君は最後の宝石
「空…綺麗だな。この景色を宝石にして閉じ込めて独り占めにしたら、さぞ最高なんだろうな。」
雲一つない青空を見つめ、一匹の年若いドラゴンは呟くと、ゆっくりと寝ころび仰向けになった。
「なんてね…ぼくは何を言っているんだろう？遂に頭まで死に始めたかな？」
そう言って起き上がり魔法で鏡を創りだすと全身を見渡す。淡い金色のストレートロングの髪、幼いながらもどこか博識さや知性を感じさせる整った顔、銅色の雄々しい双角、翡翠色の鱗に覆われた逞（たくま）しい四肢と翼と尻尾、そして144ｃｍの小さな身体とは不釣り合いなほど豊かな胸に目が行く。だがなんといっても自身のお気に入りは、輝く桃色の瞳であった。
ドラゴンはこの桃色の瞳こそ己の最初の宝にして宝石だと見定めていた。
しばらく自身の瞳にうっとりと見惚れていたが、右脇腹が抉れているのを発見する。
ドラゴンは必死に痛みをこらえながらその傷を隠蔽（いんぺい）魔法で誤魔化した。というのもこの傷はドラゴンである彼女でもってしても完全に治療することが出来なかったのだ。
事の始まりは数日前、人里離れた山に棲む彼女の元に、正義の使者気取りの教団の大隊と激戦を繰り広げたのだ。
結果だけで言うのならばドラゴンの大敗北であった。
100人はいた人間は戦闘不能にこそしたが皆生きており、住み処であった山は戦闘でほぼ崩壊し、聖なる力と龍殺しの神器だかなんだかにより身体中を斬られ貫かれた。
今し方隠した傷もその戦闘で出来たものであり、止血は何とか出来るものの治す事は出来なかった。頼る相手もおらず日に日に自身が弱っていっているのを感じるだけであった。
そうした経緯もあり、ドラゴンはせめて静かに死のうとこの心地良い風が吹き青い泉の湧くこの場所を選んだのだ。
「ふぅ…ん？誰？」
ドラゴンは傷を隠し終えるとどこからか何者かが近づいて来る音を耳にして振り向いた。
すると木の陰から一人男が姿を現した。
「え…？なんでこんな所にドラゴンが…；」
男は狼狽えながらもドラゴンから目を放さない。ドラゴンも男の顔から目を放そうとせず、まるで時が止まったかの様に静止した。
（なんだか頼りなくていまいちパッとしない男だな。だが何とも…綺麗な黒い瞳だな。あの瞳に見られたまま看取られた時には、さぞ最高なのだろうな。そうだ…）
ドラゴンは頭の中でそんなことを考えながらとある事を思いつく。そして徐（おもむろ）に男へと近づく。当然、男は逃走を始めたので魔力弾を掠（かす）めさせて無理やり動きを止めた。
「気持ちは分かるが逃げるな。聞け。」
「うぅ…なんでしょうか？ってうわ!?何そのお腹!!」
「っ!!」
男の言葉により咄嗟に右脇腹を手で隠すと同時に、目の前が一瞬暗転して膝をついた。
何とか意識を保ち右横腹を見ると、傷口など見当たらないにもかかわらず止めどなく血が流れていた。
「どうなってるのそれ!?怪我してるの!?」
「…限界が近いな。なぁ君。単刀直入に言うよ。僕を今すぐ殺して。」
「え…？」
何とか止血すると心配してオロオロしながら近づいてきた男の手を取り、そうお願いする。男は最早頭がついて行っていない様子であった。
「先日命を狙われてね、見えないだけで身体中ボロボロなんだ。今も痛くて…死ぬならさっさと死にたいんだ。」
「だ…だめだよそんなの!?そんな事頼んじゃ!!治さないと！」
「出来たらやっているよ。さぁ、その腰の剣で一思いに…」
「いやだっ!!まだ治せるかもしれないのに諦めたくない！」
「いや待って。ぼくがそれを言うなら兎も角何故君が諦めない？」
「え…だってその………だから…。」
「…？聞こえないよ？」
「と、とにかく！時間をくれよ！一週間でいい、いや、三日でいいからあんたを治療するすべを探させてくれ！」
「断る。三日も持たん。」
「…そんな…なんで俺が…」
言い合いの果て、ドラゴンの変わらぬ態度に男が絶望した顔を見せる。
そんな男の顔を見て胸が痛み、ドラゴンも俯（うつむ）いてしまった。
（そうか。いや、当然だな。誰が殺してくれという願いを素直に聞く？）
そう思ったところでまたも目の前が真っ暗になった。今度は男が咄嗟にドラゴンの身体を支えた。
「…ごめん。君の気持ちを考えてなかったよ。願いを変えよう…ぼくが事切れまでの間、一緒にいてくれないかな？」
言葉を絞り出してお願いするドラゴンに、男も震える声で答える。
「…それで…いいの？」
「うん…無理強いはしない。ぼくの我儘（わがまま）だからなこれは。せめて最後くらいは好きな物を見ながら逝きたかったからな。」
「え…好き…な者…？」
青ざめていた男の顔が一転、ボッと音でもしそうな程に顔が真っ赤になった。それを見てドラゴンも顔に熱が帯びるのを感じるも、わざとらしくため息を吐くと顔も合わせずに開き直った。
「口が滑った。そう、君の瞳が極上のオニキスみたいで綺麗だったから、それに見つめられて最期を迎えられたら…ってね。」
「なら…なら俺からも一つ、話させてくれ。」
「…何？」
男の放つ陰気が消えた為、何事かと思い男を見る。
それは先程までの頼りない顔つきから一変しており、真剣な表情と真っ直ぐに輝く黒い瞳をドラゴンに向けていた。それにはドラゴンも乙女の様にドキリとしてしまう。
「貴女に…一目惚れしました。この瞬間だけでいいです。俺と…付き合って下さい。」
「!?…あぁ…そうか。それでか…!!」
ドラゴンは今までに受けた事のない衝撃を受けた。それと同時に今までの男の態度に、行動に、言葉に対して全て理解した。
「ならぼくも最後だ。最後なんだ…構わない。」
今にも泣き出しそうな温和な笑みを浮かべ、そっと男の右手を取る。
「死ぬまで一緒にいよう…？」
「…はい！」
男がその答えに喜ぶあまりにドラゴンを抱き締める。当然ドラゴンの全身に激痛が走るも、そんなもの毛ほどに感じない程に幸福感で満たされていった。
「…ん？何か当たってる…？ぃやあっ!!?」
そんなのも束の間、ドラゴンは自身の腹部に何か膨張して迫る何かを感じて男を一旦退（ど）けた。そしてその正体に今までにない程動揺し、悲鳴まで上げて顔を背けた。
「いや…これは不可抗力で…///」
「し、死にかけのぼくに欲情するとは…いや、傷を隠してるから普通に見えてるか。…どう？僕の身体は…綺麗…かな？」
顔を背け照れながら、己の身体を見せつけるかの様に立ち上がった。
豊かに育った胸に、男は目を見開く。そしてそんな恥らって身体を見せるドラゴンに、男はゴクリと生唾を飲み込む。
「あぁ、とってもきれいだ。」
「そう…か。そうなんだ…♥」
ドラゴンの顔は羞恥に塗（まみ）れたものからパァッと明るい笑顔に変わり、何度も「そうか綺麗か…」と嬉しそうに繰り返していた。
そんなドラゴンに男は尚一層愛おしく想った。
しばらくして一匹舞い上がっていたドラゴンは、何かを思い出したかの様に顔を真っ赤に染める。そして徐に近づいて譫言（うわごと）の様に呟く。
「まぁ、最後…これは最後なんだ。最後にもう一つくらいいいか。」
「え!?何を!?」
急にも急、ドラゴンは男の履いているズボンを脱がせに掛かってきた。状況を理解できず男は素っ頓狂な声を上げる。
「何って最後にせめて…あ…愛し合おうかと…。」
「愛し合うって、それっ!?///」
「繰り返さなくていいからっ!!大体君がぼくの身体を見て綺麗なんて言うからいけないんだぞ!!///」
「えぇっ!?」
理不尽なことを言うドラゴンに驚いていると、男は瞬く間にパンツ一丁にされてしまった。気づけばドラゴンの身体からは翡翠色の鱗がいくつか消えていてほぼ裸になっていた。
「あぅ…また一回り大きくなった…。ぬ、脱がすよ…？」
「あ、待って！」
紅潮しきった顔のドラゴンにストップをかけると、途端に殺気立つ不機嫌な顔になった。男はそのかつてない表情に怯えるも言葉を続けた。
「今さらだけど、俺の名前はニクス。貴女の名前は？」
予想してない言葉にドラゴンは一瞬キョトンとしたが、すぐに寂しげに笑い出した。
「クスッ…本当に今更ね。でも残念、ぼくに名前はないんだ。」
「え？」
「物心ついた時にはすでに一匹だった。だから名前はない。」
「それでさ…」「だったら…」
声が重なりどちらも黙る。言おうとした事は一緒だ。ドラゴンは優しく微笑んでニクスに促（うなが）す。
「わざわざ言わなくていいね。さぁニクス…ぼくの名前を呼んで？」
「うん…それじゃあ…よろしく、クーツィア…。」
ニクスはその桃色に輝く瞳を見つめながらカチコチに緊張しながら名を呼んだ。
「クーツィア…ぼくはクーツィア…ふふ…///」
クーツィアは何度も何度も自身の名を口に出しては喜んだ。ニクスもそんなクーツィアを優しく見つめる。
一しきり名を口に出したクーツィアは深呼吸をすると、改めてニクスのパンツに手を掛けた。
「出してもいい…ニクス？」
「そ、それじゃあお願いします///」
ずるりとパンツが下げられる。そして勢いよく張り詰めた男根がクーツィアの眼前に姿を現した。
「これが…男の…♥」
クーツィアは最初こそ目を見開き嫌悪の眼差しでそれを見つめていたが、指で突（つつ）き、触れ、顔を近づけるなどしていった。そして臭いを嗅ぐ頃にはすっかりトロンとした切なげな表情に変わっていた。
「厭（いや）らしく触っても良い///？」
「ど、どうぞ///」
クーツィアはそれを聞くや否や、男根をしっかり手で掴むと探る様にぎこちなく上下に動かした。
一見ゴツゴツして硬そうなドラゴンの手であるが、触り方が良いのかニクスはその手に快感を感じていた。
「あぁ…何か出て来た…く、咥（くわ）えるよ？…あむ…♥」
「うぅっ！それ…ヤバい…///」
今度は了承を得るでもなく一思いに根元まで咥えてしまった。その快感にニクスはビクリと身体を震わせ仰け反った。
それを嬉しく思ったのかの様に、クーツィアは淫（みだ）らな音を立てて男根をストロークした。
「うっあっ///クーツィア、俺も君を触りたい…触るよ!!」
「んふぅっ!!♥」
クーツィアから悲鳴とも嬌声（きょうせい）とも取れる声が漏れた。
ニクスはクーツィアの豊かな胸を感触を確かめる様に触っていた。
「す、すご…ぅあっ///どこまでも…沈み込む…///」
「んん♥ひゅっ♥んにゅぅ〜♥♥」
ニクスはすっかりクーツィアの胸の虜になり、その胸を目一杯揉み、押し込み、五指で思うが儘（まま）弄（いじく）った。その責めに堪（こら）えきれないのか、ストロークの速度が落ち代わりに甘い声がたくさん漏れだした。
「ダ、メだ///クーツィア！もう出るっっ///」
「んん!?ふぅーー♥♥」
敢え無くクーツィアの口内に射精される。チュルッと男根を放したその口からは、精液が零れて口元を白く汚した。
クーツィアは天を仰ぐとその精液をコクンコクンと飲み干した。その堪らなく淫靡（いんび）な姿に興奮して、ニクスはクーツィアの背後に回り股の上に乗せると、後ろから胸を揉み始めた。
「きゃうっ♥そこ、駄目ぇっ♥頭馬鹿になっちゃうぅ♥」
「はぁっはぁっ、ここでダメなら…ここはどうなっちゃうの///？」
「んゃあぁ〜♥♥♥」
ニクスがカチカチに勃起した乳首を指で摘まみ引っ張ると、ガクンと身体を強張らせてニクスの股を愛液で汚した。
「ハァ…ハァ…ニクスゥ…♥もう、挿入（い）れて良い…よね♥？」
すでに蕩（とろ）けた表情のクーツィアはぎこちない動きでニクスと対面すると、己の秘所に男根を宛がい強請（ねだ）った。
「っ…!!クーツィア…身体が…」
挿入れようとしたニクスであったが、彼女の身体の変化に気づいて愕然とした。
クーツィアの身体中は血で赤く染まり始めており、口からもつーっと血が滴り落ちていた。
「うん…本当に限界みたいなんだ。もうどこも痛くないんだ。代わりに気持ちいいだけ…♥そんな顔しないで。さぁ、ぼくが尽きる前に…最後の幸せ…頂戴？♥」
「っー！クーツィアーッ！」
「はぁぁあーー♥♥♥」
蕩けた笑顔で向かい入れるクーツィアに、ニクスは秘所に男根を挿入した。瞬間、クーツィアは叫びにも似た嬌声を上げる。
クーツィアの秘所からは血が滴り落ち、ニクスの目からは涙がボロボロ落ちた。
「あぁ♥ニク、ス♥激しいよう♥♥」
「うぅっく…、クーツィア…気持ちいい!?」
「うん♥気持ちいい♥！ね…キス、しよ♥？…んん♥♥」
とてつもない快楽に脳が焼けそうになる。
キスで交わる唾液の味に、胸が張り裂けそうになる。
そうして絶頂を迎える瞬間、二人は願った。
（（どうかこの幸せな瞬間が終わりませんように…））
「うっ…うっ…クーツィア…」
「ハァ…ハァ…気持ち良かったね、ニクス♥」
今だ涙の止まらないニクスをクーツィアは優しく抱きしめ、頭を撫でる。
「性行為がこんなに気持ちいいなんて思わなかった♥でも…さすがに眠くなっちゃったな。」
「!!ダメだ寝ちゃあっ!!!」
眠いという言葉を聞いた瞬間、ニクスは放たれた矢の如く勢いでクーツィアの身体を抱き締める。
（冷たいっ!!体温が低いっ!!!）
ニクスは一生懸命にクーツィアの身体を摩（さす）った。クーツィアは心地良さげに目を細めた。
「ニクスは温かいなぁ…そうだ、とっておきの子守唄をしてあげるね。」
「え？なん…」
ニクスがしゃべろうとした瞬間、桃色の魔力がニクスを包み強烈な眠気を誘った。
「なんで…なん…で…??」
「本当にありがとう。そしてごめんなさい。死んじゃってからでも、ぼくの名前…クーツィアは大切にするから…」
「嫌だよ…クー…ツィア………」
「おやすみなさい…ニクス…。君はぼくの…最後の宝石だよ………」
こうして二人は抱き締め合ったまま、静かに森の中で眠ってしまった。
雲一つない青空を見つめ、一匹の年若いドラゴンは呟くと、ゆっくりと寝ころび仰向けになった。
「なんてね…ぼくは何を言っているんだろう？遂に頭まで死に始めたかな？」
そう言って起き上がり魔法で鏡を創りだすと全身を見渡す。淡い金色のストレートロングの髪、幼いながらもどこか博識さや知性を感じさせる整った顔、銅色の雄々しい双角、翡翠色の鱗に覆われた逞（たくま）しい四肢と翼と尻尾、そして144ｃｍの小さな身体とは不釣り合いなほど豊かな胸に目が行く。だがなんといっても自身のお気に入りは、輝く桃色の瞳であった。
ドラゴンはこの桃色の瞳こそ己の最初の宝にして宝石だと見定めていた。
しばらく自身の瞳にうっとりと見惚れていたが、右脇腹が抉れているのを発見する。
ドラゴンは必死に痛みをこらえながらその傷を隠蔽（いんぺい）魔法で誤魔化した。というのもこの傷はドラゴンである彼女でもってしても完全に治療することが出来なかったのだ。
事の始まりは数日前、人里離れた山に棲む彼女の元に、正義の使者気取りの教団の大隊と激戦を繰り広げたのだ。
結果だけで言うのならばドラゴンの大敗北であった。
100人はいた人間は戦闘不能にこそしたが皆生きており、住み処であった山は戦闘でほぼ崩壊し、聖なる力と龍殺しの神器だかなんだかにより身体中を斬られ貫かれた。
今し方隠した傷もその戦闘で出来たものであり、止血は何とか出来るものの治す事は出来なかった。頼る相手もおらず日に日に自身が弱っていっているのを感じるだけであった。
そうした経緯もあり、ドラゴンはせめて静かに死のうとこの心地良い風が吹き青い泉の湧くこの場所を選んだのだ。
「ふぅ…ん？誰？」
ドラゴンは傷を隠し終えるとどこからか何者かが近づいて来る音を耳にして振り向いた。
すると木の陰から一人男が姿を現した。
「え…？なんでこんな所にドラゴンが…；」
男は狼狽えながらもドラゴンから目を放さない。ドラゴンも男の顔から目を放そうとせず、まるで時が止まったかの様に静止した。
（なんだか頼りなくていまいちパッとしない男だな。だが何とも…綺麗な黒い瞳だな。あの瞳に見られたまま看取られた時には、さぞ最高なのだろうな。そうだ…）
ドラゴンは頭の中でそんなことを考えながらとある事を思いつく。そして徐（おもむろ）に男へと近づく。当然、男は逃走を始めたので魔力弾を掠（かす）めさせて無理やり動きを止めた。
「気持ちは分かるが逃げるな。聞け。」
「うぅ…なんでしょうか？ってうわ!?何そのお腹!!」
「っ!!」
男の言葉により咄嗟に右脇腹を手で隠すと同時に、目の前が一瞬暗転して膝をついた。
何とか意識を保ち右横腹を見ると、傷口など見当たらないにもかかわらず止めどなく血が流れていた。
「どうなってるのそれ!?怪我してるの!?」
「…限界が近いな。なぁ君。単刀直入に言うよ。僕を今すぐ殺して。」
「え…？」
何とか止血すると心配してオロオロしながら近づいてきた男の手を取り、そうお願いする。男は最早頭がついて行っていない様子であった。
「先日命を狙われてね、見えないだけで身体中ボロボロなんだ。今も痛くて…死ぬならさっさと死にたいんだ。」
「だ…だめだよそんなの!?そんな事頼んじゃ!!治さないと！」
「出来たらやっているよ。さぁ、その腰の剣で一思いに…」
「いやだっ!!まだ治せるかもしれないのに諦めたくない！」
「いや待って。ぼくがそれを言うなら兎も角何故君が諦めない？」
「え…だってその………だから…。」
「…？聞こえないよ？」
「と、とにかく！時間をくれよ！一週間でいい、いや、三日でいいからあんたを治療するすべを探させてくれ！」
「断る。三日も持たん。」
「…そんな…なんで俺が…」
言い合いの果て、ドラゴンの変わらぬ態度に男が絶望した顔を見せる。
そんな男の顔を見て胸が痛み、ドラゴンも俯（うつむ）いてしまった。
（そうか。いや、当然だな。誰が殺してくれという願いを素直に聞く？）
そう思ったところでまたも目の前が真っ暗になった。今度は男が咄嗟にドラゴンの身体を支えた。
「…ごめん。君の気持ちを考えてなかったよ。願いを変えよう…ぼくが事切れまでの間、一緒にいてくれないかな？」
言葉を絞り出してお願いするドラゴンに、男も震える声で答える。
「…それで…いいの？」
「うん…無理強いはしない。ぼくの我儘（わがまま）だからなこれは。せめて最後くらいは好きな物を見ながら逝きたかったからな。」
「え…好き…な者…？」
青ざめていた男の顔が一転、ボッと音でもしそうな程に顔が真っ赤になった。それを見てドラゴンも顔に熱が帯びるのを感じるも、わざとらしくため息を吐くと顔も合わせずに開き直った。
「口が滑った。そう、君の瞳が極上のオニキスみたいで綺麗だったから、それに見つめられて最期を迎えられたら…ってね。」
「なら…なら俺からも一つ、話させてくれ。」
「…何？」
男の放つ陰気が消えた為、何事かと思い男を見る。
それは先程までの頼りない顔つきから一変しており、真剣な表情と真っ直ぐに輝く黒い瞳をドラゴンに向けていた。それにはドラゴンも乙女の様にドキリとしてしまう。
「貴女に…一目惚れしました。この瞬間だけでいいです。俺と…付き合って下さい。」
「!?…あぁ…そうか。それでか…!!」
ドラゴンは今までに受けた事のない衝撃を受けた。それと同時に今までの男の態度に、行動に、言葉に対して全て理解した。
「ならぼくも最後だ。最後なんだ…構わない。」
今にも泣き出しそうな温和な笑みを浮かべ、そっと男の右手を取る。
「死ぬまで一緒にいよう…？」
「…はい！」
男がその答えに喜ぶあまりにドラゴンを抱き締める。当然ドラゴンの全身に激痛が走るも、そんなもの毛ほどに感じない程に幸福感で満たされていった。
「…ん？何か当たってる…？ぃやあっ!!?」
そんなのも束の間、ドラゴンは自身の腹部に何か膨張して迫る何かを感じて男を一旦退（ど）けた。そしてその正体に今までにない程動揺し、悲鳴まで上げて顔を背けた。
「いや…これは不可抗力で…///」
「し、死にかけのぼくに欲情するとは…いや、傷を隠してるから普通に見えてるか。…どう？僕の身体は…綺麗…かな？」
顔を背け照れながら、己の身体を見せつけるかの様に立ち上がった。
豊かに育った胸に、男は目を見開く。そしてそんな恥らって身体を見せるドラゴンに、男はゴクリと生唾を飲み込む。
「あぁ、とってもきれいだ。」
「そう…か。そうなんだ…♥」
ドラゴンの顔は羞恥に塗（まみ）れたものからパァッと明るい笑顔に変わり、何度も「そうか綺麗か…」と嬉しそうに繰り返していた。
そんなドラゴンに男は尚一層愛おしく想った。
しばらくして一匹舞い上がっていたドラゴンは、何かを思い出したかの様に顔を真っ赤に染める。そして徐に近づいて譫言（うわごと）の様に呟く。
「まぁ、最後…これは最後なんだ。最後にもう一つくらいいいか。」
「え!?何を!?」
急にも急、ドラゴンは男の履いているズボンを脱がせに掛かってきた。状況を理解できず男は素っ頓狂な声を上げる。
「何って最後にせめて…あ…愛し合おうかと…。」
「愛し合うって、それっ!?///」
「繰り返さなくていいからっ!!大体君がぼくの身体を見て綺麗なんて言うからいけないんだぞ!!///」
「えぇっ!?」
理不尽なことを言うドラゴンに驚いていると、男は瞬く間にパンツ一丁にされてしまった。気づけばドラゴンの身体からは翡翠色の鱗がいくつか消えていてほぼ裸になっていた。
「あぅ…また一回り大きくなった…。ぬ、脱がすよ…？」
「あ、待って！」
紅潮しきった顔のドラゴンにストップをかけると、途端に殺気立つ不機嫌な顔になった。男はそのかつてない表情に怯えるも言葉を続けた。
「今さらだけど、俺の名前はニクス。貴女の名前は？」
予想してない言葉にドラゴンは一瞬キョトンとしたが、すぐに寂しげに笑い出した。
「クスッ…本当に今更ね。でも残念、ぼくに名前はないんだ。」
「え？」
「物心ついた時にはすでに一匹だった。だから名前はない。」
「それでさ…」「だったら…」
声が重なりどちらも黙る。言おうとした事は一緒だ。ドラゴンは優しく微笑んでニクスに促（うなが）す。
「わざわざ言わなくていいね。さぁニクス…ぼくの名前を呼んで？」
「うん…それじゃあ…よろしく、クーツィア…。」
ニクスはその桃色に輝く瞳を見つめながらカチコチに緊張しながら名を呼んだ。
「クーツィア…ぼくはクーツィア…ふふ…///」
クーツィアは何度も何度も自身の名を口に出しては喜んだ。ニクスもそんなクーツィアを優しく見つめる。
一しきり名を口に出したクーツィアは深呼吸をすると、改めてニクスのパンツに手を掛けた。
「出してもいい…ニクス？」
「そ、それじゃあお願いします///」
ずるりとパンツが下げられる。そして勢いよく張り詰めた男根がクーツィアの眼前に姿を現した。
「これが…男の…♥」
クーツィアは最初こそ目を見開き嫌悪の眼差しでそれを見つめていたが、指で突（つつ）き、触れ、顔を近づけるなどしていった。そして臭いを嗅ぐ頃にはすっかりトロンとした切なげな表情に変わっていた。
「厭（いや）らしく触っても良い///？」
「ど、どうぞ///」
クーツィアはそれを聞くや否や、男根をしっかり手で掴むと探る様にぎこちなく上下に動かした。
一見ゴツゴツして硬そうなドラゴンの手であるが、触り方が良いのかニクスはその手に快感を感じていた。
「あぁ…何か出て来た…く、咥（くわ）えるよ？…あむ…♥」
「うぅっ！それ…ヤバい…///」
今度は了承を得るでもなく一思いに根元まで咥えてしまった。その快感にニクスはビクリと身体を震わせ仰け反った。
それを嬉しく思ったのかの様に、クーツィアは淫（みだ）らな音を立てて男根をストロークした。
「うっあっ///クーツィア、俺も君を触りたい…触るよ!!」
「んふぅっ!!♥」
クーツィアから悲鳴とも嬌声（きょうせい）とも取れる声が漏れた。
ニクスはクーツィアの豊かな胸を感触を確かめる様に触っていた。
「す、すご…ぅあっ///どこまでも…沈み込む…///」
「んん♥ひゅっ♥んにゅぅ〜♥♥」
ニクスはすっかりクーツィアの胸の虜になり、その胸を目一杯揉み、押し込み、五指で思うが儘（まま）弄（いじく）った。その責めに堪（こら）えきれないのか、ストロークの速度が落ち代わりに甘い声がたくさん漏れだした。
「ダ、メだ///クーツィア！もう出るっっ///」
「んん!?ふぅーー♥♥」
敢え無くクーツィアの口内に射精される。チュルッと男根を放したその口からは、精液が零れて口元を白く汚した。
クーツィアは天を仰ぐとその精液をコクンコクンと飲み干した。その堪らなく淫靡（いんび）な姿に興奮して、ニクスはクーツィアの背後に回り股の上に乗せると、後ろから胸を揉み始めた。
「きゃうっ♥そこ、駄目ぇっ♥頭馬鹿になっちゃうぅ♥」
「はぁっはぁっ、ここでダメなら…ここはどうなっちゃうの///？」
「んゃあぁ〜♥♥♥」
ニクスがカチカチに勃起した乳首を指で摘まみ引っ張ると、ガクンと身体を強張らせてニクスの股を愛液で汚した。
「ハァ…ハァ…ニクスゥ…♥もう、挿入（い）れて良い…よね♥？」
すでに蕩（とろ）けた表情のクーツィアはぎこちない動きでニクスと対面すると、己の秘所に男根を宛がい強請（ねだ）った。
「っ…!!クーツィア…身体が…」
挿入れようとしたニクスであったが、彼女の身体の変化に気づいて愕然とした。
クーツィアの身体中は血で赤く染まり始めており、口からもつーっと血が滴り落ちていた。
「うん…本当に限界みたいなんだ。もうどこも痛くないんだ。代わりに気持ちいいだけ…♥そんな顔しないで。さぁ、ぼくが尽きる前に…最後の幸せ…頂戴？♥」
「っー！クーツィアーッ！」
「はぁぁあーー♥♥♥」
蕩けた笑顔で向かい入れるクーツィアに、ニクスは秘所に男根を挿入した。瞬間、クーツィアは叫びにも似た嬌声を上げる。
クーツィアの秘所からは血が滴り落ち、ニクスの目からは涙がボロボロ落ちた。
「あぁ♥ニク、ス♥激しいよう♥♥」
「うぅっく…、クーツィア…気持ちいい!?」
「うん♥気持ちいい♥！ね…キス、しよ♥？…んん♥♥」
とてつもない快楽に脳が焼けそうになる。
キスで交わる唾液の味に、胸が張り裂けそうになる。
そうして絶頂を迎える瞬間、二人は願った。
（（どうかこの幸せな瞬間が終わりませんように…））
「うっ…うっ…クーツィア…」
「ハァ…ハァ…気持ち良かったね、ニクス♥」
今だ涙の止まらないニクスをクーツィアは優しく抱きしめ、頭を撫でる。
「性行為がこんなに気持ちいいなんて思わなかった♥でも…さすがに眠くなっちゃったな。」
「!!ダメだ寝ちゃあっ!!!」
眠いという言葉を聞いた瞬間、ニクスは放たれた矢の如く勢いでクーツィアの身体を抱き締める。
（冷たいっ!!体温が低いっ!!!）
ニクスは一生懸命にクーツィアの身体を摩（さす）った。クーツィアは心地良さげに目を細めた。
「ニクスは温かいなぁ…そうだ、とっておきの子守唄をしてあげるね。」
「え？なん…」
ニクスがしゃべろうとした瞬間、桃色の魔力がニクスを包み強烈な眠気を誘った。
「なんで…なん…で…??」
「本当にありがとう。そしてごめんなさい。死んじゃってからでも、ぼくの名前…クーツィアは大切にするから…」
「嫌だよ…クー…ツィア………」
「おやすみなさい…ニクス…。君はぼくの…最後の宝石だよ………」
こうして二人は抱き締め合ったまま、静かに森の中で眠ってしまった。
21/08/14 22:14更新 / 矛野九字
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