夏のある日
真夏のある日。彼女と二人、俺の家にいた。
……もっとも彼女と言っても人ではなく魔物娘なのだが。
今現在、魔物娘と人のカップルは少なくはない。町に出てもかなり見かけるようになった。
「あぁ、あっちいな」
彼女が椅子に座り、手で顔を仰ぎながら呟いている。
仕草だけ見ると人間なのだが、容姿が人間とは違いすぎる。
全身灰色で、所々に黒い物が張り付いていて、背中からウニョウニョと触手の生えている。そして一番の特徴は綺麗な赤い一つ目だ。魔物娘を見かけるようになったと言ったが彼女の様な、ゲイザーと言う魔物はほぼ見たことがない。
出会いは話すと長くなるが簡潔に言えば、綺麗で飲まれるような目に文字通り『一目』惚れしたのだ。そこからは色々な手をつかいアプローチをかけたといったところだ。
その努力も実って今現在ここに一緒に居る。
「ああ、ホントだな」
俺は床に寝て扇風機の風を浴びながら呟きに答える。
ジトッとした目でこちらを見てくる彼女。一つ目だからか表情が非常にわかりやすい。
「……ホントにそう思うならその扇風機の首を振ってくれても良いんじゃないか?」
口調からもわかるとおり彼女は発言にしろ行動にしろ少し男っぽいところがある。一緒にいて気を使うことなく、苦にならないのはそういう要因もあるのだろう。
「……できるだけ涼しい状態で居たい、だから風に当たらない時間作りたくない。」
んだよそれ。と呆れたように彼女は言った。
少し間が空き、突然なにか思いついたように歯を見せてニヤリと笑いながらこちらを向く。明らかにろくな事を考えていない様子だ。
「じゃーさ、オマエ服脱いだらどうだ?」
「……もっと暑くなることする気だろ」
今度はこちらがジトッと睨みつける
考えがバレたからかしどろもどろになりながら彼女は答える。
「う、ほ、ほら汗かいた方が楽だぞ?」
はぁっと俺はワザらしくとに溜め息を付き、数日前の事を思い出しながら話す。
「こんな昼間からやってみろ。へとへとになって身動きとれなくなったらどうするんだ。暗示を使って20時間近くヤられた次の日は大変だったんだぞ……」
思い出すのは彼女はずっと俺に次から次へと暗示を掛け、朝から晩まで犯され続けて頭がおかしくなった記憶。そしてなによりも朝起きた衝撃。体はバキバキ、頭もぼーっとして体も重い。そんなぼろぼろになるなんて思いもしなかった。
「そ、そうなったら看病してやるから」
「看病ってなんだよ……第一、お前の作った炭か料理かわからない物を食べるぐらいなら自分で自分を看病した方がましだ」
そう言うと彼女は少し目を伏せる。
「う、炭って……そんなに言わなくても良いだろ……アタシだって少しは気にしてるんだから……」
目に見えて彼女が落ち込んで見えた。こうやって急に女の子になることがある、まぁそれも可愛いのだが……
少し言い過ぎたか、一瞬そう思ったが心配する必要はなさそうだった。
「ならゲームでもどうだ?」
さっきに比べてましなアイデア、涼しくはならないが暑さを忘れることは出来るかもしれない……が……いや待てよ。
「……ツイスターゲームならやらないぞ」
「う……」
どうやら図星だったらしい。
一週間前、物置の整理をしたときに見つけて、彼女が興味を示していたことを思い出して正解だったようだ。
「なんで熱いのに体を寄せ付けて遊ばなきゃ行けないんだよ。」
腕を組みまたうーんと考え出す彼女。
「じゃあさー普通にどっか涼しいところに遊びに行こうぜー」
まともなアイデアではあるが、あまり乗り気にはならない。
俺はこの扇風機の前という最強のポジションから動きたくない。
「だるいな、行くまでが暑いじゃないか」
「なんだよー、だるいとか暑いとかアタシと一緒に居て楽しくないのかよー」
手足を子供のようにバタバタさせる彼女。俺は少し意地悪してやろうと、からかうように答える。
「楽しいに決まってるだろ、余計なこと言わせて体力使わせるな」
言った自分も恥ずかしいが顔に出てしまっては言った意味が無いので耐える……正直本心だが。
彼女は目を見開いてこちらを見たあと段々と顔が赤くなって、
「……バカ……アタシも実はオマエと、こやってグダグダするのなんだかんだ好きだぞ。」
と、目を反らして言った。
……その照れ顔はずるいだろ、可愛すぎる。意地悪をしたのに倍返しされた気分だ。このままでは何か癪に障る。
俺はさらにイタズラをしてみることにした。
「あ――オマエ暗示かけたな」
もちろん嘘だ、かけられた覚えはない。俺は最強のポジションから立ち上がり彼女に近づく。
「え、かけてないぞ?」
彼女は不思議そうに首を横に振っている。
「いやかけたに決まってる」
「い、いや、ほんとにかけてないぞ?」
動揺した様子の彼女の目の前まで行き……俺は襲いかかる。
「うわーからだがかってにー」
「え! やめ!あっ……」
彼女の身体をペタペタと触る。最初は手から段々と足や胸などエスカレートさせていく。
「うわーいうことがきかないー」
「やめ! はんっ……おちつい! あっ……」
彼女が拒絶しようとしながらも段々と甘い声を上げ始める。本当はもっとさわっていたいがそこで俺は彼女の身体を触るのをやめる。
「……あれ? 暗示がとけたな、なんだったんだろうなぁ」
俺はわざとらしく、『よくわからないな』と言ったような仕草を取りながら、何もなかったかのように扇風機の前に戻る
――途中
「……オイ」
彼女とは思えない低い声に身体がビクッと震える。恐る恐る彼女の方を見る。あ、笑顔だけど目が全く笑っていない。これはマズいイタズラが過ぎたらしい。
「な、なに? ってあっ……れ?」
視界がグワングワンする。恐らく本当に暗示をかけられたのだろう。いや何度も体験したがこんなに強力だっただろうか?あぁまずいもう既に彼女のことしか考えられなくなってきている。でもからだに力がはいらない。さっきまでさわってたのにかのじょにさわりたくてたまらない。なんでうごかないの。あれ?かのじょがへやのそとにいってる?おいてかないでよ、みすてられたの?え、やだよそんなそんなのいやだよ、たすけてよぅ
……そこから俺はもうよく覚えていない。
――――――――――
「お、おはよう、体が……」
起きるともう外が明るくなっていた。暑かった昨日とは打って変わって布団の中でも比較的寒い。
隣をみると彼女がこちらを見て寝ころがっている。記憶は定かでは無いが、身体、頭の重さから察するに恐らく一晩中搾り取られたのだろう。
「おはよ……気持ち良かったぞ」
彼女はお腹をさすりながら満足げな笑顔でこちらを見てくる。
「か、体が動かない……と言うか頭痛とか腹痛が……」
ベットから起き上がろうにも身体が悲鳴を上げて起き上がれない。そんな様子を見てまかせろと言った表情でこちらを見てくる彼女。不安しかないのだが……
「安心しろ、しっかり看病してやるよ。あ、朝食は今起きたから作れなかったからな、冷蔵庫にあったサンドイッチ持って来といたぞ」
と、指を差した先にはベッド近くのサイドテーブルにサンドイッチが置いてある。市販のモノならば安心だろう。
「ありがとう昼もなんか買ってきてくれよ。お金は財布から「ばか! 昼はアタシが作るからな!」」
どうやら料理を作る気、もとい料理『盛る』気満々らしい。正直、君のほうがバカなんじゃと思ったが言わないでおこう。
「あ、それと起きれないなら暇だろ?コレでも見ようぜ」
何故か満面の笑みを浮かべながら彼女はテレビに何かを繋いだ。凄くヤな予感。
繋いだのはビデオカメラだろうか?……そしてテレビ画面には……俺と彼女?
「え、これって?」
「再生するぞー」
『ひ、ひとりに、じ、じないでぐださいぃ……』
『なら、もうああいうことしないって誓うか?』
『ご、ごめんなざぃ、ぢかいますからぁ』
――一瞬、脳がフリーズする。寒いはずなのに汗がだらだらと出てくる。一体何を見せられているんだろうか。唖然としていると彼女が説明をしてくる。
「すっごい強力な暗示をかけたからあのあとの記憶がないだろ? だから動画に撮っておいてあとで見せようって思ったんだよ」
もうわかっているのだが、信じたくない気持からか彼女に聞く。
「な、ならこれは昨日の?」
「そ、ほら見てみろコレは暗示をかけたあと1時間放置して戻ってきてみたんだ。そしたらオマエが顔をグシャグシャにしながら独りにしないでって言ってきたんだよ、やー可愛かった」
うんうんと昨日のことを思い出してニヤついている彼女。
どうやらとんでもない物を見させられているらしい。リモコンは彼女が握りしめている。俺の記憶がなかった時間は半日……ということはずっとコレを見せられるのだろうか?
『よしよしなでなでしてやるぞ』
『ぐずっ……ふぁあ……気持ちいいよぅ』
『もっとなでてやろうか?』
『もっとぅ……全身さわってくださぃ』
「ほらほら、撫でてやるだけで感じちゃってなぁ変態なんだなオマエはなぁ」
「あ、あのほんとにやめて」
そう言いながら画面を見ないよう下を向くと彼女がのぞき込んできた。そしてこう言った。
「ほら、記憶がないんだろ?『ちゃんと聞いてちゃんと見なきゃだめだろ?』わかったな?」
絶望的なセリフだった。
頭がまたくらっとして俺はコクン頷いてしまう。そして画面から目が外せなくなる。死ぬほど恥ずかしくて、見てられないのに身体が言うことを聞かない。
――――
『あぁ……やめないでぇ……』
『ほらイきたいのか? アタシの手でイきたいならおねだりしてみな?』
『もっとはげしく、しごいてくださいぃぃ……』
『うーん足りないなぁ。あと30分寸止めしてやるかなぁ』
『い、いやぁぁぁあ!』
「アハハ、悲鳴上げちゃって可愛いなぁ」
「……ねぇお、おねがい止めて?」
――――
『やめてぇ! もうでたよう……これいじょうでないよぅ……』
『あれ? さっきもっとしごいてくれって言ってなかったか?』
『おがじぐなるからぁ……やめてぇ!』
『ほらおかしくなれ! それにまだ本番してないだろ? 本番では30回イくまでやめないからな』
『ぞ、ぞんなぁ』
「この顔もいつ見てもたまんねぇなぁ……」
「……ご、ごめんもうあんなことしないから許して? ね?」
――――
『あっ、あっ、ほらちゃんと腰振れ!』
『もういってきもでないよぅ……』
『ダメだ休むな、それに空イきだろうが30回イくまで許さないって言っただろ? ほら! 休むならアタシが動かすぞ!』
『あっあっ! イく! やめって!』
『あん、あん、ふっ……ふっ……ほらまだ出るじゃないか、アタシの中にまたアッツイの入ってきたぞ? この様子ならあと50回イけるかな?』
『むりいぃ! むりだよぅぅ!』
「ほら、オマエ昨日こんなんだったんだぞ?思い出したか?」
「お、思い出したから、さ。ね? とめて?」
――――
『ほらどうだ? 暗示でオマエの感度何倍にもあげた感想は?』
『うぁあ……うぃぐぇ……』
『おかしくなりそうか? いやもうなってるか。アタシが1回腰を落とすごとにビクンビクンイってるんだもんな?』
『ううぇぁ……』
『まぁ明日起きたら暗示もきれて直ってるから今は安心して壊れな? あれ、ところで今の何回目だ? うーん忘れたから0からにするぞ? いいな?』
『ひぃ……』
「ほら、ここでオマエ完全に壊れちゃってな、正直暗示切れても直るか不安だったぞ?」
「…………」
――――
「や、やっと終わった」
「記憶がない間何されたかわかっておもしろかっただろ?」
「……本気でそう思うのか?」
地獄のようなビデオ鑑賞が終わったのはもう日が落ちてからだった。コレでも彼女は所々飛ばしていたようだったが……
見ている間彼女に止めるよう促したが、そんなこと耳には入らない様子だった。
「あ、もう夜になっちゃったな、おなか空いただろ」
外を見ながら突然呟く。
そう言われればだが、たしかに朝以降何も食べていない。
「……なんか買ってきてよ」
それを聞いて彼女は自分の顔の前で親指を立てグッドマークを作りながら答える。
「まかせろ!アタシが作るからな!」
どうやら聞いてなかったみたいだ。
このままでは夜はまともな物を食べられなくなり、体調不良は長引きそうだと思ったので、俺は頭を下げてやめてくれと懇願する。が彼女は頷きながら答えた。
「うんうん、楽しみにしてろよ!」
顔の横についている耳は飾りなのだろうか。彼女はそのまま真っ直ぐにドアからでてキッチンに向かった。追いかけようと咄嗟に起き上がろうとするが体が重く動かない。
あぁ、今日は一日中ベット、明日は一日中トイレにこもることになるのだろうか。
――――――――――
「できたぞ!」
彼女が自信満々で土鍋の乗ったお盆をサイドテーブルに置いた。
俺は起き上がりベッドに腰掛ける。
中が一切見えないので何が入っているか気になるが、少なくとも変な匂いはしない。
「暖かいの作ってきたからな、冷めない内にほら食べた食べた」
彼女が俺の横に座り蓋を開ける。
中を覗くと、見た目は普通のおかゆ。どろどろしたり変な色もしていない。
「なにじろじろ見てるんだよ、へんなものは入ってないぞ!」
警戒した様子の俺を見て不機嫌になる彼女。変な物が入っていないと言われると、逆に不安になるのだが……
木のスプーンを手にとり恐る恐る口に運ぶ。
「あれ……おいしい」
毒を飲む気持ちでいたのだが、味はごく一般的なおかゆの味。いや、いつもは色々入りすぎていて味がぐちゃぐちゃなはずなのに、今回は少し味が薄めで俺好みな味だ。
「だろ! アタシだって勉強してるんだからな!」
無い胸を張って自慢げな彼女。……言ったら何されるかわからないので言わないが。
「これほんとに作ったのか?」
そう言うとジトッとこっちを見ながら不満げに答える
「なんだよそれー、素直に褒めてくれてもいいだろー」
「んーいや、美味しくてな、びっくりしたんだよありがとな」
そう言われた通り素直を頭を下げて言う。
彼女は急に頬にを赤らめる。
「っな、なんだよ、急に」
褒めてくれと言ったのに、認めると照れるってどういうことなんだよ。
「他にも作れるのか?」
「う……」
返す言葉に詰まっている様子を見ると、どうやらこのおかゆは何かのレシピを見て作ってくれたのだろう。
一瞬、馬鹿にしてやろうかとも思ったが料理を作って貰った事もあり流石に気が引けた。
「まぁ……ゆっくり学んでくれよ、ずっとそばに居るからさ」
「なっ……えっ……」
「なんだ嫌なのか?」
首をブンブンと横に振る彼女。
「い、嫌なわけないだろ!……こっちこそ……よろしくな」
彼女の照れたように頬を赤らめ笑顔になるのを見て、暑かろうが寒かろうが一緒に居たいなと改めて感じた――
……もっとも彼女と言っても人ではなく魔物娘なのだが。
今現在、魔物娘と人のカップルは少なくはない。町に出てもかなり見かけるようになった。
「あぁ、あっちいな」
彼女が椅子に座り、手で顔を仰ぎながら呟いている。
仕草だけ見ると人間なのだが、容姿が人間とは違いすぎる。
全身灰色で、所々に黒い物が張り付いていて、背中からウニョウニョと触手の生えている。そして一番の特徴は綺麗な赤い一つ目だ。魔物娘を見かけるようになったと言ったが彼女の様な、ゲイザーと言う魔物はほぼ見たことがない。
出会いは話すと長くなるが簡潔に言えば、綺麗で飲まれるような目に文字通り『一目』惚れしたのだ。そこからは色々な手をつかいアプローチをかけたといったところだ。
その努力も実って今現在ここに一緒に居る。
「ああ、ホントだな」
俺は床に寝て扇風機の風を浴びながら呟きに答える。
ジトッとした目でこちらを見てくる彼女。一つ目だからか表情が非常にわかりやすい。
「……ホントにそう思うならその扇風機の首を振ってくれても良いんじゃないか?」
口調からもわかるとおり彼女は発言にしろ行動にしろ少し男っぽいところがある。一緒にいて気を使うことなく、苦にならないのはそういう要因もあるのだろう。
「……できるだけ涼しい状態で居たい、だから風に当たらない時間作りたくない。」
んだよそれ。と呆れたように彼女は言った。
少し間が空き、突然なにか思いついたように歯を見せてニヤリと笑いながらこちらを向く。明らかにろくな事を考えていない様子だ。
「じゃーさ、オマエ服脱いだらどうだ?」
「……もっと暑くなることする気だろ」
今度はこちらがジトッと睨みつける
考えがバレたからかしどろもどろになりながら彼女は答える。
「う、ほ、ほら汗かいた方が楽だぞ?」
はぁっと俺はワザらしくとに溜め息を付き、数日前の事を思い出しながら話す。
「こんな昼間からやってみろ。へとへとになって身動きとれなくなったらどうするんだ。暗示を使って20時間近くヤられた次の日は大変だったんだぞ……」
思い出すのは彼女はずっと俺に次から次へと暗示を掛け、朝から晩まで犯され続けて頭がおかしくなった記憶。そしてなによりも朝起きた衝撃。体はバキバキ、頭もぼーっとして体も重い。そんなぼろぼろになるなんて思いもしなかった。
「そ、そうなったら看病してやるから」
「看病ってなんだよ……第一、お前の作った炭か料理かわからない物を食べるぐらいなら自分で自分を看病した方がましだ」
そう言うと彼女は少し目を伏せる。
「う、炭って……そんなに言わなくても良いだろ……アタシだって少しは気にしてるんだから……」
目に見えて彼女が落ち込んで見えた。こうやって急に女の子になることがある、まぁそれも可愛いのだが……
少し言い過ぎたか、一瞬そう思ったが心配する必要はなさそうだった。
「ならゲームでもどうだ?」
さっきに比べてましなアイデア、涼しくはならないが暑さを忘れることは出来るかもしれない……が……いや待てよ。
「……ツイスターゲームならやらないぞ」
「う……」
どうやら図星だったらしい。
一週間前、物置の整理をしたときに見つけて、彼女が興味を示していたことを思い出して正解だったようだ。
「なんで熱いのに体を寄せ付けて遊ばなきゃ行けないんだよ。」
腕を組みまたうーんと考え出す彼女。
「じゃあさー普通にどっか涼しいところに遊びに行こうぜー」
まともなアイデアではあるが、あまり乗り気にはならない。
俺はこの扇風機の前という最強のポジションから動きたくない。
「だるいな、行くまでが暑いじゃないか」
「なんだよー、だるいとか暑いとかアタシと一緒に居て楽しくないのかよー」
手足を子供のようにバタバタさせる彼女。俺は少し意地悪してやろうと、からかうように答える。
「楽しいに決まってるだろ、余計なこと言わせて体力使わせるな」
言った自分も恥ずかしいが顔に出てしまっては言った意味が無いので耐える……正直本心だが。
彼女は目を見開いてこちらを見たあと段々と顔が赤くなって、
「……バカ……アタシも実はオマエと、こやってグダグダするのなんだかんだ好きだぞ。」
と、目を反らして言った。
……その照れ顔はずるいだろ、可愛すぎる。意地悪をしたのに倍返しされた気分だ。このままでは何か癪に障る。
俺はさらにイタズラをしてみることにした。
「あ――オマエ暗示かけたな」
もちろん嘘だ、かけられた覚えはない。俺は最強のポジションから立ち上がり彼女に近づく。
「え、かけてないぞ?」
彼女は不思議そうに首を横に振っている。
「いやかけたに決まってる」
「い、いや、ほんとにかけてないぞ?」
動揺した様子の彼女の目の前まで行き……俺は襲いかかる。
「うわーからだがかってにー」
「え! やめ!あっ……」
彼女の身体をペタペタと触る。最初は手から段々と足や胸などエスカレートさせていく。
「うわーいうことがきかないー」
「やめ! はんっ……おちつい! あっ……」
彼女が拒絶しようとしながらも段々と甘い声を上げ始める。本当はもっとさわっていたいがそこで俺は彼女の身体を触るのをやめる。
「……あれ? 暗示がとけたな、なんだったんだろうなぁ」
俺はわざとらしく、『よくわからないな』と言ったような仕草を取りながら、何もなかったかのように扇風機の前に戻る
――途中
「……オイ」
彼女とは思えない低い声に身体がビクッと震える。恐る恐る彼女の方を見る。あ、笑顔だけど目が全く笑っていない。これはマズいイタズラが過ぎたらしい。
「な、なに? ってあっ……れ?」
視界がグワングワンする。恐らく本当に暗示をかけられたのだろう。いや何度も体験したがこんなに強力だっただろうか?あぁまずいもう既に彼女のことしか考えられなくなってきている。でもからだに力がはいらない。さっきまでさわってたのにかのじょにさわりたくてたまらない。なんでうごかないの。あれ?かのじょがへやのそとにいってる?おいてかないでよ、みすてられたの?え、やだよそんなそんなのいやだよ、たすけてよぅ
……そこから俺はもうよく覚えていない。
――――――――――
「お、おはよう、体が……」
起きるともう外が明るくなっていた。暑かった昨日とは打って変わって布団の中でも比較的寒い。
隣をみると彼女がこちらを見て寝ころがっている。記憶は定かでは無いが、身体、頭の重さから察するに恐らく一晩中搾り取られたのだろう。
「おはよ……気持ち良かったぞ」
彼女はお腹をさすりながら満足げな笑顔でこちらを見てくる。
「か、体が動かない……と言うか頭痛とか腹痛が……」
ベットから起き上がろうにも身体が悲鳴を上げて起き上がれない。そんな様子を見てまかせろと言った表情でこちらを見てくる彼女。不安しかないのだが……
「安心しろ、しっかり看病してやるよ。あ、朝食は今起きたから作れなかったからな、冷蔵庫にあったサンドイッチ持って来といたぞ」
と、指を差した先にはベッド近くのサイドテーブルにサンドイッチが置いてある。市販のモノならば安心だろう。
「ありがとう昼もなんか買ってきてくれよ。お金は財布から「ばか! 昼はアタシが作るからな!」」
どうやら料理を作る気、もとい料理『盛る』気満々らしい。正直、君のほうがバカなんじゃと思ったが言わないでおこう。
「あ、それと起きれないなら暇だろ?コレでも見ようぜ」
何故か満面の笑みを浮かべながら彼女はテレビに何かを繋いだ。凄くヤな予感。
繋いだのはビデオカメラだろうか?……そしてテレビ画面には……俺と彼女?
「え、これって?」
「再生するぞー」
『ひ、ひとりに、じ、じないでぐださいぃ……』
『なら、もうああいうことしないって誓うか?』
『ご、ごめんなざぃ、ぢかいますからぁ』
――一瞬、脳がフリーズする。寒いはずなのに汗がだらだらと出てくる。一体何を見せられているんだろうか。唖然としていると彼女が説明をしてくる。
「すっごい強力な暗示をかけたからあのあとの記憶がないだろ? だから動画に撮っておいてあとで見せようって思ったんだよ」
もうわかっているのだが、信じたくない気持からか彼女に聞く。
「な、ならこれは昨日の?」
「そ、ほら見てみろコレは暗示をかけたあと1時間放置して戻ってきてみたんだ。そしたらオマエが顔をグシャグシャにしながら独りにしないでって言ってきたんだよ、やー可愛かった」
うんうんと昨日のことを思い出してニヤついている彼女。
どうやらとんでもない物を見させられているらしい。リモコンは彼女が握りしめている。俺の記憶がなかった時間は半日……ということはずっとコレを見せられるのだろうか?
『よしよしなでなでしてやるぞ』
『ぐずっ……ふぁあ……気持ちいいよぅ』
『もっとなでてやろうか?』
『もっとぅ……全身さわってくださぃ』
「ほらほら、撫でてやるだけで感じちゃってなぁ変態なんだなオマエはなぁ」
「あ、あのほんとにやめて」
そう言いながら画面を見ないよう下を向くと彼女がのぞき込んできた。そしてこう言った。
「ほら、記憶がないんだろ?『ちゃんと聞いてちゃんと見なきゃだめだろ?』わかったな?」
絶望的なセリフだった。
頭がまたくらっとして俺はコクン頷いてしまう。そして画面から目が外せなくなる。死ぬほど恥ずかしくて、見てられないのに身体が言うことを聞かない。
――――
『あぁ……やめないでぇ……』
『ほらイきたいのか? アタシの手でイきたいならおねだりしてみな?』
『もっとはげしく、しごいてくださいぃぃ……』
『うーん足りないなぁ。あと30分寸止めしてやるかなぁ』
『い、いやぁぁぁあ!』
「アハハ、悲鳴上げちゃって可愛いなぁ」
「……ねぇお、おねがい止めて?」
――――
『やめてぇ! もうでたよう……これいじょうでないよぅ……』
『あれ? さっきもっとしごいてくれって言ってなかったか?』
『おがじぐなるからぁ……やめてぇ!』
『ほらおかしくなれ! それにまだ本番してないだろ? 本番では30回イくまでやめないからな』
『ぞ、ぞんなぁ』
「この顔もいつ見てもたまんねぇなぁ……」
「……ご、ごめんもうあんなことしないから許して? ね?」
――――
『あっ、あっ、ほらちゃんと腰振れ!』
『もういってきもでないよぅ……』
『ダメだ休むな、それに空イきだろうが30回イくまで許さないって言っただろ? ほら! 休むならアタシが動かすぞ!』
『あっあっ! イく! やめって!』
『あん、あん、ふっ……ふっ……ほらまだ出るじゃないか、アタシの中にまたアッツイの入ってきたぞ? この様子ならあと50回イけるかな?』
『むりいぃ! むりだよぅぅ!』
「ほら、オマエ昨日こんなんだったんだぞ?思い出したか?」
「お、思い出したから、さ。ね? とめて?」
――――
『ほらどうだ? 暗示でオマエの感度何倍にもあげた感想は?』
『うぁあ……うぃぐぇ……』
『おかしくなりそうか? いやもうなってるか。アタシが1回腰を落とすごとにビクンビクンイってるんだもんな?』
『ううぇぁ……』
『まぁ明日起きたら暗示もきれて直ってるから今は安心して壊れな? あれ、ところで今の何回目だ? うーん忘れたから0からにするぞ? いいな?』
『ひぃ……』
「ほら、ここでオマエ完全に壊れちゃってな、正直暗示切れても直るか不安だったぞ?」
「…………」
――――
「や、やっと終わった」
「記憶がない間何されたかわかっておもしろかっただろ?」
「……本気でそう思うのか?」
地獄のようなビデオ鑑賞が終わったのはもう日が落ちてからだった。コレでも彼女は所々飛ばしていたようだったが……
見ている間彼女に止めるよう促したが、そんなこと耳には入らない様子だった。
「あ、もう夜になっちゃったな、おなか空いただろ」
外を見ながら突然呟く。
そう言われればだが、たしかに朝以降何も食べていない。
「……なんか買ってきてよ」
それを聞いて彼女は自分の顔の前で親指を立てグッドマークを作りながら答える。
「まかせろ!アタシが作るからな!」
どうやら聞いてなかったみたいだ。
このままでは夜はまともな物を食べられなくなり、体調不良は長引きそうだと思ったので、俺は頭を下げてやめてくれと懇願する。が彼女は頷きながら答えた。
「うんうん、楽しみにしてろよ!」
顔の横についている耳は飾りなのだろうか。彼女はそのまま真っ直ぐにドアからでてキッチンに向かった。追いかけようと咄嗟に起き上がろうとするが体が重く動かない。
あぁ、今日は一日中ベット、明日は一日中トイレにこもることになるのだろうか。
――――――――――
「できたぞ!」
彼女が自信満々で土鍋の乗ったお盆をサイドテーブルに置いた。
俺は起き上がりベッドに腰掛ける。
中が一切見えないので何が入っているか気になるが、少なくとも変な匂いはしない。
「暖かいの作ってきたからな、冷めない内にほら食べた食べた」
彼女が俺の横に座り蓋を開ける。
中を覗くと、見た目は普通のおかゆ。どろどろしたり変な色もしていない。
「なにじろじろ見てるんだよ、へんなものは入ってないぞ!」
警戒した様子の俺を見て不機嫌になる彼女。変な物が入っていないと言われると、逆に不安になるのだが……
木のスプーンを手にとり恐る恐る口に運ぶ。
「あれ……おいしい」
毒を飲む気持ちでいたのだが、味はごく一般的なおかゆの味。いや、いつもは色々入りすぎていて味がぐちゃぐちゃなはずなのに、今回は少し味が薄めで俺好みな味だ。
「だろ! アタシだって勉強してるんだからな!」
無い胸を張って自慢げな彼女。……言ったら何されるかわからないので言わないが。
「これほんとに作ったのか?」
そう言うとジトッとこっちを見ながら不満げに答える
「なんだよそれー、素直に褒めてくれてもいいだろー」
「んーいや、美味しくてな、びっくりしたんだよありがとな」
そう言われた通り素直を頭を下げて言う。
彼女は急に頬にを赤らめる。
「っな、なんだよ、急に」
褒めてくれと言ったのに、認めると照れるってどういうことなんだよ。
「他にも作れるのか?」
「う……」
返す言葉に詰まっている様子を見ると、どうやらこのおかゆは何かのレシピを見て作ってくれたのだろう。
一瞬、馬鹿にしてやろうかとも思ったが料理を作って貰った事もあり流石に気が引けた。
「まぁ……ゆっくり学んでくれよ、ずっとそばに居るからさ」
「なっ……えっ……」
「なんだ嫌なのか?」
首をブンブンと横に振る彼女。
「い、嫌なわけないだろ!……こっちこそ……よろしくな」
彼女の照れたように頬を赤らめ笑顔になるのを見て、暑かろうが寒かろうが一緒に居たいなと改めて感じた――
16/10/10 23:20更新 / ポルックス