中編
レスカティエの首都より程なく北、魔城都市サルバリシオンの一角にある会議室に、ヴァレンティナとナターシャ、そして魔界銃士隊第5部隊の隊長である、褐色肌のデュラハン――レヴェの3人が集っていた。
「武器庫から奪われた『銃』は合計で35丁にも登ります。盗難を指示した人物の調査は難航しましたが、いましがたようやく本名を特定することが出来ました。『ジョセフ=ゴーンブラッド』です」
「ゴーンブラッド……確かレスカティエ教国の元老院に属していた、貴族の家名だったわね」
「ええ」
ヴァレンティナの言葉にレヴェは静かにうなずく。
「ですが、ノースクリム司祭のような有力者と比べると、かなり地味な存在だったそうです。政争にも積極的には参加していなかったせいか、過去の記録を調べても殆ど名前は出てきません」
レヴェは机の上に、レスカティエ周辺の領地を記した地図を広げた。いくつかの地点に赤いインクでバツ印が付けられている。
「偵察部隊の調査で、奴の潜伏場所をいくつかに絞り込むことが出来ました。しかし、正確な位置となると――」
「ほーんふらっど家のにんへんはそへんのいはんをだいひにする」
レヴェが振り返ると、そこには魔界ジャムの大きな瓶を抱えたアーノルド=クレインが立っていた。
「ごくん……失礼。ここに来る途中で懐かしい香りがしたもので、分けてもらったんだ。ゴーンブラッド家の人間は祖先の遺産を大事にする。目を付けるとしたらそういう場所から探るべきだ」
アーノルドは口元をぬぐうと、机上に広げられた地図に記されたバツ印の1つを指差した。
「そう、ここだ……確かこの地域には、ゴーンブラッド家の財産である大きな屋敷が在ったはず。もし連中が今もこの近くに潜伏してるなら、この屋敷にいる可能性は高いと思う。ヴァレンティナ、『銃』とやらを盗んだ犯人を捕らえる気なら、僕も一緒に連れて行ってくれないか?」
ヴァレンティナが答える前に、レヴェが背中に背負っていた銃をアーノルドの喉元に突き付けた。
「1つ。新参者であるお前を重要な作戦に連れていくリスクは背負えない。2つ。何故ゴーンブラッド家についてそんなに詳しい?」
「よしなさい、レヴェ」
青筋を立ててレヴェのことをにらみつけるナターシャの横で、ヴァレンティナはきっぱりと彼女の行動に釘を刺した。
「僕は当時……元老院の上層部の命令で、ゴーンブラッド家の内情を探っていたんだ。連中はあからさまな権力闘争には関わらなかったが……彼らの周りでは頻繁に人が消えていたからな」
アーノルドは突き付けられた銃を手で軽く押しのけてから再び口を開いた。
「連中が今になって行動を始めたとなると……嫌な予感がする。もし連中がレスカティエに住む人々を傷つけようとしているなら、僕には奴らを止める義務があると思う。ナターシャ、僕が封印されていた遺跡に、白銀の鎧も保管されていなかったか?」
ナターシャはアーノルドの問いにバツの悪そうな表情を見せた。
「ああ、それなんじゃが……」
―――――――――――――――――――
サルバリシオン城、武器保管庫――。
「……まぁ、200年も放置されていれば、こうなるよな……」
アーノルドは、かつて「白き竜」という二つ名の由来ともなった白銀の鎧を前にしてがっくりと肩を落としていた。
彼が活躍していた当時は眩い輝きを放っていたであろう鎧は、経年劣化によって無残にも黒ずんでおり、内側の鋼鉄は錆によって蝕まれ、触っただけでも崩れ落ちそうになっている。
「調査団が見つけた時には既にこうなってたそうじゃ。ここまで劣化が進むと、魔物娘の技術でも、修繕は不可能じゃろうな……」
アーノルドは側の台に置いていた魔界ジャムの大瓶にちらりと目を向けた。
「変わらないのは、あの味だけなのかもな」
「変わることが全て悪いことだとは限らない」
アーノルドが振り向くいた瞬間、彼の手には一振りの刀剣が握られていた。
「これは……」
魔界銀製の刀剣は軽く振りかざすと、淡い紫色の光を放って、空間に輝きの帯を残していく。
「ヴァレンティナ様からお前を同行させてもよいという許可が出た。目覚めたばかりなのだから、無茶はしないように、とのことだ」
アーノルドに剣を渡したヴェレはそれだけ言うと、保管庫を後にする。
「それなら、儂も一緒に行かせてもらうとするかのう。腕が鳴るわ……!」
コキコキと指を鳴らすナターシャの横で、アーノルドは静かに剣の柄を握りしめた。
―――――――――――――――――――――
翌日。ゴーンブラッド家の屋敷の正門の前には、アーノルドとナターシャ、そしてレヴェが率いる魔界銃士隊の第5部隊の面々が集っていた。
屋敷は随分前に廃墟になったとされていたが、実際に目の当たりにすると廃墟という割にはあまりにも小奇麗な形を保っており、人の手が加わっていることは明らかである。
「作戦開始!」
レヴェの号令と共に屋敷の正門は崩され、庭園にアーノルドたちと銃士隊の魔物娘たちが続々と侵入していく。
「……ナターシャ」
「ああ。気味が悪いのう。儂らの姿は屋敷から見えているはずなのに、妙に静かじゃ」
アーノルドとナターシャの二人が怪訝な顔で話していると、突然屋敷の方から拡声魔法で音量を増幅された男の声が響いてきた。
「嗚呼、我が一族の屋敷へようこそレスカティエの諸君。 私の名はもう知っているだろうが、『ジョセフ=ゴーンブラッド』だ」
「ゴーンブラッド……!」
傲慢さを隠そうともしないその声を耳にしたアーノルドは、唇を噛み締めて屋敷の方を睨みつける。
「実を言うと君たちのことを待っていたんだ。 私の完璧な頭脳によって作り出された芸術品のプロトタイプが、君たち魔物娘にどこまで通用するか確かめたくてね。 さぁ、前方を見たまえ!」
「隊長!地面から何か……!」
「あれは……!」
銃士隊が目にしたのは、成人男性の2倍はありそうな背丈を持つ、鋼鉄で形作られた人形のような物体が、地面に仕込まれていた不可視の魔方陣から、次々と沸いて出てくる姿だった。ヒトでいう心臓に当たる部分には、水色に輝く球体のような物が形成されており、右腕にはサディスティックな形状の大鋏が搭載されている。そして左腕には――。
「『銃』だ!」
1人のサラマンダーの銃士が叫ぶと同時に、機械の兵士に据え付けれた銃の砲口が光り、そこから放たれた光弾が彼女の腹を直撃した。
「攻撃開始!」
レヴェが叫ぶと同時に銃士隊の一斉射撃が始まり、色鮮やかな魔力の光線が機械の兵士の頭部や脚部を破壊していく。
「ゴシンパイナク。ホネマデノコサズヤキツクスノデ、イコツノカイシュウハヒツヨウアリマセン」「ゴーンブラッドノナヲタタエマショウ」「ウゴカナイデクダサイ。ソウスレバラクニシネマス」
しかし機械の兵士たちは体の一部を失ってもなお、感情の無い声を発しながら銃士隊たちに砲撃を浴びせ続ける。
「『機工兵(オートマタ)』だ。古代遺跡から発掘されるような、面白みに欠ける人形共とは訳が違うぞ? 正真正銘の殺人兵器だ」
「壁を作る! お前たち離れるのじゃ!」
ナターシャは咄嗟に雷を纏った魔法の斧――「ランダル」を振りかぶると、渾身の魔力と共に地面に叩きつける。轟音と爆熱、衝撃によって庭園の地面が抉り出され、隆起することで天然の防護壁が作り出された。
「随分物騒な兵器を溜め込んでいたんだな!」
防護壁の陰に隠れたアーノルドが、腹部に火傷を負って苦痛に顔を歪めるサラマンダーの姿を見ながら叫ぶ。
「あれは銃士隊が使っていたものとは違う! 明らかに連中の手によって殺傷兵器に改造されておる!」
機工兵の砲撃が着弾して破裂した防護壁の一部を浴びながら、ナターシャが叫び返す。
「我々の魂を弄り回して、野蛮な武器に変えてしまうとは……許せん!」
レヴェの銃から放たれた光弾が、機工兵の胸にある防護プレートを貫き、その隙間から見えていた水色の球体を破壊する。頭部を失っても進行を続けていた機械の兵士は、その一撃で糸が切れたかのようにその場で崩れ落ちた。
「そうか……胸の部分にあるコアが弱点だ!」
その光景を目にしたアーノルドは防護壁の陰から飛び出すと、機工兵たちの砲撃の隙間を縫うように走り、鞘から魔界銀の剣を抜きだした。
機工兵の両刃の大鋏による斬撃をかがんで躱し、膝の部分に強烈な一撃を喰らわせる。
体勢を崩した機工兵の、防護プレートの隙間に刃を突き入れると、コアの輝きを失った機工兵は動力を失い、ものを言わぬ鉄のガラクタと化した。
「ふん!」
ナターシャが2つの斧を同時に地面に叩きつけると、雷鳴と共に稲光が空間を迸り、漏電によって機工兵たちの動きが封じられる。
態勢を整えた銃士隊がその隙を突いて胸部のコアを撃ち抜き、機工兵たちは甲高い音を発しながら崩れ落ちていった。
「ううむ……やはり魔物娘の軍勢を相手にするには火力不足か……おい、『大砲』の準備を」
「かしこまりました」
屋敷から魔界銃士隊と機工兵たちの戦闘を観察していたゴーンブラッドは、後ろに立つ者にそう言って命令した。
「まさかこんな危険なものを隠し持っていたとは……各自、負傷者の応急処置を! 5分後に突入する!」
1時間もかからずに機工兵の集団を壊滅させた銃士隊は、レヴェの命令の通りに屋敷への突入に備え、銃の整備や負傷者の手当てを行っていた。
ふと屋敷のバルコニーへと顔を向けたレヴェの眼に、妙なものが映った。ゴーンブラッドの私兵らしき人間が、底部が可動式になっている大砲のような兵器を操作している。照準の先に立っているのは、アーノルドとナターシャの2人だ。
「逃げろ、2人共っ!!」
レヴェの叫びに2人が振り向くと同時に、バルコニーの大砲から巨大な光弾が放たれる。
アーノルドが反射的に、ナターシャの小さな体を庇ったその瞬間、大気を震わせるような爆発音が庭園にこだました。
「――――げろ―――げるのじゃ―――――」
意識を取り戻したアーノルドのぼやけた視界に写ったのは、先ほどの砲撃で出来たのだろうクレーターの中から、ナターシャが力の限りレヴェに向かって叫ぶ姿だった。
「――――ティナに――――――伝え――――――」
鼓膜が深刻なダメージを負っているのだろう。ナターシャの声は耳鳴りに妨げられて途切れ途切れにしか聞こえない。
やがて力尽きたナターシャがパタリと意識を失うと、クレーターの外からゴーンブラッドの私兵らしき男たちがのぞき込んできた。
「―――――生きて――――」
「魔物は――――下に―――――男は―――――広間――――急げ―――」
そこまで話していた言葉をどうにか聞き取ったのを最後に、アーノルドの意識はプツリと光を失い、暗い闇の中へと沈んでいった。
――後編へ続く。
「武器庫から奪われた『銃』は合計で35丁にも登ります。盗難を指示した人物の調査は難航しましたが、いましがたようやく本名を特定することが出来ました。『ジョセフ=ゴーンブラッド』です」
「ゴーンブラッド……確かレスカティエ教国の元老院に属していた、貴族の家名だったわね」
「ええ」
ヴァレンティナの言葉にレヴェは静かにうなずく。
「ですが、ノースクリム司祭のような有力者と比べると、かなり地味な存在だったそうです。政争にも積極的には参加していなかったせいか、過去の記録を調べても殆ど名前は出てきません」
レヴェは机の上に、レスカティエ周辺の領地を記した地図を広げた。いくつかの地点に赤いインクでバツ印が付けられている。
「偵察部隊の調査で、奴の潜伏場所をいくつかに絞り込むことが出来ました。しかし、正確な位置となると――」
「ほーんふらっど家のにんへんはそへんのいはんをだいひにする」
レヴェが振り返ると、そこには魔界ジャムの大きな瓶を抱えたアーノルド=クレインが立っていた。
「ごくん……失礼。ここに来る途中で懐かしい香りがしたもので、分けてもらったんだ。ゴーンブラッド家の人間は祖先の遺産を大事にする。目を付けるとしたらそういう場所から探るべきだ」
アーノルドは口元をぬぐうと、机上に広げられた地図に記されたバツ印の1つを指差した。
「そう、ここだ……確かこの地域には、ゴーンブラッド家の財産である大きな屋敷が在ったはず。もし連中が今もこの近くに潜伏してるなら、この屋敷にいる可能性は高いと思う。ヴァレンティナ、『銃』とやらを盗んだ犯人を捕らえる気なら、僕も一緒に連れて行ってくれないか?」
ヴァレンティナが答える前に、レヴェが背中に背負っていた銃をアーノルドの喉元に突き付けた。
「1つ。新参者であるお前を重要な作戦に連れていくリスクは背負えない。2つ。何故ゴーンブラッド家についてそんなに詳しい?」
「よしなさい、レヴェ」
青筋を立ててレヴェのことをにらみつけるナターシャの横で、ヴァレンティナはきっぱりと彼女の行動に釘を刺した。
「僕は当時……元老院の上層部の命令で、ゴーンブラッド家の内情を探っていたんだ。連中はあからさまな権力闘争には関わらなかったが……彼らの周りでは頻繁に人が消えていたからな」
アーノルドは突き付けられた銃を手で軽く押しのけてから再び口を開いた。
「連中が今になって行動を始めたとなると……嫌な予感がする。もし連中がレスカティエに住む人々を傷つけようとしているなら、僕には奴らを止める義務があると思う。ナターシャ、僕が封印されていた遺跡に、白銀の鎧も保管されていなかったか?」
ナターシャはアーノルドの問いにバツの悪そうな表情を見せた。
「ああ、それなんじゃが……」
―――――――――――――――――――
サルバリシオン城、武器保管庫――。
「……まぁ、200年も放置されていれば、こうなるよな……」
アーノルドは、かつて「白き竜」という二つ名の由来ともなった白銀の鎧を前にしてがっくりと肩を落としていた。
彼が活躍していた当時は眩い輝きを放っていたであろう鎧は、経年劣化によって無残にも黒ずんでおり、内側の鋼鉄は錆によって蝕まれ、触っただけでも崩れ落ちそうになっている。
「調査団が見つけた時には既にこうなってたそうじゃ。ここまで劣化が進むと、魔物娘の技術でも、修繕は不可能じゃろうな……」
アーノルドは側の台に置いていた魔界ジャムの大瓶にちらりと目を向けた。
「変わらないのは、あの味だけなのかもな」
「変わることが全て悪いことだとは限らない」
アーノルドが振り向くいた瞬間、彼の手には一振りの刀剣が握られていた。
「これは……」
魔界銀製の刀剣は軽く振りかざすと、淡い紫色の光を放って、空間に輝きの帯を残していく。
「ヴァレンティナ様からお前を同行させてもよいという許可が出た。目覚めたばかりなのだから、無茶はしないように、とのことだ」
アーノルドに剣を渡したヴェレはそれだけ言うと、保管庫を後にする。
「それなら、儂も一緒に行かせてもらうとするかのう。腕が鳴るわ……!」
コキコキと指を鳴らすナターシャの横で、アーノルドは静かに剣の柄を握りしめた。
―――――――――――――――――――――
翌日。ゴーンブラッド家の屋敷の正門の前には、アーノルドとナターシャ、そしてレヴェが率いる魔界銃士隊の第5部隊の面々が集っていた。
屋敷は随分前に廃墟になったとされていたが、実際に目の当たりにすると廃墟という割にはあまりにも小奇麗な形を保っており、人の手が加わっていることは明らかである。
「作戦開始!」
レヴェの号令と共に屋敷の正門は崩され、庭園にアーノルドたちと銃士隊の魔物娘たちが続々と侵入していく。
「……ナターシャ」
「ああ。気味が悪いのう。儂らの姿は屋敷から見えているはずなのに、妙に静かじゃ」
アーノルドとナターシャの二人が怪訝な顔で話していると、突然屋敷の方から拡声魔法で音量を増幅された男の声が響いてきた。
「嗚呼、我が一族の屋敷へようこそレスカティエの諸君。 私の名はもう知っているだろうが、『ジョセフ=ゴーンブラッド』だ」
「ゴーンブラッド……!」
傲慢さを隠そうともしないその声を耳にしたアーノルドは、唇を噛み締めて屋敷の方を睨みつける。
「実を言うと君たちのことを待っていたんだ。 私の完璧な頭脳によって作り出された芸術品のプロトタイプが、君たち魔物娘にどこまで通用するか確かめたくてね。 さぁ、前方を見たまえ!」
「隊長!地面から何か……!」
「あれは……!」
銃士隊が目にしたのは、成人男性の2倍はありそうな背丈を持つ、鋼鉄で形作られた人形のような物体が、地面に仕込まれていた不可視の魔方陣から、次々と沸いて出てくる姿だった。ヒトでいう心臓に当たる部分には、水色に輝く球体のような物が形成されており、右腕にはサディスティックな形状の大鋏が搭載されている。そして左腕には――。
「『銃』だ!」
1人のサラマンダーの銃士が叫ぶと同時に、機械の兵士に据え付けれた銃の砲口が光り、そこから放たれた光弾が彼女の腹を直撃した。
「攻撃開始!」
レヴェが叫ぶと同時に銃士隊の一斉射撃が始まり、色鮮やかな魔力の光線が機械の兵士の頭部や脚部を破壊していく。
「ゴシンパイナク。ホネマデノコサズヤキツクスノデ、イコツノカイシュウハヒツヨウアリマセン」「ゴーンブラッドノナヲタタエマショウ」「ウゴカナイデクダサイ。ソウスレバラクニシネマス」
しかし機械の兵士たちは体の一部を失ってもなお、感情の無い声を発しながら銃士隊たちに砲撃を浴びせ続ける。
「『機工兵(オートマタ)』だ。古代遺跡から発掘されるような、面白みに欠ける人形共とは訳が違うぞ? 正真正銘の殺人兵器だ」
「壁を作る! お前たち離れるのじゃ!」
ナターシャは咄嗟に雷を纏った魔法の斧――「ランダル」を振りかぶると、渾身の魔力と共に地面に叩きつける。轟音と爆熱、衝撃によって庭園の地面が抉り出され、隆起することで天然の防護壁が作り出された。
「随分物騒な兵器を溜め込んでいたんだな!」
防護壁の陰に隠れたアーノルドが、腹部に火傷を負って苦痛に顔を歪めるサラマンダーの姿を見ながら叫ぶ。
「あれは銃士隊が使っていたものとは違う! 明らかに連中の手によって殺傷兵器に改造されておる!」
機工兵の砲撃が着弾して破裂した防護壁の一部を浴びながら、ナターシャが叫び返す。
「我々の魂を弄り回して、野蛮な武器に変えてしまうとは……許せん!」
レヴェの銃から放たれた光弾が、機工兵の胸にある防護プレートを貫き、その隙間から見えていた水色の球体を破壊する。頭部を失っても進行を続けていた機械の兵士は、その一撃で糸が切れたかのようにその場で崩れ落ちた。
「そうか……胸の部分にあるコアが弱点だ!」
その光景を目にしたアーノルドは防護壁の陰から飛び出すと、機工兵たちの砲撃の隙間を縫うように走り、鞘から魔界銀の剣を抜きだした。
機工兵の両刃の大鋏による斬撃をかがんで躱し、膝の部分に強烈な一撃を喰らわせる。
体勢を崩した機工兵の、防護プレートの隙間に刃を突き入れると、コアの輝きを失った機工兵は動力を失い、ものを言わぬ鉄のガラクタと化した。
「ふん!」
ナターシャが2つの斧を同時に地面に叩きつけると、雷鳴と共に稲光が空間を迸り、漏電によって機工兵たちの動きが封じられる。
態勢を整えた銃士隊がその隙を突いて胸部のコアを撃ち抜き、機工兵たちは甲高い音を発しながら崩れ落ちていった。
「ううむ……やはり魔物娘の軍勢を相手にするには火力不足か……おい、『大砲』の準備を」
「かしこまりました」
屋敷から魔界銃士隊と機工兵たちの戦闘を観察していたゴーンブラッドは、後ろに立つ者にそう言って命令した。
「まさかこんな危険なものを隠し持っていたとは……各自、負傷者の応急処置を! 5分後に突入する!」
1時間もかからずに機工兵の集団を壊滅させた銃士隊は、レヴェの命令の通りに屋敷への突入に備え、銃の整備や負傷者の手当てを行っていた。
ふと屋敷のバルコニーへと顔を向けたレヴェの眼に、妙なものが映った。ゴーンブラッドの私兵らしき人間が、底部が可動式になっている大砲のような兵器を操作している。照準の先に立っているのは、アーノルドとナターシャの2人だ。
「逃げろ、2人共っ!!」
レヴェの叫びに2人が振り向くと同時に、バルコニーの大砲から巨大な光弾が放たれる。
アーノルドが反射的に、ナターシャの小さな体を庇ったその瞬間、大気を震わせるような爆発音が庭園にこだました。
「――――げろ―――げるのじゃ―――――」
意識を取り戻したアーノルドのぼやけた視界に写ったのは、先ほどの砲撃で出来たのだろうクレーターの中から、ナターシャが力の限りレヴェに向かって叫ぶ姿だった。
「――――ティナに――――――伝え――――――」
鼓膜が深刻なダメージを負っているのだろう。ナターシャの声は耳鳴りに妨げられて途切れ途切れにしか聞こえない。
やがて力尽きたナターシャがパタリと意識を失うと、クレーターの外からゴーンブラッドの私兵らしき男たちがのぞき込んできた。
「―――――生きて――――」
「魔物は――――下に―――――男は―――――広間――――急げ―――」
そこまで話していた言葉をどうにか聞き取ったのを最後に、アーノルドの意識はプツリと光を失い、暗い闇の中へと沈んでいった。
――後編へ続く。
18/04/16 22:15更新 / SHAR!P
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