後編
「……っ!!?」
意識を取り戻したアーノルドの目に飛び込んできたのは、金属製の輪のような部品で、手すりに繋がれた自分の左腕だった。
どうやら椅子に座らされた状態で拘束されているらしく、両足首も同様の形で繋がれている。
少し周りの様子を見渡した限りでは、どうやら自分は屋敷のホールに連れ込まれたらしい。
「目を覚ましたか。紅茶をどうぞ、アーノルド=クレイン」
聞こえてきた声の主は、長テーブルの向かいに座っていた。
スキンヘッドに片眼鏡をかけた紳士的な装いの中年男性ではあるが、どこか飢えた狐を髣髴とさせる、不気味な風貌の持ち主である。
「お前が……ジョセフ=ゴーンブラッドか」
「その通りだ。由緒あるゴーンブラッド家の現当主。それよりもまずは紅茶を楽しむと良い。そのためにわざわざ片腕だけ自由にしているのだから」
「ナターシャをどこにやった! 何故彼女たちを傷つけるんだ!」
ゴーンブラッドは、アーノルドの剣幕に眉を顰めながらカップから紅茶を一口啜る。
「彼女は地下にいる……まぁそれはそれとして、君はせっかちな性格のようだから、早速本題に入ることにしよう」
ゴーンブラッドはそう言うと、静かにティーカップを受け皿の上に置いた。
「アーノルド=クレイン。君は私と協力して、デルエラの手からレスカティエを奪い返すのだ」
アーノルドはゴーンブラッドの言っていることが全くもって理解できないといった風な顔をした。
「……なんのために……? お前は主神教団の人間なのか……?」
「勘弁してくれアーノルド。私をあの無能な盲信者共の集まりと一緒にするな」
ゴーンブラッドは椅子から立ち上がると、ゆったりとした足取りでアーノルドの方へと歩み寄っていく。
「誤解しないでほしいのだが、私は決して魔物娘を憎んでいるわけではない。むしろその逆だ。彼女たちは美しく、魅力的で……心身ともに、強い」
ゴーンブラッドは話を続ける。
「だが一つだけ、致命的な欠陥を有している。それは彼女たちがどのような男が相手でも、子を成そうと考えてしまうところだ」
ゴーンブラッドはアーノルドの近くまで迫ってきた。
「魔物娘とは強大な存在だ。だからこそ配偶者は慎重に選ぶべきだと思わないか? 私は魔物娘が旧世界では自然に淘汰されていたはずの、非力で脆弱な人間の血を引いた子供を産みだしている現状に我慢がならないのだよ」
アーノルドの右腕を拘束しているリングに人差し指を這わせる。
「ゴーンブラッド家の歴史とは正に淘汰の歴史だ。産まれた順番に関わらず最も文武に優れた王子だけが当主を継ぐことを許され、その他の兄弟姉妹は、ゴーンブラッドの名を名乗ることすら禁じられた。我々は歴史の裏で暗躍し、戦争や疫病、飢饉という形で生きるに値しない者を間引いていき、限られた資源が優れた人間のみに行き渡るようにしてきた。レスカティエのノースクリムに近づいたのも、当時のレスカティエの社会構造が、我々の望む世界の構造に近いものであり、その支配を盤石な物とするためだった。目先の利益に群がる貴族とは一線を画していたのだ」
ゴーンブラッドは自身の人差し指をアーノルドの額に押し付けた。
「私は軍隊を構築している。余計な感情を持たず、魔物娘の誘惑に屈しない機工兵。ゾーイ博士が改造した銃。そこに伝説の『白き竜』の力が加われば、近いうちに必ずやデルエラの手からレスカティエを奪うことが出来るだろう。レスカティエはゴーンブラッドの名のもとに生まれ変わり、いずれは大陸を統一するほど巨大な国家へと――」
「もういい」
「……何?」
ゴーンブラッドは信じられないといった表情でアーノルドの顔を覗き込む。
「私はお前の計画に協力するつもりはない。お前の妄言をこれ以上聞かされるのもごめんだ」
ゴーンブラッドは雷に打たれたような顔をしていたが、やがて軽く肩をすくめると右手を振って合図をした。
「そうか……それでは、『白き竜』の伝説はここで終わりだな」
ホールより高所のスペースであるギャラリーから、2台の「大砲」がアーノルドに照準を向ける。
「空気中の魔力を一点に収束して、爆発的なエネルギー光線を放つ兵器だ。その威力は経験済みだろう?」
アーノルドは静かに目を閉じ、まもなく訪れるであろう最期の瞬間に向けて、心の準備を整えた。
「(どうやら、ここまでのようだな)」
「さよならだ。『白き竜』よ」
屋敷内に雷鳴が轟き、アーノルドは頬に切り裂くような勢いの爆風が当たるのを感じた。
「……?」
しばらくしてアーノルドは、未だに自分の肉体がこの世に存在しているという感覚に違和感を感じた。状況を確かめるためにうっすらと目を開けていく。
そして、眼前の状況を確かめた瞬間、彼の眼は驚きのあまり大きく見開かれることとなった。
ダイヤモンドの輝きを放つ長髪の女性が、両腕を交差し、鎧の籠手で光線を受け止めていた。純白の翼に濃紺を基調とした美麗な鎧。その姿はまごうことなく、戦場に降り立った麗しき戦乙女の姿そのものである。
「はあああぁぁっ!」
アーノルドを守るために駆け付けたフロストが、咆哮を上げて両腕を弾き広げる。
その衝撃で、彼の肉体を粉微塵にするはずだったエネルギー光線は、その場で閃光を放つと雲散霧消した。
「馬鹿な……!」
完全に予想外の乱入者に絶句するゴーンブラッド。そんな彼をよそにフリストは、アーノルドを拘束する金具を拳打で破壊していった。
「ありがとう。本当に助かった」
「ヴァルキリーとしての当然の義務です。それと、助けに来たのは私だけではありません」
ギャラリーの窓をぶち割り、金属物体のような物が内部へと飛び込んできた。
私兵の一人が悲鳴を上げてうずくまり、二つある大砲の内の一基がその物体の直撃を受けてギャラリーから落下し、ホールの床へと叩きつけられる。
「こ、これは……?」
アーノルドは金属物体の正体が、白く輝く鎧の一部であることに気が付いた。
それらはバラバラのパーツとなって戸惑うアーノルドの体に次々ととりついていく。
「アーノルド=クレイン。我が主よ。貴方が再び目覚める日を、200年間待ちわびていました」
全ての部品が自身の体に取り付いた時、アーノルドはついに悟った。自分は今、かつて『白き竜』と呼ばれていた時代に、身に纏っていた鎧を装着したのだ。
―――――――――――――――――――――
サルバリシオン城の地下武器庫に保管されていた「白竜の鎧」は、城内の空気中に漂う魔力を少しずつ吸収し、やがて「フラグメントアーマー」と呼ばれる、リビングアーマーの中でも特別な存在へと変貌した。
自己修復を終えた鎧は、自身が唯一仕えてきた主の元へと駆け付けるために武器庫の封印を自力で破り、ついでにフリストが閉じ込められていた牢屋も破壊して、忠誠心の赴くままにゴーンブラッドの屋敷へとたどり着いたのである。
――――――――――――――――――――――
「何をしている! 大砲を発射しろ!」
ゴーンブラッドの怒声を聞いた私兵が、慌てて残りの大砲の発射準備に取り組む。
「手をかざして!」
「えっ! こ、こうか!?」
鎧の言われるままに、アーノルドは大砲に向かって右手をかざす。
すると、ガントレットの掌に当たる部分から黄金の輝きを放つ光線が放たれ、大砲の砲口を直撃する。中枢系を貫かれた大砲は煙を上げて断末魔の悲鳴を鳴らすと、そのままピクリとも動かなくなった。
「ゾーイ博士! いますぐホールに機工兵を送れ! 今すぐにだ!」
ゴーンブラッドが狼狽しつつも手元の水晶で援軍を求めると、ホールにいくつもの紫色の光の渦が浮かび上がり、その中から機工兵たちが姿を現した。
「あの機工兵たちは私に任せてくれ。フリストさん、貴方には地下にいるナターシャを助けてほしい」
「あのバフォメットを? クレイン、私は貴方を守るためにここまで来たのであって、魔物娘を助ける義務も義理も……」
難色を示すフリストにアーノルドは、背中の鞘から取り出した魔界銀の剣を差し出した。
「お願いだ。今頼れるのは、貴女しかいないんだ」
アーノルドはそれだけ言うと、白銀の鎧と共に機工兵の集団へと立ち向かっていく。
フリストはやむをえまいとため息をつくと、右腕を大きく振り上げて屋敷の床を殴りつけた。
―――――――――――――――――――――――――――
「研究資料をまとめるのよ! いつでも脱出できるように準備を!」
ゴーンブラッドの屋敷の地下にある研究室では、見るからに不健康そうな相貌の中年女性が、周りにいる私兵や研究員に指示を飛ばしていた。
騒然とした研究室の天井にひびが入ったかと思うと、亀裂は瞬く間に広がっていき、崩落した穴からヴァルキリーが侵入する。
「待って……落ち着きなさい! 彼女は魔物じゃない! ヴァルキリーよ!」
私兵たちはすぐさまヴァルキリーに向かって銃や剣を構えるが、女性の指示に従ってやむなく武器を下ろす。
「偉大なる主神の僕たるヴァルキリー様。私の名はゾーイ。ジョセフ=ゴーンブラッドの命により、悪しき魔物たちを駆逐するための武器を開発しております」
わざとらしく思えるほど恭しい態度で跪くゾーイ博士。しかし研究室に降り立ったフリストの視線は彼女ではなく、部屋の各所にある分厚いガラスで覆われた区画へと向けられていた。
「……Ms.ゾーイ。貴女は魔物を倒すための武器を開発しているという。しかし私には人間も実験体にしているように見えます。これにはいったいどのような理由があるのですか?」
「ああ、それはですね……魔物たちが反抗しないようにするためです。逃げ出したりしたら、人間の方が代わりに実験体として扱われることになると教えています。連中は人間が傷つくことに忌避感を示しますから、自分から進んで試作品の的になってくれるというわけです」
フリストはガラスの向こうで、体に包帯を巻いたワイバーンが、人間たちを守るように翼で覆い隠している姿を目にした。人間たちの中には子供も混じっている。
ワイバーンにとってはようやく差し伸べられた救いの手の持ち主が、魔物の宿敵であるヴァルキリーのものだったという、控えめに言っても最悪の状況だろう。
それでも、人間たちを守ることを諦めるつもりはないようだった。
彼女の眼の中に宿るものを見たフリストの中に、燃え盛る炎のような感覚が生まれ、全身へと広がっていく。
それはかつて魔物娘たちと対峙していた時には一度も感じたことのない、根源的な熱さを秘めた強い感情だった。
ゾーイ博士の体が一直線に飛んだかと思うと、テーブルに激突し、その勢いのままテーブルの近くにいた二人の研究員まで巻き添えを喰らって、壁と机の間に挟まれた。
魔界銀の剣を振り上げたフリストは、近くにいた私兵の一人の胸を刃で貫くと、そのまま背後に回って私兵を盾にする。そのまま男が握っていた銃を掴んで、研究室中に魔弾を乱射した。
「彼女は敵よ! 始末して!」
咳こみながら立ち上がろうとするゾーイ博士の指示で、私兵たちが一斉に武器を構える。
盾にしていた男の背中を蹴り飛ばして剣を引き抜き、横から振り下ろされた剣を籠手で受け止める。無防備な腹部に刃を突き入れ、引き抜いた勢いのままにもう一人の私兵の胸も貫いた。
間髪入れずにその場で体をひねりながら跳躍し、離れた距離から撃たれた魔弾から身を躱す。
体を大きく回転させながら一人目の射手を切り捨て、捻りを加えた跳躍で再び魔弾の弾道を避けながら、もう一人の射手にも斬撃を加える。
多人数を相手にしながら華麗な身のこなしで次々と敵を無力化していくその姿はまさに、戦場に降り立った気高き天界の戦士と呼ぶにふさわしいものだった。
ーードンドンドン!
「……?」
ガラスの壁面を叩く物音に目を向けると、先程とは別の区画に閉じ込められているバフォメットが、ジェスチャーで何かを必死に伝えようとしていた。
「(テーブルの上! 箱じゃ! 開けてくれ!)」
フリストが目を向けると、テーブルの一つに魔法で封印された箱のような物が置いてある。
「まずい! あれに触らせるな!」
私兵たちが一斉に飛びかかろうとするが時既に遅しで、フリストは拳の一撃で宝箱の蓋に大穴を開けていた。
箱の中から、刃に青白い光を帯びた二つの斧がひとり手に浮き上がる。
宙に浮いた斧は私兵を二、三人ほど撥ね飛ばしながら真っ直ぐにバフォメットの元へと飛んでいき、ガラスの壁をぶち破って彼女の手に握られた。
「理由はどうあれ……借りが出来たのう、ヴァルキリーよ」
ナターシャはフリストに笑みを向けると、研究室の全てを破壊するために雷の魔力を秘めた双斧アンダルを掲げる。
刃から放たれた稲妻は研究室にある試作品の銃や、実験体を閉じ込めたガラスを粉砕し、電熱によって書類までも容赦なく燃やしていった。
―――――――――――――――――――――――
「なんてことだ……」
ゴーンブラッド家の当主は物言わぬ残骸と化した機工兵たちの山を見て呆然と呟いた。白いフラグメントアーマーを身に纏ったアーノルドの戦闘力は圧倒的だった。
最後の機工兵の大鋏の振り下ろしを躱し、その刃を容易くもぎ取って、コアに突き刺す。機工兵は耳障りな断末魔を上げてその場に崩れ落ちた。
「考え直せクレイン! 君は勇者だ。魔物と戦うのが使命だろう!」
「貴方は大きな誤解をしています」
アーノルドが身に纏う鎧から、透き通った女性の声が響き渡る。
「アーノルド=クレインは魔物を倒すために勇者になった訳ではありません。いつの時代であろうと彼が戦う理由は、人々を災厄から守るためです。私は、その理想を実現するための力となるために作られた鎧です」
アーノルドは全ての機工兵が沈黙したのを確認すると、兜のバイザーを開いてゴーンブラッドの方に向き直る。
「私は……自分がこの時代に目覚めた理由を見出すことが出来なかった。魔物が人を殺さなくなった時代に、勇者など必要ではないと考えていた」
魔力の影響で黄金色に輝く掌をゴーンブラッドにかざす。
「だがたった今、理由が理解できた。お前のような人間が人々の自由と平穏を脅かそうとする限り、私は戦い続ける宿命にある!」
アーマーの籠手が閃光を発し、目の前の男の足元の床に穴を開けた。
「く、くそ――」
尻餅を突きつつも何とか出口に向かおうとするゴーンブラッドの眼前で、轟音と共に青白い光の爆発が巻き起こった。
床に大きく空いた穴から、魔法の斧を携えたバフォメットが姿を現す。その後に美しい長髪をたなびかせたヴァルキリーが続く。
「それで」
「儂らに対して他に何か言うことはあるのか?」
ゴーンブラッドは周囲の状況を一瞥してから僅かに微笑み、両手を上げて跪いた。
「よし……降参だ。暴力は良くないからな」
―――――――――――――――――
レスカティエの街の一角にある時計塔の上で、一人の若い女騎士が物憂げな表情で佇んでいた。
レスカティエは今日も変わらず平和であり、深紅の満月が見守る下で、魔物の男女が幸せそうに行き交っている。
「フリストさん。ここにいたのか」
ヴァルキリーが振り返ると、白金のフラグメントアーマーを身に纏った男と、バフォメットが立っていた。
「……勲章を貰ったようですね」
「ああ。これからは『魔界勇者』として生きようと思っている。これは貴女の分だ」
アーノルドの手には、赤い瞳と淫魔の翼、そして薄紫色の剣を象った勲章が握られている。
「デルエラ女王陛下は、研究所の件は不問に処すそうだ。良かったら僕たちと――」
「今の私に、それを付ける資格はありません」
フリストはその勲章を静かに押し返しながら答える。
「あの時は反射的に体が動いたけれど……未だ私は主神様の眷属です。そう簡単に、忠誠を誓う主を変える訳にはいけません」
ナターシャが不満げに鼻を鳴らす。
「お堅い奴じゃのう。ゴーンブラッドの屋敷に囚われていた者たちは、魔物娘も含めてお主に感謝していたぞ?」
フリストは純白の翼を広げて床から浮き上がると、中空に浮かんだままアーノルドたちにぎこちない笑みを浮かべた。
「この先どうするかは、もう少し様々な魔物娘と向き合ってから決断します。ただ、少なくとも彼女たちを、こちらから傷つけるような真似は控えるつもりです」
フリストはそう言うと、ひと呼吸置いてから再び口を開いた。
「白銀の鎧よ、私の代わりに、アーノルド=クレインの身をしっかりと守護するように」
鎧兜のベンテール――装着者の顔に当たる部位――から、アーノルドの顔に重なるように、白く光る女性の端正な顔が現れる。
「貴女に言われるまでもありません。私はこれからも命ある限り、アーノルド様の鎧としてつき従うつもりです」
フリストは静かに頷くと、輝く魔力の光を身に纏いながら、空の向こうへと消えていった。
「さて……それでは僕も行くとするよ」
アーノルドはそう言うとアーマーの魔力でフリストと同じように、時計塔のすぐ傍の中空に浮き上がる。
彼もまた200年の間に様変わりした世界をより深く知るために、しばらくの間レスカティエを離れて世界を周りたいという希望を、デルエラに許されたのである。
「……アーノルド! 行ってしまう前に聞きたいことがあるのじゃ!」
そう話すナターシャの頬は、心なしか赤らんでいるように見えた。
「お主は……何故儂のことを度々庇ってくれたのじゃ? 眠りから目覚めた直後も、『大砲』に狙われたときも、自身の身を顧みず……も、もしかしてお主は儂のことを――」
「子供が傷つくのは嫌なんだ!」
「……へ?」
魔力の噴出音にかき消されないよう、大声で放たれた言葉に、ナターシャは口をポカンと開ける。
「どんなに腕っぷしが強かろうと、君はまだ子供だ! 傷つかないに越した事はない! それじゃあまた!」
飛び去っていくアーノルドの後ろ姿が小さくなり始めるまで、ナターシャは唖然とした表情でその場に立ち尽くしていた。
「……おい!! これでも儂はお主より年上じゃぞ! 子供扱いするでない!!」
「冗談はやめてくれ! 僕は200年間眠っていたんだぞ!」
「それを含めてもじゃー!」
ナターシャは遠ざかっていくアーノルドの後ろ姿に向かって、片手斧を振り回しながら抗議するのであった。
―――――――――
―――――
――
―
「本当に『白き竜』とヴァルキリーを、レスカティエから出して良かったのですか? デルエラ様」
レスカティエの王城にある謁見の間で、ヴァレンティナは王座に座る白い翼の淫魔に話しかけていた。
「世界は未だ不安定です。ウィルザードではMr.スマイリーという強大な怪人が、凶行を繰り返しています。霧の大陸の情勢は相変わらず不安定であり、ドラゴニアでも不穏な動きが確認されています。またゴーンブラッドの一族のような者が現れたら……」
「大丈夫よ、ヴァレンティナ。レスカティエには彼ら以外にも、多くの英雄たちを抱えている」
白い翼の淫魔は美しく、余裕に満ちた微笑みを浮かべた。
「それに、レスカティエの民が危険に晒された時、彼らは必ず戻って来るわ。何故なら――」
――彼らは、レスカティエの守護者<ガーディアンズ・オブ・レスカティエ>なのだから――
Original author
KENKOU CROSS
Writer
SHARP
GUARDIANS OF RESCATIE
GUARDIANS OF RESCATIE will return in――
UNBREKABLE ARROW
意識を取り戻したアーノルドの目に飛び込んできたのは、金属製の輪のような部品で、手すりに繋がれた自分の左腕だった。
どうやら椅子に座らされた状態で拘束されているらしく、両足首も同様の形で繋がれている。
少し周りの様子を見渡した限りでは、どうやら自分は屋敷のホールに連れ込まれたらしい。
「目を覚ましたか。紅茶をどうぞ、アーノルド=クレイン」
聞こえてきた声の主は、長テーブルの向かいに座っていた。
スキンヘッドに片眼鏡をかけた紳士的な装いの中年男性ではあるが、どこか飢えた狐を髣髴とさせる、不気味な風貌の持ち主である。
「お前が……ジョセフ=ゴーンブラッドか」
「その通りだ。由緒あるゴーンブラッド家の現当主。それよりもまずは紅茶を楽しむと良い。そのためにわざわざ片腕だけ自由にしているのだから」
「ナターシャをどこにやった! 何故彼女たちを傷つけるんだ!」
ゴーンブラッドは、アーノルドの剣幕に眉を顰めながらカップから紅茶を一口啜る。
「彼女は地下にいる……まぁそれはそれとして、君はせっかちな性格のようだから、早速本題に入ることにしよう」
ゴーンブラッドはそう言うと、静かにティーカップを受け皿の上に置いた。
「アーノルド=クレイン。君は私と協力して、デルエラの手からレスカティエを奪い返すのだ」
アーノルドはゴーンブラッドの言っていることが全くもって理解できないといった風な顔をした。
「……なんのために……? お前は主神教団の人間なのか……?」
「勘弁してくれアーノルド。私をあの無能な盲信者共の集まりと一緒にするな」
ゴーンブラッドは椅子から立ち上がると、ゆったりとした足取りでアーノルドの方へと歩み寄っていく。
「誤解しないでほしいのだが、私は決して魔物娘を憎んでいるわけではない。むしろその逆だ。彼女たちは美しく、魅力的で……心身ともに、強い」
ゴーンブラッドは話を続ける。
「だが一つだけ、致命的な欠陥を有している。それは彼女たちがどのような男が相手でも、子を成そうと考えてしまうところだ」
ゴーンブラッドはアーノルドの近くまで迫ってきた。
「魔物娘とは強大な存在だ。だからこそ配偶者は慎重に選ぶべきだと思わないか? 私は魔物娘が旧世界では自然に淘汰されていたはずの、非力で脆弱な人間の血を引いた子供を産みだしている現状に我慢がならないのだよ」
アーノルドの右腕を拘束しているリングに人差し指を這わせる。
「ゴーンブラッド家の歴史とは正に淘汰の歴史だ。産まれた順番に関わらず最も文武に優れた王子だけが当主を継ぐことを許され、その他の兄弟姉妹は、ゴーンブラッドの名を名乗ることすら禁じられた。我々は歴史の裏で暗躍し、戦争や疫病、飢饉という形で生きるに値しない者を間引いていき、限られた資源が優れた人間のみに行き渡るようにしてきた。レスカティエのノースクリムに近づいたのも、当時のレスカティエの社会構造が、我々の望む世界の構造に近いものであり、その支配を盤石な物とするためだった。目先の利益に群がる貴族とは一線を画していたのだ」
ゴーンブラッドは自身の人差し指をアーノルドの額に押し付けた。
「私は軍隊を構築している。余計な感情を持たず、魔物娘の誘惑に屈しない機工兵。ゾーイ博士が改造した銃。そこに伝説の『白き竜』の力が加われば、近いうちに必ずやデルエラの手からレスカティエを奪うことが出来るだろう。レスカティエはゴーンブラッドの名のもとに生まれ変わり、いずれは大陸を統一するほど巨大な国家へと――」
「もういい」
「……何?」
ゴーンブラッドは信じられないといった表情でアーノルドの顔を覗き込む。
「私はお前の計画に協力するつもりはない。お前の妄言をこれ以上聞かされるのもごめんだ」
ゴーンブラッドは雷に打たれたような顔をしていたが、やがて軽く肩をすくめると右手を振って合図をした。
「そうか……それでは、『白き竜』の伝説はここで終わりだな」
ホールより高所のスペースであるギャラリーから、2台の「大砲」がアーノルドに照準を向ける。
「空気中の魔力を一点に収束して、爆発的なエネルギー光線を放つ兵器だ。その威力は経験済みだろう?」
アーノルドは静かに目を閉じ、まもなく訪れるであろう最期の瞬間に向けて、心の準備を整えた。
「(どうやら、ここまでのようだな)」
「さよならだ。『白き竜』よ」
屋敷内に雷鳴が轟き、アーノルドは頬に切り裂くような勢いの爆風が当たるのを感じた。
「……?」
しばらくしてアーノルドは、未だに自分の肉体がこの世に存在しているという感覚に違和感を感じた。状況を確かめるためにうっすらと目を開けていく。
そして、眼前の状況を確かめた瞬間、彼の眼は驚きのあまり大きく見開かれることとなった。
ダイヤモンドの輝きを放つ長髪の女性が、両腕を交差し、鎧の籠手で光線を受け止めていた。純白の翼に濃紺を基調とした美麗な鎧。その姿はまごうことなく、戦場に降り立った麗しき戦乙女の姿そのものである。
「はあああぁぁっ!」
アーノルドを守るために駆け付けたフロストが、咆哮を上げて両腕を弾き広げる。
その衝撃で、彼の肉体を粉微塵にするはずだったエネルギー光線は、その場で閃光を放つと雲散霧消した。
「馬鹿な……!」
完全に予想外の乱入者に絶句するゴーンブラッド。そんな彼をよそにフリストは、アーノルドを拘束する金具を拳打で破壊していった。
「ありがとう。本当に助かった」
「ヴァルキリーとしての当然の義務です。それと、助けに来たのは私だけではありません」
ギャラリーの窓をぶち割り、金属物体のような物が内部へと飛び込んできた。
私兵の一人が悲鳴を上げてうずくまり、二つある大砲の内の一基がその物体の直撃を受けてギャラリーから落下し、ホールの床へと叩きつけられる。
「こ、これは……?」
アーノルドは金属物体の正体が、白く輝く鎧の一部であることに気が付いた。
それらはバラバラのパーツとなって戸惑うアーノルドの体に次々ととりついていく。
「アーノルド=クレイン。我が主よ。貴方が再び目覚める日を、200年間待ちわびていました」
全ての部品が自身の体に取り付いた時、アーノルドはついに悟った。自分は今、かつて『白き竜』と呼ばれていた時代に、身に纏っていた鎧を装着したのだ。
―――――――――――――――――――――
サルバリシオン城の地下武器庫に保管されていた「白竜の鎧」は、城内の空気中に漂う魔力を少しずつ吸収し、やがて「フラグメントアーマー」と呼ばれる、リビングアーマーの中でも特別な存在へと変貌した。
自己修復を終えた鎧は、自身が唯一仕えてきた主の元へと駆け付けるために武器庫の封印を自力で破り、ついでにフリストが閉じ込められていた牢屋も破壊して、忠誠心の赴くままにゴーンブラッドの屋敷へとたどり着いたのである。
――――――――――――――――――――――
「何をしている! 大砲を発射しろ!」
ゴーンブラッドの怒声を聞いた私兵が、慌てて残りの大砲の発射準備に取り組む。
「手をかざして!」
「えっ! こ、こうか!?」
鎧の言われるままに、アーノルドは大砲に向かって右手をかざす。
すると、ガントレットの掌に当たる部分から黄金の輝きを放つ光線が放たれ、大砲の砲口を直撃する。中枢系を貫かれた大砲は煙を上げて断末魔の悲鳴を鳴らすと、そのままピクリとも動かなくなった。
「ゾーイ博士! いますぐホールに機工兵を送れ! 今すぐにだ!」
ゴーンブラッドが狼狽しつつも手元の水晶で援軍を求めると、ホールにいくつもの紫色の光の渦が浮かび上がり、その中から機工兵たちが姿を現した。
「あの機工兵たちは私に任せてくれ。フリストさん、貴方には地下にいるナターシャを助けてほしい」
「あのバフォメットを? クレイン、私は貴方を守るためにここまで来たのであって、魔物娘を助ける義務も義理も……」
難色を示すフリストにアーノルドは、背中の鞘から取り出した魔界銀の剣を差し出した。
「お願いだ。今頼れるのは、貴女しかいないんだ」
アーノルドはそれだけ言うと、白銀の鎧と共に機工兵の集団へと立ち向かっていく。
フリストはやむをえまいとため息をつくと、右腕を大きく振り上げて屋敷の床を殴りつけた。
―――――――――――――――――――――――――――
「研究資料をまとめるのよ! いつでも脱出できるように準備を!」
ゴーンブラッドの屋敷の地下にある研究室では、見るからに不健康そうな相貌の中年女性が、周りにいる私兵や研究員に指示を飛ばしていた。
騒然とした研究室の天井にひびが入ったかと思うと、亀裂は瞬く間に広がっていき、崩落した穴からヴァルキリーが侵入する。
「待って……落ち着きなさい! 彼女は魔物じゃない! ヴァルキリーよ!」
私兵たちはすぐさまヴァルキリーに向かって銃や剣を構えるが、女性の指示に従ってやむなく武器を下ろす。
「偉大なる主神の僕たるヴァルキリー様。私の名はゾーイ。ジョセフ=ゴーンブラッドの命により、悪しき魔物たちを駆逐するための武器を開発しております」
わざとらしく思えるほど恭しい態度で跪くゾーイ博士。しかし研究室に降り立ったフリストの視線は彼女ではなく、部屋の各所にある分厚いガラスで覆われた区画へと向けられていた。
「……Ms.ゾーイ。貴女は魔物を倒すための武器を開発しているという。しかし私には人間も実験体にしているように見えます。これにはいったいどのような理由があるのですか?」
「ああ、それはですね……魔物たちが反抗しないようにするためです。逃げ出したりしたら、人間の方が代わりに実験体として扱われることになると教えています。連中は人間が傷つくことに忌避感を示しますから、自分から進んで試作品の的になってくれるというわけです」
フリストはガラスの向こうで、体に包帯を巻いたワイバーンが、人間たちを守るように翼で覆い隠している姿を目にした。人間たちの中には子供も混じっている。
ワイバーンにとってはようやく差し伸べられた救いの手の持ち主が、魔物の宿敵であるヴァルキリーのものだったという、控えめに言っても最悪の状況だろう。
それでも、人間たちを守ることを諦めるつもりはないようだった。
彼女の眼の中に宿るものを見たフリストの中に、燃え盛る炎のような感覚が生まれ、全身へと広がっていく。
それはかつて魔物娘たちと対峙していた時には一度も感じたことのない、根源的な熱さを秘めた強い感情だった。
ゾーイ博士の体が一直線に飛んだかと思うと、テーブルに激突し、その勢いのままテーブルの近くにいた二人の研究員まで巻き添えを喰らって、壁と机の間に挟まれた。
魔界銀の剣を振り上げたフリストは、近くにいた私兵の一人の胸を刃で貫くと、そのまま背後に回って私兵を盾にする。そのまま男が握っていた銃を掴んで、研究室中に魔弾を乱射した。
「彼女は敵よ! 始末して!」
咳こみながら立ち上がろうとするゾーイ博士の指示で、私兵たちが一斉に武器を構える。
盾にしていた男の背中を蹴り飛ばして剣を引き抜き、横から振り下ろされた剣を籠手で受け止める。無防備な腹部に刃を突き入れ、引き抜いた勢いのままにもう一人の私兵の胸も貫いた。
間髪入れずにその場で体をひねりながら跳躍し、離れた距離から撃たれた魔弾から身を躱す。
体を大きく回転させながら一人目の射手を切り捨て、捻りを加えた跳躍で再び魔弾の弾道を避けながら、もう一人の射手にも斬撃を加える。
多人数を相手にしながら華麗な身のこなしで次々と敵を無力化していくその姿はまさに、戦場に降り立った気高き天界の戦士と呼ぶにふさわしいものだった。
ーードンドンドン!
「……?」
ガラスの壁面を叩く物音に目を向けると、先程とは別の区画に閉じ込められているバフォメットが、ジェスチャーで何かを必死に伝えようとしていた。
「(テーブルの上! 箱じゃ! 開けてくれ!)」
フリストが目を向けると、テーブルの一つに魔法で封印された箱のような物が置いてある。
「まずい! あれに触らせるな!」
私兵たちが一斉に飛びかかろうとするが時既に遅しで、フリストは拳の一撃で宝箱の蓋に大穴を開けていた。
箱の中から、刃に青白い光を帯びた二つの斧がひとり手に浮き上がる。
宙に浮いた斧は私兵を二、三人ほど撥ね飛ばしながら真っ直ぐにバフォメットの元へと飛んでいき、ガラスの壁をぶち破って彼女の手に握られた。
「理由はどうあれ……借りが出来たのう、ヴァルキリーよ」
ナターシャはフリストに笑みを向けると、研究室の全てを破壊するために雷の魔力を秘めた双斧アンダルを掲げる。
刃から放たれた稲妻は研究室にある試作品の銃や、実験体を閉じ込めたガラスを粉砕し、電熱によって書類までも容赦なく燃やしていった。
―――――――――――――――――――――――
「なんてことだ……」
ゴーンブラッド家の当主は物言わぬ残骸と化した機工兵たちの山を見て呆然と呟いた。白いフラグメントアーマーを身に纏ったアーノルドの戦闘力は圧倒的だった。
最後の機工兵の大鋏の振り下ろしを躱し、その刃を容易くもぎ取って、コアに突き刺す。機工兵は耳障りな断末魔を上げてその場に崩れ落ちた。
「考え直せクレイン! 君は勇者だ。魔物と戦うのが使命だろう!」
「貴方は大きな誤解をしています」
アーノルドが身に纏う鎧から、透き通った女性の声が響き渡る。
「アーノルド=クレインは魔物を倒すために勇者になった訳ではありません。いつの時代であろうと彼が戦う理由は、人々を災厄から守るためです。私は、その理想を実現するための力となるために作られた鎧です」
アーノルドは全ての機工兵が沈黙したのを確認すると、兜のバイザーを開いてゴーンブラッドの方に向き直る。
「私は……自分がこの時代に目覚めた理由を見出すことが出来なかった。魔物が人を殺さなくなった時代に、勇者など必要ではないと考えていた」
魔力の影響で黄金色に輝く掌をゴーンブラッドにかざす。
「だがたった今、理由が理解できた。お前のような人間が人々の自由と平穏を脅かそうとする限り、私は戦い続ける宿命にある!」
アーマーの籠手が閃光を発し、目の前の男の足元の床に穴を開けた。
「く、くそ――」
尻餅を突きつつも何とか出口に向かおうとするゴーンブラッドの眼前で、轟音と共に青白い光の爆発が巻き起こった。
床に大きく空いた穴から、魔法の斧を携えたバフォメットが姿を現す。その後に美しい長髪をたなびかせたヴァルキリーが続く。
「それで」
「儂らに対して他に何か言うことはあるのか?」
ゴーンブラッドは周囲の状況を一瞥してから僅かに微笑み、両手を上げて跪いた。
「よし……降参だ。暴力は良くないからな」
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レスカティエの街の一角にある時計塔の上で、一人の若い女騎士が物憂げな表情で佇んでいた。
レスカティエは今日も変わらず平和であり、深紅の満月が見守る下で、魔物の男女が幸せそうに行き交っている。
「フリストさん。ここにいたのか」
ヴァルキリーが振り返ると、白金のフラグメントアーマーを身に纏った男と、バフォメットが立っていた。
「……勲章を貰ったようですね」
「ああ。これからは『魔界勇者』として生きようと思っている。これは貴女の分だ」
アーノルドの手には、赤い瞳と淫魔の翼、そして薄紫色の剣を象った勲章が握られている。
「デルエラ女王陛下は、研究所の件は不問に処すそうだ。良かったら僕たちと――」
「今の私に、それを付ける資格はありません」
フリストはその勲章を静かに押し返しながら答える。
「あの時は反射的に体が動いたけれど……未だ私は主神様の眷属です。そう簡単に、忠誠を誓う主を変える訳にはいけません」
ナターシャが不満げに鼻を鳴らす。
「お堅い奴じゃのう。ゴーンブラッドの屋敷に囚われていた者たちは、魔物娘も含めてお主に感謝していたぞ?」
フリストは純白の翼を広げて床から浮き上がると、中空に浮かんだままアーノルドたちにぎこちない笑みを浮かべた。
「この先どうするかは、もう少し様々な魔物娘と向き合ってから決断します。ただ、少なくとも彼女たちを、こちらから傷つけるような真似は控えるつもりです」
フリストはそう言うと、ひと呼吸置いてから再び口を開いた。
「白銀の鎧よ、私の代わりに、アーノルド=クレインの身をしっかりと守護するように」
鎧兜のベンテール――装着者の顔に当たる部位――から、アーノルドの顔に重なるように、白く光る女性の端正な顔が現れる。
「貴女に言われるまでもありません。私はこれからも命ある限り、アーノルド様の鎧としてつき従うつもりです」
フリストは静かに頷くと、輝く魔力の光を身に纏いながら、空の向こうへと消えていった。
「さて……それでは僕も行くとするよ」
アーノルドはそう言うとアーマーの魔力でフリストと同じように、時計塔のすぐ傍の中空に浮き上がる。
彼もまた200年の間に様変わりした世界をより深く知るために、しばらくの間レスカティエを離れて世界を周りたいという希望を、デルエラに許されたのである。
「……アーノルド! 行ってしまう前に聞きたいことがあるのじゃ!」
そう話すナターシャの頬は、心なしか赤らんでいるように見えた。
「お主は……何故儂のことを度々庇ってくれたのじゃ? 眠りから目覚めた直後も、『大砲』に狙われたときも、自身の身を顧みず……も、もしかしてお主は儂のことを――」
「子供が傷つくのは嫌なんだ!」
「……へ?」
魔力の噴出音にかき消されないよう、大声で放たれた言葉に、ナターシャは口をポカンと開ける。
「どんなに腕っぷしが強かろうと、君はまだ子供だ! 傷つかないに越した事はない! それじゃあまた!」
飛び去っていくアーノルドの後ろ姿が小さくなり始めるまで、ナターシャは唖然とした表情でその場に立ち尽くしていた。
「……おい!! これでも儂はお主より年上じゃぞ! 子供扱いするでない!!」
「冗談はやめてくれ! 僕は200年間眠っていたんだぞ!」
「それを含めてもじゃー!」
ナターシャは遠ざかっていくアーノルドの後ろ姿に向かって、片手斧を振り回しながら抗議するのであった。
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「本当に『白き竜』とヴァルキリーを、レスカティエから出して良かったのですか? デルエラ様」
レスカティエの王城にある謁見の間で、ヴァレンティナは王座に座る白い翼の淫魔に話しかけていた。
「世界は未だ不安定です。ウィルザードではMr.スマイリーという強大な怪人が、凶行を繰り返しています。霧の大陸の情勢は相変わらず不安定であり、ドラゴニアでも不穏な動きが確認されています。またゴーンブラッドの一族のような者が現れたら……」
「大丈夫よ、ヴァレンティナ。レスカティエには彼ら以外にも、多くの英雄たちを抱えている」
白い翼の淫魔は美しく、余裕に満ちた微笑みを浮かべた。
「それに、レスカティエの民が危険に晒された時、彼らは必ず戻って来るわ。何故なら――」
――彼らは、レスカティエの守護者<ガーディアンズ・オブ・レスカティエ>なのだから――
Original author
KENKOU CROSS
Writer
SHARP
GUARDIANS OF RESCATIE
GUARDIANS OF RESCATIE will return in――
UNBREKABLE ARROW
18/06/24 21:05更新 / SHAR!P
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