連載小説
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相対する友
 魔人の騎士団アジトに到着してから二日が経った。メンバーとも馴染み、ベリオンは己の遊撃隊を組織すべく、メンバーを選んでいた。

 決まっているのは今のところ本人達を含めて四人。ベリオンを遊撃隊長としてメリッサ、ミリアリア、ジャンだ。ミリアリアとジャンは快く承諾した。メグは特務偵察部隊を抜けることが出来ず、遊撃隊に加わることはなかった。
 そして本人曰く
「ほら、私って大人数相手って不利じゃん?ま、合同作戦の時はよろしく〜」
だそうだ。

 メアリは救護班に所属していた。元々はただの民間人だったらしいが、今は治癒魔法はお手の物だった。
 彼女は今、薬品保管庫の中の梯子の上で手を伸ばしていた。どうやら薬品を取りたいらしいが、彼女の背丈では届かないらしい。
「あっ…!」
 梯子が傾き彼女は梯子から落ちてしまったが、梯子の倒れる音だけがしてメアリは怪我一つ無かった。

「平気か?」
「うん…ごめんなさい」

 ベリオンがメアリを受け止めていたのだ。彼女はベリオンから少し離れてそう言うと、再び梯子を立てた。
「あの…どうしてここに?」
「たまたま通りかかったんだ、食堂に行く途中でな。すると、危なっかしい君の姿が目に入ったんでな」
「そうだったんだ。ありがとう…」
「俺が取ろう。あの瓶で良いんだろう?」

 ベリオンはそう言うと梯子に登り、瓶を手にして降りてきた。

「ありがとう、助かったわ」
「どういたしまして。何の薬なんだ?」
「傷薬の原料の一つよ。魔法で治療できる範囲には限度があるから」
「そうか。今から昼飯なんだがどうだ?」
「ええ。私も調合は後でするつもりだったから、ご一緒するわ」

 メアリは瓶を机の上に置いてベリオンと一緒にその部屋を出た。
 食堂に入るとベリオンが二人分の昼食をメアリの元に持ってきた。
「ありがとう」
 ベリオンが席に着くとナオが近づいてきた。
「私も良いか?」
「ああ」
「いいよ」
 ナオはベリオンとメアリが一緒にいると少し不機嫌そうな顔をすることがあったが、ベリオンはその事に気付いている様子はなかった。ナオはベリオンの隣に腰を下ろして何気なく食べ出したが、彼女の尻尾は左右に振れていた。


 その頃、砂漠を進む騎士団の姿をギルタブリルが捕らえた。普段は凶暴さの目立つ彼女たちだが、決して知能が低いわけではない。もしもそうでなかったとしても目の前の大人数にたった数体で挑む者はいないだろう。
「教会の奴らだね」
「みんなに知らせてくるから、あんたは見張っててちょうだい」
「わかってるよ」
 一体のギルタブリルがその六本の脚を動かして、砂漠をアジトまで急いだ。さすがは蠍と言うべきか、ものの数十分でアジトまで到着した。

 昼食を丁度食べ終わったベリオンの元にミリアリアがやってきた。
「ベル、戦闘準備だ」
「教団か?」
「ああ、ここから東に約10キロに二個大隊だ」
「…ここに来る時に見た奴らか…」
「団長が作戦の詳しい説明をするから、至急集合だそうだ」
「わかった」
 ベリオンは立ち上がってミリアリアと共に食堂を出ようとした。
「ベル…」
 その時、ナオが声を掛けた。
「気を付けてな」
「ああ」
 二人は集合場所の部屋に急いだ。そこには既に第10隊、11隊の上位のメンバーが集まっていて、ジャンとメリッサの姿もあった。
「よう、ベリオン。遅かったじゃねぇか」
「すまん、腹が減っては何とやらと言うだろう?」
「へっ、そういうことかよ」
 ベリウスはお手上げという様なジェスチャーをして笑った。
 エルディオが入ってきて全員の前に立った。
「みんな、聞いたと思うがここに教会騎士団の二個大隊が進行中だ。君たちには彼らを引きつけてもらいたい」
「引きつける?どうこったよ?」
「要するに囮になれって事ですよねぇ?」
 11隊隊長のトールが言った。エルディオは頷き、続きを話し出した。

「そうだ。君たちには奴らをこのアジトにいる者達が全員離脱を完了させるまで足止めして貰いたい。アジトの位置がバレたとなれば、ここに身を置く意味が無くなる。つまりアジトを他に移す」

「それまでの防波堤をしろということだな?それは分かった。
 だが、その後俺たちはどうすればいい?」

「君たちにはこのアジトを抜けて我々の後を追って貰う。援護も出すから安心してくれ」
「承知した。隊列は?」
「ベリオン、ベリウス、トール、君たちに一任する」
「おう、任せとけ」
「移動及び応戦の決行は今から半時間後だ。君たちの生還を祈る、以上」
 エルディオは移動する側の指揮のためにその場をあとにした。

「さぁて、隊列をどう組むかだな」
「そうっすね、これで勝てるかどうかが変わってきますから…」
「一大隊が約120人、総勢が240人となる計算だな…」
「こっちは一つの隊が約20人、おまけに遊撃隊はまだ四人だろう?」
「そうっすねぇ、ただ攻めていっても守りを固められて消耗戦になるし、それだとこっちは圧倒的に不利っすもんね」
「…外から壊せないなら内から崩す」
 ベリオンの予想外の言葉に一瞬場が固まる。
「…おいおい、内からってどうやって…」
「それはな―」


 照りつける太陽、風と共に砂塵が駆ける砂漠地帯。二つ向こうの砂山に教会騎士団の姿が見えた。
 茶色…いや、ベージュの方が近いか、その景色の上を真っ白な鎧に身を包んだ者達がガシャガシャと音を立てながら行進する光景は異様であった。

 彼らに対峙するのはベリウス=シトラリウス率いる第10隊、トール=セイザン率いる第11隊、そしてベリオン=ヴァン=ガルーダ率いる特別遊撃部隊という総勢59名の人間と魔物達だった。
 その先頭に立っているのはベリウス率いる第10隊所属の26名。ミノタウロスとゴブリンと人間の大男達の『力』の部隊だ。
「いいかてめぇらぁ、斬り込むぞぉっ!」

 ベリウスの一声で第10隊が騎士団に向かって突撃した。ついに戦闘が開始した。
 ベリウス率いる第10隊は騎士団先頭の十数人を薙ぎ倒した。ベリウスは愛剣『エジャオス・デル・ギガント』を振り回して進んでいったが、やがて守りが固まると、彼らの力押しでは中々進まなくなった。

「よっし、いきますか…」
 第11隊が第10隊のメンバーの間をくぐって守りを固める騎士を攻撃した。不意打ちに彼らは守りを一瞬崩し、10隊は後ろに下がった。

 第11隊所属の30名は、半数が魔物でありアマゾネス、エルフ、ケンタウロスなどがいる。人間も力自体は強くはないものの、その剣捌きは騎士をも圧倒する能力があった。つまり11隊は『技』の部隊なのだ。
 素早い太刀捌きを見せたのは隊長のトールだ。彼は見た目と喋り方こそいい加減でそれほどでもなさそうだが、その戦闘技術は達人並みだった。

 彼はニホン刀『月神楽(ツキカグラ)』を使いこなし、そのジパングの戦士独特のしなやかな『動き』によって川のように戦場を動いていた。

 戦闘開始時にはこのように互角以上だった戦況が、騎士団の数と守りが再び整い始めたことによって、だんだんと魔人の騎士団にも負傷者が出始めた。
「くっ、手負いの者は退けぇ!」
 ベリウスはエジャオス・デル・ギガントのその広い刀身を盾のように立てて、退く者達を護衛した。ミノタウロスもその大斧を同じく盾として利用していた。
 第10隊は『攻め』から『守り』へと行動を移行し、負傷した第10隊及び第11隊のメンバーの撤退を援護していた。

「よぉし、そのまま進軍っ!奴らは手負いだ、守りつつ攻めろっ!」
 大隊長は全員にそう命令した。
「守りつつ攻めろ」とは一見矛盾したように思えるが、それは「敵方が攻撃してくれば守り、敵方の攻撃が緩めば攻めろ」という単純なことなのである。
 騎士団は先頭及び側面に位置する騎士が盾を構えて、その後ろからランスを構えた騎士が続くという隊列を取って進軍を再開した。
「魔人の騎士団など、所詮はこんなものよ!」
 大隊長はそう罵る声を上げた。

「三人ともっ、行くぞ!」

 ミノタウロスとゴブリンが教会騎士団に背を向けて横一列に四人並んでいたが、その意味に気付くものは奴らの中にはいなかった。
 進軍を進める騎士団は次の瞬間その四人の魔物達の影から何かが飛ばされたのを確認した。

「な、なんだと!?」
 青天の空に舞い上がったのはベリオン率いる遊撃部隊だった。四人は教会騎士団のど真ん中に着地する気でいたのだ。
「槍を奴らに向けろぉっ!」
 騎士団は槍を四人に向けた。このままでは四人はむざむざ敵の針山に串刺しになりに行くことになるわけだが、そこを抜かるような彼らではなかった。
 突如として砂が盛り上がり、褐色をした甲殻が姿を現したのだ。
「うわぁぁっ!」
 騎士達はその褐色の尾に払い除けられ、あっと言う間に安全な着地場所が完成したのである。四人はその褐色の尾をクッションにしてから着地した。

 褐色の尾の主は二人のギルタブリルであった。彼女たちは砂の中を移動し、まんまと教会騎士団の下に潜り込むと機を見計らって姿を現したのだ。
 空中の四人に気を取られていた騎士達は為す術なく払い除けられ、ベリオン考案の奇襲は成功したのである。

 ベリオン達は騎士団に囲まれている状況だが、全く動じる様子はなかった。
「やあぁぁっ!」
 数人の騎士がランスでベリオン達を突き殺そうとするが、彼らは身軽な上それぞれ小回りが利く状態である。それに対して重い甲冑を纏い厚さで体力を削られた騎士の鈍い攻撃は全く当たらず、それどころか隙すら与えてしまうという結果になってしまったのである。

 ベリオン達の奇襲が成功したことによって、隊列が大きく乱れ始めた。そして第10隊、11隊の攻撃が再開したのである。
 既に半数が彼らによって戦闘不能に追いやられ、大隊長は焦っていた。
「そんな馬鹿な!数では我々が押していたはずだっ!」
「数だけでは勝てませんよ…」
 大隊長の目の前にベリオンが騎士を切り倒して現れた。
「き、貴様は…」
 ベリオンは大隊長を斬った。
「うがぁっ!」
「ご安心を。命を奪うような真似はしません、教団とは違うのです」
 ベリオンは後ろに気配を感じて振り向き、自分目掛けて飛んできたランスを殴り落とした。
「やはりお前かっ!ベリオン!」
 彼の名を叫んだ騎士は徐(おもむろ)にその甲冑の留め具を外し、砂の上へ捨てた。そして最後に兜の下から現れた茶髪と顔に、ベリオンは見覚えがった。
「…ハリオス…」

「ベリオォンッ!」
「くっ!」
 ハリオスはベリオンに斬りかかった。ハリオスはあの重装備の下に軽装備の防具を身につけていた。
 ベリオンはハリオスの剣を二度受け流し、一振りを避け、一撃を受け止めた。
「なぜだベリオンっ!一体なぜお前があいつらの味方をしているっ!」
「…ハリオスッ…」
 その様子を見てミリアリアはベリオンを援護しようとした。
「ベルッ!」
 ハリオスはベリオンを押し離すとミリアリアを斬りつけた。ミリアリアは辛うじて防いだが、追撃の蹴りで蹴り飛ばされた。
「きゃっ―!」
 ミリアリアを庇うようにメリッサが駆け寄った。
「平気ですか?」
「ああ…すまない…」
「兄上は平気です、しかしハリオス様は兄上とほぼ互角の腕をお持ちです」
「ベルと…?」

 ベリオンとハリオスは一進一退の戦いを繰り広げていた。
 ベリオンが剣を振ればハリオスは剣で弾いて攻撃に転じ、それをベリオンが続けて防いだ。ベリオンの攻撃をかわすとハリオスは素早く後ろに回って攻撃を仕掛け、ベリオンは鞘を逆手に持ってその剣を防いだ。
 二人は互いに跳び退いて距離を取った。
「盾の変わりに鞘を使う…そのやり方は昔のままだな。だがお前は変わった!」
「ハリオス…俺は、教団のやり方が許せないんだ…」
「だからといって、なぜお前がそっちにいるんだっ!」

 ハリオスはベリオンに近づき剣で薙いだ。ベリオンは後ろに下がって攻撃を避け、剣を振り下ろした。
 ハリオスは返した太刀筋で彼の剣を弾き、左手で殴りかかった。ベリオンは紙一重で彼の拳を右に避けると左手に持った鞘で彼の胴を狙った。
 ハリオスは剣で鞘を凌ぎ、自身も鞘でベリオンの胴を狙った。ベリオンも鞘を振り下ろし、互いに剣で鞘を防ぐという状態になった。
「お前は、教団のやり方に何の疑問も持たないのか!?」
「それは…それでも魔物は悪だっ!」

 二人は互いに蹴り合って距離を空けると掌を互いに向けた。
「フェゴ・デスカルガッ!」
「ヴィエント・デスカルガッ!」
 互いに同じ様な魔法唱えたが、放たれたのはそれぞれ火と風だった。火の玉と風の圧はそれぞれ相殺し、ぶつかった地点の地面には一瞬穴が空き、すぐに砂が流れ込んだ。
 しかし、その砂が流れ込むよりも早くに二人は剣を交わしていた。だが次の瞬間には剣を離し、鞘をぶつけ合った。

「魔物は人をさらって、人を魔物に変える!」
 二人はまた距離を取って鞘を腰に携えると、再び剣を鳴らし合った。
 幾度かの競り合いのあと、二人は互いの方を合わせ、ベリオンの剣がハリオスの剣を上から押さえつけた。
「だからって、まだ子供の、それも今にも飢え死にしそうな魔物にわざわざ剣を突き立てることはないじゃないか!」

 ハリオスは剣を滑らせてベリオンを正面から突こうとした。ベリオンは彼の剣を受けて反らせると、刀身を滑らせてハリオスに詰め寄った。
「それに、だからってなんで人間まで殺されてるんだ!」
「それはっ…」
「周りを見ろ、何で同じ人間同士で、ただ意見が違うだけでこんなに血が流れてるんだっ!」
「お前達がいるからだろっ!」
「魔物達は今人間を取って喰ったりはしないっ!それどころか好意まで抱いているのにっ!」
 ハリオスはベリオンを突き飛ばし、体勢の崩れたベリオンに攻撃を仕掛けた。しかし彼は攻撃を防ぐと同時に体制を立て直し、距離を取って対峙した。
「二番大隊長がやられましたっ!」
 騎士の声が上がった。そしてベリオンは少し構えを解いた。
「…退け、今なら死者は出ない…」
「…くっ…全員、負傷者を保護し撤退を開始しろっ!」

 騎士団が撤退を開始して、戦闘は終了した。
「…ベリオン、俺は…いつかお前を討つ…!」
 ベリオンは暫く黙ったままハリオスと対峙していたが、やがてハリオスは背を向けて去っていった。
「…ハリオス…その時は、俺も…」
 ベリオンは砂漠を去ってゆく友の姿を暫く見つめ、彼は仲間の方を振り返った。
「兄う…いえ、兄さん…」
「ベル…」
「………」
 メリッサ達はベリオンを見つめていた。事は分かっているらしい。
「…こうなることは覚悟の上だ。気にしないでくれ…」
 ベリオンはベリウスとトールの元に行き、暫く何かを離していた。
「ベルは…平気なのか…?」
「平気な訳ないだろう。メリッサの話じゃ、あいつとあのハリオスってやつは昔から親友だったんだろ?無理してんのさ、ベルもハリオスも…」
「全員、移動準備をしろ。本隊の後を追うぞ」
 ベリウスが号令を掛けた。二人のギルタブリルは三隊長に一礼するために近づいた。
「それじゃ、あんたたち。気を付けてね」
「約束通り、二人貰ってくよ」
「ああ」
 彼女たちは二人の騎士を抱いて(捕まえて?)いた。
「じゃあね〜」
 彼女達はそういって砂の中に消えていった。



 その後三隊は砂漠の西南西へ移動し、その日が終わらぬ間に援護部隊と合流することが出来たのである。
 メリッサが連絡係の男と接触した。
「第10隊、第11隊、特別遊撃部隊、ただいま到着しました」
「こちらは団長の命によって編成されました特務部隊です。救護班より4名、物資搬送班より10名、第4隊よりアレン=クラウス隊長以下3名による編成です。負傷者の手当てを致しますので、状況報告をお願いします」
「第10隊、11隊より負傷者12名、いずれも軽傷です。遊撃部隊からは出ておりません。失礼ですがアレン隊長の元に案内願います」
「了解しました。ではこちらへ、救護班と共におりますので」
 連絡係の男の案内で三隊は岩山の洞窟内に入った。ひんやりとした空気の中、特務部隊は待機していた。
「アレン、待たせたな」
「いえ、思ったよりも早かったですね。騎士団は?」
「撤退させた。ベリオンの作戦勝ちだぜ?」
「さすがは大佐。では僕がこの後の足取りについて説明しますから、三人とも付いてきてください」
 四人は物資搬送版の待機しているところまで移動した。
 負傷者はそのまま手当てを受けているようだった。
「済みませんが地図を」
「はい」
 搬送版の男からアレンは地図を受け取り、丁度良い岩の上に広げた。

「ここが今いるところです。そして、本隊はこの道を通ってこの町に移動しました」
「ここは『マウントーラ』か?だいぶ前の戦闘で廃墟になったらしいが…」
「はい。ですが使える建物もありますし、何しろこの町の下には地下空洞が広がっているんです」
「そいつは初耳だな」
「でしょう。我々はそこで、『アルテミス』進行の準備を整えます」
「アルテミスへ?」
 アルテミスとは教団の本拠地である。町ではなく教会を中心として立つ要塞のようなものに今はなっていた。
「はい。作戦決行は我々が到着して一ヶ月後。つまり、今から一ヶ月半後と言うことになります」
「一ヶ月半後か…」


 そのころ、教会騎士団の前線拠点『ハイリースト』
「准将、次の進軍…私に行かせてください」
「アインベルト大佐。それは君が友を討つ覚悟があってのことだね?」
「はい。私以外の奴に彼を…ベリオンを討たせたくはありません」
「いいだろう。彼と互角に渡り合えるのは君しかいないだろうね…奴らにアレを邪魔されるわけにはいかん。
 君に一個大隊を任せよう。ハリオス=アインベルト君」
「ありがとうございます」
 ハリオスは一礼して部屋を出ていった。
(ベリオン…あの優しかった君がそこまでの覚悟を決めているんだ。もう何を言っても分からないだろう…
 だから僕は…君を討つ!)

 トントン 誰かがその部屋をノックした。
「入りたまえ」
「失礼します、アントレイ『神将』」
 入ってきたのは黒髪の狐のように細い目の男だった。その顔は薄笑いを浮かべている。
「やぁ、君か…彼女の方はどうなっているかね?」
「はい…ちゃんと働いてくれていますよ…」
「そうか、それはよかった。では君も彼女の…いや、奴らの後を追ってくれ。事によっては…全滅させてくれてもかまわん」
「全滅とはどの程度まで…?」
「全滅は『全滅』だよ」
「わかりました。このマシロ=カザタチにお任せを…」
 彼はそういうと音もなく消えた。
「シノビか…ふん、何者でも良い。教団の役に立つのならば、な…」


 ベリオンが出発前に一息入れていると、手当てを終えたメアリがやってきた。
「メアリ」
「あら、ベル。怪我が無くて良かったわ」
「あぁ、ありがとう。君が加わってるなんて…」
「偶然選ばれたのよ、大丈夫。足手まといにはならない自身はあるわ」
「最初から心配はしていない、少し意外だっただけだ…」
「あら、意外ってどういう事かしら?」
「あ、いやそれは」
 戸惑うベリオンを見てメアリは笑った。
「うっふふ、分かってるわよ。私って一見華奢に見えるから。でもちゃんと体力はあるから」
「…済まない」
「ううん、謝ること無いわ。でも大変だったわよ、ナオが『どうして私は残れないんだー』って」
「そうなのか?…だが、ナオは何で残りたかったんだ?」
「あら、気付いてないの?彼女、あなたのことが好きなのよ」
「えっ?」
「やっぱり気付いてなかったのね…ひどいなぁ〜」
「…あいつが…」
「あれ?もしかして他に好きな人でもいるの?」
「え、いや、それは…」
 その時、アレンが呼びに来た。
「ああ、ベリオンさん。そろそろ出発します、隊列の確認をするので来てください」
「ああ、了解した。
 済まないな、メアリ。話の続きはまた」
「ええ」

 午後六時、まだ外は辛うじて明るかった。一団は本隊と同じくマウントーラを目指すこととなった。
 そして同じ頃、教会騎士団の一個大隊もハリオスを隊長にして進行を開始したのだった。
10/03/27 01:14更新 / アバロン
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■作者メッセージ
久しぶりの更新です。

ハリオスの名前は適当にゴロが良かったので。位置的にはライバルと言うことになるのでこの後も数回登場させるつもりですが、どう転がらせるかは未定。

物語の展開も大まかに考えていますが、自分の中でもまた変えると思います。

次の話の更新はどうか気長にお待ちください。

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