国を出て… BACK NEXT

第七話


「国を出るの?」

「うん、皆も付き合わせちゃうことになるけど…いいかな?」

ハヤテ達五人は西側の山際付近にある町、『フェルス』にいた。

現在宿屋の食堂で朝食をとっており、今後のことについて話していた。

「私はそもそもハヤテについていくつもりだったし」

「アタシ達もリーダーについていくよ〜」

サヤ達はハヤテのことをリーダーと呼び、ユーレンスのことをお姉ちゃんと呼んでいる。

「うん、ありがとう。それでね、俺も外に出るのは初めてだから行商人と一緒に次のところまで行くから」

「わかったわ…ちょっとサヤ、ケチャップついてるわよ?」

「ムグ?」

オムライスを食べていたサヤの頬についたケチャップを拭い取るユーレンスの姿を見てハヤテは自然と頬が緩んだ。

「?リーダー、どうしたんですか?」

「うん?家族みたいだなって思って…」

ヲオサの質問に答えたハヤテの言葉を聞くとユーレンスは何処か遠くを見た。

「家族…ね…私は飛び出してきたから良く分からないけど…」

「…お姉ちゃんは家出したの…?」

「ええ…嫌なところだったわ。実の父を召使同然に使役していた母を見ていたら…ね」

「…そんなことが…」

「まぁ、後々色々知識を得てからあれは誤解だったってことに気付いたんだけどね」

「どういうことなんですか?」

両手で水を呑みながらヲオサが尋ねた。

「色々あるのよ、こっちには。…今更会いにも行けないし…」

「ご両親はどこに住んでるんだ?」

「東の方にいるはずよ…移動してなければ…」

「俺は母子家庭だからな…一応仕送りしてたけど、最初の方いらないって言ってたし…大丈夫かなぁ…」

何処か悲しそうな顔をしたハヤテを見ていられなくなってユーレンスはサヤ達三人に話を振った。

「そういえばサヤ達は姉妹なのよね?」

「そうだよ〜アタシが長女!」

「次女です〜」

「…末っ子」

「姉妹がいるっていいね…」

「ハヤテは一人っ子なのね」

「うん。ユーリはそうじゃないのか?」

「さぁ?私が出る直前にお腹が膨れていたから一人くらい妹が生まれてると思うけど…」

「一回ちゃんと謝った方がいいですよ?家族の代わりはできないんですから…」

「…そうね…」

「じゃあそろそろ行こうか」

ハヤテが言うと他の四人はそそくさと立ち上がり、外に出た。







「俺達に同行したいって?」

「はい、邪魔にならなければですが…」

ハヤテ達は交易所で人が良さそうでかつ、馬車で出ようとしている行商人を見つけ、声をかけた。

その行商人は主に鉱石を扱っているところのようで、幌馬車が二台と大人が三人、子供が二人いた。

サヤ達ゴブリン三姉妹には外套を羽織らせ、フードをかぶせて頭の角が見えないようにしていた。

「むぅ…」

「(ボソボソ)」

「え?そうか…」

主人が渋っていると、幌の中にいた色黒の奥さんらしき人が主人に何事かを呟き、それを聞いた主人の顔が見る見るうちに綻ばせていった。

「まぁいいだろう。身なり的に旅人なんだろ?腕が立つなら傭兵として雇ってやってもいいんだが…」

「いや、そこまで腕はないですよ」

「ハハハ、そうかそうか。家族ぐるみで行商人やってんだが、チビどもの遊び相手に丁度いい子供をつれてるみたいだしな。これも何かの縁だ」

「ありがとうございます」

「チビどもは馬車に乗せてやるが、お前達は歩きだぞ?」

「そこまでしていただけるなんて光栄です」

「よっしゃ。ほらほら早く乗りなさい」

主人はサヤ達をせかして二台目の幌(ほろ)に入れると、一台目の御者台に乗り馬車を進めた。

ハヤテ達に合わせてくれたようで、移動速度は遅かった。

門を抜け、山際を歩いて暫くしてから、ハヤテが主人に話しかけた。

「どこへ行くんですか?」

「港町『アクトポ』さ。急に亜鉛やら鉛やらの発注が来たもんでね」

「はあ…俺は外に出たのは初めてなんであまり外のことは分からないんですけど…」

「ん?お前さんあの国の出か?」

「ええ、そうですけど…」

「まぁあの国は俺が見てきた中でも極端な部類に入るがな。壁を作るなりはするが、それにしては設備が過剰すぎる」

「…王都の辺りでは魔物狩りみたいなことが行われていました…」

「…あんまり気ぃ落とさない方がいいぞ?自分の国で行われていたことが信じられないってこともある」

「…はい…」

「人生嫌なことも目を背けたいこともある。ああ、これは俺の親父の格言だがな、『常に前を向け、立ち止まったら考えろ、絶対に後ろを見るな。』まあ前向きに生きろってことさ。後ろを見ちゃダメなんだ。俺達は前に行くことしかできないんだからな」

「そう…ですね。ありがとうございます」

励ましを受け、ハヤテは気を持ち直すと、馬車の向かい側にいるユーレンスに話しかけた。

「大丈夫?」

「平気よ。いつも歩いていたでしょ?」

「それはそうだけどさ…」

「嬢ちゃん、こういう時は男に頼るもんだぜ?」

「別にいいんです。この天然たらしには」

「?」

「そうかそうか、たらしか。お前さん苦労するぞ?」

「??」

「はぁ…」

「父さん、子供達に静かにしてくれって言ってくれないか?」

何のことか気付いていないハヤテに対してユーレンスがため息を吐くのを見計らってか、この商人の息子がそう父親に苦言した。

どうやら初めて幌馬車にのったサヤたちが暴れているようで、幌が右に左に揺れていた。

「ガキはそれくらい騒がしい方がいいんだよ」

「でも馬車が揺れて制御が…」

「お前が操ってるわけじゃねぇんだから大丈夫だろ?」

「すいません、うちの子が…」

「あ、いやそういうわけじゃなくて…」

ハヤテが謝ったのが意外だったのかモゴモゴ口篭ったきり喋らなくなった。

「そういえば商人さん、『アクトポ』ってどの辺りにあるんですか?」

ふと、ハヤテは気になって問うた。

港町ということは海の近くにあるはずなのにも関わらず今山沿いを北側に歩いていることに疑問を持ったからだ。

北の方にあるなら少し話は変わってくるのだが、それでも海岸沿いを行った方がいいと思ったのだ。

主人は簡単に説明してくれた。

「ああ、国を出て普通に海岸に出ようとするといくつもある検問通んなきゃならないからな。お前達が一緒に来るのを許可したのもそれがあるしな」

「…もしかして奥さんは…」

「まぁ及第点と言ったところかの。その通り、魔物じゃよ」

ハヤテが言いかけ、奥さんがその言葉を遮りながら幌から頭を出すと、そこには犬耳が一対生えていた。

「失礼ですが種族は?」

「ん?ああ、アヌビスじゃよ。おぬし等がおらなんだら関所くらい魔術で簡単にだませるんじゃがな…」

「お手を煩わせてしまってすいません」

「別にかまわんよ。ダンピールなんぞは久方ぶりに見るしの」

奥さんはユーレンスを見ながら言った。

景色を眺めていたユーレンスがその視線に気付くと、二人で話し始めてしまったのでハヤテは後ろの下がってサヤ達の様子を見た。

「酔ってない?」

「大丈夫だよ〜」

「はい、サヤちゃんが暴れるのがちょっと困りますけど…」

「大人しくしてなきゃダメだよ?」

「は〜い」

そのときハヤテはヤイティが答えていないのに気がついた。

「ヤイティ大丈夫?」

「…ダ…メ…」

ハヤテが声をかけると弱々しい声が返ってきた

どうやら酔ってしまったようだ。

その旨を主人に伝えるともうすぐ隠れ家に着くからそこで一休みしようとのことだった。



……………



隠れ家と言う割には小奇麗な感じになっており、大人数でも問題なく入ることができた。

といっても、ここには急に要りようになった備蓄用の食料の確保とヤイティの酔い覚ましが目的なので長居することはなかった。

その間にハヤテや主人ら男衆は食料の積み込みを手伝っていた。

そこでハヤテ達は息子の馬が魔物であるバイコーンがマジックアイテム『隠遁の指輪』(※姿を変化させる指輪、使用者が念じればある程度姿が変えられる)
を使って黒毛の馬に変化していたことを知った。

ヤイティの体調が戻り始めた頃にはすでに積み込みは終わっていた。

特に問題もなく出発し、夜になる前に森にある別の隠れ家に着き、あと半日も行けば『アクトポ』につけるとのこと。

小屋の中では奥さんとユーレンスが料理をつくり、子供に混じってハヤテが食器を並べるなどして穏やかに夕食が食べられていた。

だが、穏やかな雰囲気は突如として殺気立った奥さんが全員に聞こえるように言った言葉で一瞬で全員が気を引き締めた。

「盗賊だ!」








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《通ってきた町の解説》


:ハヤテが生まれた村『キスト』

南側の山脈の近くにある村。特産物は森から取れるキノコや木材、あとは畑から取れる作物が少々。
数年前までは壁が完成していなかったため魔物達が少し侵入していたが、壁の完成の前に遠くに逃げた。
ハヤテは出稼ぎに来ていたが、実際は彼の母親が彼を町に出して独り立ちさせようとしたので生活には困ってない。



:ハヤテが出稼ぎに来ていた町『アレイスト』

『キスト』から三日ほど歩いたところにある町。商人達がよく立ち寄るため特産品などはないが、かなり発展しているが、スラムがあるため治安はいいとはいえない。
フリッツは出稼ぎと言うよりただ訓練できているため、この町には別荘があり、そこで寝泊りしている。
付近では唯一騎士育成所があるためそれが目当てで来る人も多い。


:五話の町『ジャピューム』

丁度王都と『アレイスト』の中間辺りにある町。
商人が寄るだけなのでそこまで活気はなかったが、ジパングの物があるということで興味本位で立ち寄る人が増え始めた。


:王都『テオ・デンタール』

『ラグネント』の首都。周囲に国を囲っている壁と同等のものを三重に張っている。
城にもその技術が使われ、防御力は高い。
ただ、国内にいる兵士のほとんどが模擬戦しかしたことがなく、兵の質は低い。









13/10/12 22:39 up
どうもです。なんとか毎週書けるようにしていきたい今日この頃です。

個人的に話がまとまってきたのでこれからはこのペースで書いていけそうです。

そういえば文字を太くしたりするのってどうすればいいんでしょうか?誰か教えてください…( '・ ω・` )

次回グロ注意かもしれません。

ではでは〜ノシ
kieto
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