読切小説
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「あなたは、私が好きですか?」
ここは、寂れた村の小さな診療所。
ここに一人のインプが入院している。
因みに俺はこのインプの従兄弟で「トム・レイシア」と言う。
全く、伯父さんもとんだ物好きな人だ。
わざわざ婚約を破棄してまでインプと結ばれるなんて。
そしてその伯父の弟である親父とお袋からは俺が、あの伯父とインプからはこの「リン・フェント」が生まれた訳だ。

「おにいちゃん・・・・また来たの・・?」
「・・・よっ。」
このリンは、生まれつき身体が弱く、産まれて二年でガンを患った。
俺からしてみれば従姉妹が病気になっただけだと片付けることも出来るのだが、それをしたくない理由が俺にはある。

「今日ね?お兄ちゃんの為に・・・これ、作ったんだよ?」
「・・・人形か?俺の。」
リンが枕の裏から取り出したのは、まだ糸が切り終わっていない自分に似せたフェルト人形だった。目がボタンで出来ていたり、髪の毛を毛糸で閉じてそれっぽく見せているのは流石の出来だとほめてやりたい。

「貰って良いのか?これ。」
「うん!おにいちゃんの為に作ったんだもん。あげる♪大事にしてね?」
笑顔が可愛いのは母親譲りだな。
それにしても、最近リンの顔色の調子が優れて居ないらしい。
主治医から聞くには「持って後半月」だそうだ。
それほど会う事も無かったし、愛し合うほど仲が良い訳でも無い。
俺からすれば重くはあるが無視できる範囲だと思っていた。

「えっとね?お兄ちゃん・・・明日も・・来てくれる・・?」
「おう。いつでも来てやるよ。可愛い従姉妹の為だもんな。」
思えば、あの時の俺は余りにも人を見る目を腐らせていたんだろうな。
だって、こんな悲しい事実、あのまま受け止めて居たら多分俺も心中していただろうしな。

「・・・脈拍25、危険です!先生!」
「頼む!戻ってくれ・・・」
「諦めない!電気マッサージ!」
「はいっ!行けます!」
「ふんっ!」
一つの病室内に複数人の医者たちの声が響き渡っている。
その中心の台には、リンがぐったりとして倒れていた。

その理由を話して行こう。

〜三時間前・病院内裏庭〜

「お兄ちゃん・・・その花選び、間違ってるよ?」
「えっ?薔薇じゃだめだったか?」
俺は、本当に何度も病院へ通い詰めていた。
大学の抗議が終わればいつも病院へ出向きリンに見舞いに行く。
途中、何度もサキュバスらしいナースさんにナンパさせられるが俺はめげない。
従姉妹を見舞いに来てインキュバスなんかにされてたまるか。

「でも・・・嬉しいよ・・」
「お・・・おぅ。」
まだ小学3年生だと言うのにコイツは、恋愛でも覚えようとしているのか?
全くけしからん。実にけしからん。
俺は何を動揺しているんだろう。これじゃ、まるでリンの事が好き見たいじゃないか。

「おにいちゃん・・・」
「んっ?なんだ?」
「キス・・・して・・?」
いきなりのリンからの要望に、俺は多分慌てふためいて変な顔になっていたに違いない。
でも、それから俺とリンは悪戯心からキスをしてしまった。思えば、この時には既に相思相愛だったのかもしれないな。
でも、そんな甘い愛情は神様が嫉妬したんだろうな。

「プハッ・・・おにいちゃん・・・っ?!」
「リン・・・・?リン?・・・リン!?」
思えば、この時焦ってパニックを起こさなければリンは一命を取り留めて居たかも知れない。
周りの人たちも、足を折っていたり翼が捥がれていたりで動けそうにないと分かっていたら、自分は動かずに助けを求めるなんてことはしなかっただろう。
そうだ。おれが助けを呼べば良かったんだ。俺が。

「だ・・誰か!医者を!誰か!」
「おいっ!人が倒れ・・ゲホッ・・カハッ・・」
「お〜いっ!医者呼んで来い!医者!人が倒れたんだよっ!医者呼んで来いって!」
このやり取りよりも、俺は走って医者を呼びに行く方が早かったんだろう。なのに、俺は何も出来なかった。
その間にも俺の腕の中に居たリンは苦しそうに悶えている。
何処かが痛いにしてもこれは異常だろう。
要因は直ぐに分かった。コイツはガンを患っている。それが悪化したんだろう。それは直ぐに分かった筈なのに。
やっぱり、勤勉な奴ほど単純なミスを犯すんだよな。こんな凡ミスとかさ。

「この子ね?倒れたのは。トム君離して。リンちゃん緊急治療室に連れて行くから。」
「フェンさん・・・」
「いいからっ!先生!緊急手術の用意を!」
因みにフェンさんと言うのはこの病院の看護婦長さんだ。俺とリンが仲良くなったきっかけをたくさん作ってくれた人でもある。
そのフェンさんにリンを渡した俺は、心配でしょうがなくなって後を着いて行った。
背後を振りかえると、皆が無事を願っているように手を合わせて祈っていた。みんな、ありがとう。

〜回想終了〜

「無事でいてくれ・・・リン・・・」
俺は、あれから数時間の間も同じ格好で祈り続けていた。
気が付けば喉もカラカラで声も掠れ始めている。こんなみじめな姿、リンには見せたくないな。

「・・あらっ?トム君?」
「・・・・ラニィさん・・」
この人はラニィ先生。リンが通う学校で教師をしているアラクネだ。
彼女が言うには「私は良心的なアラクネ」だそうだが、俺のアラクネの固定概念は「巣に引っ掛かってたら(性的な意味で)食べる」なので、少し疑ってしまう。
まぁ、今となっては和解も出来ているので警戒したりはしない。
ただ、この先生、時々何処を見ているのか分からない方向へ視線を向けるんだよな。

「リンちゃん・・・良くなって欲しいわね・・・」
「えぇ・・・・」
それは気休めのつもりなんですか?だったら止めて下さいよ。
先生には分からないでしょう?俺がどれだけ心配しているのか。
あれ?なんで俺、ここまで従姉妹を心配してるんだ?まぁ、身内だからってのもあると思うが、これは心配し過ぎだろう。こんなものなのか?

「ラニィ先生・・・」
「・・・何かしら?」
「俺、このままリンが死んじゃったら・・」
「ダメよ?リンちゃんが死んじゃうなんて考えちゃ駄目。」
流石は教師だ。さっそく叱りつけてくれたね。それでこそ教師の鑑じゃないか。
でも、今は助かりますよ。なにしろ、身内が死ぬか死なないかなんだ。勇気や希望を貰えるのはとても嬉しい。

「祈りましょ?私たちに出来るのは、それくらいだから。」
「・・・はい・・・」
俺とラニィ先生って、手の合わせ方が凄く似てるんだなぁと再認識したよ。
俺に手を合わせた時に、俺も一緒に合わせたら、自然と同じ位置に指が来たんだもん。しかも、先生の指が良く見ると紅く滲んでる。途中に茂みでも抜けて来たのかな?
まぁ、先生は先生なりに頑張ったって事なんだろう。

「・・・・?!先生!リンは・・」
「残念ですが・・・手の施しようも無く・・・」
「リンっ・・・」
祈り始めて一時間、手術中のランプが消えて中から主治医の兄さんが出て来た。
俺はその時には、リンが助かったんだと勝手に思い込んでいたんだ。
なにしろ、この病院の手術成功率は、この先生に限って計算すれば75%をオーバーしていたらしいからだ。(友人情報)
それが、俺の心をよりどん底へ陥れたんだろう。
先生が出て来た後から押されてきたベットの上には、呼吸一つしないリンの姿があった。
おい何故だ?酸素マスクが曇ってないぜ?これって呼吸してないんじゃないの?なぁ、何とか言ってくれよ。
ラニィ先生も先生だよ。そんなオーバーなリアクションをしなくてもいいのに。泣きじゃくってるよ。

「それでは、失礼するよ・・・」
「リン・・・」
俺、この時に追いかけてたら息吹き返してたのかな・・・
だとしたら物凄い損をした事になるな。俺。

あれから、俺は学校に死ぬほど頼み込んで特別に医者としての道を切り開いてもらった。

それから3年。俺は晴れて医者になった。

「はいっ。次の方〜・・・」
あの時、俺は心の中に誓ったんだ。もう、これ以上リンのような犠牲は出さないと。
もうリンはこの世に居ないけど、その気持ちは何時までも曲げたくないんだ。
これで何人目だろう。今日はよく患者の訪れる日だ。
それはそれで俺が仕事に夢中になれるから良しとするか。えぇと次の患者は・・

「宜しくお願いします・・」
「今日もよろしく♪せんせ〜♪」
「君か・・・薬はちゃんと飲んでるみたいだな。」
この子は、先月から俺の病院に通っているインプの女の子で「スズ」と言うらしい。名前の通り、鈴の様な綺麗な声音をしている。
そしてこの子の症状は「転移の可能性のあるガン」だった。
今までは子宮に小さな腫瘍があるだけらしかったのだが、それがどうやら両親のヘビースモーカーっぷりが祟られたらしく、副留煙をたっぷり吸いこんで腫瘍ががん細胞に変わっていたらしい。
因みに、この情報は別の病院から送られてきたカルテに書かれていた事だ。
この子は、以前に何度か別の病院に行っていた事もあるらしいが、ここが一番落ち着くらしい。

「それじゃ、お腹見せて〜。」
「は〜い♪」
全く、なんでお腹見せてと言って服を脱ぐんだ。
この馬鹿さ加減、幼さの残る笑顔、コロコロと笑うその声、どれを取ってもリンにそっくりだ。カルテの年齢を見る限り、年も生前のリンと同じだ。
これも、神様って奴の悪戯なのかね。おい神様。いるんなら返事して見ろ。

「はぁ・・・まったく君は・・」
「せんせ〜顔赤いよ〜?」
「なっ?!」
全く以て子供とは嫌な所ばかり鋭いものだ。
口が裂けても「死んだ従姉妹を思い出してた」なんて、言えないな。人間として失格だ。
それにしても、本当に良く似ているものだ。

「スズちゃん?はい、あ〜んして?」
「あ〜〜ん♪フフッ」
あっこら!口を閉じない!はぁ・・・子供って、やっぱり加減が分からないんだろうな。
でも、何処かで恨めない。そんな感じだ。子供と言うのは。
まぁ、今更俺が気付いた所で何も変わらないんだが、精一杯の事はやるさ。アイツの二の舞はもう、御免被りたいね。

それから数日、特に急患が運ばれてくる事も無く日にちは進んでいく・・・
と、思っていた。

「・・・脈拍、心拍共に低下!危険です!先生!」
「分かっている!!くそっ!死ぬな。死なないでくれ!」
突如、真昼間から急患が運ばれてきたのだ。
それも、運ばれてきたのはスズだったのだ。
スズはガンを患っている。それに加えて、最近彼女が服用していた錠剤、あれが効きにくくなっていると言う報告を大きな病院から聞いていた。
それが、この結果だ。なにも守れやしない。そう言うもんなんだ、俺は。
あの時、リンがもしも生きていたら、俺は全然違った生き方をしていたんだろう。
それも、幸せな家庭だ。夫婦円満なんてもんじゃない。家族そろって皆が愛し合っている。そんな家庭だ。

「くそぉ!心臓マッサ・・・いや、待て。」
半狂乱と化していたのか、俺は心臓マッサージの機械をチャージの途中で止めさせた。
そして、俺は何を思ったのかメスでスズの腹を切った。
目指すはただ一つ!基は腫瘍で、ガンが転移するきっかけを作った子宮のガン細胞だ。

「こいつをっ!」
血飛沫にまみれながらも、俺はメスを振るう腕を止めはしない。
その時。

『・・ちゃん・・・・ガンバレ・・・』
「・・・リン・・?」
唐突に聞こえた昔の声。それは、聞き取りにくくはあったが明らかにリンの声だった。
そして、その応援に導かれるかのようにトムはメスを使って根源たる物を切り取った。

「これをっ!みんな!止血の準備だ!」
「でも、この子は・・」
「脈拍、心拍、脳波、どれも正常値?!大丈夫、生き返りますよ!」
「さぁ皆!最後の仕上げだ!」
ガン腫瘍を、子宮に傷つける事無く無事に切り取るという神技を披露したトムは、それを適当な位置にあったトレイに乗せて、皆と一緒に縫合作業に移った。
それから30分。縫合が終わった。輸血も十分に出来ている。マスクを取って見ると微かに呼吸している。
俺は、この子をリンの二の舞にしなくて済んだんだ!

あれから8年、俺は大きな病院へ移って副院長にまで上り詰めた。そして・・・

「スズちゃん、もう大丈夫なのか?」
「はい。お陰さまで、私ももうすっかり元気ですよ!トム先生♪」
すっかり大きくなったスズが、今日は快調と言う事で病院を出て買い物に行く事にしてあげた。
あれからスズは、特にこれと言った転移も見当たらず、病院を退院することになったのだが、リンであるかのごとく身体を弱らせて病院に通っている。
俺もすっかり30歳の仲間入りを果たしたと言うのに、まだ従姉妹のことを引きずっているなんて、まだまだ子供だな。

「えと・・・先生?今日は、先生と買い物・・・行きたいな〜。なんて♪エヘヘッ。」
「ふぅん。いいかもな。」
「ふぇ?!」
何でだよ。あぁそうかい。どうせ俺は30にもなって奥さん一人持った事無いですよ〜だ。
もうそろそろ結婚しろと親に何度も見合いをさせられたのだが、どいつもイマイチだった。
顔も悪くない、性格は良いし気立ても良い。だが、俺には他人を愛すると言う事がイマイチ分からなくなっていた。
お見合いは全て、何の進展も無いまま終了している。
しかし、俺はこのスズに引っ掛かっているのだ。
別に俺のタイプって訳じゃない。清楚っぽく整えた髪なんかは、お見合いの時の相手みたいで嫌になったぐらいだ。
でも、心のどこかでコイツを好きな自分が居るんだろうとも思っていた。

「何も驚く事ないだろ?俺だって今は暇なんだし・・」
「トムさん。それじゃ、良いんだよね♪」
「あ?あぁ。ついて行ってやるさ。こんなオッサンが相手でいいんならね。」
あり?なんでだ?スズ、めちゃめちゃ喜んでるぞ?
そうかそうか、スズはオジサンが好みのタイプなのか。
それじゃ、また今度にでもコイツの好きそうな渋い系の医者探して紹介してやるとするか。

「それじゃ、トムさん。早速行くよ?」
「おいおい、急かすなって。」
トムとスズは、手を繋いで病院を出た。
後ろから何人かのナースが悔しそうな目をしながら見送っていたが、俺は気にしない。
それにしても良く走る。
この子が病弱な身体だとはとても思えないほどだ。

「トムさ〜ん♪」
「やれやれ・・・ダメだね、俺も。」
正直、勉強ばかりしていた俺に長時間の運動はキツイ。
それなのにスズは元気そうにトムを呼ぶ。
これが歳の差と言うものなのだろうか。
そうだとしたら本当にトムは落ちぶれたものだ。

「えとね?最初はトムさんの衣装選ぶよ?」
「えっ?俺の・・?」
本当に唐突な申し出だった。
スズが買い物を頼んできたのだから、当然自分の服や道具などを買いに来たのだと思っていた。

「う〜ん・・・・これなんてどう?」
「似合うのか?俺に。」
「とてもお似合いですよ♪お客様♪」
ジョロウグモの店員さん、良い評価ありがとう。
にしても、この店員さん、発情でもしてるのか?妙に顔が赤いな。
そしてスズが選んだ服だが、こんな若者が着そうな服を30歳な俺が着るのは・・・30って若いよな?

「さぁさ!試着してよっ!」
「あ・・あぁ。」
試着室に押し込まれてしまった。にしても、試着室ってこんなに広かったっけ?
軽く新体操の練習が出来そうだぞ。こりゃ。言い過ぎだろうか。

「・・・着て見たぞ?」
「わぁぁ・・・」
「・・・ゴクッ・・」
試着した服をスズに見せてやると、物凄く嬉しそうな目で俺を見ていた。
それと店員さんが顔をまた赤くして黙っていたが、怖く感じる前に正気に戻ってくれて良かった。
しかし、これは俺からすると微妙だな。
黒が主体の、所々に何かの絵が施されたTシャツに、飾り気のないジーンズ。そこにチェーン付きの財布をポケットに詰め込んで、最後に薄手のパーカーを着る。

「うん!いい!すごくいい!」
「こっちも着てみて下さい!」
なんだか服装が似合うと言われると嬉しい。親ですらこんな事は言ってはくれなかったと思う。
しかし、客に着てほしい服を押しつける店員ってのはどうかとおもうのだが。

それから、数時間にわたって俺がモデルのプチファッションショーは続けられた。

「ありがとうございました〜〜♪」
とっても嬉しそうな笑顔で俺達を見送った店員の顔は、笑みで溢れていた。
それにしても長かった。空腹感が俺を襲うが、それと殆んど同時に何処からともなく腹が鳴る音が聞こえた。
すぐ近くだ。それも半径数十cm内だろう。

「・・・・・////」
なるほど、犯人が分かった。犯人は、俺の腕を掴んで一緒に歩いていたスズだった。その証拠に、恥ずかしさから顔を真っ赤にしている。
本当に、こんな仕草の一つ一つに至るまでリンを思い出させる。
とりあえず、俺も空腹に悩んでいた所だ。適当な店で空腹を満たすとしよう。

「わぁ・・・ここ、高いんじゃないの?」
「気にするな。と言うより、そう言う事は口にしない方が良い。」
やってきたのは、高級料理店だ。しかし、スズはこう言う堅苦しそうな所が嫌だそうだ。俺も大嫌いだ。
すると、スズは俺を引っ張って店を飛び出した。
なんでだろうか。その時に、スズをリンと呼び間違えそうになってしまっていた。

「ここが良いよ!私、ここのフィッシュハンバーガー大好きだもん♪」
「ここか・・・よし♪いいぞ?」
ここはさっきの所から少し行った所にあるジャンクフード店で、「マナギンバーガー」と言う。
因みに小さなお店なのだが、最近は新聞でも取り上げられるほどに人気を掴んでいる。
それと言うのも、この店の経営者であるサハギンのギンさんが、晴れて子供を産んだからなんだそうだ。
仕事をする傍らで子育てに奮闘するサハギンのお母さん、という記事で新聞に出ていた。全く、この新聞はネタが無いといつもこうだ。
カラステングが情報を集めるついでに書いている新聞で、その信頼性は欠けるのだが子供にも読みやすい文章だったり、一興として新聞紙の端に4コママンガが掲載されていたりと、なんだかんだ言っても愛されている新聞紙だ。

「それじゃ、頂きま〜すっ♪」
「頂きます。」
暫く食事に専念した俺は、あっという間に「フィニッシュバーガー」を平らげた。
殆んど同時にスズも食べ終えたらしく、俺達は直ぐに片付けて外にまた出た。

「・・・なんだか・・」
「ん?」
「こうしてると、恋人同士・・・みたいですね。」
「まぁ、そうなるのかな。」
言われてみればそうだ。一緒に服を買いに行ったり、食事したり、腕を組んで(スズが一方的に抱き付いているだけ)歩いたりと、カップルのすることと、俺達のしている事は一致している。
しかし、それを話すスズの顔がもっと赤いのだが。

「えっと・・・公園・・・・行きませんか?」
「構わないぞ?」
その言葉のままに、俺達は近くの大きな公園に来た。
適所に噴水が設けられており、時折霧の水が顔にかかって冷たい。
そうして暫く公園を散歩していた俺達は、自然と一つのベンチに座った。

「えっと・・・・よしっ・・・・トムさん!」
「なんだ?」
「お話があるんです!」
随分と真剣そうな表情だなとは思いつつも、俺はその話を聞いてやる事にした。
幸いにも、このベンチの周りには誰も居ない。

「あ、あのっ!好きです!付きあって下さい!」
「・・・・はっ?」
意味が分からない。
スズが俺を好きだとでも言うのか?でも、この考えを俺は口にしたくなかった。
何故かはわからない。だけど、なんとなく言いたくなかったんだ。

「えと、小さい時に助けてもらって、それから貴方の事が好きでした!だから・・」
「君にはもっと良い王子様が駆け付けるさ。だから・・」
俺の事は諦めろ。そう言いたかったんだ。
だけど言えなかった。言わせてくれなかった。
スズの唇は、俺の唇の動きを封じていたのだ。接吻によって。

「・・・・・」
「・・・・・」
暫くの間、二人はキスを止めても言葉を話す空気になれなかった。
だが、そんな状態がいつまでも続くのは双方にとって悪くしか働かない。

「・・なんで・・俺・・・なんだ・・?」
「だから、小さい時に助けてもらったから・・」
「その程度の理由なら止めた方が・・」
「その程度じゃないもんっ!」
怒られちゃった。オジサンなのにね♪

「私にとっては・・・王子様なの・・」
「それじゃ、俺は王子じゃなくて皇帝って訳か。」
「・・・・なんか違うかも・・」
違ってないような気もするのだが?
まぁ、この子はこの子なりに恋をしたんだ。そこは褒めても良いな。

「とにかく!私と付き合って!トムさん!」
「まぁ、しょうがないか・・」
「ホントっ?!」
なんで俺は、この時に了解してしまったんだろう。
普通に断ることも出来たのに。何故だろう。
年下だから?俺はロリコンでもなければペドフェリアでもない。
可愛いから?可愛いとは思うが、彼女の人生を汚すのは良くないと思う。
それじゃ、何なのだろう。
好きだから?それが一番しっくりくる。

「それじゃ、私たち、これで恋人同士だね♪」
「・・親子だと思われるかもな。」
「ちょっ!それってどっちの意味〜?!」
「さぁな。」
さて、晴れて俺も彼女いない歴=年齢のどん底から這い上がった訳だ。
それにしても、何とも言えない嬉しさだ。これが、彼女を得ると言う事なのだろうか。

『幸せにね。おにいちゃん・・』
「・・・?!」
「どしたの?」
「いや、なんでも無い。(今のは・・・リン・・?)」
耳元に確かに聞こえた、昔に聞いたリンのあの声。
それが、聞こえたかと思うと何かが俺に入ってくるような感覚があった。
はっきりとはしていない。何かが入って来た『ような』気がするだけだ。
そして、俺達は明るい生活を築いて行く事になる。

最後に、次の年に生まれた子供はリンとスズにそっくりだった。

fin
11/03/09 17:16更新 / 兎と兎

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