勇者として、人間として、 BACK NEXT

第十話



焔の背中に乗って移動する。焔はすでにドラゴンの真の姿━━焔は人間とドラゴンが混ざった姿の方が本来の姿だっていってるけど━━になって、リンリレスと俺を乗せている。

「こっちであってるんだな!?」

「ええ!」

今は陽も落ちた夜。幸い雨は止んでいるが、まだ空には曇天が重くのしかかっていた。

俺は少しでも早く村に着くよう焔に急がせた。







「あそこです!!」

リンリレスの指差した場所は暗くてよく見えなかったが、焔には魔力的なもの(俺は感知できないからよくわからん)が感知できたらしく、一直線に向かってくれた。

突然舞い降りてきたドラゴンに驚いた村人に挨拶するべく、俺とリンリレスは焔の背中から降りた。

「不肖リンリレス!ただ今戻りました!」

「おお、リンリレス。よく戻ってきてくれた」

リンリレスと握手を交わす初老の老人を見ながら焔を人間態に戻してぐるっと周りを見渡す。

この村はほとんどログハウスで構成され、人とエルフが共存しているように見えた。ただ、俺みたいな人間は珍しいみたいで、全員がじろじろと品定めするように見ていた。

まったく気分悪い。

俺の紹介を終えたんだろうリンリレスがさっき握手していた村長らしき人を連れて俺の傍にやってきた。

「康介、こちらが私の父である村長のアンサーよ」

「初めまして、リンディートゥル村の村長、アンサーです」

「依頼を受けた康介です。こっちは相棒のドラゴン、焔です。まずは村の状況を教えていただきたいんですが…」

「では私の家でお話しいたします。ついてきてください」

村長宅は他の家と同じようにログハウス風だった。

リンリレスがお茶を入れて俺たちに出してくれた。

それを一口飲んでから村長が話し始めた。

「今回は依頼を受けていただきありがとうございます」

「いえ、これが仕事ですから。それで現在の状況を教えてもらえますか?」

「はい。いま私たちの村に盗賊が迫ってきていることはリンリレスから聞いていると思います。貴方に依頼したいのは村の防衛と盗賊をできるだけ捕えてほしいのです」

「村の防衛だけでは不十分なのですか?」

「…」

俺がそう尋ねると村長は苦い顔をした。

「…盗賊を野放しにしておいてしまったら、いつ再び村が襲われるかが分からないのです」

「…なるほど、将来を見据えてですか…それはいいのですが、自警団みたいなものはないのですか?」

「今、私たちの村は村規模で引っ越しをしている最中でして、そちらの方に人員を割いているので、数十人程度しかいないのです」

「その人たちは今?」

「村の周囲を警戒しています」

「それでその引っ越しはどれくらいで終わりそうなんですか?」

「あと二日…といったところです」

「…なるほど…では、あなた方は作業を進めていてください。それから自警団のリーダーはどこにいますか?」

「すぐに呼びましょう」

村長がそばにいるリンリレスに言って自警団の団長を呼んでこさせた。

団長は俺よりも少し年上の男性だった。

「自分が団長です」

「どうも、康介です。それで話なんですが…」

まず、確認できるだけの盗賊の数、それから自警団の人数…。

諸々の情報を得てから整理すると、まず盗賊の数は百数人、対してこちらは二十二人…この戦力差を埋めるための二人が俺と焔だ。

「幸いにして、盗賊たちの出方は分かっています。一気に突撃して村を蹂躙するつもりのようです」

「それも全部占いですか?」

どうも疑っちまうんだよな…そこは占いを信じない現代人だから仕方ないとして…。

「ええ。れっきとした占いです」

「それから、助けを呼びにいかせたのはリンリレスだけなのですか?」

「行かせはしました。ただ…」

団長はわかるだろ?といった風にため息をついて苦笑した。まぁリンリレスがあれだったから想像に難くはないな。

「なるほど、わかりました。では自分は外に出て警戒してきます。盗賊が来た場合は警鐘を鳴らすんですか?」

「ええ。その手はずになっています」

「わかりました」

さて行くか。

俺が外に出ると、焔に続いて団長と何故かリンリレスまで出てきた。

何しに来たんだ?

リンリレスと団長は何か話しているようで、ふと気になって耳を澄ませてみた。

(なぜ出てきたんです?あなたは村長宅で待機しているべきです)

(嫌よ。大体私が一番弓がうまいのは知ってるでしょ?戦わせて)

(わがままを言わないでください。これは戦いです、無暗に重要な人を前線に赴かせるわけには…)

ん〜あのわがまま娘は全く…。

「おい、じゃじゃ馬娘、邪魔だから部屋にすっこんでろ」

「な、なんですって!?」

「あの…ちょっと」

団長が俺に何か言いたそうだったが今は無視だ。

「いいか?お前みたいなやつを前線に置くと勝手な判断をされるわ陣形が乱れるわでこっちにも被害が出かねん。だいたい、弓がうまいからって人が撃てるのか?」

「!」

俺がそういうとリンリレスは驚いた表情をした。やっぱり考えて無かったか…。

「俺はまだ実戦経験があるし、焔だっている。それに俺は傷つかない矢を撃つことだってできる。だからお前は戻っていてくれ」

そういうと渋々と言って風にリンリレスは村長宅に戻っていった。

「はぁ…ありがとう、助かりました」

「いえ、こちらとしても好き勝手に動かれるのは嫌だったんですよ」

そんな風に話していると、ついに来るべき時が来てしまった

突然、村に響き渡った鐘の音とそれから一拍遅れて騒ぎ始めた村内、とうとう盗賊が来たんだと俺は感じた

「こっちです!」

団長が俺と焔を誘導するように村の一画に案内した。

そこには木の盾や弓で防御を固めた村の男性達が集まっていた。

「団長!盗賊たちが現れました!」

目の前には手に松明を持った盗賊たちが迫っていた。

「早いな…冒険者様も準備してください!」

「了解!焔!」

「うむ!」

焔の体が一瞬炎に包まれ、次の瞬間には巨大なドラゴンの姿に変わっていた。

[グルォォォォォォ!!]

焔が雄叫びをあげ、俺がその頭に乗った。

「ひぃぃぃぃぃぃ」

「ど、ドラゴンがいるなんて聞いてねぇぞ!?」

焔がいるせいか、完全に戦意喪失している盗賊たちは逃げ出そうとしていた。

「撃て」

だが、それより前に団長が冷徹にその言葉を発していた。

次々と放たれる矢は盗賊たちに殺到し、凄惨な血の匂いが…しなかった。

あれ?

「心配しなくてもいいですよ。私達は人を殺すつもりはありません」

「そうなの?」

俺が疑問に思っていたことを言ってくれて助かる。

どうやら彼らは昔こそ自分たちを守るために殺しも何度かやっていたようだが、今では全くしなくなったらしい。

とはいっても人間や魔物相手というだけで、家畜を殺したりはするらしい。

そんなことを聞きながら俺も弓矢で応戦する、勿論非殺傷のスタンアローだ


焔の姿を見た時から浮き足立っていた盗賊達との戦闘はすぐに終わった。

「よし、こいつらの捕縛も終わったから、あんたたちは逃げたやつがいないか探してきてくれ」

「わかった!」

縄で盗賊を縛っている自警団の団員に言われて、俺と焔は森に向かった。

一応松明を借りて森の中を進むが、どうも暗く、雨が降っていたせいもあってジメジメしていた。

「…暗いな…」

「そうだな…しかして油断してはならないぞ?こちらからは見えにくくとも、あちらからは丸見えなのだからな」

確かに暗闇でこの松明は目立つな…。

「だとしても、俺は明かりがないと見えないし…」

「むむむ…とにかく気を付けた方がよい」

「ああ」

そんな話をしていると、焔の目が細くなった。

「どうした?」

「…いるな。それも、賊のような輩よりももっと危険な奴だ」

お互いに背を向け、周囲を警戒する。

ざわつく草の音、擦れる葉、その全てに敵が潜んでいるように思えた。

「上だ!」

焔が叫ぶと同時に俺も気づき、その姿をとらえた。

振ってきた数は二つ、そのうち、俺は一つを回避し、もう一つを焔がとらえた。

「貴様ら!何者だ!?山賊ではないな!?」

瞳孔が狭まり、威嚇している焔の姿は怖かったが、それよりも俺は動いている影を目で追った。

「…?」

だが、追えば追うほど、俺は彼らが敵とは思えなくなった。

「焔、離してやれ。多分敵じゃない」

「む?」

焔も気づいたのだろう、襲ってきた影はどちらも耳が顔の横ではなく、上についていたのだ。

「ん?おぬしらワーウルフか?」

「痛い痛い!早く手を放して!」

「おお、すまぬ」

二人のワーウルフは俺達を警戒しながらも、判断に困っているようだった。

「ん〜なぁ、お前らは何してたんだ?」

「ん?アタシらか?アタシらはここにあるエルフを襲いに来た賊を捕まえに来ただけだ」

「ちょっと!何話してるのよ!?」

「いやでも…」

「あのさ…差支えなければでいいんだけど…」

俺が話を続けようとした瞬間、彼女たちの後ろから二人組が走ってきた。

「こら!何かあったら報告しろといっていただろ」

着いてすぐに口を開いた方は男だ。年齢は俺より少し年上かな?

もう一人は多分ワーウルフなんだろう、フードをかぶっているが、ちょうど耳の部分が膨らんでいる。

「すみません…」「面目ないです…」

「まったく…ああ、あんたたちはなんだ?山賊か?エルフの仲間か?」

「ああ、俺たちは」

「こいつらエルフの村の方からやってきたんです」

「ほう…ということは少なくとも敵ではないな。冒険者か?」

「まぁそうだけど…」

「なら、ちょうどいい。エルフの村へ案内してくれ」

「ああ」











俺達が村に帰ってからすぐに次々と捕えられた盗賊が連れてこられた。

そして、俺と出会った男は傭兵部隊『ハウンズ』の副指令の高橋龍夜だと名乗った。

「ハウンズ?」

「ああ。俺の家内が指令なんだが…まぁ小さい傭兵部隊さ」

小さいかどうかはいいとして、この龍夜という男、かなり鍛えられている。

多分、俺みたいに力を与えられたわけではないんだろう。

「さて、こいつらはどうしますか?村長」

そのハウンズの指令と名乗るワーウルフのアルファさんが村長に尋ねた。

彼らの部隊で盗賊の処罰を与えることができるらしいが、なにぶん数が多いため、全員を連れて行くことができないらしい。

「うむ…如何いたしましょうか…」

「『コアトルス帝国』に頼るしかないだろう」

『コアトルス帝国』…たしかニルナリナさんがいるところだっけ?

そういや…俺基本的にあの村から別の土地に行ったことないな…。

行ってみたいな…。

「そうじゃの…やはり頼るしかないか…須藤さん」

「はい」

「すまんが護送任務を継続で受けてはくれまいか?」

「我々からも頼む。こちらも護送しなければならないのでね」

護送か…やったことないけど…。

「その帝国まではどれくらいかかるのですか?」

「途中、休まなければ半日もあればつけるはずだ」

まぁそれくらいならいいか。

「わかりました。ただ、一人では不安なので人員を貸してもらいたいのですが…」

「わかりました。リンリレス」

「え?私?」

「うむ、私としても心もとないが…他の者は疲れているのでな。頼めるか?」

「…わかったわ」

ほう…こいつと一緒か。

「じゃあ、明日の朝にでます」

「む、そんなに早く出るのか?」

「彼の判断は妥当だと思いますよ」

「そうか…では、よろしくお願いいたします」

「わかりました」

ん〜さぁて、もう一仕事だ。







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今日の日記:須藤 康介





盗賊の襲撃を防げたことは喜ばしい。だが、己が感じたのはなんだったのか。

恐怖?それが一番合っていると思う。

だが、自分で認めたくなかった。

…認めるわけにはいかない。

もし認めてしまえば…

そこから来る不安に押しつぶされるだろう。

自分のことを見つめなおしながら今日は筆を止めることにしよう。




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15/03/15 00:31 up
どうもお久しぶりです。

ずっとほったらかしにしていましたが、週1のペースで書けるようにしていこうと思います。

今回は わたるさん よりキャラクターを提供いただきました。

『アルファ』『高橋龍夜』の二人です。

提供していただいた順番に出せなくて申し訳ありませんが、提供していただいたキャラは絶対に出すので気長にお待ちください。

では。
kieto
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