想いがあなたを…
「さぁ、フリートッ!貴様に妹が倒せるのか!?」
ローラの形をした人形は拳を振りかぶった。
「………違う、違う…ローラは、三年前に死んだっ!」
フリートは彼女の攻撃を受け止め蹴り飛ばした。彼女は後方転回で体勢を立て直し前方に跳躍して回転蹴りを繰り出す。
フリートは攻撃を見切り反撃しようとした、だがハーロックの罠は確実に効果を見せた。フリートは明らかに躊躇した、頭では分かっていても今目の前にいるのは紛うこと無いローラなんだ。
だがローラは躊躇うことなくフリートを殴り飛ばした。
「ぐあっ―」
フリートは殴り飛ばされ床に転げた。
「オ兄チャンッ…!」
今俺は分かった。彼女にはまだ意識がある。微かかもしれない、はっきりとかもしれない、だが彼女は意識を持っていた。だからこそあんな悲しそうな声で叫んだ。
奴は、ハーロックは実験は成功したと言った。だがその実験の目的は『人を魔導人形に変える』事ではなく『人の体を魔導人形に変える』ことじゃないのか?だから彼女の意志は残っている。だが体は意志に反して攻撃し続けるんだろう。
「オ兄チャン…倒シテ…」
だとしたら、まだ12歳の少女にとってこれ以上に酷なことがあるのだろうか…愛する兄を体が勝手に殺そうとする。兄は妹に攻撃をすることが出来ない。
ローラはフリートに殴りかかった。ブレードで間一髪でガードしたが、ピンチに変わりはなかった。
銃声が響いてローラの腕がブレードから反れ、フリートは危機から脱した。俺はローラとフリートの間に立ちふさがった。俺は右手に自分の上半身ほどの長さをもつ『バンデッド』を持って彼女に向けていた。
「…ジェスター…」
「彼女は俺が殺る…お前じゃあ、絶対に倒せない。それどころかお前がやられるだろ?」
俺はハーロックとフリートの気に飲まれて何も出来なかった。だからここじゃ黙ってるわけにゃいかねぇのよ…
「すまない…」
フリートは奥へ逃げていったハーロックを追って消えた。
「さて、と…ローラちゃん、意識はあるのかい?」
「ハイ…少シ薄レテルケド…」
「俺はジェスター、フリートの友達だ…。ごめんな、今から君を倒すよ」
「…オ願イ…シマス」
俺はとてもやるせない気持ちになった。だがもし彼女がそれを望み、それ以外に方法がないのだとするなら、俺は二人のために出来ることをしたいと思った。
普段は女遊びばっかの俺にも、ちゃんとやるときはやらなきゃな…
彼女は俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。俺は左に跳んでかわし転がりながら彼女の腕に標準を定めて引き金を引いた。彼女は体の前で腕を交差し魔弾を防いだが、腕には銃弾の跡がはっきり残っている。それでも彼女の体は攻撃をやめない。
幸いなのは彼女が痛みを感じないということだった。それがあったからこそ俺は彼女と戦うことが出来る。
はっきり言って俺の魔力が底を突かない限り、『バンデッド』ももう一つの『イドラル』も弾切れになることはない。だが、俺はどうも魔力の扱いが下手らしい。だからマガジンに魔力を貯めて使っている。
俺のこの二つの銃は連射が命だったりする。つまり、マガジンにため込んだ魔力が尽きれば、この二丁はただのでかい魔導器具に変わりねぇ。
『バンデッド』の残りの魔力はあと10秒ぶっ通しでうち続けられる分だけ。『イドラル』は破壊力重視で精度は俺からすれば涙目だ。
(さぁ〜て、どうすっかな…動きも速いしガードも堅ぇ…)
彼女は俺に向かって走ってくるとかかと落としを決めようとして跳び上がって、左足を高く上げた。
(まずい…!)
俺は反射的に膝を折って膝から上を水平にして左腕で体を支え、照準は彼女の左足の関節へ。そして引き金を引いた。
二秒間で24発の魔弾が飛び出たはずだ。左足はもげ飛んで、俺は降りてきた彼女を蹴り飛ばした。
(まずは足一つ…!)
これならいけるかもしれない。そう思ったがそれはどうやら甘いみたいだ。彼女は片足で立ち上がり、俺がその足を狙って撃った魔弾を避けて左へ跳び、俺がその着地点へ銃を向けると今度は逆立ちのようになり、腕だけで跳び上がった。
(大体12発分無駄にしたか……足無くしたってのにあの動きありえねぇだろ…こうなりゃ…!)
俺は『イドラル』も取り出した。イドラルの持ち方は他のとは少し違っていて、グリップの後ろから銃自体を腕に固定するための部分があり、上下から前腕を挟み込む形になる。銃は腕と一体的な形になり、重たい銃身を動かし易くできる。
俺はバンデッドを彼女に向けて撃ちはなった彼女は天井をウンテイのように移動し、壁に跳ねて着地した。
(今だっ!)
俺はイドラルのグリップの親指の位置にあるレバーを押しながらトリガーを引いた。
直進するグレネードランチャーが彼女を捕らえ爆発が起こった。
(やったか…?)
爆煙の奥にはボロボロになった彼女の体が見えたが、まだ動けた。右腕は爆発を防いだ衝撃で前腕から先がない。
彼女は片足と片腕で、跳ぶようにして移動した。俺はバンデッドとイドラルのトリガーを引いた。魔弾が彼女の付近を襲い彼女にも当たっているが、先にバンデッドの魔力が切れ、もう少しと言うところで彼女は魔弾の雨から抜け出した。
(しまった―)
彼女は俺に突進し、左腕で俺を押さえ込んだ。
「ジェスター…ダメダヨ…」
「そうでもねぇさっ!」
俺はイドラルのトリガーを引いた。そして程なくイドラルの魔力も尽き、ローラの体には穴が空いていた。
「はぁ…はぁ…体は…まだ動きそうか?」
「…動カナソウ…ジェスター、オ兄チャンノ所ニ連レテ行ッテ…」
「どうしてだ?」
「伝エナキャナラナイ…事ガ…アルノ…意識モ薄レテキタカラ…急イデ…」
俺は訳も分からず銃を捨てて彼女の動かなくなった体を抱え、フリートの跡を追った。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
俺が奴に追いついたのは奥の扉から渓谷に出たところだった。太陽の光が俺と奴を照らす。
「ハーロックッ!」
「…どうだ…いい所だろう……ここをお前の墓にしてやるっ」
ハーロックは剣を構えて俺に向かってきた。俺もブレードを構えて奴に向かっていき、俺とハーロックは競り合った。
俺とハーロックは互いに相手を押し、時計回りに回転して相手の胴を狙う。そしてまた胴の前で剣と剣がぶつかり、今度は弾かれるように次の攻撃に移った。
互いに左上から剣を振り、また剣はぶつかる。そして俺もハーロックも相手の胴を蹴飛ばした。
また互いに離れ、構える。そして突きを放ち合い、剣はまた相手の剣に当たって弾かれ、体は相手に背を向けるように半身をとった。
俺は剣を戻してハーロックを斬ろうとした。そして俺の右目の橋に奴の剣が戻ってきたのが見えると、俺は肘を引きその剣を防ごうとする。奴も同じようにして防ごうとし、剣の先端同士がぶつかり自分の剣を引いた反動と相手の勢いで弾かれる。
俺とハーロックは互いに引かず、防ぎ防がれの攻防戦を展開していた。
しかし俺に勝機は見えた。次に奴の振り下ろした剣と俺の振り上げたブレードがぶつかり、ハーロックは一瞬の隙を作ったのだ。俺はそこを剣を返し一閃した。
「うぐっ―!」
奴は仰向けに倒れた。
「とうとう…殺ったぞ…」
俺がかったと思った時だった。
「誰をやったんだ?」
俺はその光景が信じられなかった。奴は傷を受けたにもかかわらず、まだ生きていて、あろう事か跳ね起きたのである。
そして傷はゆっくりと塞がりつつあった。奴は剣を振り下ろし、俺はブレードで防いだがその力はさっきまでのものより強くなっていたのである。そして俺は一歩後ろに下がり、のし掛かるように威圧するハーロックの剣を受け止めて左側へ流しその場を凌いだ。
「くっ…はっ…はぁ…どうなっている…?」
ハーロックはゆっくりと体勢を立て直し、俺の方を向いた。
「お前には俺を殺すことなど出来ない…!」
奴の攻めは収まるところを知らず、俺には疲労が色を見せ始めて防御することがやっとになっていた。
「見ろ、この力の差をっ…!…貴様は防ぐだけでふらついているだろう…そんな貴様に何が出来るというっ!何も出来んさっ!三年前のようにぃっ!」
俺はあの時の光景、あの時の感情を思い出した。体に力が沸き、憎しみが溢れた。
「おおぉぉぉっ!」
俺は感情の赴くままに剣を振り、僅かだったがハーロックを押し返した。怯んだハーロックにブレードを振り下ろしたが、この体では奴に届くような攻撃は出来るわけもなくあっさりと跳んでかわされてしまった。俺は次の一歩を踏み出し、ハーロックに迫ると左下からブレードを振り上げた。
「ちぃっ―!」
確かにハーロックに剣は届いていた。しかし奴は傷を受けながらも前進し俺に剣の切っ先を向けたのだ。奴がそれを出来たわけは斬っても死なないという強みがあったからだった。
「…っ!」
切っ先が俺の胸へと近づいて来る。俺はここで殺られるのか…?復讐を遂げられず、ローラの仇も討てないで…
(俺にはまだやらなければならない事がある…俺はまだ―)
剣が俺に突き刺さる。そして、俺の意識は遠のいた。その中で俺の耳にシエラの言葉が聞こえてきた…
(私の想いがあなたを護るから―)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
俺がそこに辿り着いた瞬間…俺とローラの目の前で、フリートが胸を貫かれた…
「フリートォッ―!」
俺は思わず叫んでいた。フリートは力無く仰向けに倒れ、その瞳は空を見つめている。
「大丈夫…マダ大丈夫ダヨ…」
「ローラ…何を言って―」
「オ兄チャンッ…ハーロックハソレジャ死ナナイヨ…!オ兄チャンナラ視エルカラッ!」
俺は彼女が何を言ってるのか分からなかった。ハーロックは何か特別な方法で攻撃する必要があるのか、それにしてもフリートはもう…
「俺なら視えるんだな―!?」
フリートはユラユラと起きあがり、油断して離れたハーロックを睨み付けた。…どういう事だ?確かに俺たちの目の前でハーロックがフリートの胸を貫いたはずなのに。ローラはこうなることを知っていたのか?
「フリート…どういう事だっ…胸を貫かれて果てぬ命など無い…!」
「教えてやる―」
フリートはハーロックに向かって行き、ブレードを振り下ろした。ハーロックの鮮血が飛び、ハーロックは後ろへと揺らいだ。
「俺は胸を貫かれてなどいないっ…!」
フリートはよろけたハーロックの後ろを目掛けてブレード突き出した。
「視えたぞ…ハーロックッ!」
フリートのブレードは今まで見えていたハーロックの後ろの空間自体を突き刺したように途中から消えていた。そしてブレードの先端付近がハーロックの背中から突き出していた。
「ぐはっ―」
フリートはブレードを腕に戻し、ハーロックはその場に倒れ果てた。
一体何が起こった!?
俺にはさっぱり訳が分からない。しかしフリートは丸で納得したような顔をして、俺の方へ歩いてきた。
「ローラ…」
「ジャ…逝クネ…」
「ああ。確かに…ローラの仇は討ったよ…」
「ウン…」
俺の腕の中には丸で糸の切れたような魔導人形があった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ハーロックを討ってから一ヶ月が経った。俺はあの家で前と変わらず便利屋をしていた。
朝の日の光が窓から差し込み、コートを羽織った俺に当たっている。その時奥の屋根裏への扉が開いた。
実際、あの時から変わったことが二つある。一つは―
「フリート、早いのね…?」
「済まない、起こしたか?」
「いいえ、たまたま目が覚めただけよ」
変化その1・シエラと暮らすようになった。
あの戦いで俺は彼女に命を救われたと言っても過言じゃない。
ハーロックの剣が俺に突き刺さろうとする時、俺は彼女との約束を守りたいと、『生きたい』と思った。そしてあの言葉が聞こえたのだ。
ハーロックの剣は俺の胸ではなく、あのネックレスが変化した偽物の胸を貫いたのだ。俺の気が遠くなったのは単なる疲労からのものだったのだろう。
あのネックレスの石は一種の魔石だった。服の下に忍ばせていた彼女の願掛けが施されたネックレスの石はただ一度に限り、攻撃を当てたと錯覚させその身を護る魔術『偽物の止め』を発動したのである。
そして今俺の目の前にはブラウスを羽織っただけのシエラがトロンとした眠そうな目を擦って立っていた。艶のある毛並みとハリのある肌が余計に色気を漂わせている。
「そうか。それはそうともう少し何とかしろ、その格好…」
「まだ寝起きだしいいじゃない、それにまだ身体が火照っちゃってて…」
と今はそういう関係だ。
その次に変化その2。それは暗殺の依頼は断って、魔導人形破壊の依頼を主に受けるようになったこと。
奴の売りさばいた魔導人形は予想以上に多く、未だに数多くの盗賊、海賊などがそれを使っている。俺はせめて自分の技術が悪用されたなら、自分で何とかしなければならないと思っている。
あと何年掛かるか分からないが、全ての魔導人形は俺が潰す。もうこれ以上シエラのような想いをする者を増やさないために。
実はシエラはフィマーの村出身だった。だから彼女は詳しく事件のことを知っていたし、あの落石は不自然だったと言ったのだ。彼女はその事件で魔導人形の一体を目撃し、幸か不幸か彼女だけが生き残ってしまったのだ。
シエラはあの後そのことを俺に話し、「父と母の仇をとってくれてありがとう」そういって俺の胸で泣いた。その後の彼女は明るく、ワーキャットらしさが少し戻った。
ハーロックが死ななかった理由は超高等の空間魔術が発動していたからだった。その魔術は奴の身体と、その後ろの空間の場所を繋げるというもので、つまりは俺が奴の身体を斬ると俺のブレードは奴の身体の表面だけを傷つけ、刃は後ろの空間を斬っていた。血が出たのは体表僅か一センチの深さにも満たない所は斬れていたのだから当然である。
ローラは俺にその魔術の事を伝えてくれたのだ。俺は奴の身体を斬った瞬間に後ろの空間に俺のブレードが空中から出ているのを視た。そしてその魔術のことに気付き、後ろの空間を突いた。
この魔法は身体を斬れば後ろの空間へ攻撃を転送する変わりに、後ろの空間を斬ればその逆も起こる。
俺は奴が魔術の天才とも呼ばれたことを忘れていた。あの魔術は魔物でも限られたものにしかできない。
俺がドアを開けて外に出ようとするとシエラが俺の袖を掴んだ。
「今度はいつ帰るの?」
「明後日の昼ごろになると思う…寂しいのか?」
「そ、そんなことないわ…!別に寂しくなんか無いけど…………早く帰ってこないと浮気しちゃうから…」
「分かったよ…」
俺は彼女にキスをして家を出た。するとすぐにジェスターが声を掛けてきた。
「よう、相変わらず熱いねぇ…」
「見てたのか…」
「ああ」
俺とジェスターは山を越えたところの町へ向かって歩き出した。ジャスターはあの後ローラの墓へ参ってくれた。そしてそこで「最後に会えてよかったな…」と呟いていた。
「ところでジェスター…」
「なんだ?」
「後で飯おごれ」
「なんでっ!?」
「人の女の体見といてしらばっくれようなんて都合が良過ぎる」
「うっ…」
俺はいつかこの右腕をただの腕に戻したいと思っている。確かに魔導器具がなければ動かないが、俺はいつかこの剣を置く日を夢見ている。
ローラの形をした人形は拳を振りかぶった。
「………違う、違う…ローラは、三年前に死んだっ!」
フリートは彼女の攻撃を受け止め蹴り飛ばした。彼女は後方転回で体勢を立て直し前方に跳躍して回転蹴りを繰り出す。
フリートは攻撃を見切り反撃しようとした、だがハーロックの罠は確実に効果を見せた。フリートは明らかに躊躇した、頭では分かっていても今目の前にいるのは紛うこと無いローラなんだ。
だがローラは躊躇うことなくフリートを殴り飛ばした。
「ぐあっ―」
フリートは殴り飛ばされ床に転げた。
「オ兄チャンッ…!」
今俺は分かった。彼女にはまだ意識がある。微かかもしれない、はっきりとかもしれない、だが彼女は意識を持っていた。だからこそあんな悲しそうな声で叫んだ。
奴は、ハーロックは実験は成功したと言った。だがその実験の目的は『人を魔導人形に変える』事ではなく『人の体を魔導人形に変える』ことじゃないのか?だから彼女の意志は残っている。だが体は意志に反して攻撃し続けるんだろう。
「オ兄チャン…倒シテ…」
だとしたら、まだ12歳の少女にとってこれ以上に酷なことがあるのだろうか…愛する兄を体が勝手に殺そうとする。兄は妹に攻撃をすることが出来ない。
ローラはフリートに殴りかかった。ブレードで間一髪でガードしたが、ピンチに変わりはなかった。
銃声が響いてローラの腕がブレードから反れ、フリートは危機から脱した。俺はローラとフリートの間に立ちふさがった。俺は右手に自分の上半身ほどの長さをもつ『バンデッド』を持って彼女に向けていた。
「…ジェスター…」
「彼女は俺が殺る…お前じゃあ、絶対に倒せない。それどころかお前がやられるだろ?」
俺はハーロックとフリートの気に飲まれて何も出来なかった。だからここじゃ黙ってるわけにゃいかねぇのよ…
「すまない…」
フリートは奥へ逃げていったハーロックを追って消えた。
「さて、と…ローラちゃん、意識はあるのかい?」
「ハイ…少シ薄レテルケド…」
「俺はジェスター、フリートの友達だ…。ごめんな、今から君を倒すよ」
「…オ願イ…シマス」
俺はとてもやるせない気持ちになった。だがもし彼女がそれを望み、それ以外に方法がないのだとするなら、俺は二人のために出来ることをしたいと思った。
普段は女遊びばっかの俺にも、ちゃんとやるときはやらなきゃな…
彼女は俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。俺は左に跳んでかわし転がりながら彼女の腕に標準を定めて引き金を引いた。彼女は体の前で腕を交差し魔弾を防いだが、腕には銃弾の跡がはっきり残っている。それでも彼女の体は攻撃をやめない。
幸いなのは彼女が痛みを感じないということだった。それがあったからこそ俺は彼女と戦うことが出来る。
はっきり言って俺の魔力が底を突かない限り、『バンデッド』ももう一つの『イドラル』も弾切れになることはない。だが、俺はどうも魔力の扱いが下手らしい。だからマガジンに魔力を貯めて使っている。
俺のこの二つの銃は連射が命だったりする。つまり、マガジンにため込んだ魔力が尽きれば、この二丁はただのでかい魔導器具に変わりねぇ。
『バンデッド』の残りの魔力はあと10秒ぶっ通しでうち続けられる分だけ。『イドラル』は破壊力重視で精度は俺からすれば涙目だ。
(さぁ〜て、どうすっかな…動きも速いしガードも堅ぇ…)
彼女は俺に向かって走ってくるとかかと落としを決めようとして跳び上がって、左足を高く上げた。
(まずい…!)
俺は反射的に膝を折って膝から上を水平にして左腕で体を支え、照準は彼女の左足の関節へ。そして引き金を引いた。
二秒間で24発の魔弾が飛び出たはずだ。左足はもげ飛んで、俺は降りてきた彼女を蹴り飛ばした。
(まずは足一つ…!)
これならいけるかもしれない。そう思ったがそれはどうやら甘いみたいだ。彼女は片足で立ち上がり、俺がその足を狙って撃った魔弾を避けて左へ跳び、俺がその着地点へ銃を向けると今度は逆立ちのようになり、腕だけで跳び上がった。
(大体12発分無駄にしたか……足無くしたってのにあの動きありえねぇだろ…こうなりゃ…!)
俺は『イドラル』も取り出した。イドラルの持ち方は他のとは少し違っていて、グリップの後ろから銃自体を腕に固定するための部分があり、上下から前腕を挟み込む形になる。銃は腕と一体的な形になり、重たい銃身を動かし易くできる。
俺はバンデッドを彼女に向けて撃ちはなった彼女は天井をウンテイのように移動し、壁に跳ねて着地した。
(今だっ!)
俺はイドラルのグリップの親指の位置にあるレバーを押しながらトリガーを引いた。
直進するグレネードランチャーが彼女を捕らえ爆発が起こった。
(やったか…?)
爆煙の奥にはボロボロになった彼女の体が見えたが、まだ動けた。右腕は爆発を防いだ衝撃で前腕から先がない。
彼女は片足と片腕で、跳ぶようにして移動した。俺はバンデッドとイドラルのトリガーを引いた。魔弾が彼女の付近を襲い彼女にも当たっているが、先にバンデッドの魔力が切れ、もう少しと言うところで彼女は魔弾の雨から抜け出した。
(しまった―)
彼女は俺に突進し、左腕で俺を押さえ込んだ。
「ジェスター…ダメダヨ…」
「そうでもねぇさっ!」
俺はイドラルのトリガーを引いた。そして程なくイドラルの魔力も尽き、ローラの体には穴が空いていた。
「はぁ…はぁ…体は…まだ動きそうか?」
「…動カナソウ…ジェスター、オ兄チャンノ所ニ連レテ行ッテ…」
「どうしてだ?」
「伝エナキャナラナイ…事ガ…アルノ…意識モ薄レテキタカラ…急イデ…」
俺は訳も分からず銃を捨てて彼女の動かなくなった体を抱え、フリートの跡を追った。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
俺が奴に追いついたのは奥の扉から渓谷に出たところだった。太陽の光が俺と奴を照らす。
「ハーロックッ!」
「…どうだ…いい所だろう……ここをお前の墓にしてやるっ」
ハーロックは剣を構えて俺に向かってきた。俺もブレードを構えて奴に向かっていき、俺とハーロックは競り合った。
俺とハーロックは互いに相手を押し、時計回りに回転して相手の胴を狙う。そしてまた胴の前で剣と剣がぶつかり、今度は弾かれるように次の攻撃に移った。
互いに左上から剣を振り、また剣はぶつかる。そして俺もハーロックも相手の胴を蹴飛ばした。
また互いに離れ、構える。そして突きを放ち合い、剣はまた相手の剣に当たって弾かれ、体は相手に背を向けるように半身をとった。
俺は剣を戻してハーロックを斬ろうとした。そして俺の右目の橋に奴の剣が戻ってきたのが見えると、俺は肘を引きその剣を防ごうとする。奴も同じようにして防ごうとし、剣の先端同士がぶつかり自分の剣を引いた反動と相手の勢いで弾かれる。
俺とハーロックは互いに引かず、防ぎ防がれの攻防戦を展開していた。
しかし俺に勝機は見えた。次に奴の振り下ろした剣と俺の振り上げたブレードがぶつかり、ハーロックは一瞬の隙を作ったのだ。俺はそこを剣を返し一閃した。
「うぐっ―!」
奴は仰向けに倒れた。
「とうとう…殺ったぞ…」
俺がかったと思った時だった。
「誰をやったんだ?」
俺はその光景が信じられなかった。奴は傷を受けたにもかかわらず、まだ生きていて、あろう事か跳ね起きたのである。
そして傷はゆっくりと塞がりつつあった。奴は剣を振り下ろし、俺はブレードで防いだがその力はさっきまでのものより強くなっていたのである。そして俺は一歩後ろに下がり、のし掛かるように威圧するハーロックの剣を受け止めて左側へ流しその場を凌いだ。
「くっ…はっ…はぁ…どうなっている…?」
ハーロックはゆっくりと体勢を立て直し、俺の方を向いた。
「お前には俺を殺すことなど出来ない…!」
奴の攻めは収まるところを知らず、俺には疲労が色を見せ始めて防御することがやっとになっていた。
「見ろ、この力の差をっ…!…貴様は防ぐだけでふらついているだろう…そんな貴様に何が出来るというっ!何も出来んさっ!三年前のようにぃっ!」
俺はあの時の光景、あの時の感情を思い出した。体に力が沸き、憎しみが溢れた。
「おおぉぉぉっ!」
俺は感情の赴くままに剣を振り、僅かだったがハーロックを押し返した。怯んだハーロックにブレードを振り下ろしたが、この体では奴に届くような攻撃は出来るわけもなくあっさりと跳んでかわされてしまった。俺は次の一歩を踏み出し、ハーロックに迫ると左下からブレードを振り上げた。
「ちぃっ―!」
確かにハーロックに剣は届いていた。しかし奴は傷を受けながらも前進し俺に剣の切っ先を向けたのだ。奴がそれを出来たわけは斬っても死なないという強みがあったからだった。
「…っ!」
切っ先が俺の胸へと近づいて来る。俺はここで殺られるのか…?復讐を遂げられず、ローラの仇も討てないで…
(俺にはまだやらなければならない事がある…俺はまだ―)
剣が俺に突き刺さる。そして、俺の意識は遠のいた。その中で俺の耳にシエラの言葉が聞こえてきた…
(私の想いがあなたを護るから―)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
俺がそこに辿り着いた瞬間…俺とローラの目の前で、フリートが胸を貫かれた…
「フリートォッ―!」
俺は思わず叫んでいた。フリートは力無く仰向けに倒れ、その瞳は空を見つめている。
「大丈夫…マダ大丈夫ダヨ…」
「ローラ…何を言って―」
「オ兄チャンッ…ハーロックハソレジャ死ナナイヨ…!オ兄チャンナラ視エルカラッ!」
俺は彼女が何を言ってるのか分からなかった。ハーロックは何か特別な方法で攻撃する必要があるのか、それにしてもフリートはもう…
「俺なら視えるんだな―!?」
フリートはユラユラと起きあがり、油断して離れたハーロックを睨み付けた。…どういう事だ?確かに俺たちの目の前でハーロックがフリートの胸を貫いたはずなのに。ローラはこうなることを知っていたのか?
「フリート…どういう事だっ…胸を貫かれて果てぬ命など無い…!」
「教えてやる―」
フリートはハーロックに向かって行き、ブレードを振り下ろした。ハーロックの鮮血が飛び、ハーロックは後ろへと揺らいだ。
「俺は胸を貫かれてなどいないっ…!」
フリートはよろけたハーロックの後ろを目掛けてブレード突き出した。
「視えたぞ…ハーロックッ!」
フリートのブレードは今まで見えていたハーロックの後ろの空間自体を突き刺したように途中から消えていた。そしてブレードの先端付近がハーロックの背中から突き出していた。
「ぐはっ―」
フリートはブレードを腕に戻し、ハーロックはその場に倒れ果てた。
一体何が起こった!?
俺にはさっぱり訳が分からない。しかしフリートは丸で納得したような顔をして、俺の方へ歩いてきた。
「ローラ…」
「ジャ…逝クネ…」
「ああ。確かに…ローラの仇は討ったよ…」
「ウン…」
俺の腕の中には丸で糸の切れたような魔導人形があった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ハーロックを討ってから一ヶ月が経った。俺はあの家で前と変わらず便利屋をしていた。
朝の日の光が窓から差し込み、コートを羽織った俺に当たっている。その時奥の屋根裏への扉が開いた。
実際、あの時から変わったことが二つある。一つは―
「フリート、早いのね…?」
「済まない、起こしたか?」
「いいえ、たまたま目が覚めただけよ」
変化その1・シエラと暮らすようになった。
あの戦いで俺は彼女に命を救われたと言っても過言じゃない。
ハーロックの剣が俺に突き刺さろうとする時、俺は彼女との約束を守りたいと、『生きたい』と思った。そしてあの言葉が聞こえたのだ。
ハーロックの剣は俺の胸ではなく、あのネックレスが変化した偽物の胸を貫いたのだ。俺の気が遠くなったのは単なる疲労からのものだったのだろう。
あのネックレスの石は一種の魔石だった。服の下に忍ばせていた彼女の願掛けが施されたネックレスの石はただ一度に限り、攻撃を当てたと錯覚させその身を護る魔術『偽物の止め』を発動したのである。
そして今俺の目の前にはブラウスを羽織っただけのシエラがトロンとした眠そうな目を擦って立っていた。艶のある毛並みとハリのある肌が余計に色気を漂わせている。
「そうか。それはそうともう少し何とかしろ、その格好…」
「まだ寝起きだしいいじゃない、それにまだ身体が火照っちゃってて…」
と今はそういう関係だ。
その次に変化その2。それは暗殺の依頼は断って、魔導人形破壊の依頼を主に受けるようになったこと。
奴の売りさばいた魔導人形は予想以上に多く、未だに数多くの盗賊、海賊などがそれを使っている。俺はせめて自分の技術が悪用されたなら、自分で何とかしなければならないと思っている。
あと何年掛かるか分からないが、全ての魔導人形は俺が潰す。もうこれ以上シエラのような想いをする者を増やさないために。
実はシエラはフィマーの村出身だった。だから彼女は詳しく事件のことを知っていたし、あの落石は不自然だったと言ったのだ。彼女はその事件で魔導人形の一体を目撃し、幸か不幸か彼女だけが生き残ってしまったのだ。
シエラはあの後そのことを俺に話し、「父と母の仇をとってくれてありがとう」そういって俺の胸で泣いた。その後の彼女は明るく、ワーキャットらしさが少し戻った。
ハーロックが死ななかった理由は超高等の空間魔術が発動していたからだった。その魔術は奴の身体と、その後ろの空間の場所を繋げるというもので、つまりは俺が奴の身体を斬ると俺のブレードは奴の身体の表面だけを傷つけ、刃は後ろの空間を斬っていた。血が出たのは体表僅か一センチの深さにも満たない所は斬れていたのだから当然である。
ローラは俺にその魔術の事を伝えてくれたのだ。俺は奴の身体を斬った瞬間に後ろの空間に俺のブレードが空中から出ているのを視た。そしてその魔術のことに気付き、後ろの空間を突いた。
この魔法は身体を斬れば後ろの空間へ攻撃を転送する変わりに、後ろの空間を斬ればその逆も起こる。
俺は奴が魔術の天才とも呼ばれたことを忘れていた。あの魔術は魔物でも限られたものにしかできない。
俺がドアを開けて外に出ようとするとシエラが俺の袖を掴んだ。
「今度はいつ帰るの?」
「明後日の昼ごろになると思う…寂しいのか?」
「そ、そんなことないわ…!別に寂しくなんか無いけど…………早く帰ってこないと浮気しちゃうから…」
「分かったよ…」
俺は彼女にキスをして家を出た。するとすぐにジェスターが声を掛けてきた。
「よう、相変わらず熱いねぇ…」
「見てたのか…」
「ああ」
俺とジェスターは山を越えたところの町へ向かって歩き出した。ジャスターはあの後ローラの墓へ参ってくれた。そしてそこで「最後に会えてよかったな…」と呟いていた。
「ところでジェスター…」
「なんだ?」
「後で飯おごれ」
「なんでっ!?」
「人の女の体見といてしらばっくれようなんて都合が良過ぎる」
「うっ…」
俺はいつかこの右腕をただの腕に戻したいと思っている。確かに魔導器具がなければ動かないが、俺はいつかこの剣を置く日を夢見ている。
10/01/28 17:47更新 / アバロン
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