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第八話 「子と娘らは家の中におれ!男衆!行くぞ!」 「「おう!」」「はい!」 四人が小屋から出ると松明を持った盗賊達が20いた。 15名がロングソードを持ち、残りは全員弓やクロスボウを装備していた。 隊列は組まず、遠距離武器組を遠くにおいてあるだけで作戦も何も無い様に見えた。 「む、ちと少ない?…いや、これくらいか」 「どうしたんですか?」 アヌビスの呟きにハヤテは反応した。 「いやなんでもない。それよりも一人頭五体だ!殺すなとは言わんが、なるべく殺すな」 アヌビスはそう言うと得物である杓杖を盗賊の一画に向けて指した。 すると、盗賊の足元に個別の魔方陣が現れ、そこから鎖が飛び出し数人を捕縛した。 運よく避けたものは主人が振るうハンマーやその息子によって切られ身動きが取れなくなっていた。 主人は鈍重そうなハンマーを担いで盗賊たちの胴を凪ぎ、息子はファルシオンという刃先に向かって太くなっている巨大な刀を持って一人一人を簡素な革鎧の上から叩き割っていた。 どちらも魔界の鉱物で作られているようで、鎧や服が傷ついても身体の方にはほとんどダメージが無かった。 その分様々な魔術をかけてあるらしく、攻撃された盗賊たちはそろって地面で頬を高揚させて蹲っていた。 ハヤテは唯一といえる機動力を持っていたため遠距離から来る矢を弾きながらクロスボウを備えた盗賊たちに向かっていっていた。 「はぁ!」 ザン!とハヤテが一番近くにいた盗賊の腕を狙って剣を振り下ろした。 その盗賊はクロスボウで防ごうとしたが左肩から斜め下に振り下ろされた剣はクロスボウを破壊して、鎧を切り裂き、大きな傷を負わせた。 盗賊が崩れ落ちていくのを横目で確認しながら、ハヤテはすぐ近くにいた二人目のわき腹から剣を突き上げて盾とすると、左手で投げナイフを抜きクロスボウを捨てて剣を抜こうとしていた二人の間に向けてナイフを投げた。 二人が怯んだ隙に剣を抜き、一人にタックルを仕掛けこけさせ、後ろ腰のダガーナイフを抜き、五人目の腹を刺してからすぐに抜いてしゃがみ、太腿を刺した。 最後にタックルを仕掛けてこかしたやつをロープで縛って一息つくまもなく、残った盗賊を倒そうと振り返ったとき、ユーレンスが小屋から飛び出し、裏手に回っていくのが見えた。 ふと、アヌビスの呟きを思い出したハヤテはハッとした。 ハヤテ達が立っているところは風下なのである。 そしてアヌビスは少ないといったのだ。 つまり、アヌビスが嗅ぎ取った臭いがする方向にまだいるかもしれなかったのだ。 「!」 ハヤテは急いで捕縛に勤しんでいる方々を無視して裏に回ると、20人ほどの盗賊とユーレンスが戦っていた。 すでに何人かはユーレンスが沈めていたがそれでもまだ三分の二以上残っていた。 ハヤテは駆け寄りながら賊の一人を斬り捨て、ユーレンスと背中合わせになるように後ろに回った。 「何で出てきた!?」 「仕方ないでしょ!?矢を打ち込まれたのよ!?」 「っだぁ!もう!」 ハヤテは叫び、近くにいた盗賊を切り伏せ、相手の剣を受け流しながらもう一人切っていった。 ユーレンスは魔物特有の身体能力で相手を翻弄しながら的確に股間を蹴り上げ戦闘不能にしていった。 二人は一人々々的確に倒していったため今では5人だけ盗賊が残り、ハヤテ達の正面に立っていたが、数が多いため二人とも疲労の色が見え始めたその時、ユーレンスの右肩に突如矢が突き刺さった。 「!」 ハヤテが遠くを見ると5人ほどの弓兵が潜んでいた。 さらに弓兵の一人の放った矢がユーレンスの脇腹に矢が刺さり、彼女は膝をついてしまった。 「ユーリ!」 その瞬間、ドクン。とハヤテの中で何かが鼓動し、それがハヤテの意識を紅く染めていった。 ◆◆◆◆ユーレンス視点◆◆◆◆ ハヤテは大丈夫かな…。 小屋の中で一箇所に固まりながらそんなことを考えていた。 一緒にいるとはいってもまだ出会ってから二ヶ月ちょっとしかたってないのよね…。 色々あったけどまた外に出られるなんて思ってなかったわ。 でも今はしっかりしないと。 そう思って私は頬を二回ほど叩いて気合を入れ直した。 暫くして血のにおいがここまで漂ってきた時、それは起こった。 突然壁から何本も鏃が飛び出したのだ。 「きゃ!?」 「壁があるから大丈夫!ここまでは来ないわ!」 そういっても多分長くは持たないだろうという自分自身の冷静な判断に嫌気がさす。 すぐにでも盗賊がそこの壁を突き破って入ってくるだろう。 そんなことさせてなるものですか! 迅速に、決定したら即行動に移す! 私は意を決して打ち込まれたほうに向かった。 表に出た時ハヤテも後ろに行くように見えたけど、彼が来なくても私一人でできるわ。 盗賊達は闇夜から奇襲をかけたつもりだろうけど、最初の一打からすでに失敗してるんだから怖くはないわ。 ……実際はものすごく怖かったんだけど、もう戻れないし…。 それに私は魔物だから闇夜でも問題なく見れるし、あいては数のアドバンテージだけよ! 早速隊列も作らずに近づいてきた賊の一人の股間を思い切り蹴り上げる。 「フォオッ!?」 …思い切り股間を押さえて蹲るのを見るのはなんか嫌になるわね…次からは手加減しよう。 「このアマ!」 別の男が剣を振るってきたけど身を下げてかわし、革の鎧を纏った上から拳を思い切り叩き込んだ。 「ぶべらっ!?」 5メートルは飛んだかな? 今度は私を取り囲むようにして攻撃してきたけど動きが単調すぎて当たらなかった。 すぐに二人ほど沈めたけどなにぶん数が多いからけっこう苦戦した。 誤射を恐れてか矢が飛んでこなかったのが唯一の救いだけど…。 その後暫くしてハヤテがこっちに応援に来てくれた。 ちょっと口論したけど来てくれたのは嬉しかった、ただ彼の剣だと確実に傷つけてしまうのはちょっとヤだな…。 まぁ襲ってきた盗賊にそういうのはなんか可笑しいけど…。 でもやっぱり数は問題でようやく5人まで戦える盗賊を減らしたのはいいんだけど、今度は誤射することはないと判断したのか矢が飛んできた。 咄嗟に避けられず、右肩と脇腹に矢を受け痛みで膝をついてしまった。 大丈夫、とハヤテに声をかけようと彼の方を見たのだが、様子が変だった。 見た目はハヤテなのだが目が赤くなっており、体から仄かに紅いオーラみたいなのが出ていて思わず私はかける言葉を失った。 そして、絶対に彼がやらないようなことを彼はやった。 フラリと盗賊達の方を向くと、剣を閃かせ、横に振っただけで上半身と下半身を斬り捨てたのだ。 辺りに舞う血霧と濃厚な血の匂いでクラッときたけど、ハヤテはそんな私の様子を気に咎めずに弓兵の近くにジリジリと寄っていった。 私は声が出なかった。 盗賊達ににじり寄っていくハヤテの姿は死神か、悪魔に見えた。 魔物の私がそう思うくらいだ、人間である彼等の恐怖心は計り知れない。 それでも果敢に矢を射るのは生存本能からだろうか? しかし、矢は全て落とされハヤテの間合いに入った最初の盗賊はその首を刎ねられた。 「うっ…!」 思わず口を塞いだ。 嘔吐感を必死にこらえながら心の底から願った、 もう止めて、と。 だが、ハヤテであるはずの者は二人目をその凶牙にかけた。 無造作に肩を掴むとその口に剣を刺し込み、下に引き裂いたのだ。 「う…げっ…」 辺りに広がる臓物や色々な体液の混じった形容できないほどのあからさまな死の匂い。耐えられずに吐いた。 それでも楽になることはなく、見たくないと目を瞑ってもすぐに目を開けてしまう。 まるで呪われているかのように。 そして三人目を右肩から斜めに切り裂き、四人目は剣を脇腹から刺し込み内臓をグチャグチャにかき回し、最後の一人は腰を抜かして逃げようとしていたところを後ろから後頭部を片手で持ち上げた。 「ハヤテ!」 ようやく言葉が出た、もしかしたら彼が止まるかもしれないという望みをかけて。 だが、現実はもっと悲惨だった。 私の言葉に反応してハヤテがこっちを見た。 だが、その表情は狂ったように笑い、ミシッと嫌な音が耳に届いた。 「!止め」 ベキャッ! 頭蓋骨が砕ける音が耳に響いた。声にならない絶叫をあげ、私は再び襲ってきた嘔吐感に嫌気がさした。 それよりも嫌だったのは自ら陥没させた死体を放り捨て、手についた脳漿と血を美味しそうに舐めるハヤテの姿だった。 もしかしたら私も殺されるかもしれない。 だが、そうなる前に私を凝視したハヤテが安心するような表情を見せると、糸が切れたように崩れ落ちた。 「ハヤテ!」 私は弾かれたように駆け出した。 彼の近くに寄り、その体を抱き上げる。 命に別状はないようだ。 よかった…。 さっきのオーラも消えているみたいだし、ひとまずは大丈夫かな? 「お〜い、大丈夫か〜?」 ああ、アヌビスさんが来てくれた…。 これで一安心…かな? ◇◇◇◇◇◇◇◇ 「…うっ…」 ハヤテが目を覚ましたときはすでに日が昇り、慌しい音が聞こえていた。 「あ、起きた?」 「…ユーリ?」 ハヤテが顔を横に向けるとユーレンスの姿があった。 さらに彼女の肩から覗き込むようにサヤ、ヲオサ、ヤイティの三人の姿もあった。 「少年、起きたのなら手伝ってくれ。疲れてると思うが急いでここを離れなければならん」 「え?わ、わかりました」 立ち上がろうとして、ハヤテは体中からくる倦怠感で危うく倒れそうになった。 「おっと」 サッとユーレンスが支え、転倒は免れた。 「ありがとう」 「もう…気をつけてよね?」 少しふらついたが、ハヤテは確かな足取りで出発の準備を手伝い、すぐに出発した。 翌日の早朝、港町『アクトポ』に到着した。
13/10/16 11:22 up
どうもです 今回は結構早めに仕上がったのでこのまま投稿します そういえば台風来ましたね。うちはマンションなのですが、風がゴウゴウ鳴って五月蝿くて寝れませんでしたwww 今週中にもう一つ上げれたらな〜と思っています。 では、感想その他お待ちしております。 kieto
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