連載小説
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貴様だけは―
 俺は椅子に座ってジェスターの話を聞くことにした。やっと…やっとだ、ようやく奴に、ハーロックに…

「さてと…まずぁ、依頼の内容だな?」

 ジェスターはサングラスを外して胸のポケットに刺した。

「今回の依頼者は、なんとまぁあの領主様ときた。理由は裏市場で今まで数百もの『戦闘型魔導人形』を売りさばいて、盗賊等の戦力拡大の片棒を担いだことだ。
 んで、今回は他の同業者にも仕事を依頼してる。そいつらの食いつきがいいのなんのって…」

「なぜだ?」

「理由か?そいつぁな…なんと賞金がこんだけも出るんだよっ!」

 ジェスターは両手の指を開いて見せ、その顔はいかにも嬉しそうだ。

「それは結構なもんだな…で、仕事はいつだ…?」

「明日の正午、フィマーって村だった所に集合だ」

「だった、ってのは…?」

「…村が潰れたのよ」

 シエラがそう言った。そして窓の方に歩いていき、空を見上げた。なぜかその背中は寂しそうだった。

「…去年の夏…だったわ。落石の大群が村を襲ったのよ…」

「落石…?災害か…」

「ええ、表向きはね…」

 シエラはそういいながら振り向いた。そして腕を組んで壁にもたれかかり続きを話し出した。

「落石は確かに起こることはあったわよ…何せ、山の麓の村だったからね。けど、その落石の後は明らかに不自然だったし、そこで長年暮らしてきた村の人達が異常に気付かないわけがないわ。
 それにね、落石の後に混じって付いてたのよ…大きな『足跡』がね…」

「足跡?」

 不自然な落石に大きな足跡、それはどういう事なのか。だが、それよりもシエラがなぜそれを知っていて、そこまで詳しいだろう。もしかすると彼女は…

「よく知ってるな、シエラ。ま、彼女の言うとおりだ。そして世間ではある一説が囁かれてんだよ…『ハーロックが人形の実践演習で村を襲ったんじゃないか』ってな…」

「…あいつならやりかねないな…」

「とりあえず、明日の早朝にその村まで行く。出発は今日の22時だ」

「分かった」

 ジェスターはサングラスを掛けて出ていった。俺は壁に寄り掛かったままのシエラに自分の推測を離すことにした。

「どうしてお前があんな事知ってるんだ?」

「あんな事って…?」

 彼女は顔を背けてソファーに座った。

「フィマーっていう村のことだよ…」

「…噂で聞いたのよ。ほら、彼も言ってたでしょ?『巷ではその一説が囁かれてる』って。それだけよ…」

 俺はなぜだかそれ以上を訊く気にはなれなかった。いや、訊いてはいけないと思ったのだ。

「…そうか」

 俺はそれだけ言ってベッドの横のディスクの引き出しを引き抜くと丸テーブルに運び、カルロ−2Aを取り出し、メンテと調整を始めた。

 俺のカルロは他の魔導小銃と違い、銃口の中に魔法陣が浮き出る。その上、マガジン型の魔具に魔力を貯めておけばその魔力を使用して撃てるというものだ。それだけに魔導器具の仕組みは複雑で、繊細だった。

 銃のメンテナンスを終了させると、俺は右腕のメンテナンスを始める。魔術によって魔導器具のみを取り出し、左手だけで分解、調整、組み立てをこなすのだ。幸いなのは利き腕が左だったと言うこと。

 俺は再び魔導器具を腕に戻し、指を動かし、手首を回し、ブレードへ変換し、また戻す。これが動作確認の一連の流れだ。ちゃんと感覚もあるし、問題は無いようだ。

 シエラはその様子を静かに見ていたが、立ち上がると俺の方まで歩いてきて俺の首に何かを掛けた。少し重い感覚があった、それはシエラの母の形見だった。

「…これ、付けていって」

「いいのか?」

「ええ。私の想いが…あなたを護るから…」

 彼女は俺の両肩に手を掛け、キスをした。


 その次の日、太陽が頭の上に輝く頃に俺とジェスターはあのフィマーという村…の跡に着いた。
 壊れた家々、地面に埋もれた岩と折れた木々はその悲惨さを物語り、よく見れば家には血痕が飛んでいた。
 村の広場らしきところに大体40人の同業者が集まっていた。どの顔も少しは名の売れた奴らだ。大剣や、大斧、ライフルやバズーカ、様々な武器を持っている。
 俺もこの右腕とカルロの他に色々と持ってきた。その中で目立つのは比較的新型の『魔導式ライフル』だ。威力と命中精度は一級品だ。

 ジェスターは基本的に銃を愛用する。そして恐らく今彼は全身に魔力マガジンと少なくても4つ以上の銃を携帯しているに違いない。しかし本命の銃はその内の二丁、『バンデッド』と『インドラ』。
 バンデッドは魔導式機関銃だ。連射速度は一秒間に12発の魔弾を発射し、単発にすれば、高精度のライフルにもなる。インドラは超高威力の二連装魔導式砲、銃口が縦に並んでいて上部は魔弾使用の機関銃、精度はバンデッドには劣り、破壊力重視。下部は実弾使用のランチャーになっている。
 俺とジェスターは共に盗賊や魔物退治の依頼をこなすことがある。彼の腕は確かなものだ。

 そうこうしているうちに、領主の使いがやってきて行動の開始を告げた。
 依頼はハーロックの捕縛、もしくは抹殺。奴は屋敷の奥の部屋。屋敷周辺には大量の魔導人形が配置されている模様だ。

「腕が鳴るぜ…!」

「ハーロックは俺がもらうぜ?」

「冗談、ハーロックを殺るのは私よ」

 つまらない小競り合いだ。俺はこんなところで愚図ついている気は一切なかった、俺は走り出した。

「おい小僧、抜け駆けする気か!?」

「…俺には奴を殺さなければならない理由がある…」

「ぼうや、あんまり調子に乗らないで。あなたも一緒にやっちゃうわよ?」

 所詮そう言う奴らか…。俺は立ち止まって後ろを振り向いた。

「構わない…邪魔をするなら…」

 後ろから地響きが鳴り、巨大な何かが飛び出してきた。俺は振り向きながら右腕をブレード化しそれを斬り裂いた。
 倒れたそれに足をかけ、首へとブレードを突き刺した。

「―邪魔する奴は…全て裂くっ!」

 俺は右腕を元に戻し、ライフルを構えて標準を定めた。俺の…俺たちの目の前にはもう魔導人形の一個小隊が立ちはだかっていた。

       −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 どうも、ジェスターです。ここからは俺始点で物語を進めるんで、よろしくどうぞ。

 今俺たちの目の前には11体の魔導人形が臨戦態勢で立っている。今フリートが一体片づけたが、あいつだけにいいとこは持って行かれたくはない。

「さぁて、おっぱじめっかっ!」

 俺は懐から二丁のリボルバーを取り出し目の前の人形にぶっ放した。銃声が連続して上がり、銃弾は人形に命中した。弾はキンッキンッキンッ―と音を立てて弾かれた。

「あっらら〜、全然効いてないってか…」

 結構な威力のハズなんだけどねぇ…、傷がちょっと入っただけってまいっちゃうよな。

「うわっ―!」

「ぎゃっ!」

「きゃあっ!」

 他のみんなも吹っ飛ばされてるよ、あの剣や銃は厄介だね。っていう間に銃を持った奴が俺に銃口を向けてるし…

「おわっ!」

 銃弾を俺は木や壁の影に隠れて避けた。

「ジェスター、関節か目を狙えっ!」

「フリートッ、そう言うのは早く言えっての!」

 俺は目みたいな穴目掛けて銃弾を四発撃った。銃弾は中心の目に連続して当たる。一発目が穴の入り口にはまり、二発目三発目がその弾のケツを押す。四発目で穴を押し広げたのか、弾が削れて縮んだのか、弾は貫通して人形は仰向けにひっくり返った。

 それを見て他の奴らも関節に目標を定めて攻撃していった。それでもフリートみたいにはいかねぇけどな。だが、一分も経たない間に残り十体の人形は駆逐された。俺たちは急いているフリートを筆頭に山道を進みハーロックの潜む屋敷へ辿り着こうとしていた。

 俺は気配を感じて銃を抜きながら振り返り、気の上に向かって発砲した。木の上から何かが落ちてきたと思ったら、それは俺たちと同じくらいの大きさの魔導人形。俺は一発を頭に撃ち込んで停止させたが、周りは既に奴らに囲まれているみたいだ。

「囲まれてるな…」

「さっきのよりは弱そうだが、こうも数が多いと骨が折れるぞ…」

 俺はもう一丁の銃も抜いた。

「ったく、ここで時間食うわけにゃいかねぇんだけどな…」

「そう、俺は奴の元に辿り着かなければ…」

「で、どうすんのよ?」

「押し通る…俺の目的はハーロックだけだっ…!」

「わかったよ、ぴったり着いてこいっ!」

 俺とフリートは銃を構えると屋敷の扉までの人形を一掃しにかかった。銃声がけたたましく鳴り響き、人形達は次から次へと倒れてゆく。数が少なくなったところで俺とフリートは駆け抜け扉の前まで辿り着いた。しかし後ろからは人形達が襲ってきている。俺は弾の切れた銃を放り捨て、今度は懐から機関銃を取り出し後ろに向かって乱射した。俺とフリートはゆっくりと中に入り扉を閉めた。

「あ〜あ、これじゃ弾の無駄使いだな…」

「ああ、だがもうすぐだ…もうすぐっ!」

 フリートは充填した魔力の切れたライフルを投げ捨て、正面の扉へ向かって走り出し、扉を蹴破って止まった。俺もその跡をすぐに追った。

「………」

「あいつは…」

「…生きていたのかぁ、フリート=ヴァンレッタ…。驚いたよ」

「ハ…ハァーロック=イルミルダァァッ!見つけたっ、遂に見つけたぁっ―」

 フリートは憎しみを表情に滲み出させ、その声を荒げた。フリートはカルロを抜くとハーロックに向かって乱射した。しかし、魔弾はハーロック寸前で魔術に寄ってかき消された。
 多分フリートは銃は効かないと判断したのかもしれない。気付けば拳を握って走り出していた。
 ハーロックはフリートの拳を受け止め、次のアッパーもかわした。フリートは間隔を詰め、跳びながら右足で回し蹴りをしようとしていた。ハーロックは腕でその蹴りを受け止めたが、蹴りの強さによろけて下がった。フリートは完全に冷静さを欠いていたが、怒りはやはり恐怖を呼んだ。

「…変わったな、フリート。強くなった、あのころとは別人だよ…」

「貴様を殺すためだけに俺はっ―!」

 フリートは右手を天に向け、ブレードに変えて虚空を薙ぐように右側へ向けた。ハーロックを彼の右腕を見て少し驚いたようだったが、すぐに目を細め歩き出した。

「その右腕…切り落としたはずじゃなかったか?」

「一度は切り落とされ掛けたよっ…だがお前への憎しみが俺の腕を剣に変えて繋ぎ止めたっ!」

 フリートはブレードを振り上げて走り出し、ハーロックは剣を抜いて振り下ろされたブレードを防いだ。

「ハーロック…よくもローラを…あいつはまだ12歳だったんだぞぉ!」

 フリートは体を反時計に回転させながら体勢を低くしてハーロックの足を狙った。

「ええいっ―」

 奴は後ろに飛び退いて反撃に出ようとするが確実にフリートの方が速く、突き出した剣をブレードで軽くあしらわれ、フリートが奴の右側に侵入し繰り出した膝蹴りを腹に食らって蹲った。

「らあぁぁっ!」

 フリートはブレードを振り上げ自分の目の前に蹲るハーロックに目掛けて振り下ろした。だがハーロックはわざと転がるように仰向けに倒れ、剣でブレードを防ぎフリートを蹴った払い除け、跳ね起きるとフリートを睨みながら後ろへと下がった。

「くっ…ここまでやるようになったとは……苦労したようだな、その褒美だ…フッフフフフ……貴様に感動の再会を味あわせてやるっ」

 ハーロックはそう言って何かに掛かっている布を取っ払った。俺は当然それを見て驚いたが、それよりも遙かに大きなショックを受けたのはフリートなのは間違いない。

「オ…ニイ…チャン…」

「ロー、ラ…!?」

「オ兄チャン…」

「ローラァァァッ!」

 そう、それは紛れもなく彼の妹。三年前にハーロックによって命を奪われたはずのローラだった。だが人としてではなく、魔導人形としてそこにいた。

 フリートの頬を怒りと哀しみの混じった色の涙が流れていた。

「ハーロックッ、どういう事だぁっ!」

「実験は成功したよ…」

「実験…?」

「そうだ、彼女の体を元にして魔導人形を組み上げ、彼女はいま他の魔導人形とは比べものにならないものになったっ!」

 ローラの形をした魔導人形が動き出した。攻撃をするに違いなかった。

「ハァーロックッ、貴様だけは―!」

10/01/27 17:44更新 / アバロン
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■作者メッセージ
次で終わらせます。
基本バトル要素ばっかりでつまらなかったらごめんなさい

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