第20章:ラファエル大海戦 後編 BACK NEXT


要塞攻略に取り掛かってから3カ月がたち、両軍がにらみ合う中
ようやく到着した十字軍海軍の船団が港湾陣地に入港する。
その数はおよそ200隻……当初予定していた数の半数にも満たない。
先日の海戦で船を多く損失したことは十字軍の誰もが知っていたが、
実際に入港してくる船たちを見ると予想以上に酷い損害だと分かる。
なにしろ生き残っているのは小型の軍艦と輸送船くらいなので、
大艦隊が停泊できるように作られた港湾陣地がスカスカに見える。
それがまた本陣将兵たちの落胆を誘った。


彼らを出迎えるために港湾陣地にまで来ていたエルとカーターの前に、
生き残りの提督、インゼルメイアがとマガリが進み出る。

「総司令官、面目ない。私達はこのありさまだ。」
申し訳なさそうに頭を垂れるインゼルメイア。
「こちらからは手も足も出なかったそうだな。」
「はい……」
カーターの言葉に泣きそうになりながら頷くマガリ。
「どうだ、奴らに勝てる気がしなくなってきたか?
それとも俺たち陸軍の期待に添えなくて悔しいか?」
「カーター、そこまでにしておけ。とにかくお前らにはまだ休みはやれん。
ついてこい……たっぷりと反省会だ。」
『は、はい。』


エルが二人を連れて行ったが、カーターはまだこの場に残って
に降ろしをしている海軍の様子を眺めている。

「さて、どうするエル。いくらお前でもさすがに厳しいか?
だがこんな所で手古摺っている暇はないはずだ。」

他人事のようにつぶやくカーターだったが、
彼とて内心多少の焦りは感じている。
カナウス要塞攻略の是非が最も重要なのは他ならぬ帝国軍であり、
今後帝国が十字軍内で影響力を持てるかどうかは、
この戦いにかかっているのだ。
帝国の代表たる将軍のカーターの責任は重大だ。

(ふん、いっそのこと俺とエルとユニースだけで殴りこめば……、
だがそれはエルが絶対に許さないだろうな。
あいつはあくまで『人の手で成し遂げた』ということにこだわっている。
『エルクハルトの手で成し遂げた』ではダメ……良く分かってるじゃないか。)

ふと、どこからともなく妙な臭いが漂ってきていることに気が付いた。
その臭いは今まで嗅いだ事のないような皆目見当がつかない、
しかし、強まったら強烈な臭気になることが確実の、
とても嫌な予感がする匂いだった。

「何だこの臭いは?どこぞの魔女の婆さんが魔女鍋を作るのに失敗したか?」

余談だが魔女の婆さんとは彼の故郷のおとぎ話に出てくる
老婆の魔女バーバ=ヤガーのことであり、
現世界の魔女たちとはあまり関係はない。


カーターが臭いの発生源を確認しに行こうとしようと思った時、
船の方から二人の将軍が涙目になりながら走ってきた。
カーターの軍団の将軍であるシモンとテアだ。

「ぐ、軍団長!大変です!どうやら輸送船に積まれていた食料が腐敗していたようです!」
息も絶え絶えにシモンが報告する。
「カーター様…くれぐれも輸送船には……近付かないで…がくっ」
「て、テア司祭!しっかり!今救護所に連れて行きますから!」
「おいおい、いくらなんでも大げさすぎるんじゃないのか?
仮にもお前らは戦いの終わったあの腐臭漂う戦場を経験してる将校だろうが。」
「でしたら軍団長直々にご覧になって下さい……。きっと後悔しますから。」

シモンはテアを抱えるとまたそそくさと走っていってしまった。

「どれ、奴らが阿鼻叫喚する物は一体………」

その後まもなく、カーターは興味本位で積み荷を見に行ったことを後悔することになる。













エルが二人の提督を連れてきたのは最近陣地内に建てたばかりの灯台だった。
一ヶ月で作り上げたため高さは25メートルとさほど高くはないが、
これくらいの高さがあれば周辺の海を一望できるようになっている。
今エルと二人の提督に加え、海戦の経験があるサエとブロイゼが席に着く。
また、エルの隣にはユニースも控えていて、ユリアもカップにお茶を入れている。

先ほどからエルはインゼルメイアから戦闘経過を事細かに聞いているところだ。

「奇襲と言う悪条件に加え、船体能力の差に風や波の影響……、
ここは海賊どもの庭。主導権は完全にあっちのものか。」
「あ、あのエル様…」
「どうしたマガリ。」
「私達が、その…何もできずに負けちゃったこと、怒らないんですか?」
「こ、こらマガリ!それは藪蛇だぞ!」
インゼルメイアが慌ててマガリの口をふさぐが
「今更お前らを責め立ててもどうにもならん。
要は今回の敗北をどう次回に生かすかが重要だ。
ただし、次やって同じ失敗したらその時は容赦しない…覚えておけ。」
『はいっ!!』

怒られはしないが、どちらかと言えば怒られた方がまだ気が楽なのかもしれない。

「うーん、やっぱり海賊たちの船に対抗するためには
こっちも大きな船を作るしかないのかしら。」
「ユニース、今この陣地には大型船を作れるような造船所は作れない。
今ある船を何とか運用していくしかないだろうな。」
「でも今のままじゃ弓矢も投槍も届かないし、
物っ勝ったら一方的に沈められるだけよね。」
ユニースの言うとおり、インゼルメイアの艦隊では
カナウスの軍船にダメージを与えることすら難しい。
「これがジークニヒトの艦隊のような鈍足相手ならよかったんだが、
あいつらの船はスピードも私達と同じくらい出せる……
どうにかして乗り込んで白兵戦が出来ればいいんだけどな。」
「インゼルメイア提督…私達は白兵戦でもかなり厳しいと思いますが。」
「奴らはそんなに強いのか。」
「強いなんてもんじゃない。奴らは不死身の兵士……
生半可な傷ではすぐに自然治癒してしまうんだ。」
「ちっ…これだからインキュバスどもは……」

悪態をつくブロイゼ。この時代の人々にとってインキュバスは
魔物の手下になったと解釈され、忌むべきものと考えられていた。
今では考えられないことである。

ここで、今まで聞くだけだったサエが意見を述べはじめた。
「エル様、やはりすぐに攻め急がずある程度戦力の立て直しを図り、
十分な用意を整える必要があるかと。
それに戦場にはまだ修理すれば直る大型船が少しは残っているかもしれません。
それらを引き上げることも考えた方がいいかと思われます。」
「そうだな、打てる手は可能な限り打っておくにこしたことはない。」
「はぁ、まだ睨み合いね。上手くいかないわね。ねぇエルもやっぱり焦ってる?」
「焦るのは次に負けた時でも遅くない。今はただ………」

「エルさん、少々よろしいでしょうか?
先ほどハルモニアの使者様が書状をお持ちいたしまして。」
「ハルモニアから……一体なんだろう。」

エルはユリアから書状を受け取ると、その場で素早く目を通す。
その内容は……

「ハルモニアの海軍が…増援としてこちらに向かっているそうだ。」
『おおっ!!』

予期しない増援の報は、この場にいる将軍たちを少なからず元気づけた。
書状によるとハルモニア海軍は二週間前に軍港を出発し、
一週間後には十字軍陣地に到達するとのこと。
増援の戦力はガレー船50隻と特製攻撃船40隻。
少しでも戦力が必要な十字軍海軍にとってこの上なく有難い。

「よし!増援来た!これで勝つる!」
「よかった…これで陸軍の皆様を失望させずにすみそうです!」

提督二人も安堵の笑みが……

「でも待てよ。もしその増援が海賊どもに襲われたら。」
「そ、そうでした!ハルモニアのみなさんの安全を確保しないといけません!」
と思った矢先に、また次の心配事が生まれてしまう。
「よし、何としてでも増援をこの陣地に入れる。そのためにはインゼルメイア、
動ける船を編成してカナウス要塞の攻撃範囲ギリギリで陽動を行え。
奴らの気をこちらに寄せるんだ。」
「承知した!敵をこちらに釘づけにして見せる!」
「マガリは陸軍の飛竜部隊と協力してハルモニア軍の誘導をせよ。
出来るだけ安全な航路を確保し、万全な状態を保て。」
「わかりました!」
「サエ、ブロイゼ。お前たちは兵士たちの中から船上で切り込む兵士を抜擢し、
ハルモニア海軍が付くまでの間に船の上での戦いにならせておけ。」
「すぐにでも取り掛かります!」「ご期待ください。」

命令を受けた将軍たちはすぐさま行動に移る。
特にインゼルメイアとマガリは失敗を取り戻すために
並々ならぬやる気を見せていた。


「ねえエル、もし次も失敗したらどうするつもりなの。」
「その時はもう多数の犠牲を払ってでも力攻めするしかないだろうな。
しかし……力攻めするとなれば被害は万単位となるだろう。」
「それは痛いわね。」

「え、エルさん…何か嫌な臭いがしませんか?」
突然ユリアが、やや顔をしかめて外を見まわし始めた。
「嫌な臭い……いえ、俺はとくになんとも………
いやいやいや、なにか酸っぱい臭いがするな。
しかもこの臭い、どこかで嗅いだことがあるぞ。」
「あ、私もなんか臭う気がするわ。
そうそう、確かこれこの前司令部の建物に入った時に嗅いだ臭いよ!」

エル、ユリア、ユニースがふと思い出したのは、
数日前に陣地にやってきたシルカ提督の服に染みついていた臭いだ。
魚介が腐ったような酸っぱい臭いは徐々に強さを増してきていて、
灯台の下にいた部隊も何事かとあたりを見回している。

そしてその正体はすぐに判明した。
カーターだ。
彼はこの赤道直下の日差しが照りつける中、黒いコートを着込み
厚い手袋を装着し、口元をスカーフで覆っている。
その手には食糧配給に使う器を持っているのだが、
どうもその器が臭いの発生源らしかった。

カーターは得物のライトニングウィップを振って
灯台の柱の一つに巻きつけると、それを利用して一気に跳躍、
あっという間にエルの前に着地する離れ業を見せた。

「よっと、おいエル面白い物を持ってきてやったぞ。」
「カーター……何だその臭いは!ゲホッゲホッ…!」
「いやぁ、ちょっとちょっと!何持ってきたのよあなたはっ!
臭っ!あり得ないくらい臭っ!!」
「すみませんカーターさん。私、嗅覚が麻痺してしまったみたいです。」

カーターが持ってきた器の中にはおぞましい色をした液体に浸かった
魚の切り身があった。しかも液体はポコポコと小さい泡が沸いている。
誰がどう見ても腐っていることは一目瞭然だった。

「見ろこれを。帝国北方で獲れたニシンの塩漬けなんだが、
どうやらこの気候のせいで木箱の中で発酵が進んじまったみたいでな。
折角だし今夜はこれを肴に酒でも飲まないか?」
「………捨てろよそんな物。どうして『食べる』という発想が出来るんだ。」
「そうよそうよ!こんなの食べたら具合が悪くなるに違いないわ!」
「ところがどっこい、海軍の連中はこれを喰ってたらしいぞ。
しかも意外と悪くない味だそうだ。それにな……
俺だけが苦しい思いをするのは癪に触るからな!」
「コノヤロウ…それが本音か。」


結局エルとユニースは試しに食べてみることになった。
ユリアは……食べたショックでダークエンジェルと化す可能性があるので(?)
食べずに済むことになった。
ちなみにファーリルは現在後方の占領都市群の軍政に東奔西走しているため
この場にはいない。命拾いしたものである。



「エルさん…ユニースさん…お、お味はどうですか?」

二人は切り身をカリカリのパンと乱雑に切られた焼き玉ねぎ、アルミナチーズを乗せ、
いっせーので口に含み咀嚼する。
するとどうだろう、二人の顔色がみるみる蒼くなり
額にはたちまち脂汗が行く筋も流れて行く。
だが、二人はなんとか無言で咀嚼した分を呑みこむと、
カーターがわざわざ帝国から持ってきた強い酒をグラスごといっぺんに呷る。
そして最後にカーッと息を吐き……

『死ぬわ!!』
「生きてるじゃないか。」

怒髪天の二人に対してカーターは余裕の笑みで返す。

「意外と酒に合うと思わないか。」
「カーター…そういうあなたは食べたの?」
「鞭使いはまず鞭の痛みを知ることさ。」
どうやらカーターも食べたには食べたらしい。
臭いにはもう慣れてしまっているのだろう。
「ユリアさん、申し訳ありませんが………
俺の天幕から常備してるチョコレートを持ってきてもらえますか?」
「は、はい!」
エルはユリアに持ってきてもらったチョコレートで口直しを図るも、
強烈な味と臭いは全く消えなかった。

「ふっふっふ、本格的に涙目のエルを見るのも久しぶりだな。
ああ…その表情がたまらんな。」
「そろそろお前との交友関係を見直す時が来たのかも知れん……(怒)」
「あーあー、聞こえないな。
後、しばらく天幕で寝ない方がいいぞ。臭い籠るからな。」
「カーター……覚えてなさいよ!この借りはいつか返すわ!」
「それは楽しみだな。」

カーターが灯台から去った後も、
エルとユニースはしばらくの間仲良く悶絶していたそうだ。



その日エルとユニースが食べた凄まじい食べ物は、
兵士たちの間でもエルが涙目になったと聞いて
怖いもの見たさに食べる者が続出、誰にも平等に強烈な臭いの洗礼を浴びせた。

後にこのニシンの塩漬けを発酵させた食べ物は、
魔物すら寄りつかない世界で最も臭い食べ物として有名になり、
帝国北方地方沿岸の迷産品となったという。
世の中何が影響するか分からないものである。








さて、インゼルメイア率いる十字軍海軍は
シルカ提督に加えて臨時にブロイゼが提督となり、
カナウス要塞に攻撃する構えを見せた。


「頭!奴らの攻撃が来ます!」
「どうやらまだ懲りねぇようだな。野郎ども!喧嘩の準備だ!」
「おーっ!!」

対するカナウス海軍も即座に船を出して十字軍に対抗する。
十字軍海軍は前回の海戦の半数にも満たない数の船しかなく、
その上どの艦船も小型船舶のみで構成されている。

「いいか、私達の目的は時間稼ぎだ!今戦っても勝ち目は薄い…!
敵の船が突っ込んできたら素早く逆櫓(さかろ)に切り替えて
散開しながら引き返せ!進撃もギリギリの位置までだ!」


十字軍海軍は前回の海戦での鈍足差が嘘の様によく動き、
カナウス海軍の陽動に努めた。

「あいつらやる気あんのか?ちょこまか動きやがって!」

カナウス海軍が魔物娘達の力を借りて一斉突撃をするが、
十字軍の艦船はとっさに逆櫓を使ってそのまま
敵の起こした波や風に乗って逆走する。
そしてカナウス海軍が引き揚げるとまたしても十字軍が
ギリギリまで攻撃してくると言った有様だ。


この数日間、エルはユリアに抱えられて上空から
カナウス海軍の船の動きを観察していた。
気になる動きや、船体の構造など見たことを
羊皮紙に余さず書き込んでいく。


「奴らの戦術は密集型の突撃か……
少ないながらも巨大な船体を生かして突っ込んでいけば、
その威力は絶大。その上魔物たちが船足をサポートし……
進むも退くも奴らの思うがまま。んー……」

エルはなんとか敵に弱点がないか考える。
そのためにはどうにかして敵の動きを封じなければならない。

「ところでエルさん。」
「何でしょうユリアさん?」
「カナウスの船にはどうして櫂(オール)が無いのでしょうね?
漕がなくても動ける船って結構画期的だと思いませんか。
それだけ漕ぐ人も必要としませんし。」
「……そういえば、この船の動力源は一つしかありませんね。」

ユリアのなんてことない言葉によってようやくエルは敵の弱点に気が付いた。
海戦経験がないエルは気が付くのがだいぶ遅れてしまったが、
それによって勝ち筋がおぼろげながら見えてきたようだ。

「あ、エルさん!あれを見て下さい!」
「ええ…ようやく彼らも来たようですね。」

はるか東の海上にやや大規模な船団が見える。
船団の上空には無数の飛竜兵が飛び交い、
船団を護衛しているのが見て取れる。

ハルモニア海軍の増援船団が到着したのだ。


「エル様ーー!!」
「マガリか。」
赤い飛竜に騎乗したマガリがエルの元に駆けつける。
「ハルモニア海軍は全員無事にここまでたどり着きましたよ!」
「よし、ご苦労だった。だがまだ陣地に入るまでは油断はできない。
それにカナウス海軍は今本隊が引きつけている、
今の隙に急いで港湾内に駆けこめ!」
「はいっ!」


マガリは猛スピードで船団の方に戻っていく。
と、カナウス海軍たちもハルモニア海軍の存在に気が付いたようだ。
だが彼らは急な方向転換が出来ない。
その隙を縫ってハルモニア海軍は十字軍陣地に急行した。

そして……どうにか無事に港湾陣地に滑り込む。
カナウス海軍も追ってきたので間一髪だった。
追ってきたカナウスの軍艦は陣地からの投石機攻撃で追い払う。


「うへーっ。危なかったなーもう。」

入港したハルモニア海軍の軍艦から一人の男性が降り立った。
褐色肌の好青年で、頭に白いターバンを巻いている。
彼こそがハルモニア海軍提督アエタース。
ハルモニア女王の命を受けはるばるこの地まで海軍を運んできたのだ。

「よく来てくれた提督。歓迎しよう。」
「いやなに、俺たちも少しは見せ場作らないとな!
折角我が国自慢の火炎船(デュロモイ)を持ってきたんだ、使ってくれよ!」
「でゅろもい?何だその船は、見せてくれ。」
「ほいさ!あの平べったい船あるだろ、あれが火炎船だ。」


アエタースが指差した先にあるのっぺりした形の船。
櫂の配置や帆の大きさなどから、機動力重視の軍艦だと思われる。
特徴的だったのは先端や船体中央部についている小型の塔だ。

「つき出ている部品があるだろ?
あそこから強力な炎を発射して敵を燃やしつくすって寸法だ!」
「ほぅ……なかなか面白い船だな。ちょっと実演して見せてくれないか。」
「ほいさっ!」


火炎攻撃の威力を確かめるために、エルはインゼルメイアに命じて
使い物にならなくなった大型船をダミーに仕立て上げた。

物珍しげに集まってきた十字軍の将軍たちの前で実演が始まる。
火炎船はダミー船の10メートル手前で煮えたぎる液体を発射、
直撃した部分がたちまち炎上し、瞬く間に船に燃え広がった。

『おおーっ!!』

その威力に誰もが感嘆の声をあげたが、それだけでは終わらなかった。
よく見ると船に届かず海面に広がった分の液体が、
驚くことに海面上で燃え続けているではないか。

「見たか!ハルモニア海軍自慢の火炎投射砲の威力を!」
「すごいな!こんなのを喰らったらどんな船でもただじゃ済まないだろう!」
インゼルメイアもご満悦の様子。
「ど、どうすればあんな風に強力な炎を撃つことが出来るんでしょう!?
なにか魔法の液体を使っているんでしょうか!?」
一方マガリが着目したのは火炎船が発射する燃える液体についてだった。
「あれはな、我がハルモニア王国が十数年前に完成させた特殊な液火だ。
作り方は……ここでは秘密だがあの液体は空気に触れると着火して
おまけに水を掛けても消えるどころか燃え広がってしまうのだ!」
「なるほど………あとはどのように当てるかですね。」
ただ唯一の懸念はシルカが言うように敵に直撃させなければ意味がない。
「それについては俺から提案がある。」

ハルモニア海軍が持ち込んだ火炎船は十字軍に大きな衝撃をもたらした。
もし彼らが敵だったらカナウス海軍に匹敵するほど厄介な存在になっていただろう。
心強い味方を得た十字軍海軍はカナウス海賊へのリベンジを図る。









さらに数日後、司令部の作戦会議にて。


「バートン、例の物ができたか。」
「左様にございます。どうぞお納めください。」

久々に出てきた十字軍技術開発部隊の学者バートン。
彼が持ってきたのは破城鉤(棒の先端に金属の鉤爪を付けて壁を崩す道具)の鎌に
帽の代わりに長めのロープを取りつけたものだった。

「エル様、これは一体?」
「そうだな……投げ鎌とでも呼ぼうか。ロープの先に鉤爪をくくりつけた武器だ。」
「ふーん、これで敵の船に飛び乗るのかしら。
でもそれにしては凄い研ぎ澄まされた刃が付いてるわね……。」

バートンから受け取った投げ鎌をマティルダとユニースが興味深々に眺める。
普通こういった物は相手の一部に引っ掛けるための物なので、
切れ味を求める必要はない。寧ろ引っかけやすいように
刃をギザギザにしたり溝を入れたりするのが一般的だ。

「いや、これで狙うのは相手の船体じゃない。敵の船の『帆』だ。」
「帆を狙うんですか?」
「いいか、奴らの船は船高が高いから櫂でこぐことが出来ない。
そもそも海賊どもは少人数で船を動かさなきゃならないから、
動力は必然的に波と風に頼るしかないわけだ。」
「なるほど!帆がなければ敵の機動力は大幅に失われるわ!」
「これで後は波をどうにかすれば敵の船を捕らえることが出来ますね!!」
「全てユリアさんのおかげですよ。あの一言がこの発想に繋がったのですから。」
「いえいえ、私はただ思ったことを口にしたまでで。」
「ううん、誰も気がつかないところに目を付けられたのは凄いと思いますよユリアさん!」

カナウス海軍の船はその巨体と堅牢さゆえに、漕いで動かすことが難しい。
おまけに漕ぐ際には漕ぎ手が大人数必要になり、人口がそれほど多くなく
自由奔放が売りの海賊たちにはとてもガレー船の様な運用はできない。
そこで彼らが考えついたのは魔物たちの手を借りて船を動かすことである。
魔物たちにとって風を起こしたり波をおこしたりすることは訳ない。
しかも戦場の天候を自分たちの手で操れるから一石二鳥。
この戦術は今までどの海軍も破れなかった、まさに人と魔物の友情による戦い方なのだ。

「エル、今度こそあいつらに一泡吹かすわよ!」
「そうだな、次が最後のチャンスだ。絶対に逃したりはしない。」


三日後の総攻撃に備えて海岸陣地は活気に満ちている。
いよいよ決戦の時だ。












三日後、ラファエル海は今日も快晴で、波も風も静か。
赤道直下の太陽が青い海と青い空をギンギンと照らし、
何事もなければ海水浴の一つもしたくなる気候だった。

この日カナウス要塞にまたしても敵海軍出現の報告が入る。

「かしらっ!!」
「ちっ、またか。あいつら本当に何考えてんだ?そろそろガツンと来てほしいものだな。」

アロンもまた手早く艦船の準備を命じ、頭目たちを集める。

「よっしゃ!今日こそは絶対に決めるぜ!場合によっちゃ敵の陣地まで突撃するかもな!」
「俺の愛する妻たちを安心させるためにも早く決着をつけなきゃいけないな。そうだろ?」
「かしらーっ!いつでも出陣できますぜ!」
「んじゃ、行くぜ野郎ども!出撃だ!」


カナウス艦隊64隻は要塞から南に1q離れた沖合に集結し、
対する十字軍海軍247隻(ハルモニア海軍含む)は陣地からやや離れた沿岸に並ぶ。
開戦以来完全に無傷のカナウス海軍に対して、
十字軍海軍の軍艦はほぼすべて小型艦で、中には輸送船も混じっている。
一応ジークニヒトが所有していたガリース船を3隻ほど修理して配備できたが
とても戦力としては期待できそうになく、一応司令塔として運用している。

「進めー!!」

ピイイイイイィィィィィィッ!!

インゼルメイアの合図と共に甲高い笛の音が響く。
先頭のマガリ、右翼のアエタース、左翼のシルカ
各人が訓練通りに整然と前進を始めた。


「まずは、私達が敵の出鼻を挫きましょう。
少々乱暴ですが、敵もズルしてるんですからお互い様ですね。」

船団の最先頭を走るサエが手を高く掲げる。
そう……彼女は前回の要塞攻撃の際に雷魔法を海面に放ち
海の中にいる魔物を一掃している。

「フォイア!!」

ピシャーーーーン!!


「げっ!?あいつら…なんてことしやがるんだ!!」

これに驚いたのはアロンだった。
無造作に放たれた雷魔法はこっちまで全然届いていないのだが、
海の中にいる魔物娘達はあの悪夢の出来事が一斉に頭をよぎった。

「うわっ!!感電する!!」
「に、逃げなくちゃ……!」

いくら命知らずの海の魔物たちといえども電気には弱い。
安全な場所に避難するほかなかった。
これでカナウス海軍は波乗り突撃を封じられてしまう。
人道的に見てかなり酷い策略であることは明白だが、
こうでもしないと人間に勝ち目はないのかもしれない……

「仕方ねぇ……帆を目一杯張れ!風をジャンジャン起こせ!突っ込むぞ!」

それでもまだ彼らにはセイレーンやハーピー達がいる。
セイレーン達も雷に弱いことには変わりないが、
彼女たちは空に居るので魔法の範囲に入らなければどうってことはない。
安全な所から風を起こすだけで十分である。


「風が変わった……!」
「来るぞ!帆をたため!漕ぎ手は気を引き締めろ!」

十字軍海軍に向かって向かい風が強くなる。
この状態で帆を張っていると進めないので、ここからは櫂による操船だけが頼りだ。

まず、今まで先頭にいたサエの魔道部隊がいったん後退し、
その合間を縫ってマガリの艦隊が扇状に前進する。
なるべく船を散開させてカナウス艦隊の突撃の威力を緩和しようというのだろう。
マガリの後ろからは兵士を満載した輸送船が続く。
この輸送船には前面に補強のための樫材が使われていて、
衝突されても耐えられるようにしてある。
一見すると主力はこの輸送船に満載された兵士たちのように思える。
実際この輸送船にはユニースやマティルダが乗っていて、
いつでも切り込めるように構えていた。


両者の間隔がどんどん縮まる。
500m………400m……300……200…100…


「突撃!一隻残らず沈めてやんよ!!」

「準備はいい?狙うのは船の帆桁よ!」

お互いの顔が肉眼で捕らえられる距離。
両海軍は喚声をあげて敵に襲いかかる。
時刻は五の刻(午前十時くらい)ついに双方は接触した。

十字軍の3倍ほどの大きさを持つカナウスの軍船が
その巨体を生かして敵の群れを破壊しようとする。
しかし十字軍海軍はその小柄な船体と徹底的に訓練された機動力で突進を回避し、
船と船の隙間を縫うようにして駆け抜けて行く。

そしてここで十字軍の水兵たちはロープの付いた鎌…投げ鎌を手に取り
カナウスの軍船の帆桁に狙いを定めて投げ放った。

「その調子よ!帆に引っかかったわ!そのまま引き裂いてボロボロにしてやりなさい!」

「なんだと…!帆を狙うだと!冗談じゃないぜ、動けなくなるじゃないか!」

まず狙われたのはスクワイアの船。
張られた帆に左右から鉤爪が引っ掛かり、鋭い刃が革製の帆を引き裂く。
効果は覿面。あっという間にボロボロにされた帆は風を受けることが出来なくなり、
操船の自由を失ってしまう。

前列の船が足止めを喰らったせいで後に続く船にも支障が出る。
思いにも寄らぬ戦法でカナウス海軍は渋滞を起こし、いつもの機敏さを失ってしまう。
そしてまた立ち往生している間に、十字軍海軍のガレー船が
彼らをあざ笑うかのようにすいすいと海面を走り回り、帆を引き裂いて無力化させる。

「ちっ…なめた真似しやがって!こうなりゃ敵が乗ってくるのを待つしかねぇな……。」

いくら帆を失ったと言っても艦船自体は健在であり、
弓矢や投槍が届かない敵軍は必ず乗り込んで決着をつけに来るだろうと踏んだ。
一旦船を放棄して海に潜り敵の船に孔をあけることもできたかもしれないが、
先ほど雷魔法を見せつけられた後では迂闊に海に潜ることが出来ない。


「いまだ!火炎船突撃!奴らの船を焼いて焼いて焼きつくせ!」

ここで満を持してアエタース率いる火炎船が攻撃に出る。
十字軍海軍のガレー船よりもさらに上の機動力を持つ火炎船は
右翼(南側)から逆風の中を一気に突っ走り、カナウス海軍の左翼側に接近、
帆をズタズタにされて身動きが取れないカナウスの船に液火を浴びせかけた。

「火だ!奴らの船が火を放ってきた!」
「早く消せ!これ以上燃え広がらせるな!」

慌てて消火を試みるカナウス海軍だったが、
水を掛けても炎は消えるどころかさらに勢いを増す。

「まずいっすよロロノワの旦那…!炎がちっとも消えねぇ…!」
「これが…奴らの決め手か…!」

動きを止めてからの火炎船コンボは見事的中した。
進むことも退くこともできない中次々と炎を浴びせかけられ沈没していくカナウス艦隊。
魔物娘がいなければ何もできないという訳ではないのだが、
この状況は人間のみではもはやどうしようもない。


「ふぅ……意外とあっけなかったですね。」
「ええ、私達の出番はありませんでしたね。」

艦隊後方から戦線を眺めるエルとユリア。
エルたちの役目は今回の作戦が何らかの形で上手くいかなかった際に、
最後の斬り込みを掛けてジェネラルキルを狙うつもりだった。
左右には輸送船が20隻ほど控えているが、これらにも兵士を満載していて
新人エンジェルのレリとエリーゼも乗り込んでいる。
いざとなったらエンジェルの力で船を強引に接舷させるつもりだった。


「後は身動きが取れない敵の大将を捕らえればこの戦は俺たちの勝ちだな。」

すでに各所では船を焼かれてやむ負えず海に飛び込んだ海賊たちが、
ガレー船から弓矢と魔法で狙われ、武装解除されて捕らわれる。
中にはガレー船の船体をよじ登って白兵戦に持ち込もうとする勇敢な海賊もいたが、
それらは例外なく弓矢と魔法を受けて乗り込む前に海面に叩き落とされる。


「武器を捨てて降参して。命までは取らないから。」
「……やむ負えん、武器を捨てよう。」

船を焼かれて脱出したアルクトスにシルカが王手をかけた。
このまま海に潜っていると感電死してしまう恐れがあったので、
アルクトスは素直に斧を捨て、投げおろされたロープにつかまる。
こうして船の上に引き上げられたアルクトスは水兵たちに槍を突きつけられたまま
鎖でがんじがらめに捕らえられることになる。

「女か……。」
「そう。女の私が戦ってておかしい?」
「いや…もし将が男だったら鎖で縛られる前にこの拳で殴ってやったところだ。
だがさすがに女は殴れねぇ。命拾いしたな嬢ちゃん。」

捕らえられてもなお不敵な態度にシルカは若干顔をしかめる。
この船に乗っている水兵は全員が女性……
男性人口が少ないユリスでは女性兵士の割合が多い。
なので相手が女子供であれ戦場に出た者には容赦しない傾向がある。
それに比べてカナウス海軍は男性が愛する女性や魔物娘達を守るために戦う。
果たして正義はどちらにあるのか……


ドコッ

「いってぇ!!何をしやがるテメェ!」
「うっせぇ!俺たちゃまだ実力で負けたわけじゃねぇってこと証明してやる!」

ワーワー

一方でマゴを捕らえたアエタース……
彼とその配下の兵士たちは男性だったため、武装解除して降伏したはずの
マゴたち海賊は無謀にも拳一つで逆襲を試みた。
明らかにルール違反だが、海賊にルールを期待する方が間違っている。
殴り飛ばされたアエタースは逆上して海賊たちの殺害を命じた。
甲板にいたハルモニア水兵は40人ほど。対する海賊は10人。
人魚の血肉を摂取して身体能力が大幅に向上している海賊たちにとって
素手であっても4対1くらいはわけないと思ったのだろう。

「漕ぎ手止め!武器を持って応戦だーっ!!」
『応!』
「やべえ、下にもまだいたのかよ!」

ところがそこはガレー船。
中にいた漕ぎ手たちが短槍や弓を構えて襲いかかる。その数100人!
海賊たちは数の暴力で圧倒されその場で袋叩きにされてしまった。


さて、これを見た他の十字軍海軍の艦船。
自分たちも二の舞になることを恐れ、捕虜を確保するのをやめる船が続出。
水面に容赦なく雷魔法を打ち込み、感電死する者が出始めた。
この光景は、戦争にもルールを守る心が
大切だということを考えさせるのに十分だろう。


「スクワイア!無事か!」
「ああ…俺たちはなんとか助かった。」

まだ船が無傷だったアロンの元に次々と海賊たちが逃げてくる。
しかし、いずれこの船も火炎船によって焼き払われてしまう。
その前にどうにかして幾重ものガレー船の包囲を突破したい。

「アルクトス!マゴ!…それにロロノワはどうした!?」
「だめっす!頭目の旦那たちと連絡が取れないっす!」
「くそぉっ!!なんとかして助けに行けねぇか!」
「落ち着けアロン!この状態で何が出来る?
今はどう引くか…俺たちが逃げることが先決だ、そうだろ?」
「…………すまねぇ、アルクトス、マゴ、ロロノワ。
後で絶対助けてやっからな!それまで耐えてくれよ!
リューシエ!波の方を頼んだ!」
「は、はい!」


この後アロンはとんでもない行動に出た。
彼はボロボロのマストの上に飛び乗ると、
そこから勢いよく海面に向かってダイブしたのだ!

「いくぜぇ!!海王烈衝破ああぁぁぁっ!!」

ザバアアァァァーーーッッ!!!!


「な、なんだありゃああぁぁ!!」
「海が…割れた……」
「んなアホな!?」

アロンが自慢の斧ドランボルレグを海面に叩きつけると、
そこから衝撃波が発生し、一気に海面を一文字に割ってしまった!
周囲にいた十字軍のガレー船はたまらず吹き飛び、
割られた海面は浅かったのも手伝って海底が一本の道となった。
左右に分かれた波をリューシエがタイダルアクアマリンで操って止める。
何ともむちゃくちゃな脱出方法だ。

「野郎ども!今日のところは撤収だ!急げ!」

こうして残った海賊は海を割って出来た道を走って安全地帯に逃げ込んだ。
十字軍はこんなのに対抗できるわけがなかった。

「……本当に何だったんだあれは?」

エルですら最早呆れるほかなかった。
後もう少しで敵の総大将を捕らえられたという悔しさは、
目前のむちゃくちゃな光景がすべて吹き飛ばしてしまった。
何と言うか……出てくる作品を間違えたような威力だ。


「エルー!やったわ!私達の圧倒的勝利よ!」
「ん、ああ…ユニース。高波は平気だったのか?」
「あははは、ちょっと波かぶっちゃったけど大半の船は無事よ。
それにほら見て、インゼルメイアのあの笑顔。」

船団中央ではこの海戦の実質的な全指揮をとっていたインゼルメイアが…

「勝った!勝ったぞ!」
『おーーーーっ!!』

見事リベンジに成功し、勝利の叫びを響かせている。
ライバルだったジークニヒトを始め多数の提督が消息不明になり、
残った者たちで掴み取った勝利。
きっといなくなった提督たちも草葉の陰でこの勝利を祝ってくれる
……とは限らないが、とにかく彼女は勝ったのだ。

「へっ…見たか海賊ども。今後はお前らの好きにはさせんぜよ。」

まだ顔に思い切り殴られた跡があるアエタース。
それでも彼の顔はやはり勝ち誇っているように見える。
今回の海戦でハルモニアの火炎船が挙げた功績は絶大だった。
あれほどの威容を誇っていた強力なカナウスの軍船は、
帆を失って動かなくなり、そのほぼすべてが炎上し消し炭と化した。
燃えずに残った船に乗っていた海賊たちも脱出するか降参するかして
次々と武装解除をされていった。


確かに人間は海の戦いで魔物には敵わない。
だが人間同士の戦いなら勝ち目はあったと言えるだろう。
カナウス海軍にも油断があったかもしれないし、
十字軍海軍も正々堂々とした戦いではないと思われるかもしれない。
それでもこの勝利は人間の歴史の中で深い意味を持つ一戦となった。


さて、今回の海戦における戦闘結果は……

十字軍・カンパネルラ連合海軍:船舶合計247隻、総員約30000人
撃沈・拿捕15隻、戦死・行方不明者約750人、負傷者215人。(損害率約7%)

カナウス海軍:船舶合計64隻、総員約2500人、全隻沈没もしくは拿捕。
       戦死・行方不明者800人、負傷者・捕虜多数。(損害率99%)


カナウス海軍は全隻を投入したことが仇となり、一網打尽となった。
海上という足場の限られた戦場ではこのような一方的な戦果になることが多く、
負けた方の被害は7割を超えることが日常茶飯事である。
もしカナウス海軍が少しでも櫂船を用意していれば
ここまでの被害は出なかったかもしれない。

この戦いは歴史上数えるほどしかない反魔物国が親魔物国に勝った海戦であるが、
それゆえかこの戦いに対する後世の評価は芳しくない。
十字軍海軍はカナウス海軍の4倍の船を持っているため、
勝つべくして勝った戦いであるという評価もあれば、
正々堂々と戦っていれば十字軍に勝ち目はなかっただろうという意見もある。
しかし、見方を変えれば彼らは知恵を絞って勝利をつかんだことは確かだ。
人間は知恵で戦う生き物であり、唯一魔物に対抗手段である。
そう…知恵で戦うことを忘れるまでは………




「よくやってくれた諸君!これで要塞攻略に大きく一歩前進できた!
海軍も今回の勝利で陸軍への面目が立っただろう、よかったな!」

港湾陣地にて、戦果をあげて戻ってきた海軍を労うエルの姿があった。
彼もまた久々の勝利でスカッとした気分なのだろう、
夕日に照らしだされた彼の美しい顔がいっそう輝いて見える。

「よかったなインゼルメイア、マガリ、シルカ。
お前たちの努力は決して無駄にならなかった。」
「ああ…ジークニヒト達の分もしっかり勝ってやったさ。」
「カナウス海賊、強敵でしたね。」
「ええ、ハルモニア海軍の皆様にはお世話になりました。」
「礼はうちの王女様に言ってくれよな!
ただでさえカツカツな海軍戦力をこっちに寄こしてくれたんだからな!」
「うむ、ここにいる誰が欠けても今回の勝利は無かったに違いない。
後は陸軍が全て何とかしてくれるはずだ。諸君はゆっくり休むといい。」


海軍を解散させた後、エルは灯台の最上階に登り
陣地を隔てた向こうにあるカナウス要塞の姿を見た。
初めて見た時はその大きさと堅牢さに少なからず威圧されたが、
今ならなんとなく手が届く位置まで来たような気がした。
12/08/16 15:38 up

登場人物評

アエタース アドミラル15Lv
武器:銀の剣
ハルモニア海軍を率いる提督。ラーマという遠い異国出身。
大雑把で、遠慮という言葉を知らない。カレーが大好き。



ユリア「御機嫌ようございます皆さま。ユリアです。
今回の話は魔物娘が全然出てきませんでしたね……少し寂しいです。
さて、皆様は海賊と言えば何を思い浮かべますか?
実は参謀本部は海賊と言えば北欧のヴァイキングのイメージがあるそうです。
角型兜をかぶったもじゃもじゃ髭の大男たちが斧を振って戦う…
絵的にはあまり美しくないかもしれませんが、男らしさがいいんだそうですよ。
一方でカナウス海賊団のイメージはRPGに出てくる海賊に近いようです。
軽装で己の肉体を最大の武器として、自由に海を荒らしまわる。
そんな彼らは時として男性の憧れになるのも確かです。
きっとカナウス海賊団を中心にしたSSも書けるかもしれませんね。

ところで今回出てきたニシンの塩漬けを発酵した物……
現実世界では『シュールストレミング』と呼ばれているそうですね。
私は大嫌いです♪
実は初期案で、敵の船にシュールストレミングを投げ込んで、
敵が悶絶している隙に乗り込んで倒すという珍妙な構想があったそうですが、
そもそも魔物娘にシュールストレミングがきくか定かではありませんし、
何よりも食べ物を粗末に扱うのはあまり良い方法とは言えません。
結局シュールストレミング爆弾の案は没になり、
代わりに火炎船が出てきました。これも初期案では
『火炎直撃船』という名前だったそうです。ネタが古いですね。

長い長いカナウス攻略戦ですが、そろそろ佳境に入ります。
一体どのように決着がつくのかお楽しみに♪」

バーソロミュ
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