|
||
自由都市アネットの中心部にある市長邸は、 この都市のどの建物よりも大きい。 別に市長が豪勢を好むというわけではなく、 単に市長の体格が大きすぎるゆえに格別の規模となっているのだ。 外見はいたって普通であり、内装も特に凝ったところはない。 さながら飾らずとも目立つ市長を体現しているかのようである。 そんな市長邸にある市長の寝室では、 特大のベットの上に、朝だというのに熟睡中の 市長フェデリカとともに、 何があったのか、すっかりボロボロのカレルヴァがいた。 彼は決して拷問を受けていたのではない。 むしろ、新たなる妻の愛情表現を一身に受けた結果である。 武闘派で発情した妻を持つ夫には、ありがちな光景だ。 もっとも、二人はまだ結婚式をしていないが… これから盛大に行われるだろう。 「くー、くー、すぴー……、愛…してるよ…、…くー。」 「ううっ…、い…生きてるよな…俺……」 まるで自分が生きているのが不思議だという表情で、ぐったりする。 今まで何度かエルに課された訓練で体力の限界に挑戦させられたり、 カーターによって痛覚がマヒするほど打ちすえられたりしたが、 あの地獄のような一ヶ月は、昨夜の本当の地獄を 耐え抜くための訓練だったのかと考えていると… コンコンコン。 「入るわよ。」 「?」 ノックと共に開いた扉から、 カペラ、ツィーリン、シャノン、そしてリリシアが入ってくる。 「あらあら、昨晩はお楽しみだったようね♪」 第一声を発したカペラは楽しそうな表情をする。 「ふん、無様だな。それがあの憎たらしい教団の騎士の姿か。 神の剣だなんだ言いながら、所詮人間だな。」 小馬鹿にしたような態度を取るツィーリン。 「だめですよツィーリンさん。 フェデリカさんの夫を侮辱しちゃ。怒られますよ。」 フォローしているようでしていないシャノン。 「それにしましても…凄まじい匂いですわ… このようなところに長くは居られませんわ! さっさと用件を済ませておしまいなさい。」 リリシアは顔を少し赤くしながらも カペラに命令する。 「あ…あんたら…、何しに…来たんだ? フェデリカ…なら、今は…寝ている…ぞ。」 息も絶え絶えに、彼女らが部屋を訪れた理由を聞く。 それに、カペラが応じる。 「ええ、ちょっとあなたに聞きたいことがあってね。」 「俺に…聞きたいこと…?」 「十字軍の戦略について、 あなたがわかる範囲で教えていただきたいの。」 「なっ…!なんだと!」 よりによって、直球に利敵行為を求められたのだ。 カレルヴァの驚きは相当なものだった。 「ば…ばかだろうあんたら…、 そんな…直接的に聞かれて…答えるわけないだろう…!」 もちろん彼は拒否したが、これは想定内。 「ふっ、愚かな。お前に拒否権があると思っているのか。」 「捕虜にだって…拒否権は…ある…」 「ほう、今まで魔物というだけで命乞いすら許さず 問答無用で命を奪ってきた貴様が、 どの口でそんな事をいうのか。」 「……くっ」 ツィーリンの痛い指摘に返す言葉もない。 「はいはい、抵抗はそこまでにしておきましょうね。 さもないと今からフェデリカを起こして、 昨晩の続きをさせるわよ♪」 「は?」 「今ね、フェデリカにじわじわと崔淫魔法をかけてるの。 ほらみて、フェデリカの顔、徐々に赤くなってくでしょ? とっても気持ちよさそうな顔をしているわ。」 「ん〜……、んふぅ…、はぁっ…、んくっ……」 見るとフェデリカの頬は紅潮し、 寝息も徐々に乱れていく。 どちらかといえば苦しそうだ。 「ね、すごいでしょ。 このままいけばあまりのもの欲しさに起きちゃうわよ。」 「そうなったら貴様は今度こそ天国か地獄行きだな。」 「わ、わかった!しゃべるからこれ以上は勘弁してくれ!」 カレルヴァはあっさりと折れた。 無理もない。 原子力発電所の職員が原子炉に縛り付けられて 「徐々に反応速度を上げるぞ」と 脅されているようなものである。 「ご協力感謝いたしますわ。早速質問、よろしくて?」 「ああ…もう、やけだ。」 「十字軍司令官はこの地方を どのくらいで攻略しようとしていらっしゃるのかしら?」 「…………三カ月。」 「へ?」「は?」「何?」「ええっ?」 これを聞いた四人は相当驚いた。 味方ですら無理だ無謀だと騒いだのだから、 敵にとってみればかなりショックだった。 「な、何という自信ですの!そこまでわたくしたちを なめてかかってきていますの!?」 「いえ、もしかしたら兵站の問題で 三カ月しか行動できないのでは…」 「そんな脆弱な兵站、聞いたことがないわよ! しかし、いくらなんでも三カ月は短すぎるわ!」 「だが相手はあのエルだ!奴ならやりかねん! おそらく何か切り札があるはずだ!」 「と、とにかくですわ! もう少し何か話していただければわかるかもしれませんわ。」 改めてリリシアが質問する。 「司令官は具体的にどのような戦略をもちまして わたくしたちに挑む魂胆ですの?」 「…それは…」 カレルヴァは一瞬ためらうも、口を割る。 「この都市…アネットに敵を釘づけにしている間に、 南方から…迂回してプラム盆地を攻略… そしてそのまま…カンパネルラを攻めるつもりだ…」 『な、なんだってぇぇぇーーー!!!』 彼女たちにかつてない衝撃が走る。 普通に考えれば最初はアネット攻略に全力を注ぐだろうと思い、 それに対抗するためにほぼ全軍にあたる 180000人をこの都市に集結させている。 現実に敵の第三軍団は一直線にこの都市を目指し 早くも前方30qの地点に前線基地を建設している。 後ろの第二軍団も、明日明後日には追いつく見通しだ。 よって、彼らがこの都市を全力で攻撃することは もはや当然の流れといったところなのだが… 「み、南に進路を取るということは 私の街が危ないのではっ!?」 最も狼狽しているのはチェンバレン市長のシャノン。 下手をすれば自分の都市が危機に陥るのだ。 「わ、わたくしの戦略が裏目にでるなんて…」 あまりのショックに呆然となるリリシア。 「なんということだ…私はなぜ気付けなかったのだろう…」 プラム盆地の太守であるツィーリンもまた かなりのショックを受けている。 「わ、私…あまりの衝撃に軽くイキそうになったわ…」 そしてあいかわらずのカペラ。 なんでこんなのが市長をやってるんだと突っ込める人物は 残念ながらここにはいなかった。 そこに、何者かが足早に入出してきた。 「おい皆のもの!緊急事態じゃ!いますぐ府庁に集まれ!」 飛び込んできたのはレナスだった。 彼女の背ではこの家のドアノブには手が届かないのだが、 幸いにしてドアが半開きだったので 体当たりで開けることが出来た。 「わかりましたわ!今すぐにでも向かいましょう!」 「このタイミングで緊急事態だと!?」 「嫌な予感がします…」 「じゃ、じゃあねカレルヴァさん!お幸せに!」 四人の魔物は足早に、城の府庁に向かっていく。 時間帯的にはもう陽が昇ってだいぶたつので、 ヴァンパイアでありながら全力疾走をしていたツィーリンは 途中で力尽きるも、リリシアに背負われて なんとか府庁に辿り着く。 府庁の会議室の中央。 そこには黒色の水晶球がある。 これは遠隔地と一瞬で情報を共有するための魔道具で(サバト製) これさえあれば伝令の負担が大幅に減る。 魔物の軍ならではの方法である。 そして、その黒い水晶球には 一匹のダークプリーストが映っている。 彼女はロニヤ。シャノンからチェンバレンの留守を任されていた。 「シャノン様!緊急事態が発生いたしました!」 「ロニヤ!詳しい報告を!」 シャノンは慌てた様子でロニヤの報告を聞く。 「はい!敵の本隊と思われる大軍が急に 進路を変更し、この街に向かっています! 偵察兵の報告では総勢およそ100000人!」 「じゅ、十万じゃと!!」 レナスは思わず大声で叫んでしまう。 まさに驚きの連続であった。 100000人といえば敵兵力見積もりの3分の2だ。 一方の親魔物都市連合軍は大半をこの都市に集めており、 後方のプラム盆地に20000人、首都カンパネルラに予備兵力10000人 それ以外の都市には最低限の守備兵力しか残していない。 さらに主要な将軍もこの都市に集中している。 「わ、私の街は…私を慕ってくれた人たちは… どうなってしまうんでしょうか…」 あまりの絶望的な状況にシャノンは冷静さを失う。 今すぐに向かわなければ自分の都市は確実に陥落する。 しかし、将軍たるもの私情で軍を動かしてはならないのだ。 場合によっては都市とそこに住む市民を見捨てなければならない。 だが… 「…これより、わたくしたちは 救援軍を率いてチェンバレンに向かいますわ!!」 「リリシアさん…!?」 「同胞を見捨てることはわたくしの実績とプライドが許しませんわ!!」 「ですが…今軍を分散してしまうとこの都市も危ないのでは…!?」 「なにを言ってますの!フェデリカに守りを任せますれば この都市はそう簡単には落ちませんわ! それよりも、十字軍を決戦で撃破するチャンスは 戦力が3分の2になってる今しかなくってよ!」 「そうじゃぞシャノン。おぬしはあの都市の市長なのじゃ。 自分たちの市民を守るために、素直にリリシアに甘えるがよい。」 「…わかりました!今すぐ救援に行きましょう!」 「そう、その意気ですわ! カペラとレナスも今すぐに編成の用意をなさいませ! ツィーリンはフェデリカの補佐を頼みましたわ!」 「は…はい…。」 こうして連合軍はあわただしく編成を始めた。 このような場合には、リリシアの即断力が頼もしかった。 連れていく兵力は120000人。残りの60000人は守備としてアネットに残す。 20000の差があれば十分兵力差を生かして攻撃できるし、 都市には攻撃軍と同数を残しておけば陥落の危険は少ない。 まさに絶妙な編成だった。 それと同時に、チェンバレンまで行くのに要する時間と その過程で消費するであろう物資の量を一瞬にして計算し、 荷駄隊に運搬指示を出す。 「物資の確保はこれでいいでしょう。後は…」 「さすがだな、リリシア。準備が早いね。」 「あらフェデリカ。起きていらしたの?」 「これだけ騒がしいとな、いくらなんでも目が覚めるってもんだ。」 にわかに慌ただしくなった城内の喧騒に、 さすがのフェデリカも気づいたようだ。 「ツィーリンから話は聞いた。後のことは私たちに任せておけ。」 「ええ、お願いいたしますわ。でも残念ですわね。 結婚式はまだ開けそうにありませんわ。」 「気にするなって、結婚式ならいつでもできるさ。 たとえ子供が出来た後でもな。 それよりも今は目前の危機を何とかするのが先だ。」 「苦労かけますわね。」 なんだかんだいってリリシアにとって フェデリカは頼れる存在なのである。 「リリシア様!出発の準備が整いました!」 「わかりましてよ。 ではフェデリカ、後は頼みましたわ!」 「おう!そっちも気をつけてな!」 もはや一刻の猶予もない。 リリシアは騎乗する白い魔馬に跨り、軍の中心に向かう。 そして、出発の合図を出す。 リリシア率いるカンパネルラ軍120000人は、 怒涛の勢いでチェンバレンに向かって行った。 前線基地の建設指揮をしていたカーターは、 シモンから敵軍勢出陣の報告を受けた。 「報告します。アネット城内から敵軍勢が出撃しました。 総勢およそ120000人と見られます。」 「それほどの大軍が出撃だと?その割にはやけに落ち着いてるな。」 その大軍がこちらに向かっているのだとしたら、 もっと緊張した報告になっていただろう。 そうでないとしたら、その矛先はこちらではない。 だとすれば… 「ええ、軍勢は南門より出撃し、そのまま南下する模様です。」 「奴らめ、エルの意図に早速気がついたようだな。」 「だとしても早すぎますな。おそらく敵は何らかの 高速情報伝達手段を持っているのではないかと存じます。」 ゼクトが意見を補足する。 「これでは少し戦略に支障をきたす恐れがあるかもしれません。」 「なーに。エルのことだから心配いらないだろう。 いやむしろ、エルにとっては好都合かもしれないな。」 「そんなもんですかね?」 「奴らは決戦を求めている。それこそエルの思うつぼだ。 大人しく都市にこもっていればよかったものを。」 若干不安そうなシモンに対し、余裕の表情のカーター。 カーターがいかにエルのことを信頼しているのかが見て取れる。 「さて、ミラリィを呼んでくれ。 あいつの魔法でこの手紙をエルに送る。」 いつの間にか報告書を書いたカーターは、 手紙を紙飛行機の形に折る。 そのあと呼び出しに応じたミラリィが、 風魔法で一気に紙飛行機を飛ばした。 さて、こちらはチェンバレン目指して南下する十字軍本隊。 その兵力は本隊60000人と第四軍団30000人。計90000人である。 チェンバレンの偵察兵の大まかな推測よりやや少ないものの、 一万人の誤差はこの際関係ない。 行軍速度は明らかに通常の軍より速く、 沿道にある小さな集落の住民は慌てて逃げ出している。 こんな方まで十万人規模の 軍勢が来たことは今までなかったのだ。 「進軍は順調だな」 「ええ、予想通り敵からの迎撃は一切ありません。 それにミーティアさんの偵察によれば、 チェンバレンには最低限の守備部隊しかいないとのこと。」 エルとマティルダは行軍しながら馬上で会話を交わす。 それに加えて、エルの馬にはユリアも同乗している。 マティルダにとってはうらやましい限りだ。 「あ、エルさん。ユニースさんから連絡が入っています。」 ユリアは自分の首から下げている青い水晶をエルに渡す。 これも、通信のための魔道具であるが、 リリシア達の持っている黒い水晶球よりやや性能が落ちて 声のみが届くシステムになっている。 その上、使用には使用者が魔力を負担する必要があり、 効果範囲も限定されている。 その代り、携帯できるという大きな利点がある。 大軍を効率よく動かすためにファーリルが発明したのだ。 『こちらユニース。この先4kmの地点に、 無人の集落を発見しました。どうぞ。』 「こちらエル。そろそろ日が暮れる。 今夜はそこで野営にする。どうぞ。」 『ヤヴォール(了解)。』 交信が終了すると、エルは水晶をユリアに返す。 「マティルダ。今日の野営地はこの先にある集落だ。 距離的にあと半刻ほどで到着する。」 「わかりました。各将軍にそのように伝えておきます。」 マティルダは伝令用紙に簡潔に書きこむと、 それを持って馬を走らせる。 「しかし、この辺りには本当に誰もいませんね。」 「もともとこの道は町と町をつなぐだけの単なる街道ですからね。 アレイオンとチェンバレンの交流がなくなって以来、 ほとんど利用されていません。 当然、中継点の宿場町も全て廃れてしまい 今では小さな集落が残るのみです。」 「それで相手もこの道を重要視していなかったんですね。」 「それもありますが、今までの戦いはアネットで止まっていますから、 こちらに目を向ける軍がなかったわけです。」 「なるほど…」 行軍の最中にも、ユリアはエルと積極的に話し、 彼の戦略の一端を学ぼうと努力している。 「攻撃の基本は『敵の予期しないところに戦線を作る』ことです。 まずは、こちらが戦いの主導権を握れば それだけ有利に物事が展開するのです。」 「簡単に言いますけど、結構難しいことを要求しますね…」 実際、これが出来る将軍は カーターやリリシアくらいである。 そのリリシアも今回は「勝てずとも負けない」戦にこだわるあまり エルに振り回されることになってしまっている。 「あら?エルさん、紙飛行機が。」 「おそらくカーターかファーリルの伝言でしょう。」 「エル司令官!気を付けてください!怪しげなものが!」 「待て待て。ああみえてもあれは俺への手紙だから 勝手に打ち落とさないでくれ。穴があいたら困る。」 怪しい紙飛行機を弓矢で打ち落とそうとする 青髪の将軍を止めて、紙飛行機を自分に誘導する。 「えーっと、なになに…」 「エル司令官。どのような内容だったのですか?」 先ほどこの手紙を打ち落とそうとした、 ロングの青髪に、珍しい銀色の瞳、 弓兵専用の鎧を着た女性の将軍がエルに内容を問う。 彼女はラルカという諸国同盟出身の将軍で、弓を得意とする。 将軍としての経験はまだ未熟である。 「そうだな、ここで言うのアレだから野営地で会議を開いてそこで発表する。」 「そうですか…まだ教えてもらえませんか…。私がまだ未熟だからでしょうか?」 「未熟かどうかは関係ない。 一人の将だけに情報を先行して教えると、後で情報の齟齬が起きるからな。」 「でもマティルダ様は…」 「あいつは副軍団長だから特別だ。」 そういってエルは手紙を胸元にしまう。 今はユリアにも見せない。 「エル司令官の…その、胸元にしまう動作… なんかエロティック…と言いますか、萌えます。」 「突然何を言い出すんだお前は!?俺のケツを舐めろ!」 「…………///」 「なんでどいつもこいつもニュアンスが伝わらないんだ。」 「恐らくですが、それはエルさんだからだと思います…」 ちなみに、「俺のケツを舐めろ!」はユリスに伝わる言い回しで、 意味としては「引っ込め!」「失せろ!」という言葉に近い。 (英語で言うところの「Fuck You!=犯すぞコラ!」にあたる。) まあ、エルが言うと… 宿営地を建設した後、エルは本隊と第四軍団の将軍を全員集めた。 内訳は 本隊(第一軍団) ・エルクハルト:諸国同盟出身 総司令官 男性? 男の娘 ・ユリア:エンジェル 従軍天使 女性 清楚なお姉さん ・マティルダ:諸国同盟出身 副軍団長 女性 全身赤一色 ・セルディア:帝国軍出身 第一師団長 男性 白眉 ・ディートリヒ:諸国同盟出身 第二師団長 男性 渋い ・ジョゼ:諸国同盟出身 第三師団長 男性 大音量ボイス ・リノアン:諸国同盟出身 第四師団長 女性 控え目な性格 ・ティモクレイア:諸国同盟出身 第五師団長 男性 桃色の長髪 ・マントイフェル:帝国軍出身 第六師団長 男性 恰幅がいい ・チェルシー:諸国同盟出身 第七師団長 女性 メイド服将軍 ・ラルカ:諸国同盟出身 第一師団参軍 女性 珍しい銀の瞳 ・エレイン:諸国同盟出身 第二師団参軍 女性 茶髪に褐色肌 ・オージェ:無所属 第三師団参軍 男性 優男 ・サン:帝国軍出身 第四師団参軍 女性 ロリ ・レミィ:帝国軍出身 第五師団参軍 女性 暴力少女 ・クルツ:諸国同盟出身 第六師団参軍 男性 いたって普通 ・ナンナ:帝国軍出身 第七師団参軍 女性 深窓の令嬢 第四軍団 ・ユニース:諸国同盟出身 軍団長 女性 クリーム色のポニテ ・フィン:諸国同盟出身 副軍団長 男性 堅物 ・シキ:諸国同盟出身 第一師団長 男性 爽やかイケメン ・リシュテイル:教会騎士団出身 第二師団長 女性 キビッとしてる ・メリア:諸国同盟出身 第三師団長 女性 おばあちゃん ・バーミリオン:諸国同盟出身 第四師団長 男性 赤銅色の髪 ・ビルフォード:諸国同盟出身 第五師団長 男性 筋肉ムキムキ ・ブリジット:無所属 第一師団参軍 女性 銀髪でボーイッシュ ・エルウィン:諸国同盟出身 第二師団参軍 男性 執事的 ・テレーゼ:諸国同盟出身 第三師団参軍 女性 三つ編みのお下げ ・ユノ:諸国同盟出身 第四師団参軍 男性 熱血漢 ・セグメト:諸国同盟出身 第五師団参軍 男性 頬に切り傷 〜会議のため名前付き台詞タイム〜 エル「さて、まずは第三軍団から報告が来ている。」 リノアン「…カーター様から報告ですか?」 マティルダ「もしかしてアネットから 増援が向かっているのではないですか。」 エル「ほう、鋭いな。その通りだ。」 ビルフォード「さすがは第一軍団副団長! 素晴らしい洞察筋ですな!」 クルツ「ビルフォードさん…、洞察力に 筋肉は関係ないと思います。」 リシュテイル「そこっ!黙って話を聞け!(キビッ)」 エル「…続けるぞ。 報告によれば、総勢はおよそ120000人だそうだ。」 セルディア「そいつはまた豪勢ですね。」 メリア「しかも、こちらに向かうのがあまりにも早いわね。」 ユニース「まさかこんな中途半端なタイミングで 出てくるとは思わなかったわ。 増援はどれくらいで到着しそう?」 フィン「今距離を計算したところ、推定で 遅くとも二週間、早ければ10日といったところです。」 ミーティア「では私が詳しい早さを調べてくるね!」 ユリア「ええ、お願いします。」 ジョゼ「だとすればチェンバレンの攻略には あまり時間はかけられませんな!」 ティモクレイア「それどころか、下手をすれば 守兵と増援の挟み撃ちだね。」 フィン「エル司令官。明日からもう少し進軍速度を速めましょう。」 エル「いや、それについてはもう少し様子を見ることにする。」 ディートリヒ「ま、無理に急ぐ必要はねぇってことだな。」 シキ「では明日も通常通りの行軍と言うことでよろしいですか?」 ユニース「そうね。特に今のままでも何の不都合もないわ。」 レミィ「一つ質問していいですか!」 エル「許可する。何について聞きたい?」 レミィ「増援の総大将はどんな奴なんですか?」 マティルダ「それについては私から答えるわ。 増援を率いているのはリリシアというデュラハン。 カンパネルラの領主にして、軍略にも優れている 敵連盟の中心人部よ。」 マントイフェル「よりによってあいつか! こいつはちょっと厄介だな…。」 バーミリオン「なんだ、知ってるのか。」 マントイフェル「帝国軍人として何回かアネットを攻めたが その都度こいつにやられてきたんだ。」 シキ「敵の名将はこちらにとって疫病神か…」 エル「だがな、調べたところリリシアはその実力ゆえに プライドが高く高飛車な性格だ。 よっては少しでも状況が悪化すれば 決戦を求めてくる可能性が高い。」 チェルシー「もしかしてエル様はカンパネルラ軍を わざと野戦に誘い込んで撃破する気なのですか?」 エル「攻城戦だと時間がかかるが、野戦なら より早く決着がつく。」 ラルカ「でも…、いきなり敵の精鋭と決戦して大丈夫でしょうか?」 マティルダ「ラルカ、自分に自信を持ちなさい。 私たちなら絶対勝てるわ!」 リシュテイル「はじめから楽観するのもどうかと思われますが、 早めに敵の主力を粉砕しておくのも いい選択しかと存じます。」 ビルフォード「それに、俺たちに優位な間合いで 戦うこともできるからな!」 リノアン「…ではエル様、今後の方針はチェンバレンの攻略と同時に 増援軍を野戦で撃破する方針でよろしいでしょうか。」 エル「まあ強いて言うなら増援軍撃破が優先だ。 チェンバレン自体はいつでも攻略できる。」 ユニース「こんなに早く決戦の時が来るなんて、腕が鳴るわね。」 その後は、増援軍に合わせて進軍速度を調節することに決定した。 視点は戻って、リリシア率いる増援部隊。 リリシアが伝令から受けた報告によると、 エル軍の速度は思っている以上に早く、 このままでは早ければ一週間後には チェンバレンに到達するだろうと予想された。 「非常にまずいですわ…、急がなくてはなりません!」 「少々兵士たちには無理をしてもらうほかないかのぅ。」 リリシアとレナスはなるべく兵士不要な負担をかけたくなかった。 しかし、このままではギリギリ間に合わないのだ。 「ご主人様!私たち魔物は多少の強行軍なら平気です! 人間の兵士たちにも事情を説明すればなんとか耐えてくれるはずです!」 「グレイシア…あなた…」 二人の話を聞いて意見を申し出たのは、グレイシアと呼ばれた メイド服を着た桃色髪のデュラハンだった。 「行軍速度を1.2倍にし、行軍時間を1.5倍にすれば 一週間と10時間でチェンバレンに到達できます。 上手くいけば敵軍が攻撃を開始する前に、 町の守備兵と合流することが出来るでしょう。」 具体的な数字を算出したのはアヌビス将軍のマーテルだった。 彼女の算出した数値はかなり厳しいもので、 伍落者が出る危険もある。 「いたしかたありませんわ。わたくし自身で兵士たちに事情を説明いたしますわ。」 「全員で死ぬ気で走ることになろうとはな…」 「私たちは仲間のため、そしてご主人様のためならばいつでも命を投げ出す覚悟です!」 「その心意気は有難いのですが、命を粗末にしてはいけませんわ。」 その後リリシアとグレイシアは全軍に、危機的状況を伝え、 進軍速度を今まで以上に早めることを告げた。 誰からも反対意見はなかった。 仲間の危機に全員が一丸となって助けに行くことを 改めて決意したのだ。 そして、その翌日からカンパネルラ軍は 今まで以上の強行軍を開始した。 この動きを、はるばる偵察に来ていたミーティアは見逃さなかった。 「すごい!私たちよりも早いんじゃないかしら! しかも全然休憩とかしないし、無茶するわね。」 エルにこの動きを知らせるべく、 ミーティアは戻って行った。 「あいつらは行軍速度を速めたのか。」 「うん!昨日だけでここからここまで進んだみたい。」 野営地の幕舎にて、主要な将軍(副軍団長クラスまで) だけを集めてミーティアの報告を聞いていた。 地図には敵の進軍経路が書き込まれる。 矢印が昨日の1.5倍ほど伸びていた。 「敵も相当焦っているようね。すごい強行軍よ。」 そう言ってユニースは思わずため息をつく。 このままだとチェンバレンで正面衝突する可能性が高い。 「ですがエル様、これだけ強行軍していれば 敵は疲労して弱体化するのではないでしょうか。」 「その通りです司令官、慌てて出てきた敵を 防御陣地を張って迎え撃てば効果的です。」 二人の副軍団長は強行軍で疲れ切った敵を 反撃で叩くのが最善であると考えた。 さすが副軍団長を務めるだけあって 彼らもなかなか戦術眼がある。 しかしエルは… 「少しいいことを思いついた。」 そう言って意味深な表情をする。 「エル様が…、何か凄いことを閃いたようですね。」 「どうやらそのようですね。」 マティルダとユリアは知っていた。 この表情をしたときのエルは とんでもないことを思いついた時だ。 「決戦までのビジョンは、ほぼ見えてきた。俺たちの勝つ日は近いぞ。」 「えーっと、私にも詳しく説明してもらえるかな?」 ない胸を張って自信満々に勝利宣言をするエルに対して、 おいてけぼりを喰らっているユニースが説明を求めた。 「じゃ、今から詳しい説明をするか。」 そう言いつつ彼は、近くにあった瓶から 角砂糖を取り出しそのまま口に頬張る。 『……………』 「何だその目は。超速思考にもハードな自主トレにも糖分は欠かせないんだ。」 彼のチート性能は、実は甘いものによって支えられていたのだ! 「いいか、明日から我らは…」 この日エルは、ちょっとだけ方針転換することにした。 翌日から十字軍の行軍速度は突如減速した。 進むスピードは今までと変わらないが、 いつもより早めに野営を行うことにしている。 兵士にとっては疲れが取れるので歓迎だが、 将軍たちにとっては不可解であった。 一応理由としては、 「決戦前になるべく疲労を残さないようにする措置。」 と説明されたのだが… 特にベテランで構成されている第一軍団の師団長たちは、 いまいち腑に落ちないようであった。 〜名前付き台詞タイム〜 ディートリッヒ「おい、ティモさんよ。どう思うかね。」 ティモクレイア(以下ティモ)「ああ、解せないね。」 リノアン「…エル様のことです。 何か別の考えがあるのでしょう。」 ジョゼ「エル様は無意味なことはしないからな!」 セルディア「君たちはエルさんと一緒に戦ってきたんだから、 そりゃ無償で信頼できると思うよ。 しかしその意図を僕たちにも教えてくれないと どう動けばいいのかさっぱりだ。」 チェルシー「新手の焦らしプレイでしょうか?」 ティモ「味方に焦らしプレイやってどーすんの!?」 セルディア「とりあえずそこのメイド服は エロい発言を慎むように。」 マントイフェル「しかも増援は逆に今まで以上に 速度を上げて行軍しているわけだが。」 ディートリヒ「もたもたしてるとあいつらの方が 先にチェンバレンに着いちまうぜ。」 セルディア「うーん、もしかしたら それが狙いなんじゃないかな?」 ジョゼ「チェンバレンごとまとめて攻略する気だろうか。」 チェルシー「だけどそれだと、みすみす 敵に地の利を渡すことになりますよ? その上に、敵を野戦で撃破することが困難です。」 リノアン「…いずれにしろ、現時点では判断しかねます。」 ティモ「そうだな、ちょっとうちの後輩(参軍)を使って 純粋アタックで聞きだしてみるか。」 マントイフェル「おいまて、レミィを使うのか!? あいつが司令官に失礼なことしたらどうする!?」 ジョゼ「純粋アタックだったら リノアンとこのサンのほうがいいんじゃないか。」 ディートリヒ「エル司令官はロリコンじゃないぜ…」 セルディア「むしろレミィは物怖じしない分、 他の奴らより有利だろう。僕は賛成だ。」 チェルシー「じゃ、私もレミィちゃんに期待するわ。」 マントイフェル「どうなってもしらんぞ…」 この後彼らはレミィを呼んで、 最高司令部の幕舎に突入させた。 マティルダ「三歩進むっと…、 うわっ!また外国借款だ!」 ユニース「あ、保護国が出来たわ。」 ユリア「次は私の番ですね…(コロコロ)」 マティルダ「ちょっ!ユリア様!また六歩も!」 エル「チェックメイト。」 フィン「…なんか私、司令官としての自信を 失いかけますよ…。」 ミーティア「が、頑張ってフィンさん! いつか勝てるよ!きっと!」 レミィ「なにやってるんですか司令官方!!!」 軽い挨拶もせず突如幕舎に入ってきたレミィ。 マントイフェルの不安は早速現実となった。 〜名前付き台詞ここまで〜 「レミィか。何の用だ。」 「何の用かじゃありません! 昨日までの緊張感はどこへ行ったんですか!」 ずかずかとエルに近づくレミィ。 「このままでは敵の方が先にチェンバレンに着いてしまいます! それなのに司令官達ときたら暢気に遊んでるじゃありませんか! 私や先輩方は司令官の行動を不可解に思っています! 返答いかんによっては『司令官は実はフタ○○だった』って 兵士たちに言いふらしますよ!」 「まあとりあえず落ち着け。 そしてその脅し文句を考えたのはチェルシーだな。」 「どうして分かったんですか!?」 「あいつ以外考えられないからだよ。」 凄まじい剣幕で捲し立てるレミィをとりあえず落ち着かせる。 ちなみにエルは、もはやフタ○○くらいでは動じない。 「そうだな、お前も少し勘付いてると思うが、 あいつらよりも先にチェンバレンに行く気はない。」 「え!?何で!?」 「むしろあいつらの方が先に街にはいってくれれば、 この後の展開が有利に運ぶからだ。」 レミィにとってはむしろ余計分かりにくくなった。 「そんな、何が何だか分からない…混乱しそう…」 「正確にいえば、あいつらが町に着いた直後くらいに 我らが到着できるように調整しているんだ。」 「そういえば…この前の会議で 相手に合わせて行軍速度を調整するって言ってましたよね。」 「うむ、速度調整は加速だけでなく減速も含まれる。」 「でも…やっぱりわかりません。」 「心配するな。そのうちわかる。 さて、それを直接俺に聞きに来た度胸、すばらしく思うぞ。」 「うっ…」 今さらだが、にっこり笑うエルが逆に怖い。 「そろそろ良い将校は寝る時間だが、まあゆっくりしていけ。 俺たちやお前たちも、たまには羽を伸ばすことも必要だ。」 「え、あ、はい。 じゃあ、このチェスでお相手願えませんか?」 「ほう、面白い。やはりお前はいい度胸をしているな。」 その後、レミィは速攻で負けた。 それも大幅なハンデ付きで。 「ガーン!ここまで手ひどく負けたの初めて!」 「攻撃が単調すぎる。隙だらけだ。」 「し…司令官マヂチート…」 「おまえは俺の相手をするよりも、 あっちの変なボードゲームに混ぜてもらえ。」 「うん…」 「ふふふ、私が覇者ですね。」 「さすがはエンジェルのユリア様…。すごい強運ですね。」 「マティルダ!あそこであなたが行った妨害は一生忘れないからね!」 「戦争は弱肉強食ですよ!ユニース様!」 こちらもちょうど決着がついたらしい。 だが、そこにいる女性三人はこの軍でも人気の美人揃いだ。 エルに負けた後で気勢を削がれたレミィは緊張してしまった。 「私も仲間『で』入れてください!!」 『え!?』 空間が一瞬凍りついた。 「え、あ、レミィちゃんもヤリたいのね! いいわよ!喜んで混ぜてあげるわ!」 「よ、よかったのかな、禁断の乙女の園にホイホイ入ってきて? そ、それじゃとことん喜ばせてあげるわね!」 「とりあえずユニースとマティルダは深呼吸しとけ。」 女騎士二人にエルが突っ込みを入れた。 その後、彼女たちは何かをごまかすように 和気藹々とボードゲームをやっていた。 それから一週間が経過し、 ついにカンパネルラ軍がタッチの差で チェンバレンに到着した。 「な、なんとか敵よりも先に着きましたわ…」 「はあっ…はあっ…、無事でよかったです…」 リリシアとシャノンは大いに安堵した。 兵士たちの体力ももはや限界だったらしく、 よほど体力がある魔物以外はへばってしまっている。 「ああシャノン様!これほどまで早く帰ってきてくださるとは! そしてリリシア様!このご恩は一生忘れません!」 「ありがとうございますわ、ロニヤ…。 ですが…、まだ敵を撃破しませんことには 安心できませんわ!」 「そういえば、奴らは今どのあたりにいるのじゃ? ララ!ちょっと様子を見てくるのじゃ!」 「わかりました!」 レナスは直属の魔女に索敵を命じる。 「兵士たちの疲労はかなりのものだけど… 回復力の高い娘たちで防衛すれば、 人間たちが回復するまで持つと思うわ。」 カペラは兵士たちを見て回った結果、 防衛は可能であると判断した。 「それはよかったですわ。ですが、今は非常事態ですから 回復は惜しまないようになさいませ!」 「わかりましたご主人様。本日は精のつく食事を提供します。」 魔物が作る食材は性的な副作用が多少ある場合もあるが、 基本的に栄養価の高い食材が多い。 「レナスさまー!ただいまもどりました!」 「早いな…どうじゃった?」 「敵はもうすぐそばまできています!」 「なんじゃと!」 レナスは、チェンバレンの街の一番高い場所である 丘の上の礼拝所の屋根から 斥候用の単眼鏡で遠くを見渡した。 すると、遥かかなたの地平線に砂埃が見えた。 間違いない、大勢の軍が迫っているのだ。 「危ないところじゃった。 もう一日来るのが遅れていたら この街はなすすべもなかったであろう。 今すぐ全員に知らせねば。」 そして、すぐに事に次第をリリシアに報告する。 「それはそれは、本当に危ないところでしたわ。 シャノン!今すぐ市民に危機が迫っていることを お知らせなさいませ!」 「わかりました。」 直後に府庁で緊急会議が開かれ、 郊外に住んでいる住民に警戒令を発令することにした。 町の中心にある大きな鐘がけたたましく鳴り響く。 それはまるで大災害が来たかのような緊迫した音だった。 郊外の村々にハーピー類が急いで危機を知らせ、 慌てて住民が避難してくる。 そして戦う気力のある兵は、早くも持ち場を見つけて 敵の襲撃に備えた。 一方でエル軍もまたチェンバレンまでもう少しの位置まで来ていた。 「軍団長!目標地点まであと三十分ほどです!」 「ちょうどいいペースね。 兵士たちもだいぶこの速度になれたみたいだわ。」 シキから報告を受けたユニースは満足げに頷く。 すると、彼女の横からミーティアが出現した。 「ユニースさん!重要な報告! 敵の増援がさっきチェンバレンに着いたみたいだよ!」 「そう、分かったわ。」 ミーティアの報告を、水晶でエルに伝える。 「こちらユニース。敵増援が目標地点に到達することを確認した。どうぞ。」 『こちらエル。そのまま進軍し、目標地点の1q前に布陣せよ。どうぞ。」 「ヤヴォール」 通信終了 「全軍このまま1q前まで進軍して、布陣するわよ!」 「やたら前に出ますね!?本当に攻城戦をする気でしょうか?」 「さあね?」 「さ、さあねって言われましても…」 各師団長はエルの意図を読み取ろうとしたが、 結局わからずじまいだった。 諸国同盟の中でも比較的優秀なシキも例外ではなかった。 そうこうしているうちに、第四軍団は チェンバレンの目前まで迫った。 今までこの街が攻撃を受けたことはなかったが、 最低限の城壁と、近くの湖を利用した天然の堀に囲まれており 120000人が籠ればそう簡単には落ちないだろう。 兵糧攻めも得策ではない。 120000人が死ぬ物狂いで襲いかかってきたら いかにエルとて多大な損害を被るだろう。 狂ったように警戒の鐘を鳴らすチェンバレンを尻目に、 十字軍は着々と陣地を構築していった。 夕方には、まるで街を威嚇するかのような 攻撃的な陣形が展開される。 そして司令官の幕舎では会議が開かれていた。 「みんな、ここまでの行軍ご苦労だった。 先に敵軍が中に入ってしまったが、気にすることはない。 途中からそのつもりだったからな。」 これは決して強がりなどではない。 その証拠に、エルの表情はとても楽しそうだ。 「この様子だと、まだ誰も宿題の答えがわかってないな。」 『…………(分かるわけがありません)』 「まあいい。明日の朝に再び会議を開く。 答えはそこで教えてやろう。 それより、今夜は陣地の篝火をめいっぱいつけておけ。 それはもう相手に夜襲させる気をなくさせるくらいにな。 あ、でも体はちゃんと休めておけよ。明日からが本番だからな。」 そういった後、細かい連絡を交えて解散した。 一方リリシアは、夕暮れの中側近二人とともに 城壁にある塔から敵の陣地を見下ろしていた。 「どうやら、相手は攻撃する気満々のようですわね。」 「はいご主人様。間一髪で相手の思惑を阻止できました。」 「おーっほっほっほっほ!敵もまだまだ精進が足りませんわ! わたくしたちに先を越されてさぞかし悔しいにことでしょう!」 「幸い、この街は備蓄が豊富でした。 これならばあと386日は籠城可能です。」 「日付換算ではいまいちピンときませんが… 持久戦ならば圧倒的に有利ですわね。」 リリシアの脳裏には、敵に先を越され 計画に狂いが生じたために焦る司令官の姿が 思い浮かぶようであった。 あの陣形から察するに、相手の司令官は 短期間で強引にこの城を落とす気だ。 しかし… 同時に何か胸に引っかかるものがあった。 はたして、エルの本当の思惑とは…? カンパネルラ電撃戦 中編 概要図
11/02/23 08:49 up
登場人物評 十字軍本隊 セルディア カタフラクト30Lv 武器:勇者の槍 白い眉毛が特徴的な諸国同盟領主。強力な戦車隊を率いる。 気さくな性格で親しみやすい。エルの士官学校のときの先輩でもある。 ディートリヒ ハイランダー26Lv 武器:銀の槍 長年第一線を指揮して戦ったベテランの帝国軍人。リリシアとも交戦した。 とにかく渋い。ベテランが醸し出す特有の哀愁が漂う。 ティモクレイア(ティモ) 賢者25Lv 武器:魔法全属性(ほぼなんでも使えます) セルディアの配下である魔法使い。ほぼすべての魔法を使いこなす。 男なのに桃色髪で長髪。第二の男の娘候補としてひそかに注目されている。 マントイフェル パラディン24Lv 武器:フランベルジュ(剣) 帝国軍の中でも、主に北方で戦闘をしてきた将軍。寒さに強い。 名前は直訳すると「悪魔男」。凄まじい名前である。 チェルシー バリスタ25Lv 武器:アルバレスト(兵器)or 銀の弓 なぜかメイド服の格好をした将軍。遠距離攻撃兵器を扱う。 大人のお姉さんのような性格で、性的な発言が目立つ。 ラルカ スナイパー21Lv 武器:ドラゴンアロー セルディアの部下である弓の名手。銀の瞳を持ち、遥か遠くもよく見える。 やや自分の腕に自信が持てない。しかし言うことは、はっきり言う性格。 エレイン セイバー19Lv 武器:ラストエストック(突剣) 茶髪に褐色肌が特徴的な将軍。反射神経に優れる。 どちらかといえば戦争よりも内政のほうが得意な、行政官型。 オージェ 勇者19Lv 武器:斬馬刀 傭兵部隊の隊長だったが、エルに見出されて将軍となった。 傭兵隊長なのに優しい性格。しかし、その優しさゆえ部下がついてくる。 サン インペリアルナイト17Lv 武器:スレンドスピア 帝国の近衛騎士団の卵。三柱将の一人ヴァリアの娘で、将来を期待される。 体格や顔はまだ幼さが残る。だが、その潜在能力は計り知れない。 レミィ セイバー20Lv 武器:デスブラッド(剣) サンの親友。帝国三柱将の一人ウェリントンの娘。赤い長髪と赤眼である。 直情的な性格で、物怖じしない。反面、暴力的で、暴れるの大好き。 クルツ サージェント18Lv 武器:銀の槍 諸国同盟で最も古い歴史を持つ国の出身。本人も歴史に詳しい。 地味。ベストオブ普通。キャラが濃い人に振り回されやすい。 ナンナ トルバドール16Lv 武器:治癒魔法 貴族出身のお嬢様。自分を鍛えるために親の反対をよそに将軍に志願した。 戦闘能力は全くないので後方から回復で援護。血を見るのは平気。 第四軍団 フィン ハザーエ28Lv 武器:勇者の剣 病気の領主の代理を務める将軍。兵力が少ない自国を腕一つで守ってきた。 堅物で、真面目一辺倒。性的な言動にも動じない典型的な朴念仁。 シキ 遊牧騎兵25Lv 武器:リピータボウ(連射弩) 元遊牧民だったが、草原が魔界化したため部族を離れて諸国同盟に。 爽やかイケメン。遊牧民なのに連射弩を使う新しい物好き。 リシュテイル テンプルナイト24Lv 武器:逆十字の槍 教会騎士団に所属していたが、教団から無実の罪で謹慎させられていた。 フィンに勝るとも劣らない堅物。謹慎はセクハラを告発したからだとか。 メリア ドルイド27Lv 武器:闇魔法(セプトクライシスなど) 十字軍の最長老で、古代魔法の使い手でもある諸国同盟領主。 面倒見の良いおばあちゃんで、若き将軍たちの良き相談役。 バーミリオン 騎兵魔導師25Lv 武器:炎魔法(ボルガノンなど) メリアの息子。燃えるような赤銅色の髪が特徴。父親に似ているらしい。 かつては不良息子だったが、父親の死以降自覚を持ち、将軍となった。 ビルフォード ジェネラル24Lv 武器:銀の長槍 重装歩兵を主力とする国の将軍で、自らも重い鎧を身にまとう。 とにかく筋肉命。筋肉痛で目が覚める。三度の飯よりプロテイン。 ブリジット ハザーエ19Lv 武器:キルソード 冒険者だったが、十字軍に志願。そしてその才能から将軍に抜擢される。 ボーイッシュな顔と平たい胸。エル司令官がうらやましいらしい。 エルウィン コマンドナイト20Lv 武器:スレンドスピア 貴族出身の将軍で、礼儀正しく、常にきちっとした身だしなみをしている。 貴族というより、貴族に仕える執事的な印象がある。ただし年齢は20歳。 テレーゼ 司祭19Lv 武器:状態異常魔法 メリアに仕える神官。メリアの影響か、異常状態を駆使して戦う。 常に周囲に気を配る優しい性格だが、怒らせると催眠術を放つ。 ユノ ウォーリア18Lv 武器:トマホーク 元山賊だったが、更生して領主のために忠誠を誓った大男。 熱血漢。山賊といっても実は義賊だった。自称正義の味方。 セグメト ソードマスター20Lv 武器:フランベルジュ 頬に十字の切り傷を持つ剣の達人。将軍としての統率力もある。 戦闘の際には真っ先に切り込んでゆくが、それが原因で毎回傷だらけ。 カンパネルラ軍 リリシア デュラハン34Lv 武器:妖剣カンパネルラ 破格の戦闘能力と類稀なる戦略眼を持つ誇り高きデュラハンの貴族。 絵に描いたようなツンデレ金髪お嬢様。色々とハイスペック。 レナス バフォメット25Lv 武器:闇魔法(ノスフェラートなど) カンパネルラ地方を中心としたサバトの支配者。幻術を得意とする。 ロリなバフォメットの中でも小さい方だが、本人はそれが自慢。 シャノン メドゥーサ21Lv 武器:魔眼 チェンバレンの市長を務めており、平和な町を築いた実績を持つ。 周囲が色モノ揃いなため、突っ込みの仕事も多い苦労人。 ツィーリン ヴァンパイア23Lv 武器:染血剣ヴラド リリシアの要請によりプラム盆地の行政を司る官僚。 人間を見下しているが、結婚願望が結構強い。 グレイシア デュラハン27Lv 武器:銀の大剣 メイドとしてリリシアを主と仰ぐ忠義深いデュラハン。 チェルシーとはメイド服以外共通点はない。性格も正反対。 マーテル アヌビス27Lv 武器:裁きの杖 リリシアを主として仰ぐカンパネルラ軍の参謀官。計算機に比する頭脳。 彼女が算出する数値はかなり的確だが、細かすぎて逆に分かりにくい。 ロニヤ ダークプリースト10Lv 武器:補助魔法 チェンバレンの一番高い丘にある礼拝堂の司祭。そして副市長。 整理整頓や掃除が趣味の変わり者。堕落の気配が微塵も感じられない。 エル「クソッタレ!名前を覚えないうちにキャラがどんどん増えやがる。 とはいっても減っていくよりかはましか。 さて、賢明なる読者諸君ならすでに俺の考えている戦略は大体勘付いているだろう。 っていうか一度公開したこともあるから、読者にはばれてると思う。 しかし、うちの将軍たちもまだまだだな。この程度の意図も見抜けぬとは。 敵をだますにはまず味方から、とはいうものの少し不安だ。 だが、そういったキャラを成長させるのもSLGの醍醐味というもの。 ラルカやレミィのような若い将軍たちが今後どのように成長していくか、 読者の方々も最後まで見届けてほしいと思う。 ……戦争をゲーム感覚で書くのもどうかと思うがな。 さて次回を更新すれば、改めて全話回復完了だ。 カンパネルラ電撃戦の後編はもう少し時間がかかるかもしれないが、 第二軍団の奴らのためにも早めに書きあげてやらなければ。 頼んだぞ参謀本部。 ということで、俺からの話はここまでだ。 次回、『ルピナス河の戦い』もお楽しみに。」 バーソロミュ
|