読切小説
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歌と君に大好きを
「スペシャルフォーッ!」
 高らかにシャウトを決め、歌唱終了。画面に出た点数は見事に100点。
 そして、その数秒後。
「あー……いつ見ても可愛いなぁ……」
 映し出されたのは、扇情的な水着を着た少女の姿。
 数種類ある採点機能の中、男はいつもこのムービー採点を用いていた。
 その採点では高得点を出せば、露出度の高い衣装を纏った美女が映し出される。ヒトカラである為、羞恥心に苛まれることもない。
 そして、男が見るムービーにはいつも、この少女が映っていた。
『キミの歌、だーいすきっ!』
 画面に映っているのはセイレーンの少女。
 小柄な体躯ながら美しく長い脚を持ち、くびれたお腹は見るからにすべすべ。
 そして種族特有のふわふわな羽を揺らしながら、男に愛の言葉を投げかける。
(うんうん、ありがとう)
 彼にとっては、これが日々のストレスの発散方法。唯一のとりえだと自負している歌で彼女の肢体を鑑賞し、賞賛を浴びること。
 遥か手の届かないアイドルも、この時だけは自分に愛を囁いてくれる。
「さて、次は何を歌おうかなっと」
 一頻り堪能した後、次の曲を選ぼうとしていた男。
 しかし、この日は変わったことが起きた。
『ねぇねぇ、ちょっと待って』
「ん?」
 何故か、普段ならここで終わるムービーがまだ続いている。
 これはどういうことだろうと思っていたら、突如扉が開いた。
「やっほー!」
「えぇっ!?」
 そこに現れたのは、先程まで画面の向こうにいた少女。

「キラキラ笑顔の歌うプリンセス! 今をときめく魔物娘アイドル、綾瀬みかんでーっす!」

 ムービーと同じか、それ以上にきらびやかな笑顔で。
 ピースサインをしながら、男がいた部屋に飛び込んだ。

「え、え、えっ!?」
「やーやー、本当に100点取れるんだねー。びっくりだよー」
「いやいや、こっちの方がビックリですって! え……本人?」
「そーだよー? っていうか、こんなカワイイ子なんて、わたし以外にいないっしょー」
 イメージ通りの明るさで、あっという間に男の隣へ。そして、それに困惑してる隙に。
「ちゅ♥」
 男の頬にキスをして、にぱっと微笑んだ。
「へぇっ!?」
「あれ、イヤだった?」
「いやそんな訳! あのっ、その、ファ、ファンです!」
「知ってるー。いっつもわたしのムービー見てるもんねー。それにライブも毎回来てくれるし。いつもありがとう」
 憧れのアイドルが突然現実に。限界化する男をよそに、みかんは楽しげに語りかける。
「ねぇ、お名前は?」
「えっと、その、藤崎翔太、です」
「翔太君か。それじゃ『しょーちゃん』だねっ」
「は、はい。……これ、ドッキリですか? 何かテレビの……」
「ううん、プラベだよ? わたし、ここのオーナーと知り合いでさ。歌がすっごく上手で、いっつもわたしのムービー見てる子がいるって聞いて。どんな子か気になったから、遊びに来ちゃいましたー」
 当たり前のように言っているが、翔太は驚くばかり。
 カラオケか写真集、或いはライブでしか見たことのなかった少女は今、目の前にいる。
 手を伸ばせば触れられる距離に加え、先程みかんの方から触れられた。
「あっ、あっ、あーっ!?」
「どうしたの?」
「きっ、キス! 僕、さっき、き、き、キスされた!?」
「そだよー。キミのほっぺ、結構柔らかいね」
 遅れていた情報処理が終わり、翔太は今現在起きた奇跡に震えた。
 そしてここでようやく、もう一つの重大事項に気づく。
「あのっ、み、水着!?」
「うん。しょーちゃんにとってのわたしってコレでしょ? このムービーの撮影終わりに貰ったんだー」
「げ、現物!?」
「そだねー」
 目の前に現れるというだけでも驚きなのに、着ているのは薄ピンクの水着のみ。しかも、つい先程まで見ていた撮影で使ったもの。
 遠かったはずの事象の全てが今、この部屋に存在している。
「あぁ……こんなこと、夢みたい……」
「それが現実なのだよ。ちょっと失礼」
「へ? ……痛たた!」
「ね?」
 スッと伸びた細腕に右頬をつねられ、その痛みをもって判明した。
 これは夢の中の出来事でも、幻覚でもない。
 『自分の目の前に推しがいる』という状況は、紛れもなく現実。
「ということでさ、一緒に歌お? まだ時間あったよね?」
「えぇ、はい……えっ!? いいんですか!?」
「カラオケ来たら歌うのは当然じゃん。楽しもうよ? あ、料金は気にしないで大丈夫だよ。わたしの分は勿論自腹だから」
「いやいやいや! 申し訳ないですよ! 僕なんかと……」
「ムービーの中のわたしも言ってたよね? キミの歌が大好きって。しょーちゃんの歌、生で聞かせてよ」
「……分かりました。それじゃ、その……頑張ります」
 大好きなアイドルと、カラオケボックスで二人きり。
 ファンなら誰もが妄想するであろうシチュエーション。
 こんな機会ははもう、二度と訪れないだろう。
(それなら、みかんちゃんにも楽しんでもらわなきゃ!)
 自分の持てる歌唱力の全てを出そう。
 翔太は強く、決意した。

 彼はこの時、重要なことを忘れていた。
 目の前にいるのはただのアイドルではないことを。

「運勢を、目指してぇーっ!」
(すげぇ……)
 綾瀬みかんの種族はセイレーン。
 彼女はグラビアアイドルとして活動する傍ら、歌手としても活躍している。
 翔太も歌が上手い方ではあるが、プロとアマの差は歴然だった。
「んーっ! やっぱり歌うって気持ちいいー!」
「楽しそうですね」
「そりゃ勿論。ところでしょーちゃん、もっとくだけていいんだよ? 何か変にかしこまられてる気がするんだけど」
「いや、憧れの綾瀬さんにそんな馴れ馴れしくは……」
「呼び方は『みかんちゃん』。で、しょーちゃんはわたしのファン。それなら楽にしていいよ。……あ、ひょっとして緊張してる?」
「えぇ、まぁ……」
 翔太は、とても純情な青年である。
 みかんはグラビアアイドルである以上、彼女に邪な思いを抱く男は多い。
 それは翔太も例外ではないが、彼にとってそれは思いの本質ではない。
 では何が中心なのかというと、それは『憧憬』であった。
「……その、本当にごめんなさい」
「へ? 何で謝るの?」
「綾瀬さんが眩しすぎて、胸が苦しいんです」
 会社では些細なことで叱責され、親は自分に対する愛情がない。
 友人はいるが、半ばいじめに近いいじりをされるばかり。
 そんな日々を送る内に、翔太はすっかり自己肯定感を失ってしまった。
 自分に価値なんてない。憧れのアイドルと一緒にいる資格なんてない。
 それならいっそ、手の届かない場所にいてくれた方が、割り切れた。
(うーん……これはちょっと、素直には喜べないな)
 自分に対する賞賛を含んではいるが、その奥に重苦しい悩みがある。
 セイレーンの例に漏れず、何事も前向きに考えるみかんではあるが、それでも翔太は何か抱えていると感じた。
 そして、自分はそれを根本から解決できる方法を持ち合わせていない。
 だが、それでも何とかしたいと思って、声をかけた。
「しょーちゃん。無理にとは言わないけど、今は楽しも? 色々悩んでるみたいだけどさ、わたしの歌聴いたりしてリラックスしようよ。いつも頑張ってるんだから、アイドルと一緒にカラオケしたっていいじゃん」
 どういう言葉をかければいいか分からなかったが、一先ずは今を楽しんで欲しい。そういう思いを込めて言ったところ。
「……みかん、ちゃん」
「なーに?」

翔太の目から、大粒の涙が零れ落ちた。

「うぇぇぇぇぇん!」
「えっ!? ちょっ、どうしたの!?」
「みかんちゃんが優しくて……優しくて……!」
「そっか。んじゃこうしたらもっと嬉しい?」
 そう言うと、みかんは翔太の頭を抱き寄せ、ポンポンと叩いた。
 そしてゆっくりと頭を撫で、もう片方の翼は体を包むようにして、背中に回す。
「わたしの胸に甘えてよ。あんまりないから物足りないかもだけど、
 それでもよかったらいくらでも貸すからさ」
「みかんちゃん……みかんちゃーん!」
「うんうん、よしよし」 
 いつもの笑顔に母性を滲ませながら、頭を撫で続ける。
 すると、翔太が静かに語り始めた。
「……あのね?」
「ん?」
「僕、ダメなんだ」
「何が?」
「何をしてもうまくいかないし、怒られてばかりで。本当ならこうして甘えることだってしちゃいけないのに」
 平凡かそれ以下の自分。天性の才を持つ綾瀬みかん。
 どこまでも遠い存在に易々と甘えるわけにはいかない。
 なのに、今はみかんに甘えたくて仕方ない。
 相反する感情に苛まれ、翔太は自己嫌悪に陥っていた。
(しょーちゃん……)
 みかんは心の底から、翔太が愛おしく思えた。
 詳しい事情は知らないが、彼はとても真っ直ぐな人間。
 そんな彼が悲しんでいる顔は見たくない。
「しょーちゃんはダメじゃないよ」
「でも、僕は……」
「なんなら、ダメでもいいの。ダメなとこがない人間なんて、一人もいないから」
 背中をトントンと叩き、あやす様にして翔太を抱きしめ、みかんは肯定の言葉を次々と投げかける。
「しょーちゃんはいい子だよ。お歌上手だし、一生懸命だし。そんな頑張り屋さんのことを分からない人が悪いんだよ。今までずーっと頑張ってきたんだから、ご褒美貰わなきゃ。それに、しょーちゃんはわたしのことが大好きなんでしょ?それだけで、しょーちゃんはとってもおりこうさん。だから、大好きなアイドルに好きなだけ甘えていいんだよ」
 頭を撫でる手も背中に回し、両の翼でぎゅっと抱きしめる。
 たっぷり数十秒抱きしめた後に体勢を戻し、また頭を撫でる。
(みかん、ちゃん……)
 身体の力が抜け、全体重がみかんにかかった。
 みかんはそれを自分の体とソファーの背もたれを利用して受け止める。
「みかんちゃーん!」
「うんっ! 甘えて甘えて!」
「褒めて! 僕のこともっと褒めて!」
「しょーちゃんはえらい♥ とーってもえらい♥ 頑張り屋さんでえらい♥ おりこうさんでえらい♥ お歌上手でえらい♥ わたしのことが大好きでえらい♥」
 みかんの全肯定甘やかし攻撃に、翔太は身も心も完全に蕩けた。
 えらい、えらいと賞賛の言葉が次々と流れてくる度、胸に優しく、かつ温かいものを感じる。
「ずっと辛かった! 僕の仕事の成果を全部課長の手柄にされたり! 同僚に飲み会で一発芸やれって言われたり! 何にも浮かばないのに! 滑った罰で飲み代全部おごれなんてひどすぎるよ!」
「うんうん、辛かったねー。しょーちゃんはこんなにいいこなのに。皆懲らしめてやりたい」
「父さんも母さんも他の家の子供と比べてばっかりで、僕のことなんて全然見てない! 学年2位なら褒めてくれてもいいじゃんか!」
「しょーちゃんって頭いいんだね。わたしはいっつも赤点ギリギリだったなー。しょーちゃんはえらいぞー♥」
「努力だっていくらでもしたし、結果も出したさ! でも誰も認めてくれない! もうこれ以上頑張れないよ!」
「よく頑張りました♥ しょーちゃんはとっても頑張った♥ だからいーっぱい甘えてー♥」
 いくら愚痴を吐いても、みかんは全てを受け止めてくれる。
 翔太は生まれて初めて、自分を甘やかしてくれる人に出会った。

「うぅ……」
「よしよし、しょーちゃんはいいこだねー♥」
 一頻り泣きながら、全てを吐き出した。
 その間、みかんはずっと翔太の頭を撫で抱えていた。
(熱心なファンだとは思ってたけど、こんな頑張り屋さんな子だったんだ。……なんだか、嬉しいな)
 自分を応援してくれる存在が、とても誠実な人間だった。
 それはみかんにとって、胸がぽかぽかする、素敵なことだった。
(この子可愛いなー……おや?)
 そして、みかんは気づく。
 翔太のある一部分の変化に。
「しょーちゃーん?」
「……え?」
「これ、なーに?」
 からかうような口調で、みかんが指した先は、翔太の股間部分。
 どう見ても、明らかにその部分は隆起していた。
「あ……あぁっ!」
「待っーた」
 慌てて隠そうとした翔太の手を遮り、みかんは股間に一気に顔を近づける。
 心なしか更に大きくなった膨らみを見て、みかんはにっこりと微笑む。
「しょーちゃんも男の子だねー。健康的でよろしい!」
 おどけた調子で翔太を褒めるみかん。
 しかし、翔太の様子がおかしい。
「あぁ……」
「?」
「……さようなら」
「え? ちょ、ちょっと待って!」
 とぼとぼと部屋の出入り口に向かう翔太を、みかんは抱き着いて止める。
 雰囲気から感じた。このまま部屋から出したら、大変なことが起こると。
 そして、その予測は当たっていた。
「大丈夫です。誰にも見つからないところで死ぬので」
「えっ!? いや何も大丈夫じゃないよ! 死なないで!」
「こんな浅ましい人間のことなんて気にしないで下さい。活動に支障が出たら大変ですから」
「しょーちゃんに死なれた方が大変だよ! 一体どうしたの!?」
 虚ろな目をして、突然の自殺宣言。
 困惑するみかんに、翔太は静かに胸の内を開ける。
「憧れの綾瀬さんに対して、こんな浅ましくて邪な思いを抱いてしまうなんて……僕は人間失格です」
 自分にとって、綾瀬みかんは憧れの存在。
 にもかかわらず、そんな存在に対して欲情し、勃起してしまった自分が許せない。
 思いに反する生理現象の発現に、翔太は苛まれていた。
 ……が。
「嘘、え、本当に?」
「えぇ、僕は愚か者で……」
「ヤバい超嬉しいんだけど」
「……え?」
 みかんは頬を赤く染めながら、口元を覆い隠していた。
 驚きと喜びが入り混じったような感情が、表情から窺える。
「いやー、わたしのムービー見てくれてるからそうとは思ったけど、マジだったかー」
「……どういうことですか?」
「しょーちゃんが使ってるムービー採点って、他の女の子も出るよね? 収録されてる中だと、わたしがダントツで貧乳なんだ」
「いや、そんなことは……」
「そんなことあるって。まぁ、そもそもわたしはおっぱいで勝負するタイプじゃないけど。で、そんなわたしのムービーをいつも見てくれてるから、もしかしたらと思ったら……ここ、わたしでこーんなにおっきくしてくれたんだねっ♥」
「うっ!」
 今度は楽しげに笑いながら、翔太の一物をズボン越しにつつく。
 固い生地越しであるにも関わらず、それだけで強い快感が翔太を襲った。
「それに、わたしの身体だけじゃなくて、歌も好きなんだよね。意外といないんだよね、どっちも好きな子って。もしかしなくてもしょーちゃんぐらいしか」
「そんなことないです! みかんちゃんの魅力はもっとたくさんの人が知っています!」
「だといいんだけど、正直自信ないんだよね。特に歌の方は全然。事務所はセイレーンの魔力でゴリ押ししてくれればいいって感じでさ。わたしは素の歌で勝負したいのに」
「みかんちゃん……」
 翔太は悲しんだ。
 それと同時に、悔しいとも思った。
 初ライブからずっとみかんを追っている翔太からしたら、みかん以上のアイドルも、歌手もいない。
 なのに、それを知る者は少なく、事務所は間違った理解をしている。
「だからさ、いっつもライブに来てくれて、全力で楽しんで、わたしを応援してくれるしょーちゃんが大好きなんだよね」
「ありがとうございます。僕もみかんちゃんが大好きです」
「……しょーちゃん。しょーちゃんも勘違いしてる。……んっ」
「んっ!?」
 少し不満げな顔が、突然ゼロ距離になった。
 それが唇を奪われたと気づいた瞬間には、舌を突っ込まれていた。
「ん……んちゅ、ちゅ……」
「んんっ!? んっ、んっ!?」
 みかんの少し短めだが、肉厚の舌が翔太の口内を蹂躙する。
 舌を絡め、歯列をなぞり、上顎に舌を押し付け、たっぷりと責め舐る。
 それが一頻り続いた後、唇を離すと。
「わたしは、しょーちゃんをファンとしてじゃなくて、一人の男の子として好きなんだよ♥」
 みかんは以前から、自分を真っ直ぐに見てくれた翔太に、何か個人的な恩返しをしたいと思っていた。
 その思いは、翔太の境遇を知って、なおのこと強くなった。
「だからさ、しょーちゃんがわたしでおちんぽ固くしてくれたのって、すっごい嬉しいんだ」
「!?」
 ディープキス、告白、淫語。
 その全てがみかんの口によって行われたもの。
 わずか数時間前までは予想だにしかなったことの連続で、翔太の頭は回らなくなった。
 それでも、みかんは止まらない。
「ぼーっとしたしょーちゃんも可愛いけど、そろそろ目を覚ましてもらおっかな。えいっ!」
「うわっ!?」
 みかんに虚を突かれ、翔太はソファーに倒れこんだ。
「ご開帳〜♥」
 その勢いでベルトを外され、そこから一気にパンツごとズボンを下ろされた。
「おぉ! これがしょーちゃんの生しょーちゃん! おっきい!」
「ちょっ、えっ、みかんちゃん!?」
「いっただっきまーす! あむっ!」
「んんっ!?」
 前振りも断りもなく、みかんは迷うことなく翔太の肉棒を咥えた。
 本能の赴くまま、猛烈な速度で舌を絡ませて舐めまくり、徹底的に嬲り尽くす。
、あまりにも突然の激しい口淫に、翔太は一瞬で腰が砕けた。
「んっ、んっ、んっ……ほほらへんかな?」
「あっ! みかん、ちゃんっ!」
(弱点みーっけ。ここが気持ちいいのかー)
 セイレーンの発声器官は、人間のそれとは質が違う。
 魅了の歌声は勿論のこと、彼女達にとって舌は、交わりの際の強力な武器。
 発達した舌筋は正に人外の速度の舐め回し・舐めしゃぶりを可能にし、鋭敏な感覚で相手の弱点を即座に察知する。
「んじゅるるる……んっ、ぷはっ。わたしのお口、気持ちいい?」
「気持ちいいけど、こんな……」
「もっと気持ちよくしてあげるねっ♥ あーむっ♥」
「うっ!」
 みかんは竿から離れると、今度は玉を責め始めた。
 片方ずつ丹念に舐め、口に含んで転がし、大口を開けて両方を吸う。
 性感がどんどん高まり、溜まった欲望を吐き出したい衝動に駆られ、翔太の息が荒くなる。
「はぁ、はぁ、あぁっ!」
「ちゅぱっ。……よし、これだけねりねりできれば十分かな。じゃ、一気に射精そっか♥」
「え……」
「しょーちゃん、ここからイクまでノンストップだからね。気を確かに持つんだぞ。あむっ!」
「うぅっ!?」
 竿を咥えこむ責めが再開した途端、みかんは激しく舌と頭を動かした。
 苛烈なまでの舌技に、性交を想起させるピストン刺激まで加わる。
 唇、舌、歯、口内粘膜の全てを使って、精液を搾り取る為の極上のフェラチオは天国か、地獄か。
 いずれにしても翔太程度の性経験では、どう足掻いた所で耐えられる訳がなかった。
「んーっ、んっ、んんっ!」
「あっ! みかん、ちゃ、もう、射精っ!」
「んんんっ!」
「あああああっ!」
 みかんが一気に口を押し付け、亀頭が喉に触れた瞬間、白濁色の欲情が弾け出た。
 陰茎の根本、肛門の奥底から搾り取るような吸引と、同じ場所から先端に至るまで響く快楽。
 間違いなく人生最高の射精を、翔太は憧れのアイドルの口の中で吐き出した。
「ちゅー……ぷはっ。んっ……♥」
 長い射精がしっかり終わるまで吸い、口から溢れるほどに搾った精液を、みかんは静かに飲み込んだ。
 目を細め、恍惚とした表情で顔を赤らめながら、舌を回して最後まで味わう。
 自分のことを真剣に、真っ直ぐに見てくれるファンの、真っ直ぐな射精。それを自分の口で導いたという満足感と、達成感が心と脳に広がる。
「……ふぅ。しょーちゃんは射精も、ザーメンもおりこうさんだね。喉の保湿にいいかも」
「みかんちゃん……ごめん……」
「謝らないの。わたしはしょーちゃんにご褒美をあげたいの。それに、本番はこれらかだよ?」
「えっ……まさか」
「ここまで来たらもう楽しんじゃおうよ。っていうか、わたしがガマンできない!」
「わぁっ!?」

 翼を一振りして、滑るようにマウントポジションへ。
 そこから少し後退して、互いの性器の位置を合わせれば、あとは水着をずらして腰を落とすだけ。
「しょーちゃんはラクにしてていいからね。わたしが全部してあげる♥」
「でも、みかんちゃんはみんなのアイドルだから……」
「今のわたしはアイドルである前に、君のことが大好きな女の子だよ」
 みかんは笑顔だが、その表情は普段の人懐っこい笑みとは全く違う。
 それは人間と魔物娘の関係を表したか、或いは獲物を前にした捕食者のような、妖艶な笑み。
 それがみかんの幼げな容姿と相まった結果、年端もいかない少女に捕食されるという、これから始まるのは何かを否でも想起させつつ、危ない色香を纏う魔物娘がそこにいて。
「えいっ!」
「うあっ!」
 未だ固さを失わない肉棒の先端に、ほぼ一本筋の陰裂が触れる。
 そして、肉棒の半分程をめり込ませるように迎え入れた後、腰を一気に根本まで落とした。
「あぁん!」
「うっっ!?」
 魔物娘の本能的欲望が満たされていくのを感じ、みかんは可愛らしい嬌声を上げ、翔太は強く締め付けるだけではなく、無数の襞が蠢く膣穴に己が一物を締め上げられ、思わず呻く。
「えへへ、入っちゃったね♥」
「ちょ、みかんちゃん!? せめてゴムを!」
「やだー♥ しょーちゃんのおちんぽはナマでいぢめるのー♥」
「赤ちゃんできちゃうよ!? アイドルができなく……」
「ママドルになるー♥」
 魔物娘の膣に陰茎が入り、精を搾られずに解放された例は確認されていないし、みかんに避妊の意思は全くない。
 相手が大好きな男なら、妊娠上等、孕まセックス大歓迎。
 ぐりぐりと腰を押し付け、程好くなじませた頃合いで、みかんは上下運動を開始する。
「あっ、あっ、あぁん! しょーちゃんのおちんぽ気持ちいい〜♥」
「みかんちゃん! これ、狭くてっ!」
 セイレーンはそもそもの体型が大きくない種族であることに加え、みかんはその中でも小柄な方。 
 必然、膣は極めて狭いキツキツ型。
 それが濡れやすくて襞の数がとてつもなく多いという、みかんの膣内の特性と合わさるとどうなるか。
(何、これ……! すごくキツいのに、すごく気持ちいい……)
 凶暴に締め付けながらも、ぬるぬると簡単に動く、優しさと激しさを併せ持った名器。
 それを水着姿で感じまくる幼い少女に見下ろされながら、生でハメるという背徳感といったら。
「ほら、んっ、もっと気持ちよくなっちゃお? 大好きなアイドルと生ハメセックスしてるんだよ?」
「そんな! みかんちゃんは、みんなのアイドルで……」
「そのアイドル本人とヤレちゃうのはしょーちゃんだけだよ♥ 事務所の偉い人でも、イケメンな芸能人でもなく、しょーちゃんだけ。すっごい幸せだよね♥」
 優越感を煽り、今起きていることがどれだけ奇跡的なことかを実感させようとするみかん。
 だが、それは翔太には逆効果だった。
「……うっ」
(あれ?)
「うぇぇぇぇぇん……」
「えっ!? しょーちゃん!?」
 突如、翔太はさめざめと泣きだした。
 焦るみかんは一度動きを止め、翔太に顔を近づける。
「急にどうしたの!?」
「……本当なら、僕はみかんちゃんを突き飛ばしてでも離れなきゃいけないのに、気持ちよくて……結局、僕は身勝手に気持ちよくなってるだけで、情けなくて……」
(あー、そういうことか……)
 みかんとしては、翔太をされに興奮させるつもりで優越感を煽ったのだが、それは翔太にとっては罪悪感が刺激されるだけだった。
 どちらかと言えばアイドルという立場でありながら、ほぼ逆レイプ同然に襲い掛かったみかんの方が身勝手なのだが、翔太は自分を責めることをやめない。
 そんな翔太を見たみかんは。
「ごめんね、しょーちゃん」
「みかんちゃんが謝ることは何も……」
「悪いけど、わたしはそんな弱っちくて、優しくて、めっちゃ誠実なしょーちゃんが大好き。それにね、わたしのファンってしょーちゃんは勿論だけど、いい子ばっかりでさ。わたしに本気で好きになった相手ができたら、いつでも笑って送り出す覚悟はできてるんだって」
「え……?」
 意外なことだった。
 特定の誰かを愛することが禁忌とされているはずのアイドルが、そのファンから恋を応援されている。
「そもそもわたし、ガチ恋されるのが苦手で、ファンとは丁度いい感じの距離感でいたいっていうのもあるんだけどさ。だから、本気で好きになった相手ができたらガマンしないって決めてるの。で、その相手はもちろんしょーちゃん」
 真剣な表情で、はっきりと言い切ってから。
 みかんはもう一度、腰をゆっくりと動かす。
「うっ!」
「だから、さ」
 柔らかな翼で、翔太を抱きかかえるように包み。
「しょーちゃんは、みんなからも愛されてるし、祝福されてる。もしもそれに報いたいって思うなら……一緒に、気持ちよくなろっ♥」
「あああああっ!」
 一気に、腰の速度を最速にした。

「んっあっあっんっあっあっんっ!」
「あああああっ!」
 パンパンパンパンと、腰を打ち付ける音が高速で鳴り続ける。
 にちゃにちゃねちゃねちゃと、愛液とガマン汁にまみれた性器同士が擦れる音が鳴り響く。
「しょーちゃん大好き! ねっ、しょーちゃんも大好きって言って!」
「う、うん! 僕もみかんちゃんが大好き!」
「しょーちゃーん!」
 抱きしめる力を強めると、膣圧も強まる。
 ただでさえギチギチに絡みつく膣が、凶悪なまでの締め付けで陰茎を責め立てる。
「みかんちゃん、気持ちいい!」
「わたしも! しょーちゃんのおちんぽ、わたしのおまんこにすっごい効く!」
「みかんちゃん! 大好き! 愛してる!」
「うん! わたしもしょーちゃんも、しょーちゃんのおちんぽも大好き! 愛してるよー!」
 アイドルとそのファンが、互いに愛を伝え合う。
 翔太は自分の気持ちを偽らないことを決め、みかんはそれに応える。
 たっぷりの愛情が性感と幸福を累乗のものにし、自制心を溶解させた。
「褒めて! みかんちゃん、僕のことまた褒めて!」
「しょーちゃんはえらい♥ わたしのこと愛してえらい♥ わたしのアイドルおまんこ気持ちよくできるのはしょーちゃんだけ♥ しょーちゃん愛してる♥」
「もっと! もっと褒めて!」
「おちんぽガチガチでえらい♥ おまんこ気持ちよくするの上手でえらい♥ 生きててえらい♥ とーってもえらい♥」
「みかんちゃーん!」
 ずっと、ずっと、無限に全肯定。
 それを全て、素直に喜ぶことができる。
 みかんの愛情セックスは、翔太の自己肯定感を大きく回復させた。
 そして、その証が更なる快楽を伴って昇ってきて。
「ね、ぴゅっぴゅして♥ わたしの子宮に、いい子なしょーちゃんの優秀遺伝子、いっぱいちょうだい♥」
「うん! みかんちゃんの中に、全部!」
「いいこいいこ♥ じゃ、おりこうさんで、いい子で、可愛いしょーちゃんの特濃ザーメン、わたしのアイドルメスまんこにどうぞ♥」
「うっ……ああああああああああっ!」
 大好きな、憧れのアイドルの、死ぬほど気持ちいい膣の中に。
 一気に、白濁の塊となって弾けた。
「んんんんんっ!」
 同時にみかんも気をやり、膣が激しく収縮する。
 射精前、射精中も、射精後の全てで陰茎に与える快感は、この世のものとは思えなかった。
 それが遥か遠い存在だったアイドルに、ゼロ距離で精液を注ぎ込むことによって感じたこととなれば、精神的な充足も尋常ではなく。身体の細胞の一つも、心の一かけらも余すことなく、全身と全心で愛と悦楽に溺れる。
 これ以上の幸せなど……
「がんばれがんばれ〜♥」
 あった。
「お射精がんばれー♥ ぴゅっ、ぴゅっ、ぴゅーっ♥ 上手に射精できてえらいぞー♥」
(あ……あ……)
 みかんの射精応援に、射精音囁きに、射精褒め。
 最早、ただ甘やかすとかの騒ぎではなかった。
 自制心や罪悪感どころか、言語能力など、人間として形を保っていられる要素さえも溶かして、完全に堕とす気しかない、糖蜜漬け甘言責めという、暴力だった。
「おりこうぴゅっぴゅえらい♥ 気持ちいいお射精できてえらい♥」

 意識を取り戻した翔太が最初に聞いたのは、時間を知らせる内線電話の音と、それに応対するみかんの声。
「えーっと、とりあえず30分延長で」
「……あ」
「はいはーい。あ、しょーちゃん起きたんだ」
 にぱっとした、普段のアイドルらしい笑顔で振り向くみかん。
 未だうまく頭の回らない翔太だったが。
「……夢?」
「現実」
「……あの世?」
「この世。天国ではあったと思うけど。えいっ」
「痛っ!」
 今度は左の頬をつねられ、現実だと気づく。
「そっかぁ……みかんちゃんと、本当に……」
「えへへ。気持ちよかった?」
「勿論。最高の思い出ができました」
 一生、みかんを応援し続けよう。
 そういう思いを込めて言った翔太だったが。
「何言ってんの? これからもヤるよ。しょーちゃんとセックス」
「……え? えっ!?」
「だって、体の相性まで最高なんだもん♥ わたしとつがいになる相手、しょーちゃん以外考えられない♥」
「いやいや! そりゃ、責任取らないといけないとは分かってますけど、そこまで!?」
 翔太にとって、これは一度の過ちのつもりだったが、みかんにとってはただ一回目というだけ。
 予想外の展開に、翔太は困惑した。
 一方、そんな翔太をよそに、みかんは聞く。
「ところでしょーちゃんってさ、お料理得意?」
「え……まぁ、それなりに」
「お掃除は?」
「好きですね。朝に始めて、気づいたら夜になってたってことが一度」
「お洗濯」
「昔、クリーニング店でバイトしてたんですよね。上司にシミ抜きとか、ボタンつけとかよく頼まれます」
「よし完璧。じゃ、うちに引っ越そっか」
「え!?」
 突然の同棲宣言。
 翔太はなおのこと困惑するばかり。
「いやいやいや! 何を言ってるんですか!?」
「ここだけの話さ、わたしってめっちゃ生活力低くてさ。部屋とかほぼゴミ屋敷だから、家に訪問ある系の仕事全部断ってるんだ。お料理も全然だから、基本サプリと既製品の完全食ばっかだし。しょーちゃんが一緒に住んでくれると、すっごい助かるなー♥」
「だとしても! それなら代行サービスの人とか……」
「それだと一番大事なことできないよ?」
「大事なこと……?」
「毎日、しょーちゃんに「おかえり」って言ってもらうこと。大好きなしょーちゃんにそう言ってもらえたら、疲れなんて一気にふっ飛んじゃう」
 今度は頬を緩め、普通の女の子のような笑みを浮かべるみかん。
 翔太に出迎えられることを想像したらしい。そして。
「そしたら、毎晩ドスケベセックスでいい意味で疲れられるし♥」
「いやですから、そういう訳には……」
「もーめんどくさーい! わたしはしょーちゃんのことがめっちゃ好き! しょーちゃんと交尾するのめっちゃ気持ちいい! しょーちゃんと結婚したらめっちゃ幸せ! だから同棲する! 何か文句ある!?」
「みかんちゃんは、アイドルで……」
「ならアイドルやめる! そもそも、アイドルになったのも歌手になる為だもん! しょーちゃんと付き合えなくなるなら、アイドルなんてやる意味ない!」
「そっ、そこまで!?」
「しょーちゃんはどうなの!? わたしのこと、好きだよね!? ならいいよね!? ほら答えて! 3、2、1……」
「あっ、あっ、あっ!」
 一気にまくし立て、翔太に決断を迫る。
 その結果、翔太は。
「……そのっ、不束者ですがっ!」

「宜しく、お願いしまーーーーーす!!!!!」

「わーい! わたしもよろしくねー!」
「うん! よろしく!」
 最愛のアイドルと、生涯を共にする覚悟を決めた。

 数ヶ月後のある日。
「たっだいまー!」
「おかえり」
 みかんの帰りを出迎え、荷物を預かる翔太。
 翔太は会社を辞め、専業主夫となっていた。
「おかえりって迎えてくれる人がいる生活っていいねぇ……」
「ただいまって帰ってきてくれる人がいる生活も最高です」
「しょーちゃんったらー♪ 大好き♥ ぎゅー♥」
 帰宅したらハグがお約束。
 なお、出かけるときはキスがお約束である。
「できることなら、ちゃんと片付けもできるようになるともっと幸せなんだけどね。同棲初日で片付け終わらないとは思わなかったよ」
「あはは……まぁ、そこは追々……」
「みかんは頑張れる子だって知ってるよ」
「……はい」
 家事をすること自体は苦ではないが、流石に生活力が低すぎると問題がある。
 自己肯定感を取り戻した翔太は、言うべきことは言えるようになっていた。
「明日から、3日オフなんだっけ?」
「そ。1年ぶりの3連休。いーっぱいイチャつけるね」
「そうだね。どこか行きたいとこある?」
「うーん、行きたいとこというか……」
 問いに対して目線を空に泳がせた後、翔太の目を見て。

「そろそろさ、3人でどっか行きたいと思ってて」

「……実は、僕もそう思ってた」
「なおこの3連休、的中率めっちゃ高いです」
「報告順、前に決めた通りで大丈夫?」
「うん。じゃ、とりあえずその為の栄養を摂ろうか」
「今日は具沢山のパスタだよ」
「いただきまーす!」

みかんの一般男性との交際及び妊娠の発表は、1ヶ月後のことだった。
25/07/03 18:20更新 / 星空木陰

■作者メッセージ
お久しぶりです。忙しかったり色々あったりで離れておりましたが、執筆を再開しました。

画面の向こうの存在が現実に。そしてそこからイチャラブへ。魔物娘とのカラオケはこんな感じになりそうです。

※作中、翔太が部屋に入った時点で、監視カメラは切られています
※現実において、カラオケボックスでの性行為は様々な問題がありますので、よい大人も悪い大人も真似しないで下さい

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