第8章:ルピナス河の戦い BACK NEXT


チェンバレンの街を目前に控える十字軍の陣地。

まだ陽が出たばかりの時間だというのに、
二人の女性…
いや、二人の女の子が司令官の幕舎の前に来ていた。

「あ、やっぱ早く起きすぎたかも。」
「ね!だから言ったでしょ!たぶんまだ開いてないって!」

サンとレミィだ。
彼女たちは宿題の答えが気になって夜も眠れず、
夜明けとともに起きて司令部に来ていたのだ。


しかし、意外にもエルはまだ起きていないらしい。
なぜなら……



『まだ寝てます。  エル』



幕舎の入口に、綺麗な字で書かれた札が吊る下がっている。
司令官がこんな看板を掛けるのもどうかと思うが、
一応将軍たちには、何かあったらすぐに来ていいとは言っている。

しかし、中にいる人が人なので
よほどの用事がない限りは入るのを躊躇してしまう。


「レミィは結局宿題の答え、わかった?」
「分かるわけないわよ!先輩たちも分からないのに!
そういうサンは、何か分かったの?」
「わかんなーい。」
「だよね…。」

二人は顔を見合わせてため息をつく。
どうやら彼女たちにとってはヒントが少なすぎるようだった。
答えが早く知りたくて来てみたはいいが、
エルが起きてこないことにはどうにもならない。


「じゃあ、司令官が起きてくるまでここで待ってようか。」
「そだね。でも、ただ待ってるだけじゃ暇だよ。」
「よし!準備体操でもしましょう!」
「唐突だねレミィ。」

なぜか突然準備体操をやることにした二人は、
持ってきた武器を傍らにおいて、身体を自由にする。


「まずは身体をほぐすための帝国体操第一!気合を入れていくわよ!」
「おーっ!」
「ちゃんちゃっちゃちゃららら!」
「ちゃんちゃっちゃちゃららら!」
「ちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ」
「ちゃちゃちゃちゃちゃん、ちゃん!」


「右手を地面に。左手を腰に。そのまま腕立て100回。」
『無理!!』

いつの間にか二人の後ろにエルが立っていた。
二人はその存在に気づくと、
一瞬にしてパニックに陥った。

「し…し、し、司令官!い、い、いつの間ににに!」
「ごめんなさいごめんなさいお騒がせしてごめんなさい!」
「なんだ。準備運動するんじゃなかったのか?」
「奇襲されなければそのままやってましたよ!」
「あと片腕で腕立て伏せは準備運動ではないと思います!」

あまりのパニックに逆ギレし始める二人。

「まあ落ち着け。深呼吸、深呼吸。」
「すー、はー。」
「すー、ふー。」
「では改めて質問を受け付ける。」
「えーっと、エル司令官はいつ起きたのですか?」
まずはサンが質問する。
「お前たちが入り口の看板の前に来たあたりかな。
武器を持って緊張した人の気配がしたから、目が覚めたみたいだ。」
「気配で目が覚めるってすごいですね!」
「正直不便だ。いちいち起きてたら休めない。」

常在戦場も時には考え物である。

「それよりも!宿題の答えをお願いします!」
「せっかちだなお前は。朝の会議まで待てないのか。」

エルは少しため息をつく。

「いいか、司令官が俺だったから良かったが、
そんなにあからさまに重要戦略を聞き出そうという姿勢を見せると
場合によっては間諜(スパイ)だと疑われる恐れがある。」
「え!?そうなの?」
「特に新人はまだ軍内部での信用力が低いから、余計に気をつけねばな。」
「そうなんだ…、以後気をつけます。」
「うむ、だがお前らの気持ちもわからんでもない。
せっかく朝早く起きてきたんだ。
幕舎の中にでも入ってゆっくりしていけ。」
「いいんですか?司令官の幕舎に入ってしまっても。」
「今回ばかりは特別だ。」

先ほどまで説教していたエルの厳しい表情が、
一転して輝くばかりの笑顔になる。

『!!』

破壊力抜群のこの一撃に、二人は思わず息をのむ。
普段怒らない人が怒ると怖いのと同様に、
エルの見せた満面の笑顔は、
男女問わず魅きつけるくらいの威力があった。
もっとも、男まで魅了するのは本人にとって迷惑だが。


「?どうした二人とも?俺の笑顔はそんなに珍しいか?」
「す…すみません…私、鼻血が…でそうです…」
「おいおい。」
「私、危うく百合に目覚めるところでした!」
「俺男なんだけど!?」

結局これ以上は不毛と判断したエルは
二人を幕舎の中に追いやると、
自分はその場で朝のトレーニングを行う。

「クソッタレ!大人になればそれ相応に男らしくなると
思っていたが、むしろ子供の時より悪化してやがる!
ちっ、これもあのアル爺の呪い(遺伝)か。」

片腕で腕立てをしながら、そう呟く。
彼にとってその容姿は、
自力ではどうしようもないコンプレックスなのだ。




「失礼します!」
「失礼しまーす。」
「あらお二方、おはようございます。」
「天使様!?」
「あ、あのどうしてここに?」

幕舎に入った二人を迎えたのは、
椅子に腰かけたユリアだった。

「ふふふ、私とエルさんは幕舎が同じなんですよ♪」
『えーっ!』
「さ、今紅茶を入れますから、よろしければどうぞ。」
「はい!よろこんで!」
「わ、わたしも!」
「あらあら、そんなに緊張しなくても大丈夫です。
あと、私のことはユリアと呼んでかまいませんよ。」

そう言ってユリアは二人の頭を軽く撫でる。
それはまるで優しいお姉さんのように、
包み込むような感じだった。

「…ほぇ。」「…はふぅ。」

エルのような攻撃的な美と正反対で、
ユリアには場を和ませるようなオーラがあった。


保温の魔法がかかった容れ物からお湯を注いでる間、
落ち着いた二人は改めて周囲を見渡す。
司令官の幕舎にしてはあまり物が置いておらず、
寝床もきちっと整頓されている。
とても先ほど起きたとは思えない状態だった。

ただ、気になるのは
少しばかり甘い匂いがすることだが…

少女二人は声をひそめて会話する。

(エル司令官とユリア様は前から仲がよさそうだと思ったけど…)
(まさか行軍中、同じ部屋で過ごしてたなんて…)
(やっぱり司令官って……百合?)
(それにこの甘い香り…もしかしたら…)
(べ、別に軍紀では特に恋愛は禁止していなかったと思う!)
(でもまさか司令官とユリア様がそんな禁断の関係に…)
(ああ…想像しただけでまた血が頭に…)

「あのー…お二方?」
『は、はい!ごめんなさい!』
「ええっと、いきなり謝られましても…、
それより、お茶が入りましたよ。」

二人は早速入れてもらった紅茶を一口飲む。

「あ…おいしい。」
「こんなにおいしい紅茶初めて飲みました!
それに、わざわざユリア様に入れていただけるなんて
私、感激です。」
「これはせっかく早起きした二人への、私からのご褒美です。
早起きは三文の徳っていいますよね。」
「前から思っていたんですけど…
『三文』ってなんでしょうね?」
「うーん、それは私にもわかりませんね…。
確かジパングの通貨だったような気がしますが。」


こうして三人は、集合の合図がかかるまで
親交を深めあった。







十字軍の陣地に起床の鐘が鳴ると同時に、
将軍たちは続々と会議用の幕舎に姿を現す。
ユリア、サン、レミィの三人もまた
幕舎に入って自分の席に着く。

そして全員がそろったところで、
予定されていた種明かしが発表される。


「では諸君、今後の戦略について説明する。」
エルは机の上に広げられた地図を、タクトで指し示す。


「これからわが軍は今夜のうちに
陣を引き払い、プラム盆地へ急行する。
チェンバレン内部の部隊は無視だ。」
『な、なんだってーーー!!』

将軍たちはようやくエルの思惑を理解した。

エルはわざと敵主力部隊をチェンバレンに閉じ込め、
逆に自分たちは敵が来た道を進むというのだ。
それはまるで、チェンバレンを高跳びのバーに見立てて
敵の背後に回り込むかのようであった。

「その上で、敵が気付いて追撃してくると考えられる。
よって、第四軍団はそのままプラム盆地を目指し、
本隊は敵を野戦で撃破すべく待ち構えることにする。
その場所は、このルピナス河付近を予定している。」

エルが指示したルピナス河はここからプラム盆地へ向かう街道上にあり、
小さな橋がかかっている以外はこれといって特筆すべき点のない河だった。
所要日数は大体5日程度といったところか。

「何か質問はあるか?」
「…では、私から一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

エルに対して質問したのはリノアンだった。

「…先日の例を見ますように、
敵は本気を出せばかなりの速度で行軍出来ます。
私たちも進軍速度を上げるべきでしょうか?」
「その通りだ。我々にとって都合のいい場所で戦うためにも
早めに有利な場所を確保する必要がある。
そのためにも、これから我々も今まで以上の強行軍を行う。
覚悟するように。」

次に、エルウィンが質問する。

「エル様は敵を本隊だけで迎撃なさるおつもりですか?
そうしますと、ただでさえ劣勢な兵力差が
さらに開くと思われますが…」
「うむ、ルピナス河周辺は平野だが、
山岳地帯と海に挟まれていて
大軍を思うように展開することが出来ないだろう。
よって、本隊だけで十分敵を撃破できる。」

彼にとっては兵力差などあまり関係ないらしい。

「さて、それ以外に質問がないのであれば俺からは以上だ。
今日は攻撃すると見せかけるだけにとどめ、
今夜の夜陰に乗じて陣地を引き払うことにする。」
『承知しました!』

会議が終わった後、将軍たちは動き出した。



まず昼間のうちは、ダミーの攻城兵器を組み立てる。
また、城内の兵士に対して軽い罵声を飛ばしたりもした。

「城内の奴ら、出てこい!臆病風にでも吹かれたか!」
「いずれ俺たちの筋肉の足しにしてやるから覚悟しとけよ!」
「まあ、これだけイロイロ言っても出てこないなんて、
きっと交尾のしすぎで足腰が立たなくなってるんじゃないの?
脳内桃色一色に染まったあなたたちなんか、
チェンバレンと言う名の休憩所なんてもったいないわ!
せいぜい青空の下で青姦してたほうがにあってるわよ!」
「お前さんもよくそんな煽りが次から次へと口から出てくるな…」

頭が悪いのかと思うくらいの罵声を放つ
マントイフェル、ビルフォード、チェルシーの横で
万が一敵が出撃してきたときに備えているディートリヒが
チェルシーのアレな煽りに呆れかえった。



「おのれ!ワシらへの罵詈雑言!許さん!」
「私ならともかく、他の人たちをピンク脳呼ばわりするなんて
私たちをバカにするにも程があるわ!」
「くっ…お、落ち着くのですわ二人とも!
今出撃してしまえば敵の思うつぼですわ!」

敵の罵声に憤るレナスとカペラを
リリシアが何とか抑える。
もっとも、彼女自身もかなり頭にきているが
理性が何とか彼女を押しとどめている。

「シャノン市長!もう勘弁なりません!今すぐ出撃を!」
「落ち着きなさい。
あれくらいの罵詈雑言くらい聞き流すように。」

シャノンに対しては挑発が効かないらしい。


こうして、昼の間は攻撃の姿勢を見せただけで終わった。


そしてその日の夜、
十字軍は手はずどおり急いで物資をまとめると、
陣地の形だけ残して闇夜の中に消えた。

目指すはカンパネルラの門と言われる
要衝プラム盆地。
十字軍の行軍速度は、まさに颯のようであった。






カンパネルラ軍が異変に気付いたのは翌朝のことだった。

陽が出てからすでにかなりの時間が経過しているにもかかわらず
敵陣から炊煙(飯を作る時に出る煙)が上がらないのだ。

不審に思ったリリシアは、
偵察兵のハーピーに命じて敵陣の視察に行かせた。
すると、彼女たちの報告では
十字軍の陣地はすでにもぬけの殻だという。

「それでは陣には一兵もいなかったといいますの!?」
「はっ、敵はどうやら慌ててこの地を去ったようです。」
「これはいったいどういうことでしょうね、ご主人様?」
「昨日あれだけ威勢が良かった敵が急に退却するとは…、解せぬのう。」
「なにか…嫌な予感がしますわ…」

ひたすらいぶかしがる周囲の魔物たちをよそに
リリシアの第六感がなにか警告を発していた。

そこに新たな報告が入った。

「た、たたた大変ですリリシア様!」
「どうなさいましたの!?そのように慌てて!?」
「昨日まで目の前にいた敵が、ものすごいスピードで
私たちが来た道を北上しています!!」
「な、なんということですのーーーー!!!」

リリシアは思わず絶叫し、両手を机に打ち付ける。
机は真っ二つになったが、そのようなことは気にも留めない。

「おのれ!おのれおのれ十字軍!!
どこまでわたくしを弄べば気が済むんですの!!」
「ご主人様…どうか落ち着いて…」
「だまらっしゃい!これが落ち着かずしていられますか!」
「ひゃうっ!」

グレイシアの声が届かぬほどリリシアは逆上し、
怒りに我を忘れていた。
いつもの高貴で優雅な彼女の姿はどこへやら、
自慢のツインテールを逆立て、地団太を踏んでいる。

「こうなればわたくしの栄光とプライドにかけましても、
敵の主力を全滅させて見せますわ!!
全員、今すぐに全軍に出撃準備をさせなさい!!」
「で、でもそうなればこの都市の守備は…」
「不安でしたら自力でアネットに逃げ込めばよろしくてよ!
このままここにいても何も始まりませんわ!」


その後、この緊急事態は全軍に通達され、
同時に出撃準備の命令が下された。
カンパネルラ軍は、増援に来たとき以上に慌てて準備を行い
兵士たちの顔にもかなりの危機感が募る。

そして、出発の準備が出来次第出撃していった。
もちろんここに来る時と同じ、いや
場合によってはそれ以上の速度で
十字軍を追撃すべく行軍していった。

(この辺りは私たちの庭のようなものですわ!
それを敵に我が物顔で歩き回らせるなんて!
これ以上ないくらいの屈辱ですわ!)

おそらく敵はプラム盆地へ直行するつもりだ。
彼らに攻められればひとたまりもないだろう。
もはやリリシアの表情には、一片たりとも余裕はなかった。







それから5日後、
十字軍はルピナス河を渡ったところで
進軍を停止した。

そして、河の北側に陣地を形成する。
エルは本気で、この辺りで敵を撃破するらしい。


「ではユニース、後は頼んだ。」
「そっちも油断しないようにね。」

ここで第四軍団は本隊から分離し、
一路プラム盆地を目指す。
その上、エルは本隊から10000人を引き抜いて
第四軍団に一時的に付随させた。


本隊から分かれて北上を続ける第四軍団を
エルとマティルダは見送った。

「さて、明日には敵軍がここに到達するだろう。」
「いよいよ決戦ですね…」
「不安か?」
「いえ、エル様の指揮の下なら負ける気がしません!」

そういったマティルダの表情には
本当に不安の色が一点もなく、エルを信頼しきっている。
しかし、そのほかの将軍…
特に参軍クラスの新人の将軍たちは、
二倍以上の兵力差を持つ相手に対して
いささかの不安を隠せないでいた。

「ここで一回派手に勝っておけば、
俺の指揮にまだ不安を持っている将軍たちの
信頼を勝ち取ることが出来るだろう。」
「はい、私もその信頼にこたえるために、
全力を出して戦っていきます!」
「それは頼もしいことだ。
俺もいい後輩を持って嬉しく思うぞ。」
「い、いえ!エル様のためなら当然です!」


士官学校で、エルの後輩だったマティルダは
入学した当初からエルに好意を寄せていた。
彼の大きな背中を追いかけるうちに、
自身もまた大きく成長し、
軍に入ってからもひたすら
エルのそばで戦わせてほしいとせがんだ。
たとえ一生を掛けて彼に手が届かなくても、
ずっと彼を追い続けることを誓った彼女の信頼に、
エルもまた応えてきた。

そして今では、二人は深い信頼によって
上下関係を確立していた。
それは、ユリアもがうらやむような
堅い絆である。


「本隊の副軍団長として、そしてなにより
俺の直属の部下としての活躍を期待してるぞ。」
「はい!」

そのあと二人は明日のための作戦会議に赴く。



ミーティアの偵察によれば、
カンパネルラ軍は以前にも増して
猛スピードで進軍していた。
無理をしているのは明らかである。

エルは将軍たちに細かい戦術を指示し、
明日の決戦に向けて身体を休めるよう通達した。
特にユリアには…


「ご苦労様ですユリアさん。」
「ええ…、これほど大規模に術を使ったのは初めてでしたので
上手くいくかどうかは不安でしたが。」
「大丈夫ですよ。兵士たちに大きな疲労はありません。」
「それはなによりです…」

エルはユリアを早めにベットに運んだ。
ユリアは行軍の最中に、
全軍にわたる広範囲を微弱な疲労回復魔法で包み、
進軍がスムーズに行えるよう努めた。
90000人もの兵士を包むのだから、
たとえわずかな効果でも、力の消耗は非常に激しい。
明らかにエンジェルが行える域を超えているのだ。
一応、寝れば一定量は回復するものの
連日にわたる負担は相当なものだった。
ユリアの表情にも、疲労が色濃く出ていた。

「俺はユリアさんのおかげで疲れてはいませんので、
もし何かしてほしいことがあったら
何でもおっしゃってください。」
「…なんでも、ですか?」
「ええ、可能な範囲でしたら。」

自分の要望を何でも聞いてくれるというエルの言葉に、
ユリアは心の中が舞い上がる気持ちだった。
心身ともに疲れ切った彼女は、
その言葉に甘えることにした。

「では…その…、
私と一緒に寝てもらえますか?」
「え!?」

エルにとってこの願いは予想外だったようだ。
一応、過去に一度だけ一緒に寝たことがあるので
間違いが起こることはないと思うが…

「やはり…いけませんか?」
「いえ、ユリアさんがそう望むのであれば
俺でよければ添い寝してあげますよ。」

エルは上着を脱いで、代わりに
就寝用のローブを纏い
ユリアのベットに横になる。

「明日はオーガスト原野決戦以来の決戦になると思います。
今夜くらいはゆっくり体を休めましょう。」
「ええ…」

そのまま二人は眠りに落ちた。






翌日の午前頃、
ついにリリシア率いるカンパネルラ軍は
十字軍に追いついた。

夜通し駆け抜けた兵士たちの疲労は色濃い。
しかし、早く本隊を撃破しなければ
この地域の根幹が揺らぐこととなるだろう。

「ついに追いつきましたわ十字軍!
この河があなた達にとっては三途の川となるのですわ!
おーっほっほっほっほ……」
「ご…ご主人様!無理しなくてもよろしいのですよ!」

いつものように高笑いをするリリシアだが、
相変わらず表情に余裕は感じられない。


さて、この平地には浅いルピナス河が西から東に流れていて、
北岸には十字軍が横に広く展開している。
河の上流はかなり浅い。しかし、河口付近に近付くにつれ
水深は深くなり、最終的には膝くらいの深さになる。
また、北岸の西には川に沿って丘が存在するが
なぜかエルはこの地点に兵力を置いていない。
高台は進退の拠点となるので
本来ならば優先的に占領しなければならないのに。


リリシアはその場で臨時の作戦会議を開く。

「ではまずレナスは右翼(東)方面の指揮をお願いいたしますわ。」
「わかったのじゃ。」
「カペラとシャノンは左翼(西)方向をお願いできますかしら。」
「わかったわ。」
「承知しました。」
「そしてわたくしは軍の中央から指揮を行いますわ。
グレイシアはわたくしの右、マーテルはわたくしの左を
それぞれ指揮いたしなさい。」
「了解しました、ご主人様!」
「了解しました。」
「あと、シャノンはこの後全力で西側の丘を奪取するのです。」
「あの丘を確保する…、わかりました。」
「いいですこと、私たちは敵の二倍の兵力を持っていますわ。
この差を生かして、各個撃破するのです!いいですこと!」
『わかりました!』

簡単な作戦会議を終えた後、
各人は自分の持ち場に移動した。





一方の十字軍でも、
最後の調整が行われていた。


     〜会議のため名前付き台詞タイム〜


エル「さて、予定通り敵が南に姿を現したようだ。
   敵は我が軍の倍だが、恐れることはない。
   作戦通りに進めば必ず勝てるだろう。
   まず、ジョゼとリノアンは左翼(東)で防御。
   敵の左からの攻撃にひたすら耐えるんだ。」

ジョゼ「合点です!」

リノアン「…承知。」

エル「オージェもジョゼと共に敵の攻撃を防ぐこと。」
   
オージェ「わかりました、やってみせます!」

エル「セルディアは戦車隊を率いて右翼(西)に展開する。
   丘を奪取しようとするであろう敵部隊を蹴散らし、
   そのまま敵の左翼則方を狙え。
   そして、サンも騎兵部隊を率いて
   セルディアと共に包囲機動を展開せよ。」

セルディア「よしきた!任せてください。」

サン「はい!がんばります!」

エル「マティルダとレミィは中央よりやや右に展開して
   セルディア達の動きに合わせて、敵を突破せよ。」

マティルダ「了解です!」

レミィ「私も頑張ります!」

エル「最後に中央は俺が自ら指揮をとり、
   ラルカは俺の部隊を弓兵部隊で援護すること。
   そして右にディートリヒ、左にマントイフェルを配置し
   各参軍は師団長と共に戦闘を行うこと。」

ラルカ「わかりました。」

ディートリヒ「おう、承知したぜ。」

マントイフェル「俺も了解しました。」

エレイン「では私はディートリヒ将軍の指揮下に入ります。」

クルツ「私はマントイフェル将軍ですね。」

エル「ティモは敵にいるとされるバフォメットの位置を特定し、
   魔法による被害を防ぐこと。」

ティモ「了解!」

エル「そしてチェルシーとナンナは後方支援。
   チェルシーはバリスタで遠距離攻撃を行い
   ナンナは衛生兵を率いて回復に努めること。」

チェルシー「アイアイサー!」

ナンナ「が、頑張ります!」

エル「以上が各人に与えられた役割だ。
   この戦いは戦力を一方に集中し、
   敵の方翼を突破することを目標とする。
   各人は戦況に合わせて臨機応変に動くこと。」

マティルダ「私は特に重要な役割ですね。見事果たして見せます!」

セルディア「ま、主役は僕かもしれないけどね。」

ジョゼ「おいおい、俺たちが踏ん張ってることを忘れるなよ?」

リノアン「…私たちは縁の下の力持ちと言うべきでしょうか?」

エル「その意気だ。
   では早速これより攻撃に移る。
   各員一層奮起努力せよ!!」

一同『応!!』


すでに部隊編成を終えていた十字軍は、
各員が持ち場に着くと一斉に動き出した。

この動きを見たカンパネルラ軍もまた、
目前の敵を粉砕すべく全身を開始した。




時刻は正午になる直前。
ここに、ルピナス河における攻防が開始された。



リリシアの指示により、カンパネルラ軍は
前衛の列を保ったまま前進するのに対し、
十字軍は右翼側が他の部隊より速度を上げて前進し、
逆に左翼側はかなり遅い速度で前進する。


「あらまあ、敵は進軍速度がばらばらではありませんこと?
きちんとした訓練をしていらして?」

リリシアは敵の動きを敵の統率システムの不備と見た。
だが、この進軍陣形こそエルが得意としている
独特の陣形『斜行陣』。

戦力を片翼に集中して運用することで、
敵の弱点を突き、突破する。
陣形による戦術が確立していないこの時代において、
エルの展開した斜行陣は画期的な戦法といえる。

「わたくしたちのような美しい前進をしますには
百万年早かったようですわね!おーっほっほっほっほ!」

一方リリシア率いるカンパネルラ軍の、
一糸乱れぬ横列隊形は、
今までどの国の軍勢にも撃破されたことがない。
まさに模範的な前進だった。
ところが…


「シャノン様!相手の左翼部隊が
高速で丘の奪取に動いているみたいです!
このままでは敵にあの丘を取られてしまいます!」
「仕方がありません。我が部隊は前進速度を上げ
早めに渡河してしまいましょう。」

幸いシャノンが渡ったところは川底が浅く、
殆ど速度を落とさずに渡りきることが出来た。

敵に丘を渡してはならない。
シャノンの部隊はなんとかセルディアの部隊よりも早く、
高台を先取することが出来た。
しかし、この時渡河したのはシャノンの部隊だけであった。
横にいるはずのカペラの部隊は、
まさに渡河しようという状況にあった。


「ほうほう、隊列を乱してまで丘を取りに来たか。
ではまず、我ら戦車部隊が一暴れするとしよう。」
「セルディア先輩!私たちも行きます!」

丘を先取したシャノンの部隊に
セルディアの戦車隊とサンの騎兵部隊が襲いかかった。

セルディアの率いる戦車隊は独自規格に基づいて編成され、
帝国の戦車とは違い槍は槍、弓は弓と乗せる兵士を固定している。
汎用性には欠けるが、その分攻撃の一点集中が可能となっている。

シャノンの部隊もまた人間のトールーパー(軽騎兵)部隊や
ケンタウロスを始めとした足の速い魔物を中心に
部隊を構成してはいるが、
中央部に比べて魔物娘の比率が低く、
人間中心の編成にならざるを得なかった。


決定打が不足しているシャノンの部隊は
瞬く間にセルディアの戦車隊によって蹂躙される。

「くそ!なんなんだあの乗り物は!」
「接近すると轢かれちまう!どうやって攻撃すればいいんだ?」

親魔物領に住む兵士たちは戦車を知らない者が多い。
ましてや、ケンタウロスたちは…

「馬車に弓兵を複数載せるなんて!斬新ね!」
「感心している場合か!このままでは突破されるぞ!」

必死に弓を放つも、馬にも装甲を施してあるため
なかなか止めることが出来ない。
その上、車上からの反撃も激しく、
一点集中砲火をして弾幕を形成してくる時もあった。


「まずいですね…。何とかしなければ突破されてしまいます。」

シャノンは危機感を感じ、カペラに援護を求めた。
カペラは慌ててシャノンの応援に向かった。
だが、サンの率いる帝国騎兵部隊が
シャノンとカペラの部隊の間にできた隙間に突撃する。

「うりゃーーっ!!」

サンは先頭に立って突撃し、
投げて攻撃することが可能な槍「スレンドスピア」で
瞬く間に剣歩兵を10人も倒す。
まだ若いとはいえ、帝国親衛隊の部隊長になった
彼女の実力は相当なものである。

「このままでは分断されますね…、
仕方ありません。ここは私自らが相手しなければ。」

サンの実力を危険視したシャノンが
自らサンの相手をすることにした。

【ストーン!】

シャノンの目が妖しく光ると、
突撃してきた騎兵部隊が数十人ほど動かなくなる。

「な、なんだ?身体が動かねぇ…」
「まるで石になったみたいじゃないか!」
「奴だ!あのメドゥーサの仕業だ!」

動かなくなった騎兵たちはたちまち
周りのカンパネルラ兵にとらわれるも、
後続の味方によって救出された。
しかし、治療しなければ当分動けないだろう。

だが、当のサンは石化魔法を耐え抜き
シャノンめがけて突撃する。

「今度はこっちの番だー!!」
「私の石化魔法に耐えるとは…、だがまだ攻撃には距離がある。
この距離ならあの娘にもう一発石化魔法を…」
「ていっ!」

石化魔法を放とうとしたシャノンめがけて
サンが槍を投擲する。

ドン!

「うぐっ!」

サンの投げた槍は見事に彼女の左肩に命中し、
重傷を負わせた。

「シャノン様がやられた!退却だ!」
「敵は戦意喪失したようだね。
追撃はそこそこにして、次は
丘の左の部隊を目標とする!」

シャノンの副官は潮時と判断して
負傷したシャノンを庇って退却を開始し、
セルディアは敵を丘から東に追い落とした。

この動きによって、カペラの部隊は
前と左から攻撃を受けることになった。


シャノンの部隊が壊滅したという知らせは
即座にリリシアのもとに届いた。

「申し上げます!シャノン様の部隊は大被害を被り退却!
シャノン様も重傷を負いました!」
「わかりましたわ…。」

敵が手ごわいのは分かってはいたが、
いとも簡単にシャノンの部隊が撃破されたのは
想定外の出来事であった。

「マーテル!あなたはカペラの部隊が
やられませんように援護してくださいますか。」
「承知。」

マーテルは中央左の部隊を、
カペラの援護に回すと同時に、
カペラを攻撃している部隊にこちらからも
攻撃を加えるべく前進した。

「わたくしたちも攻撃を開始いたしまして、
敵大将がいる中央突破を目指しますわ!」


渡河を終えたばかりの中央部隊は、
前衛のディートリヒ、マントイフェルの部隊と激突した。

「今までさんざん手こずってきたが、今回の俺たちは一味違うぜ?」

ディートリヒは今度こそリリシアを撃破すべく、攻撃を開始する。
中央突破を狙う敵軍を迎撃し、反撃で倒していく。
マントイフェルもそれに合わせて、
防御前進の要領で敵に反撃していく。


「さて、ナンナちゃんもいっちゃったし、
私もお仕事するかな。」

メイド服を着た将軍、チェルシーは
組み立てられた数百台のバリスタに指示を出し、
敵のど真ん中に狙いを定めた。

「ふっふっふ、あなた達の穴という穴に、
私の太くて大きいの(弩弓)をぶち込んであげるわね♪」

目標は渡河している最中の部隊。

「ファイエル(撃て)!」

正式な合図は「フォイア!」だが、
なぜか彼女だけは変った合図を用いる。
しかし、部下が理解できていればそれで問題ない。

射出された大型の矢は味方の頭上を越えて
敵の前衛をも通過し、渡河中の部隊に降り注いだ。
命中するかしないかを考えずに撃つ物なので、
半数以上は命中しなかったものの、
当たればその大きさゆえ一発昇天確実だ。

渡河中の部隊は慌てて前面に出ようと、
前衛を後ろから押す形になった。
そこで多少陣形が乱れる。

「何をしていますの!
あのようなものを恐れる必要はございません!
それよりも陣形をきちんと整えなさいな!」

リリシアは一瞬乱れた陣形を
すぐに元に戻し、攻撃を続行した。
だが、遠距離兵器による遠隔攻撃は
鬱陶しいことこの上なかった。




一方で河口付近の川を渡河したレナス率いる部隊は、
ほとんど動かないジョゼとリノアンの部隊に攻撃をするも、
重装部隊と氷の壁に阻まれて、
戦果をあげることが出来ないでいた。


「レナス様ぁ…敵が固すぎますよぅ…」
「うえーん…あの大きい鎧が怖いぃ…」
「いやぁ!河が凍って足が冷たいです!」
「ええいおぬしら!弱音を吐く出ない!」

特にサバト所属の魔女たちは、
すっかり弱気になってしまっていた。
自分たちの得意な魔法が手も足も出ないのだ。

「みておれ、ワシの魔法で前衛を粉砕してくれるわ!」

レナスが呪文を唱えると、足元に闇色の魔法陣が浮かぶ。

『幻惑の霧よ!刃向う者の魂を啜りとるがよい!
【ノスフェラート(脱魂の幻霧)】』

魔法陣から黒い霧が発生し、
重歩兵数十人を取り巻く。

この霧に巻き込まれた重歩兵たちは
たちまち魂を失って、植物人間になってしまう。
いずれは回復するが、時間がかかるだろう。


この大きな魔力の動きを感知したティモクレイアは、
急遽ジョゼの部隊のところにワープした。

「ジョゼ!なにかあったのか!?」
「ティモか!何やら怪しげな霧が発生したと思いきや、
俺の部下たちが次々と倒れていったんだ!」
「そうか、やはり…」
「混ぜると危険なものは混ぜない方がいいな!」
「有毒ガスが発生したんじゃないよ!
あれは敵バフォメットの古代魔法だっつーの!」
「…そろそろ第二波がきます。援護をお願いします。」
「あーそうだったな。じゃ、やるとしますか。」

リノアンの催促によって、ティモは陣頭に立った。
すでにレナスは二発目を撃とうとしている。

「ならばこちらも同程度の威力の魔法を撃つまでよ!
【パージ(粛清)】」

彼が呪文を唱えると、彼の持つ杖に光が集まり
その後一気に解放される。

ノスフェラートとパージが空中でぶつかり合い
最終的には相殺された。


「ほう、ワシの魔法を打ち消せる者がおるとはのう…
ワシが勝ったら兄上になってもらうとするかな♪」

思わぬ強敵の出現に、逆に喜びをあらわにしたレナスは
指揮をそっちのけで魔法の撃ち合いに熱中していった。
周りの魔女たちも、レナスが陣頭に立ったことで
やる気を取り戻し、攻撃に加わって行った。

「【ファイアーアロー(火の矢)】!」
「【エイルカリバー(風の刃)】!」
「【スターライトブレイカー(!?)】!」
『え、先輩そんなの撃てるんですか!?』
「ごめんなさい…ただのプラズマシュートです。」

また、ティモによって守られた重歩兵たちも
再び前列で盾を構える。

「よくも混ぜるな危険を混ぜてくれたな!」
「だから違うって。」
「ここから先は一歩も進ません!かかってこい!」
「聞いちゃいないし。」





戦闘開始から一刻が経過した。

軍の中央から、戦線全体を見渡しているエルのもとに
敵の最左翼の部隊を撃破したとの報告がはいった。

「セルディアがやったか。想定よりだいぶ早かったな。」
「すごいですね…。陣形を少し工夫するだけで
ここまで戦闘が優位に運ぶのですから。」
「陣形だけではありませんよ。
今までの訓練の成果や、情報収集が積み重なって
はじめてこの状況に持っていけるのです。」
「エルさん自身はいつ動くのですか?」
「もう少ししたらですかね。
しかし、まだ全体の指揮に努めます。」

ユリアはエルと共に戦局の推移を見守る。
両軍の中央は前衛同士が拮抗している。
カンパネルラ軍は数の多さで十字軍を圧倒すべく前進し、
十字軍は組織的な反撃で数の不利を跳ね返そうとする。
まだリリシア自身が前衛に出てきてはいないが、
逆にいえば相手にはまだそれだけの余裕があると言える。
もし、リリシア自身が出てくるとなれば
エルかマティルダが当たらないと勝ち目はない。
そのため、なるべくほかの兵士はこちらの兵士を当てて
削っていきたいところである。

「よし、そろそろ戦況は第二段階に入ったようだ。
ミーティアはマティルダにそのまま左翼方面を
包囲攻撃するように命じてくれ。」
「わかった!」

エルはセルディアとサンの部隊に
そのまま左翼方面の部隊を攻撃するよう命じた。

命令を受けたマティルダは、今まで以上に
攻撃の勢いを強め、カペラの部隊に突撃した。



シャノンが抜けたため苦戦しているカペラの部隊は、
マーテルの援護によって何とか戦線を保っていた。

シャノンの部隊とは違い、彼女の部隊には
そこそこの数の魔物娘たちが配備されていたのだが、
敵に猛攻に加えて強行軍の直後とあって
渡河したはいいものの、
徐々に後退することを余儀なくされた。

彼女の部隊に猛攻を仕掛けているのは、
血のような赤い剣「デスブラッド」を振うレミィだ。

「うりゃうりゃうりゃうりゃあ!」

ズシュ!バシュ!ズビシ!ザン!ブシャア!

「がっ!」「あべしっ!」「ぎゃーす!」

ものすごい勢いで敵を斬り倒していくレミィを見て
マティルダは頼もしいと思う反面、
少し恐怖を感じた。

「ふっ!今宵のデスブラッドは血に飢えているわ!」
「血に飢えているのはあなただと思うんだけど…
あと、今は真昼間だから。」

そんなことお構いなしに突き進むレミィは、
さながらアカオニのようであった。

「おうおう!嬢ちゃんやってくれるじゃあないか!」
「次はお姉さんたちが相手してあげようか!」
「悪!即!斬!」

ビシィ!ザシュ!

目の前にはオーガが二人もいたが、
レミィは一刀のもとに切り捨てた。

「がっ!ばかな!」「強すぎる…!」


この光景を見ていたカペラは、
人間離れした強さを見せつける少女に唖然とする。

「8列に展開した前衛を突破したですって!?
ああもう!十字軍の少女は化け物なの!?」

さらに悪いことに、側面からはシャノンの部隊を撃破した
セルディアとサンの部隊が攻撃してきている。

「カペラさん。正面は私が指揮をします。
あなたは側面の部隊の態勢を立て直してください。」
「ええ、頼みましたわ。」

マーテルはカペラの代わりに
マティルダとレミィの部隊を相手することになった。

「第一中隊はそのまま17歩前進。第二中隊は右からの攻撃を防ぎ
第三中隊は前に出すぎているため20歩後退。
第四中隊のエルフたちは射角40度で方位北北東168地点を射撃
第五中隊は…」

中隊単位という細かい指揮を行えるのは彼女だけだ。
しかし、前進や後退の歩数ならともかく、
射撃地点や展開角度まで細かく指示されても
兵士たちにはどうしたらいいかわからないのだが…

「指示された方向ってどっち?」
「12歩だけ前進してどうするんだ?」
「槍衾形成なんて単語初めて聞いたわ!」

良い将校は、指示を簡潔に出しましょう。



「何だか急に敵の動きがキビキビし始めたわね…」

前衛を指揮していたマティルダは、相手兵士の
動きの変化を即座に捉えた。
先ほどまでは単純に目の前の敵を攻撃するだけだったのが、
ある程度のまとまりで組織的な攻撃を行ってきた。

「本来ならかなりやっかいだけど、動きになれていないのかしら?
挙動がどうもぎくしゃくしているわね。」

マーテルの指揮方法は確かに運用面では優れているものの、
普段から動きになれていないと、むしろ逆効果だ。
命令を聞こうとするあまり、部隊同士の連携が乱れ始めた。

「このような隙を作るなんて相手もまだまだね!
レミィ!あの命令を理解できなくて混乱している
ゴブリン部隊に突っ込んで、そこから敵陣をかき乱すわよ!」
「了解!」

マティルダとレミィは敵の弱点に向かって猛烈な攻撃を与える。
するとたちまち前衛が崩れ始め、敵の抵抗が緩んだ。


「なにをしているのです!きちんと指示通りに動きなさい!」
「もはやそれどころではありません…!
兵士たちは抵抗するだけで精一杯です。」
「ふむぅ、やはり練度に大きな差があるか…。残念だ。
敵状をもう少し把握しておくのだったな。」

元々魔物と人間の混成部隊は能力に差があるので
一律に運用することが難しいのだ。
今までの戦いでは質の差があったため問題なかったが、
こちらが質で差をつけられると、その優位は消滅してしまう。
マーテルは自分の慢心を悔やんだが、
今は目の前の敵に集中しなければ。

しかし、マーテルのもとに新たな報告が入った。

「マーテル様!敵の騎兵と戦闘馬車部隊がカペラ様の部隊を突破し、
我々の側面を激しく攻撃しています!」
「な、なんだって!?」

西を見れば、セルディアの戦車部隊が歩兵部隊を蹂躙し
それに続いてサンの騎兵部隊が突入する。
側面から攻撃を受けたカンパネルラ軍は
なすすべもなく餌食となる。

この同時多発の危機に、マーテルは狼狽した。
アヌビスは自分の想定外の出来事に弱い。
マーテルは仮にも将軍なので、他のアヌビスに比べれば
多少の突発的な事態にも対応できるが、
多方面から攻撃されているため、
細かい指示をいきわたらせることが
非常に困難になってしまったのだ。

「い、いかがなさいますか!?」
「落ち着くんだ!第2大隊の第12中隊は左に回り防御…
第5中隊は方位北西152を面制圧…第2中隊は…ああっ!!」

彼女の処理能力はもはや限界を超えていた。

(モウダメダ…ナニモカンガエタクナイ…)


ガラガラガラガラガラ!


「っ!」

突如迫る馬車のような音が耳に入ったマーテルは
ようやく正気を取り戻した。
しかし、時すでに遅し。

グワシッ!

「よし、確保。」
「なあっ!?」

彼女の尻尾をつかんでそのまま捕縛したのは、
四頭立ての戦車に乗って突入してきたセルディアだった。

「大丈夫、殺しはしないよ。
ただちょっと大人しくしていてほしいな。」
「ぬ…むぐぐ…」

マーテルは初めのうちは抵抗しようとした。
だが…

ドクンッ…
(こ、この人が私を捕らえたのか…)

セルディアをよく見てみれば、まだ若い顔立ちで、
(注:エルとは2歳しか違わない)
整った顔に、コバルトブルーの瞳。
そして、眉毛だけが白いという珍しい特徴を持つ。

(なぜだ…全身が熱い…!
それに…か、身体の奥が…疼く…!)

今まで仕事一辺倒だったマーテルは、
恋というものを知らなかった。

どうやら、彼女はセルディアに一目ぼれしたようだ。


もっとも、セルディアはすでに既婚者で
幼い子供もいるのだが…


「あーっ!セルディアさんが私の獲物を横取りした!」
「だ、大丈夫だよレミィ!まだ大将が残ってるよ!」
「子供みたいなことを言ってる暇はないぞ。
次はいよいよ敵の本隊だからな。」
「そうね、ここからが本番よ!」

将軍を失ったカンパネルラ軍左翼は統率を失い混乱している。
マティルダはセルディア達と共に、左翼部隊を
徐々に本隊の方に押しこんでいった。

「私とレミィはこのまま中央部隊の側面に突っ込むわ!
セルディア先輩とサンは背後に回りなさい!」
「よし!まかせとけ!」

セルディアとサンはそのまま左翼方面を席巻し、
中央部隊の背後に回って行った。



中央部隊を指揮するリリシアのもとには、
1時間ほど前から左翼部隊からひっきりなしに
救援要請が入ってきていた。
彼女もこの動きを見殺しにできないので、
その都度兵力を割いているが、限度というものがある。

「リリシア様!このままでは左翼方面が破られてしまいます!」
「またですの!?マーテルはいったい何をしていらっしゃるの!?
わたくしたちも今は、一進一退の状態だといいますのに!」
「カペラ様も消息不明!マーテル様の部隊も苦戦しておられます!」
「くっ…、どうやら敵は西側に戦力を集中しているようですわ…。
しかしレナスの部隊も未だに前進できていないと言っていますし…」

彼女が率いた軍は今まで負けたことはほとんどなく、
彼女がひとたび攻撃の命令を下せば、
人間の軍など物の数ではなかった。
ところが、今は自軍の半数にも満たない軍を相手に
リリシアはかつてない苦戦を強いられていた。

どうしたものかと周囲を見渡すと、
左翼方面から兵士たちが追われてきていた。
そしてその後に大量の土埃が舞い上がっていた。

「まさか背後から!?一体いつの間に回り込んだのですの!?」
「報告します!マーテル様の部隊は壊滅!
敵部隊はそのまま中央を包囲するつもりです!」
「マーテルが!?なんということですの!!」

同時にマティルダ達に押されてきた左翼部隊が
本隊にまで逃げ込んできていた。
このため、中央部隊の左側は
随所で指揮系統に乱れが生じていた。




「エル司令官!我が軍の右翼部隊が
中央軍の側面と背後に攻撃を開始したため、
敵前衛の攻撃が緩みました!」
「よし!ここが勝負の分かれ目だ!」

マントイフェルの報告を受けたエルは、
この戦いの決勝点を越えたと判断した。

「全軍突撃!!」
『おおーーーっ!!』

エルの指示によりディートリヒとマントイフェルの部隊は
ついに積極的な攻勢に移った。

「よーしお前ら。情け無用だ、いくぞ。」

ディートリヒは自ら前線に出て敵前衛に突入する。

「我らも後れをとるな!前進だ!」

マントイフェルもまた、兵士たちを突撃させる。


「ジョゼやリノアンにも反撃するように伝えておけ!」
「はっ!」



エルは伝令でひたすら防御に徹している右翼部隊にも
攻撃に転じるように命令した。
この命令を受けたジョゼ、リノアン、そしてティモは
今までのお返しとばかり攻撃を開始した。

「ゆくぞオージェ!我らの本当の力を見せてやれ!」
「わかりました!」

傭兵部隊を率いるオージェは、
ジョゼの重歩兵たちよりも前に出て、
猛烈な攻撃を開始する。

「なんじゃ!?まさか敵の反撃か!」

レナスの部隊は突然の反撃に驚いた。
敵は防戦するのに精いっぱいだと思い込んでいたために、
まさかあちらから攻撃してくるとは思わなかった。

重装歩兵では素早い反撃に移れないだろうと
高をくくっていたレナスは
魔女や弓兵たちを前に出しすぎていた。
そこに、オージェ率いる軽装の傭兵部隊が
怒涛のごとく切り込んできたのだから
たまったものではない。

「いかん!魔女たちは後ろに下がるのじゃ!
歩兵たちは急ぎ援護せよ!」」
『キャー!キャー!』

レナスは統率の乱れを何とか保とうとしたが、
パニックに陥った魔女たちをまとめるのは難しかった。
その上、レナス自身もティモとの撃ち合いをせねばならず
兵士たちの制御を失ってしまった。

本来ならグレイシアの支援が入るのだが、
グレイシアは中央の戦闘で忙しく
とても右翼部隊を助ける余裕はなかった。

「こ、このわしが負けるだと…!
ワシの率いるサバトが人間の軍如きに劣るというのか!」

おそらく、かつてオーガスト原野で大敗を喫した
先輩のバフォメット、ティファナも
自分と同じ気持ちだったのであろうか?

得意の魔法が相手の魔道士によって相殺され、
自分の有利な形で戦えなかった。
それが最も悔しかった。

「皆のもの!残念じゃがこれ以上は無理じゃ!退くぞ!
わしが殿を務めるゆえ、おぬしらは離脱せよ!」
「それではレナス様が危険です!」
「ワシにかまうな!先に行けーー!!」
「それが危険なのですーー!!」
「いや、一度言ってみたかったのじゃ♪」
「おちゃめしている場合じゃないです!退きますよ!」

こうしてカンパネルラ軍の右翼も
一瞬にして粉砕された。
攻めを急ぐあまり、防御を怠ったのが原因だった。




ついに全面攻勢に移った十字軍に対し、
カンパネルラ軍は疲労が積み重なっていたのもあって
士気がじわじわと下がってきていた。

「こうなれば、私自らが先頭に立つしかありませんわ!」

ついにリリシアは自分で戦線の維持をすることを決心した。
白い魔馬を駆り、前衛に躍り出る。

「皆のもの!私が来たからには敗北はありませんわ!」
「みなさん!ご主人様が来てくださいました!」
「さあ十字軍!覚悟なさい!
私が直々に倒して差し上げますわ!光栄に思いなさいな!」

「リリシア様が来てくれた!これで勝つる!」
「我らがリリシア様がいれば無敵だ!」

リリシアが前線に出たことで、
兵士たちは再びやる気を取り戻した。
リリシアにはそれだけ強いカリスマがあった。

「雑兵たちよ!道を開けなさい!」

リリシアが剣を一閃する。
するとたちまち十字軍兵士が倒れていく。

彼女の振う黄金に輝く長剣…「妖剣カンパネルラ」は
剣や鎧をまるで泥のように切り裂き、
彼女の実力も相まってたちまち十字軍の前列を崩す。

リリシアの出現により、ディートリヒ率いる第二師団は
攻撃の手が緩んでしまった。
そこに、リリシア直属の兵士が反撃を加える。


「くそっ!奴自身が出てきやがった!
敵兵が生き生きしてやがる…!」
「ディートリヒ将軍!敵将の相手は私にお任せください!」
「やめておけ…。お前さんじゃあ奴の相手は無理だぜ。」

剣を携えて前線に出ようとするエレインを抑え、
勢いを取り戻した敵に対し確実に反撃するよう努める。
すると…


「よくやったな二人とも。」
「エル様!?」
「エル司令官じゃあないですかぃ!?
いったいどうしてここに!」


ついにエル自身も前線に姿を現した。

「ラルカはユリアさんの護衛を頼んだ。」
「は、はい!」
「さてさて、久しぶりにフィーバーするかな。」

エルは馬を下りて、軽く方天画戟を振り回す。

「いくぞ、続け!」
「はい!」
「了解しましたでさぁ!」

シュバッ!

「え、あれ?エル様は!?」
「おい、もうあんな所まで突っ込んでるぞ!」
「早っ!!」

いきなり突風が吹いたかと思いきや
エルはすでに敵の前衛と交戦していた。


「断罪してやろう。」

エルは方天画戟を振い、
瞬く間に自分のリーチ内にいる敵を血祭りに上げる。
敵の前衛にはワーウルフやミノタウルスなどの魔物、
しかもリリシアの下で戦ってきた精鋭部隊がいたのだが、
それすらも一合も打ち合うことなく倒していく。
突き、払い、薙ぎ、叩き潰す。
その一連の動作全てに無駄がない。

もはや彼の動きだけ次元が違っていた。


「すげぇな司令官…」
「私たちの戦いはなんだったんでしょうね…」
「もう司令官一人で勝てるだろ。」

さすがにそれは無理というものだが、
その圧倒的な強さを改めて目の当たりにした十字軍は、
大きな自信となった。




十字軍の全面攻勢によって、
もはや戦いは一方的な殲滅戦の模様を呈していた。
カンパネルラ軍は各所で指揮系統が乱れ、
もはや攻撃どころではなかった。


「………あぁ、わたくしの負け……ですわね…」


リリシアにとって初めての敗北。
しかも、ここまで一方的かつ華麗に負けたのだ。
リリシアはもはや悔しくも悲しくもなかった。

ただただ恍惚な気分であった。


彼女のプライドは完膚なきまでたたきのめされた。

散々相手に振り回された上に、
相手の二倍以上の兵力をもってしても
相手に殆ど損害を与えることが出来なかった。
そして自分が率いた主力はもはや壊滅状態。

「確か…、相手の司令官の名は………エル…」

一体どのような人物なのだろうか?

そう思ったとき、リリシアの前にいた部隊の中で
自身が手塩にかけて育てた精鋭を、
まるで人形を相手するかのごとく蹴散らしている…

一人の女性がいた。

輝くような長い金髪に、透き通るような肌。
それはまるで、もう一人の自分のようだった。


スッ…


「お前がリリシアか?」
「!?」

いつの間にかリリシアの胸元に(首がないので)
方天画戟がつきつけられていた。

エルがいくら素早いといえども、
リリシアほどの魔物なら普通は
このような失態は冒さないはずだ。

それほどリリシアは無気力化していた。

「ええ………、わたくしが…りりしあ……ですわ。」
「そうか、だったら話が早い。」

エルはにっこり笑う。

「大勢は決した。素直に降伏しろ。命まではとらん。」
「…………」

リリシアはしばらく沈黙した後

「あなたの、お名前は?」
「ああ、名乗ってなかったな。
十字軍総司令官のエルだ。よろしく。」
「…っ!!あなたが!?あなたのような麗しい女性が…」
「うん、残念なことに俺男なんだ。」

エルにとってはもはや様式美なので軽く返すが
リリシアにはエルの男宣言は聞こえていなかった。

「…今日は、あなたと戦えて本当に良かったですわ。」
「なに?」

この状況で突如輝かんばかりの笑顔を放つリリシア。
しかも自分をコテンパンにした相手に感謝の言葉。
さすがのエルも素っ頓狂な声を上げる。

「それではエルさん、ごめんあそばせ。」

次の瞬間、リリシアの足元から魔法陣が発生し
一瞬で彼女がエルの前から消えた。


「ちっ、あらかじめ用意した脱出用の転移魔法か。
そんなもを用意しているなんて意外だな。」

もったいぶらずに捕まえておけばよかったと思ったが、
今逃がしても当分は害はないだろう。たぶん。

「さ、て、と。後は止めをさすだけだな。」
「エル様ー!大丈夫ですか!」

マティルダが側面攻撃を終え、エルと合流した。

「マティルダか。今回はお前に最も重要な役を任せたが
よくやってくれたな。」
「いえいえ!エル様のためなら私なんだって頑張れます!」
「夜伽もですか?」
「そう、夜伽も…ってええええぇぇぇぇ!!!」
「やっほーマティルダさん。大活躍でしたね。」
「なんだチェルシーか。」

いつのまにやら、そこにはチェルシーがいた。

「エル様。敵部隊はほぼ退却するか捕虜になりました。
私たちの完全勝利ですよ!」
「わかった。これから戦後処理に入ろう。
まずは負傷兵の回復と被害報告をおこなう。」

そういうとエルは手早く戦後処理に向かう。

マティルダとチェルシーは戦闘によって血に染まった
ルピナス河を眺める。

「見事に真っ赤ですね。」
「まるで破瓜の後…」
「あなたは少し自重しなさい。」
「しかし、普通の人たちがこの光景を見たら
どんな反応するんでしょうね?」
「…たぶん、気味悪く思うか、下手すれば失神しますね。」
「でも私たちはこの光景を見ても平気ですよね。」
「軍人がいちいち血を見て狼狽しててはやっていけません。」
「そうね。でも、私は一人の女性として
感覚が狂ってきたのかなって思うことがあるんですよね。」
「そんな悲しいこと言わないでよ(汗
もっと楽しい話題はないの?」
「じゃあ、エル様に命じられれば夜伽もやるっていうのは本当?」
「ちょっ!何で楽しい話題がそれなのよ!?」

しかし、実際マティルダは血に染まった河を見て
なんとも思わない自分を少し恐ろしく思った。
自分は軍人だから。分かってはいる。
これも敬愛するエルのについていくため
自ら選んだ道なのだから。






その日ルピナス河において行われた戦闘では…

十字軍:戦死者約500人、捕虜約30人、負傷者約2200人。(損害率約1%)

カンパネルラ軍:戦死者約80000人以上、捕虜約10000人以上
        負傷者約20000人。(損害率約75%)

ここまで一方的な戦闘結果は史上類を見なかった。
捕虜の中にはリリシアの側近であるマーテルも含まれており、
何とか逃げ切った他の将軍たちも満身創痍だ。

退却した部隊はグレイシアの指揮の下、
アネットに退却することにした。


わずか1%の損害。

まさに絵柄事のような完ぺきな勝利に
十字軍は沸き上がった。

「まさか倍以上の敵にここまで一方的に勝てたなんて…
いまだに信じられないよ!」
「私、エル様が敵陣に突入するところを見たわ!
たった一人で敵前衛をあっという間に蹴散らしていたわ!」
「あれはもはや人が出来る芸当じゃないよ!」
「エル司令官マジチート!」

兵士や将軍たちは、改めて
エルの見事な指揮に感銘を受けていた。


「やりましたねエルさん!素晴らしい勝利です!」
「ええ、これも全員が頑張った結果です。」
「これで他の人たちも、エルさんの凄さを
分かってもらえたと思います!」

エルが演出した勝利を、
まるで自分のことのように喜ぶユリア。
エルの喜びは彼女の喜びでもあるのだ。

「それにしても…、エルさんが一週間ほど前に
閃いた戦略は、この結果まで想定していたのですか?」
「ええ、大方俺の予想通りに事が進みましたね。
もっとも、ここまでうまくいくとは思いませんでしたが。」
「…普通の人なら『そんなはずはないでしょ』
といわれるところですが、エルさんなら
何の疑いもなく信じられますね。」

これもエルの積み重ねた実績が作った信頼だ。

「さて、ユリアさん。今回の戦で何を学びましたか?」
「そうですね…、やはり。」

少し考えたユリアは、最終的に一言にまとめた。


「『敵の予期せぬところに戦線を作る』ことですね。」






「ルピナス河の戦い」 ○△△年

エルクハルト率いる十字軍が、カンパネルラ地方ルピナス河畔でカンパネルラ軍の主力を撃破した戦い。
カンパネルラ軍司令官のデュラハン、リリシアは辛くも脱出したが多くの被害を出す。
これによりカンパネルラ軍の戦力は大幅に低下し、十字軍によるカンパネルラ攻略の大きな一歩となった。

(世界史百科より)


ルピナス河の戦い 概要図



11/02/24 08:08 up

コラムの羽
『イッソスの戦い』

ファーリル「やあみんなごきげんよう。
今日は最近出番がない僕がコラムを担当することになったよ。

さて、今回の戦闘はどうだったかな?
いつもにもまして長い文章だったけど、平気だという人は
ちょっと手近にある世界史の年表を開いてみよう。

「ルピナス河の戦い」は、過去に実際に起きた戦争
『イッソスの戦い』をモデルにしているんだ。
主役はあの有名なアレキサンダー大王。
時代は紀元前333年。おおすごい、ゾロ目だね!

さて、アレキサンダー大王はイッソス平原において
自分の3倍以上の兵力差があるペルシア軍主力と遭遇してしまったんだ。
ペルシア軍主力は、敵の王さまのダレイオス三世もいるから
敵の士気はかなり高かったはずだ。
アレクサンダー大王にとってはかなり危機的な状況だ。

しかし彼は、エルがやったように主戦力を右翼に集めて
敵の左翼を突破し、そこから敵を各個撃破する作戦に出たんだ。
この作戦は見事成功し、ペルシア軍は半数以上を失って退却。
捕虜の中にはダレイオス三世の妃と王女もいたんだって。
普通妻と愛娘を捨ててまで逃げるなんて考えられないけど
それだけ余裕がなかったんだね。
しかもアレクサンダー大王の軍の損害は
わずか1%程度!これは驚きだ!

エルはわざとあんな状況を作り出したけど、
それは自分の有利に戦うためだったんだよね。
でも、アレクサンダー大王は自分に不利な状況で
なおかつエルより少ない兵力で勝利しているんだ。
エルも十分チート性能だけど、
現実にはエルよりすごい人がいたんだね。

ちなみに、ルピナス河の元ネタは
イッソス平原に流れる「ピナルス河」を
もじったものなんだって。
一応、ルピナスっていう種類の花もあるけどね。

さて、長くなったから今回はこれでおしまい。
次回はカンパネルラ電撃戦の後篇。
やっと僕たち第二軍団の出番が来たようだね。

それじゃ次の話もお楽しみに!


バーソロミュ
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