二人月明かりの下で
僕は駆け足で帰路についていた。
仕事も終わりという時に、駆け込みで大型馬車に乗った大量の荷物が届いたため、明日の朝の配達のための荷物整理が増えて、帰れるようになった時にはすっかり日が落ちてしまっていた。
今日は暦の上では満月だったはずだけれど、空の上では切れ間のない薄い雲にぼんやりと明るくなった部分が浮かんでいるだけで、月の光は夜を照らす役割を放棄していた。各々の家に掲げられたランプが、頼り気のない微かな灯りにもかかわらず、我が物顔で街に視界を作っている。
そんな闇の深い夜道の、休暇をもらって役目を隣家の同僚に任せている安物のランプを掲げた小ぢんまりとした家の前で、僕は立ち止った。一人で住むのならいいけども二人で住むとなると手狭なレンガ積みの建物。六年も配送屋の荷物の中継所で働いているが、引っ越せるようなお金の余裕ができる気配は一向にない。
自分の稼ぎの少なさにふがいなさを覚えつつ、我が家のドアを開けて中にいる待ち人に声をかける。
ランプをつけていないらしく、家の中を照らすのは隣家から漏れる光だけで、部屋は暗い。
「ただいま、姉さん。遅くなってごめん。」
以前、『馴れ馴れしい』といって呼び捨てするのを拒まれ、妥協案でこのように彼女を呼ぶようになった。彼女は、うつぶせでベッドに寝そべっていたらしく、枕にうずめていた顔を上げ、こちらを見た。
暗くて彼女の表情はよく見えない。
「…何度言わせるつもり?待つのは嫌いっていったでしょう?」
やはり僕の遅い帰りで、彼女はすっかり機嫌を損ねてしまったようだった。
四年に及ぶ結婚生活で彼女のことを少しは理解しつつあったので、下手に言い訳するのは逆効果なのはわかっていた。起き上がってベッドの上に座っている彼女に、何も言わずに抱きつき、魔物娘としてはやや控えめなその胸に顔をうずめた。十八になって背は彼女を追い抜いたけれど、結婚した当初の身長差の名残で、このように抱き合うのが二人の暗黙の了解だった。彼女もこうするのが好きらしい。
彼女のピンと立った尻尾が、かすかに手の甲をかすめた。
「抱きしめたってごまかされないわよ。そんな調子じゃ愛想つかされても知らないんだから。」
僕は彼女の背中に回した腕の力を強めた。魔物娘が夫への愛情を失うことはないと分かっていても、僕は不安でたまらなかった。安い給料のせいで楽をさせてあげられない。交わりにおいても彼女を満足させてあげられたためしがない。彼女を愛しているという自信はあっても、彼女に愛されているという自信は、どうしても持てなかった。
気分屋の彼女は、いつか飽きて、僕のもとを去ってしまうのではないか。そんな焦燥感にも似た不安が、常に重たい氷のようにのしかかっていた。
彼女は僕を抱き返しはせず、毛に覆われた手を僕の頬にあて、目線を合わさせた。
「捨てられたくないなら…わかるでしょう？」
暗がりに中に、妖しく光る黄金色の目だけが浮かび上がっていた。僕はそれを頼りにして、彼女の唇に自分のものを重ねた。お互いの唇の感触を確かめるように、押し付け、挟み、ついばむ。その間に、彼女は体重をかけて僕を押し倒し、ベッドに横たわらせ、その上から覆いかぶさった。
昔は彼女が上に乗れば何もさせてはもらえなかったが、体の大きさが逆転した今では、ある程度自由があることに気付く。僕らが出会ったときから――発情期だった彼女に一方的に犯されるばかりだった――短かったように思えて長い時間がたったことを実感する。
ふと、枕に押し付けられている後頭部から伝わる感覚に違和感を覚えた。
やけに冷たく感じる枕。髪の毛が湿る感触。どうやら枕が濡れているらしい。一心不乱に唇を求める彼女に意識を戻す。もしかして彼女は、僕が帰る前、泣いていたのだろうか。
僕は舌で彼女の唇を割り、口の中へと侵入した。
溶かされてしまいそうなほどの口内の熱さ。口に広がる高級な果実のような彼女の唾液の甘い味。そして、舌から脳へと駆け巡る彼女と舌を絡める快感。それらでどうして彼女が泣いていたのかわからなくて焦る気持ちや、彼女を泣かせてしまった罪悪感から目を背けたかった。
彼女は、僕の頭を両腕で抱きかかえるようにして固定し、口の中の僕の舌を激しく攻め立てた。けれど、それはいつものような貪りつくす激しさでなく、どこか必死に縋り付いているかのような印象を覚えた。
彼女の背中に腕を回し、抱きしめる。彼女の体はこれほど華奢だったろうか。容易く腕の中にすっぽりと収まる彼女の背は、小さく、ひどく頼りなさげに感じた。僕は彼女を抱く腕の力を強めた。
「ん……ふっ………んちゅ……ん…」
体をこすりつける猫のように、彼女の舌が僕の口内の至る所に甘える。頬の裏、歯の一本一本、そして僕の舌には念入りに自らの唾液を塗り込む。いつもなら彼女の濃厚な甘い香りが骨の髄までしみわたって、理性はどろどろに溶かされ、迸る快感に全身を粟立たせるほどに淫靡な時間。ただ今日は、彼女が『一人にしないで』と必死に訴えかけているように思えた。
僕の方からも口内を舐める彼女の舌を自分の舌で撫でた。彼女が息継ぎのために口を離そうとすれば、唇で彼女の舌を挟んで少しの間の別離も惜しむように引き止める。そうすることで僕の気持ちを、僕の彼女を愛する気持ちを、少しでも感じ取ってもらえるように。
「！んんっ…んちゅ………」
満足したのか彼女が口を離したところで、僕は彼女を強く抱きしめ、体勢を入れ替えて彼女に覆いかぶさった。そして今度は僕が彼女の口内を蹂躙する。さっき彼女がしてくれたのと同じように隅々まで、彼女以上に一所懸命に。
「んんぅ……んっ！」
少しの間僕の舌を受けれていたが、顔を横に振って強引にキスをやめさせた。部屋の中が暗いせいで彼女の表情は読み取れない。
彼女の手が僕の手を誘導し、彼女の着るワンピースの肩紐をさわらせた。彼女の意図が分かり、僕は鎖骨に口づけをしつつ肩紐をずらし胸を露出させる。手のひらにすっぽりとおさまる小ぶりな乳房。そのふにふにとした柔らかさと形を崩さない確かな弾力を堪能しながら、色っぽい鎖骨から胸の間へと舌を這わせていく。ふたたび彼女の胸に顔をうずめ、花のような甘い彼女の体の匂いや心地よい彼女の体温のぬくもりをより深く味わう。
彼女は僕の頭を両腕で抱え、僕の髪に顔をうずめた。頭をなでる彼女の吐息が、僕の興奮をあおり理性をがりがりと削り取っていく。
僕は暴走しそうになる本能を無理やり押さえつけて、彼女への愛撫を続けた。
ぴちゃぴちゃとはしたなく音を立てて彼女の胸に舌を這わせる。彼女が頭を抱く力を強め、僕のつむじに額を擦り付けた。僕は右胸をなでつつ、左胸の先端へと舌を這わせた。
いったん口を離し、優しく乳首にキスをする。何度かキスをした後、乳首を唇で挟み、転がす。彼女の香りに包まれ、彼女の女性の部分を犯している。必死に理性を保とうとしつつも、その事実が僕を欲情で包み、抑えきれない興奮が犬のように荒く熱い吐息となって彼女にかかった。
勢い余る情欲にまかせ、卑猥な音を立てながら胸の先端にむしゃぶりつく。無我夢中で乳輪をなぞるように舌を動かし、舌先で乳腺をつつく。
しかし、特に彼女は何の反応もしなかった。
焦る気持ちを抑えつつ、胸を揉む右手を彼女の太ももへと移す。高い身体能力を誇るワーキャットである彼女の太ももは、細い見た目からはわからないけれど、触ればその強靭さをうかがわせる筋肉の存在が感じられる。それでも感触は女性らしい丸みと柔らかさをあわせ持ち、むしろ指を押し返す筋肉の弾力がいつまでも触れていたいという願望を呼び起こす。
暴走し始めた思考を落ち着けるため、一度胸から口を離し深く息を吐く。
（欲望に任せちゃだめだ。姉さんによろこんでもらえなきゃ意味がない。）
愛撫を中断したことに抗議するように、彼女は触られていない左足で僕の足を小突いた。
僕はすぐに前戯を再開する。胸の先を咥えつつ、内腿をなでる右手をワンピースのスカートの中へと滑り込ませる。
彼女は外出しないときは下着を着ない。太ももから彼女のデルタ地帯に手を這わすと、彼女の肌のすべすべで柔らかい手触りを感じる。
さっき一度落ち着いた思考を思い出して、はやる気持ちを抑える。僕は彼女の子宮の上あたりを、温めようとするように撫でた。
彼女は、魔物娘にしては感じにくい体質だ。
情けないことに僕の力量では彼女に声を上げさせることすらもかなわない。彼女は濡れにくい体質でもあるため、欲望や勢いに任せたら本番に至る準備すら整わない。
手を下へとおろし、彼女の恥部に手を添える。無毛の恥丘の、柔らかく滑らかな手触りを楽しみつつ、壊れやすい美術品を扱うように優しくなでる。さらに、中指を一筋の割れ目に沿わせ、彼女の一番大事なところへの入り口を刺激する。
彼女は腕に力をさらに強めた。僕は頭を少し動かし胸に耳を当てるようにして、彼女と密着する面積を増やした。彼女の行動や、よく聞こえるようになった鼓動から、彼女が感じてくれているという安心感を得て、僕は段階を先に進めた。
「……っ………」
しばらく愛撫をした後、秘裂を割って中に指をもぐりこませると、彼女がわずかに息をのんだ。柔肉が指に吸い付き、亀頭をしゃぶられているかのような快感が中指から這い上がってくる。一気に指の付け根まで差し込んでしまいたいという欲求をおさえ、第一関節だけ中に入れ、入り口付近をなぞる。一番敏感なところには触れないように、まだ十分に濡れていないため優しく丁寧に。
幾度も僕を受け入れてきたにもかかわらずいつもぴったりと閉じている陰唇が、僕の指を一部の隙間もなく包み込み、その柔らかさでいかに僕を気持ちよくさせられるかということを伝えてきた。本番への期待感が抑えきれなくなって、犬のように短く断続的に漏れる熱を帯びた僕の吐息が、彼女の胸をなでた。
ふいに、彼女が僕の頭を解放した。気になって顔をあげれば、すぐさま頭の両脇が、ぷにぷにとしていて心地よい感触を伝える肉球に覆われ、唇が重ねられる。
顔は近づいたが、やっぱり部屋が暗くて表情はよくわからない。
そしてすぐに表情をうかがうどころではなくなる。彼女がふたたび僕の口の隅々まで味わい尽くすような口づけを始めたからだ。手が止まってしまわないようにするだけで精一杯で、口の方はなすすべもなく貪られる。脳髄まで溶け落ちてしまいそうなほどの甘さと熱を持った彼女の舌に、頬の内側や上あご、舌の裏から歯茎、歯の一本一本まで、余すところなく快楽を流し込まれ、とろけ出したよだれさえも舌ですくいとられ、下唇も使って一滴もこぼさず口に戻される。
心地良い弾力の肉球に耳をふさがれ、ぴちゃぴちゃと淫靡な水音が頭の中で響き渡った。姉さんと僕の口から漏れる吐息がまじりあって、その熱で頭がくらくらしてきた。
油を注がれた興奮で、はやる気持ちをなだめきれなくなり、僕は指を彼女の奥へと突き刺した。
彼女は一瞬だけ動きを止めたが、すぐさま攻めを再開した。息継ぎをする時でさえ僕の舌を引っ張り出して、お互いに舌を突き出して絡めあうという貪欲な口淫で、僕は足に力が入らなくなって彼女にのしかかってしまっていた。
自分の情けなさに気が付いて、もう一度気を入れなおす。彼女はまだ少し濡れ始めただけだ。指を根元まで差し込んだとはいっても、あくまで優しく動かす。下腹を内側から押し上げるように、ゆっくりと指を曲げる。
そうやって探り当てたしこり、いわゆるＧスポットを、指先でゆっくりと撫でた。
「…っはぁー………っ……」
彼女の呼吸が、短く浅く漏れるような感じから、次第に長く深く吐き出すようになってきた。僕は指の力を強めて、Ｇスポットをくりくりと刺激する。
彼女はふたたび僕の頭を胸に抱き、自分は僕の髪に顔をうずめた。熱を増してきた彼女の中も、ぬめりを持った愛液で満たされてきたのを指で感じ取り、さらに次の段階の前戯をはじめた。
膣内をまさぐり、いろんなところを刺激する。こうして彼女が感じてくれるところを探るのだ。でも、四年間も交わってきたのに、いまだにイカせるどころか、彼女に声を上げさせられたことすらない。手前から奥、お腹側から背中側、右側、左側へ、隅々まで触っていく。
「………っふぅ……はぁぁー……っんぁっ！……」
僕の手が一瞬止まる。彼女が自分の愛撫で感じてくれた。高鳴る胸をなだめることも忘れて、夢中で彼女の秘所をまさぐる。彼女がどうしたら感じてくれるか再確認するために。
しかし、どのようにして彼女に感じてもらえたのか、どのあたりを触られて彼女が嬌声を漏らしたのか、僕にはわからなかった。さっきの愛撫をなぞるように繰り返す。
今までは触られても声を上げなかったようなところでも、彼女は喘ぎ始めた。その声が、僕の頭にぶつかって、脳髄に響き、僕はもう冷静さを保てなくなってしまった。
もっと彼女の嬌声が聞きたいという欲望に駆られて、安易にも親指でクリトリスに触れた。
「んんっ、っ!!」
「!?」
敏感なところを触られ、大きく身じろぎをしたのを感じた瞬間、天地がひっくり返ったような感覚がし、気づけば再び彼女が僕の上に馬乗りになっていた。
仰向けになって窓のあたりがほんのりと明るくなっているのが見えた。けれど、多少薄くなっただけでまだ満月は雲に覆われているらしく、暗くて彼女の表情はうかがえない。
僕は自分の失敗を悟った。彼女は陰核を触られるのが苦手で、安易に触って「痛い」と怒られたことが何度もある。まだ触っていいほど準備ができていなかったか、焦って触る力が強すぎたのかわからなかったが、とにかく、ここまで必死に自分をなだめてきたのにもう少しのところで詰めを誤った。
そのことで普段のしかかっていた不安がまた重たさを増したような気がした。
「…我慢できなくなったの？」
「……うん。」
彼女の問いが僕に突き刺さった。結局僕はまた姉さんよりも自分の欲望を優先してしまったんだ。自責の念が胸を押しつぶし、たとえ暗くて見えなくてもいたたまれなくて彼女から顔をそらす。
「アンタ、ホント下手くそね……」
口から出た言葉はいつも通りだったけれど、いつもとは違う慈しみを含んだような言い方に、そらしていた顔を元に戻す。頬を彼女の猫の手が優しく撫でている。
「でも、そんなところも嫌いじゃないわ。」
普段厳しい言葉の多い彼女。直接的ではないにしろ、そんな彼女から出た好意を表す言葉。それを聞いて、目から熱い液体が垂れるのを感じ、どうせ暗いから見えないということも忘れて、彼女に抱きついて胸の中に顔を隠した。
「…これじゃあ続きできないわよ。我慢できなくなったんじゃなかったの？」
そう言いつつも、姉さんは僕を抱き留め、出会ったころのように頭を撫でてくれた。前戯で興奮し高くなった体温が心地いい。
その温かさで、氷塊のように重くのしかかった不安や焦燥が溶けていくような気がした。
いつもの抱き合い方で胸に顔をうずめ、見栄もかなぐり捨てて昔のように姉さんに甘える。のしかかった氷塊が溶けきってしまうまで僕たちは抱き合っていた。
仰向けに寝そべる僕の胸に、姉さんの体重のかかった肉球が押し付けられ、ぷにぷにとした感触を惜しげもなく伝えている。それと同じ感触で僕の肉棒が包まれ、本番のために向きを正される。
長い時間我慢し続けたせいで、陰茎は限界まで張りつめて姉さんの手の中でビクビクと震え、これからのことへの期待から興奮で荒くなった呼吸は、彼女の軽い体重の乗った支えの手を胸が押し返して上下するほどだった。
秘裂に亀頭が触れ、彼女の体温が敏感な感覚受容器に叩き込まれる。
ぽかりと開き、期待感に滾る熱い息を吐き出している口からよだれがこぼれる。
「みっともない顔。えっち。」
「暗いから顔見えないよね？」
「夜目が効くのよ。猫だから。」
「そんなのずる、いっぁぁ！」
さっきの泣き顔まで見られていたと思うと恥ずかしくて不満の声を上げようとしたが、分身が蜜壺へと飲み込まれ、全身が快楽で塗りつぶされてしまった。冷たいローションをたっぷりと塗り込んだはずなのに膣内は溶け落ちてしまいそうなほど熱く、肉襞の一枚一枚が竿を擦って刺激し、ワーキャットの強靭な筋肉がキュッと肉棒を締め上げた。入れただけでイッてしまわないのが不思議なほどの性感が叩き込まれ、体がガクガクと痙攣する。
散々我慢した快感を長く味わいたい一心で、下腹に力を入れる。姉さんもすぐに終わらせる気はないらしく、深くくわえ込んだまま腰を円を描くようにゆっくりと動かす。
わざとらしく立てられた粘ついた音が、僕らの結合部から体を這いあがって来て、暗くて見えないにもかかわらず、視線が吸い寄せられてしまう。
「やらしいわね。そんなにじろじろ見て。暗くて見えないんじゃなかったの？」
からかわれても目を離すことができない。見えないということが逆に想像を掻き立て、膣内をペニスがかき回しているのを、性感と音の外からの刺激だけでなく頭の内からも実感する。
肉棒を柔らかい肉壁が、ねっとりと舐めまわすように味わう。その夢見心地のような快楽が、僕の中の更なる欲望を呼び起こした。それを悟ったのか姉さんが攻め方を変えてきた。
「んっ、んん、っはぁ」
根元まで蜜壺のなかに差し込み、亀頭に最奥をこすりつける。姉さんが気持ちよくなるための動きだけれど、僕の意志では聞くことのできない彼女の艶めいた声に興奮を掻き立てられ、コリコリとした弾力のある姉さんの奥に刺激に弱い先端を弄られて肌が粟立ち、姉さんが喘ぐたびに肉筒が幹を締め上げ射精欲を高ぶらせる。
快楽にもまれてこのままぶちまけてしまいたいという欲望と、もっと長くもっと強く姉さんのくれる悦楽を貪りたいという欲望がせめぎあう。彼女の耳に届きそうなほどに乱れた吐息が口から漏れた。もう射精以外のことを我慢する余裕はなかった。
姉さんの動きに徐々に上下運動が加わり、ゆっくりと抽送がはじまった。
「っ、っん、ん、んぁっ」
肉襞が竿を絞りながら擦りあげ、裏筋を撫で、カリ首をひっかき、膣奥が亀頭を刺激する。一突きごとに快楽のフルコースを味合わされ、抜き差しされるたびに限界が近づいていくのがわかった。
姉さんも本格的に搾り取るつもりらしく、どんどんピストンを速めていく。陰嚢が収縮し、長く焦らされ続けて張り詰めた陰茎に、熱いものがこみあげてくる。
「早く、出しなさい……っ」
肉と肉とがぶつかる音をたてながら姉さんが激しく腰を振る。ゆっくりの時でさえも限界を迎えそうだったのに、敏感なところをほぼ同時に何度も攻められればひとたまりもない。精液が尿道を押し広げて上ってくる。
ちかちかと視界が白くなる中、窓から月明かりが差し込んでいるのが見える。
一際勢いをつけて腰が振り落とされ、亀頭に強い刺激が与えられ、ついに堰が決壊した。
「んっ、んん………」
ドクドクと彼女の中で脈打ち、熱く滾った欲望を受け止めてもらう。せき止めていたものを解放して完全に脱力し、極上の悦楽に浸っていると、肉球のついた手が僕の頬に添えられた。僕も手を彼女の手に重ねる。
空を覆っていた雲は晴れたらしく、窓からさした月明かりが部屋を照らしていた。
「好きだよ、姉さん。いままでも、これからもずっと。」
今度は彼女の顔がはっきり見えた。
彼女は一瞬固まった後、体を倒して僕の首筋に顔をうずめた。
「………私はアンタのお姉さんじゃないの。」
額を僕の体にこすりつける。彼女の癖毛が僕の体をくすぐる。事の後で汗をかき強くなった髪の匂いが心地いい。
口元にある彼女の耳にささやくように繰り返す。
「愛してるよ、アンジェリーク。君だけを、昔も、今も、これからも。」
猫耳がパタパタと動き、僕の顎を撫でた。彼女が僕に抱きつき、より強く体を密着させる。
「繰り返して、私が、いいって、言うまで。」
僕は優しく、ゆっくりと、噛みしめるように、愛の言葉を繰り返した。
彼女は眠ってしまうまでその言葉をだまって聞いていた。
満月の月明かりが、僕らを優しく包んでいた。
14/04/13 23:43更新 / わらびもち