悪魔のサイレン
「…っ！……あ、あ！サ、サイレンだ……『悪魔のサイレン』だ……っ！！奴らが、奴らが来る！！」
隣で寝ていたはずの夫の叫び声で目が覚めた。
どうやら起きているわけではなく、悪夢にうなされているみたいだ。寝ている間に交わった時の体液は乾いてしまったはずなのに、びっしょりと冷や汗をかき、激しく寝返りをうちながらうめき声をあげている。
彼を起き上がらせて、胸に彼の頭を抱き留める。
「だ、弾幕だ……弾幕を…っ！対空機銃っ……！！……！！あ、ああ…ヴィクトル…アレクセイ……そ、そんな……。」
「ヴァーニャ、ヴァーニャ…大丈夫、大丈夫。ここには、怖いものはいないよ。ここには、私とヴァーニャしかいないよ。」
頭を撫でながら、彼をなだめる。私の小さな体では、鍛え上げられた彼の体で暴れられると少し力を入れないといけないけれど、撫でていると彼も目が覚めたようで、大人しくなり、寝言も治まった。
「おはよう、ヴァーニャ。」
目覚めたようなので声をかけると、ヴァーニャが顔をあげ、私と目があった。
脂汗にぐっしょりと濡れた、彫りの深く整った顔立ちはその半分を痛々しい火傷の跡に覆われ、まるでその時の苦痛を思い出したかのように表情は苦悶に歪んでいる。くすんだ青色のその瞳も、その時の苦しみにさいなまれたかのように、涙でぬれている。
夫が昔のトラウマに苦しんでいる様子をみて気分を曇らせていると、目の前の景色が彼の顔で埋まった。
「！！……っ……ん、んちゅ、ぁんんっ、んっ、ちゅぅ…。」
突然のキスに一瞬虚を突かれる。その一瞬の間に、唇を割って舌が入り込み、口内を貪りつくすかのように蹂躙した。すぐさま、彼の欲求に応えて私からも舌を絡ませるけれど、先手を譲ってしまったために、主導権は完全に握られてしまったみたいだ。
ヴァーニャの舌に自分の舌を這わせるけど、彼はその間々に歯茎や口蓋、舌の裏などをつついて、気持ちいいところを刺激してくる。息継ぎをする時も、そのたびに唇を念入りに吸われて休む暇もなく、ただキスをしているだけなのに、徐々に高められていく。
いつのまにか、彼を抱き留めていたはずの私が、彼に抱き留められていて、彼の体の熱を全身で受け止めることになっていた。むせ返るような熱さに、彼以外のことが頭から追い出され、耳を手で覆われることによって口の中の淫らな水音が頭に響き渡って、一層私の思考が快楽で侵された。快楽漬けの脳は、ただ抱きしめられキスをしているだけなのに、これほど気持ちいいんだから当然とでもいうように、抱きしめられている全身が性感を得ているような感覚にさせた。
「……っは、はぁぁ、んっ、んんぅ……んちゅ、んふっ、んぁ……。」
口を貪られている間に、熱い吐息が漏れてしまうのを抑えられない。漏れ出るままになった二人の唾液のカクテルが、密着する二人の汗で濡れた体の隙間に、ぽたぽたと流れ込んでいく。彼に絡めていたはずの腕も、今はだらりと垂れさがって、彼に反撃をしていたはずの舌も、今は蹂躙されるがままになっていた。ディープキスの悦楽で何もできなくなった私は、ヴァーニャに完全に身をゆだねて、彼のくれる性感を貪ることにした。
触られてもいないのに、太ももまで垂れるほどに膣は濡れそぼり、挿入って来てもいないペニスの射精を促すように蠕動して、子宮は来るはずもない迸りをきゅんきゅんとおねだりしている。歯の一本一本、舌、口腔の隅々までねぶりつくされ、快感で、脳みそはとろとろにとけてしまい、視界はちかちかと白く明滅し、身体は電流でも流されているかのようにぴくぴくと痙攣する。
それほどまでに犯しつくしてもまだ飽き足らなかったのか、彼がひときわ深く中に食らいついてくる。感じすぎて突き出ていた私の舌が彼の口の中に捕らえられ、根こそぎ吸い取ってしまうかのようにしゃぶられる。
じゅるじゅると私を啜るいやらしい音が私の中で響き渡るなか、ついに私の限界点はふりきれた。
「……っっ！！………！！………っ！……！………。」
絶頂をむかえて大きく体を震わせる私を、彼は腕で強く抱きしめておさえつける。片手は、私の後頭部を抑え、唇を離すことも許さない。身をよじって快感を紛らわせることも封じられて、人間を快楽と恍惚の表情に緩ませる悪魔であるはずの私は、人間であるヴァーニャに、あろうことかキスだけで快楽に溺れさせられた。
でも、私には悪魔としての矜持なんてどうでもよかった。
悪夢に怯えて私に甘える彼が可愛くて、恐怖から逃れるために私を求めてくれるのがうれしい。
心の痛みを忘れさせてあげるために身体を差し出し、心の傷痕に快楽を塗り込む。
精神の拠り所として、麻薬のように中毒的に必要とされている。そのことは、私にとっても底なし沼に沈んでいくように背徳的で、どろどろに蕩けたチョコレートのように甘美な味がした。
目の前に映る、過去の悲しみを思い出したかのように濡れた瞳。そこからあふれ出た涙を手で拭ってあげると、ようやく彼は唇を拘束から解放した。
「っはぁ、っ、はっ、メーヤっ…！」
彼は、激しく、不規則に息をつく。私の名前を呼ぶと、ヴァーニャはふたたび強く私を抱きしめ直し、髪に顔をうずめた。
ああ、ヴァーニャ。あなたはなんて可愛いのかしら。
こんなにも屈強で大きな体で、子どものように小さな体の私に縋り付く。そんな、肉体とは打って変わった、弱りに弱って悪夢に取り憑かれた心を、堕として、依存させ、溺れさせ、私色に染め直す。何とも言えない感覚がゾクゾクと背筋を嘗めあげ、彼に包まれた体がぶるりと震えた。
今、もし目の前に鏡があれば、悪魔の名にふさわしい笑みがうつるだろう。
「また、怖い夢を見たんだね。大丈夫よヴァーニャ。すぐ私が忘れさせてあげるね。」
今日はどうやって可愛がってあげよう。ベタに手コキやフェラでじっくりねっとり絞る？それとも、お尻を虐めて激しくする？アブノーマルに髪で扱くのもいいかもしれない。背徳感三割増しでほっぺと肩で挟んで擦ってみようかな？
アイディアは次から次へとあふれてくる。とりあえず、さっさと邪魔なトラウマを頭から追い出してしまうために、フェラでご奉仕してあげよう。私自身を彼のためのおもちゃにした淫らな遊びは、そのあとでゆっくりと楽しめばいい。
けれど、彼は、離れようと身じろぎする私を、痛いほど強く抱きしめて離そうとしない。
「ね、ヴァーニャ、ちょっと、痛いわ。それに、このままだと、気持ちよくして、あげられないよ？」
そう言いながら、腰をうねらせて、二人のお腹に挟まれたペニスを刺激する。ガチガチに屹立していた彼のモノが、びくびくと震えて、Vゾーンの上から子宮をたたいた。
それでもヴァーニャは、腕を緩めるどころか、より私の体を締め上げた。
「……離したくない。メーヤ、お願いだ。俺から離れないでくれ………。」
きゅんと下腹がうずいた。
膣からもとろりと愛液が流れる。
可愛い。ヴァーニャ、とっても可愛らしいよ。
そんな可愛いこと言われたら、我慢できなくなっちゃうじゃない。
キスでイかされて、おちんちんを押し付けられて、そのうえそんな可愛らしいことされたら、もう限界。今すぐ下の口で子種をお腹いっぱい食べないと、子宮のおねだりで気がふれてしまいそう。
身をよじって腰を持ちあげる。二人の腹肉から解放された陰茎を手で捕まえる。亀頭を入り口にあてがうと、わずかに開いた陰唇の隙間からどろりと涎があふれだした。
「大丈夫よ、ヴァーニャ。私はずっと、ずーっとヴァーニャと一緒だもの。じゃあくっついたまましてあげ、るっ!!?」
雷に打たれたような、全身に流れた感覚に、一瞬何が起きたのかわからなかった。
彼が、私の中に突き込んだとわかったのは、その熱くて固い棒が膣内を激しく出入りしてからだった。
キスでイったばかりの女性器は、欲しいものが入ってきて嬉々として肉棒に絡みつく。肉襞の一枚一枚をカリ首が引っ掻いて、その性感に大喜びした膣はますます強くペニスに抱きついた。肉壺の締め付けが強くなるせいで、激しいピストンの快感がどんどん増していく。
「………っ、っあ！……っ、………！！」
大きすぎる快楽に、喘ぐのさえ声にならない。ヴァーニャの乱れた息遣いと、どちゅどちゅと、女陰の奥を貫かれる卑猥な水音に包まれる。肉欲をむき出しにして鈴口を迎えに行った子宮が、力任せに突かれて、歓喜に震える。突かれるたびに、子宮口は熱烈に亀頭に吸い付いてご奉仕し、貪欲に欲しいものをおねだりする。
ヴァーニャ、気持ちいい？もっと奥まで激しくいっぱい突いて、いっぱい気持ちよくなって、どんどん悲しいことなんか忘れて、私達だけになろうね。
がくがくと揺れ、白く明滅する視界の中で、許容量限界の性感を受け止めながら、与えている性感も最大限になりつつあるのを感じる。侵入者が、より大きく、より固くなって、より強く震えるのを感じとって、脳みそは中出しへの期待で支配され、おまんこは早く早くと狂ったようにヴァーニャにすがりついた。
獣じみた抽送に、あっという間に二回目の絶頂がおとずれた。
「……っっあぁっ！！……！…っ！」
エクスタシーで一際男性器を締め付けたとき、膣奥でもう一度快楽が爆発した。
目を見開いて、喉を目いっぱいそらして、だらしないアクメを真上の方にさらしながら、私の頭は二つの言葉で埋め尽くされていた。
熱い。美味しい。
中でどっくどっくと肉幹が脈動するたびに、子どもの部屋に精液がたたきつけられる。
興奮して火照りに火照った体よりも熱く煮えたぎった子種に、奥の奥をレイプされて、お腹の中がどろどろに溶け落ちてしまいそうだ。眠ってしまってからずっとおあずけを食らっていた雌の袋は、ここぞとばかりに主の体を支配して、中出しの快感を貪ることだけに全神経を向かわせた。
「っぇあっ、あ”っ」
子宮で迸りを受け止めるたび、絶頂の高みまで跳ね上げられ、喉から獣じみた喘ぎ声が漏れる。激しく貫かれ、深くまで押し込まれているせいか、せいぜいへその下あたりまでしか挿入ってきていないはずなのに、まるで全身が性器になってしまったかのように、彼のモノを大きく感じ、注ぎ込まれるスペルマが体中に染み渡るような感覚を覚えるほどに、快楽神経がバカになっている。
私の魔力をじっくりと注ぎ込んで仕上げたインキュバスの精は、その量と質で私の心と体の両方を快楽で責めたてた。
そんなオーガズムの半狂乱の中、私の口角が吊り上がった。
もっと。もっと気持ちよくなろう？
彼の腰に絡めた足に力を込めて、発情して下りていった子宮口をさらに深くぐりぐりと亀頭におしつける。腹筋にも力をいれて、一滴残らず絞り出そうと膣の肉をポンプのように動かした。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ！！」
子宮におかしくなりそうなほどの快楽を注ぎ込まれ続けるうえに、性器にあたえらえれる刺激も強くなって、限界を飛び越えた私の意識はぷつりと途切れた。
射精が止まった。イキ狂い子袋は敏感に反応する。私を包んでいた彼の体温が離れていく。気絶から目を覚ますと、ヴァーニャが横たえられた私を正常位のかたちで見下ろしていた。
彼の青い瞳には、涙と汗と涎で顔をぐちゃぐちゃにし、髪が濡れた肌にぺたりと張り付いた私のあられもない姿が映っている。体は絶頂の余韻でびくびくと痙攣し、力は抜けきっていて指一本も動かせない。
彼の大きな手が、私の腰をつかんだ。刺さったままの肉剣を膣肉がきゅっとしめつける。
瞳に映る私が淫靡に笑った。
喘ぎ声のサイレンと、肉と肉がぶつかる音、女陰をかきまわす淫らな水音が二人だけの空間に響きわたった。
色にまみれた協奏曲の中、私たちは絶頂した。何度も。何度も。何度も。
目を覚ますと、彼の安らかな寝顔が目の前にあった。今度はまだ悪夢を見ていないみたいだ。
起き上がるとごぽりと雌穴から精液がこぼれた。たくさん注ぎ込んでくれた子種は眠っている間にあふれ出てしまったらしく、お股が白い粘液でびちゃびちゃになっていた。
火傷に覆われた彼の頬を撫でる。火傷の痕は顔だけじゃなくて、左半身全体にひろがっている。彼と出会ったときに、私のありったけの魔力をふり絞って治癒した傷痕だ。
その大火傷にまぎれて気づきにくいけど、ヴァーニャの全身には無数の傷痕があった。まるで小指を突き刺したかのような、どうやってできたのかわからない小さな丸い傷。
きっと彼は歴戦の戦士だったんだろう。それも、初めて目にしたはずの悪魔にもまったく動じないほど多くの経験を積んだ。
そんな強者が、これほどまでに怯える記憶がどんなものか、私には想像もつかなかった。
力を失った彼のモノを撫でる。無尽蔵の性欲を持つインキュバスの分身は、本人の意識に関係なく即座に反応する。その幹を舌でつつっと嘗めあげてあげると、従順にも海綿体に血をいきわたらせていく。ぴたりと頬をよせるとけな気に血を送り込んでその身を固くしている熱さがつたわった。
彼はたぶん、私の知らない世界の住人だ。
愛しのおちんぽに頬ずりしながら舌をのばして弱いところをくすぐってあげる。そんな中私はそんなことを考えていた。
彼の怯え方は普通じゃない。こんなふうにに深く強く心を病み続けることは聞いたことがない。それこそ、はるか昔の旧魔王時代の文献でみたくらいだ。混沌の魔物やドラゴンが与えていたといわれている、途方もなく巨大で圧倒的な暴力によってできる精神的外傷のような。
きっと、ごくまれにゲートが開くことがあるといわれている、私の知らない異世界。そこから彼は飛ばされてきたんだろう。
陰嚢を優しくもみしだき、興奮して熱を帯びた吐息を裏筋にかける。喜んだ男根はぴくぴくと震えて、自分からその身を私の頬に擦りつけた。
その快感をきっかけに彼が目を覚ました。
「うっ…、……メーヤ？」
「おはよう、ヴァーニャ。」
私はフェラチオをやめて、彼に跨った。
「ありがと、とっても気持ちよかったよ。今度は私が気持ちよくしてあげるね。」
破裂しそうなほど膨れ上がった肉棒を、白濁まみれの肉壺で飲み込んでいく。雄と雌の両方の濃厚な匂いを嗅いで興奮していたのか、膣肉はみっちりと隙間なく陰茎に吸いついて、血の廻った子宮口はちゅっと亀頭をくわえ込んだ。
私は彼の上で跳ね踊った。ぱちゅぱちゅと小気味よく肉同士がぶつかる音と、前後左右に腰をまわして動きに変化をつけて女性器をかきまわすぐちゅぐちゅという音が響く。弱点を知り尽くした腰と膣があたえる快感に彼の顔はだらしなく緩んだ。
そうよ。ヴァーニャ。あなたはその顔をしていればいいのよ。
私たち二人の世界に邪魔な、そんなトラウマなんか私が追い出してあげる。
私の中で、おちんぽが膨らんでくるのがわかる。欲望を吐き出して、私のおまんこに赤ちゃんを孕んでとおねだりするんだ。喜んで産んであげるから、もっともっと甘えていいのよ。
もちろん、彼ひとり絶頂なんかさせない。彼が気持ちよくなれば、私も同じだけ気持ちいい。それに、こんなかわいい顔見せられながら射精なんてされたらイカないわけがない。
あと少し。あと少しで私達二人だけの世界が完成する。もう起きているときにその記憶を思い出すことはなくなった。悪夢を見ることも、だんだんと減ってきている。
もうすぐ、ヴァーニャと一緒に堕ちる。
ぞくぞくと神経が震えて、私はイッた。精液を吸い上げるために襞がうごめいて、彼も気持ちよくしてくれたご褒美を注ぎ込んでくれる。
目一杯体をそらして、真上にアクメをさらしながら、私は口が裂けてしまいそうなほどに笑っていた。
そう。ここにあるのは、私と、あなたと、快楽だけ。
16/11/19 08:33更新 / わらびもち