ネレイス
妹の主治医に緊急の用事で呼ばれ、俺は深夜の病院に駆け込んだ
今病室の妹はスヤスヤと眠っているが、俺が来る前は酷い発作を起こしていたらしい
妹の様子を見てから主治医の部屋に来るように言われた
しかし、その表情はかなり厳しいものだった
おそらく、妹に残された時間はそんなに長くはないんだろう
しばらく妹の寝顔を眺めてから、重い足を上げて主治医の部屋へと赴く
「・・・ミーアさんの容態ですが」
「ミーアの寿命はそんなに長くは無いのは分かっています
では、ミーアはあとどれだけ生きることが出来るんですか?
正直に言ってもらっても構いません、覚悟は出来てます」
「最悪、あと3日・・・長くても一週間でしょう」
「っ!?あと・・・3日」
あと3日、長くても1週間だと・・・!?
あまりに非情な現実
妹の容態がそこまで来ているとは、俺は思いもしていなかった
「し、しかし!
緊急の発作はこれまでにも数え切れないくらいにあったハズです!
こ、今回もまた・・・!!」
「度重なってきた強引な治療で、彼女の体も限界を迎えているのです
それどころか、ここまで持った事自体が奇跡に近いんですよ」
「そ・・・そんな」
「・・・彼女に今投与しているのは痛み止めだけです」
「え・・・何故だッ!?」
その言葉を聞いて主治医に掴み掛かり、言葉を荒げる
そんなことをしても現状は悪くなる一方だと言うのに・・・
「彼女が望んだんです!」
「ミーアが・・・そんなバカなことを望むわけッ!!!」
「彼女はね、すでに悟っていたんですよ・・・
自分の体に限界が来ていて、既にあと数日も持たないって事を!!」
「ッ!?」
主治医の頬に一筋の水滴が流れる
嗚咽でろくに回らない口を開き、言葉を紡いでいく
「自分の体のことですから、よく分かるんでしょうね・・・
これまで診てきた人や魔物の数は数え切れません
もちろん、貴方の妹さんのような方もいれば、もっと酷い病に侵された方も診てきました・・・
そんな方々はね、みんな自分の死期が近づくと分かるみたいなんです
そして私に聞くんです
先生、私の寿命ってあと○○日だよね?って
・・・そんな彼らに、私は何もしてやることが出来ないんですよ!?
そんな彼らに、私は・・・なんて無力なんだ!!」
そういってついに感情を抑えきれなくなり、泣き崩れた
命を救う立場である医者として、酷くなる病気に対し、成すすべが全く無いというのはどれだけ辛いだろうか
「俺は・・・何をすればいいのでしょうか?」
「彼女は、いつも貴方のことを私たちに話してくれました
彼女は貴方が大好きなんでしょうね
ですから・・・せめて彼女のそばにいてあげて下さい
それが彼女にとって、一番の幸せでしょう」
・・・・
「失礼しました」
そう言ってドアを閉める
ドアの向こうから、机を思いっきり叩く音、泣く声が聞こえてくる
主治医もこれまで辛かったに違いない
病気を直すことが出来ず、症状を抑えることしか出来ない
この病気の治療方法はまだ見つかっていない
主治医もさまざまな薬を試したが、現存の薬では治療には至らなかったらしい
外を見ると既に夜が明けようとしている
日が昇るのにはまだ早い
しかし、刻一刻と過ぎていく時間を恨んでも仕方の無いことだった
そして一旦病院を後にする
俺は今、自警団の団長の部屋に来ている
まさかこんな時間に起きてはいないだろう
しかし、俺は部屋をノックする
「入れ」
否、団長は起きていた
「確か今日お前は非番だったはずだが、こんな時間にどうした?」
「明日から一週間、深夜間の警備、見回りを休ませていただきたいのです」
「珍しいな、これまでこの仕事についてから休んだことが無いお前が、一週間休みを取りたいと?」
「実は、妹の容態が悪化して・・・」
「それ以上は言わなくていい
しっかり妹さんの面倒を見てやれ
お前の代理は俺が用意しといてやる」
「ありがとうございます、では失礼します」
団長には前々から妹の事を話している
最近、急に容態が悪化してきていること
何度も発作を起こしていること
きっと団長も感づいて、気を使ってくれたんだろう
しかし、その気遣いすらも今の俺にとっては厳しかった
俺は大分前から生活費と妹の医療費を払うために、自警団に入団して深夜間の見回りなどをしている
年齢の制限が緩く、かつ高給料だからだ
昼間に比べて非常に高い給料が設定されているが、万年人不足に悩まされている
それもそのはず、危険の度合いが全く異なるのである
その主な原因は魔族の存在
ここ最近は人気のない場所からこっそり街に魔族が侵入してくることが多く、深夜に見回りをしている自警団が襲われることも少なくない
俺も過去に何度か襲われたことがことがあった
数年前、初めて遭遇したとき、俺はどうすることも出来ずに魅了され、ただ呆然とすることしか出来なかった
もしあの時、団長が駆けつけてくれなかったら俺は今頃ここにいなかっただろう
小隊長となった今では意図的に魅了に対抗できるようになったが、当時はひたすらミーアを心の支えとすることで魔族の魅了から心を守っていた
では、ミーアがいなくなったら、俺は魔族に・・・
いや、これ以上はやめよう
ミーアはまだ、生きている
そうやって自分を騙しているのも無駄だと知りながら、俺は自分の心に生じ始めたヒビをごまかそうとしている
俺はミーアの病室で朝を迎えた
病院の適当ないすをミーアの部屋に静かに運び、それに座ってうつらうつらしていた
急にまぶしさを感じ、目を開くと朝日が姿を現す
ベットの上ではミーアが小さな吐息を立てながら眠っている
わずかでも聞こえる吐息、生きている証拠
俺はホッと胸を撫で下ろす
日が出てからしばらく経った頃、ミーアは目を覚ました
「ん、ふぁぁ・・・あ、おにいちゃん?」
「おはよう、ミーナ
体の調子はどうだ?」
「昨日の夜はちょっと苦しかったけど、今は大丈夫
いつもより体の調子が良いみたい」
「そうか・・・」
こうして俺とミーアの一日目が始まった
「おにいちゃん、自警団はいいの?」
「あぁ、一週間ほど休みをもらってきた
だからミーアとずっといっしょにいられるぞ!」
「お兄ちゃん、ほんとに私と・・・ずっと一緒に居てくれる?」
「本当だ、約束するよ」
「約束からね!」
妹の発言に一瞬気に掛かるような、何か違和感を感じた
だが、それも一瞬の気の迷いだろう
もし妹がこの先ずっと生きてられるのなら、俺はずっと一緒に居てやりたい
「お兄ちゃん・・・私、お兄ちゃんと一緒に外に行きたいな」
「でも、体は大丈夫なのか?
昨日はひどい発作だったと聞いたけど」
「今ね、体がすっごく楽だから、久しぶりに外に出たいなって」
体が楽なのは延命治療の代わりに多めに麻酔を使っているからだろう
だが、そんなことをミーアに言うわけにはいかない
それに、せめて今だけでも彼女の望むことをさせてやりたい
「良いんじゃないですかね?
今日は天気もいいですし、朝からミーアさんの体調は良好みたいですし」
主治医がのんきな事を言いながらドアを開けて入ってくる
「先生・・・!?」
「ではミーアちゃん、先生はミーアちゃんが外にでる為の支度をしてくるから着替えておくんだよ?」
「はい!」
「ではお兄さん、車椅子などの用意があるので少し手伝ってもらえませんか?」
「えぇ、は、はい」
「ほ、本当に大丈夫なんですか!?」
「無論、大丈夫な訳がありません
ですが、発作止めは十分に効いているはずですので、余程急激な運動をさせない限りは大丈夫でしょう
幸い、彼女の病気は伝染病ではありませんので他人に移ることも無いですし」
「大丈夫でないなら、どうして!?」
「せめて最後くらい、あの鳥かごのような部屋を抜け出させてやろうとは思えないんですか?
それが彼女の望みなら、容易い御用でしょう?」
「あと、これを昼食のときに飲ませてあげてください
痛み止めと発作抑制の薬です」
俺はこの主治医に何も言うことが出来なかった
車椅子を持ってミーアの病室に向かう俺に後ろから先生が声をかけた
「彼女は今、生きたいという強い気持ちだけで病気と闘っています
ですが、その気持ちが時として病に打ち勝つこともありえるのです
また、明日を強く生きたいと思うほど、彼女は長く生きることが出来るでしょう
気休めにしかならないでしょうが、そんなことも頭に入れておいてください」
結局、車椅子は使わなかった
俺がミーアをお姫様抱っこで抱えていた
それでもいつも装備している自警団の武具などはミーアの病室に置いて来た為、ミーアを抱えていたとしても身軽に感じられる
抱えて分かったのが、ミーアは俺が思っていた以上に儚く、華奢だった
抱えている俺の腕は日焼けしている上に太いため、ミーアの腕の細さと白さが際立って見える
ミーアはお姫様抱っこで抱えられて少し恥ずかしそうだが、嫌がる様子も無い
その恥ずかしそうな表情がまた可愛らしかった
どこへ行きたい?と聞くと街へ行きたいというので、この街でもっともにぎわっている中心街の商店街へ向かう
ここでは外から入って来た物が露天に並べて売られている
見たこと無いようなものや、何に使うか分からないものまでさまざまであり、またそれを売っている者もそれぞれだった
「お兄ちゃん!!
見て、あの女の人!」
「あぁ、メドゥーサのシュリさんだ
夫婦で石細工をしてる」
「お兄ちゃん、あの人(?)と知り合いなの?」
「まぁ、自警団をやってると自然と顔見知りが増えるんだ」
「へぇ〜、凄い!」
「こっちのお店は衣服屋だな」
「お兄ちゃん、これって・・・」
「ん?」
ミーアが目をキラキラさせながら見ているそれは、ウエディング・ドレス
「素敵・・・」
「・・・着てみたいか?」
「まぁね
もし着るなら、お兄ちゃんと結婚したい・・・かな」
「えっ!?」
「いらっしゃいませ、何かお探しですか?
それとも、オーダーメイドも承りますが」
奥から出てきたのはジョロウグモ
上半身は綺麗な和服を着ており、下半身の蜘蛛の足が印象的な魔物
妹は一瞬その蜘蛛と人を足して2で割ったような姿に驚いたようだった
「ミーア、ご飯は何が食べたい?」
「今日は病院で食べなくてもいいの?」
「あぁ、好きなものを食べさせてやる」
「じゃあね、お兄ちゃんの作った料理が食べたいな」
「俺の・・・手料理?」
正直、俺はこれまで碌なものを作った事がない
料理が苦手とか下手という訳ではなく、純粋にきちんとした料理を作ったことが無いのだ
いつも作るのはただ野菜を炒めたり、鍋にとりあえず入れて煮るだけとか、そんなものばっかり
客人が来ることなんて無いので、お店で出てくるような飾った料理の作り方など知りもしない
しかし、ここは断るわけにはいかない
「ミーア、俺は綺麗な料理やおいしい料理なんて作れない
それでも、いいか?」
「お兄ちゃんが作ってくれれば、何でもいいよ」
俺は妹を抱えたまま買い物を済ませて自宅に着いた
結局一日中妹を抱えたまま街を見てきた
さて、ここが本日最大の修羅場だ
まさかミーアが俺の手料理を食べたいと言うなんて思いも寄らなかったため、正直困惑している
しかし、いつも通りに俺が食べているものを食べてみたい、と言った
それは何の考えもなく食材を鍋に突っ込んで調味料を加えただけの極めて無粋な料理だ
そんな料理を出して大丈夫か心配になったが、かといって選択肢はないのだ
せめて食材をミーアでも一口で食べれるくらいの大きさで切ってやるくらいのことしか出来なかった
吹きこぼしたり、少し焦げたりとトラブルもあったが無事に完成する
ミーアは笑顔でおいしいと言ってくれた
俺はその笑顔だけで十分だった
さすがに夜は病室で軽い審査を受けなければならないため、俺はミーアを抱えて病院に向かっていた
しかし、そこでミーアの体調が急変してきた
先ほどとうって変わり、すでに顔色が真っ青になっている
俺は病院に駆け込んだ頃には発作は進み、酷く咳き込んでいる
一瞬、口を押さえている手元が赤くなっているのが見えた
・・・吐血、している!?
呼吸音もかすれたようなような音をしている
駆け込んできた主治医もその様子に絶句した
「今から緊急で治療を行います!
すみませんが、お兄さんは少し部屋を出てもらいませんか?」
俺はただ部屋の外で祈ることしか出来なかった
・・・
緊急の治療が始まってどれくらい経っただろう
未だに部屋の内側から主治医と看護婦の少しの会話と苦しそうなミーアの声が聞こえてくる
・・・・
「随分とお困りのようね?
お姉さんが話を聞いてあげましょうか?」
この声には聞き覚えがある
そう、数年前から幾度と無く聞いた声だった
声の方向に目を向けると、一人の女性が窓に腰掛けている
病院には不釣合いな、相手を煽るような扇情的な服装
そして背中からは翼と尻尾が生えている
月明かりが相まってさらに魅惑的な雰囲気をかもし出している
俺の目の前にサキュバスがいた
「また貴様か!」
「また、とは失礼ね
そんなことより、どうしちゃったのかしら
いつものゾクゾクする様な気迫が無いわよぉ?」
「貴様には関係の無いことだ!」
「あらそう?
じゃ、今夜は失礼しようかな
せっかく、ドアの向こうの女の子の病気を治す方法を知ってるのにぃ
残念だなぁ」
病気を治せる・・・その言葉で心がぐら付く
「病気を、治せるだと!?
・・・嘘をつくなぁ!!」
「本当よ?
私は彼女の病気を治す方法を知っているわ
まぁ、貴方が別に良いっていうんだったら私は全然構わないんだけど
・・・さっき向こうの部屋の様子は覗かせてもらったけどあの病気の女の子、あのままじゃあと一日も持たないわよ?」
「だったら、貴様に何が出来るって言うんだよ!?」
小象ならば気絶してしまいかねない程の殺気
しかしサキュバスもそれを軽く受け流して飄々と答える
「簡単よ♪
私が彼女とエッチして、彼女をサキュバスにするの♪」
サキュバスが言い終わる時には既に俺の得物、パイルバンカーが突きつけられていた
やはり、聞く耳を持った俺がバカだった様だ
しかし、目の前で窓に腰掛けたままのサキュバスは口元に笑みを浮かべている
「「それでいいの?
貴方は、彼女は、それで幸せなの?」」
声が頭に直接響き、反響する
サキュバスの得意とする暗示技の一種だ
普段ならこの程度の暗示など動じる事無く破れるはずだった
しかし、今この状況で脆くなった心には暗示を破るどころか、抵抗することすら厳しい
「貴様のような魔族ごときに何が分かる!?
あいつは、人間として生きることを望んでいるんだ!!」
「「乙女心が分かっていないのは、貴方の方
女ってのはね、どんなに姿になってでも好きな人と一緒にいられるならそれが何よりの幸せなの
それとも、彼女に死んで欲しいの?」」
「そんなことある訳、無いだろっ!!!
それでも、サキュバスになったからとて病気が治るとはッ!!」
「「サキュバスの寿命は人よりもずっと永いの
それこそ外傷等が無ければ人の何十倍も生きられる
そんな長寿のサキュバスが、そこいらの病気でコロっと死んじゃうと思う?
もし、彼女が今サキュバスになればあんな病気イチコロよ♪
でもね、私だってタダで彼女をサキュバスに出来るって訳じゃないのよ」」
「・・・俺に条件を突きつける訳だ」
「「そう
私たちは精を糧にして生きているわ
もちろん、彼女をサキュバスにしてあげるのにも相当な精がいるの
今の私にはちょっと精が足りないかなぁ
だから、もしあの子を元気なサキュバスにしてあげたいのなら君の精を私に分けて欲しいんだよね♪
もし分けてくれたら、彼女を元気にして ア ゲ ル」」
「・・・」
ミーアが・・・助かるのか!?
一言一言が心を強く抉り、心の壁を砕いていく
反響する言葉はいくら拒絶しても頭に染み込むように入ってくる
駄目だ
これ以上聞かされたら・・・
「「どぉ?
貴方にとっても、彼女にとっても、悪い話じゃなんか無いはずよ?
むしろチャンスなの・・・
さぁ、私にお願いしてみて?
お願いします、ご・主・人・様・って♪」」
「俺は・・・」
思考回路にもやが掛かったみたいに不鮮明になってまともに考えられない
それでもミーアが助かるって一言がグルグルと渦を巻いているみたいだ
あぁ・・・やっぱり駄目だ
ミーアはこんな事望んじゃいないんだろうけど、俺にはそんなこと、させられやしないから・・・
「・・・」
「「どぉしたの?
ほら、お願いしますって言うだけで良いのよ?」」
「人の・・・」
「「ん?
ちゃんと言ってくれないと聞こえないわよ?」」
あぁ、ちゃんと言ってやらなきゃな
その耳に聞こえるように、ハッキリと
「人の心に、ズケズケと・・・」
「「なぁに?」」
「土足で、入り込んで、来るんじゃねぇぇッ!!!!!」
「「ッツ!?」」
パイルバンカー射出!!
とっさに身を翻したサキュバスには当たらず、突き出されたバンカーは空を切る
しかし、暗示は一発で吹き飛び思考回路が復旧する
「そう・・・
貴方がその判断をしたのは非常に残念だわ
でも、貴方はきっと後悔する
せいぜい、あの子が苦しみ死ぬのを指をくわえて見ている事ねッ!!!
窓から空へと離れていくサキュバス
ここは病院の二階
それでも、このサキュバスは・・・ここでッ!!
「待てッ!!!」
窓の淵に足を掛け、全身のバネで思いっきり飛び出した
延ばした手は空を掴み、重力に引かれて落ちていく
サキュバスは暗闇に消えていってしまった
それから自警団が駆けつけたのは大分後のことだった
「サキュバスを追い払うことにもっとも貢献したのが貴方であるため、後日教会から謝礼金が渡されます」
いままではその謝礼金は全てミーアの入院代や医療費に費やしてきたが、俺にはもう必要のないも同然の金だった
そしてまた日は昇る
突然、部屋のドアが開いて主治医たちが出てくる
看護婦たちは非常に疲れた顔をしている
そして部屋の前で主治医だけが残った
しばらくの沈黙の後、やっと口を開いた
「我々にできるのは、これまででしょう
せめて、彼女が大好きな貴方が彼女の最後を看取ってあげてください」
俺は覚悟を決めてドアを開ける
布団や枕などの所々に血が付着している
余程の勢いで吐血したのが伺える
ミーアの顔はさらに青ざめ、生気がほとんど抜けかけている
それでも、ミーアは俺を笑顔で迎えてくれた
「ミーア・・・」
「ねぇ・・・お兄ちゃん
ひとつ、お願いがあるんだけど・・・良い?」
「お願い!?
あぁ、何でも言ってみろ!
なんだ、あのウエディングドレスか?それとも・・・」
続けて言おうとした俺にゆっくりと首を振って小さく答える
「私ね・・・海が見てみたい
青くて、広くて・・・綺麗な、海」
「う、海だな!?
わ、分かった
今すぐ連れて行ってやる!!」
う、海だと!?
ずいぶん昔に一度だけミーアを連れて海水浴に行ったが・・・
こんな時に・・・どうして?
だがここから海水浴が出来る場所まで軽く一日は掛かる
それでは遅すぎる!!
どこか、せめてどこか近くで海が見える場所は・・・どこだ!?
近辺の地図を探しに部屋を出る
部屋の前では主治医が立っていた
「ここから南、病院のドアを出てから反対の方角から街を出て真っ直ぐ
30分ほど行けば海が見えるハズです
断崖絶壁ですので、海には入れませんが見る事は可能です
さぁ、急ぎなさい」
部屋に戻り、さらに細くなった妹の体を抱き上げる
ドアを開けたとき、そこに主治医の姿はなかった
俺はほぼ全力を尽くして駆け抜けた
30分の道を10分で駆け抜け、目の前には海が広がっていた
海は広く、蒼かった
しばらくミーアと俺は言葉を失っていた
「・・・お兄ちゃん、おろして」
「み、ミーア?
そんな体じゃ歩けないだろ」
「そんなこと・・・ないよ」
「分かった」
ミーアの足は自分の重さで折れてしまうんじゃないかと思わせるほど細くなってしまっていた
「・・・っとっと」
「ミーア、そっちは崖があるから行くな!」
崖の方へと、フラついてしまう
やはり俺が抱えていたほうが良さそうだ
そう思って足を一歩踏み出したその瞬間だった
「来ないで」
「・・・え?」
体が動かない・・・!?
見ればミーアが俺にバインドの魔法を放っている
何故、ミーアがバインドの魔法を?
それに「来ないで」とはどういうことなんだ!?
「ミー・・・ア?
どうしたんだ?
この魔法を解いてくれないか?
あと、危ないから早くこっちへ来るんだ」
「・・・ごめんね、お兄ちゃん
でもね、私、見つけたの!
この病気を治す方法を!!
だからね、私、元気になって、絶対お兄ちゃんの所に帰って来るから!!
ちょっとだけ待たせちゃうと思うけど・・・」
ミーアは、何を言っているんだ?
何故、崖の方へと歩いていくんだ?
危ないからこっちへ・・・
「ちょっとの間だけど・・・」
サヨナラ
ミーアが 崖から 飛び込んだ
それと同時に俺を拘束していた魔力の糸が途切れ、体が動いた
俺は迷うことなく、体を崖から投げた
そして俺は海に飲まれた
「ミーアァァァ、ミーアァァァ」」
言葉にならなくても、決して届くことが無いと分かってても必死に叫んだ
海水は容赦なく口の中に入ってくる
気づけば息が出来ていない
海面に上がろうとしても荒れ狂う波に阻まれ、流されていく
もぅ・・・駄目だ・・・
突如発生した渦巻きに巻かれながら、俺の意識は深い闇に落ちていった
・・・・
あれ?
この男の人はどうしたんだい?
この人ね、今そこで溺れてたから助けてあげたの
そうなんだ、えらいねぇ
よしよし(ナデナデ
えへへ〜♪
じゃあ、この男の人はミミック空間を通してここから一番近い浜辺に住んでるカリュブディスさんの巣まで運んでもらって、そこからシービショップさんとかに頼んで安全に保護してもらおうか
うん!
・・・・・
ミーア・・・ミーア・・・
「みー・・・ッハ!?」
起き上がればそこは海の家だった
どうやら浜辺に打ち上げられている俺を見つけて保護したんだとか
「お・・・女の子は!?
俺と一緒に女の子はいなかったか!?」
「お前さんに何があったかは判らんが、少なくともお前さんは一人で倒れていたよ?」
「・・・クソッ!!」
気を取り戻してからすぐに俺は自分の街へと急いだ
街に着いたとき、既に街は眠っている深夜の時間だった
「・・・今日はゆっくり休むといい
話は明日でも出来るだろ?」
そういって、俺を仮眠室へと導いた
疲労によってしゃべる力も無くなっていた俺は簡易ベットに横になる
そういえば、まともに横になって眠るのが随分と久しく感じられる
次の瞬間には圧倒的な眠気に襲われ、俺は深い眠りについた
次の日、俺はミーアの部屋にいた
ミーアの病室にあったミーアの本を軽く読んでいた
昨日までミーアが眠っていたハズのベットは空だった
昨日まで俺に笑顔を見せてくれていた、俺にとって太陽のような少女はすでに
そこにいない
何よりも大切だったものを失い、俺の心にはポッカリと大きな穴だけが残っていた
それでも至る所にわずかに残っているミーアの面影
それを少しでも感じたくて、彼女の部屋を片付けていた
反芻するかのように頭に響く、ミーアの最後の言葉
絶対に、帰って来るから!!
あの言葉は今でも鮮明に脳内で再生される
ただ一人残すことになる兄を元気付けるだけの言葉
この言葉に実質的な意味はないのだ
それでも、あの時のミーアの目は俺を哀れむようなそんな目じゃなかったのを覚えている
そう、確かにアレは明日を見る者の目だった
主治医はただ一人、妹との思い出に浸っている俺に何があったのかは一切聞かなかった
それは彼なりの優しさだろう
心の隙間を何かで埋めたくて、ミーアとの思い出で無理やり埋めようとしている自分がいた
気づけば外は真っ暗になっていた
これ以上、この病院のお世話になる訳にはいかない
残ったミーアの本とかを全て荷物に纏め、俺は病室を後にした
また日は昇り、俺は自宅で目を覚ます
先日持ち帰ってきた物をミーアの部屋にしまわなくてはいけない
久しぶりに入るミーアの部屋
そこにはまだ病院に入院する前のミーアの生活感があふれていた
おもむろに、手前にあったノートを手に取って開く
これは・・・魔術の術式!?
俺ももっとも基本的な防衛魔術くらいは使役できるくらいの知識はある
だが、そのノートに書いてあるのはその何次元も高度な内容だった
ほとんど俺には読めないような術式ばかりがノートに纏められている
机に並べられている本の一冊を手に取り、開いて見ると様々な植物について書かれていた
これらは薬草の類だろうか
見たこと無い様な植物の挿絵、そして薬学的な利用方法とその効能などが面倒なまでに長く書かれている
ミーアは・・・自分の病気を治す為に、この勉強を?
数ある中でも一際大きな本がふと俺の目に留まった
これも何て書いてあるのか読めないが、どうやら図鑑のようだ
その大きな挿絵には女性ばかりが写っているが、しばらくページをめくっている内に気がついた
これはおそらく、魔族の図鑑
各ページごとにいろんな場所に下線部が引かれていたり、俺が読めない文字でなにやらコメントが書いてある
こんなもの、どこから仕入れてきたのやら
・・・ん?
このページだけ、しおりが挟まってる?
そこにもおそらく魔物であろう挿絵が書いてあり、右側のページに説明と思われる記号の文字列が並んでいる
このページだけ、やけに下線部や書き込みが多い
その挿絵の魔物は滑らかな流線型が特徴的だった
足の先端には鰭のようになっているらしく、尻尾のような物まで生えている
魚を連想させるその姿から、海に生息する魔物だろうか?
海・・・か
ミーア、お前はどうして海に身投げなんて・・・
この魔物が何か関係でもあるのか?
おそらく、この魔物の説明文であろう文章の上から8行目の小さい点で区切られているまでに下線部とコメントが集中していた
ここまで文字が読めないことがもどかしく感じたことは無い
しかし眺めているだけではどうにもならない
しばらく他のノートなども手にとって眺めていたが、俺にはさっぱり判らない
しかし、一ついえることはミーアは俺が思っていた以上に自分なりに自分の病気と闘っていたようだ
それでも、あの時のミーアの真意が俺に伝わることは無かった
時に思い詰まったら難しく考えることをやめ、頭をやわらかくして緩く考えて見るのもいい
そう、俺が風呂でぼんやりしていた時の事だった
病気・・・治療方法・・・サキュバス・・・海・・・魔物の図鑑・・・
・・・・・・
・・・
・・・・・・ん?
何か、一瞬全てが繋がった気がしたが、どうやらそんなことは無かったようだ
のぼせる前に出るとする
再び朝を迎える
今夜から再び自警団の夜勤が始まるから昼間はゆっくりしている
と、朝から主治医から呼び出された
しばらくは来ることの無いと思っていた病院に再び足を運ぶ
「やぁ、思った以上に元気みたいで安心しました」
「先生も、お元気そうで」
俺は俺なりにミーアの死にけじめをつけているつもりだ
これ以上くよくよしていられない
「さて、今日君を呼んだのには君にも知ってもらわなきゃいけない事があるんだよ」
「ミーアさんの病気だが、あれは一般に言う、ただの風邪だったんだ」
「・・・は!?」
あまりに意味の分からない発言に間抜けな声が出てしまった
この医者は、ミーアがタダの風邪で発作を起こし、吐血までしたっていうのか!?
「そんな訳・・・」
「驚くのは無理も無いけど、最後まで聞いて欲しい
まず、人間の体には体に入って来た病原体を殺すために様々な作用を起こすのは分かるね?」
「ええ」
「じゃあ、もし病原体を殺す為の作用が何かによって阻害されたりしたら、どうなると思う?」
「・・・」
「簡単に言うと、ミーアさんはそういう病気だったんだよ
そして、貴方にもその危険性があるんだ」
「・・・俺、にも!?」
「そう
この病気には個人差があるみたいでね、一生発症しない人もいれば、生まれてすぐに発症する人もいる
貴方の場合、まだ潜伏しているだけだけど、逆に言えば、いつ発症してもおかしくは無いんだ」
「俺には、いつ感染したんですか?」
「親からの遺伝だよ」
「・・・どういうことですか?」
「前にも言ったと思うけど、この病気は普通にしてれば感染することは無い
この病気は血液や体液を介して感染するものでね
もちろん、母体が感染しているならばその子供にも感染する
ただ、残念なことに貴方の症状がいつ発症するのか、それともずっとしないのか、それは僕たちにはまだ分からない
ただ、この事実を知っておいてもらいたい」
俺も、ミーアと同じように死ぬのだろうか・・・
病院を後にし、家に帰る
夜の町並みは昼間の喧騒が嘘のように静かだった
ただ、目の前で怒鳴り散らしている酔っ払ったおっさん以外は
俺は新米の自警団を連れて街の警備に当たっていた
魔族もチンピラもおらず、平和だと思っていたらこれだ
新米数人が押さえつけて連行していくのを見送り、警備に戻ったところで他の地区に配置された新米が急いで駆けてくる
また、魔族か・・・
なるべく新米に被害を出さないためにも、不審者か魔族を見かけたら小隊長か団長に言うように新米たちには言ってあるのだ
「C地区の方で、怪しい人影を発見しました」
「分かった、俺が向かうからこっちは頼んだ!」
「了解しました!」
C地区・・・俺の家がある地区だが、こんな時間に誰が?
酒場や簡易宿など、真夜中にいざこざや魔族が出やすいのはA地区からB地区までで、ほとんどC地区は寝静まっているためにほとんど何も無いはず
だが、夜間を狙った空き巣などの可能性もある
行動は早く、慎重に行うに越したことは無い
各地区はそんなに広く設定されていない
不審者はすぐに見つかった
全身をフードにかぶった小柄な姿
どこをどう見ても怪しい、の一言
しかし、何か様子がおかしい
そいつが泥棒だったら、なんとなく雰囲気で分かるのだ
今から犯罪を犯そうとしようとしてる奴らの独特な雰囲気
それが感じられない
ある程度の距離を離し、俺は尾行することにした
と、どうやらフードは目標にたどり着いたようだ
普通に懐から鍵を出して、家の中に入っていった
俺の家に、だ
閉められたドアにこっそり張り付き、中を伺う
ドアの小さな覗き穴から明かりが漏れる
・・・放火か!?
たしかに、この街で俺に恨みを持ってる人間も少しはいるだろう
だが普通、放火した家に入っていくか?
気配ではすでに玄関には誰もいない
なら、俺を待ち伏せ?
いや、わざわざ他人の家で待ち伏せする必要が無い
何より俺の家のことは、俺が一番知っているのだから
ドアを開き、玄関を確認
玄関のロウソクと隣の部屋から明かりが漏れている
下手に部屋に入るのは危険と判断
パイルバンカーを構え、声を出す
「自警団だ!!
そこにいるフードをかぶった奴、出て来い!!」
明かりのともった隣の部屋から顔を出したのは・・・
「お兄ちゃん?」
「ミー、ア?」
ロウソクで照らされた外見はミーアだった
しかし、その姿は・・・
俺は、絶句してしまった
「約束したでしょ?
だから戻って来ちゃった♪」
テヘッとでも言わんばかりに微笑む
確かに・・・ミーアのようだが
「ミーア・・・お前、どうして?」
「私ね、魔物になったの♪」
「なっ!?」
・・・いや、違う
ミーアは、あの時海に身を投げて死んだ
そう、もう生きているはずが無い
今、俺の目の前にいるのは、ミーアに限りなく近い姿をした、何かだ
ミーアでは・・・無い!!
「お兄ちゃん、どうしたの?そんなに怖い顔をして・・・」
「そうだよね・・・私なんか、お兄ちゃんの邪魔でしかなかったもんね・・・帰って来て欲しくなんか、無かったよね」
「・・・な、何を言っている!?」
「私は一度死んだ身・・・よく考えれば、当然よね
お兄ちゃんは私にいっぱい幸せをくれた
これ以上、お兄ちゃんに甘えてばかりいられないんだよね?」
「ちょっ、ちょっと待て!!!」
「ごめんなさい、やっぱり私、海に帰ります
お兄ちゃんっ、ごめんなさいッ!!」
そう言って玄関にいる俺を全身で突き飛ばして家から出て行く
俺は・・・バカか!?
何をやっている!?
「ミーィィアァァァアアアアア」
夜中だって構わない
叫びながらその後ろ姿を追いかける!!
ミーアを失って・・・そのぬくもりを、その姿をずっと求めていた!
もう俺は、これ以上失いたくない
魔物になったミーアは驚くほど足が速い
さすが、魔物の身体能力は人間よりも遥かに高い
海の魔物となったミーアですら、俺が一瞬でも速度を落としたら姿が見えなくなりそうになる
武器など・・・いらねぇ!!
パイルバンカー、その他の防具を走りながら脱ぎ捨てる!
「団長!!
魔物です!!」
そういって指差した直後、軽装になった俺が全力で駆けて行く
「・・・俺一人であいつらを追う!
それまで本部にて待機だ!!」
そういって団長も走り出す
気づけば日が昇り始め、あたりが明るくなり始める
ここは・・・あの時の、ミーアが身投げした海岸!
「ミーアァァ、行くなぁああ!!!」
ミーアまで後少しで手が届く
だが・・・
「お兄ちゃん・・・ごめんなさいッ!!」
バインドが俺にかかる
全身が鎖で縛られたかのように動けなくなる
だが・・・ここで止まれば
あの時と、同じだな
だが、あの時と違うのは俺の体がまだ動いている、ということだ
地面を蹴って勢いをつけ、崖に飛び込む!
この腕で抱きしめる、この温もり
もう、放すものか!
「お兄ちゃん・・・どうして!?」
「俺は・・・」
ミーアの目から大粒の涙が零れ落ちていく
俺が口を開いた瞬間、海に飲まれた
あの時とは違う
ここに、ミーアがいてくれる
こうやって死ぬのなら、それも悪くない・・・
「「少しの間、我慢してね!!」」
水中でも声がハッキリと聞こえてくる
次の瞬間、俺はものすごい力で引っ張られていた!
「ガボボッ!?」
・・・・・・
気づけば、俺は岩礁の上にいた
「気が付いた!?」
「・・・う、ん
ここは・・・」
「岩礁の上よ」
「そうか・・・」
しばらくして落ち着いてから、俺は口を開いた
「ミーア・・・」
「何?」
「どうして、魔物に?」
「お兄ちゃんは、魔物は嫌い?」
「そんなことないさ
それに、お前はミーアだよ」
しばらくして、口を開いた
ずっとあの病気を治そうと勉強し続けていたこと
でも治療法は見つからなかったこと
いくらか自分の運命を呪いもしていた、そんな時、一人のサキュバスに会ったこと
魔族になれば、病気から解放されることも教えてもらった
それでも、彼女は魔族になることを拒んだ
魔族になったら、自分が自分じゃなくなりそうなのが怖かった
それでも、それから魔族のことについて、魔術について学び始めた
知らない言語を一から学び、図鑑が読める程になったこと
その間も、体は病気に蝕まれていった
病気を治すことよりも体が先に限界を迎えた
そして、ミーアは魔族になることを最後の賭けとして海に飛び込んだ
そう語ったミーアをそっと抱きしめてやる
今まで苦しかったろうに・・・
「ミーア、俺はずっとミーアと一緒にいてやる
もうお前に辛い想いはさせないから・・・」
「お兄ちゃん・・・」
『それでは、これより結ばれる二人を祝って儀式を行いましょう』
「誰だ?」
「シー・ビショップ様・・・!?」
体の下半分が完全に魚になっている魔物が姿を現した
『私はシー・ビショップと呼ばれる魔物、ポセイドンに仕える神官です
儀式というのは、貴方のような男性の方を海で生活できるように体を作り変える事
つまり、貴方も海の魔族になれば良いのです』
「そんなことが、出来るのか!?」
『はい
ですが、そのためには貴方の体に魔力を流し込む必要があります』
「俺は、どうすればいい?」
『率直に言いますと、そこのお嬢さんと交われば良いのです』
「なッ!?
ミーアは俺の妹だ!
そんなことが許されるはずが・・・!!」
『ですが、ミーアさんの体は完全に作り変えられていますから、体は以前と全くの別物ですから問題ありません』
「だが・・・」
「お兄ちゃん・・・シよ?」
『フフフ・・・さぁ、どうぞ』
「み・・・ミーアァ!!」
俺の中でいろいろと吹っ切れた
そのままミーアを押し倒し、口をふさぐ
「お、おにいちゃッ!!」
口をふさいだのは俺のほうだが、ミーアのほうから舌を伸ばしてきた
それに絡ませるようにして舌を這わせる
ぴちゃっ・・・ぴちゃっ・・・
ミーアの舌は唾液を舐め取るように吸っていく
俺の手はミーアの胸を愛撫し始める
服の上からでは気づかなかったが、かなり大きくて柔らかかった
やさしく撫でる様に揉んでやる
「ンァァ・・・♪」
俺もこういうことは初めてだったが、ミーアは気持ち良さそうに喘いだ
「ミーア、痛くないか?」
「気持ちいい♪
すっごく気持ちいい!もっとぉ、もっともっと私のおっぱい揉んでぇ!!」
手で乳房を揉みながらピンク色の先端を口に含んで舌で転がすように舐めて、吸ってみる
「アハァッ♪そ、そんなに吸っちゃ・・・
お兄ちゃん、私、もうここもドロドロだよぉ
ハァ・・・ハァ・・・早く、頂戴♪」
押し付けるようにしてイチモツを押し付けると、一気に押し込む
すでに潤滑しているため、思った以上にスムーズに入っていく
「ンァァ!おっきくて、カタいのが入ってくるぅ!」
「ミーア、痛くない?」
「全然痛くない
それより、お兄ちゃん、もっとうごいてぇ♪」
パン、ズチュ、パン、ズチュ、パン・・・
「イィイ♪イイよぉ♪気持ちよすぎて変になっちゃうぅ♪」
「ミーア、俺も、イキそうだ・・・!」
「お兄ちゃん、一緒にイこう?」
もう出るっ!!
一層深く差し込んで、ミーアの中に吐き出す
「「ンァァアアアアアア♪」」
『・・・フフフ
儀式は完了しました
ではお二人とも、末永くお元気で』
海底でスヤスヤと眠っている二人の魔族を後にし、シー・ビショップは海の中へと消えて言った
・・・・・
団長は彼を追いかける振りをして、街からでて違う場所にたどり着く
そこにはあのサキュバスがいた
「お前には数年前、始めて会った時から助けられっぱなしだな」
「いいのよ、ダーリンの頼みだもの♪
でもね、彼女を魔族にしたのは私じゃないの」
「どういうことだ?」
「私は昔、彼女に魔族になれば性病は治るって伝えただけ
彼女はあの時、その場でサキュバスになることを望まなかったの
でも、まさか死ぬ直前に海に飛び込んでネレイスになるとは私も考えもしなかったけどね」
「それでも、俺はお前に何度も危ない目に合わせてしまった・・・」
「アレくらい暴れられる程元気がある坊やをおちょくってる方が、私たちにとっていい運動になるのよ♪
最後の一回だけは私が勝てそうだったのにな
ちょっと残念♪
でも、彼女もあんなに想われてるって考えると、嫉妬しちゃうなぁ」
「俺だって、お前を想う強さでは負ける気がしないがね」
そういうサキュバスを団長が優しく抱える
「エヘヘ♪
私がわざと逃げる振りをすれば教会からお金が貰えるんでしょ?
困るのは教会だけ♪
あの坊やには彼女のための医療費が必要だったんだし、私は暇つぶしになったし、損するのは教会だけで、他はみんな丸く収まるなんて良くできてるよね
でもね、これまで貴方の頼みを聞いてあげたんだから、これからは私の言うことも聞いてもらうからね〜♪」
「あぁ、何でも聞くさ」
「ウフフフ、今夜は寝かさないわよぉ
一晩で立派なインキュバスに成れちゃうくらい、犯してあげる♪」
「そりゃあ楽しみだな」
今病室の妹はスヤスヤと眠っているが、俺が来る前は酷い発作を起こしていたらしい
妹の様子を見てから主治医の部屋に来るように言われた
しかし、その表情はかなり厳しいものだった
おそらく、妹に残された時間はそんなに長くはないんだろう
しばらく妹の寝顔を眺めてから、重い足を上げて主治医の部屋へと赴く
「・・・ミーアさんの容態ですが」
「ミーアの寿命はそんなに長くは無いのは分かっています
では、ミーアはあとどれだけ生きることが出来るんですか?
正直に言ってもらっても構いません、覚悟は出来てます」
「最悪、あと3日・・・長くても一週間でしょう」
「っ!?あと・・・3日」
あと3日、長くても1週間だと・・・!?
あまりに非情な現実
妹の容態がそこまで来ているとは、俺は思いもしていなかった
「し、しかし!
緊急の発作はこれまでにも数え切れないくらいにあったハズです!
こ、今回もまた・・・!!」
「度重なってきた強引な治療で、彼女の体も限界を迎えているのです
それどころか、ここまで持った事自体が奇跡に近いんですよ」
「そ・・・そんな」
「・・・彼女に今投与しているのは痛み止めだけです」
「え・・・何故だッ!?」
その言葉を聞いて主治医に掴み掛かり、言葉を荒げる
そんなことをしても現状は悪くなる一方だと言うのに・・・
「彼女が望んだんです!」
「ミーアが・・・そんなバカなことを望むわけッ!!!」
「彼女はね、すでに悟っていたんですよ・・・
自分の体に限界が来ていて、既にあと数日も持たないって事を!!」
「ッ!?」
主治医の頬に一筋の水滴が流れる
嗚咽でろくに回らない口を開き、言葉を紡いでいく
「自分の体のことですから、よく分かるんでしょうね・・・
これまで診てきた人や魔物の数は数え切れません
もちろん、貴方の妹さんのような方もいれば、もっと酷い病に侵された方も診てきました・・・
そんな方々はね、みんな自分の死期が近づくと分かるみたいなんです
そして私に聞くんです
先生、私の寿命ってあと○○日だよね?って
・・・そんな彼らに、私は何もしてやることが出来ないんですよ!?
そんな彼らに、私は・・・なんて無力なんだ!!」
そういってついに感情を抑えきれなくなり、泣き崩れた
命を救う立場である医者として、酷くなる病気に対し、成すすべが全く無いというのはどれだけ辛いだろうか
「俺は・・・何をすればいいのでしょうか?」
「彼女は、いつも貴方のことを私たちに話してくれました
彼女は貴方が大好きなんでしょうね
ですから・・・せめて彼女のそばにいてあげて下さい
それが彼女にとって、一番の幸せでしょう」
・・・・
「失礼しました」
そう言ってドアを閉める
ドアの向こうから、机を思いっきり叩く音、泣く声が聞こえてくる
主治医もこれまで辛かったに違いない
病気を直すことが出来ず、症状を抑えることしか出来ない
この病気の治療方法はまだ見つかっていない
主治医もさまざまな薬を試したが、現存の薬では治療には至らなかったらしい
外を見ると既に夜が明けようとしている
日が昇るのにはまだ早い
しかし、刻一刻と過ぎていく時間を恨んでも仕方の無いことだった
そして一旦病院を後にする
俺は今、自警団の団長の部屋に来ている
まさかこんな時間に起きてはいないだろう
しかし、俺は部屋をノックする
「入れ」
否、団長は起きていた
「確か今日お前は非番だったはずだが、こんな時間にどうした?」
「明日から一週間、深夜間の警備、見回りを休ませていただきたいのです」
「珍しいな、これまでこの仕事についてから休んだことが無いお前が、一週間休みを取りたいと?」
「実は、妹の容態が悪化して・・・」
「それ以上は言わなくていい
しっかり妹さんの面倒を見てやれ
お前の代理は俺が用意しといてやる」
「ありがとうございます、では失礼します」
団長には前々から妹の事を話している
最近、急に容態が悪化してきていること
何度も発作を起こしていること
きっと団長も感づいて、気を使ってくれたんだろう
しかし、その気遣いすらも今の俺にとっては厳しかった
俺は大分前から生活費と妹の医療費を払うために、自警団に入団して深夜間の見回りなどをしている
年齢の制限が緩く、かつ高給料だからだ
昼間に比べて非常に高い給料が設定されているが、万年人不足に悩まされている
それもそのはず、危険の度合いが全く異なるのである
その主な原因は魔族の存在
ここ最近は人気のない場所からこっそり街に魔族が侵入してくることが多く、深夜に見回りをしている自警団が襲われることも少なくない
俺も過去に何度か襲われたことがことがあった
数年前、初めて遭遇したとき、俺はどうすることも出来ずに魅了され、ただ呆然とすることしか出来なかった
もしあの時、団長が駆けつけてくれなかったら俺は今頃ここにいなかっただろう
小隊長となった今では意図的に魅了に対抗できるようになったが、当時はひたすらミーアを心の支えとすることで魔族の魅了から心を守っていた
では、ミーアがいなくなったら、俺は魔族に・・・
いや、これ以上はやめよう
ミーアはまだ、生きている
そうやって自分を騙しているのも無駄だと知りながら、俺は自分の心に生じ始めたヒビをごまかそうとしている
俺はミーアの病室で朝を迎えた
病院の適当ないすをミーアの部屋に静かに運び、それに座ってうつらうつらしていた
急にまぶしさを感じ、目を開くと朝日が姿を現す
ベットの上ではミーアが小さな吐息を立てながら眠っている
わずかでも聞こえる吐息、生きている証拠
俺はホッと胸を撫で下ろす
日が出てからしばらく経った頃、ミーアは目を覚ました
「ん、ふぁぁ・・・あ、おにいちゃん?」
「おはよう、ミーナ
体の調子はどうだ?」
「昨日の夜はちょっと苦しかったけど、今は大丈夫
いつもより体の調子が良いみたい」
「そうか・・・」
こうして俺とミーアの一日目が始まった
「おにいちゃん、自警団はいいの?」
「あぁ、一週間ほど休みをもらってきた
だからミーアとずっといっしょにいられるぞ!」
「お兄ちゃん、ほんとに私と・・・ずっと一緒に居てくれる?」
「本当だ、約束するよ」
「約束からね!」
妹の発言に一瞬気に掛かるような、何か違和感を感じた
だが、それも一瞬の気の迷いだろう
もし妹がこの先ずっと生きてられるのなら、俺はずっと一緒に居てやりたい
「お兄ちゃん・・・私、お兄ちゃんと一緒に外に行きたいな」
「でも、体は大丈夫なのか?
昨日はひどい発作だったと聞いたけど」
「今ね、体がすっごく楽だから、久しぶりに外に出たいなって」
体が楽なのは延命治療の代わりに多めに麻酔を使っているからだろう
だが、そんなことをミーアに言うわけにはいかない
それに、せめて今だけでも彼女の望むことをさせてやりたい
「良いんじゃないですかね?
今日は天気もいいですし、朝からミーアさんの体調は良好みたいですし」
主治医がのんきな事を言いながらドアを開けて入ってくる
「先生・・・!?」
「ではミーアちゃん、先生はミーアちゃんが外にでる為の支度をしてくるから着替えておくんだよ?」
「はい!」
「ではお兄さん、車椅子などの用意があるので少し手伝ってもらえませんか?」
「えぇ、は、はい」
「ほ、本当に大丈夫なんですか!?」
「無論、大丈夫な訳がありません
ですが、発作止めは十分に効いているはずですので、余程急激な運動をさせない限りは大丈夫でしょう
幸い、彼女の病気は伝染病ではありませんので他人に移ることも無いですし」
「大丈夫でないなら、どうして!?」
「せめて最後くらい、あの鳥かごのような部屋を抜け出させてやろうとは思えないんですか?
それが彼女の望みなら、容易い御用でしょう?」
「あと、これを昼食のときに飲ませてあげてください
痛み止めと発作抑制の薬です」
俺はこの主治医に何も言うことが出来なかった
車椅子を持ってミーアの病室に向かう俺に後ろから先生が声をかけた
「彼女は今、生きたいという強い気持ちだけで病気と闘っています
ですが、その気持ちが時として病に打ち勝つこともありえるのです
また、明日を強く生きたいと思うほど、彼女は長く生きることが出来るでしょう
気休めにしかならないでしょうが、そんなことも頭に入れておいてください」
結局、車椅子は使わなかった
俺がミーアをお姫様抱っこで抱えていた
それでもいつも装備している自警団の武具などはミーアの病室に置いて来た為、ミーアを抱えていたとしても身軽に感じられる
抱えて分かったのが、ミーアは俺が思っていた以上に儚く、華奢だった
抱えている俺の腕は日焼けしている上に太いため、ミーアの腕の細さと白さが際立って見える
ミーアはお姫様抱っこで抱えられて少し恥ずかしそうだが、嫌がる様子も無い
その恥ずかしそうな表情がまた可愛らしかった
どこへ行きたい?と聞くと街へ行きたいというので、この街でもっともにぎわっている中心街の商店街へ向かう
ここでは外から入って来た物が露天に並べて売られている
見たこと無いようなものや、何に使うか分からないものまでさまざまであり、またそれを売っている者もそれぞれだった
「お兄ちゃん!!
見て、あの女の人!」
「あぁ、メドゥーサのシュリさんだ
夫婦で石細工をしてる」
「お兄ちゃん、あの人(?)と知り合いなの?」
「まぁ、自警団をやってると自然と顔見知りが増えるんだ」
「へぇ〜、凄い!」
「こっちのお店は衣服屋だな」
「お兄ちゃん、これって・・・」
「ん?」
ミーアが目をキラキラさせながら見ているそれは、ウエディング・ドレス
「素敵・・・」
「・・・着てみたいか?」
「まぁね
もし着るなら、お兄ちゃんと結婚したい・・・かな」
「えっ!?」
「いらっしゃいませ、何かお探しですか?
それとも、オーダーメイドも承りますが」
奥から出てきたのはジョロウグモ
上半身は綺麗な和服を着ており、下半身の蜘蛛の足が印象的な魔物
妹は一瞬その蜘蛛と人を足して2で割ったような姿に驚いたようだった
「ミーア、ご飯は何が食べたい?」
「今日は病院で食べなくてもいいの?」
「あぁ、好きなものを食べさせてやる」
「じゃあね、お兄ちゃんの作った料理が食べたいな」
「俺の・・・手料理?」
正直、俺はこれまで碌なものを作った事がない
料理が苦手とか下手という訳ではなく、純粋にきちんとした料理を作ったことが無いのだ
いつも作るのはただ野菜を炒めたり、鍋にとりあえず入れて煮るだけとか、そんなものばっかり
客人が来ることなんて無いので、お店で出てくるような飾った料理の作り方など知りもしない
しかし、ここは断るわけにはいかない
「ミーア、俺は綺麗な料理やおいしい料理なんて作れない
それでも、いいか?」
「お兄ちゃんが作ってくれれば、何でもいいよ」
俺は妹を抱えたまま買い物を済ませて自宅に着いた
結局一日中妹を抱えたまま街を見てきた
さて、ここが本日最大の修羅場だ
まさかミーアが俺の手料理を食べたいと言うなんて思いも寄らなかったため、正直困惑している
しかし、いつも通りに俺が食べているものを食べてみたい、と言った
それは何の考えもなく食材を鍋に突っ込んで調味料を加えただけの極めて無粋な料理だ
そんな料理を出して大丈夫か心配になったが、かといって選択肢はないのだ
せめて食材をミーアでも一口で食べれるくらいの大きさで切ってやるくらいのことしか出来なかった
吹きこぼしたり、少し焦げたりとトラブルもあったが無事に完成する
ミーアは笑顔でおいしいと言ってくれた
俺はその笑顔だけで十分だった
さすがに夜は病室で軽い審査を受けなければならないため、俺はミーアを抱えて病院に向かっていた
しかし、そこでミーアの体調が急変してきた
先ほどとうって変わり、すでに顔色が真っ青になっている
俺は病院に駆け込んだ頃には発作は進み、酷く咳き込んでいる
一瞬、口を押さえている手元が赤くなっているのが見えた
・・・吐血、している!?
呼吸音もかすれたようなような音をしている
駆け込んできた主治医もその様子に絶句した
「今から緊急で治療を行います!
すみませんが、お兄さんは少し部屋を出てもらいませんか?」
俺はただ部屋の外で祈ることしか出来なかった
・・・
緊急の治療が始まってどれくらい経っただろう
未だに部屋の内側から主治医と看護婦の少しの会話と苦しそうなミーアの声が聞こえてくる
・・・・
「随分とお困りのようね?
お姉さんが話を聞いてあげましょうか?」
この声には聞き覚えがある
そう、数年前から幾度と無く聞いた声だった
声の方向に目を向けると、一人の女性が窓に腰掛けている
病院には不釣合いな、相手を煽るような扇情的な服装
そして背中からは翼と尻尾が生えている
月明かりが相まってさらに魅惑的な雰囲気をかもし出している
俺の目の前にサキュバスがいた
「また貴様か!」
「また、とは失礼ね
そんなことより、どうしちゃったのかしら
いつものゾクゾクする様な気迫が無いわよぉ?」
「貴様には関係の無いことだ!」
「あらそう?
じゃ、今夜は失礼しようかな
せっかく、ドアの向こうの女の子の病気を治す方法を知ってるのにぃ
残念だなぁ」
病気を治せる・・・その言葉で心がぐら付く
「病気を、治せるだと!?
・・・嘘をつくなぁ!!」
「本当よ?
私は彼女の病気を治す方法を知っているわ
まぁ、貴方が別に良いっていうんだったら私は全然構わないんだけど
・・・さっき向こうの部屋の様子は覗かせてもらったけどあの病気の女の子、あのままじゃあと一日も持たないわよ?」
「だったら、貴様に何が出来るって言うんだよ!?」
小象ならば気絶してしまいかねない程の殺気
しかしサキュバスもそれを軽く受け流して飄々と答える
「簡単よ♪
私が彼女とエッチして、彼女をサキュバスにするの♪」
サキュバスが言い終わる時には既に俺の得物、パイルバンカーが突きつけられていた
やはり、聞く耳を持った俺がバカだった様だ
しかし、目の前で窓に腰掛けたままのサキュバスは口元に笑みを浮かべている
「「それでいいの?
貴方は、彼女は、それで幸せなの?」」
声が頭に直接響き、反響する
サキュバスの得意とする暗示技の一種だ
普段ならこの程度の暗示など動じる事無く破れるはずだった
しかし、今この状況で脆くなった心には暗示を破るどころか、抵抗することすら厳しい
「貴様のような魔族ごときに何が分かる!?
あいつは、人間として生きることを望んでいるんだ!!」
「「乙女心が分かっていないのは、貴方の方
女ってのはね、どんなに姿になってでも好きな人と一緒にいられるならそれが何よりの幸せなの
それとも、彼女に死んで欲しいの?」」
「そんなことある訳、無いだろっ!!!
それでも、サキュバスになったからとて病気が治るとはッ!!」
「「サキュバスの寿命は人よりもずっと永いの
それこそ外傷等が無ければ人の何十倍も生きられる
そんな長寿のサキュバスが、そこいらの病気でコロっと死んじゃうと思う?
もし、彼女が今サキュバスになればあんな病気イチコロよ♪
でもね、私だってタダで彼女をサキュバスに出来るって訳じゃないのよ」」
「・・・俺に条件を突きつける訳だ」
「「そう
私たちは精を糧にして生きているわ
もちろん、彼女をサキュバスにしてあげるのにも相当な精がいるの
今の私にはちょっと精が足りないかなぁ
だから、もしあの子を元気なサキュバスにしてあげたいのなら君の精を私に分けて欲しいんだよね♪
もし分けてくれたら、彼女を元気にして ア ゲ ル」」
「・・・」
ミーアが・・・助かるのか!?
一言一言が心を強く抉り、心の壁を砕いていく
反響する言葉はいくら拒絶しても頭に染み込むように入ってくる
駄目だ
これ以上聞かされたら・・・
「「どぉ?
貴方にとっても、彼女にとっても、悪い話じゃなんか無いはずよ?
むしろチャンスなの・・・
さぁ、私にお願いしてみて?
お願いします、ご・主・人・様・って♪」」
「俺は・・・」
思考回路にもやが掛かったみたいに不鮮明になってまともに考えられない
それでもミーアが助かるって一言がグルグルと渦を巻いているみたいだ
あぁ・・・やっぱり駄目だ
ミーアはこんな事望んじゃいないんだろうけど、俺にはそんなこと、させられやしないから・・・
「・・・」
「「どぉしたの?
ほら、お願いしますって言うだけで良いのよ?」」
「人の・・・」
「「ん?
ちゃんと言ってくれないと聞こえないわよ?」」
あぁ、ちゃんと言ってやらなきゃな
その耳に聞こえるように、ハッキリと
「人の心に、ズケズケと・・・」
「「なぁに?」」
「土足で、入り込んで、来るんじゃねぇぇッ!!!!!」
「「ッツ!?」」
パイルバンカー射出!!
とっさに身を翻したサキュバスには当たらず、突き出されたバンカーは空を切る
しかし、暗示は一発で吹き飛び思考回路が復旧する
「そう・・・
貴方がその判断をしたのは非常に残念だわ
でも、貴方はきっと後悔する
せいぜい、あの子が苦しみ死ぬのを指をくわえて見ている事ねッ!!!
窓から空へと離れていくサキュバス
ここは病院の二階
それでも、このサキュバスは・・・ここでッ!!
「待てッ!!!」
窓の淵に足を掛け、全身のバネで思いっきり飛び出した
延ばした手は空を掴み、重力に引かれて落ちていく
サキュバスは暗闇に消えていってしまった
それから自警団が駆けつけたのは大分後のことだった
「サキュバスを追い払うことにもっとも貢献したのが貴方であるため、後日教会から謝礼金が渡されます」
いままではその謝礼金は全てミーアの入院代や医療費に費やしてきたが、俺にはもう必要のないも同然の金だった
そしてまた日は昇る
突然、部屋のドアが開いて主治医たちが出てくる
看護婦たちは非常に疲れた顔をしている
そして部屋の前で主治医だけが残った
しばらくの沈黙の後、やっと口を開いた
「我々にできるのは、これまででしょう
せめて、彼女が大好きな貴方が彼女の最後を看取ってあげてください」
俺は覚悟を決めてドアを開ける
布団や枕などの所々に血が付着している
余程の勢いで吐血したのが伺える
ミーアの顔はさらに青ざめ、生気がほとんど抜けかけている
それでも、ミーアは俺を笑顔で迎えてくれた
「ミーア・・・」
「ねぇ・・・お兄ちゃん
ひとつ、お願いがあるんだけど・・・良い?」
「お願い!?
あぁ、何でも言ってみろ!
なんだ、あのウエディングドレスか?それとも・・・」
続けて言おうとした俺にゆっくりと首を振って小さく答える
「私ね・・・海が見てみたい
青くて、広くて・・・綺麗な、海」
「う、海だな!?
わ、分かった
今すぐ連れて行ってやる!!」
う、海だと!?
ずいぶん昔に一度だけミーアを連れて海水浴に行ったが・・・
こんな時に・・・どうして?
だがここから海水浴が出来る場所まで軽く一日は掛かる
それでは遅すぎる!!
どこか、せめてどこか近くで海が見える場所は・・・どこだ!?
近辺の地図を探しに部屋を出る
部屋の前では主治医が立っていた
「ここから南、病院のドアを出てから反対の方角から街を出て真っ直ぐ
30分ほど行けば海が見えるハズです
断崖絶壁ですので、海には入れませんが見る事は可能です
さぁ、急ぎなさい」
部屋に戻り、さらに細くなった妹の体を抱き上げる
ドアを開けたとき、そこに主治医の姿はなかった
俺はほぼ全力を尽くして駆け抜けた
30分の道を10分で駆け抜け、目の前には海が広がっていた
海は広く、蒼かった
しばらくミーアと俺は言葉を失っていた
「・・・お兄ちゃん、おろして」
「み、ミーア?
そんな体じゃ歩けないだろ」
「そんなこと・・・ないよ」
「分かった」
ミーアの足は自分の重さで折れてしまうんじゃないかと思わせるほど細くなってしまっていた
「・・・っとっと」
「ミーア、そっちは崖があるから行くな!」
崖の方へと、フラついてしまう
やはり俺が抱えていたほうが良さそうだ
そう思って足を一歩踏み出したその瞬間だった
「来ないで」
「・・・え?」
体が動かない・・・!?
見ればミーアが俺にバインドの魔法を放っている
何故、ミーアがバインドの魔法を?
それに「来ないで」とはどういうことなんだ!?
「ミー・・・ア?
どうしたんだ?
この魔法を解いてくれないか?
あと、危ないから早くこっちへ来るんだ」
「・・・ごめんね、お兄ちゃん
でもね、私、見つけたの!
この病気を治す方法を!!
だからね、私、元気になって、絶対お兄ちゃんの所に帰って来るから!!
ちょっとだけ待たせちゃうと思うけど・・・」
ミーアは、何を言っているんだ?
何故、崖の方へと歩いていくんだ?
危ないからこっちへ・・・
「ちょっとの間だけど・・・」
サヨナラ
ミーアが 崖から 飛び込んだ
それと同時に俺を拘束していた魔力の糸が途切れ、体が動いた
俺は迷うことなく、体を崖から投げた
そして俺は海に飲まれた
「ミーアァァァ、ミーアァァァ」」
言葉にならなくても、決して届くことが無いと分かってても必死に叫んだ
海水は容赦なく口の中に入ってくる
気づけば息が出来ていない
海面に上がろうとしても荒れ狂う波に阻まれ、流されていく
もぅ・・・駄目だ・・・
突如発生した渦巻きに巻かれながら、俺の意識は深い闇に落ちていった
・・・・
あれ?
この男の人はどうしたんだい?
この人ね、今そこで溺れてたから助けてあげたの
そうなんだ、えらいねぇ
よしよし(ナデナデ
えへへ〜♪
じゃあ、この男の人はミミック空間を通してここから一番近い浜辺に住んでるカリュブディスさんの巣まで運んでもらって、そこからシービショップさんとかに頼んで安全に保護してもらおうか
うん!
・・・・・
ミーア・・・ミーア・・・
「みー・・・ッハ!?」
起き上がればそこは海の家だった
どうやら浜辺に打ち上げられている俺を見つけて保護したんだとか
「お・・・女の子は!?
俺と一緒に女の子はいなかったか!?」
「お前さんに何があったかは判らんが、少なくともお前さんは一人で倒れていたよ?」
「・・・クソッ!!」
気を取り戻してからすぐに俺は自分の街へと急いだ
街に着いたとき、既に街は眠っている深夜の時間だった
「・・・今日はゆっくり休むといい
話は明日でも出来るだろ?」
そういって、俺を仮眠室へと導いた
疲労によってしゃべる力も無くなっていた俺は簡易ベットに横になる
そういえば、まともに横になって眠るのが随分と久しく感じられる
次の瞬間には圧倒的な眠気に襲われ、俺は深い眠りについた
次の日、俺はミーアの部屋にいた
ミーアの病室にあったミーアの本を軽く読んでいた
昨日までミーアが眠っていたハズのベットは空だった
昨日まで俺に笑顔を見せてくれていた、俺にとって太陽のような少女はすでに
そこにいない
何よりも大切だったものを失い、俺の心にはポッカリと大きな穴だけが残っていた
それでも至る所にわずかに残っているミーアの面影
それを少しでも感じたくて、彼女の部屋を片付けていた
反芻するかのように頭に響く、ミーアの最後の言葉
絶対に、帰って来るから!!
あの言葉は今でも鮮明に脳内で再生される
ただ一人残すことになる兄を元気付けるだけの言葉
この言葉に実質的な意味はないのだ
それでも、あの時のミーアの目は俺を哀れむようなそんな目じゃなかったのを覚えている
そう、確かにアレは明日を見る者の目だった
主治医はただ一人、妹との思い出に浸っている俺に何があったのかは一切聞かなかった
それは彼なりの優しさだろう
心の隙間を何かで埋めたくて、ミーアとの思い出で無理やり埋めようとしている自分がいた
気づけば外は真っ暗になっていた
これ以上、この病院のお世話になる訳にはいかない
残ったミーアの本とかを全て荷物に纏め、俺は病室を後にした
また日は昇り、俺は自宅で目を覚ます
先日持ち帰ってきた物をミーアの部屋にしまわなくてはいけない
久しぶりに入るミーアの部屋
そこにはまだ病院に入院する前のミーアの生活感があふれていた
おもむろに、手前にあったノートを手に取って開く
これは・・・魔術の術式!?
俺ももっとも基本的な防衛魔術くらいは使役できるくらいの知識はある
だが、そのノートに書いてあるのはその何次元も高度な内容だった
ほとんど俺には読めないような術式ばかりがノートに纏められている
机に並べられている本の一冊を手に取り、開いて見ると様々な植物について書かれていた
これらは薬草の類だろうか
見たこと無い様な植物の挿絵、そして薬学的な利用方法とその効能などが面倒なまでに長く書かれている
ミーアは・・・自分の病気を治す為に、この勉強を?
数ある中でも一際大きな本がふと俺の目に留まった
これも何て書いてあるのか読めないが、どうやら図鑑のようだ
その大きな挿絵には女性ばかりが写っているが、しばらくページをめくっている内に気がついた
これはおそらく、魔族の図鑑
各ページごとにいろんな場所に下線部が引かれていたり、俺が読めない文字でなにやらコメントが書いてある
こんなもの、どこから仕入れてきたのやら
・・・ん?
このページだけ、しおりが挟まってる?
そこにもおそらく魔物であろう挿絵が書いてあり、右側のページに説明と思われる記号の文字列が並んでいる
このページだけ、やけに下線部や書き込みが多い
その挿絵の魔物は滑らかな流線型が特徴的だった
足の先端には鰭のようになっているらしく、尻尾のような物まで生えている
魚を連想させるその姿から、海に生息する魔物だろうか?
海・・・か
ミーア、お前はどうして海に身投げなんて・・・
この魔物が何か関係でもあるのか?
おそらく、この魔物の説明文であろう文章の上から8行目の小さい点で区切られているまでに下線部とコメントが集中していた
ここまで文字が読めないことがもどかしく感じたことは無い
しかし眺めているだけではどうにもならない
しばらく他のノートなども手にとって眺めていたが、俺にはさっぱり判らない
しかし、一ついえることはミーアは俺が思っていた以上に自分なりに自分の病気と闘っていたようだ
それでも、あの時のミーアの真意が俺に伝わることは無かった
時に思い詰まったら難しく考えることをやめ、頭をやわらかくして緩く考えて見るのもいい
そう、俺が風呂でぼんやりしていた時の事だった
病気・・・治療方法・・・サキュバス・・・海・・・魔物の図鑑・・・
・・・・・・
・・・
・・・・・・ん?
何か、一瞬全てが繋がった気がしたが、どうやらそんなことは無かったようだ
のぼせる前に出るとする
再び朝を迎える
今夜から再び自警団の夜勤が始まるから昼間はゆっくりしている
と、朝から主治医から呼び出された
しばらくは来ることの無いと思っていた病院に再び足を運ぶ
「やぁ、思った以上に元気みたいで安心しました」
「先生も、お元気そうで」
俺は俺なりにミーアの死にけじめをつけているつもりだ
これ以上くよくよしていられない
「さて、今日君を呼んだのには君にも知ってもらわなきゃいけない事があるんだよ」
「ミーアさんの病気だが、あれは一般に言う、ただの風邪だったんだ」
「・・・は!?」
あまりに意味の分からない発言に間抜けな声が出てしまった
この医者は、ミーアがタダの風邪で発作を起こし、吐血までしたっていうのか!?
「そんな訳・・・」
「驚くのは無理も無いけど、最後まで聞いて欲しい
まず、人間の体には体に入って来た病原体を殺すために様々な作用を起こすのは分かるね?」
「ええ」
「じゃあ、もし病原体を殺す為の作用が何かによって阻害されたりしたら、どうなると思う?」
「・・・」
「簡単に言うと、ミーアさんはそういう病気だったんだよ
そして、貴方にもその危険性があるんだ」
「・・・俺、にも!?」
「そう
この病気には個人差があるみたいでね、一生発症しない人もいれば、生まれてすぐに発症する人もいる
貴方の場合、まだ潜伏しているだけだけど、逆に言えば、いつ発症してもおかしくは無いんだ」
「俺には、いつ感染したんですか?」
「親からの遺伝だよ」
「・・・どういうことですか?」
「前にも言ったと思うけど、この病気は普通にしてれば感染することは無い
この病気は血液や体液を介して感染するものでね
もちろん、母体が感染しているならばその子供にも感染する
ただ、残念なことに貴方の症状がいつ発症するのか、それともずっとしないのか、それは僕たちにはまだ分からない
ただ、この事実を知っておいてもらいたい」
俺も、ミーアと同じように死ぬのだろうか・・・
病院を後にし、家に帰る
夜の町並みは昼間の喧騒が嘘のように静かだった
ただ、目の前で怒鳴り散らしている酔っ払ったおっさん以外は
俺は新米の自警団を連れて街の警備に当たっていた
魔族もチンピラもおらず、平和だと思っていたらこれだ
新米数人が押さえつけて連行していくのを見送り、警備に戻ったところで他の地区に配置された新米が急いで駆けてくる
また、魔族か・・・
なるべく新米に被害を出さないためにも、不審者か魔族を見かけたら小隊長か団長に言うように新米たちには言ってあるのだ
「C地区の方で、怪しい人影を発見しました」
「分かった、俺が向かうからこっちは頼んだ!」
「了解しました!」
C地区・・・俺の家がある地区だが、こんな時間に誰が?
酒場や簡易宿など、真夜中にいざこざや魔族が出やすいのはA地区からB地区までで、ほとんどC地区は寝静まっているためにほとんど何も無いはず
だが、夜間を狙った空き巣などの可能性もある
行動は早く、慎重に行うに越したことは無い
各地区はそんなに広く設定されていない
不審者はすぐに見つかった
全身をフードにかぶった小柄な姿
どこをどう見ても怪しい、の一言
しかし、何か様子がおかしい
そいつが泥棒だったら、なんとなく雰囲気で分かるのだ
今から犯罪を犯そうとしようとしてる奴らの独特な雰囲気
それが感じられない
ある程度の距離を離し、俺は尾行することにした
と、どうやらフードは目標にたどり着いたようだ
普通に懐から鍵を出して、家の中に入っていった
俺の家に、だ
閉められたドアにこっそり張り付き、中を伺う
ドアの小さな覗き穴から明かりが漏れる
・・・放火か!?
たしかに、この街で俺に恨みを持ってる人間も少しはいるだろう
だが普通、放火した家に入っていくか?
気配ではすでに玄関には誰もいない
なら、俺を待ち伏せ?
いや、わざわざ他人の家で待ち伏せする必要が無い
何より俺の家のことは、俺が一番知っているのだから
ドアを開き、玄関を確認
玄関のロウソクと隣の部屋から明かりが漏れている
下手に部屋に入るのは危険と判断
パイルバンカーを構え、声を出す
「自警団だ!!
そこにいるフードをかぶった奴、出て来い!!」
明かりのともった隣の部屋から顔を出したのは・・・
「お兄ちゃん?」
「ミー、ア?」
ロウソクで照らされた外見はミーアだった
しかし、その姿は・・・
俺は、絶句してしまった
「約束したでしょ?
だから戻って来ちゃった♪」
テヘッとでも言わんばかりに微笑む
確かに・・・ミーアのようだが
「ミーア・・・お前、どうして?」
「私ね、魔物になったの♪」
「なっ!?」
・・・いや、違う
ミーアは、あの時海に身を投げて死んだ
そう、もう生きているはずが無い
今、俺の目の前にいるのは、ミーアに限りなく近い姿をした、何かだ
ミーアでは・・・無い!!
「お兄ちゃん、どうしたの?そんなに怖い顔をして・・・」
「そうだよね・・・私なんか、お兄ちゃんの邪魔でしかなかったもんね・・・帰って来て欲しくなんか、無かったよね」
「・・・な、何を言っている!?」
「私は一度死んだ身・・・よく考えれば、当然よね
お兄ちゃんは私にいっぱい幸せをくれた
これ以上、お兄ちゃんに甘えてばかりいられないんだよね?」
「ちょっ、ちょっと待て!!!」
「ごめんなさい、やっぱり私、海に帰ります
お兄ちゃんっ、ごめんなさいッ!!」
そう言って玄関にいる俺を全身で突き飛ばして家から出て行く
俺は・・・バカか!?
何をやっている!?
「ミーィィアァァァアアアアア」
夜中だって構わない
叫びながらその後ろ姿を追いかける!!
ミーアを失って・・・そのぬくもりを、その姿をずっと求めていた!
もう俺は、これ以上失いたくない
魔物になったミーアは驚くほど足が速い
さすが、魔物の身体能力は人間よりも遥かに高い
海の魔物となったミーアですら、俺が一瞬でも速度を落としたら姿が見えなくなりそうになる
武器など・・・いらねぇ!!
パイルバンカー、その他の防具を走りながら脱ぎ捨てる!
「団長!!
魔物です!!」
そういって指差した直後、軽装になった俺が全力で駆けて行く
「・・・俺一人であいつらを追う!
それまで本部にて待機だ!!」
そういって団長も走り出す
気づけば日が昇り始め、あたりが明るくなり始める
ここは・・・あの時の、ミーアが身投げした海岸!
「ミーアァァ、行くなぁああ!!!」
ミーアまで後少しで手が届く
だが・・・
「お兄ちゃん・・・ごめんなさいッ!!」
バインドが俺にかかる
全身が鎖で縛られたかのように動けなくなる
だが・・・ここで止まれば
あの時と、同じだな
だが、あの時と違うのは俺の体がまだ動いている、ということだ
地面を蹴って勢いをつけ、崖に飛び込む!
この腕で抱きしめる、この温もり
もう、放すものか!
「お兄ちゃん・・・どうして!?」
「俺は・・・」
ミーアの目から大粒の涙が零れ落ちていく
俺が口を開いた瞬間、海に飲まれた
あの時とは違う
ここに、ミーアがいてくれる
こうやって死ぬのなら、それも悪くない・・・
「「少しの間、我慢してね!!」」
水中でも声がハッキリと聞こえてくる
次の瞬間、俺はものすごい力で引っ張られていた!
「ガボボッ!?」
・・・・・・
気づけば、俺は岩礁の上にいた
「気が付いた!?」
「・・・う、ん
ここは・・・」
「岩礁の上よ」
「そうか・・・」
しばらくして落ち着いてから、俺は口を開いた
「ミーア・・・」
「何?」
「どうして、魔物に?」
「お兄ちゃんは、魔物は嫌い?」
「そんなことないさ
それに、お前はミーアだよ」
しばらくして、口を開いた
ずっとあの病気を治そうと勉強し続けていたこと
でも治療法は見つからなかったこと
いくらか自分の運命を呪いもしていた、そんな時、一人のサキュバスに会ったこと
魔族になれば、病気から解放されることも教えてもらった
それでも、彼女は魔族になることを拒んだ
魔族になったら、自分が自分じゃなくなりそうなのが怖かった
それでも、それから魔族のことについて、魔術について学び始めた
知らない言語を一から学び、図鑑が読める程になったこと
その間も、体は病気に蝕まれていった
病気を治すことよりも体が先に限界を迎えた
そして、ミーアは魔族になることを最後の賭けとして海に飛び込んだ
そう語ったミーアをそっと抱きしめてやる
今まで苦しかったろうに・・・
「ミーア、俺はずっとミーアと一緒にいてやる
もうお前に辛い想いはさせないから・・・」
「お兄ちゃん・・・」
『それでは、これより結ばれる二人を祝って儀式を行いましょう』
「誰だ?」
「シー・ビショップ様・・・!?」
体の下半分が完全に魚になっている魔物が姿を現した
『私はシー・ビショップと呼ばれる魔物、ポセイドンに仕える神官です
儀式というのは、貴方のような男性の方を海で生活できるように体を作り変える事
つまり、貴方も海の魔族になれば良いのです』
「そんなことが、出来るのか!?」
『はい
ですが、そのためには貴方の体に魔力を流し込む必要があります』
「俺は、どうすればいい?」
『率直に言いますと、そこのお嬢さんと交われば良いのです』
「なッ!?
ミーアは俺の妹だ!
そんなことが許されるはずが・・・!!」
『ですが、ミーアさんの体は完全に作り変えられていますから、体は以前と全くの別物ですから問題ありません』
「だが・・・」
「お兄ちゃん・・・シよ?」
『フフフ・・・さぁ、どうぞ』
「み・・・ミーアァ!!」
俺の中でいろいろと吹っ切れた
そのままミーアを押し倒し、口をふさぐ
「お、おにいちゃッ!!」
口をふさいだのは俺のほうだが、ミーアのほうから舌を伸ばしてきた
それに絡ませるようにして舌を這わせる
ぴちゃっ・・・ぴちゃっ・・・
ミーアの舌は唾液を舐め取るように吸っていく
俺の手はミーアの胸を愛撫し始める
服の上からでは気づかなかったが、かなり大きくて柔らかかった
やさしく撫でる様に揉んでやる
「ンァァ・・・♪」
俺もこういうことは初めてだったが、ミーアは気持ち良さそうに喘いだ
「ミーア、痛くないか?」
「気持ちいい♪
すっごく気持ちいい!もっとぉ、もっともっと私のおっぱい揉んでぇ!!」
手で乳房を揉みながらピンク色の先端を口に含んで舌で転がすように舐めて、吸ってみる
「アハァッ♪そ、そんなに吸っちゃ・・・
お兄ちゃん、私、もうここもドロドロだよぉ
ハァ・・・ハァ・・・早く、頂戴♪」
押し付けるようにしてイチモツを押し付けると、一気に押し込む
すでに潤滑しているため、思った以上にスムーズに入っていく
「ンァァ!おっきくて、カタいのが入ってくるぅ!」
「ミーア、痛くない?」
「全然痛くない
それより、お兄ちゃん、もっとうごいてぇ♪」
パン、ズチュ、パン、ズチュ、パン・・・
「イィイ♪イイよぉ♪気持ちよすぎて変になっちゃうぅ♪」
「ミーア、俺も、イキそうだ・・・!」
「お兄ちゃん、一緒にイこう?」
もう出るっ!!
一層深く差し込んで、ミーアの中に吐き出す
「「ンァァアアアアアア♪」」
『・・・フフフ
儀式は完了しました
ではお二人とも、末永くお元気で』
海底でスヤスヤと眠っている二人の魔族を後にし、シー・ビショップは海の中へと消えて言った
・・・・・
団長は彼を追いかける振りをして、街からでて違う場所にたどり着く
そこにはあのサキュバスがいた
「お前には数年前、始めて会った時から助けられっぱなしだな」
「いいのよ、ダーリンの頼みだもの♪
でもね、彼女を魔族にしたのは私じゃないの」
「どういうことだ?」
「私は昔、彼女に魔族になれば性病は治るって伝えただけ
彼女はあの時、その場でサキュバスになることを望まなかったの
でも、まさか死ぬ直前に海に飛び込んでネレイスになるとは私も考えもしなかったけどね」
「それでも、俺はお前に何度も危ない目に合わせてしまった・・・」
「アレくらい暴れられる程元気がある坊やをおちょくってる方が、私たちにとっていい運動になるのよ♪
最後の一回だけは私が勝てそうだったのにな
ちょっと残念♪
でも、彼女もあんなに想われてるって考えると、嫉妬しちゃうなぁ」
「俺だって、お前を想う強さでは負ける気がしないがね」
そういうサキュバスを団長が優しく抱える
「エヘヘ♪
私がわざと逃げる振りをすれば教会からお金が貰えるんでしょ?
困るのは教会だけ♪
あの坊やには彼女のための医療費が必要だったんだし、私は暇つぶしになったし、損するのは教会だけで、他はみんな丸く収まるなんて良くできてるよね
でもね、これまで貴方の頼みを聞いてあげたんだから、これからは私の言うことも聞いてもらうからね〜♪」
「あぁ、何でも聞くさ」
「ウフフフ、今夜は寝かさないわよぉ
一晩で立派なインキュバスに成れちゃうくらい、犯してあげる♪」
「そりゃあ楽しみだな」
10/10/31 12:39更新 / poke