連載小説
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騎士団の追撃
 夜が明けた。ミリアリア(ミリィ)、ジャン、メグ、そしてベリオンの四人はバンテラスの南西の岩山、バドギナ山岳地帯で仮眠をとった。
 バドギナ山岳地帯はバンテラスの南西地点、即ち彼らの進入地点を南の端としてそこから緩やかな弧を描くように北西に続いていた。全長302キロとし、途中から川が始まっている。別名はバドギナ岩柱地帯ともいった。
 四人のとったコースからすれば、風景が変わるまでには二日かかる事になった。
「………」
「―でよ、そいつが…」
「へぇ〜、それってさ…」

 仮眠を取って出発した瞬間から、ジャンとメグは他愛のない話で盛り上がっている。しかし、それに対してミリアリアとベリオンは黙りこくっていた。
「…あのよぉ、お二人さん?黙ってないで何か喋れよ」
「そ〜だよ〜、長い旅になるんだし、もうちょっと楽しく行こうよ〜」
 ノンキ、実に呑気だ。二人は立ち止まって、ミリアリアは溜息をつき、ベリオンは辺りを見回した。
「お前達、良くそんなピクニック気分で居られるものだな?」
「ピクニック気分なんかじゃないよ〜」
「じゃあ、ハイキングか?…どっちでもいい、お前達には危機感というモノがないのかっ?!」
「二人とも」辺りを見回していたベリオンがジャンとメグに向いた。「俺たちは今、一つの要因を発端のする幾つかの危機に直面している…」
「そう」

 二人はアホのような顔で小首を傾げていた。それを見た二人は溜息を漏らし、ベリオンが説明を始めた。
「いいか、一つの要因というのは、騎士団が俺たちを標的にしたと言うことだ。
 そして危機というのが例を挙げれば、まず『敵の追撃対の規模が分かっていない』、『敵の追跡ルートが分かっていない』、そして『強襲に適した地形の中に俺たちが居る』ということだ」
「敵の規模が分からなければ、応戦するか逃走するかの選択を誤る。
 ルートが分からなければ挟み撃ちの危険もある。
 そして高所から岩を転がされれば私たちはペシャンコだし、隠れる場所も豊富にある。弓矢の雨、というのもあるぞ?」
 それを聞いてやっと危機感を覚えたのか、二人は辺りを不安げに見回し始めた。
「安心しろ、今は敵の気配はない。だが急がないと俺たちはその手中にはまる」
「分かった。よし、大丈夫だ、行こう」
 ジャンとメグはさっきとは打って変わって静かに回りを警戒しつつ歩き出した。
「やれやれ…どうしてあいつらが今まで生きてこれたんだか…」
「そういうなよ、ミリィ。ああいう奴らも居ないと息も詰まってしまうさ」

 そんな四人を遠くから見つめる影。影は望遠鏡を下ろし腰に釣り下げると、馬を駆って何百メートルか離れたところに立っていた一人の男の前で留まった。
 彼は馬から下りると男の前で右手に拳を作り、左胸に当てた。
「隊長、ここより北北東に反逆者ベリオン=ヴァン=ガルーダ、及び以下三名発見いたしました」
「よし…」
 隊長と呼ばれた左頬に傷のある男は、静かに振り返った。
「聞けぇっ!ここから北北東を、裏切り者であるガルーダが進行中であるっ!親魔物派っ、魔人の騎士団などというならず者どもに肩入れした、愚かな裏切り者をこの手に討ち取れっ!
 戦闘配備だっ!馬を走らせば追いつけるぞぉっ!」
 配下の騎士達は「おおぉっ」と声を上げ、馬に飛び乗った。約六十名の騎士達が、この地帯の名の由来となった柱のような特有の形をした岩々の間を駆け抜けていった。


 もう太陽は頭の上に来ていた、川に差し掛かると言うところで四人は水源の水を口にしていた。
「っは〜、うっめ〜」
「そうだな、水はいつも澄んでいるものだ…」
「ミリィ、どうした?」
「ん…いや、済まない。どうして、この世はそう澄み切ってはいないのかと思ってな…」
「今なら、誰でも思うことだろうな…。だとしても、今は剣を持たなければ、この先も血を血で洗わせる事になる。ずっと、赤く濁ったままにはさせられないっ」
 ベリオンはその目を細め、眉間に少しシワを寄せて川の向こう岸の地面に視線を向けたが、その目が見ているのはもっと遠くのように三人は思った。

 だが、感傷に浸る間は無かった。遠くから迫る馬の蹄の波を感じたからである。
「三人とも、来たよ。いっぱい」
「ああ、ちょっと見えたぜぇ」
「…街から追ってきたにしては、数が多い…そうか、出ていた部隊か…!」
「私が見たところでは…ここは逃げた方が良さそうだな…」
「ああ」
 まだ距離は離れていて、上手くすれば逃げられる可能性はあった。だがただ逃げられる可能性は殆ど無かった。つまり、何か手を講じれば逃げられるのだが、その手を間違えば面倒なことになるのは必須だった。
 四人は全速力で走った。だがだんだん馬のその音が大きく鳴っていることは目に見えていた。「どうするんだよっ?!」ジャンが走りながら叫んだ。
「そうだよ、追いつかれちゃう〜」
「二人の言うとおりだ、このままでは…」
 ベリオンの目に峡谷となった所とその両側の岩壁から延びた幾本かの岩柱が映った。そして、ベリオンは咄嗟に「付いてこいっ」と言った。
 三人は決して緩やかではない坂を滑るように駆け下りた。そして下に着くとベリオンはメグに何か耳打ちをした。
 メグはコクコクと頷いて「オッケイ、分かった」とウインクした。そして彼女は左側の傾斜の激しい壁にネズミさながらに登っていくと、何カ所か柱の根本で何かをして柱のアーチをくぐった三人と合流した。
「やってきたよ〜」
「よし、上出来だ…」
 すると降りてきた坂の上に騎士団が見えた。
「来たな…」
 騎士団は馬に乗ったまま坂を駆け下りた。ミリアリアとジャンは思わず身構えたが、あとの二人は殆ど動じていなかった。
「そろそろか?」
「うん、あと…3…2…1!」
 爆発が片側の壁で起きて、柱が折れ反対側の柱も巻き込んで道を塞いだ。四人は岩肌の凹凸に隠れ、煙と粉塵を防いだ。

 ひとまずはこれで追っ手の足は止めることが出来た。だが、これで安心してはいられなかった。
「ベリオン=ヴァン=ガルーダッ!」
「その首貰ったぁぁっ!」
 四人の行こうとする先に騎士達が待ちかまえていた。さっきの本隊とは別に別動隊が迫っていたのだ。彼らはベリオンの名を口にし、剣を高らかと天に向けた。
「しまった…」
「あちゃ〜、こっちにもいたのか…」
「あちゃ〜、じゃねぇだろっ!」
「さてと、三人の戦いぶりも見せて貰わないとな…」
「…そうだな。背中は安心なのだしな」
「あークソッ、こうなったらやってやるぜっ」
「手加減、手加減♪」
 四人はそれぞれ武器を構えた。ベリオンとミリアリアは剣を、ジャンはナイフ、そしてメグは何かというと15センチくらいの長さの針のような物を取り出した。中指に指輪のようになったところをはめて使うようだ。
 約四十人の部隊。一人10人の振り当てになるが、ベリオン、ミリアリアの二人にとっては造作もないことは分かっているだろう。だがジャンとメグの戦い方はどのようなモノなのだろうか。
「でいやぁぁぁっ!」
 騎士達が一斉に襲いかかった。


 ベリオンはまず掛かってきた騎士達に順序を付けた、倒す順序だ。一番先頭の騎士の剣を弾き、それを皮切りに騎士らの剣を悉く防ぎながら前進する。
「嘗めているのか!?攻撃してこいっ!」
 相手がそう言っているのだ、痛い目を見ても構わないのだろう。
 ベリオンはその彼の攻撃の瞬間、隙だらけの脇を歩いて通り抜けると振り返えって一歩二歩下がりながら斬りつけた。
「ぐあぁっ―」
 そして後ろから騎士が二人迫っていることも音で分かっていたので、振り向き様に一人目の左脇腹、そのついでに二人目の右脇腹も斬りつけると、いったん血を払った。
 そして俺は他の三人の戦い方を見ることにした。そんなに長くじっくり見るつもりはない、彼らのやり方が分かればよかった。

 ミリアリアは迫って来た騎士三人の攻撃をまず一人目を斬りつけ、二人目を尻尾で脚を払って転倒させ、三人目を斬りつけた。そして二人目の脚を剣で突き刺し動きを封じると他の騎士達を凝視した。
 奴らは隙が多すぎるのだとミリアリアは思っていた。だがそれを自らが分かっていない。どうせ鍛錬をさぼっているに違いないのだ。
「どうした?遠慮せずに掛かって来るがいい」
 軽い挑発だった、だが奴らはまんまと乗ってくる。過信している証拠だ。
 騎士達はじりじりとミリアリアを囲み始めた。
(それなら勝てるとでも思っているのか?甘いな…)

(ミリィはやっぱり剣士スタイルだな。経験が多いのだろう、次の動作までの隙が少ない)

 ジャンは振り下ろされた剣を半身でかわし、ナイフで背中を突き刺した。ナイフを抜いて二人目の剣を受けて、相手の腕を掴んで捻り上げた。
「うがっ…」
 音を立てて剣が地面に落ちる。そして太股をナイフで刺し、二人目の動きを止め、騎士を回し蹴りで仕留めた。

 (ジャンは喧嘩に近いな。思っていたよりやるらしい、あの蹴りも中々のものだな)

 メグは騎士達に向かって走っていって目前で跳び越えた。
 騎士達が振り向いた頃には、後ろの騎士二人はもう膝を突いて倒れる瞬間だった。
「な、このクソネズミ!」
「何しやがった!?」
「さあね?でも死んで無いから安心してね〜」
「巫山戯るなぁ!」

(メグはあの小柄な体と素早い動きか…、…あの針はもしかして…)

「余所見をするとはぁっ!」
 騎士が三人、ベリオンに斬りかかってきた。
(お前たち声を出すなよ、奇襲になんらねぇぞ?)
 ベリオンはフェゴ・ディ・フェンサを時計回りに正面で回し、左手に逆手に持ち替えた。そして兜がへしゃげる程強く、右手で正面の騎士の顔を殴り倒した。
 続き様に、逆手に持った剣で左側の騎士の腹部側面を斬り裂きながら、右の騎士の突きを、パンチから引き戻した籠手で滑らせながら反らせた。シャァンという擦れる高い音がして、次には左の騎士が倒れる音がしていた。
 二人の間をすり抜けて後ろに回り込んだベリオンは、剣を今度は反時計に回して右手に順手に持ち直すと、丁度最中に振り返った騎士を回したその太刀筋のまま斬りつけた。
 残りの騎士4人は、最初の二人が剣を振り上げたので続けて腹を斬りつけながら駆け抜け、その前の二人のせいで攻撃できなかった残りの二人の間までもすり抜けて、反応の遅い二人を後ろから一閃した。

 ミリアリアは一人の攻撃を弾じき、振り返って隙の出来た腹部を斬る。そしてまた振り返り三人同時に横に一閃し、横に振られた剣を止めて押し返し、軌道を返して切り上げた。
 残りの二人は自ら近寄り斬った。
「…これで良く勝負を挑んだ物だな…情けない」

 ジャンは落ちた剣を拾って、素振りした。
(なんつーか、こいつら数が多くて厄介なだけだよな。サシだとよえーわ)
「っしゃあっ!来いやぁっ!」
 ジャンは剣を一人の騎士に向かって剣を乱暴に投げつけた。「ごあっ…!」と声を上げて騎士が倒れた。ジャンは走りかかってきた騎士ををナイフで刺した。
「うおぉっ!」
「ぅらあぁっ!」
 剣を振り上げた騎士が剣を振り下ろす前に頭を蹴った。被り物が激しくへこんで騎士はその場にバタンと倒れた。恐らく脳震とうでも起こしたのだろう。
「貴様ぁぁ!」
「死ねぇぇ!」
(おうおう、強そうなこった)
 ジャンはメリケンをはめて、二人を強く殴った。攻撃が単調で分かりやすいためにジャンは剣を恐れることはなかった。
 二人が宙に浮いて倒れた頃には、ジャンは残りの三人目掛けて駆け抜けていた。
「おぉぉらぁぁぁっ!」
 アッパー、フック、ストレート。瞬殺というのだろう、こういうのを。
「へっ、もうチョイ腕上げて来な!」

 剣が振り下ろされて、メグはそれを股抜けでかわして騎士の太股の裏側に針を刺して抜いた。
 騎士はあっと言う間に倒れた。騎士達は何が起こったのか分からず慌てた。
(あ、驚いてる驚いてる♪)
「私強いよ〜?」
 メグは騎士達の斬戟を全部かわしていた。半分弄んでいる様にも見えた。そして騎士達に次々と針を突き刺していった。
「な…これ…は―」
「うぐ…しまっ―」
「は、はや…い―」
 全員がまた次々に倒れ、メグは「ニッヒヒ〜」と笑った。
「お疲れさま〜」

 四人の回りにはまだ息のある騎士達が倒れていた。
「ベリオン、やっぱり強いね〜」
「ああ、まるで歩くことに変わりなかったな」
「買いかぶりすぎだよ、三人も思ってた以上だった」
「ありがとよ」
 四人は自分の武器を納めて、歩き出した。
「メグの針、先に毒を塗っているんだろ?」
「お、せいか〜い。鋭いね、私の針みたい。そうだよ、私の針ねぇ即効性の度麻酔毒が塗ってあるんだ〜」
 メグは得意げに言った。
「私の場合さ、主な仕事は偵察や情報収集とかスパイ行為なんだ〜。だから、あんまり大きな武器は持ってけないのよ。スマート且つスピーディーに敵を凌げる武器。それがこの毒針だったの」
「そうだったのか。それにジャンの蹴りや、型にはまらない戦い方は騎士達にしてみればやりにくいだろうし、ミリィの実力は中隊長、大隊長並みだ」
 ジャンとミリィは嬉しいのか微笑んだ。
「私は幼少より戦士として育てられてきた。そして、私自身も強い戦士になりたいと思っていたからな、鍛錬は怠ったことは無いと思っている」
「俺はもともとスラムの出だ」
「そう。ジャンは喧嘩は一端(いっぱし)に強くてな。スラムでは敵なしと言われるほど強くみんなに畏れられてはいたが、根が優しいからな、慕う者達も多かった」
 ジャンはミリアリアが話している最中ずっと照れているようだった。
「う、うっせぇよ…」
「あ〜照れてる〜」
「ば、ばか…照れてねぇ!」

「うぐ…」
「いてぇ…」
「あがぁ…」
 崩れ落ちて道を塞いでいる岩柱の向こうから騎士達の呻き声が聞こえてくる。
「…なかなかやるらしい。…いや、ガルーダがいるのだから当然と言えば当然、か。お前達、向こうに渡ってけが人を手当てしろ…!」
「了解!」
 騎士達は瓦礫の山を登り始めた。
「隊長、このままでは逃げられます…」
「…しょうがないだろう。だが多少は奴らのコースをずらせることが出来たはずだ。それにこの先には―」
 頬傷の男は目を閉じてにやっと笑った。

 夜になった。一行は川沿いの道に戻るべく、上れそうな所を捜していた。しかし、どこの岩肌も登るには険し過ぎた。
 四人は地図を広げると、この道の先に村があることを知った。その村を抜ければ川沿いの道に戻ることが出来そうだった。
「だが、やっぱりこの辺の村はな…」
「反魔物派、か…」
「私たち通れないじゃ〜ん、てか、近づいただけで終わりだよね?」
「…それなら、俺とジャンが村でローブを手に入れてきて、それを来て通り過ぎよう」
「そうだな。二人とも頼んだぞ」
「ああ」
 ミリアリアとメグを村から少し離れた所に残し、ベリオンとジャンは村へと向かった。
 村の入り口には小さなゲートがあり、『ギドリタ』と村の名前が看板に書かれていた。
「入るか…」
「…ちょっと待て、ベル」
「なんだ?」
 ジャンがベリオンを呼び止めた。彼はある方向を指さした。
「アレは…しまった、手が回るのがさすがに早い…」
 その先には村の掲示板があり、そこにはある張り紙が張られていた。
『 指名手配 
     反逆者・ベリオン=ヴァン=ガルーダ 
      及び以下人間一名、魔物二名 
       見つけ次第報告されたし
                 司祭 ハブリオード=アルシオーネ 』
 上記の内容と顔写真が載せられていた。つまり、ここを堂々と通れるのはジャン以外いなくなってしまったのである。
「俺が四人分買ってくるさ。なぁに、気にするな」
「済まない、ジャン」
 ジャンは村の中へと入っていった。ベリオンはその間村人に見つからないよう村の外の影に身を潜めていた。
 ベリオンは空の星々を見つめ、物思いに耽っていた。
(俺が正式に反逆者になってしまったからには…メリッサにも何らかの圧力は掛かる可能性もあるか。
 だが、教団のやり方は絶対に間違っている…昔は、ああじゃなかったはずだ。あんなんじゃ…)
 思い出すのは一昨年の冬の記憶だった。

                     −−−−−−−−−−

 教団の任務で、ある地方に遠征した時だ。任務の終わりにある魔物と遭遇した。ワーウルフの子供だった。
「腹を空かしているのか…可哀想に」
 だが、彼の当時の上司=隊長はベリオンとは全く逆のことを言った。
「ふんっ、薄汚い魔物が…野垂れ死ぬがいいのだ!」
 その隊長や仲間達は先に行ってしまった。しかし、ベリオンだけはすぐにそこを離れることが出来なかった。ベリオンは意を決したように腰の絹袋の中からパンを一切れ取り出し、それをワーウルフの前に置いた。
 そしてベリオンがそこを離れ合流しようと言う時、隊長が戻ってくるのが見えた。ベリオンを通り過ぎると、上司は…
「なっ…!」
 ベリオンの目の前で、ワーウルフは殺された。空腹で、もう歩くことすら叶わなかった少女を、魔物とはいえその隊長は無惨にも殺したのである。
「…お前、このパンはお前のか…?」
 ベリオンはその時、そうだとは言えなかった。
「…いいえ、…来た時からそこに…」
「そうか、石とでも見間違ったか…」
 隊長はそういってベリオンを再び通り過ぎた。ベリオンは只々、自分を見つめる生気を無くしたワーウルフの少女の、蒼いその目を見つめ返すことしかできなかった。

                     −−−−−−−−−−

(くそっ…)
 彼はあの時の目を忘れられずにいた。そして、己の無力さと薄情さに行き場のない憤りと怒りを抱いていたのだった。
 その内、ジャンが四人分の茶色いローブを持って戻ってきた。
「待たせたな」
「いや、俺も考え事をする暇を貰えて良かったよ…行こう」
「ああ」
 二人の所へ戻ると、手配所のことを説明した。
「そうか、厄介なことになったな」
「とりあえずその村抜けちゃおうよ、考えるのはそのあとにしよ?」
「メグ…そうだな、お前の言うとおりだ」
 四人はローブを纏ってフードを被った。そして旅人の振りをして村に入った。村は夜だというのに人が多く、見つかる危険性が高かった。
 だがここで引き返すことは出来ない、四人はただここを抜けることだけを考えていた。
「そこの四人…!」
 後ろから呼び止められた。四には立ち止まり、ジャンがそっと後ろを振り返った。
「騎士だ…」
「ここで騒ぎを起こすわけには行かない…」
「走るか…?」
「じゃ、よ〜い…」
 四人は身構えるとメグの「ドンッ」の合図で村の反対側のゲートへ向かって走った。
「なっ、待て!」
 走り出してからはそれぞれが後ろを振り返って、騎士の姿を確認した。村のゲートが見えた。だが、村を出たからと言って騎士達が追って来ない訳ではない。
 四人が村を通り抜けた時だった。後ろから馬の蹄の音がいくつか聞こえてきた。
 村から少し離れたところで、回りを四人の騎士に囲まれた。
「こんな夜にフードまで被っている奴がいると思ったか?」
「さぁ、その顔を見せて貰おうか」
「…囲まれては…仕方ないな」
 ミリアリアはそう言った。だがその言葉の意味を騎士達は『囲まれては逃げようがない、捕まるしかない』と思っていた。
 だがその言葉に乗せた四人の意志は違っていた。四人はそれぞれ自分の前の騎士を一人ずつ見据えた。そして
「がはっ」
「うぐっ」
「なっ…」
「ごあっ」
 ベリオンとミリアリアは剣によって一瞬で斬り裂き、メグは毒針を刺し、ジャンはメリケンサックで頭を殴って、それぞれが刹那に騎士を倒した。
 つまりミリアリアの言葉の意味は『囲まれては倒して進まなければ仕方ない』という意味であり、彼らにとっては不利どころか手っ取り早く危機を脱する絶好の機会だったのである。

 四人はその場を走って離れると、丁度良さそうな場所を見つけて野宿することにした。
 ぱちぱちと薪がはじけている、四人の顔は赤く照らされていた。
「少し急いだ方がいいな。合流に間に合わなくなる」
「そうだな、だが今は体を休めないと」
「ベルの言うとおりだぜ、今日はクッタクタだよ」
「…あのさ、この際聞かせてくれない?捕まったわけ」
「………」
 ベリオンは少し考えてから「わかった」と言った。

「俺は一昨年の、秋から冬に移ろう頃、教団の任務である地方に遠征したんだ。その任務自体は、俺の不信感はあおらなかった。魔物の人的被害を防ぐための、駆逐任務だったんだ。何体か討伐して、そこに近寄らないようにすることが目的だったからな。
 でも、その遠征の帰りだ。中隊の前に、一人のワーウルフの少女が倒れていたんだ。細く痩せていて、何日も何も口にしていないようだった。中隊長はその少女を見捨て通り過ぎようと言った。
 それならまだ良かった…!自然の厳しさと割り切ることは出来ただろうから。だが、中隊長はわざわざ戻って、彼女に…とどめを刺した」

 三人はベリオンの話をそこまで聞いて、何も言えずにいた。ベリオンは息継ぎをして続きを話し始めた。

「俺はそのことで今の教団のしていることに、少し蟠(わだかま)りをおぼえた。よく調べてみたら、無差別な魔物殺傷、人間にまでの暴力行為があったことが分かった。
 俺はすぐに上部と掛け合うことにしたんだ―」

                     −−−−−−−−−−

「失礼しますっ!」
 ベリオンはある扉の前にいた。教会騎士団の幹部の部屋だった。
「ん?入りなさい」
 ベリオンが中に入ると、そこには白い教団の軍服を来た老人が座っていた。
「どうしたのだね、少将」
「…神将。私は、今の教団のあり方が納得できません…」
 神将(じんしょう)は教団軍部の中で、大総統の次に偉い地位である。教団全体で言えば、四番目の権力を有していた。
「…どういう事だね?」
「調べてみれば、無差別な魔物殺傷事件や、本来守るべきである人間に対して暴力を振るい、死亡例も報告されているではないですか!
 確かに魔物には、人を誘惑し連れ去ってしまうような者もいますが、逆に人を救うことをしている魔物も、近づかなければ無害な魔物もいます。そのような魔物に対しても無差別に剣を振るうというのは…
 それに人に対しての暴力行為は、教団の目的とは全く違っています。寧ろ、教団の何傷を付ける行為であると思われます!」
 神将は少しの間黙っていたが、やっと発した第一声は「魔物は全て悪なのだよ…」という冷たい低い声だった。
「少将は分かっていない。魔物と人が近づきすぎれば、この世から人間が減ってしまうと言うことは目に見えているだろう?
 その人間達は、聞く耳を持たなかった愚か者なのだよ…危険分子は早々に潰すべきだ。いずれは、魔物を根絶やしにする。それが我々の崇拝する神の意志だ」
 ベリオンは思わず「そんな横暴な…!」と声を上げてしまった。
「魔物にだって命はあります。心だって持ってるんですっ!
 知力が高い者は学者として人の技術に貢献しているじゃないですかっ!」
「人に都合のいい者は人に使われるだけでいいのだ」
「ですが魔物は―」
「もういい…少将。分かった…」
「神将?」
「君を危険分子として、投獄する」
「そんな…!?」
「君からは少将、及び大隊長としての地位と爵位を剥奪する」
「神将!」

                     −−−−−−−−−−

「俺はそのまま兵達に捕まり、投獄された」
「そんな馬鹿な話があるかよ…」
「そうだよ、絶対に間違ってる」
「少しでも異議を唱えれば最下層行き、か…」
「ああ。教団は力を付けすぎたんだ、神の名を傘にその力を誇示したいだけなんだ」
 四人は項垂れて燃える焚き火の火を見つめた。ベリオンはもちろんのこと、三人も思うところがあるのだ。そして、ミリアリアが「ふっ…」と笑った。
「…どうした?」
「いや、済まない。だが我々の志が間違いでないことが今はっきり分かった」
「ああ、そうだぜ」
「それに、教団にもそう思ってくれるベリオンみたいな人が居たって事が嬉しいんだ〜」
「そう、この戦争、私たちの手で絶対に終わらせるぞ」
 ベリオンは三人の目が希望に満ちていることを感じた。
「そうだな。だから明日は川沿いの道に戻って、魔人の騎士団の仲間達の顔が見たい」
「みんないい奴らだぜ?俺のスラムの頃の仲間もいるんだ、紹介するよ」
「ああ、頼むよ」
 今日は和やかな、けれども決して気楽ではない雰囲気で眠りに就くことになった。
 四人の頭上には強く輝く六つの名もない星が輝いていた。

 その頃、バドギナ山岳地帯の北側を駆ける、馬の姿があった。馬を駆る人物は、長い髪を風になびかせていた―
10/03/16 23:58更新 / アバロン
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■作者メッセージ
今回はしっかりと戦闘がありますが、どの程度まで詳しく描写するか迷いました。
迷っても仕方ないと割り切って、敵と彼らの位置関係と行動を描写しました。そうすればイメージが出来やすいと思ったので

私の表現力では、わかりにくいところもあるでしょうが勘弁を…

戦闘の描写のアドバイスを頂けたら嬉しいです

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33