叶わぬ恋のmilky way
「・・・・ふぅ、これで終わりっと♪」
明かりの少ない職員室で名簿や教材リストの全てにチェックを入れていたアラクネの女性「ラニィ」は、その仕事を全て終えてだらしなく背伸びをしていた。
彼女以外にこの部屋には誰も居ない。
別に休んでいるとかではなく、ただ単に彼女が夜の遅くまでがんばっていただけの事。
その彼女の顔は、疲れを吹き飛ばすかのように笑みが零れていた。
「(明日が楽しみだなぁ♪)」
彼女が翌日を楽しみにしている理由。
それは、彼女の思い人に関するものだった。
翌日の授業欄の所には、「一時間目:教授招待による植物の徹底的な勉強@講師はラニィ先生とリーフ教授にて行う。」と書いてあった。
―――――――――――――――――
そしてあっという間に翌日が訪れた。
彼女の家で存在感をそれなりに見せつけている大きめの日めくりカレンダーには、七月七日と書かれていた。
世間は七夕で盛り上がっている事だろう。
数日前から、何通かラニィの家にも招待状が送られていたのだ。
それも、送り主は皆、ラニィが昔教えていた生徒たちばかり。
周りの掲示板は七夕の事で一色になっている。
そんな光景を見ることも無く、ラニィはリーフへの思いばかりを募らせて学校へと急いだ。
―――――――――
「今日はリーフと一緒に・・・フフフッ♪」
「えっ?僕がどうかしたって?」
「うんうん!今日はリーフと一緒に・・・って、リーフッ?!」
興奮に胸を躍らせながら職員室へと向かっていたラニィは、横を歩いているリーフに気が付きもしなかった。
リーフが声を掛けてやっとその存在に気付いたラニィは、先程までリーフの事で頭がいっぱいになっていた自分を隠す様に慌てて視線をそらす。
「・・・僕ってそんなに影薄いのかなぁ・・」
「そ、そんなことないわよっ?!リーフはひといひびゃ・・っぅ・・」
ラニィに気付いて貰えなかったリーフは自分の影が薄いと1人で思いこんでしまってすこし俯く。
それを慌てて慰める様に、ラニィはリーフの顔を覗き込んで必死にリーフの事を褒めようとした。
だが、それを邪魔するかのように自分の舌を噛んでしまい、その痛みの所為で者bることも出来なくなってしまう。
「ははっ!ラニィ、お久しぶり♪」
「り・・・・リーフ・・・」
なんだか良い雰囲気になって来たが、それも束の間だろう。
あっという間に職員室へは着いてしまったのだから。
無情に過ぎる楽しい時間を悔しく思いながら、ラニィは扉を開けてリーフと別れる。
と言っても、直ぐに隣の校長室から出てきてすぐに彼の紹介が始まるが。
――――――――
すぐに職員たちと馴染みになっていたリーフは、もう少しで始まる一時間目のプリントの整理をしていた。
「うわぁ、リーフさん・・・整理早いですね〜・・・」
「ホントホント。どうすればそんなに早く出来るの〜?」
「今度アタシにも教えて〜?」
リーフの両隣 向かいの席の女性教師(右:ワーラビット 向かい:ワーウルフ 左:ワーバット)がリーフに殺到した。
皆の言っているリーフの手際の良さは、リーフが学者をしているという点を考えれば簡単に想像は着く。
まぁ、科学者とかは助手に整理や引き出しを頼むものだろうが、リーフはよほどの事が無ければ助手であり妻でもあるネルを呼んだりはしない。
ネルが「もう少し助手のお手伝いしたい」とお願いしてくるほど、リーフは何でも一人でできてしまうのだ。
「えっ?これくらい簡単ですよ?」
「その簡単が出来ない私たちって一体・・」
「わわぁっ!メーラ、気をしっかり!!」
「リーフさん・・・ちょっといいですか・・?」
リーフの一言で自分が無能だと勘違いしてしまったメーラと呼ばれたワーラビット。
それを慰めるように傍に駆け寄るワーウルフ。
その二人をまるで計画的に引かせることに成功して、かすかな笑みを浮かべながらリーフの傍にすり寄るワーバット。
「えぇと・・・・一目ぼれって言うんでしょうか・・・その・・・付き合ってくれませんか?」
「いや、僕には妻がいるし・・・あっ!買い物に付き合ってとかだった?それだったらいいけど・・」
顔を真っ赤にしながら告白をした彼女だが、リーフの一言で玉砕される。
なんだか背景に大きなゴシック文字で「ガーーーン!」と文字のアーチが掛かっていそうで面白い。
その幾つか向こうの席でとっくに整理を終えたラニィは、その様子を見て何故かガッツポーズ。
更には、周りの女性教師数人も、ハラハラしていた胸を安心して撫で下ろしている。
そんなにスリルのあったワンシーンだっただろうか。
「あ〜・・・え〜・・リーフ?」
「ん?ラニィ?どうしたの?」
「えっ!?リーフさんと・・ラニィ先生って・・」
『うん、(リーフ:昔の学友)(ラニィ:好きな人)』
「ん?ラニィさん、今なんて・・?」
「な・・なんでもないなんでもない・・・アハハ・・・」
そんな会話ややりとりが続くなかで、時間は過ぎて行く。
こんな賑やかな職員室があるのなら、見て見たいものだ。
教師が、仕事に追われるのではなく仕事を済ませて大いに笑い合っている。
そんな微笑ましい光景は、いつの間にか過ぎていた時間によって中断されてしまう。
――――――――
「せんせ〜おそ〜い!」
「ソーダソーダ!」
「ごめんね、ちょっと遅れちゃった〜!」
自分の教室に慌てて入ったラニィは、予想通り子供たちからの不満を浴びた。
飾ってある日時計を見て見ると、微妙に影が規定の線を越えている。
日時計でズレが分かるほどなのだから、相当時間を食っているようだった。
子供たちは暇そうにしていて、数名はポカポカ陽気にあてられて昼寝をしてしまっている。
いびきが入り口のラニィにまで聞こえて来て、ラニィはすぐにその生徒を起こす。
「こらぁ!起きなさい!」
「いだだだだっ!」
「ハハハハッ!バッカで〜い!」
なんとも和やかなクラスだ。
そうリーフは心の中で思っていた。
その様子を見ていたのがばれたのか、教室の奥で静かに教科書を読んでいた魔物(多分ナイトメア)が小さく「あっ・・・・」と声を上げ、それを合図に皆が一斉にリーフに視線を浴びせかけて行く。
「っと!紹介するね?今日から一週間、植物の授業でお世話になる・・」
「わぁぁっ!新しいせんせ〜だ〜!」
「なんて名前なの〜?!」
「趣味は〜?」「特技は〜?」「アッチの方は〜?」
ラニィがリーフを紹介しようとした矢先、生徒たちが一斉にリーフを取り巻いてしまう。
リーフの半分ほどしかないような子供達だが、見た目は皆魔物や人間の少女。
その顔には、幼いならではの純粋さしか無い・・・と思っていた。
「こら!フィアちゃん!なんてコト聞いてるのっ!?」
「えへへ〜♪」
ラニィがフィアと呼んだ少女。
彼女は、先程の質問攻めの中でただ一人だけ、えっちぃ質問をしてきた子である。
頭の角はまだ未成熟なのか、尖っても無いしまだまだ小さい。
尻尾もまだまだ短く、翼は畳んでいるようなので分からないが、時折ピクピクと動いて可愛げがある。
そんな彼女だが、実際どれだけの知識を得て来たのやら。
「それにっ!リーフ先生に失礼でしょ!?」
「ん〜?ラニィ先生って、もしかしてリーフ先生の事好きなの〜?」
「えっ!?せんせ〜この人の事好きなのっ!?」
「うん・・・・うん・・・何処にも悪い所なんかない。私も好きになっちゃいそ〜・・」
「ねぇ!貰って良い?!貰っちゃっていい?!」
なんだか、話の方向性がかなり大人向けな方向にねじ曲がってしまった。
それにしても、皆魔物娘なだけの事はある。
エッチな知識については、一般常識よりも早く覚えているらしい。
まぁ、産まれて間もないころから親の喘ぎ声を聞く事が日常茶飯事なこのご時世ならばしょうがないと言えばそこまで。
だが、こんな幼い子供がこんな言葉を使って良いものだろうか。
そんな考えを巡らせながらも、リーフは子供の卑猥な笑みから視線を逸らすことしかできなかった。
「・・・・・先生?授業始めないの・・・?」
「あぁ、そうだったわね!ありがとう、メーアちゃん♪」
先程から教科書を読んでいたナイトメアの少女が、ラニィ達に小さな声で注意を促す。
それまでワイワイと盛りあがっていた子供たちも、彼女の言っている事が正しいとさすがに分かっている為、そのまま続行しようという気にならず、自分の席へ戻っていく。
メーアと呼ばれた少女は、それからまた教科書に顔を伏せるが、その隣にラニィが行くとその頭を優しく撫でてやる。
それだけで、教科書から覗く彼女の頬が真っ赤になっているようにリーフには見えた。
「さぁ!始めるわよ〜?」
「あぁ、うん・・ぐはっ!」
入り口で突っ立つ形になっていたリーフがやっと教室へ入ろうとしたその時、ここの教室のかけ札がリーフの頭上に落ちて来た。
「5-2」の数字を書いたその板がリーフの頭上を直撃して、痛みのあまりにしゃがみこんだリーフの後ろでは、一人の小人らしき女の子がケタケタと高らかに笑っていた。
どうやら隣のクラスは運動系の授業でもするのか、彼女は動き易い服装をしている。
空を飛べるのに運動する必要があるのだろうか。
そんな事を考えていると、ここのクラスの女子(9割以上が魔物娘)が一斉に先程のピクシーらしき少女に攻撃を仕掛けていく。
ゴブリンらしき少女は持っていた筆箱を投げ。
フェアリーらしき少女は、そのピクシーと同じように立て札を投げつけ。
しかし、そんな少女達の中でもメーアとフィアは一層激しかった。
「くぉらぁぁっ!先生になにしてんのよアンタは〜!」
鬼の形相(のつもり)で怒っているフィアは、腰の短い尻尾を使ってピクシーの少女をなんとか串刺しにしようと執拗に突きを繰り返す。
それをことごとく避けるピクシーの表情は、もう遊んでいるようにしか見えなかった。
「・・・・・跪いて・・・」
静かに、しかし何処からともなく怒りが漏れ出しているメーアは、これまたどこから出したのか大きな鎌を取り出す。
それをそのままピクシーめがけて振り下ろすと、真空刃の様な風がピクシーに襲い掛かる。
しかしそれも華麗に避けた彼女は、遊び疲れたのか焦燥し切った顔でその場をフヨフヨと飛んで行ってしまう。
なにはともあれ、子供の軽い悪戯だと思いたかったリーフは、そのまま立ちあがろうとしてあることに気が付く。
「・・・あれ?」
気が付けば、リーフの膝には一枚の手紙が置かれていた。
開いて中身を呼んでみると、そこには簡単にこう書かれていた。
さっきはごめん。 ピリヤ
その一文だけなら、言った方が早いだろうに。
しかし、これも彼女なりの謝り方なのだろうとリーフは考えて、そして授業が進んでいった。
―――――――――
「それじゃ!時間も来た事だし、授業は終了ね?」
「また明日も来るんでしょ〜?」
「ね〜、せんせ〜。あそぼ〜?」
「ゴメンね?僕、まだ仕事残って・・」
とりあえずは子供たちから離れようとしたリーフだったが、あっという間に囲まれてしまって逃げ道を塞がれた。
気が付けばリーフの腰には、フィアが抱きついてニヤニヤと笑って可愛らしい。
円陣になっているリーフのいる場所から少し離れた場所では、メーアがなんだか羨ましそうにこちらを忙しなくチラチラ見ている。
その奥ではラニィもモジモジとしている。
「いや・・・そのぉ・・・」
「あっ!リーフ先生・・」
リーフが子供たちに翻弄されていると、同じように授業を終えたらしいワーラビットのメーラ先生がやってきた。
彼女は、胸に手を当てながら何かを握りしめている様子。
「あ・・あのっ!今日のお祭り、一緒に行きませんかっ!?」
『えっ?』
彼女の一言に、リーフとラニィは声を揃えていた。
リーフは、お祭りに誘われたのに対して驚き、ラニィは、自分も全く同じ誘いをしようとしていた事に悔しさを募らせていた。
メーラ先生の家が、ラニィの家の近所だと言う事は、お互いに分かっている。
だが、まさかリーフをお祭りに誘うとは微塵も思っていない。
「別に・・」
「リーフ!私とお祭り周りましょうよ!」
「それじゃアタシも〜♪」
「私も〜♪」
別に何の予定も入って無かったリーフは、快くOKしようとしたがラニィにそれを阻まれ、さらには強制的にラニィと一緒にお祭りを回る事になってしまった。
見れば周りの女の子たちも一緒に行きたがっている様子で、手に負えない。
だが、リーフもそこは男だ。
何か一つに絞らなければいけない。
そう思っていたのは、困ってから3秒だけだった。
「それじゃ、皆で行きませんか?」
これが、勇気も何もない、単なる鈍感さと朴念仁が招いた結果だった。
が、その結果はこの場の女性全員を大いに盛り上げることに繋がっていく。
まず最初に、ラニィが「それなら・・・」と、ツンデレ気味に視線を向けてくる。
それを真似るかのように、数人の生徒も視線をチラチラとさせ、何かクスクス笑う。
良く見れば、メーアが可愛らしくガッツポーズを決めている姿が見えた。
どうやらそんなに嬉しいらしい。
―――――――――――
そこから、授業も終わって用意を済ませて祭りの場に付くまで、皆そうは時間がかからなかった。
因みに、一番乗りはラニィ。
「・・・・まだかなぁ・・」
「もしかして、リーフ先生逆ナンされて・・」
しきりに辺りを見回すラニィ。
その傍には、いつのまにか合流していたフィアも一緒にいる。
祭りなだけの事はあり、ウジャウジャと人がいる。
それこそ、道端でヤり始めてもばれないかもしれないほどに。
「・・・ちょっと私、リーフ探してくる。」
「ちょっ!先生?!」
心のどこかで胸騒ぎがしていたラニィは、待つに待ち切れずその場を飛び出して行く。
1人取り残されたフィアだったが、直ぐに仲の良いクラスメイト達と合流して何処かへ行ってしまった。
「はぁ・・はぁ・・」
蜘蛛の足を忙しく動かしながら、ラニィは全速力で走っていた。
リーフの身に何かがあったのかもしれない。
そんな心配を胸に、ラニィはとにかく走り続けた。
今この瞬間までは。
「あれ?ラニィ?」
「ラニィさん?」
「あぁ!ラニィさんだ〜♪」
対向側からやって来た3人。
その顔にラニィは見覚えがあった。
まず、アルラウネで隣の人の奥さんであるネル。
その足元に居るのが、その娘のチコ。
そして、ラニィが何よりも誰よりも思っていた男性、リーフである。
「リーフ・・・大丈夫だった?」
「えっ?なんで?」
「あ〜、もしかして、無駄な心配とかしてました〜?」
リーフの無事を素直に喜んでいたラニィ。
その彼女のリアクションに、リーフは戸惑ってしまう。
ラニィの心境を読んだかのように、ネルはラニィに耳打ちをしてくる。
その話が、長引くにつれてラニィの顔は次第に真っ赤になって行った。
「・・と、言う訳で、改めてラニィさんも加えて、お祭りへれっつご〜!」
『お〜っ♪』
パーティーにラニィがくわわった!
そんなこんなで祭りを行っている場所に到着したリーフ一行は、お祭りを存分に楽しんでいく。
fin
明かりの少ない職員室で名簿や教材リストの全てにチェックを入れていたアラクネの女性「ラニィ」は、その仕事を全て終えてだらしなく背伸びをしていた。
彼女以外にこの部屋には誰も居ない。
別に休んでいるとかではなく、ただ単に彼女が夜の遅くまでがんばっていただけの事。
その彼女の顔は、疲れを吹き飛ばすかのように笑みが零れていた。
「(明日が楽しみだなぁ♪)」
彼女が翌日を楽しみにしている理由。
それは、彼女の思い人に関するものだった。
翌日の授業欄の所には、「一時間目:教授招待による植物の徹底的な勉強@講師はラニィ先生とリーフ教授にて行う。」と書いてあった。
―――――――――――――――――
そしてあっという間に翌日が訪れた。
彼女の家で存在感をそれなりに見せつけている大きめの日めくりカレンダーには、七月七日と書かれていた。
世間は七夕で盛り上がっている事だろう。
数日前から、何通かラニィの家にも招待状が送られていたのだ。
それも、送り主は皆、ラニィが昔教えていた生徒たちばかり。
周りの掲示板は七夕の事で一色になっている。
そんな光景を見ることも無く、ラニィはリーフへの思いばかりを募らせて学校へと急いだ。
―――――――――
「今日はリーフと一緒に・・・フフフッ♪」
「えっ?僕がどうかしたって?」
「うんうん!今日はリーフと一緒に・・・って、リーフッ?!」
興奮に胸を躍らせながら職員室へと向かっていたラニィは、横を歩いているリーフに気が付きもしなかった。
リーフが声を掛けてやっとその存在に気付いたラニィは、先程までリーフの事で頭がいっぱいになっていた自分を隠す様に慌てて視線をそらす。
「・・・僕ってそんなに影薄いのかなぁ・・」
「そ、そんなことないわよっ?!リーフはひといひびゃ・・っぅ・・」
ラニィに気付いて貰えなかったリーフは自分の影が薄いと1人で思いこんでしまってすこし俯く。
それを慌てて慰める様に、ラニィはリーフの顔を覗き込んで必死にリーフの事を褒めようとした。
だが、それを邪魔するかのように自分の舌を噛んでしまい、その痛みの所為で者bることも出来なくなってしまう。
「ははっ!ラニィ、お久しぶり♪」
「り・・・・リーフ・・・」
なんだか良い雰囲気になって来たが、それも束の間だろう。
あっという間に職員室へは着いてしまったのだから。
無情に過ぎる楽しい時間を悔しく思いながら、ラニィは扉を開けてリーフと別れる。
と言っても、直ぐに隣の校長室から出てきてすぐに彼の紹介が始まるが。
――――――――
すぐに職員たちと馴染みになっていたリーフは、もう少しで始まる一時間目のプリントの整理をしていた。
「うわぁ、リーフさん・・・整理早いですね〜・・・」
「ホントホント。どうすればそんなに早く出来るの〜?」
「今度アタシにも教えて〜?」
リーフの両隣 向かいの席の女性教師(右:ワーラビット 向かい:ワーウルフ 左:ワーバット)がリーフに殺到した。
皆の言っているリーフの手際の良さは、リーフが学者をしているという点を考えれば簡単に想像は着く。
まぁ、科学者とかは助手に整理や引き出しを頼むものだろうが、リーフはよほどの事が無ければ助手であり妻でもあるネルを呼んだりはしない。
ネルが「もう少し助手のお手伝いしたい」とお願いしてくるほど、リーフは何でも一人でできてしまうのだ。
「えっ?これくらい簡単ですよ?」
「その簡単が出来ない私たちって一体・・」
「わわぁっ!メーラ、気をしっかり!!」
「リーフさん・・・ちょっといいですか・・?」
リーフの一言で自分が無能だと勘違いしてしまったメーラと呼ばれたワーラビット。
それを慰めるように傍に駆け寄るワーウルフ。
その二人をまるで計画的に引かせることに成功して、かすかな笑みを浮かべながらリーフの傍にすり寄るワーバット。
「えぇと・・・・一目ぼれって言うんでしょうか・・・その・・・付き合ってくれませんか?」
「いや、僕には妻がいるし・・・あっ!買い物に付き合ってとかだった?それだったらいいけど・・」
顔を真っ赤にしながら告白をした彼女だが、リーフの一言で玉砕される。
なんだか背景に大きなゴシック文字で「ガーーーン!」と文字のアーチが掛かっていそうで面白い。
その幾つか向こうの席でとっくに整理を終えたラニィは、その様子を見て何故かガッツポーズ。
更には、周りの女性教師数人も、ハラハラしていた胸を安心して撫で下ろしている。
そんなにスリルのあったワンシーンだっただろうか。
「あ〜・・・え〜・・リーフ?」
「ん?ラニィ?どうしたの?」
「えっ!?リーフさんと・・ラニィ先生って・・」
『うん、(リーフ:昔の学友)(ラニィ:好きな人)』
「ん?ラニィさん、今なんて・・?」
「な・・なんでもないなんでもない・・・アハハ・・・」
そんな会話ややりとりが続くなかで、時間は過ぎて行く。
こんな賑やかな職員室があるのなら、見て見たいものだ。
教師が、仕事に追われるのではなく仕事を済ませて大いに笑い合っている。
そんな微笑ましい光景は、いつの間にか過ぎていた時間によって中断されてしまう。
――――――――
「せんせ〜おそ〜い!」
「ソーダソーダ!」
「ごめんね、ちょっと遅れちゃった〜!」
自分の教室に慌てて入ったラニィは、予想通り子供たちからの不満を浴びた。
飾ってある日時計を見て見ると、微妙に影が規定の線を越えている。
日時計でズレが分かるほどなのだから、相当時間を食っているようだった。
子供たちは暇そうにしていて、数名はポカポカ陽気にあてられて昼寝をしてしまっている。
いびきが入り口のラニィにまで聞こえて来て、ラニィはすぐにその生徒を起こす。
「こらぁ!起きなさい!」
「いだだだだっ!」
「ハハハハッ!バッカで〜い!」
なんとも和やかなクラスだ。
そうリーフは心の中で思っていた。
その様子を見ていたのがばれたのか、教室の奥で静かに教科書を読んでいた魔物(多分ナイトメア)が小さく「あっ・・・・」と声を上げ、それを合図に皆が一斉にリーフに視線を浴びせかけて行く。
「っと!紹介するね?今日から一週間、植物の授業でお世話になる・・」
「わぁぁっ!新しいせんせ〜だ〜!」
「なんて名前なの〜?!」
「趣味は〜?」「特技は〜?」「アッチの方は〜?」
ラニィがリーフを紹介しようとした矢先、生徒たちが一斉にリーフを取り巻いてしまう。
リーフの半分ほどしかないような子供達だが、見た目は皆魔物や人間の少女。
その顔には、幼いならではの純粋さしか無い・・・と思っていた。
「こら!フィアちゃん!なんてコト聞いてるのっ!?」
「えへへ〜♪」
ラニィがフィアと呼んだ少女。
彼女は、先程の質問攻めの中でただ一人だけ、えっちぃ質問をしてきた子である。
頭の角はまだ未成熟なのか、尖っても無いしまだまだ小さい。
尻尾もまだまだ短く、翼は畳んでいるようなので分からないが、時折ピクピクと動いて可愛げがある。
そんな彼女だが、実際どれだけの知識を得て来たのやら。
「それにっ!リーフ先生に失礼でしょ!?」
「ん〜?ラニィ先生って、もしかしてリーフ先生の事好きなの〜?」
「えっ!?せんせ〜この人の事好きなのっ!?」
「うん・・・・うん・・・何処にも悪い所なんかない。私も好きになっちゃいそ〜・・」
「ねぇ!貰って良い?!貰っちゃっていい?!」
なんだか、話の方向性がかなり大人向けな方向にねじ曲がってしまった。
それにしても、皆魔物娘なだけの事はある。
エッチな知識については、一般常識よりも早く覚えているらしい。
まぁ、産まれて間もないころから親の喘ぎ声を聞く事が日常茶飯事なこのご時世ならばしょうがないと言えばそこまで。
だが、こんな幼い子供がこんな言葉を使って良いものだろうか。
そんな考えを巡らせながらも、リーフは子供の卑猥な笑みから視線を逸らすことしかできなかった。
「・・・・・先生?授業始めないの・・・?」
「あぁ、そうだったわね!ありがとう、メーアちゃん♪」
先程から教科書を読んでいたナイトメアの少女が、ラニィ達に小さな声で注意を促す。
それまでワイワイと盛りあがっていた子供たちも、彼女の言っている事が正しいとさすがに分かっている為、そのまま続行しようという気にならず、自分の席へ戻っていく。
メーアと呼ばれた少女は、それからまた教科書に顔を伏せるが、その隣にラニィが行くとその頭を優しく撫でてやる。
それだけで、教科書から覗く彼女の頬が真っ赤になっているようにリーフには見えた。
「さぁ!始めるわよ〜?」
「あぁ、うん・・ぐはっ!」
入り口で突っ立つ形になっていたリーフがやっと教室へ入ろうとしたその時、ここの教室のかけ札がリーフの頭上に落ちて来た。
「5-2」の数字を書いたその板がリーフの頭上を直撃して、痛みのあまりにしゃがみこんだリーフの後ろでは、一人の小人らしき女の子がケタケタと高らかに笑っていた。
どうやら隣のクラスは運動系の授業でもするのか、彼女は動き易い服装をしている。
空を飛べるのに運動する必要があるのだろうか。
そんな事を考えていると、ここのクラスの女子(9割以上が魔物娘)が一斉に先程のピクシーらしき少女に攻撃を仕掛けていく。
ゴブリンらしき少女は持っていた筆箱を投げ。
フェアリーらしき少女は、そのピクシーと同じように立て札を投げつけ。
しかし、そんな少女達の中でもメーアとフィアは一層激しかった。
「くぉらぁぁっ!先生になにしてんのよアンタは〜!」
鬼の形相(のつもり)で怒っているフィアは、腰の短い尻尾を使ってピクシーの少女をなんとか串刺しにしようと執拗に突きを繰り返す。
それをことごとく避けるピクシーの表情は、もう遊んでいるようにしか見えなかった。
「・・・・・跪いて・・・」
静かに、しかし何処からともなく怒りが漏れ出しているメーアは、これまたどこから出したのか大きな鎌を取り出す。
それをそのままピクシーめがけて振り下ろすと、真空刃の様な風がピクシーに襲い掛かる。
しかしそれも華麗に避けた彼女は、遊び疲れたのか焦燥し切った顔でその場をフヨフヨと飛んで行ってしまう。
なにはともあれ、子供の軽い悪戯だと思いたかったリーフは、そのまま立ちあがろうとしてあることに気が付く。
「・・・あれ?」
気が付けば、リーフの膝には一枚の手紙が置かれていた。
開いて中身を呼んでみると、そこには簡単にこう書かれていた。
さっきはごめん。 ピリヤ
その一文だけなら、言った方が早いだろうに。
しかし、これも彼女なりの謝り方なのだろうとリーフは考えて、そして授業が進んでいった。
―――――――――
「それじゃ!時間も来た事だし、授業は終了ね?」
「また明日も来るんでしょ〜?」
「ね〜、せんせ〜。あそぼ〜?」
「ゴメンね?僕、まだ仕事残って・・」
とりあえずは子供たちから離れようとしたリーフだったが、あっという間に囲まれてしまって逃げ道を塞がれた。
気が付けばリーフの腰には、フィアが抱きついてニヤニヤと笑って可愛らしい。
円陣になっているリーフのいる場所から少し離れた場所では、メーアがなんだか羨ましそうにこちらを忙しなくチラチラ見ている。
その奥ではラニィもモジモジとしている。
「いや・・・そのぉ・・・」
「あっ!リーフ先生・・」
リーフが子供たちに翻弄されていると、同じように授業を終えたらしいワーラビットのメーラ先生がやってきた。
彼女は、胸に手を当てながら何かを握りしめている様子。
「あ・・あのっ!今日のお祭り、一緒に行きませんかっ!?」
『えっ?』
彼女の一言に、リーフとラニィは声を揃えていた。
リーフは、お祭りに誘われたのに対して驚き、ラニィは、自分も全く同じ誘いをしようとしていた事に悔しさを募らせていた。
メーラ先生の家が、ラニィの家の近所だと言う事は、お互いに分かっている。
だが、まさかリーフをお祭りに誘うとは微塵も思っていない。
「別に・・」
「リーフ!私とお祭り周りましょうよ!」
「それじゃアタシも〜♪」
「私も〜♪」
別に何の予定も入って無かったリーフは、快くOKしようとしたがラニィにそれを阻まれ、さらには強制的にラニィと一緒にお祭りを回る事になってしまった。
見れば周りの女の子たちも一緒に行きたがっている様子で、手に負えない。
だが、リーフもそこは男だ。
何か一つに絞らなければいけない。
そう思っていたのは、困ってから3秒だけだった。
「それじゃ、皆で行きませんか?」
これが、勇気も何もない、単なる鈍感さと朴念仁が招いた結果だった。
が、その結果はこの場の女性全員を大いに盛り上げることに繋がっていく。
まず最初に、ラニィが「それなら・・・」と、ツンデレ気味に視線を向けてくる。
それを真似るかのように、数人の生徒も視線をチラチラとさせ、何かクスクス笑う。
良く見れば、メーアが可愛らしくガッツポーズを決めている姿が見えた。
どうやらそんなに嬉しいらしい。
―――――――――――
そこから、授業も終わって用意を済ませて祭りの場に付くまで、皆そうは時間がかからなかった。
因みに、一番乗りはラニィ。
「・・・・まだかなぁ・・」
「もしかして、リーフ先生逆ナンされて・・」
しきりに辺りを見回すラニィ。
その傍には、いつのまにか合流していたフィアも一緒にいる。
祭りなだけの事はあり、ウジャウジャと人がいる。
それこそ、道端でヤり始めてもばれないかもしれないほどに。
「・・・ちょっと私、リーフ探してくる。」
「ちょっ!先生?!」
心のどこかで胸騒ぎがしていたラニィは、待つに待ち切れずその場を飛び出して行く。
1人取り残されたフィアだったが、直ぐに仲の良いクラスメイト達と合流して何処かへ行ってしまった。
「はぁ・・はぁ・・」
蜘蛛の足を忙しく動かしながら、ラニィは全速力で走っていた。
リーフの身に何かがあったのかもしれない。
そんな心配を胸に、ラニィはとにかく走り続けた。
今この瞬間までは。
「あれ?ラニィ?」
「ラニィさん?」
「あぁ!ラニィさんだ〜♪」
対向側からやって来た3人。
その顔にラニィは見覚えがあった。
まず、アルラウネで隣の人の奥さんであるネル。
その足元に居るのが、その娘のチコ。
そして、ラニィが何よりも誰よりも思っていた男性、リーフである。
「リーフ・・・大丈夫だった?」
「えっ?なんで?」
「あ〜、もしかして、無駄な心配とかしてました〜?」
リーフの無事を素直に喜んでいたラニィ。
その彼女のリアクションに、リーフは戸惑ってしまう。
ラニィの心境を読んだかのように、ネルはラニィに耳打ちをしてくる。
その話が、長引くにつれてラニィの顔は次第に真っ赤になって行った。
「・・と、言う訳で、改めてラニィさんも加えて、お祭りへれっつご〜!」
『お〜っ♪』
パーティーにラニィがくわわった!
そんなこんなで祭りを行っている場所に到着したリーフ一行は、お祭りを存分に楽しんでいく。
fin
11/07/12 20:58更新 / 兎と兎