちながら、人間に近い性質を持つダンピールにも、吸血衝動がある。しかし多くのダンピールはそれを必死に押さえ込み、実際に人の血を吸うに至る者は殆どいない。
――なぜならば。一度血の味を知ってしまえば、二度とその衝動と、吸血に伴う性欲を抑えられなくなることを、本能的に知っているから。

「し、しら……ない。おね……ちゃん、へいき……」
「……そう。ヘルム、私だけ好きに犯していいよ」

本人にも気づかぬ内に、引き寄せられるように二人へと近づいていたヘルムは、先程自身の欲望を吐き出したばかりの穴へと、容赦なく腰を突き入れた。

「っ、ほら、っ、おねえちゃん、これぇ、とってもきもちいいんだよぉ……っ?」
「あ、ぁぁぁぁあぁぁ………っ!!!」

先程までと違い、背後からという屈辱的な姿勢で、ヘルムの思うままに腰を打ち付けられるという行為は、アイリスの中の被虐感に火をつけ、雌としての喜びを一気に膨れあがらせる。
そんな妹のとろけきった顔を見て、リリィは顔を歪め、嫉妬と、羨望と、欲情の入り混じった声をあげる。
ヘルムはそんな二人の姿に、もはや声すら出ない程に興奮し、意思を持った肉玩具として腰を振り続けていた。

「おねぇ、ちゃんがぁ、ヘルムのこと、好きって認めるならぁ、おねえちゃんにもヘルムのおちんちん、わけてあげるぅ……っ」
「……………っ!!」

リリィは潤んだ目をぎゅっと閉じ、必死に欲望に抗いながら、ゆるゆると首を横に振った。

言葉では、もう、否定できなかった。

「っ、おねえちゃんもぉ、ヘルムの血、飲みたいの、ずっとがまんしてたんだよねぇ……っ?それをむりやりのませたのは、わたしだよ?じゃあ、おねえちゃんががまんできなくても、しょうがないんじゃないかなぁ……っ?」

あぁ、アイリスもあの時、こんな気持ちだったのだろうか。
それはとても悪い事をしてしまった。

こんなに我慢するのが辛いのに、そんなに甘美な誘惑なのに――耐えられるはずが、ない。

「……っ、私も、ヘルムの事が――好き……いぃっ!!?」

言い終わる前に、ずらされた下着の横から挿入されたヘルムの肉棒によって、リリィの純潔は散らされていた。
そんな、獣のように、急に、奪われたはずなのに。一瞬なりとも、痛みもあったはずなのに。

リリィはその瞬間に、幸福しか感じていなかった。

ずんずんと膣肉がかき分けられ、腰が打ち付けられるたび、とろけた顔で嬌声をあげるリリィ。
そんな姉がなんだか可愛くて、そんな大切な快感を分けてくれた妹が愛おしくて、姉妹は自然とキスを交わし始める。

「ちゅ、ごめんね、あいりすちゃ…んんっ……!」
「んっ、いいよ、ちゅぅ……っ、私、お姉ちゃんとなら、嫌じゃないから――っ!!?」

リリィの愛液にまみれたペニスが、再びアイリスの膣へと挿入される。そしてそのヒダヒダを蹂躙し、その味を充分に味わうと、それはまたリリィの中へと戻される。

「っ、ぁ、ヘルムぅ、凄いよぉ……っ!」
「最後はそのまま、お姉ちゃんに出してあげて……!」
「っ……イクぅぅぅ……っ!!!」

絞り出すような声と共に、腰が勢いよく打ち付けられ、射精が始まった。

「あぁぁああぁぁぁぁぁぁ………っ♥」

子宮が突き上げられ大量の精液が浴びせられる感覚に、リリィもまた絶頂を迎える。無意識の内に少しでも精液を搾り取ろうと、膣が収縮を繰り返しヘルムのモノにより強く密着する。

「はぁ、はぁ………っ」

精巣の最後の一滴まで出し尽くし、ヘルムはベッドに倒れこんだ。
強すぎる興奮の反動か、瞼が重くて仕方がない。そしてそのまま、まどろみの中へと―――

「っ、あぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

――落ちようとして、両首筋に姉妹の吸血鬼の牙を同時にたてられ、強引に意識が覚醒させられる。

「あはぁ……っ、やっぱり直接吸ったほうがおいしぃ‥‥っ♪」
「ちゅぅ……っ、あ、お姉ちゃん、ヘルムったら吸血されただけでまたイっちゃったみたい。お掃除してあげないと……♪」

霞む視界の中、精液にまみれた愚息に、熱に浮かされたような表情で奉仕をする姉妹の姿が見えた。




――――――――――――――――――――




「それでお姉ちゃん、結局なんであんな事したの?」

日はとっくに落ちていた。血と精を二人がかりで抜かれ、完全に意識を失ったヘルムが、姉妹の間ですやすやと寝息をたてている。
月光が、二人の金髪をきらきらと輝かせていた。

「えー……、言わなきゃダメ?」
「いいじゃない。どうせ、もう3人でしちゃったんだから」

姉を加えて3人でヘルムと交わる事は、嫌ではなかった。それは恐らく姉も同じであり、これからはこの関係が続いていくのだろう。
ちなみにヘルムに拒否権はない。もっとも拒否権があったところで、それを使う男などこの世に存在しないだろうが。
リリィはしばらく視線を彷徨わせていたが、やがて観念したように口を開いた。

「子供の頃にね、ほら、約束しちゃったから」
「………は?」

一瞬、何の事だったか分からなかったアイリスは、姉の表情を見て思い出した。
私はこの笑顔を、昔に見たことがある。慈愛に満ちていて、でも何処か、寂しがっているような――

――満月から降り注ぐ月光

――それを受けて輝く金髪

「ぁ……」

――しょうがないから、ふたりをけっこんさせてあげます

アイリスは、呆然として尋ねた。

「……え?じゃあお姉ちゃんが今までヘルムに手を出さなかったのって、その約束のため……?」
「そうよ?……アイリスちゃんがいつまでもモジモジしてるから、我慢するのも限界寸前だったけどね」


――子供の頃のよくある話。当時は、それがどれだけ重要な事かなんて分からない。


はぁ、とため息をつくリリィ。

「だから、結婚の重要さが分かるようになった頃は結構ショックだったなぁ。ちょっとだけ、アイリスちゃんにヘルムを貸してあげただけのつもりだったのに。……まぁ、ヘルムはずっとアイリスちゃん一筋だったけど」

――この姉は、本人達ですらとっくの昔に時効だと思っていた約束を、ただ一人バカみたいに守り続けていたのだ。
自分の恋心を必死に抑えて。愛する妹と、愛しい男の約束の為に。

「……お姉ちゃん。私、ヘルムと同じぐらい、お姉ちゃんの事が大好きだよ」
「ありがとう、私もアイリスちゃんの事が大好きよ♪」

左右から、それぞれヘルムの腕に抱きつき。
美しい吸血鬼の姉妹は、微笑み合った。




――――――――――――――――――――




ヘルムはジパングに伝わる正座と呼ばれる方法で、二人の前に座らせられていた。

「……ヘルム、言い訳があるなら聞くわよ?」
「こんな美女を二人も侍らせておいて、浮気なんて悲しいわぁ」

しかし正座はタタミやザブトンというジパング独特の文化に適応した座り方であり、つまり大理石の上でやらされると滅茶苦茶痛いいぃぃ……っ!!!

「だからしてないって!リリィさんも変に煽るのやめて下さい!」

ヘルムはあれからというもの、昼はリリィ、夜はアイリス、朝と夕方はその両方の相手を毎日のようにさせられていた。当然、庭を世話する為の時間は少なくなり、新しくマンティスの魔物娘を増員の庭師として雇う事となった。
庭師は未経験ということだったが、やはり刃物を生まれつき持つ魔物なだけあり、切る事に関しての技術は充分以上にあった。長く山奥で暮らしてきたらしく、植物に対しての知識も豊富であり、あとはセンスと庭づくりに関する知識さえ叩き込めば、ある程度の仕事は一人で任せられるようになるだろう。
しかし、まだまだ仕事を教えながらこなしているような状態であり、起き抜けにそれを見た昼の屋敷事情に疎いアイリスが怒っているという状況である。

「だいたい、サラさんは旦那さん一筋だからな!?」
「……っ!?相手がいる娘に粉かけたの!?信じられない!」
「だから違うってぇぇぇ……っ!!」

その旦那も、この屋敷の厨房で働き始めた。まだ年端もいかぬ少年だが、献身的でよく働き、まかないも美味しいと皆に可愛がられている。

ずるずるとヘルムを引きずりながら自室に向かうアイリスの後ろを、くすくすと笑いながらリリィが歩く。


今日の交わいは、一段と激しくなりそうだった。
17/10/24 01:39更新 / オレンジ

■作者メッセージ
処女作です。なんと私はアリスちゃんだったのです!
冗談です。2作品目です。


明るくてエロを書きたい!よっしゃ不思議の国や!と意気込んだものの、ハプニングが思いつかず10分で挫折しました。不思議の国で書ける人どうなってるんですか弟子にして下さい。

気分転換が必要だと感じたので、そういえば処女作の主人公が寒い寒いばっかり言ってたな、と思いメモ帳に「熱い。熱い。熱い。」と打ち込んで肉付けして遊んでたら何時の間にか完成してました。
読み返してみたらちょうどそこからエロに突入してる辺りに名残がありますね。
っていうか明るくてエロいの書く予定はどうなったんでしょうね。未来の自分に期待です。

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