夢想!魔王娘!
ここはサンダリヨン中央教会の大広間。
煌びやかな内装と豪華なシャンデリアが強調する豪華な部屋には、
純白のテーブルクロスが敷かれ、豪勢な料理と高級酒が並んでいる。
料理が載っている大きなテーブルを囲むように、
何人もの宗教関係者と思われる白い法衣を来た中年男性たちが
お互いの自慢話に花を咲かせていた。
彼らはサンダリヨン中央教会を中心とする教団勢力の幹部であり、
大司教や枢機卿、元老委員など相当立派な肩書を持ったものばかりである。
「まったく、最近我が領の領民どもが税率が重すぎるなどとほざきよる。
我々に生きる糧を与えてくれる神への感謝を示さず、文句ばかり垂れ流し
あまつさえ税を納めず反抗する者までいる始末。まことにまかりならん。」
「まあまあ、そのようなさないなことで悩まずともそのような不信心者は
神の剣たる教会軍に編入し、神のために血と汗を流させればよいではないか。」
「うむ、それは良い考えであるな。おまけに邪悪な魔物も討伐出来て
一石二鳥と言ったとこじゃな。はあっはっはっはっは!」
しかし肝心の会話内容は教会を代表するものとは思えない、
下卑で俗世的なものであった。
「そう言えば……例の『少年十字軍計画』は順調かね?」
「ええ、それはもちろんです。すでに各地から神童と称される少年たちを
集めております。あとは例の術……おっと失礼。神の祝福を授け、
純粋に善きを助け悪を滅する正義の少年たちになりましょう。」
「ふむ、どうやらぬかりはないようだな。完成が楽しみだ。
そうだ…完成の暁には一番の美少年を少しの間だけ我にお貸し願えぬかな。」
「おやおやこれは。承知いたしました、選りすぐりの子をお貸しいたしましょう。」
「くっくっく、大司教。おぬしも悪よのう。」
「いえいえ…枢機卿様ほどでは。」
「その悪事、許すわけにはいかないわ!」(←エコー)
そこに、突如として現れた謎の美女。
「きっ…貴様!何者だ!」
「ここをどこだと思っている!」
「ふっ…本来ならあなたたち三下に名乗る名前はないんだけど、今回は特別よ。
この世に闇がある限り、光も消えぬというのなら。
残った光も私がすべて、淫堕の光に変えて見せよう。
秀麗なる魔界のプリンセス!ヴィオラート参上!」
そういって決めポーズをとる私…ヴィオラート。
これには教団の連中もかなり驚いたようだ。
「やっぱりユング君の成長を止めたのはあなたたちだったのね。
あなたたちの人を人とは思わない悪逆の数々、反省してもらおうかしら。」
「り、リリムだと!?こんなところにまで!」
「なぁに、奴は一体だけだ。飛んで火に入る夏の虫とはこのことよ。」
「騎士団!魔物が出たぞ!出会え出会え!!」
「魔物だ!」
「出会え!」
「不浄な魔物め!神の裁きを喰らうがよい!!」
あっという間に数十人もの教会騎士団が大広間に入ってくる。
でもこれくらいじゃ私は物怖じしないわ。
「行くわよ!覚悟しなさい!」
私は愛用のオーロラの剣を鞘から抜いた。
〜♪BGM:暴れん坊魔王娘…殺陣のテーマ♪〜
まず一番近い位置にいた騎士を抜刀で倒し、
すぐさま側面から騎士をそのままの勢いで斬り倒す。
間髪いれず別方向の敵から剣が振り下ろされるも、余裕で回避。
隙が出来たところに袈裟切りを喰らわせる。
ズンッ!バサッ!ザシュッ!
「ぐわっ!」「おぁっ!」
この間わずか4秒。
そのまま流れるように敵の攻撃を回避しつつ、ほぼ一太刀で斬りどもを倒してゆく。
蝶が舞い、蜂が刺すとはこのことね。
「くそっ!なんて強い魔物だ!」
「魔法だ!魔法を撃て!」
そんな声が聞こえると同時に、司祭や修道士たちが魔法の詠唱を始めた。
『神の光よ、邪悪なものに罰を!』
『ライトニング!』
『パージ!』
『パニッシュメント!』
ズドドドドドドドッ!!
四方八方から光魔法の一斉射撃。
しかし、そんな程度では私は倒せないわよ。
「ミラーコート展開!!」
カンカンカンカンカンカン!
BAM! BAKOOOOM! BAGOM!!
「ぎゃあっ!?」「ひいっ!?」
私は即座に魔法を反射する決壊を身体の周囲に展開する。
これで奴らが撃った魔法は全部術者に威力2倍増しで返ることになる。
自分たちの撃った新罰で自分たちが罰を受けちゃ様ないわね。
「いい?魔法とはこうやって撃つものよ!!」
今度は私が魔力によって火球を作りだし、敵の密集地帯に放つ。
ちゅどーーん!!
「ぐわあぁっ!!」「ぎゃっ!?」
「な、なんという威力!まさか高位炎魔法…エクスプロウドか!?」
「ちがうわ。今のはただのファイアよ。」
「バカな!?ファイアであの威力だと!?」
敵が驚いている間にも、私は剣と魔法を間断なく駆使して次々と敵を葬っていく。
先ほどまでたくさんいた教団騎士や教団魔道士は殆ど倒し、
残すは広場の隅に避難していたデブやら悪人顔やらの教団幹部だけとなった。
「成敗!!」
「ひ…ひぃっ!」
中には覚束ない腕で剣を振ってきたり、必死に魔法を討とうとする司祭もいたが
それらもあっという間に倒す。そして……
「や、やめろ!神の代理人たるワシを死なせたりしたら…
貴様には本当に天罰が下るぞ!」
「この期に及んでなにいってんだか。あなたも大好きな神様の元に送ってあげるわ!」
ビシィッ!
「か…神よ……どうか、お助けを……」
ふっ…悪は必ず滅びる定めなのよ。
…
……
………
――――――――――――――――――――――――――――――――――
………
……
…
「う〜ん…あくは……かならず…ほろびりゅ……」
「ねぇ、ヴィオラが変な寝言言ってるんだけど。」
「ほんとね。そろそろ起きるかしら。」
…………?
なんか聞き覚えがある声が……?
「う…う〜ん……」
ゆっくりと目を開ける。
「おはようヴィオラ。と、いっても夜だけどね。」
「あ、起きたヴィオラちゃん?」
「ほえ……?」
開いた私の目に映ったのは二人の顔だった。
一方は青髪にクリっとした瞳…ユング君ね。そしてもう一方は…
「ノワちゃん!?」
「久しぶりねヴィオラちゃん♪フェルリさんに頼まれて応援に来てあげたわ。」
ノワちゃん……正しくはノワール・カース・ヴィケット。
私にとって親友中の親友であるヴァンパイアなの。
長めの銀髪にルビーのような赤い瞳。それにやや赤みがかった黒い服を着てる、
ヴァンパイアだけどリリムみたいな容姿をしているの。
いざとなったら私の影武者も務められるくらい外見が似ているわ。
性格はヴァンパイアにしては珍しく穏やかでとっても優しい。
その影響かどうかは知らないけどちょっとドジで天然なのが玉に疵なのよね。
でも、普段は強い意志と苦労を厭わない行動力がある、頼りになる友達よ。
ちなみに、ノワちゃんは既婚よ。
「なるほど、フェルリが言ってた応援ってノワちゃんのことだったのね。
で、どうして私は見知らぬ場所のベットの上にいるのかしら?」
「なんだ、覚えてないのか。」
ユング君は呆れたと言った感じで手を持ち上げて首を横に振った。
「倒れたんだよ、ヴィオラは。この街に転移した途端、
急にぱたっと倒れちゃって。まったく、心配したよ。」
「え、マジで!?」
「大マジよヴィオラちゃん。私もすぐに駆け付けたからよかったけど、
もしものことがあったらヴィオラちゃんもユング君も大変なことになってたわ。」
「うっ……そうだったんだ…」
…思い出したわ。
勢いに乗った私はこのところ、魔力が限界ギリギリだったことに気がつかなくて、
サンダリヨンの近郊まで転移したところで魔力切れによる失神を起こしたんだっけ。
あっちゃ〜、こりゃ近年まれにみる大失態ね……
「たしかにヴィオラちゃんは強いけど、自分の力を過信しちゃメッだからね。」
「はい。ハンセイシテマス。」
「よろしい♪」
「むぅ、たまにノワちゃんって私を子ども扱いするよね。」
それが少々不服なんだけど、ノワちゃんは私を救ってくれたんだから。感謝しなきゃね。
「ふふふ、じゃあもう少し休んで体力が回復したら改めて作戦会議しよっか。」
「そうね。作戦会議……」
あれ?私、単身教会に乗り込んで華麗な大立ち回りしなかったっけ?
なんかこう……ジパングの勧善懲悪ものみたいな……
…
「夢か!?」
「夢?……そういえばヴィオラ、さっき寝言で
悪がどうとかこうとか言ってたけどどんな夢見てたの?」
「うーん、実はね。」
リリム説明中…
「ってな感じで私が教会騎士や魔道士相手に大暴れするっていう夢をみたの。」
「あのさ、実際それやったら本末転倒だよね。確かにヴィオラならできるのかもしれないけど
聞きだす人まで殺しちゃったら意味無いじゃん。」
「だよねー。私も今そう思ってたところよ。」
「それにあんまり目立つことすると魔王様にまで迷惑かけるかもしれないしね。」
「うーん、やっぱ目立たないように潜入するのが一番ね。」
当たり前だけど、私達リリムは人間…特に教会関係者たちにとっては脅威らしいから、
見つかったらそれだけでとっても大事になるのよね。
私ったら罪な魔物♪
「やっぱり簡単に行くなら、どっかから修道服でも借りてきて(または奪って来て)
シスターに化けて潜入するのが手っ取り早いと思うの。」
「じゃあ僕はどうしようか?」
「ユング君は元々聖歌隊の所属だったから、聖歌隊の服があればいいんじゃないかしら?」
「うげっ!?またあの服着るのか……」
ユング君は明らかに不服そうだった。
無理ないわ、聖歌隊の生活はユング君にとってトラウマなんだから。
「まあまあ、少しの間だけだから我慢してよ。」
「しょうがないな、僕も人生かかってるから好き嫌い言ってる場合じゃないよね。」
「あら、ユング君は偉いのね。いいこいいこ♪」
「ちょ…ちょっと!恥ずかしいから…」
あの〜、ノワちゃん。気持ちは分かるけど、
恋人の前で彼氏を撫で撫でするのはやめてほしいわ…
「こ、こほん。」
「あっとごめんね。じゃ、私は適当に衣服調達してくるから
ユング君と一緒にしばらくここで休んでてね。」
「ありがとうノワちゃん。でも、うっかりドジ踏まないようにね。」
「だ、大丈夫よ…たぶん!」
「どうだかね。旦那さんとの初エッチのときにセクシーランジェリーじゃなくて
間違えてくまさんパンツはいたノワちゃんだから……」
「ひ〜ん!それを言わないで〜!」
「くすくす、わかってるわよ。私はノワちゃんを信じてるわよ。なんたって親友じゃない。」
「むぅ……」
からかいつつも、ノワちゃんは衣類の調達に出かけたわ。
ノワちゃんには頭が下がる思いだわ。
その間、私はゆっくり休んで体力を回復するとしよう。
「ねぇ、ヴィオラ。」
「ん?」
二人きりになってしばらくして、ユング君がぽつりと話しかけてきた。
「ノワールから聞いたんだ。ヴィオラが今よりもっと魔力を消耗していたら
下手したら命にかかわったらしいんだ。」
「そうね……私たち魔物、特にサキュバス種にとって魔力は酸素より大事なものなの。
当然その魔力が尽きれば身体が動かなくなることだってあるの。」
「でも、ヴィオラはそれすらも厭わないで僕なんかのために頑張ってくれてる……。
僕はヴィオラに対して何もしてあげられないのに、どうして?」
「……そっか。」
ユング君は今までずっと一人で生きてきた。
だから周りは殆ど敵だらけといっても過言じゃなかったはずだわ。
もちろんそんな生活が何年も続けば、人を信用できなくなる。
だから……無償の好意というのが、理解できないのだろう。
わたしはそっと、ユング君を抱きしめた。
「いい、ユング君。私はあなたのことを愛してる。理由はただそれだけなの。
でも…ユング君には理解できないかもしれないけど、私はユング君がそばにいるだけで
何でもしてあげたくなるの。全力で…あなたの力になってあげたいの。」
「……ヴィオラ、やっぱり僕にはよく分からない。」
「今はまだ分からなくていい。ユング君が私のことを嫌いにならなければそれでいいの。
恋人同士……何て言ったけど、今は…私を新しいお姉さんができた程度に
思ってくれればそれでいいから……。」
やっぱり…思った通り。
ユング君は性格はひねくれてるけど、それは人生を狂わされたから……
本当は素直で優しい……とっても心が綺麗な男の子なんだ。
その綺麗な心に、魔王の娘の私が惚れたんだから……世の中分からないものね。
「それにね、何もできないなんてことはないわ。ユング君の音楽は私にとって
今まで聞いたどんな音楽よりも心に届いてくるから……。
これからもずっと、ユング君の綺麗な歌声を聞かせてほしい。」
「……そうだね。願わくば……僕の音楽を…二度と………ものに…」
「あら?」
安心したのか、はたまた疲れちゃったのか。
ユング君は抱かれた私の胸の中で静かに寝息を立て始めた。
やれやれ、まだお子様だから仕方ないわね。
「お休み、ユング君。」
ユング君の寝顔に軽く口付けすると、私もそのままゆっくり目を閉じた。
…
……
………
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「その悪事、許すわけにはいかないわ!」(←エコー)
「きっ…貴様!何者だ!」
「ここをどこだと思っている!」
「ふっ…本来ならあなたたち三下に名乗る名前はないんだけど、今回は特別よ。
この世に闇がある限り、光も消えぬというのなら。
残った光も私がすべて、淫堕の光に変えて見せよう。
秀麗なる魔界のプリンセス!ヴィオラート参上!
やっぱりユング君の成長を止めたのはあなたたちだったのね。
あなたたちの人を人とは思わない悪逆の数々、反省してもらおうかしら。」
「り、リリムだと!?こんなところにまで!」
「なぁに、奴は一体だけだ。飛んで火に入る夏の虫とはこのことよ。」
「騎士団!魔物が出たぞ!出会え出会え!!」
「魔物だ!」
「出会え!」
「不浄な魔物め!神の裁きを喰らうがよい!!」
「成敗!」
――――――――――《Side Noir》――――――――――
「うへへ……せーばいいたす〜……むにゃむにゃ…………」
「ヴィオラちゃん…また同じ夢見てるんだね(汗」
私…ノワールは苦笑いしながら、二人の寝顔を観察することにした。
11/10/08 10:59更新 / バーソロミュ
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