傲慢なエルフを更正させたい BACK NEXT

第九話





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その女性はまだ陽の上っていない明け方に現れた。

粉塵が舞う街路をフードをかぶり、顔が見えないようにしながらギルドに向けて冒険者ギルドに現れた。

そして、その扉を勢いよく開け放ち、叫んだ。

「誰か依頼を受けるやつはいないか?」

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三日間外に出れなかった…。なんでかって?その間ずっとナニをとは言わないけど搾り取られてたからだよ!言わせんな恥ずかしい。

久しぶりにギルドに向かったら、入口に変な奴がいた。

見た目は女性、つってもフードで顔が見えないけど、背は155cmくらい、胸は…普通だ、そう、横から見えるくらいの膨らみはある。

「…我の胸を見ながらどうした?」

「ん?なんでもないぞ」

「そうか」

う〜ん、比較対象が隣の爆乳だからな…というかいつも一人だからうっかりしてた。

「それにしてもおぬしはすごい絶倫だったな。我がいくら搾り取ってもついぞ搾り切れなかったとは」

「そうだな。はっははははははははは」

なんて笑っちゃあいるが、正直いって俺はどれだけこの体がいじられているかと思うとぞっとするけどな…。

さて、問題はギルドの前で張っている奴だ。誰かを待っているのかは知らないけど、そのフードだけはいただけないと思ったね。まるで人相が分からない。

面倒だしそのまま中に入ろうとしたらそいつに肩を掴まれた。

「なんだよ?」

「おい、お前。依頼を受けろ」

「は?」

おいおい、命令系とは恐れ入ったよ。まったく非常識も甚だしい。

「それが誰かに依頼を頼む態度か?せめてフードを取ってから依頼の話をしろ。失礼だぞ?」

「ふん、我ら高潔なエルフの民が貴様らごとき下賤な人間に頭を下げねばならんのだ?」

「ほう…貴様、我が主を愚弄するか?小娘」

おい、焔、火が出てる口から洩れてるし尻尾も出てる!

「焔落ち着け!色々出すぎだ!」

「む、すまない」

あぶねぇ…でも焔の怒りが伝わったのか、俺が言ったことを最小限やってくれるみたいで、ひとまずギルドの中に入った。

ただ、入った瞬間何人かが俺たちのことを信じられないといった風に見ていたけど…こいつの性格からして多分来たやつにドンドンアタックしていったんだろうな…。

「で?受けるのか?受けないのか?」

席に座った途端これだよ。まったく…。

「まずは自己紹介位させてくれよ。誰がやるのかもわからないまま依頼を遂行させるつもりか?」

「む」

「はぁまったく常識がなっちゃいないな…俺は須藤康介、ご覧の通り人間だ。こっちは焔、俺のお付の…黙っててくれよ?ドラゴンだ」

「ああ、あの威圧感はドラゴン以外にはありえないだろうな」

エルフ少女がそういうと焔は若干嬉しそうにした。頼むから尻尾出さないでくれよ?

「で、依頼主さんの名前は?」

「リンディートゥル村の村長の娘、リンリレスだ」

リンリレスか…っていうか村長の娘とか、ちゃんと教育してるのかよ?

「じゃあ短い間になるだろうがよろしく頼むぜ」

俺が握手しようと右手を伸ばしたら無視された。まったく…この種族はみんなこうなのか?

しかたない、依頼の話に移ろう

「で、依頼は?」

「ああ、私たちの村に三日後、盗賊の群れが現れるという予言があったんだ」

「…へぇ…」

予言ねぇ…俺らの時代じゃ大体はパチモンだけど、この世界なら当たる方が多いんだろうな。

「で、その盗賊を追い払ってほしいのか?」

「そういうことだ」

「…規模はどれくらいだ?」

「ざっと100、そんなに多くはないだろう?」

は?おいおい、こっちは二人だぞ?まぁ焔が本気を出せば大半は逃げるだろうけど。

「そっちから人員は来るのか?」

「来るはずがないだろう?私たちは村を移動させるために作業をしている最中だと思うからな」

「…おい、たった二人に任せるつもりか?」

「問題ないだろう?」

…こいつは本気で言ってるのか?100人を相手にたった二人だぞ?

「まさかとは思うが、この話を何人くらいにした?」

「ここにいるほぼ全員だ」

ああ、さっきの視線はそれか…そりゃこんな意味の分からん依頼ならみんなやめるわ。

「…報酬は?」

「我らエルフの民が作った特殊なペンダントと金貨5枚だ」

…こいつらは…。

「そんなもんでこの依頼を受けれるわけがないだろ!」

思わずテーブルを叩きつけた俺に二人がビビッているのを気にも留めず、俺は話を進めた。

「なんで一個中隊クラスの盗賊を相手にたった二人で戦わねぇといけねえんだ!?俺の感覚がおかしいのか!?そっちみたいに俺は身体的優位性もねぇんだぞ?なのにそんな数を相手にするとかバッカじゃねぇのか!?」

ハァハァ…む、二人が引いてるな…いかんいかん。

「…つまりはだ、この人数を相手にするんだったら報酬を増やすか、ほかにも人を呼んでくれ」

「ふ、ふん。お前たちに頼まなくてもまだ人はいる。そっちに依頼する」

「あっそ。言っとくが、多分無理だぜ。もしも誰も受けなかったらもう一回俺たちのところに来い。説得に成功すれば依頼を受けてやらないこともないぜ?ただし、三日だ。それ以上は待てない」

「…」

リンリレスはそのままギルド内の人に声をかけに行ったようだ。

さて、俺達も仕事をするか。

俺と焔用の依頼を受けてから森に移動する間に焔が質問してきた。

「おぬし、本当にあれでよいのか?」

「ああ。あいつも馬鹿じゃないだろうし、立場くらいわきまえてるだろうよ」

だが、予想以上に馬鹿だったらしく、二日間は似たような話を冒険者でない奴にもしていたらしい。

っていうか、普通の主婦にその手の話をするとかホントに頭が飾りなんじゃないかと思うくらいだったわ。

ちなみに全部井戸端会議で小耳にはさんだものだ。情報収集は基本だしな。

その間俺は依頼をこなしながらある準備をしていた。

そして約束の日、その日は朝から天気が悪かった。

「今日雨降るかな…」

「ああ。多分夕方ぐらいから降るだろうな」

そんなこともわかるのかこいつは…ドラゴンってすごいな…。

それを口に出したらハニカミながら頭を掻いた、可愛い。

なんとなく口で焔の唇を塞ぎ、そのまま突入しようかと思ったら宿のおばちゃんが扉を叩いた。

俺に会いたい人がいるらしい。

ふてくされる焔をなだめ、俺は一人下に降りた。

そこにいたのはリンリレスだった。

「で、答えは見つかったのか?」

「ふん。貴様に言うことは一つだ。盗賊を倒せ」

「断る」

「っ…私が頭を下げろというのか!?」

わかってんじゃねぇか。大体、人にものを頼むときの口調とか教わってないのか?と問いたいくらいに酷い。

まったく…よくこんな娘に育ったもんだよ。

「はぁ…このままじゃ明日にはお前の村はないかもな」

「っ!貴様!」

煽ったら多分抜くだろうとも思って盾をすぐに展開できるようにしておいてよかった。

レイピアを盾で受け止め、銅の剣をリンリレスに向けた。

「…出てけ。頭を冷やして来い。お前が今するべきことは何か…それくらいわかるだろ?」

ワナワナ怒っているのは肩の震えから分かった。人間にここまでコケにされたのは初めてだろう。あの言動からしてプライドは相当高いはずだ。

でもな、今はそんなプライドに構ってる暇はないんじゃないのか?

去っていくリンリレスの背中を見ながら俺はそう思った。

「さてと…おばちゃん」

「…あ、ああ。なんだい?」

「この辺りでさ、『エルフの村』ってあるのか?」

「あるさ、あの娘が証拠。エルフなんて気難しい生き物でねぇ…あんたがいつも行ってる森の奥にあるんだ。見つけにくいと思うけど、夜になれば火の光が少し見えて昼よりも見つけやすいと思うよ」

「サンキューおばちゃん」

よし、情報も欲しいものは揃った。あとは…時間か…。





一回だけという制約で焔と交わってから、俺たちは準備を始めた。

そのうち昼近くなって余計に雲行きが怪しくなり、準備が終わって夕方になるころにはもう降り始めていた。

「主、本当にいいのか?」

「ああ。俺は後悔していない」

さて…そろそろ腹ごしらえしていくか。

この時期は日が沈むのが早いらしく、すぐに辺りは闇に閉ざされた。

腹八分目に抑え、いざ出発。といったときに、宿の目の前にリンリレスが立っていた。

「何の用だ?これから出かけるんだが」

手短に。俺はそう突き放すように言った。

びしょ濡れのリンリレスは数時間ずっと立っていたようで、衣服には均等な皺ができていた。

「…ってる…」

「ん?」

「私だって自分が我ままだということは理解できている!」

リンリレスが叫んだ。

それは魂の叫びのようでもあった。

「私は村を守りたい!でも!私だけではできないからこうして頼んでいるんだ!」

まったくふざけた話だ。

「あんまり舐めるなよ?頼むならそれなりの態度に出さないとな」

「だから報酬を━━━━━━」

「そうじゃない。俺が言いたいのは態度…いや、その姿勢だ。ただ守りたい、そのために報酬という名の餌をまいて群がる冒険者を釣ろうとするお前の魂胆が気に食わない。そんな仕事誰も受けたがるはずがない」

そう、そもそもこいつの依頼は全部おかしい。

内容は無茶、報酬は薄い、そしてこいつの態度が頼むものじゃない。

だから俺は嫌なんだ。誰だってそうだろ?頭ごなしに『やれ』って言われるのは。

相手の立場が上だったらある程度は仕方ないが、相手は頼む側、つまりどちらかというと下だ。

余計に気に食わないんだ。

「お前は村を救いたいといった。だけどな、お前はただ自己満足のためにそれが矛盾してるんだよ」

「む、矛盾だと!?」

「そうだ。村を守りたいから誰かに依頼を出す。だけど、お前のプライドが容易には頼まずに『命令』という形を取らせるんだ。おわかり?」

「…」

「お前はそのちっぽけなもののために自分自身の守りたいものさえ失うつもりか?そんなもん捨てちまえ。全部手に入れたいなんて欲を張ると結局全部逃がすことになる。『虻蜂取らず』『二兎追う者一兎をも得ず』俺の国にあることわざだ。どっちらかを捨てろ。自己満足のために自分の拠り所を捨てるか、拠り所を守るために自己満足をやめるかだ」

「…」

「もしもお前がそんな小さなやつなら、わるいがどんなに金を積まれても嫌だね」

俺はそう言って焔を連れて町を出ようと歩き出した。

「待った!」

と雨音の中、よく聞こえる声でリンリレスが叫んだ。

「お願い…します…村を…助けてください…」

悔しいんだろう、歯ぎしりが聞こえてきそうなほどだった。でも、俺が振り返ると頭を下げているリンリレスの姿があった


最初からそうしとけばよかったのに。

「ああ。いいぞ。契約成立だな」

「…へ?」

「…プフッ」

こら焔笑うなよ。

俺はもともともいつの依頼を受けるつもりだった…いや、個人的に助けに行くつもりだった。俺は残念ながら手が届く場所でなら助ける主義なんでね、非情になれなかった。

俺がずっとしていた準備は長期戦になった時のための準備だ。

拍子抜けしたリンリレスは唖然とした顔をした。写真があればとっておきたかったぜ。

「ほら、行くぞ。村を救うんだろ?」

「あ、ああ!」

まったくしっかりしてほしいよ…。

こうして俺達はリンリレスのお村を救い行くわけだが、この行動が後々大変なことになるとはこの時俺は全く気付いていなかった。







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今日の日記:須藤 康介




エルフであるリンリレスの村の救援に行くことにしたが私は全く後悔していない。
むしろ光栄に思っているほどである。
焔がいれば負けることはないだろう。
相手は数だけの有象無象…と決めつけるのはまずいが、ドラゴンを倒せるほどの武器を賊が持っているとは考えにくい。
だが、私の体から震えが止まらない。
理由はわからないが、村に着く前に治っていればよいが…。


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15/02/04 00:10 up
どうもです

次の投稿はの方一つのにしようかと思いましたが、うまくいかずこちらを先にしてしまいました。面目ない。

前回の感想でキャラクターを送ってくださった皆様、ありがとうございます。後々登場しますので、待っていてください。

なお、申し訳ありませんが、『性格が違う』などの苦情はなるべく早期に修正いたしますが、もしそれで違和感を覚えても、私の技量ではどうにもならないので、ご了承ください。

※2014/10/20 リンリレスの身長の単位を修正
※2015/2/4  デザイン変更(ノーマル→フレーム(連載専用))
kieto
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