さきゅなじみちゃんのチャーム
「やっほ〜、あ、懐かしいゲームやってる〜」
「お前な、窓から入ってくんなっていつも言ってるだろ……暇だったんだよ」
いくら家がお隣同士で、幼馴染で、お互いの部屋が二階で、窓が向かい合っていて、
窓から出入りした方が手っ取り早くてこいつがサキュバスで空が飛べるからって、
やはり礼儀というものがあるのではなかろうか。
「これたしか、子供の頃の夏休みにやってたよね、で、今も夏休みにやってるんだ、なんていうか、変わらないな〜」
「その頃と変わらず窓から入ってくる自分については無視ですかそうですか」
ほっといてほしい、良いゲームはいつやっても良い物なのだ。
「ねー、暇ならどっか行かない？」
「そうだな〜、今セーブする……うげ、やな敵が出た」
セーブポイントに向かう途中に出てきた敵は、
ちょうど隣にいるこいつのように角と翼を生やした、やたらと肌色の多い女悪魔だ。
ドット絵特有の可愛らしさの中に色気の有るこの手の敵の得意技と言えば一つだ。
「げっ、先手で魅了食らった！？」
「あ〜らら〜、ハートマーク出しちゃって、仲間同士で喧嘩しちゃってる」
やばい、治ってもすぐにかけ直されてる。
うわ、味方に必殺使うなって……あ〜、オワタ。
「ありゃ〜、全滅しちゃったね」
「……セーブポイントもうちょいだったのに」
無慈悲に表示されるゲームオーバーの画面。
この悔しさは何度味わっても慣れるものじゃない。
「ねえねえ、子供の頃もあの敵にやられてたよね」
「ん？ ああ、うん……まあな」
忘れるはずがない。
あのダンジョンがそれまでのゲームの難易度に比べてやたら難しく、
全滅しやすいということ以上に、忘れることができない理由があるのだ。
「あんなのに誘惑されて仲間裏切るとかありえねぇって、べそかきながら言っててさ」
「いやまあ、ガキの頃の話だから、なあ、それよりどこに行くんだ？」
正直恥ずかしい思い出なのであんまりその時の話はされたくない。
「試してみようかって私が聞いたら、よく分かんないけどあんなの平気だよ、なんて言ってさ……」
「おい！ たまには俺の話も聞きやがれくださいお願いします」
ああ、これはもうだめかもしれん。
こいつは人の話を聞かないからな。
「決めた！ やっぱ出かけるの無し、アレやろう、アレ！」
「え〜っと、一縷の望みをかけて聞くけど、アレってのは……？」
「もっちろん、魅了の魔法マシマシのフルコースエッチでございます」
ああ、やっぱりか、こいつはたまにだが、いわゆるそういうことをヤる時に、
これでもかと誘惑や魅惑の魔術を重ねがげしてくることがある。
そうだ、それを始めてやられたのが、
小さい頃、このゲームで全滅していじけていた時のことだったのだ。
「なあ、頼むからアレはやめてくれないか……後で恥ずかしすぎるんだよ」
「イイじゃないの可愛くって、アレしてあげると、ふわっふわにとろけた顔でお眼眼ハートマークにして大好き大好き〜って縋り付いてきて来てくれるのがもうたまんなくて……」
「だぁ〜〜〜〜〜！ やめて！ 本当悶え死にしそうなくらい恥ずいからやめて！」
アレをやられると、男として、いや人としてダメダメにされてしまうので、
正気に戻ると自己嫌悪というか、なんかもうどうしようもない感が半端ないのだ。
「でもさ……それだけ気持ちいいんでしょ？ 意地張らなくたっていいじゃない」
「う……確かにいいけどさぁ……いや、でもだな……」
「もう、四の五の言わない、ヤるったらヤるの、はい、けって〜い♪」
そうですよね拒否権なんて無いですよねちくしょうくそう。
「今日は気合入れちゃうよ〜……『我が瞳、我が息吹、汝の心を捕まえ操らん……』」
……まあ、いいか、可愛い彼女の我が儘だと思えば、
拒否権はないと言ったけれど、こいつも本当に嫌なときはやめてくれるし、
無理矢理ヤる気なら、有無を言わさず魔法を当てればいいんだからな。
しかし、わざわざゲームの真似して必要のない詠唱まで入れて、
これは相当に気合いを入れていらっしゃる……今日中に正気に戻れるかなあ。
「んんんんん〜〜〜……いっくよ〜『チャーム』！！！」
大仰に掲げた手から桃色の光が浴びせられ、目をつぶってしまう。
そしてその光が落ち着き、目を開くと、心臓が跳ねた。
「は〜い、魅了にかかっちゃったね、これで私のこと大好きになっちゃったね、あ、大好きなのは元からかな〜？」
「ッ〜〜〜〜〜、よ……よく言う……よ…………くぅ〜〜〜」
こいつのことなんて、いつも見ているはずなのに、
心臓が暴れて収まらない、ドクドクと血が巡って顔が、体が熱くなる。
胸が締め付けられるようなキュンとした感覚が収まらない。
胸に物理的な力がかかっているのではないかと思えるほどのそれが心地良い。
「あはは、お顔真っ赤、でもね、まだまだこれからだよ、もっとも〜っと、魅了してあげるからね」
「う……あ……ちょ……まって……」
頭が回らない、まるで女性に対しての耐性が無くなってしまったかのように、
緊張して、ドキマギしてしまって、何も考えることができなくて、
初心な男がそうするように、思わず目をそらしそうになる。
「あ、私を見てなきゃだ〜め、ほら、『魅惑の魔眼』！」
「あ……あ……ああぁ……」
目に桃色の光が宿る。
吸い込まれるように、その瞳の虜になる。
綺麗で、目が離せない、顔がそらせない。
顔を合わせているとドキドキして、何が何だかわからなくなりそうなのに、
瞳が綺麗で目が離せない。
「そう、もっと見て……私を見て……もっと私を好きになって……」
「…………あぁ……」
もうまともな言葉が発せない。
ただただドキドキしながら、瞳を見続けるだけになる。
頭の中がもうこいつでいっぱいになっている。
ああ、好きだ、好きだ、大好きだ。
好きになる、好きになってる、
好きすぎて訳がわからなくなる、好きで好きでしょうがない。
元から好きなのにそれがあふれてどうしようもなくなってくる。
「いい感じになってきたね……こっちにおいで」
誘われるままに足が動く、勝手に動く。
現実感が無い、重さを感じない。
ただ見とれながらフラフラと近寄っていく。
「よしよし、いい子だね、『極上の肢体』はい、ぎゅ〜〜〜〜〜」
抱きしめられた。
どこであろうと男を悦ばせることのできるサキュバスの体で抱きしめられた。
柔らかい体、目の前に大好きな顔、見とれる綺麗な目。
腕が背中にまわされる、とろけるような感触の胸が押し付けられる。
足と足が絡みつき、既に怒張の限りにあるそれが、太ももに擦り付けられる。
たまらない、たまらない、大好きな子に抱きしめられて気持ちいい。
愛おしくて愛おしくておかしくなってしまいそうだ。
「ふふ……もっと、もっと……『陶酔フェロモン』」
ふわっと、頭を抱えられ、胸元の谷間に顔を押し付けられる。
それと同時に、不思議な甘い匂いが鼻を優しくくすぐってくる。
ドキドキはそのままに、興奮しすぎた神経がゆっくりとなだめられていく。
いい匂い、頭がふわふわしてきて、何も考えられなくなって、
柔らかな胸の感触に包まれながら、綺麗で見惚れる瞳に上から眺められながら、
どこに触れても気持ちいい体に抱きすくめられながら、
頭をとろかせる匂いに陶酔して、ただただなされるままになる。
「……どお？ 気持ちいい？」
「……ふぇぇ？ ……きもひいぃ……」
もう呂律も回らない。
言われるがままに答えが漏れる。
「恥ずかしがり屋な君のために、今日は、恥ずかしいなんて思えなくなるくらいに何も考えられなくしてあげる……『堕落の囁き』」
耳元に唇が近づけられ、触れるか触れないか、
ギリギリのところからゾクゾクとするような吐息の感触とともに囁かれる。
「気持ち良すぎて、何も考えられない、ふ〜わふわ、ふ〜わふわ、浮かんでいるみたい」
声がするりと耳から頭の中に入ってきて、それが意識に溶けていく。
「そのまま何にもしないで、気持ち良〜くとろけていればいいんだよ」
体から力が抜ける、頭の中が甘く霞んで思考がとろける。
「恥ずかしいことなんか何にもないよ、何にも心配いらない、何も考えなくていい、そのまま安心して、気持ち良くとろけていればいい、ほら、とろ〜ん、とろ〜ん」
言われるがままになる、頭から逆らうという発想が消えて、言葉のままに、何も考えず、すべてを投げ出して気持ちのいい声にとろけていく。
「……ふふ、気持ちいいよね、大好きな可愛い彼女に抱かれているんだもん、当然だよね」
……あぁ……大好きぃ……気持ちいい……
「あ〜あ、もうメロメロだね、惚けた顔、か〜わいい」
すぐ近くにある部屋のベッドにふわりと寝かされる。
もう自分からは何にもできない、見惚れてとろけて、
されるがままに倒れているだけ。
「ねえ、私、君のその顔、だ〜い好きなんだよ」
するりとズボンを脱がされて、馬乗りになられても、
ふわふわとして、ぼんやりとして、その意味を考えることができない。
「だから、恥ずかしいなんて言わないで、その顔見せてね、もっと……とろけてね！」
パチュン
水が跳ねる音がしたかと思うと、
ドクッドクッドクッと脈動とともに快感が弾けた。
「ッ！？！？！？ うあぁ！！！！！」
「アッ！？ んん〜〜〜〜〜！！！ ……い、いきなり出たぁ……」
抵抗力のすべてを失っていたそれは、与えられた快楽に逆らうすべもなく、
あっさりと暴発してしまった。
「……ァ……ァ……ァァ」
「……ん……んふ、美味し、我慢できなかった？ ふふ、可愛い可愛い」
精を吐き出す感覚に酔いしれながら、頭をよしよしと撫でられる。
でも、まだだ、これで終わりじゃない、これから始まるのだ。
「レベルとかは別に吸ったりしないけど、やっぱりあえてこう言おうかしら、『エナジードレイン』！！！」
その瞬間、気持ち良く包まれつつも萎えかけていたそれに魔力が注ぎ込まれ、
急激に力がみなぎるような感覚に襲われる。
「うあぁ……あああああああ！！！ ああああああああ！！！！！」
「あっああっ！ おっきくなって……あああああん！」
その力に促されるように腰を突き上げる。
もうそれしか考えられない、気持ちいいこいつの中にぶち込むことしかわからない。
「ア、ハァン、激しっい、ン、んふ、ッフ、わ、私も、負けっないんだから、アァ！！」
パチュパチュパンパンぐちゅぐちゅぐちゃぐちゃ
性器を叩きつけ合い、卑猥な水音を立てる。
お互いにめちゃくちゃに腰を押し合いつけ合い、
ひたすらに快楽をむさぼり合っていく。
「アッアッ！ もっと、もっと大好きにぃ……『チャーム』！！！」
「うぐぅぅぅ！？ 大好き！ 大好きぃ！」
さらに重ねがけられる魅了の魔法。
大好きで、気持ち良くて、狂ってしまいそうになる。
「『チャーム』！ ンッヒィ！！ 『チャームぅ』！ 気持ちっいい、よぉ、『チャームチャームチャームぅぅぅ』」
「あああああああ！！！ 好き好き好き大好き大好きうあぁぁぁ！！！」
ああ、おかしくなる、おかしくなる。
好きなことしかわからない、それ以外のことは分からない。
気持ちいい、大好き、気持ちいい、大好き、気持ちいい、大好き。
全部それだけ、それ以外に何もない、それがいっぱいになってあふれそうになる。
「いっイキそ……ンンン、も、イクゥ、イッてぇ、いっしょにィィ……アアアアアン！ 大好きぃ！！！！！」
「大好き大好き大好き！！！ ああ！ うあああああああ！！！！！」
そしてあふれる、おかしくなりそうなくらいの好きがあふれて爆発する。
気持ちいい……大好き……
放出してなおも全身に渦巻き、膨れ上がるこの二つの感情に、
とうとう脳が限界を迎え記憶する作業を放棄する…………
「頑張ったね、いい子いい子」
声が聞こえる。
どれほど時間がたったのか、昼なのか夜なのかもわからない。
「いつもこんなにしちゃってごめんね、自分でも抑えられなくって」
でもそんなことはどうでもいい、
大好きなこの声が聞こえる、それだけでいい。
「でも、昔と変わらずにちゃんと許してくれる君のことが、本当に大好きなんだよ」
ずっとこの大好きと一緒にいたい、ずっと、変わらずに。
「ああそうだ、ごめんね肝心なの忘れてた」
不意に、声の気配が近くなる、すぐ、前に。
「『思慕の口づけ』……大好き」
ちゅ
おしまい
「お前な、窓から入ってくんなっていつも言ってるだろ……暇だったんだよ」
いくら家がお隣同士で、幼馴染で、お互いの部屋が二階で、窓が向かい合っていて、
窓から出入りした方が手っ取り早くてこいつがサキュバスで空が飛べるからって、
やはり礼儀というものがあるのではなかろうか。
「これたしか、子供の頃の夏休みにやってたよね、で、今も夏休みにやってるんだ、なんていうか、変わらないな〜」
「その頃と変わらず窓から入ってくる自分については無視ですかそうですか」
ほっといてほしい、良いゲームはいつやっても良い物なのだ。
「ねー、暇ならどっか行かない？」
「そうだな〜、今セーブする……うげ、やな敵が出た」
セーブポイントに向かう途中に出てきた敵は、
ちょうど隣にいるこいつのように角と翼を生やした、やたらと肌色の多い女悪魔だ。
ドット絵特有の可愛らしさの中に色気の有るこの手の敵の得意技と言えば一つだ。
「げっ、先手で魅了食らった！？」
「あ〜らら〜、ハートマーク出しちゃって、仲間同士で喧嘩しちゃってる」
やばい、治ってもすぐにかけ直されてる。
うわ、味方に必殺使うなって……あ〜、オワタ。
「ありゃ〜、全滅しちゃったね」
「……セーブポイントもうちょいだったのに」
無慈悲に表示されるゲームオーバーの画面。
この悔しさは何度味わっても慣れるものじゃない。
「ねえねえ、子供の頃もあの敵にやられてたよね」
「ん？ ああ、うん……まあな」
忘れるはずがない。
あのダンジョンがそれまでのゲームの難易度に比べてやたら難しく、
全滅しやすいということ以上に、忘れることができない理由があるのだ。
「あんなのに誘惑されて仲間裏切るとかありえねぇって、べそかきながら言っててさ」
「いやまあ、ガキの頃の話だから、なあ、それよりどこに行くんだ？」
正直恥ずかしい思い出なのであんまりその時の話はされたくない。
「試してみようかって私が聞いたら、よく分かんないけどあんなの平気だよ、なんて言ってさ……」
「おい！ たまには俺の話も聞きやがれくださいお願いします」
ああ、これはもうだめかもしれん。
こいつは人の話を聞かないからな。
「決めた！ やっぱ出かけるの無し、アレやろう、アレ！」
「え〜っと、一縷の望みをかけて聞くけど、アレってのは……？」
「もっちろん、魅了の魔法マシマシのフルコースエッチでございます」
ああ、やっぱりか、こいつはたまにだが、いわゆるそういうことをヤる時に、
これでもかと誘惑や魅惑の魔術を重ねがげしてくることがある。
そうだ、それを始めてやられたのが、
小さい頃、このゲームで全滅していじけていた時のことだったのだ。
「なあ、頼むからアレはやめてくれないか……後で恥ずかしすぎるんだよ」
「イイじゃないの可愛くって、アレしてあげると、ふわっふわにとろけた顔でお眼眼ハートマークにして大好き大好き〜って縋り付いてきて来てくれるのがもうたまんなくて……」
「だぁ〜〜〜〜〜！ やめて！ 本当悶え死にしそうなくらい恥ずいからやめて！」
アレをやられると、男として、いや人としてダメダメにされてしまうので、
正気に戻ると自己嫌悪というか、なんかもうどうしようもない感が半端ないのだ。
「でもさ……それだけ気持ちいいんでしょ？ 意地張らなくたっていいじゃない」
「う……確かにいいけどさぁ……いや、でもだな……」
「もう、四の五の言わない、ヤるったらヤるの、はい、けって〜い♪」
そうですよね拒否権なんて無いですよねちくしょうくそう。
「今日は気合入れちゃうよ〜……『我が瞳、我が息吹、汝の心を捕まえ操らん……』」
……まあ、いいか、可愛い彼女の我が儘だと思えば、
拒否権はないと言ったけれど、こいつも本当に嫌なときはやめてくれるし、
無理矢理ヤる気なら、有無を言わさず魔法を当てればいいんだからな。
しかし、わざわざゲームの真似して必要のない詠唱まで入れて、
これは相当に気合いを入れていらっしゃる……今日中に正気に戻れるかなあ。
「んんんんん〜〜〜……いっくよ〜『チャーム』！！！」
大仰に掲げた手から桃色の光が浴びせられ、目をつぶってしまう。
そしてその光が落ち着き、目を開くと、心臓が跳ねた。
「は〜い、魅了にかかっちゃったね、これで私のこと大好きになっちゃったね、あ、大好きなのは元からかな〜？」
「ッ〜〜〜〜〜、よ……よく言う……よ…………くぅ〜〜〜」
こいつのことなんて、いつも見ているはずなのに、
心臓が暴れて収まらない、ドクドクと血が巡って顔が、体が熱くなる。
胸が締め付けられるようなキュンとした感覚が収まらない。
胸に物理的な力がかかっているのではないかと思えるほどのそれが心地良い。
「あはは、お顔真っ赤、でもね、まだまだこれからだよ、もっとも〜っと、魅了してあげるからね」
「う……あ……ちょ……まって……」
頭が回らない、まるで女性に対しての耐性が無くなってしまったかのように、
緊張して、ドキマギしてしまって、何も考えることができなくて、
初心な男がそうするように、思わず目をそらしそうになる。
「あ、私を見てなきゃだ〜め、ほら、『魅惑の魔眼』！」
「あ……あ……ああぁ……」
目に桃色の光が宿る。
吸い込まれるように、その瞳の虜になる。
綺麗で、目が離せない、顔がそらせない。
顔を合わせているとドキドキして、何が何だかわからなくなりそうなのに、
瞳が綺麗で目が離せない。
「そう、もっと見て……私を見て……もっと私を好きになって……」
「…………あぁ……」
もうまともな言葉が発せない。
ただただドキドキしながら、瞳を見続けるだけになる。
頭の中がもうこいつでいっぱいになっている。
ああ、好きだ、好きだ、大好きだ。
好きになる、好きになってる、
好きすぎて訳がわからなくなる、好きで好きでしょうがない。
元から好きなのにそれがあふれてどうしようもなくなってくる。
「いい感じになってきたね……こっちにおいで」
誘われるままに足が動く、勝手に動く。
現実感が無い、重さを感じない。
ただ見とれながらフラフラと近寄っていく。
「よしよし、いい子だね、『極上の肢体』はい、ぎゅ〜〜〜〜〜」
抱きしめられた。
どこであろうと男を悦ばせることのできるサキュバスの体で抱きしめられた。
柔らかい体、目の前に大好きな顔、見とれる綺麗な目。
腕が背中にまわされる、とろけるような感触の胸が押し付けられる。
足と足が絡みつき、既に怒張の限りにあるそれが、太ももに擦り付けられる。
たまらない、たまらない、大好きな子に抱きしめられて気持ちいい。
愛おしくて愛おしくておかしくなってしまいそうだ。
「ふふ……もっと、もっと……『陶酔フェロモン』」
ふわっと、頭を抱えられ、胸元の谷間に顔を押し付けられる。
それと同時に、不思議な甘い匂いが鼻を優しくくすぐってくる。
ドキドキはそのままに、興奮しすぎた神経がゆっくりとなだめられていく。
いい匂い、頭がふわふわしてきて、何も考えられなくなって、
柔らかな胸の感触に包まれながら、綺麗で見惚れる瞳に上から眺められながら、
どこに触れても気持ちいい体に抱きすくめられながら、
頭をとろかせる匂いに陶酔して、ただただなされるままになる。
「……どお？ 気持ちいい？」
「……ふぇぇ？ ……きもひいぃ……」
もう呂律も回らない。
言われるがままに答えが漏れる。
「恥ずかしがり屋な君のために、今日は、恥ずかしいなんて思えなくなるくらいに何も考えられなくしてあげる……『堕落の囁き』」
耳元に唇が近づけられ、触れるか触れないか、
ギリギリのところからゾクゾクとするような吐息の感触とともに囁かれる。
「気持ち良すぎて、何も考えられない、ふ〜わふわ、ふ〜わふわ、浮かんでいるみたい」
声がするりと耳から頭の中に入ってきて、それが意識に溶けていく。
「そのまま何にもしないで、気持ち良〜くとろけていればいいんだよ」
体から力が抜ける、頭の中が甘く霞んで思考がとろける。
「恥ずかしいことなんか何にもないよ、何にも心配いらない、何も考えなくていい、そのまま安心して、気持ち良くとろけていればいい、ほら、とろ〜ん、とろ〜ん」
言われるがままになる、頭から逆らうという発想が消えて、言葉のままに、何も考えず、すべてを投げ出して気持ちのいい声にとろけていく。
「……ふふ、気持ちいいよね、大好きな可愛い彼女に抱かれているんだもん、当然だよね」
……あぁ……大好きぃ……気持ちいい……
「あ〜あ、もうメロメロだね、惚けた顔、か〜わいい」
すぐ近くにある部屋のベッドにふわりと寝かされる。
もう自分からは何にもできない、見惚れてとろけて、
されるがままに倒れているだけ。
「ねえ、私、君のその顔、だ〜い好きなんだよ」
するりとズボンを脱がされて、馬乗りになられても、
ふわふわとして、ぼんやりとして、その意味を考えることができない。
「だから、恥ずかしいなんて言わないで、その顔見せてね、もっと……とろけてね！」
パチュン
水が跳ねる音がしたかと思うと、
ドクッドクッドクッと脈動とともに快感が弾けた。
「ッ！？！？！？ うあぁ！！！！！」
「アッ！？ んん〜〜〜〜〜！！！ ……い、いきなり出たぁ……」
抵抗力のすべてを失っていたそれは、与えられた快楽に逆らうすべもなく、
あっさりと暴発してしまった。
「……ァ……ァ……ァァ」
「……ん……んふ、美味し、我慢できなかった？ ふふ、可愛い可愛い」
精を吐き出す感覚に酔いしれながら、頭をよしよしと撫でられる。
でも、まだだ、これで終わりじゃない、これから始まるのだ。
「レベルとかは別に吸ったりしないけど、やっぱりあえてこう言おうかしら、『エナジードレイン』！！！」
その瞬間、気持ち良く包まれつつも萎えかけていたそれに魔力が注ぎ込まれ、
急激に力がみなぎるような感覚に襲われる。
「うあぁ……あああああああ！！！ ああああああああ！！！！！」
「あっああっ！ おっきくなって……あああああん！」
その力に促されるように腰を突き上げる。
もうそれしか考えられない、気持ちいいこいつの中にぶち込むことしかわからない。
「ア、ハァン、激しっい、ン、んふ、ッフ、わ、私も、負けっないんだから、アァ！！」
パチュパチュパンパンぐちゅぐちゅぐちゃぐちゃ
性器を叩きつけ合い、卑猥な水音を立てる。
お互いにめちゃくちゃに腰を押し合いつけ合い、
ひたすらに快楽をむさぼり合っていく。
「アッアッ！ もっと、もっと大好きにぃ……『チャーム』！！！」
「うぐぅぅぅ！？ 大好き！ 大好きぃ！」
さらに重ねがけられる魅了の魔法。
大好きで、気持ち良くて、狂ってしまいそうになる。
「『チャーム』！ ンッヒィ！！ 『チャームぅ』！ 気持ちっいい、よぉ、『チャームチャームチャームぅぅぅ』」
「あああああああ！！！ 好き好き好き大好き大好きうあぁぁぁ！！！」
ああ、おかしくなる、おかしくなる。
好きなことしかわからない、それ以外のことは分からない。
気持ちいい、大好き、気持ちいい、大好き、気持ちいい、大好き。
全部それだけ、それ以外に何もない、それがいっぱいになってあふれそうになる。
「いっイキそ……ンンン、も、イクゥ、イッてぇ、いっしょにィィ……アアアアアン！ 大好きぃ！！！！！」
「大好き大好き大好き！！！ ああ！ うあああああああ！！！！！」
そしてあふれる、おかしくなりそうなくらいの好きがあふれて爆発する。
気持ちいい……大好き……
放出してなおも全身に渦巻き、膨れ上がるこの二つの感情に、
とうとう脳が限界を迎え記憶する作業を放棄する…………
「頑張ったね、いい子いい子」
声が聞こえる。
どれほど時間がたったのか、昼なのか夜なのかもわからない。
「いつもこんなにしちゃってごめんね、自分でも抑えられなくって」
でもそんなことはどうでもいい、
大好きなこの声が聞こえる、それだけでいい。
「でも、昔と変わらずにちゃんと許してくれる君のことが、本当に大好きなんだよ」
ずっとこの大好きと一緒にいたい、ずっと、変わらずに。
「ああそうだ、ごめんね肝心なの忘れてた」
不意に、声の気配が近くなる、すぐ、前に。
「『思慕の口づけ』……大好き」
ちゅ
おしまい
17/05/16 17:28更新 / びずだむ