図書館騒動
扉を開いて突入した私達。
夜の図書館は明りがほとんどなく薄暗い。
そして本棚がずらりと並び、中には建物三階分にも及ぶ高さの本棚もある。
「おかしいな…誰か入っていったのに明りがないよ。」
「きっと私たちが突然入ってきたから慌てて明りを消したのよ。
でも焦ることないわ。あっちに人の気配がする。」
「私は暗闇でもはっきり見えるから、まかせて!」
光がほとんどない場所でもモノが見えるノワちゃんを先頭に、
この部屋に入っていったと思われる人たちを探す。
人が来た途端明りを消して隠れるなんて、疾しいことをしようとしたに違いないわ。
「さあ!隠れても無駄ですよ!大人しく出てきなさい!」
「うっ!?まずい…見つかった……」
「だが諦めんぞ。この子の未来がかかってるのだからな。」
ノワちゃんが暗闇の中に潜んでいた人影を確認したようだ。
ノワちゃんによると人影は男性四人と女の子一人…
間違いなく先ほど私たちが見かけた集団みたい。
それにしても、この子の未来がかかってるっていったい……
「悪いがここで邪魔されるわけにはいかない!せやっ!」
「んっ!」
ヒュンッ
徐々に暗闇に慣れてきた私の視界の前に突如、剣光が一閃する。
狙いは私じゃなくてノワちゃんのほうだ!
しかしノワちゃんは、敵が視界のきかない中無暗に振り回した剣を余裕で回避し…
バシッ! ドゴッ!
「ぎぁっ!?」
「…っとごめんね。」
「えげつないわね、ノワちゃん。」
「え、そう?でもこれくらいは正当防衛で――」
私は見た。剣を回避たノワちゃんは
とっさに剣を持つ手に軽く手刀を喰らわせて剣を落とし、
後は鳩尾に軽く拳をたたき込む……つもりだったんだけど
「思いっきり金的してたわよ。」
「にゃああああぁぁぁ!!??私なんてことを!?」
まあ…ちょっと視界が悪かったからずれちゃったんでしょうけど…
金的は私たち魔物が一番やっちゃいけない攻撃なのよね。
当たり所が悪くて不能になったらこまるし。
「うおっ…うおぉぅおおぉ……」
痛恨の一撃を受けた男性がのたうちまわっている
「お、おいっ!大丈夫か?」
それを心配する同僚(?)
「大丈ばないよ。きっとこの世のものとは思えない痛さが…」
ユング君が呆れたような事を言ってる
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!私ドジでごめんなさい!」
そして自分を殺そうとした相手に対して猛烈に謝るノワちゃん
なにこのコントのような状況は?
「えっと、とりあえず落ち着きましょ。私達はこの教会の関係者じゃないわ。」
「なんだって…?」
「ちょ、ちょっとヴィオラ!何言ってるのさ!僕たちの正体ばらしたら」
「大丈夫よユング君、私に任せて。私達はこの教会で行われた、
人体改造を受けた子を治す方法を調べに来ただけなの。」
私の予想では、この人たちは『私達に』疾しいことをしているんじゃなくて
『教団に対して』疾しいことをしていると思うの。
つまり、敵の敵は味方ってかんじかな。
「…そうだったんですか。僕達はてっきりテンプルナイトに見つかったのかと。」
「実は我ら司祭四人もまたあなた方と同じ理由でここにきたのです。」
「というと?」
「それが、この子……この教会の聖歌隊に所属する子なのですが、
この子はとても美しい声を持っていたために上層部から目を付けられ、
永久的にこの歳のままにするため成長を固定してしまったのです。」
「かわいそうに、彼女はノイローゼになって声がでなくなってしまったのです。
このような所業を神がお許しになるはずがありません!」
私はふと司祭たちの後ろで縮こまっている小さな女の子に視線を移した。
人間の視力だとこの暗闇じゃ私達の姿は輪郭を把握できる程度だろうけど、
まだおびえたような表情で私たちを見つめてる。なかなか可愛い子ね。
「君も、なんだ…」
彼女もまた被害……ユング君の心の琴線に触れたみたい。
私は近くに落ちてた蝋燭(この人たちが隠れる前まで明かりとして使っていたのかもしれない)
に火の呪文で点火してユング君に渡す。ユング君は何も言わずに受け取った。
「僕がここを離れてもう何年にもなるのに、まだこんなことしてるんだ。
本当に自分勝手でクソッタレな連中だよ。ムナクソ悪い……」
「…………………………」
蝋燭の明りでユング君の顔と女の子の顔が鮮明になる。
女の子は何か言いたそうだけど、言葉を口にすることが出来ないみたい。
「聖歌隊の服…?ひょっとして君も…なのかい?」
若い司祭が、ユング君の格好を見てそう言った。
「でも見ない顔だ。」
「まあね。今の僕は聖歌隊じゃない。ここに潜入するための仮装だよ。
そうだな……聖アポロン合唱団って言えばわかるかな?」
「聖アポロン合唱団!まさか……!」
「聖アポロン合唱団といえば十年も前に組織された、今までにない
最高レベルの聖歌隊だ…そして第七次国土回復聖戦(レコンキスタ)で
騎士団と共に全滅してしまったはずでは!」
「ところが奇跡的に逃げのびることができてね、あっちこっちさまよってたんだけど…
そろそろ不老不死にも永遠の童顔低身長飽きてきてさ。」
「だから恋人の私が協力してるのよ。このまま永遠に
恋もエッチも知らないで生きて行くなんてかわいそうじゃない。」
「あ、ああ…」
なんか相手が唖然としてるけど、この際無視してさっさと話しを進めるわ。
「それで私達もユング君を元に戻す方法を探りにここまで来たんだけど、
何かいい方法知らないかしら?」
「ええ、元に戻せる確信はないのですが……可能性が高そうな方法ならあります。」
「この図書館には研究所が併設されておる。むこうのほうじゃ。
恐らくそこに術をかけた張本人がいる。そいつを捕らえて白状させるのじゃ。」
「術をかけた張本人が?なら話は早そうね、とっとととっちめましょ。」
「でも相手の強さは?ことによっては熟練の魔術師かもしれないし。」
「うぅん…正直我らもしょうたいがわかっとらんのだ。
だが、恐れていては解決できん。それに我々には神の加護がある、
非人道的なことをするような者は、神が見逃すはずがなかろう。」
「そう…」
正直こういう宗教的な精神論者は苦手なんだけど、あくまでも味方だからね。
じゃ、目的もはっきりしたことだしとっとと終わらせちゃおう。
と、思ったんだけどまたしてもハプニングが発生した。
「そこまでだ不信心者ども!その場を動くな!」
『!?』
あーあ、またやっかいなのが来たと思っている間に、
明りがほとんどなく真っ暗闇だった図書館がまるで
夜が明けるかのように明るくなっていく。
「わー!まぶしー!」
特にノワちゃんは暗闇に目が慣れてたから凄い眩しいようだけど、
これは照明魔法だから私達には特段害はないみたいね。
一応私達はとっさにフードをかぶっておくことにする。
「さて…クリストフォード司祭、サミュエル司祭、アーサー司祭、マイルズ司祭
なにやらこそこそと面白そうなことをしているではないか。」
なんつーか、人を顔で差別するのは私たち魔物の間ではやっちゃいけないんだけど、
それを差し引いても見た目悪代官にしか見えない高位聖職者数人が、
鎧に教団の紋章をあしらった衛兵十数人を引き連れていた。
生き方が悪いと顔まで悪く育つっていう諺をフェルリから聞いたことがあるけど、
いまなら何の疑問もなく納得しちゃいそうだわ。
「この図書館はそなたらのような身分の低い司祭どもが入ってよい場所ではない。
その上聖歌隊の子供二人と見知らぬ修道女までつれこみよって。」
気持ち悪い笑みを浮かべる悪代官聖職者に対して、
こちら側の司祭も反論を試みた。
「…ブラディッシュ大司教、この子たちは無理矢理成長を止められ、
人としての尊厳を奪われている。父なる主神様はこのことをお許しになられぬ。
我々の身柄はどうなってもかまわん。この子たちの未来を取り戻させてほしい。」
「何を言うかと思えば……その子らは主神様の加護により永遠の命を手に入れたのだぞ。
死の恐怖から解放され、神の御元で末永く清らかに過ごせるのだ。
これほど素晴らしいことはなかろうて。」
「そりゃ大司教猊下のような先の短い人にとっては不老不死は素晴らしいことかもしれないが、
この子たちはまだ大きな成長の余地があるのに、成長を止めるなど…!」
「小さき人間の身が神への芸術作品になるのだぞ。神の仔としてこれほど名誉なことはない。」
「………………(ギリギリ)」
ユング君が静かに怒っている。
あくまでも他人をモノとしか見ていない奴がここにもいるのね……
少し前まで…私も同類だったから分かるけど、やっぱり最低だわ。
「あんたたち、いい加減に――」
『ふざけないで!』
「ヴィオラ…ノワール…」
私とノワちゃんはユング君をさえぎって彼らに対峙する。
「さっきから聞いていれば、あなたたちは素晴らしいことだとか名誉なことだとか……」
「そんなのはあなたたちの自己満足に過ぎません!」
「しかも酷使するだけ酷使して、ダメになったら使い捨て。
よくも同じ人間にこんなひどいことが出来るものね。神経図太すぎやしない?」
「だ、だまれ修道女の分際で!何を言おうが貴様らが神の意思に背く
大罪を犯しているのは間違いないことだ!衛兵、こいつらを取り押さえろ!
司祭どもは投獄しろ、聖歌隊の子供は部屋に戻した上で再教育を施す、
そして修道女は………わしが直々に神の教えを身体に刻みこんでやろう。
くふふ、見れば見るほどいい体つきをしておるではないか。」
「呆れたわ。こんな下衆がこの教会のお偉いさんだなんて。」
「主神さんはどうしてこんな人たちをのさばらせるんでしょうね?」
「僕も同感だよ。」
さて、面倒だし一片に無双して片付けちゃうか、
さもなくばユング君の歌で眠らせるか、
私達の負ける要素は何一つない。
でもなんだろう、まだ胸の中がもやもやする……
「あぁ五月蠅い。こんな時間に図書館で騒ぐなんて。騒ぐなら静かに騒ぎなさいな。」
『はぃ!?』
え!?ちょっと!なになに!?また新キャラ!?
あんまり色々現れると私の出番もそれだけ少なくなる上に、
読者も混乱するからやめてほしいんだけど!
で、声がした方を向くとそこにはバルコニー程度の広さの上段フロアがあって、
そこの手すりから寝癖がびょこびょこ立ってるだらしない格好の女性が顔をのぞかせてた。
髪自体はエメラルドグリーンの長髪で整えるときれいになりそうなんだけど、
殆ど寝起きで、手入れが全くされてない。なんかとてもモッタナイ…
だが、悪司教たちは私達と反応が違った。
「お…おお、これはインテグラ様!夜分に起こして申し訳ございません!
たった今不信心者どもが立ち入り禁止区域であるこの図書館に侵入したため、
しかるべき罰を与えようかとしているところです!」
「不信心者が?小生も十分不信心者だけどねぇ。」
一人称が小生!?女性なのに!?
「ねぇユング君、あの人誰?」
「さあ……僕も初めて見るよ。でもなんかどっかで見覚えが…」
私もなんか見覚えがあるようなないような…でも分かんない。
「ま、それはそうと侵入者って言うのはそっちにいる……
あぃ、つぁい、だぃ、ふぃぁ、ふゅー、ぜー、あー…
八人のことかしら、ん〜〜ん?」
「?」
女性はその場で視線を心なしか私とノワちゃんに向けてる気がする。
「…………む〜、そこの修道女さんたち、なんか妙ね………まさか…」
私達に視線を向けたまま、怪訝そうに眼を細める。
だらしない見た目とは裏腹に、その視線の鋭さは
なにか尋常じゃないものを感じさせる。
「あなたたち……魔物ね。」
『なっ!?』
私達の正体に気が付いた!?
夜の図書館は明りがほとんどなく薄暗い。
そして本棚がずらりと並び、中には建物三階分にも及ぶ高さの本棚もある。
「おかしいな…誰か入っていったのに明りがないよ。」
「きっと私たちが突然入ってきたから慌てて明りを消したのよ。
でも焦ることないわ。あっちに人の気配がする。」
「私は暗闇でもはっきり見えるから、まかせて!」
光がほとんどない場所でもモノが見えるノワちゃんを先頭に、
この部屋に入っていったと思われる人たちを探す。
人が来た途端明りを消して隠れるなんて、疾しいことをしようとしたに違いないわ。
「さあ!隠れても無駄ですよ!大人しく出てきなさい!」
「うっ!?まずい…見つかった……」
「だが諦めんぞ。この子の未来がかかってるのだからな。」
ノワちゃんが暗闇の中に潜んでいた人影を確認したようだ。
ノワちゃんによると人影は男性四人と女の子一人…
間違いなく先ほど私たちが見かけた集団みたい。
それにしても、この子の未来がかかってるっていったい……
「悪いがここで邪魔されるわけにはいかない!せやっ!」
「んっ!」
ヒュンッ
徐々に暗闇に慣れてきた私の視界の前に突如、剣光が一閃する。
狙いは私じゃなくてノワちゃんのほうだ!
しかしノワちゃんは、敵が視界のきかない中無暗に振り回した剣を余裕で回避し…
バシッ! ドゴッ!
「ぎぁっ!?」
「…っとごめんね。」
「えげつないわね、ノワちゃん。」
「え、そう?でもこれくらいは正当防衛で――」
私は見た。剣を回避たノワちゃんは
とっさに剣を持つ手に軽く手刀を喰らわせて剣を落とし、
後は鳩尾に軽く拳をたたき込む……つもりだったんだけど
「思いっきり金的してたわよ。」
「にゃああああぁぁぁ!!??私なんてことを!?」
まあ…ちょっと視界が悪かったからずれちゃったんでしょうけど…
金的は私たち魔物が一番やっちゃいけない攻撃なのよね。
当たり所が悪くて不能になったらこまるし。
「うおっ…うおぉぅおおぉ……」
痛恨の一撃を受けた男性がのたうちまわっている
「お、おいっ!大丈夫か?」
それを心配する同僚(?)
「大丈ばないよ。きっとこの世のものとは思えない痛さが…」
ユング君が呆れたような事を言ってる
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!私ドジでごめんなさい!」
そして自分を殺そうとした相手に対して猛烈に謝るノワちゃん
なにこのコントのような状況は?
「えっと、とりあえず落ち着きましょ。私達はこの教会の関係者じゃないわ。」
「なんだって…?」
「ちょ、ちょっとヴィオラ!何言ってるのさ!僕たちの正体ばらしたら」
「大丈夫よユング君、私に任せて。私達はこの教会で行われた、
人体改造を受けた子を治す方法を調べに来ただけなの。」
私の予想では、この人たちは『私達に』疾しいことをしているんじゃなくて
『教団に対して』疾しいことをしていると思うの。
つまり、敵の敵は味方ってかんじかな。
「…そうだったんですか。僕達はてっきりテンプルナイトに見つかったのかと。」
「実は我ら司祭四人もまたあなた方と同じ理由でここにきたのです。」
「というと?」
「それが、この子……この教会の聖歌隊に所属する子なのですが、
この子はとても美しい声を持っていたために上層部から目を付けられ、
永久的にこの歳のままにするため成長を固定してしまったのです。」
「かわいそうに、彼女はノイローゼになって声がでなくなってしまったのです。
このような所業を神がお許しになるはずがありません!」
私はふと司祭たちの後ろで縮こまっている小さな女の子に視線を移した。
人間の視力だとこの暗闇じゃ私達の姿は輪郭を把握できる程度だろうけど、
まだおびえたような表情で私たちを見つめてる。なかなか可愛い子ね。
「君も、なんだ…」
彼女もまた被害……ユング君の心の琴線に触れたみたい。
私は近くに落ちてた蝋燭(この人たちが隠れる前まで明かりとして使っていたのかもしれない)
に火の呪文で点火してユング君に渡す。ユング君は何も言わずに受け取った。
「僕がここを離れてもう何年にもなるのに、まだこんなことしてるんだ。
本当に自分勝手でクソッタレな連中だよ。ムナクソ悪い……」
「…………………………」
蝋燭の明りでユング君の顔と女の子の顔が鮮明になる。
女の子は何か言いたそうだけど、言葉を口にすることが出来ないみたい。
「聖歌隊の服…?ひょっとして君も…なのかい?」
若い司祭が、ユング君の格好を見てそう言った。
「でも見ない顔だ。」
「まあね。今の僕は聖歌隊じゃない。ここに潜入するための仮装だよ。
そうだな……聖アポロン合唱団って言えばわかるかな?」
「聖アポロン合唱団!まさか……!」
「聖アポロン合唱団といえば十年も前に組織された、今までにない
最高レベルの聖歌隊だ…そして第七次国土回復聖戦(レコンキスタ)で
騎士団と共に全滅してしまったはずでは!」
「ところが奇跡的に逃げのびることができてね、あっちこっちさまよってたんだけど…
そろそろ不老不死にも永遠の童顔低身長飽きてきてさ。」
「だから恋人の私が協力してるのよ。このまま永遠に
恋もエッチも知らないで生きて行くなんてかわいそうじゃない。」
「あ、ああ…」
なんか相手が唖然としてるけど、この際無視してさっさと話しを進めるわ。
「それで私達もユング君を元に戻す方法を探りにここまで来たんだけど、
何かいい方法知らないかしら?」
「ええ、元に戻せる確信はないのですが……可能性が高そうな方法ならあります。」
「この図書館には研究所が併設されておる。むこうのほうじゃ。
恐らくそこに術をかけた張本人がいる。そいつを捕らえて白状させるのじゃ。」
「術をかけた張本人が?なら話は早そうね、とっとととっちめましょ。」
「でも相手の強さは?ことによっては熟練の魔術師かもしれないし。」
「うぅん…正直我らもしょうたいがわかっとらんのだ。
だが、恐れていては解決できん。それに我々には神の加護がある、
非人道的なことをするような者は、神が見逃すはずがなかろう。」
「そう…」
正直こういう宗教的な精神論者は苦手なんだけど、あくまでも味方だからね。
じゃ、目的もはっきりしたことだしとっとと終わらせちゃおう。
と、思ったんだけどまたしてもハプニングが発生した。
「そこまでだ不信心者ども!その場を動くな!」
『!?』
あーあ、またやっかいなのが来たと思っている間に、
明りがほとんどなく真っ暗闇だった図書館がまるで
夜が明けるかのように明るくなっていく。
「わー!まぶしー!」
特にノワちゃんは暗闇に目が慣れてたから凄い眩しいようだけど、
これは照明魔法だから私達には特段害はないみたいね。
一応私達はとっさにフードをかぶっておくことにする。
「さて…クリストフォード司祭、サミュエル司祭、アーサー司祭、マイルズ司祭
なにやらこそこそと面白そうなことをしているではないか。」
なんつーか、人を顔で差別するのは私たち魔物の間ではやっちゃいけないんだけど、
それを差し引いても見た目悪代官にしか見えない高位聖職者数人が、
鎧に教団の紋章をあしらった衛兵十数人を引き連れていた。
生き方が悪いと顔まで悪く育つっていう諺をフェルリから聞いたことがあるけど、
いまなら何の疑問もなく納得しちゃいそうだわ。
「この図書館はそなたらのような身分の低い司祭どもが入ってよい場所ではない。
その上聖歌隊の子供二人と見知らぬ修道女までつれこみよって。」
気持ち悪い笑みを浮かべる悪代官聖職者に対して、
こちら側の司祭も反論を試みた。
「…ブラディッシュ大司教、この子たちは無理矢理成長を止められ、
人としての尊厳を奪われている。父なる主神様はこのことをお許しになられぬ。
我々の身柄はどうなってもかまわん。この子たちの未来を取り戻させてほしい。」
「何を言うかと思えば……その子らは主神様の加護により永遠の命を手に入れたのだぞ。
死の恐怖から解放され、神の御元で末永く清らかに過ごせるのだ。
これほど素晴らしいことはなかろうて。」
「そりゃ大司教猊下のような先の短い人にとっては不老不死は素晴らしいことかもしれないが、
この子たちはまだ大きな成長の余地があるのに、成長を止めるなど…!」
「小さき人間の身が神への芸術作品になるのだぞ。神の仔としてこれほど名誉なことはない。」
「………………(ギリギリ)」
ユング君が静かに怒っている。
あくまでも他人をモノとしか見ていない奴がここにもいるのね……
少し前まで…私も同類だったから分かるけど、やっぱり最低だわ。
「あんたたち、いい加減に――」
『ふざけないで!』
「ヴィオラ…ノワール…」
私とノワちゃんはユング君をさえぎって彼らに対峙する。
「さっきから聞いていれば、あなたたちは素晴らしいことだとか名誉なことだとか……」
「そんなのはあなたたちの自己満足に過ぎません!」
「しかも酷使するだけ酷使して、ダメになったら使い捨て。
よくも同じ人間にこんなひどいことが出来るものね。神経図太すぎやしない?」
「だ、だまれ修道女の分際で!何を言おうが貴様らが神の意思に背く
大罪を犯しているのは間違いないことだ!衛兵、こいつらを取り押さえろ!
司祭どもは投獄しろ、聖歌隊の子供は部屋に戻した上で再教育を施す、
そして修道女は………わしが直々に神の教えを身体に刻みこんでやろう。
くふふ、見れば見るほどいい体つきをしておるではないか。」
「呆れたわ。こんな下衆がこの教会のお偉いさんだなんて。」
「主神さんはどうしてこんな人たちをのさばらせるんでしょうね?」
「僕も同感だよ。」
さて、面倒だし一片に無双して片付けちゃうか、
さもなくばユング君の歌で眠らせるか、
私達の負ける要素は何一つない。
でもなんだろう、まだ胸の中がもやもやする……
「あぁ五月蠅い。こんな時間に図書館で騒ぐなんて。騒ぐなら静かに騒ぎなさいな。」
『はぃ!?』
え!?ちょっと!なになに!?また新キャラ!?
あんまり色々現れると私の出番もそれだけ少なくなる上に、
読者も混乱するからやめてほしいんだけど!
で、声がした方を向くとそこにはバルコニー程度の広さの上段フロアがあって、
そこの手すりから寝癖がびょこびょこ立ってるだらしない格好の女性が顔をのぞかせてた。
髪自体はエメラルドグリーンの長髪で整えるときれいになりそうなんだけど、
殆ど寝起きで、手入れが全くされてない。なんかとてもモッタナイ…
だが、悪司教たちは私達と反応が違った。
「お…おお、これはインテグラ様!夜分に起こして申し訳ございません!
たった今不信心者どもが立ち入り禁止区域であるこの図書館に侵入したため、
しかるべき罰を与えようかとしているところです!」
「不信心者が?小生も十分不信心者だけどねぇ。」
一人称が小生!?女性なのに!?
「ねぇユング君、あの人誰?」
「さあ……僕も初めて見るよ。でもなんかどっかで見覚えが…」
私もなんか見覚えがあるようなないような…でも分かんない。
「ま、それはそうと侵入者って言うのはそっちにいる……
あぃ、つぁい、だぃ、ふぃぁ、ふゅー、ぜー、あー…
八人のことかしら、ん〜〜ん?」
「?」
女性はその場で視線を心なしか私とノワちゃんに向けてる気がする。
「…………む〜、そこの修道女さんたち、なんか妙ね………まさか…」
私達に視線を向けたまま、怪訝そうに眼を細める。
だらしない見た目とは裏腹に、その視線の鋭さは
なにか尋常じゃないものを感じさせる。
「あなたたち……魔物ね。」
『なっ!?』
私達の正体に気が付いた!?
12/02/07 19:40更新 / バーソロミュ
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