『アクトポ』について… BACK NEXT

第九話





行商人家族と別れた五人は初めて嗅ぐ磯の匂いを一心に嗅いでいた。

「気持ちいいね〜」

「この匂いはちょっとクセになりそう」

「なまぐさ〜い」

「私もちょっと…」

「…」

五人ともそれぞれの意見を持っていた。

さぁ宿を探そうとしたとき、大きい喧騒が五人の耳に入った。

なんだなんだと野次馬根性で見に行くと、魔物が二人喧嘩をしていた。

一方は下半身が蛸のもの、もう一人は烏賊のもので、お互いの触手を絡みつかせて戦っていた。

しかもその間に割って入ろうとする男性が一人。

「落ち着ケ!このままだと店の方に被害が出るかラ!」

「五月蝿い!あんたに関係ないでしょ!」

「そうよ!この泥棒猫を殺さないと気がすまないんだから!」

「ふん!クラーケンごときに倒されるか!」

「なに!?」

「だーかーらー!止めなさイ!」

訛りのある男性は懐から短い水平二連散弾銃を取り出し、二人に一発ずつ打ち込んだ。

ダン!ダン!

「ハウッ!?」

「フヮァッ!?」

銃声の後、二人は地面に倒れた。

初めて見たハヤテ達は思わず信じられないものを見た様子だった。

だが、似たような表情の者は少なく、ほとんどの者はやれやれと言った感じだった。

「まったく…旦那さんに慰めてもらいなさイ」

「「はひぃ…」」

惚けた様子で二人が立ち上がる(?)と近くにあった家に入っていった。

扉が開いているにもかかわらず、嬌声が聞こえ始め、誰ともなく扉が閉められた。

扉が閉まると人々は用事を思い出したかのように散っていったが、ハヤテ達は先ほどの男性に興味を持ち、話しかけた。

「すいません」

「ん?なんですカ?」

男性は黒髪を短く切り、日本人の顔をしていた。

「先ほどのはマジックアイテムですか?」

「ああ、見てたんですカ。まぁそんなもんでス。」

「見せてもらってもいいですか?」

「…ちょっとまってくださイ」

男性は懐から取り出すと、銃身を折って空薬莢を抜き、ハヤテに手渡した。

「どうぞ、暴発の心配はないですが殴らないでくださイ」

「そんなことしませんよ」

「あなた、訛りがあるけどどこから来たのかしら?」

ハヤテが銃に夢中になっている間、ユーレンスが尋ねた。

「えっと…ジパング…と言っていいんでしょうかネ?」

「まぁ」

「お兄ちゃんジパングから来たの?」

「そうと言えるし、そうでないとも言えル」

ユーレンスとサヤの質問に男性は断言しなかった。

「せっかくですから、うちに来ませんカ?」

「いいんですか?」

銃に興味を持ったハヤテが目を輝かせて言った。

「いいですヨ。こっちでス」

男性に案内され五人はとある一軒家の裏口から中に入った。

「あ、靴脱いでスリッパに履き替えてくださイ」

「はあ」

五人が家に入ると、内装がほとんど施されていない板の壁に申し訳ない程度に銃が飾れていた。

「マスケット銃ですか?」

「いや、ちょっと違うヨ。それより紅茶?コーヒー?ジュース?」

「コーヒーですか?」

「ああ、俺はそんなに飲まないが連れが良く飲むからネ。ジュースは林檎、オレンジ…(あ、これはダメだな)…これだけだネ」

男性は台所で小さな白い箱の中をぶつぶつ言いながら探っていた。

「俺は紅茶で」

「私も」

「アタシ、リンゴ!」

「私も同じものをお願いします…」

「…同じの…」

「紅茶二に林檎ジュース三ネ…お待チ!適当に座っていいかラ」

「ありがとうございます」

「いえいエ」

全員が席について一息つくと、男性が話し始めた。

「俺の名前は須藤 康介(スドウ コウスケ)ジパングっていうところに似たところから来タ」

「ハヤテ・サーティス・キリュウです」

「ユーレンス・アンバーシュタッドです」

「サヤ!」

「ヲオサです」

「ヤイティ」

「みんなよろしくナ。で、何を話せばいいんだっケ?」

先ほど銃を渡されたハヤテがそれを出しながら答えた。

「これって自作したんですか?見たこともないんですけど…」

「自作はしてないけど案自体は俺が出したものだヨ。そもそもそれ自体まだここじゃ作られてないもののはずだシ…」

「ここにはいつごろから?」

「別にここに定住してるわけじゃないが、まぁ2、3日ってとこだナ」

六人が雑談していると、裏口から誰かが入ってきた。

「主殿〜ただいま帰ったぞ」

「ご主人様〜帰ったよ」

入ってきた一人はすらりとした長身で出るところは出、引っ込むところは引いてあり、輝くような金髪をポニーテール状に纏めて木箱を運んでいた。

もう一人は少女で肩ほどまであるピンク色の髪を上の一部だけ二つ纏めたツーサイドアップという髪形をしており、両手に重そうに篭を下げていた。

だが少女の背中から羽が生え、宙に浮いていたのだ。

「妖…精…」

「ん?初めてみるのカ?」

「…いえ…」

ハヤテの顔が見る見る青くなっていった。

「…アオイ、荷物を台所に置いて部屋にいってなさイ」

「は〜い」

ふよ〜っとアオイと呼ばれた妖精は台所で何か作業すると、奥のほうに去っていった。

「…すいません」

「いいですヨ。何か分けありなんでショ?」

どうやら康介はハヤテのサインに気付いていたようだった。

感謝しつつ、ハヤテは先ほどの妖精と、もう一人の女性のことを聞いた。

「彼女は?」

「ん?ああ、須藤ホムラっていう…ハーレムの一人」

あっけからんと康介が言ったので、丁度飲み物を飲んでいた面々は吹いてしまった。

「ゲホゲホ…ハレムですか?」

「そうだヨ…って、彼女達は違うのかイ?」

「俺はまだユーリにしか手を出していません!」

「ほほう…しかってことは手を出す予定なんダ」

ニヤニヤと笑いながら康介は意地悪なことを言った。

ハヤテは女性陣から冷ややかな眼で見られるのに耐える様にうつむいていた。

しばしの雑談の後、ホムラが突然険しい顔つきで康介に何事かを囁くと、彼も顔つきが真剣になり、ホムラを案内人にしてハヤテ以外を帰した。

「あの…俺何かしましたか?」

「あ〜…ハヤテ、一つ聞きたいんだが、君は…幻覚を見ることがないカ?」

「え?」

無論、身に覚えのあることだった。

だが、それをあって間もない人に知られるなど夢にも思ってなかったのである。

「…あります」

「そうか…お〜い、ネル〜」

康介が家の奥のほうに声をかけると、透けるような水色の髪を下のほうで二つに分けている女性がやってきた。

康介が彼女に何かをいうと、彼女が怪訝そうな顔をした。

「彼ですか?」

「そウ。ああ、彼女はネーベル・S・フランスキカ。シー・ビショップでね、もしかしたらって思ったんだガ…ネル、彼は黒か白カ?」

「…限りなく黒に近いグレーです、常時発動のものは弱く見えますが…もう一つ何か見えます。ちょっと触ってもいいですか?」

「え?いいですけど…」

「失礼します…」

ネーベルがハヤテの額に手を置くと呪文のようなものを唱えた。

ハヤテに触れている部分が光り始めると、ハヤテは心の中を覗かれてるような、そんな奇妙で嫌な感覚を覚えた。

咄嗟に手を払いそうになるがなんとか我慢し、ネーベルの手が離れると、嫌な汗が噴出した。

ネーベルが康介と2、3言話してから、ハヤテに話しかけた。

「…ハヤテ君…でいいのよね?」

「…え?あ、はい」

「…落ち着いて聞いて欲しいのだけど、あなた呪われてるわ、それも強力なのが」

「…え?」

信じられないと言う風な顔をしたが、言い辛そうな様子のネーベルを見て、ハヤテは真実なのだと受け止めた。

「私も今軽く見ただけだから断言できないけど、確実に二つ呪いをかけられてる。一つ目なんだけど、これは呪いと言うよりおまじないに近いもので、特定の誰かの位置がぼんやりと分かるようにするもの、もう一つは多分、体を交わらせたことのある魔物が危機に陥るとその魔物を救うように設定されてると思うの」

「はぁ…」

「…最初のは実感があると思うのだけど…」

「まぁ…確かに大体の位置はつかめますけど…」

「ならいいのだけど…」

「あ〜ハヤテ、明日の朝九時くらいにアンバーシュタッドさんをここに呼んでもらえるかナ?」

「ユーリをですか?」

「そう、渡したいものがあるんだ」

「俺から届けますよ?」

「まだ現物が用意できてないんだヨ。だからサ」

「はあ…わかりました」

裏口からハヤテを帰した後、康介は神妙な顔で尋ねた。

「…はぁ…『魔物を守る』ね、それは『攻撃してきた相手を滅ぼしてまで守る』なんだろ?」

康介はネーベルに対してジパングの言葉に似た言語で話しかけた。

「そうなんですよね…まさか意識を奪ってまで攻撃的になるとは思いませんでした。あれ以上深く踏み込んだら私が攻撃対象になっていたかもしれません」

「引き際は心得てるようで助かったよ。さて、効果を抑える指輪でも作るかな?どうせ解呪ができないんだろ?」

「そうなんですよね…手伝います」

「当たり前だろ?俺は作れるけどエンチャントまではできないんだから…」

二人はそうしてハヤテのためのマジックアイテムの作成に取り掛かった。



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『ハヤテの呪いについて』

一つ目:位置特定魔法『追尾する魔眼』

文字通り繋がりを持った人物同士の位置を分からせる魔法です、呪いではありません。ハヤテと彼が助けたワイバーンに備わっていて、お互いに大体の場所が分かっています。交わるたびに強くなっていきます



二つ目:殲滅用呪詛『破滅する邪眼』

前回ハヤテに発動した呪いです。効果としては体を交わらせた人物に危害を加えた人物、団体がいると、それらを殲滅するものです。これが発動すると、ハヤテの意識が飛び、魔力で肉体を強化して襲い掛かってきます。魔力が切れるか目の前から敵がいなくなれば、そのまま気絶します。




言い訳がましいですが、前回ハヤテが殺したのは反魔物…というより魔物だろうが人間だろうが見境無しに金目のものを奪い、女は性奴隷に男は殺してしまうような盗賊です。しかも、ユーレンスやアヌビスさん達が攻撃された時点で親魔物ではないので問題はない、と思っています。

感想で指摘されたので、今回こういう形で解説させてもらいます。












13/10/20 01:31 up
どうもです

前回の感想でちょっと問題あるんじゃないの?と言われたので急遽、話を少し前倒しにしました。

個人的に問題なかったんですけどね…指摘された以上、解説せざるを得ません。まぁこの呪いが発動する頻度自体はあと二回か三回くらいなので…


そうそう、康介達は後で詳しく解説する日が来るのであまり聞かないでください。一応キーキャラクターなので…

また間違い、質問などがあったらください

では、魔物娘達を愛する紳士淑女の方々に
kieto
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