連載小説
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魔人の騎士団
 ベリオンがバンテラスを出て約三日。この日、一行にメリッサを加えた五人は当初の予測ペースより少し遅れて川を下流へと進んでいた。
 この三日の内で、教団軍部からの追撃を受けたのは二回。どう考えても少ないと見えた。確かに、一行にとっては今の現状では幸運とも言えることだったが、常識で考えて不自然だった。

 メリッサはジャンやミリアリアと親交を深めていたが、昨夜のことがあってメグはミリアリアから怒られっぱなしだった。
「悪かったよ〜ミリィ。許してよ〜」
「………」
「うわ〜ん、ベル〜っ!ミリアリアがぁ〜」
 メグは堪えきれなくなってベリオンに泣きついたが、ベリオンは「自業自得だ」と言って相手にしなかった。
「うぅ…本気で泣いちゃいそうだよぅ…」
 メグは項垂れてとんでもなくブルーになっている。
「もう、ミリィ。からかうのはその辺にして。少しやりすぎですよ?兄様も悪ノリしないでください」
 とメリッサは二人の考えを見透かしたように諭した。
「ふふふ、そうだったかな…」
「すまん、つい。だが自業自得は本当だ」
「へっ…?」
 メグは顔を上げて潤んだ瞳で二人を見つめた。
「すまない、メグ」
「悪かったよ」
「うう〜、よかったよぅ〜。二人に嫌われたら私どうしようかと思った…」
 メグはミリアリアに抱きついた。
「こ、こらっ…」

 そこから十分も歩いた時、後ろを警戒していたジャンは迫る追撃団を見つけた。
「騎士団だっ!」
「ええい、もう少しと言うところで…」
 その時、メリッサが何かに気付いた。
「みなさん!先鋭部隊もいます」
「うっそ〜」
「…だとしても凌がなければならないだろう。メリッサ、後方から援護を!状況に応じて前に出ろ。
 ミリアリア、ジャン、俺と共に先攻!先鋭部隊を標的にしろっ!
 メグは先鋭部隊以外の騎士に的を絞れ、全員応戦開始だっ!」
「了解!」
「あ、ああ…」
「分かった」
「は〜い」
 ベリオンのその的確且つ単純な指示にメリッサは返事をした。そのやり取りに戸惑いながら、三人も返事をした。
 ベリオンを先頭に、ミリアリア、ジャンは左右に展開した。メグはその後ろに隠れながら近づいていった。
「二人とも!先鋭部隊は本当に殺す気で行けっ!」
「手加減をすれば死ぬと言うことか…!」
「しょうがねぇよなっ!」
 敵方からも先鋭部隊が先攻してきた。先鋭部隊は約十人、まともに戦えば痛手を負うのは必死だった。
 メリッサの放った矢が四人の後ろから先鋭隊に襲いかかった。メリッサは弓が矢に施す自動魔法を利用し、通常の弓ではなしえない矢の同時撃ちを叶えたのである。
 矢を一度に手に持ち、最大四本の矢を発射出来るので連続的な発射が可能になる。
 メリッサは矢の後ろに矢を付けるように撃ちはなった。一本目の矢を落とした油断から、すぐ後の二本目の矢にやられるという策だった。ジパングにはこれとにたような事で『影手裏剣』というのがあるらしい。
 その策にはまって先鋭隊が三人、矢に射られて倒れた。これで先鋭隊の戦力は落ちたが、それでも驚異に変わりはなかった。
 ベリオンが先鋭隊と交戦を始めた。そしてここで彼の今現在の真価が現れるのである。
 ベリオンが教団が認めた元少将であると言うことを考慮してか、ベリオンには四人の先鋭隊が着いた。ミリアリアには二人、ジャンには一人が付き、先鋭隊は彼ら三人で相手をするというベリオンの望んだ体勢に持って行けたのである。
 メグはと言うと、華麗に先鋭隊を跳び越えて騎士団の本隊へ向かった。騎士団は愚かにも相手の容姿で油断したのだろう。あっと言う間にメグの攻撃によって八人が戦闘不能となったのである。

 ベリオンは愛剣フェゴ・ディ・フェンサを鞘に収めたまま体術の構えを取った。
 襲いかかってきた先鋭隊の攻撃をほぼ紙一重で避け続け、仕舞いには避けると同時に四人の内の一人に攻撃を仕掛け殴り飛ばしたのせある。
 殴り飛ばされた先鋭騎士は体を翻して着地し、刀を構えてベリオンに向かっていった。だがベリオンは体を左側に向けると、愛剣を左手で逆手に持って抜き、彼の後ろだった方向から攻撃してきた先鋭騎士の刀を防いだ。
 鞘から剣を抜ききると同時にその刀を弾くと、今の体勢の正面で殴り飛ばした先鋭騎士の刀を受け止めると同時に、裏拳を奴の顔面に叩き込んだ。怯み退いた隙に体を左方向に回転させて逆手に持った剣で先鋭騎士の体を切り裂いた。
「…一人…」
 ベリオンはそういうと、剣をくるりと回して右手に順手で持ち替えると残りの三人を見回した。
 すると一人が投げナイフを投げつけてきた。ベリオンはその場を動かず投げナイフを最小限の動きと範囲、つまりは自分の当たるものだけを選んで弾き落とした。
 そして最後の一本を剣で弾いて方向を変えると自分の斜め後ろにいた先鋭騎士に当てた。
「二人…」
 その途端、残った二人先鋭騎士は蛇行し交差しながらベリオンを目指した。そしてベリオンに怒濤の攻撃を仕掛けたのである。
 剣と刀が鎬を削り、ついにベリオンは鞘に手を伸ばした。そしてついに決着の瞬間がやってくるのだった。
 鞘に手を伸ばしたベリオンは、五回の攻撃を剣と鞘の二つで受け流した。そして六度目の攻撃をそれまでの上や横方向ではなく下方向に受け流し、脚で刀を押さえつけるともう一方から向かってきた先鋭騎士の刀を鞘で防ぎ、腹を剣で裂いた。
「三人…。そして貴様で最後だっ…」
 そして鞘の先端でもう一人の騎士の鳩尾(みぞおち)を突き、終わりとしたのである。

 その頃には先鋭部隊以外の騎士はメグによって殆どが戦闘不能に陥り、残るは先鋭部隊の三人のみとなった。
 ミリアリアの加勢に前衛へと移行したメリッサは腰の少し細身の剣を抜き、ミリアリアと背中合わせに立った。
「ミリアリア、一人は私が相手をします」
「すまん、メリッサッ」
 先鋭部隊の一番の武器はその素早さと連係攻撃であった。つまりサシになれば彼らの脅威は動きの速さと飛び道具のみとなり、それらを回避することが出来たならば倒すことは容易なのである。
 メリッサと対峙する騎士が投げナイフで攻撃を仕掛けた。彼女は兄とは違い、全てのナイフを叩き落とした。なぜならば、逃したナイフがミリアリアに当たる可能性があったからである。
 ミリアリアと互いに離れ、それぞれの間合いを取ってメリッサは向かってきた騎士の攻撃を防いで弾き返した。騎士は後ろにヒョイヒョイと飛び退き、構えてから再びメリッサに向かっていった。
 メリッサが剣で薙ぐとそれを避けるのが目的か端からこうする気だったのか、騎士は跳び上がり空中で一回転しながら、後方からメリッサを斬ろうとした。
 しかし騎士の目の前には己に向けられた左掌が右脇の下をくぐってそこにあった。
「バラ・アエレアッ!」
 騎士は魔法によって弾き飛ばされた。空気の弾を間近で食らったので、気を失っているだろう。
「…甘いわね」
 ミリアリアもジャンもどうやら騎士を倒すことが出来たらしい。
「四人とも、片づいたな?」
「ああ」
「はい」
 ベリオンが剣を納めながらそういうと、ジャンとメリッサが返事をした。ベリオンは静かに頷いて「中々いい動きだったな」と言った。


 その一時間後、一行は無事迎えに来たシアやリア達と合流できた。二人の他に三人のハーピーが一緒に降り立った。
「みんな、無事だった?」
「ああ」
「あれ?一人増えてない?」
 リアがメリッサを見て言った。
「ああ。ベルの妹なんだ」
「メリッサ=ファナ=ガルーダです。よろしくお願いします」
「私はシア、こっちは妹のリア。そして彼女たちは…」
「ミクで〜す」
「メラよ」
「メイです」
「ああ、みんなよろしく頼む」
「じゃあ、私たちの背中にいったん負ぶさって。空に上がったら落ちないように掴まっててね」
 シア達は各一人ずつ背中に乗せると飛翔した。見る見るうちに地上が遠くなってくる。
「わっ、わっ…」
 メリッサはその光景に少しビックリしていた。
「へへへ、怖い?」
「あ…その…す、少し…ごめんなさい、ミクさん」
 飛び始めると、地上の風景や漂う雲が見る見る過ぎていった。風を感じるのがとても気持ちいい。ベリオンもメリッサも空を飛ぶという初めての感覚に驚き、そして喜びを覚え始めていた。その日の夜は川の畔で野宿をした。
 その後は追撃を受けることもなく約一日で草原地帯の中間まで来る事が出来た。そして合流して二日目。ベリオンは地上を警戒していると、そこに砂漠地帯の方へ草原を進む軍団の姿があった。
「あれは…!」
 掲げた旗から教団の大隊だと言うことが分かった。二個大隊が進軍しているのだ。
「ベル…」
 ミリアリアが真剣な顔でベリオンを見つめた。ベリオンは静かに頷いた。

 気温が下がり始めた砂漠の宙を、10人の影が通り過ぎていった。その影は砂漠の真ん中に降り立ち、野宿の準備を済ませた。
「シア、リア、あとどのくらいだ?」
「明日の早朝に出発すれば昼には着くよ」
「ハーピー仲間の中でもとびきり早い五人だからね、私ら」
「ありがとう、邪魔して済まないな」
「ううん、いいよ。それにしてもベル、あんた強いんだってねぇ」
「ミリィが言ってたよ。先鋭部隊を四人、一人で片づけちゃったんでしょう?」
「ん?ああ、まぁな。けど、出来れば戦いたくないんだ。戦うことを自慢にしすぎると、人じゃなくなる…」
 シアとリアは「あ…」いう表情をして、申し訳なさそうな顔をした。
「…あんたにもあんたの悩みがあるんだよね。ごめん。明日は私たちが起こすから、それまで体を休めて」
「ああ、ありがとう」
 ベリオンは自分の寝床に歩いていった。
「…あの人、自分の力をちゃんと恐れてるんだね」
「うん。だから、そんなに強いんだよ」

 翌日の昼、シアとリアの言ったとおりにアジトが見えてきた。話によると遺跡をアジトとして使っているらしかった。
「降りるよ」
 そう声を掛けて、シア達は地上へ着地しベリオン達を下ろした。
「ここか…」
「ああ」
 そこは東には砂漠、西には高い山があり、自然要塞と言った感じの場所だった。ここなら安易に知られず、且つ知られたとしても敵の体力を奪うことが出来る。
 ベリオンが中に入ろうとしたときだった。
「汝らは我らの味方か?是か否か?」
 入り口の上の足場に、スフィンクスが横たわっていた。状態だけを少し起こしてベリオンとメリッサを見つめていた。
「…我が名はベリオン」ベリオンは少し考えてからそう切り出した。「私は自信の信ずる正義を通しにここへ来た。その正義が、汝の信ずる正義と違うと言うなら、その爪で我を裂くがいい」
「ほう、して貴公の正義とは?」
「この世を染める赤は、暁と夕日のみ。新たなる人の子も新たなる魔物の子もどうか血の色を見ぬようにっ!」
 スフィンクスはその問いかけの答えを吟味するように目を閉じ、そして目を開いた。
「汝の正義と我が正義。どうやら、同じ道を行くらしい」
 遺跡の扉が音を立てて開き、中には地下への階段があった。
 その奥から姿を見せたのは、騎士団の長を語るには少し若いようにも思える男だった。
「初めまして、ガルーダ公爵。私は魔人の騎士団団長、エルディオ=バルヴィディオです」
 エルディオは白っぽい茶髪を後ろで束ねていた。背も高く、少し下がり目の目の印象から優しそうに思えた。年齢は三十くらい、四十にはまだなっていないだろう。
 ベリオンはそっと首を横に振った。
「失礼ですが、バルヴィディオ騎士団長。私はもう公爵ではないのです。爵位も階級も、義を通すために捨てる決意を決めました。
 私のことはベルで構いません」
「そうですか。私のことはエルディオとお呼びください。色々とお疲れでしょうが、暫くしてから皆に紹介します。失礼ですが、その時は中佐として紹介させていただきます」
「構いません。誠に勝手ながら、我が妹メリッサも入団を許して貰いたいのですが…」
 エルディオはベリオンの肩越しにメリッサを見た。
「彼女が妹さんですね。承諾しました」
「…それから、ここへ来る途中で教会騎士団の二個大隊が進行しているのを発見しました。恐らくこちらへ向かっているものと…」
「…そうですか、分かりました。この砂漠には仲間の魔物達が多く潜伏し、見張っています。この砂漠を越えてくるとすれば報告が入るでしょう。
 今は今すべき事が多くあります」
 エルディオはそういって遺跡の中に入っていった。
 
 アジトの中は遺跡だっただけあって石造りで、通路は思っていたより広めだった。三人横に並んで歩いてもまだ十分な広さだ。
 エルディオはそこにいた全員をある部屋に通した。その途中で何人かの魔物と人間にすれ違った。物珍しそうにベリオンとメリッサを見ていた。
 通された部屋はその全員が入っても余りあるほどの所だった。
「シア、リア、ミク、メラ、メイ。五人ともご苦労だった。ゆっくりベッドで休んでくれ」
「はい、失礼します」
 そういって五人はその部屋から出ていった。
「ミリアリア、ジャン、メグ。君たちもご苦労だったね。このまま休んで貰おうと言いたいが、色々とあるものですぐにとは行かない。だが追って休暇を取って貰うつもりだ。
 ベリオン大佐とメリッサ少佐には、遊撃部隊を自ら結成して貰いたい。私は何分噂に聞く程度しか、君たちの実力を知らない。なので、こちらで勝手に選んで君たちの迷惑になっては元も子もないだろう?」
 二人は少し驚いていたが、喜んで承諾した。エルディオはコクコクと二回頷くと「では」と言って扉を開けた。
 そしてエルディオの後についてベリオンとメリッサはアジトの中を見て回ることになった。

 一通り見て回って、自己紹介もして回った。そして、二人は今会議室になっている部屋に通された。
 そこには四人の男達が居た。全員鎧と剣を装備している。
「待たせて済まないな。諸君、二人を紹介する。彼がベリオン、彼女が妹のメリッサだ。二人は元教団軍部の少将と大佐だ」
 そこまで聞いて五人の男達は驚いているようだった。
「彼らは教団のやり方に疑問を抱き、彼などは投獄もされた。彼らの意志はスフィンクスが認めた。それぞれ自己紹介を」
 エルディオがそういうと、男の中の一人が立ち上がった。
「初めまして、ベリオン、メリッサ。僕はアレン、第4隊の隊長だ。よろしく」
 アレンは眼鏡を掛けたどちらかというとインドアな感じだ。
「ボブ=マックレイ。第6隊隊長だ」
 ボブは黒人系の男で、背中に剣を携えていた。
「ベリウスだ。第10隊の隊長をしている」
 ベリウスは背中に大剣を背負っている。大男で太い腕に、日に焼けた四角い顔、蓄えた顎髭に厚い胸板。屈強な男の代表と言った感じの男だった。
「トール=セイザン。第11隊隊長だ」
 モジャモジャ頭のジパング地方出身らしい男で、携えているのはやはりニホン刀だった。
「これから厄介になる。よろしく頼む」
「お願いします」
「ベリオンさんはどこに?」
「ベリオン大佐とメリッサ少佐には、自身の遊撃部隊を持って貰うつもりだ」
「へぇ〜、でお二人はいくつだい?」
「俺は21、メリッサは19だ」
「なに?その若さで隊長か?!」
「早過ぎやしねぇか?」
「何を言うか。二人は確かに若いが、さっきも言ったとおり少将と大佐だった上、大隊長と中隊長の経験もある。これほどまでの人材は居ないだろ?」
「これは参りましたね。僕たちもがんばらなければ」
「がっはっははは、そうだな。俺の知り合いにも大層強い男が居るが、どっちが強いだろうな?」
「この続きは後にして貰いたい。二人の部屋に案内しなければならないし、他にもすることがあるのでね」
「了解しました」
「ベリオン、後で食堂に来い。歓迎会やるからよぉ」
「ああ、行かせて貰うよ」

 その後二人は自室に通された。
「ここが君の部屋だ。メリッサの部屋は向こう側になる」
「ああ、ありがとう」
 エルディオはそういって出ていった。ベリオンは何をするでもなく部屋を出ようとしていた。
「きゃっ…」
「おっと…」
 その時、部屋を出たところで女性とぶつかった。
「大丈夫か?」
 ベリオンは手を差し伸べた。
「あ、ごめんなさい」
 女性はその手を借りて立ち上がった。
「…君は、人間の?」
「ええ、そうですよ。以外でしたか?ここに人間の女が居るのは」
「あ、済まない。確かに意外だったけどね」
「新しく入ってきた方ね?私はメアリよ。名前は?」
「あ…ああ。ベリオンだ」
 ベリオンは彼女に見とれていた。メアリは綺麗な青みのかかった長い髪で、明るい緑色の目をしていた。白い肌で、大きな目と少しふっくらした唇が色っぽかった。
「どこの隊?」
「いや、俺は自分の隊を創れと言われているんだ。そのメンバーもまだ決まっていない」
「え?ホントに?凄いのね」
「そんなことないさ。メアリはどうしてここに?」
「あぁ、私は教会のやり方が許せなかったのよ。友達に魔物の娘が多くいたから…」
「そうだったのか…」
「どこに行くの?場所が分からなければ案内するわ」
「ああ、食堂にね。ここにいる4隊長が俺とメリッサの歓迎会をしてくれるそうなんだ。…君もどうだい?」
「いいの?なら喜んで」
 ベリオンはメアリと共に食堂へ向かった。その途中で自分自身の身の上話をした。メアリはとても真剣な様子で聞いていた。
「そうだったの…でもひどいわよねっ、教団って」
「ああ、昔はそれなりにちゃんとした集団だったんだろうけど、今は…」

 食堂に入るとボブが大声を出してベリオンを呼んだ。
「おお、なんだ?メアリも一緒だったのか」
「ええ。私も参加するわ」
「おう、飲め飲め」
 とベリウスが酒をジョッキに注いだ。ベリウスもボブも豪快に自分の前の酒を飲み干した。
 ベリオンもその酒を一気に飲み干した。
「おお、いいねぇ」
「…はぁ〜、うまいな」
「だろ?」
 するとそこに短い癖毛のワーウルフがやってきた。
「よう、ボブ。また飲んでるのか?」
「ん?今日のはこいつの歓迎会だ、文句言われる筋合いはねぇよっ」
「へぇ、彼新人なんだ?」
「ああ、確かに入り立てだが、戦闘経験はとにかく多いらしいぜ?」
「へぇ…顔見せてよ」
 彼女はそういって顔をぐっと近づけた。そしてベリオンが振り向くと
「ぁ…」
 といってピクッと動いた。
「どうした?」
「う、ううん、何でもない…私はナオ、あんたは?」
「ベリオンだ、よろしく」
「そ、よろしく…」
 その時、彼女の尻尾が密かに振れていた。
(ベリオン…いい…匂い)
「おい、私も飲む」
「おお、いいぜ」
 それからベリオン達は賑やかに飲み続けた。戦いの中の一時の休息であった。

 魔人の騎士団のアジトから東へ。そこを進む二個大隊の中に、密かにベリオンに対して思いを馳せるものがいた。
(ベリオン…なぜお前は…)
 数日後、彼とベリオンは剣を交えることになるのだった―
10/03/26 22:26更新 / アバロン
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■作者メッセージ
次はいよいよ本格的な戦いに突入しますが、まぁそこにもドラマがあるわけで。

ここでフラグをおおっぴらに立てました。このフラグがどう動くかそんなに期待せずにお待ちください。

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