読切小説
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素直になれれば
「アレ? 俺は……ああ! てめぇぇぇ! また騙しやがったな!」
「アハハハハ、お掃除ご苦労様、いつも悪いねぇ〜」
 暗示を解いてやった途端、箒を片手にしたまま響かせてくる怒声を軽く笑い飛ばす。
 廊下は、埃一つないほどにピッカピカだ。
 別にここまでやれと言ったわけじゃないのに、こいつ根が真面目なのよね。

「いつもいつも掃除当番だの日直だのを暗示で俺にやらせやがっていい加減にしろよ、だいたいなんで毎回決まって俺なんだよ」
「だってぇ〜、あんた昔っから操りやすいんだもん、だからつい♪」
 思い起こせば、かなりの年月を同じ学校、同じクラスで過ごしてきたこいつとは、もうかなり長い付き合いだ。
 おかげでこいつへの暗示のかけ方のコツもすっかり掴んでしまった。
 もう触手の瞳一つで自由自在、とは言え最近はちょっとやりすぎたかな?

「つい、じゃねーよ、バカ女! 究極サボり魔! この人でなし!」
 いつもは適当なところで収まってくれて、
 帰りに一緒に買い食いでもする頃には機嫌も戻ってくれるから、
 本当につい、いたずらをしてしまうけれど、今日のところは悪口が止まない。

 こりゃ今日は奢ってあげるくらいしないとダメかな。
 そう考えながら、雑言を聞き流していたけれど、その一言だけは聞こえてしまう。

「聞いてんのか、こんの一つ目女!」
「ッ!」
 一つ目……
 そうよ、ゲイザーだもの、私の目は一つだけだ。
 大きくて、ぎょろっとした、キモチ悪い目が一つだけ。

「どうせ……どうせ私は一つ目だよ……」
「あ……やべ、いや、あのな……」
 私の方が悪いのは分かっている。
 でも、こいつにこの目のことを言われると感情が収まらなくなってしまう。

「うっさい、一つ目で悪かったな馬鹿ーーー!」
「ちょ、待てって、アレ? 足が…… 待てよおいーーー!」
 追いかけてこれないように暗示をかけて、逃げる。
 なんか言っているみたいだけれど知らない。
 あんなやつ、しばらく廊下に立っていればいいんだ。





「あぁもう……どうしよ……」
 あてもなく廊下をうろつく。
 勢いで逃げてきちゃったけれど、あいつの暗示を解いてやらないと帰るに帰れない。
 かと言って、今のこのこ行って解いてやるのも気まずいし、
 でも放って帰るのは流石に可哀想だし、う〜ん、う〜〜〜ん。

    ぽふ

「キャッ……どうしたのよ、ぼ〜っとして、危ないでしょ?」
「……むぐぅ」
 急に目の前が真っ暗になったと思ったら、
 廊下の曲がり角で担任の先生にぶつかってしまっていた。
 この先生はラミアなので、足音が無かったのだ。
 しかし……むにむにと実に柔らかい……ぐぬぬ。

「ぷは……すんません、何でもないッス」
「……何かあったって顔に書いてあるわ、こっち来て、先生に話してみなさいな」
 あれよという間に空き教室に引っ張り込まれてしまった。
 巻き付かれての強制連行である、やっぱり柔らかい……ぐぬぬ。





「……やぁ、まあそんな感じで、いつもの喧嘩なんで心配いらないすよ」
「そうだったのね、あなたたち二人もしょうがないわねえ」
 こうなったら仕方ないので、先生に素直に事情を話す。
 隠すようなことでも無いし、ごねると時間もかかるし。

「毎回そんなことされたらたまには怒りたくなるわよ、ちゃんと謝って暗示を解きに行ってあげなさいな」
「うぅ〜〜〜、それは分かってるんす、分かってるんすけど……」
 自分が悪いことは分かっているのだ。
 いつもはすぐに軽く謝って、あいつも許してくれるのだ。

 だけど、一つ目呼ばわりされたことがすごく引っかかる。
 喧嘩の勢いで言われただけだって分かっているのに。
 あいつはそんな事で差別するような奴じゃあないって分かっているのに。

「もう、あなたの彼氏なんでしょ、ちょっとした失言くらい受け流してあげなさいな」
「ゲッホ!? ちょっ? ちげーッスよ! あんなの彼氏なんかじゃねーッスよ!」
 いきなりなに言うんだこの蛇。
 よりにもよってあんな奴が彼氏とか、彼氏とか……

「あんなにいつも一緒にいていまさら何を言っているのよ、むしろ、まだくっついてなかったのかって驚いたわよ」
「う……でも、あいつが彼氏とか……うぐぅぅぅ〜〜〜」
 長いこと一緒に遊んでて、いたずらする私を許してくれて、
 一緒にいると楽しいし、確かに私はあいつのこと、あいつのこと……

「彼氏……あいつが彼氏だったら……彼氏になってくれたら……うぁぁぁぁ〜」
「……そんな反応するならもう決まってるも同然じゃない」
 色々と取り止めの無い妄想に襲われ悶える私に先生が溜息混じりに言う。
 でも、肝心のあいつは私のことをどう思っているのか、
 いたずらばっかりしているし、胸、無いし、あとやっぱ……一つ目だし。

「ああ、また顔に出てる、そんなあなたとそれでも一緒にいてくれるんだから、嫌ってるわけないじゃない」
「う……そんな分かりやすいッスかね、でも、なぁ」
 喧嘩をしてすぐだからというのもあるけれど、踏ん切りがつかない。
 不安な事ばかりが思い浮かんで、自信が持てない。

「またそんな顔して……大丈夫よ、『貴女の気持ちを素直に話してきなさい』」
「……ッグ!? ちょ、ちょっと!?」
 頭が一瞬クラッとしてボーっとしそうになる。
 ラミアの魔力の声、あの声に聞き入ったらなにも考えられなくなって言う通りになってしまう。

『おっと、逃がさないわよ、ほら、私の声を聞きなさい……』
「わ……やめてくださ……マジやめろってばオイ!」
 咄嗟に逃げようとした私の体に、また蛇の体が巻き付いてくる。
 拘束に定評のあるラミアだけになかなか逃れられない。
 背中の触手ごとグルグル巻きにされ、頭も両腕に抱き抑えられてしまった。
 ええい、いちいちむにむにしおってぇ!

『抵抗しないの、我慢しなければ気持ち良くなれるわよぉ』
「ま、負けて、たまるかぁ!」
 気を抜けばぼんやりとしてしまいそうな甘い声を必死に振り払う。
 人間の男ならともかく私も魔物娘だ。
 頭に入り込む声の魔力を自分の魔力で相殺する。
 あとは、何とか隙を見て逃げ出さなければ。

『ねえ、よく考えてみて、私の言う通りにすればあの子に素直に謝れるのよ』
「あ……謝れる、ッ!? くううぅ!」
 素直に謝れる、あいつと仲直りできる。
 そう考えた途端、私の抵抗にほころびが出来てしまう。

『謝れるだけじゃないわ、告白だってできる、あの子のこと、好きって言えるの』
「好きって……好きってぇ……ああ、やば……」
 集中が乱れる、声の魔力に抵抗できない。
 だんだん一つ目の目蓋が重くなってくる。
 頭に響く声の気持ち良さに、流されてしまいそうになってくる。

『そうよぉ、想像して、恋人同士になれたら、遠慮なんかいらなくなるわ、抱き合ったり、キスしたり、それ以上のことも、フフ』
「う……ああ……恋人……あいつと……キスゥ……」
 気が付けばもう動けない、力の抜けた体を完全に先生に任せ、
 ぼんやりと先生の声に聞き入っている。

『それでも不安なら、そうね、貴女の暗示を使ってもいいわ』
「……あ……んじ……?」
 力の抜けた、半開きの目で先生を見上げる。
 暗示、私の目であいつに暗示を、どんな暗示を?

『簡単よ、素直になれる暗示をあの子にもかけるの、意地なんか張らなくていい、本当の気持ちを伝えられるような暗示を』
「素直……にぃ……」
 あいつに暗示をかけるなんて、簡単だ。
 いつもやっていることだもの、あいつも、あいつも素直にしてやるんだ。

『素直になれればあなたたちは恋人同士になれる、恋人同士になれたら嬉しいわよね』
「うん……嬉しい」
 嬉しいに決まっている、恋人になれたら、
 きっと嬉しすぎて泣き出してしまうだろう。
 
『きっとあの子も嬉しいはずよ、二人とも嬉しいって幸せね』
「幸せ……幸せぇ」
 あいつも嬉しいって思ってくれるかな。
 うん、そうだったら幸せだ、すっごくすっごく幸せだ。

『恋人同士になれたら、あの子を気持ち良くしてあげるのよ』
「気持ち……良く?」
 気持ち良く、してあげたいけれど、
 どうしたらいいんだろう。

『あの子を、貴女と同じ状態にしてあげればいいわ、ぼ〜んやりして、気持ち良くって、何も考えられなくするの、今、貴女が感じているみたいにしてあげればいい』
「あ……あは、気持ち良くぅ、してあげるぅ」
 ああ……簡単だった、私の暗示で思いっきり気持ち良くしてやるんだ。
 私みたいに、ふわっふわで、とろっとろで、頭それいっぱいにしてやるんだ。

『そう、あの子が気持ち良ければ、貴女も嬉しいでしょう? あの子が気持ちいいと、貴方も気持ち良くなるの』
「う……ああ……気持ち、良くぅ」
 あいつが、気持ちいいと、嬉しい。
 あいつが、気持ちいいと、私も、気持ちいい。

『あの子が幸せだと、貴方も幸せ、あの子が気持ちいいと、貴女も気持ちいい』
「幸せぇ……気持ちいい……」
 幸せ、気持ちいい、幸せ、気持ちいい。
 二人一緒で幸せに、二人一緒に気持ちいい。

『二人でどんどん気持ち良くなる、二人でどんどん幸せになる』
「するぅ……気持ち良くするぅ……幸せになるぅ」
 してやるんだ、いっぱいいっぱいしてやるんだ。
 気持ち良くするんだ、幸せにするんだ、いっぱい、いっぱい、いっぱいぃ……

『……フフ、いい子ね』
「……ふみゅぅぅ……」
 頭なでなでされた……
 むにむに……気持ちいいな……





「あ、戻ってきたか、いや、マジ悪かったよ、ほんとに」
 ああ、ずっと廊下に立たせててごめんね。
 今すぐ、今すぐ気持ち良くしてあげるからね。

「カッとなったとはいえ流石に言い過ぎ……おい、どうした?」
「ううん、いいの、今までごめんなさい」
 素直に謝れた、ほんとうにごめんね。
 これからは素直になるから、これからは、素直に……

「お、おい大丈夫か? 熱でもあるんじゃないか? ああいや、ちゃんと体調不良的な意味でだぞ? なんだかフラフラしてるし、顔赤いし」
「ん……大丈夫……」
 額に手を当てられた、心配してくれているんだ。
 嬉しい、この嬉しさを……ああ、本当にこれからは一緒にぃ……

「それより、ついてきて」
「わわっと、ちょ、ちょっと待てって……あ、あれ? 足が……またかよぉ」
 額の手を取って連れて行く、手を引かれるままに歩くという暗示付き。
 一緒に、嬉しく、気持ち良く、幸せになろう。





「こ、こんなとこ連れてきて、どうする気だよ」
 適当な空き教室に二人で入る。
 この学校、やたらと空き教室が多い、おまけに防音機能付きのうえ、ドアの鍵もやたらしっかりしている、理由は推して知るべきか。

「ね、どうする気だと思う、こんなところでさ」
「な……いや……どうって」
 うふふ、動揺してる動揺してる。
 空き教室に二人で入る、この学校の子なら意味は一つなのだ。

「本当は分かってるんじゃない? こんなところにぃ、二人だけぇ♪」
「お、おま、おま……なんかほんとに変だぞおまえ!?」
 私が変? 変でもいい。
 素直になれたから、素直に言えるから、私の気持ちを伝えられるから。

「ねえ……私は君のことが好き、大好き、愛してるの、君は、私のことどう思う?」
「!?!?!? そ……んな、急に……」
 言った、言えた、好きって言えたよぉぉぉ。
 ああ、頭の中ぐちゃぐちゃしておかしくなりそう。

「あ……あ……その……俺……も……ち、ちがう、わ、わかったぞ、また変な暗示をかける気なんだろ? そ、そうなんだろ?」
「ううん、本気なの、君のことが大好き、お願い、『素直に答えて』」
 その言葉とともに暗示をかける。
 心を捻じ曲げるものではない、ただただ、『素直になる』暗示。
 もしも嫌われていたのなら、それすら素直に答えてしまう。
 ダメだったら、嫌われていたら、私、私ぃ……

「大好きだ! 俺もお前のことが! 大!大!大好きだ! 心の底から愛してる!」
「ッ!?!?!? う……うあぁ……うあぁぁぁぁ〜〜〜」
 ……良かった、良かったよぉ〜〜〜〜〜
 嬉しくて、嬉しすぎて、崩れ落ちて泣き出してしまう。

「うわ、お、おい!?」
「うぇええ、わ、私ぃ、ヒック、いつも、君に、ひどい事、それに、一つ目だからぁ、嫌われてるかもってぇ」
 もう気にしなくていい一つ目から涙が落ちる。
 嫌われていなかったから、好きって言って貰えたから。

「…………いいよ、大丈夫だって、あんないたずら、ひどいのうちに入らねえよ」
「うん……うん……」
 頭をなでてくれた、許してくれるんだ。

「それに一つ目がなんだってんだ、その……むしろ、か、可愛いと思うぞ」
「ッ〜〜〜〜〜!?」
 可愛い? あたしの目が? 嬉しい、嬉しいよぅ〜。

「……本当に、大好きだからな」
「…………うあぁぁ……わぁ〜〜〜〜〜ん」
 その一言にまた涙があふれ出し、泣きじゃくる事しかできなくなってしまった。





「……落ち着いたか?」
「……ん……ありがと」
 どれくらい泣いていただろうか、教室の窓からは夕日が差し込みつつある。
 この学校に厳密な下校時間はない、理由はもちろん推して知るべし。

「ねえ、私たち、付き合うってことで良いんだよね? 恋人同士になれたってことで良いんだよね?」
「……ああ、お前こそ、こんだけやっといて、やっぱ嘘とかは無しだぞ」
 嘘なわけない、これで恋人になれたんだ。
 恋人同士に……なれた……から……

「フフ、ウフフ、フフフフフフフ」
「な、なんだよ……気味悪いぞ」
 すぐにそんなこと思えなくしてやる。
 するんだ、いっぱい、恋人になれたから、いっぱい!

「私の目を見る!」
「ッ!? ァ……………………」
 顔の大きな一つ目と、触手たちについている目をすべて使って暗示をかける。
 触手の目一本でも簡単にかかってくれるこいつに、
 すべての目を使った全力の暗示を叩きこむ。

「…………」
 こいつは今、ただ私の目を見ている。
 ほかの余計な考えは持たず、私の目を見ることに集中している。
 これならどんな暗示もかけられる。
 純粋に、私の暗示にすべてをゆだねてくれる状態になってくれている。
 ……ああ……すぐにいっぱい気持ち良くしてあげるからね。

「そのまま、そのまま私の目を見てて、これからあなたは、私にしたいことを、私にしてほしいことを素直に話しちゃうの」
「……したいことを……してほしいことを……」
 私の暗示は目でかけるものなので、言葉に出す必要はないのだけれど、
 なんとなくそうしたい気分、先生の所為かな。

「それを私に叶えてもらえると、すっごく嬉しくなって、すっごく幸せになって、すっごく気持ち良くなる、叶えてもらえるんだから当然よね」
「ああ……嬉しくて、気持ち良く……」
 理性にも意地にも邪魔されない、純粋な願いを叶えてあげたい。
 何でもしてあげる、私に出来ること全てで気持ち良くしてあげたい。

「ああでも、できれば、いきなり過激なのじゃなくて、少しずつが、いいかな?」
 最後まで行く覚悟はできているけれど、
 少し、この情緒を味わってみたいとも思ったのだ。

「……………………じゃあ、抱きたい、抱きしめたい、ぎゅーってしたい」
「ん……お安い御用……よ」
 しばらく考え込んだ様子だったが、最初の要望は、抱き合うこと。
 お安い御用なんて言っちゃったけれど、
 それだけで私の心臓はバクバク跳ねて壊れちゃいそうだ。

「じゃあ……失礼するね……ン……」
「ああ……抱けるんだ、お前を抱けるんだ」
 そっと体を預けると、やさしく両手で体を抱きとめてくれた。
 うわぁ……近い、近い、それに、た、体温が……匂いが……
 でも、これ、なんだか心地いい……

「ああ……幸せだ……嬉しいよ」
「あ……あ、うぁぁぁぁ〜〜〜!?」
 幸せ、嬉しい、その言葉を聞いた途端、体が跳ねあがりそうになる。
 喜んでくれてるんだ、幸せになってくれてるんだ。
 そう自覚すると、私にもそれが伝わったかのように同じ感情が私の中で暴れまわる。

「……匂い嗅ぎたい、お前の、胸に顔うずめたい」
 そう言うが早いか、私の胸元、セーラー服の上から鼻をクンクン鳴らし始める。
 う、うわ、胸……鼻先が当たって、くすぐったい。
 でも、私の胸は、せいぜいセーラー服の端にかろうじてふくらみを作るのみ。
 そのわずかな脂肪は、彼の両頬にかすりもしてくれない。

「あ、の、ごめんね……わ、私、そんな胸無い……」
「いい、お前だから、好きな子だからいい、良い匂いだし……気持ちいいよ」
 ッ!?〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 胸が強く、ドクンと跳ねた。
 気持ちいい、こんな、私の胸でも気持ち良くなってくれるんだ……
 喜んでもらえている、気持ち良くなってもらえてる、
 その喜びが幸福感と気持ち良さになって襲い掛かってくる。

「ぷは……な、なあ、キス、キスしよう」
「あ……キス……うん……しよう」
 胸から顔を上げてそんな事を言う。
 キス、私の初めてのキス、私のファーストキス、
 しちゃうんだ、あげちゃんだ、今から。

「するからな……する……ぞ」
「……ン……ンン……ンン〜〜〜〜〜」
 最初は、ついばむようなキス、唇だけのキス。
 それがだんだん、どちらからともなく、唇が開き、
 唾液が混ざり合い、舌が絡み合い、
 舐め合って、吸い合って、絡ませ合って、
 ぐっちゃぐっちゃと音が鳴る、激しいものに変わっていく。

「ンンン〜〜〜〜〜、ぷあ……あむちゅ、ングゥ、ンゥ〜〜〜」
 これが、こいつの味、こいつの精の味。
 ぐちゅぐちゅと口の中で這い回る快感と、
 跳ね返り反響し続ける気持ち良さの中で、
 自分がそれを覚えていくのが分かる。

 もう、絶対、離れられない、なにせ、すっごく美味しいのだ。
 きっともう、だいぶ前から、私の本能はこいつに決めていたんだろう。
 なにせ、この美味しさは、心のどこかでずっと待っていたものだと分かるのだから。

「ぷは……はあ……はあ……」
「ん……あ……は……」
 ようやく唇が離れる。
 二人とも息も絶え絶えだ。
 私はそれに加えて精の味にとろかされて、頭が何にも考えてくれない。

「……なあ……は、裸、見せて……服、服脱いで」
「あ……はぁ……い」
 言われるがままに、フラフラと服に手をかけていく。
 体が勝手に言うことを聞いちゃう。
 まるで私の方が暗示をかけられているみたいだ。

「……はあ……はあ……はあ……」
 息を荒くするあいつの前で、
 セーラー服の上着を脱いで、スカートを脱いで……
 恥ずかしくて頭がおかしくなりそうだ、でも、見てくれていると思うと、
 喜んでくれていると思うと、手が勝手に動いていく。

「……はあ……あ……」
 すっごく見られてる。
 ちっちゃくて申し訳程度なブラジャーを外して、
 ふくらみに乏しいはずの胸を、乳首を、凝視される。

「……ごく……」
 息をのむ音が聞こえる。
 いつの間にか、ぐっしょり濡れてる、パンティーも、脱いで、
 裸になる、完全にすべての衣服を脱ぎさった。

「……どう? 私の……裸だよ……」
 見られているところがじくじく疼くような気がする。
 恥ずかしい……でも、見てくれて……気持ちいい……

「あ……あ……うああああ! 俺! 俺ぇ!」
「キャッ!?……わぁ…………」
 また、ぎゅっと抱きしめられた。
 素肌の体を抱きしめられて、それがさっきとはまた違った感触で、
 驚いたのも一瞬、その感覚にとろけてしまう。

「俺……セ……セ……セックスしたい、お前と……お前とヤりたい!」
 あ……とうとうされちゃうのかな……
 ぼやけた頭でそう考える、どんな感じなんだろう、初めて、痛いのかな、
 でも、魔物娘ってそんなのどうでもよくなるくらい気持ちいいっていうし……





「…………?」
 待っていても、何もされない、ただ抱きしめられているだけ。
 なんだか、ブルブル震えて……我慢してるような?

「どう……したの……?」
「お……れ……俺、セックスしたいけど、お前を、傷つけたくない、痛くしたくない」
 あれ……? そんな遠慮は、私の暗示で消えてるはず……
 ……ッ!? ちがう、きっとこいつは、私を傷つけないように、シたいんだ。
 でも方法が分からないから、そんな方法がないから、
 セックスしたいのに、こんなに我慢して、こんなに震えて、
 そんなに、私のことを大事にしたいんだ、大事にしてくれるんだ。

「うあぁ〜〜〜〜〜、もう! 好き〜〜〜〜〜!!!」
「うわ!? な、なんだ?」
 ぎゅーっと、抱きしめ返す。
 なんだじゃない! そんなこと言われちゃったら、
 そんなに大事にしてくれちゃったら、嬉しくておかしくなっちゃうじゃないか。

「もう、もう、そんなの気にしなくていいんだよ、私なら大丈夫だから、シよう! ヤろう! セックスしちゃおう!」
「あ……で……も……」
 うんもう、大事にしてくれるのは嬉しいけれど、あんまり過ぎるとへたれだぞ。
 いや、暗示にかかっているから、したいことが膨らみ過ぎて極端になってるのかも。
 ……じゃあ、こうするしかないかな。

「ほら、思い出してみて、君が素直に言っちゃうのは、したいことだけじゃない、してほしいこともだよ」
「して……ほしいこと……」
 暗示をかける、念入りに、これでもかと、
 私の目で、可愛いといわれて、自慢となったこの目で。

「何も気にしなくていい、何も心配いらない、君がしたいことは、私がしたいこと、君がしてほしいことは、私がしてほしいこと」
「あ……あ…………あ……」
 理性をとろけさせる、性欲を刺激する、不安を消滅させる。
 ただただ、ぼんやりとろけて気持ち良くなればいいと、暗示で精神に叩き込む。

「言ってみて、君がしてほしいこと」
「……………………セックス……して……ほしい」
 ッくあ〜〜〜〜〜♪
 とろっとろにとろけたお顔で、セックスしてほしいとか、もう、たまんない。
 押し倒して寝かす、ズボンをパンツごと脱がす、私はもう裸で、びちょびちょだ。
 つまり準備万端、ヤって……いいよね。

「じゃあ……いくね」
「…………あ……」
 その瞬間、瞳の奥底に見えた、わずかな最後の不安すら暗示で打ち消して、
 一気に…………挿れる!

「ひぁ……あ……ふぁ……うっく……」
「……あ……やっぱ、痛……い?」
 私は動けない。
 その衝撃は、あっさりと私の涙腺をぶち壊し、涙を流させる。
 なんなんだこれ、初めてってこんなになるのか、
 こんなの、堪えきれるわけないじゃない。

「……ちがうぅ……ちがうぅぅぅぅ……」
「え……じゃ……あ……?」
 これはどうにもならない、絶対に逆らえないものだ。
 だから……だから……我慢なんてできないんだ!

「……うえぇぇぇぇぇん、気持ちいい! 気持ちいいのぉ!」
「……あ、ぐ……ぁ……」
 私は泣きながら腰を振る。
 初めてが痛いとか言った馬鹿は誰だ?
 こんな気持ち良くてわけわかんなくなっちゃうものに、
 そんなもの感じている暇ないじゃないか。

「ひっぐ、気持ち良すぎるのぉ、止められないのぉ」
 腰を振るたびに、私の体に喜びが満ち溢れる。
 本当はゆっくり慣らして、初めてを噛みしめながらシたかったが、
 この快感の前ではそんな考えも吹き飛んでしまう。

「……無茶……しな……いで……っむぐぅ!?」
「んぐぅ〜〜〜〜〜、ンン〜〜〜〜〜」
 この期に及んでそんなこと言うのはこの口か?
 そんな口はキスで塞いでやる!
 ……ああ、やっぱキスもいいなあ。
 ぬめぬめな感触と絶品な精の味わいもさることながら。
 なにより、愛を感じちゃう。

「ンン〜〜〜〜〜!? ン〜〜〜!? ン……ンン……」
「ン〜〜〜〜〜 ンチュ…………チュ〜〜〜〜〜♪」
 キスしている間にも暗示をしっかりかける。
 気持ち良さに抵抗が出来なくなる暗示だ。
 動きも鈍くなって、また目蓋が下がってきた、可愛い♪

「ぷぁ、あ、はぁぁぁん、気持ち良すぎるよぉ〜〜〜〜〜」
「うあぁ、あぁぁぁぁ〜」
 本当に気持ちが良すぎる。
 子宮が、私の膣内が、性感、そう、性感でいっぱいなんだ。

 あの、言葉ではくわしく言い表せない。
 触るだけでなんで気持ち良くなるのかわからない。
 不思議で心地良い、ただ気持ちいいとしか表現できないあの感覚が、
 突かれる度にいっぱいいっぱいになって、限界かと思ったその次の一突きには、
 それを上回る気持ち良さがまたいっぱいになって、
 どんどん高まって、止まらないんだ。

「あ、あ、だめ! これ、私、もう」
「……ふ……う……」
 そんな気持ち良さが、体全体をめぐりながらも一か所に集中してあふれそうになる。
 これ、イくんだ、こんなのが爆発したら、私おかしくなる。
 でも、待って、一緒に、イきたい……

「い……いよ……我慢……しないで」
「ふぅぅぅ、えぇ?」
 あんなに暗示をかけてあげたのに、まだこんなことを……

「俺も、いきそう、だから…………我慢しないで、好きにして、ほしい」
「ッ!!!!! うあぁ〜〜〜〜〜好きぃ〜〜〜〜〜!!!!!」
 こんなの! こんなの! こんなの! 我慢! 出来ない!
 大好き! 大好き! 大好きぃ!

「イク! イク! イク! あああ……ああああああああああああああああ!!!!!」
「俺……も……ああ……ああああああああああ!!!!!」





 遠く、遠く離れていく意識の感覚の中に、確かに放出を感じることができた。
 一緒にイけたのだ。

 このまま私は、気を失ってしまうだろう。
 そして目が覚めたら、先生の暗示は消え去ってしまうだろう。

 そしたらどうなるかな、また意地っ張りな私に戻るのかな?
 でも、たとえそうなったとしても大丈夫だろう。
 そんな私に、いつも付き合ってくれたあいつなら……

 ああ、そうなる前に、ついでだから、もう一回これだけは言っちゃおうかな。





「いつもありがとう……大好きだよ」


                     おしまい
15/05/07 00:39更新 / びずだむ

■作者メッセージ
催眠暗示風、黒蜜甘ットロ胡麻豆腐でおまちのお客様〜?

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