秘密基地の奥で

「おーい、早く進めよー!」
「待てって!げじげじが大量に居るんだってば!」
「そんなの無視して大丈夫だよ!ヘルメットだってかぶってるし!」


「・・・・・・・・・・・・。」

とある地方の田舎町。その町の中に、雨水溝に面した人為的な横穴がある。その横穴の中で、少年少女の声が響いていた。
彼らは今、いつもの遊び仲間で洞窟探検をしているのだ。
あわよくば秘密基地にしてしまおうという魂胆であるが、さすがにこの狭すぎる洞窟を秘密基地にするのは無理があるだろう。


「おいお前ら。いい加減ここいらで進むのやめにしないか?というか、帰っていいか俺?」

痺れを切らした俺は、少年たちに声をかける。

「ダメだよ!もしも何かが出てきたら僕たちじゃ倒せないかもしれないじゃん!」
「そうだよ!私、つき兄さんが居てくれないとやだ!」
「ほら、皆こう言ってるだろ?おれからも頼むよ、兄貴。」


若い少年少女が秘密基地やら探検して遊びまわるのは非常に良い事だ。
良い事だとは思うが、良い歳した兄貴を連れまわすのは正直言ってやめてほしい。
だいたい俺はこいつらと違って身体が一回りもふたまわりも大きい。彼らでさえ窮屈な洞窟を一緒に進むという遊びは、俺にとって過酷でしかない。


俺の名前は、片尾一生。地元で作家をしている。
作家とは言え一心不乱に机に向かうようなものではなく、気が向いたら書いてみる、といった風な感じだ。
どちらかといえば……
この年の離れた弟とそのツレの保護者といったほうがしっくりと来そうである。


「このわかれ道を右に行くと沢に出る。まっすぐ行くのは今日が初めてだぜ!」
「皆、恒太に続けー!」
「おー!」

恒太というのが俺の弟。そしてその右腕的存在友哉。唯一の女の子であるかえでちゃん。皆もう中学生になるはずだが、このはしゃぎようはまるで小学校低学年生のようだ。
世話の焼ける面々に、毎度俺は連れまわされるのである。



「うわぁぁぁぁあ、げじげじが大量に居る!!」
「だからこの前は引き返したんだ。しっかりと照らしてくれよ!!」

蚰蜒に噛まれた場所は禿げると言われているので、恒太たちはバッチリとヘルメットを装備している。
しかし、やはり虫が体に這い上がってきたりするのが怖いのだろう。

前衛の恒太が木の棒で蚰蜒を一匹一匹つぶし、
中衛の友哉が懐中電灯で足元や壁の蚰蜒を照らす。
後衛のかえでちゃんはどちらかといえば護衛要人のようなもので、
最後尾の俺が、後ろから何かが襲ってきた(笑)時の為の用心棒のようになっている。

ちなみに、俺の頭は全くの無防備である。ヘルメットなんぞかぶったら余計に狭くなるからな。



途中何度かわかれ道を抜ける。
地図なんてものを作る程の迷路でもなく、ただ何度めの曲がり角をどのほうへ、という風に覚えておくだけだ。
一応帰りのことも考えて、どこから来たかわかるように目印を置いて行くらしい。主に俺が。
途中、俺でも立って歩けるぐらいのところもあったが、やはり基本的には狭い道ばかりのようだ。


「しっかしこの穴、一体何なんだろ」
「さあな。やっぱり人が作ったモノっぽいぜ?分かれ道なんかもはっきりしてるし。」
「もしかして"こだいいせき"だったりするのかな!」
「(嗚呼、早く帰りてえ......)」


そんな風に進んでいると、突然広々とした空間へ出た。
天井も高く、広さは普通の学校の教室より少しは大きいぐらいだろうか。四角い形をしている。
恒太たちはさっそく秘密基地がどうのこうのとはしゃいでいるが、いちいち秘密基地にたどり着くまでにどれほどの体力が必要になるのだろうか。だがあえて弟たちには突っ込まない事にする。


予備に持っていた懐中電灯であたりを照らす。
すぐ手前に、一段だけ上る少し高い段差があった。だいぶん泥が乗っているが、下地は石のようだ。
そしてその石の台の真ん中に、一本だけ溝が走っている。

なるほど。

もう少しあたりを見てみる。

台の真ん中を通る溝は、壁の中にまで続いている。そして、その壁の奥から、うっすらと光が見えた。
光が見えるが、外の様子は全くわからない。
だが、その溝から見て右奥、この部屋への入り口から右手前の方に、俺でも余裕がある通路があり、
その奥からははっきりとした外の光が漏れている。

行けば、苔むした石の階段が外に伸びていた。

そこを登ると――――――――――
友哉の家の目の前にあるため池の対岸に出た。
対岸といっても、足場は広いわけではない。
あのメンバーと俺なら、机を囲んで軽いお茶会ぐらいならできそうな広さだ。
釣りにも適していると思うが、ここに出るためにはあの横穴を通って来るほかルートがなさそうなので、道具を持ってくることはまず無理だろう。

すぐわきに、ため池の水をせき止めている木の板が見える。


古代遺跡、ねぇ。



その横穴は、田畑へ水を引くための用水路だったようだ。
そういえば田植え前や夏、水田に水が必要な際や雨季、この横穴とつながっている雨水溝は水浸しになっていた。
今は収穫が終わってしまった秋だから水は完全にせき止めてある。

俺はポケットの中に居れていた手帳と、万年筆をとりだした。

これは後で読み返して、筆の肥やしにするアイディア帳だ。
他にも様々な出来事が書き記してある。
そのメモ帳に、新たな出来事を描き加えていく。

「あっ!」

手帳にメモをしていると、俺が先ほど出てきた階段から友哉の顔がのぞいた。

「おーい!いつきさんこっちに居たよー!」

友哉が秘密基地(?)のほうへ声をかけると、恒太、かえでちゃんも一緒に出てきた。

「よかったー。いきなり居なくなんなよ兄貴!心配したじゃねーか。」
「ホントだよ!私つき兄がトラップに引っかかっちゃってワープしたかと思ったじゃない!」
「ハハハ、わりいわりぃ。」
「あ!アレ僕の家だ!向こう岸に僕の家が見える!」
「おぉ、マジだ!船か何かあればもっと楽に来れそうだな。」

好奇心旺盛な子どもたちはまた秘密基地経営の話に盛り上がっている。



ハハハ、次からは船を漕いであげなくちゃいけないのか。






――――結局その日は、石の台の上の泥を掃除して、また来た道を引き返した。
体中が痛い。できれば俺はもうご一緒したくないが、弟たちはまだ行っていない道を調べるとかで意気込んでいる。

まぁ確かに、用水路にしては分かれ道がいくつかあったし、気にならないと言えば嘘になるが


さっそく気になった事をメモしようと、ポケットの中の手帳を探すが、

「え、な、ない!?」

そんな…………まだ書き起こしていないアイディアがたくさんあったんだが…………
心当たりを探して回ったが、やはりみつからない。
まさか……あの横穴の中に!?

内心行きたくない気持ちもあるが、大事なアイディアが詰まった手帳だ。
それに、明日取りに行くというのも気が引ける。
何せ用水路なわけだから、長い間放置しておけば、湿気を帯びてダメにしてしまう。もう手遅れかもしれないが、なるべく早く取りに行った方がよいだろう。



そうして俺は、深夜の横穴へと出向くのだった。







秋の夜は少し肌寒く感じる。
だが、横穴の中はそれ以上にひんやりとしていた。

一応秘密基地への道順は覚えていたので、狭くて進みにくい事以外何の問題もなく秘密基地へとたどり着いた。
だが、どこを探しても見当たらない。どうやら徒労に終わってしまったようだ。

あきらめて用水路から出ようとする。



進行方向が逆になると、どちらへ進んでいたのかが全く分からなくなってしまった。
焦っていたので、元来た道の目印を置いておくのを忘れてしまっていたのだ。

既に何度か分かれ道を曲がってしまったので、完全に迷ってしまった状態だ。


もしかしたら他の出口にもつながっているかもしれない。

そんな希望を膨らませ、やみくもに暗闇の奥へ進んでいく。
しばらくすると、だんだん周りが広くなり始めた。
気付けばあたりは、もとの人為的に掘られた用水路ではなく、不規則な壁や広さの天然の洞窟のようになっている。

そして、開けた空間に出た。
洞窟に切り替わったあたりから普通に立って歩くことはできるようになっていたが、それでも圧迫感という物が少なくなり、幾分か気分が落ち着く。




ここは秘密基地程の広さは無いみたいだが……

「うわぁぁっ!」

ドサッッ

いきなり上から何かが降りかかってきて、俺は洞窟の地面に倒れた。
とっさに体を起こそうとするが、突如その何かに腕を抑えられ、身動きが取れなくなる。

「クスクス……捕まえたわよ。」
「なっ、女!?」

俺の上に降ってきたそいつは、意地悪そうに笑いながら俺を押さえつける。

「な、何なんだだお前は!とりあえずはなせ!」
「嫌よ。せっかく捕まえた獲物なんだもの。」

え、獲物!?

その時、懐中電灯に照らされたそいつの姿を初めてはっきりとみた。

どこに力を込めればこんな強い力が出るのかと不思議に思うほど細い体のライン
光など浴びた事がないというように白い肌
服、なのだろうか。首や胸などに巻いたベルト
長い前髪を左右に分けた、少し長いセミロングの髪
全体をみると、綺麗というか格好いい類の女性に見える。
だが何より目を引くのが…………

頭の上部にある大きなコウモリの耳と、
俺を押さえつける巨大なコウモリの腕と翼


――人間じゃない


コウモリのような見た目。
そして、獲物という単語。




「……まさか!? やめろ!俺を離せ!!」
「アハハ!生きの良い獲物ね。この子は楽しみがいがありそう。」
「ふざけるんじゃねぇ!さっさとこの手をどけやがれ!」
「あら、怖がっちゃって。……かわいい。私がそんなお願い、聞くと思ったの?」

そう言って、女は徐々に顔を近づけてくる。
だめだ。このままでは俺は……
弟たち3人の姿が目の前に浮かぶ。わりぃな、お前ら……

「それじゃそろそろ、頂くわね。」

俺が居なくなっても、仲良く――

「んむっっ!?んんんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!」
「はむっ、ちゅうううううううううううううううううっ!!!」

激痛を覚悟していた俺は、突然の女の不意打ちに驚く。
俺が女に唇を奪われ、激しく吸われているのだと理解するまで、しばらくかかった。


「っぷはぁ。あら?キスだけで堕ちちゃったの?案外ウブなのね。」
「な、なにを・・・・・・むぅっ」

今度はいたわるような優しいキス。
俺はすっかり身体から力が抜けきっていた。

抵抗される心配は低いと思ったのか、女は片手を俺の手から離した。
だがとたんに、俺が来ていた服が引き裂かれる。

いきなりの事なので驚き、解放された手で女の肩を突き飛ばし、距離を置いた。

「あ、まだ逃げる気力があったんだ。さっきまでキスでとろけてたのに。」
「うっ、うるさい!一体何しようってんだよ!」
「クスクス……君の身体が今やりたがっている事、かなぁ?」

不気味にニヤける女の目線をたどると、テントを設営している俺の股間が見えた。
仮にも女の子にこういった状態になっているのを見られたくはないのだが……
しかし、こいつは人間じゃあない。
底知れぬ恐怖が体の奥から湧いてくる。

まともに相手ができそうにない相手からは、逃げるのが一番良い。

「ああそうかい。今のは、植物の名前だぜっ!」

そう言って元来た方へ駆け出す。
とにかくあいつからできるだけ遠くに逃げないと――――――

「――逃がさないよ。」

ィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!

「ぐあぁぁっ!!」

突如激しい耳鳴りと頭痛に襲われ、その場に倒れもがく。
何なんだ、この音は!


音が止むと同時に、女が近付いてくる。よく見るとひざより下の脚には獣のように毛が生え、かぎづめも付いている。

「よく効くでしょう?私の超音波。もうこれで逃げられないよ?」

音は止んだし頭痛もだいぶ治まったが……、なぜか身体が満足に動かない!
全く身動きが取れないまま、遂に女にあおむけに寝かされ、ズボンとパンツを引き裂かれてしまった。

「クスクス。女の子に襲われて、ここを大きくしてるなんて、変態ね。」
「あ・・・・・・うぅ・・・・・・・・・・・・」

彼女は、何も抵抗できない俺の顔の上にまたがってくる。
どうやらスカートのような襤褸の下には、何も穿いていなかったらしい。少し湿った、何も生えていないアソコを俺の顔に押し付けてくる。


「んうぅ!!んーー!んーーー!!!」
「舌は充分に動くでしょ?わたしを満足させてよ。」
「・・や・・・・だね・・・・・・んっ、ぅぅっ!!」
「あら、そう。だったらそのまま窒息しちゃいなさい。私はその間こっちで遊んでるから。」

そう言うと女は、俺のいきり立つペニスを口でしゃぶり始めた。

「あっ!あぁぁぁあぁぁああああぁぁあ!!!」
「ぴちゃ…ちゅう……んふっ、ろうひはお?ふぉんあいおおひぃほえおあひへ(どうしたの?そんなに大きい声を出して)。」

口にくわえたまま女が話しかけてくる。
喋るたびに口の中の些細な動きが、俺のペニスに激しい刺激を送りこんでくる。

「くっ、やめっ!咥えたまま喋んっ、あぁっっ!!」
「フフフ……ひもひいい?」

女の容赦ない攻めに、俺はもう我慢が出来なくなってきていた。

「ぐっ、だ、ダメだ、でる!!!」

しかし女はそれを察したのか、俺のモノから急に口を離してしまった。

「ん、ぷぁ。危ない危ない。」

「え・・・・どうして?」
「どうしてって言われてもねぇ。アハハ、君、嫌だったんじゃないの?だからやめてあげたのに。」
「くっ、うぅ・・・・・・」

まるで生殺しだ。
まだ体に力が入らないから、もがく事も出来ない。

どうするべきか考えていると、女はペニスの先をちろちろと少しだけなめ始めた。

「ほーら、おちんちん切なそうにぴくぴくさせちゃって。どうして欲しいのかなー?」

最大の屈辱といっても良い。というか、恥ずかしすぎる。
だが射精間際でじらされているより、恥を忍んだ方がマシか……

しかしよく見てみると、俺の上に乗っかっている女は、人間ではないとはいえ相当な俺の好みだった。

髪留めをはずせば目を隠してしまいそうなほど長い前髪
あえかな身体だが身長はそこまで低くは無い。
口の端からのぞく八重歯に、ベルトのような服に隠された極端に薄い胸。


――――勘違いしている人もいるかもしれないが、もし俺がロリコンだったらとっくにかえでちゃんに手をつけているだろう。
昔不思議な雰囲気をした男が、妖精の国がどうだらとか勧誘してきた事があった。
佐藤敏夫と名乗った彼は、俺が扉を閉めようとするとありえない速さで俺の背後に回りこみ、
「さぁ、共にロリ一万年帝国を築く第一歩を踏み出そうじゃないか!!」
その時内心恐怖しながら、俺はこう言った。
「確かに胸が薄い子は大好きですが……どちらかといえば年上派なんです。」
すると自らをロリ大使と称した彼は、さみしそうな顔(´・ω・)をしていつの間にか消えていった。



とまぁ凌辱シーン中に要らん回想をしてしまった気がするが
もう俺は、彼女のその胸薄いけどこれでも年上なのよこうなったら身体で分からせてあげるわ的な魅力に、完全に心を奪われてしまっていた。


「・・・・せてくれ。」
「ふふ、なぁに?聞こえない。」
「頼む、イかせてくれ!!!」
「はい、よくできました。」

しっかりと"おねだり"をすると……
亀頭をなめていた舌や竿に添えてあった手が離れてゆく。

……え?

「な、何で!?」

さっき以上に恥ずかしい気持ちで、俺は懇願するように聞いた。
すると女は、俺の顔の上からどき、――向きを逆にして俺に倒れかかってきた。
あおむけに寝ている俺の上に、重なるようにのしかかってくる。

「出したいんでしょ?どうせなら……さっきまで君が舐めてたここに出してみない?」

そう言って彼女は、俺が先ほどまでなめていたアソコを俺のペニスにすりつけてきた。

「あ、あぁ……」
「フフ・・・・気持よさそうな顔しちゃって、いやらしい。挿入れるよ?」

そして、徐々に俺の分身がのみこまれてゆき、遂には亀頭がすべて包まれた。

「あ、あぁぁ・・入ってくる、中に!」

……待て
何かがおかしい。

挿入れる事になってから、女の動きが妙にぎこちなくなっていた。
それに、あの興奮の度合いなら一気に奥まで飲み込まれそうな感じだったが、今は亀頭を飲み込んだところで小休止となっている

イきそうな頭で考えていると、休憩は終わりといった風に彼女が動き出した。

「…………行くよ」

そういうと、彼女は一気に腰を下ろす。
ぷつり、という感覚がした。

「あぁぁぁぁっ、んぅっ!あ、はぁ、はぁ、」
「お前......処女だったのか?」
「う、るさい、童貞。」
「俺はたった今卒業したがな。それより、大丈夫か?痛くないか?」

きゅうきゅうと、痛いぐらいの締め付けが俺のペニスを刺激する。
俺は心配になって、涙を浮かべながら俺を攻めたてようとする彼女に聞いた。

「んっ、はぁ・・・・はあ・・・・痛い、けど、心配しなくていいよ!すぐに失神するほどイカせてあげるから!」

そうやってぎこちなく腰を振る彼女に、俺は先ほどまで以上に愛情を感じていた。

「なぁお前、名前はなんていうんだ?」
「……ルナよ。」
「そうか。良い名前だ。俺は片尾一生っていうんだ。」
「そう、……一生。――――わたしのこと好き?」
「あぁ。ヤベーぐらいかわいい。好きだ。」

そうして俺は、かすかに動く腕を持ち上げ、
ルナの背中を抱いた。

次第に慣れてきたのか、ルナの腰の振り方もスムーズになる。

「あぁっ、だめ!いつきのが、気持ちよすぎてっっ!!!」
「俺も……限界だ、出る!!」
「ああぁぁぁっ!イって!私の中でイってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「う、ルナ!く、ふぁ、あぁ、ルナ、ルナ!ルナああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ......」

そして、既にお互い絶頂が近かったこともあり、どちらともすぐに果てた。
そして俺は、あまりの快楽に、目の前がどんどん白く染まって行った。




――――――――――――――――――――――――――――――――



あったかい。
心地よいぬくもりで目を覚ます
俺は……確か……

「め、さめた?」

声のした方を振り向く。
そこには、前髪で目を完ぺきに隠したルナが立っていた。

「……ここは?」
「え、えとあの、洞窟の中、のわたしの部屋、です。」

あたりを見渡すと、俺が寝ていたベッドのほかに
一人掛けの簡素なテーブルや、その他必要最小限の生活用品が置いてあった。
そして、部屋の天井の一か所に割れ目が入っており、そこからの光が部屋全体を少し明るく照らしていた。

「俺はあの後、どうなったんだ?」

一番気になった事を聞いてみる。
すると彼女は急に真っ赤になり、八重歯の覗く口を開け「はわわ」とあわてた。

「そ、それはあの、わ、私とその……していたら、いつきが失神して……それでその、放っておくのは、だめだなぁ、っておもって……」
「それで、運んできてくれたのか、ありがとう。それにしても、ずいぶんと口調とかが違っているようだけど?」
「あの、わ、私、昼と太陽の光ががががががががが苦手で!」

それならどうしてこんな太陽が差し込む部屋なんかに、とあきれて聞く。

「そ、それは、わ、わたし、本を、読むのが……好きで」

確かに見まわしてみると、
光が一番よく当たるところに机が置いてあり、
その棚に数多くの本が置いてある。

創作活動でもしているのだろうか?机の上にはよく使いこまれているであろう手帳と万年筆が…………


「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「っっ!!?おおきなこえ……」

布団から起き上がって机に駆け寄り、手帳をぱらぱらとめくる。
間違いない、俺の手帳だ。

「こ、こ、こ、これ、どこにあったんだ!?」
「きのうの、昼、やけににぎやかに、聞こえるところ、あったから、行ってみたら、おちてたの」


っていう事は、やっぱりもとは秘密基地に落としていたのか……

「作品、じゃあ、なかったけど……、おとこのひと同士がっていう、設定とか、面白くて……」
「ぶッッ!!!!!!?」

内容を読まれていた!!!!

「だから・・・・・・そこに、すこし、かきおこしてる」

机の上に積まれている、10枚ほどの原稿用紙を手繰り寄せる。


「だ、だめだよ、こうたぁ……かえでちゃんがそこに居るのに」
「へぇ。俺が可愛がってやってんのに、頭の中は女の事か……。これは、徹底的に調教する必要がありそうだな。」
「ひっ!や、やめ!んんぅぅぅ!!」
「あんまり大きな声を出すと、ここに居る事がばれちゃうよ?」

「うーー、恒太ちゃんたちどこに隠れたのよ……」

「んあぁっ!や、やめっ!こえがでちゃ――――――――――――――――――――



「ぬわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「きゃっ!!」


おおおお俺の!!俺のネタが!!ここに!!先を越されて!!書き起こされてる!!

「お、おもしろく、なかった?」
「い、いや、それ以前に……こういう話が好きなのかお前!?」
「だ、だって、今までに読んだ本には、こんなの、なかったから」



しかし、いつまでも絶望に浸っている俺じゃなかった。
早く家に帰らねば、恒太たちが心配するかもしれない。

「なあ、ここから出るには、どの道を通って行けばいいんだ?」
「え、えっと、やっぱり来た道を戻るしか……」

やっぱりそうか。そうだったら俺には難しい。

「案内を頼めるか?」

そう聞くと、ルナはとたんに悲しそうな顔をした。

「ぁ、ぅ、帰っちゃうの?」
「あぁ。すまない。こいつら、……手帳に書いているこいつらの世話をしなきゃいけないからな。」
「そぅ・・・・なんだ・・・・・・。」

ますます泣きだしそうな顔になるルナ。
いや、目元の部分はわからないんだけどな。
唇のこらえてる感がどうも。
だが、ここで俺は良い事を考えた。

「ルナ……もし、よければ、さ。俺の家に来ないか?」
「・・・・・・はぇ?」
「いや、その、俺も、お話書いてるんだけど、たまにアイディアがつまったりすることがあるから、さ」

とたんに、ルナの頬に朱が差していく。

「え、い、いいの?」
「あぁ。もちろんだ。」
「あ、あ、あた、あたし、……あたしのことす、好き!?」
「大好きだ。愛してる。」
「わ――」

ゆでられたように真っ赤になったルナが、ふらふらと倒れるのをゆっくりと抱きとめる。
重力により垂れた髪の間から、翡翠の瞳がのぞく。
そして俺らは、吸い寄せられるように口づけを交わした。

唇に痛みを感じ、血の味がし始める。
気付けば外からの光は弱まっていた。
















ちなみに洞窟から外に出る際、暗闇の中で活気づいたルナに散々悪戯を受けたのは言うまでもない。

リャナ「え!?あれ!?作家が主人公だって聞いて来たのにヒロインあたしじゃなかったの!?」

10/08/12 14:27 宵頃

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