連載小説
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第七話 守るべきものたちの為に
 あー、今日も読みに来てくれてありがとう。
 娘のイノセンシアもありがとうと言っている。
 …まぁ、今は私の乳を飲んでいるのだがな。

「……なぁ、ギルよ」

「……」

 父親として、それはどうかと思うな、元男性とかそういう事ではなく、常識として。
 ほら、イノセンシアも嫌がっているではないか。
 …だから一緒になって私の乳を吸うのをやめろぉ!

「ちゅるちゅる……コリコリッ…」

「んんぅっ?!」

 やめろと言っているだろうに、どうしてそうまでして私の乳を責め立てる!
 母乳は貴様に飲ませるのではなくイノセンシアの為に出ていると言っているではないか!

 だから私の尻を揉みながら乳を甘噛みするのをやめろと言っている!

「やめろと言って…くぅぅ…」

「ぷはっ…おいしいんだからしょうがないじゃないか、ねぇセシアー?」

 乳を飲んでいる赤ん坊を無暗に撫でたりするのは感心しないな。
 普通なら嫌がったりするはずが、この子はそんなそぶり一つ見せないのが気になるが…
 と言うか、おいしいからしょうがないなど、理由になっていないと思うのだが?
 ちなみにセシアとはイノセンシアの愛称だ。

「あうあう〜」

 ああほら、涎が…はぁん!?

「イノs…セシア、お前ぇ…」

 飲むのをやめたかと思えば、私の乳首をその小さな手でおもいっきり握ってくる。
 赤ん坊の握力は、見た目以上に強かったりするのだ。
 子育ての経験がある者には分かって貰えるだろう。
 そんな小さな手が、ついさっきまで母乳を滲ませていた乳首を思いっきりギュッと握ったのだ。

「うぅ……こんな赤子にしてやられるとは…はぅあ!」

「よっし、僕も加勢するぞー!」

 それは止めろ、止めてくださいお願いします。

「ん? 今なんでもするって言った?」

 言ってないっ!?言ってないぞそんな事!?
 会話内容の捏造など陰湿な事はやめろと言っている!

「それじゃあね…」

「だから言ってないと…せ、セシ…あんっ!!」

 わが娘よ、どうして乳首をそうまで弄る。
 先端を指で穿る度に私が反応するのと母乳が出てくるのが面白いのか?
 だとしても、どう揉めば母乳が出易いかを模索するように胸を揉み続けるのを止めてはくれまいか。
 流石にもう立つ事すら出来ないし、その場に座り込んでしまおうか。

「おっと…ごめん、ちょっとやり過ぎちゃったかな?」

 娘と結託して乳を飲むような愚か者を、どうして私はこうも愛してしまうのだろう。
 …なんて事を口にしてしまえば、きっと彼は怒るだろうか。
 こうして私の身体を咄嗟に受け止め支えてくれる事が、どんなに嬉しい事か。
 きっと言葉では言い表せないだろう。

「…どうしたの?」

「…いや、なんでもない。悪戯も程々に頼むぞ?」

 さて、セシアへの乳やりも終わった事だし散歩と言う名の領内視察と行こうか。
 どうもここ最近、魔界と世界との境界近くで幾度となく破壊活動が行われているようで、その影響は私の領内でも起こっているんだそうだ。
 全くもって嘆かわしい。
 憤りの発散に爆弾でも投げ込まれているのだとすればいい迷惑だ。

「……ここもか…」

「そんなに近づくと危ないよ?」

 少し歩くと、魔界との境界線を削り取るようにして毒沼が発生していた。
 魔界の食物連鎖が不安定な部分もあるとはいえ、こんな毒沼が発生する程ではない。
 つまり、これは人工的に作られた物である可能性が高いのだ。
 この辺りに作られているという事は、目的は十中八九、私だろう。

「…嫌われたものだな…」

「ごめんよ…僕が公表したばっかりに…」

 セシアが生まれた時、出生祝いのパーティーをシュテリウム家主催で行った事があった。
 そこには数多くの貴族や豪族が集まり意見や情報の交換をやりとりいていたのだが…
 ギルは、その場で私とセシアがヴァンパイアである事を公表した。
 彼としては、魔物はそんなに怖くないものなんだと仲間に知ってほしかった意図が大きい。
 だが周りは笑顔で祝ってくれる者ばかりではない。
 宗教の教えによって魔物を親の仇が如き目で睨む者も確かに居たのだ。

「ギルは何も悪くはない。誰も悪くなんてないのだ…」

 そう、例えこの毒沼を出現させた張本人が居たとしても、彼を責める事はしても攻める事はしない。
 向こう側からすれば、私はきっと人の生き血を啜り下僕とする事を好む化け物と認識している事だろう。
 それを真っ向から牙を向けて敵対しようとは思わない。
 いけないのは、魔物とはそういうものだと教えてきた宗教の教えそのものだ。
 実際、シュテリウム邸で世話になった、学の浅いメイドたちは特に警戒心や敵対心も無く私に接してくれていた。
 学のある使用人たちにしても、どちらかと言えば好奇の目で私を見ている事が多かった気がする。

「それより、道を迂回するぞ。セシアが匂いにやられてしまいそうだ」

「ああ、そうだね」

 昔の事を思い出しながら歩いていたが、ふとセシアの顔を見ると苦しそうな顔をしていた。
 どちらかと言えばつまらなさそうな表情に見えなくもないが、はてさて、どちらなのやら。

「この分だと、あの森を抜けた方がいいか…そろそろ参ってきただろう?」

「うん…そうだね……ちょっとあてられたかも…」

 眼と鼻の先にある、鬱蒼とした森林区画。
 普段は魔力を蓄えた魔界獣が住処としているが、先程の毒沼の放つ匂いにやられてしまったギルの為にも通り抜けるとしよう。
 魔界獣の管理はピュアに一任しているが、どうも数匹をペットとして城に連れ帰っているようだ。
 たまに遠吠えが聞こえて肝を冷やす事がある事だし、そろそろバレているぞと教えてやるのもいいかもしれないな。

「見ろセシア。ギルの顔が真っ赤だぞ? 発情しているのではないか?」

「そんな事…ないよ…」

「…大丈夫か? 本当に辛そうだぞ?」

 顔は火照ったように紅いし、呼吸も荒い。
 茶化した事を後悔するよりも、ギルの容態を心配する方がずっと大事だ。
 以前やって貰ったように、ギルの額に顔を寄せて額同士を触れさせて熱を測る。
 きっとそれがいけなかったのだろう。

「はぁ…はぁ……もう、ダメだぁ!」

「ギルっ?!」

 いきなり肩を掴まれて押し倒されそうになる。
 後ろに樹がなければ倒れ込んでいただろう。
 それにしても、ギルはどうしたというのだ。

「さっきのアリスのおっぱいの味が…すごく良かったんだ。だからっ!」

「んんっ?! ば、馬鹿者…セシアも見て…んぅっ!」

 ギルめ、いくら我慢が出来ないからと言って、私の服をずらして胸にむしゃぶりつくとは何事か。
 いくらなんでも普段のギルと様子が違い過ぎる。
 まさか、毒沼の効果だとでも言うのか?
 魔物には強烈な毒として作用するが、人間には媚薬のように作用するとか、そういった物なのかもしれない。

「ちゅぱっ……じゅるるっ…あむあむ…」

「んくっ……やめろと言って…っ?!」

 当たってるっ?!
 ギルの逸物が普段の倍近くまで膨らんで私の太腿に擦り付けられているのがズボンとスカート越しにでも分かってしまう。
 こんなに腫らしていたとは、さぞ辛かっただろう…

「全く…もう少し我慢できなかったのか? ほら、来るがいい」

 片手で器用にズボンを降ろさせ、飛び出してきたギルの逸物を私の秘部へ…入れさせはしない。
 こんな太くて逞しいものを入れられたりしたら、私も気が気で居られなくなってしまう事は必定。
 なら、いつかギルも絶賛していた私の太腿で挟んでやろう。

「んっ……ふっ…ふっ…ふっ…」

「辛かったのだな…よしよし、今までよく我慢した…存分に腰を振るがいい…」

 子供を慰めるように空いた手でギルの頭を撫でるが、子供のように扱った事が失礼に…なりはしないか。
 なんせ、こんなにも甘えるようにして逸物を私の股に挟んで腰を振っているのだから。
 何も気にしていないのか、それとも気にするだけの余裕がないのか。
 どちらにせよ、片手で抱いているセシアを取り落とさないよう注意せねば。

「ぷはっ…ありすっ…ありすぅぅ!」

「んふっ……もう出そうなのか…? いいぞ、遠慮なく果てるがいい…」

 限界を超えるまで膨れ上がっていたギルの逸物は、私の股を摩擦で火傷させるつもりなんじゃないかと思う程に激しい腰振りで擦られていて、こっそりと回した手が鈴口に触れただけで大量の精を吐き出してしまっていた。
 全く、私の次はこの樹を孕ませるつもりか貴様は。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

「んっ……もう大丈夫…おい貴様…」

 精の匂いに今度はこちらがあてられてしまいそうになるが、そこは我慢だ耐えて見せよう。
 だが、それに対してお前はどうだ。
 私のスカートに顔を埋めて、美味しそうにペロペロと舐めては逸物をビクンと跳ねさせて。
 これは、お仕置きが必要なようだ。

「ギル…そこに座れ!」

「っ!?」

 ふん、言葉に魔力を乗せたのだ、抗う事も出来まい。
 反射的にその場に正座で座るギルに対して、その逸物は早く早くとせがんでくる。
 ここは、いつものお返しをしてやる絶好の機会というものだ。

「ギル、私のブーツを脱がせてくれ。片手ではどうも…」

「分かった!」

 嬉々として素早く脱がせてくれるのはいいが、なぜわざわざ脱いだ後の足を嬉しそうに舐め回すのだ。
 犬かと叱ってやりたい所だったが、ある言葉を思い出す。

『助かりたければ、犬のように這い蹲って私の足にキスをなさい?』

 嫌な言葉を思い出してしまったものだ。
 昔の吸血鬼仲間が、倒した勇者たちに言い放った言葉がこれである。
 結局、そのヴァンパイアはその時の勇者を気に入って結婚したんだとか。
 確かその二人の結婚式の直後くらいだっただろうか、私がこの身体になってしまったのも。

「はむっ…れろ……じゅるるっ…」

「んぅっ……ぎ、ギル…くすぐったいぞ…」

 まったく、ソックス越しだろうがお構いなしに舌を這い回らせて。
 これでは本当に犬ではないか。
 私はイヤだぞ、足をそんなに舐め回した直後の舌とキスをするなんて。

「全く……ギル、足を開け…お仕置きしてやる」

「分かった!」

 これまた素直にいう事を聞いてくれる。
 貴族の者としてどうなのだ、これは。
 ともあれ、踏んで気持ち良くしてくれと言わんばかりに揺れている逸物を、そっと踏んでやることにする。

「はぅっ…」

「……本当に気持ちいいのか?」

 足で踏み、親指と人差し指の間で挟むようにして何度も足を上下させる。
 その度にギルの逸物はビクンと跳ねあがり、同時にギルが気持ち良さそうな嬌声を上げる。
 もう少しかと思って踏む力を強めてやるとあっと言う間に射精してしまった。

「あぁぁぁぁ……きもちいぃ…」
 
「本当にイッてしまうとはな…あぁ、もったいない…」

 私が言っているのは、精液が足に放たれてもったいないという事とソックスが精液でドロドロになってしまってもったいないという事の両方だ。

「もう一回…ねぇ、もう一回…」

「お、おい そんなに足を…っ?!」

 強引に足を引っ張る奴があるか!
 おかげでその場に倒れ込んでしまったではないか。
 さっきまでは背にあった樹も、ギリギリ手が届かなかったようだ。
 何はともあれ、セシアに何も無くて良かった。

「いいの…? いいんだね? 挿入れるよ?」

「お、おいギルっ!?」

 この馬鹿者、いつの間に拘束術など身に着けたのだ。
 スカートの中に手を突っ込んで、ショーツを膝の所まで引き摺り下ろされた。
 いっそ全て脱がせてくれた方が足も動かせて自由だったものを、これでは足首やひざを縛られているようなものではないか。

「行くよ?」

「ギル、落ち着…っ?! ま、まてギル! その穴は違うっ!!」

 嬉々として貴様が逸物を擦り付けているのが、まさか私の秘裂だと思っているのか?
 そこは私の尻の穴であって、いつも使っている穴ではないのだぞ?!

「知ってるよ? こっちもいつかは開通させなきゃなーって思ってたんだ」

「何を言っている!? いいからやめ…っ!」

 やめろ、それ以上入って来ないでくれ!
 穴に触れられているだけでも、不快感と快感の入り乱れたような感覚がゾクゾクと押し寄せてきてどうにかなってしまいそうなんだ。
 なのにそのまま貫かれてしまったりした日には、そのまま腰が抜けて立てなくなってしまうかもしれない。

「……? や、やめてくれるのか…?」

 ピタリとくっつけられ、時折ぐいぐいと押し込まれそうな焦らしを受けていたが、やっと逸物が穴から離れてくれた。
 そこでギルの考えが及ばなかったのは、全て私の落ち度と言っていいだろう。

「ふんふん…なーんだ、入れて欲しいんじゃないか そー…れっ!」

「っっっ! きひぃぃぃぃ!!」

 尻を覗きこまれた事まではまだいい。
 セシアの出産の時だってギルは立ち会って様子を見守りながら応援してくれたのだ、何も覗きこまれるのは初めての事ではない。
 だが、そのまま腰を尻穴に捻じ込んだ事に関しては、帰った時に覚えているがいい。

「うわぁ……すっごい締め付けてくるよ、アリス?」

「はぁ…はぁ…ふ、ふざけるなぁ……すぐに抜けぇ!」

 膣内を穿られるのとはまた違う、内臓をぐちゃぐちゃに抉られるような不快感と、感じた事の無い刺激に対して過敏になってしまう快感とが一斉に私の身体を襲う。
 グチュグチュと直腸をかき分けられている音が、ダイレクトに聞こえてくる。

「このまま行くよ、アリス…」

「ま、待てっ?! いまうごかれたら…」

 やめてくれ、なんて言ってもこうなってしまったお前が私の言葉を聞いてくれるはずもなく。

「はっ! あっ…はぁぁぁぁ…」

「ぅぶっ…やめっ…ひうっ!」

 直腸を奥まで捻じ込まれる度、背中をゾクゾクとした感覚が電気のように走って頭が痺れてしまいそうだ。
 ギンギンに腫れ上がったギルの逸物が、私の腸壁を刺激する度に湧き起こる快感にセシアを落としてしまいそうになるが、間一髪の所で受け止める事が出来た。
 高い高いの一環のように感じ取ったのか、セシアも笑ってくれているようだ。
 さて、もう片方のお子様はと言えば…

「アリスっ! アリスぅ!」

「やれやれ…んぅっ! そんなに…っ……気持ちいいのか…?」

「もちろんっ! あぁぁ、もうダメだ…でるぅ!」

 ビクンビクンと逸物が脈と一緒に膨れ上がる度に、私の腸壁が拡げられる感覚が脳を痺れさせてくる。
 気が付けば、壊れた蛇口のようにギルは私の中にドロドロと精液を吐き出していた。
 膣壁で射精を感じ取るのも魔物娘にとっては娯楽の一つなんだそうだが、これがハラワタでとなるとどうなのだろうか?

「はぁ…はぁ……あうっ!!」

「ひゃぅ! ……おい、ギルぅ…」

 逸物を引き抜いたはずみで射精するとは…もしやクセ付いてしまっているのか?
 以前にも何度か、引き抜いた拍子に精を噴き出していた事はあったが、今回は別だ。

「あ〜ぅ!」

「ほら見ろ、嫌がって…はぁ?」

 どういう事だこれは?
 普通なら、いきなり顔に精液をぶっかけられたりしたら嫌がるものだろう。
 それなのにセシアは、寧ろ大喜びで精の匂いを堪能しているようだ。

「すっごく卑猥………あ、あれ、僕は何を…」

「気が付いたか? ギル、貴様どこまでを覚えている?」

 この確認は非常に重要だ。
 ただ催淫されたりして我を忘れただけならば、話しているうちに自分が何をしたかを思い出す。
 厄介なのか別で、誰かの意思が介在した洗脳や暗示に掛かっていた場合だ。
 俗にいう自己暗示と言うのも、突き詰めてしまえば自分の意思が強く、それこそ呪いとして固着したものと言える。
 これならば、意識が覚醒した後も身体が何をしたかを覚えていて記憶の補完をしてくれる。
 だが、誰かの意思が介在している物の中には厄介な物も数多い。
 何故自分がここに居るのか分からない程度ならともかく、記憶を蝕むものまであるのだから。

「えっと…セシアを連れて散歩に行こうって事になって…」

 これは私が言い出した事だ。
 元々、私の領地の管理はピュアに任せている部分もあるにはあるが、基本的には私が現地へ赴き問題解決を行っている。
 ここ数年で、女子の身体になるわ人間の男と結婚するわ子供は孕むわでロクに様子を見に行けていなかったのだ。
 丁度いいからと思い、ギルも暫くは仕事を部下に任せて休暇となっていた故、共に歩こうと言い出した訳だ。

「それで、出発前に用意してたら僕に客だってピュアに教えて貰って…」

 何、聞いていないぞそんな話?!
 だいたい、ここは僻地とは言え魔界なのだ。
 ギルの客となればだいたいが人間の筈なのだから、魔界には来ようとすら思わないだろう。
 魔物を恐れる人々から見た我々魔物の認識と言えば、人肉と殺生を好む野蛮な化け物といったイメージだろう。
 そんな奴らが跋扈するこの地へ来たがるのは、せいぜいハンターくらいなものだ。

「あぁ、そのお客さん、父さんたちの部下の人だったんだ。最近姿を見てないからたまには帰ってきなさいって伝言伝えてすぐ帰っちゃったよ」

 なら安心…か?
 義父様の運営している会社の内容はある程度把握しているつもりだ。
 人間向けの薬品を扱っている会社で、最近は魔王の代替わりによって姿を転じ人間と友好的に接している魔物達向けにも薬品を開発している会社だと聞く。
 ただ、世の中は何も一枚板と言う訳ではない。
 実際あんな毒沼を発生させる者も居る程なのだから。

「その後、散歩に出かけて、あの毒沼があったあたりで意識がボンヤリと…」

 なるほど、やはりあの毒沼が原因か。
 あれを消してもいいが、それよりもっと重大な問題が発生している。

「……ギル、私のショーツはどうした?」

「え、ここに置いて…」

 ギルの手を目で追おうとして、一匹の魔界獣と目が合った。
 名前は知らんが、二足歩行をするトカゲのような奴だ。
 大きさで言えば人の頭ほどだろうか。
 そしてその性質は「魔物の匂いを好む」のではなく、「魔物の身に着けていた物の匂いを好む」
 手には見覚えのある布切れがしっかりと握られている。

クンクン……スーハー…プハァ!

「っっっ?!」

 こいつっ?!
 私のショーツに顔を突っ込んだかと思えば思いっきり深呼吸して顔を出した時にはすっかり薬物でも吸ったかのような恍惚な表情を浮かべている。
 取り返さねば、私がそう思って動き出した瞬間だった。

「ぴぎっ!?」

 痛い!
 尻の穴から出血しているのではないかと思う程の激痛が一瞬走り、後を引くようにヒリヒリと痛む。
 足元を見ても血は流れていなかったが…ギルめ、どれだけの勢いで突き上げていたのやら。
 …ハッ! あのトカゲは…

ジーッ……ハムハム……クチュクチュレロレロ…ゴックン! ……チュルンッ

 あぁぁぁ!!
 あのトカゲ、事もあろうに私のショーツを丸呑みしたー?!
 しかもその直前に、まるで布についていた精液を漉し取るかのごとく舐め回していたぞ!
 したり顔で、最後に口からはみ出していたレース生地の紐までしっかりと丸呑みにしてくれた!

「そこのトカゲっ!うご…っつぅぅ……動くな…あれ?」

 尻の痛みに一瞬だけでも気を取られたのが致命傷だった。
 まさかあんなトカゲに私の下着を持って行かれるとは。
 それもこれも、ギルのせいだ!

「ギルッ!!」

「は、はいっ!」

 決めたぞ、お仕置きだ!
 こんな状態にしてくれた貴様に拒否権はないっ!

「え…えぇぇぇ!?」

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「……アリス、お城が見えてきたよ?」

「…うむ…」

 ギルに命じたお仕置き。
 それは、帰り付くまで私をお姫様抱っこで抱えて帰る事だ。
 やろうと思えば私は空を飛んで帰れるが、それでは私の気が収まらない。
 あのトカゲを見つけるまで森を破壊してまわっていたかも知れないのだ。
 トカゲが見つからなかったとしても、私はあの森を破壊し尽くすだけだ。

「…? 寝ちゃったね…」

「あぁ……寝顔はお前に似ているな…」

 私に抱かれて…と言うよりはギルの腕の中に居る心地よさからか、セシアはスヤスヤと眠っていた。
 赤ん坊は指を咥えるらしいが、セシアはあまりそれをしないのだ。
 だが、その代わりに…

「あ、また始めた…やれやれ、どんな夢を見ているのやら…」

 親指を、咥えるのではなく舐め回すのだ。
 口の中に入れるでもなく、舌を出してチロチロとアイスでも食べているかのように。
 仕草そのものも怪しいが夢の内容も気になる。
 今度、夢を覗き見る魔法が得意と言っていた我が友に聞いてみるとしようか。

「あはは……あ、ピュアが迎えに来たみたい」

「そのようだな…」

 二人きりの間にまたギルが暴走したりしたらどうしようかと思ったが、どうやら考えすぎだったようだ。
 そのままピュアの出迎えを受けて、お喋りしながら岐路へと着く。

「……」

「…? ご主人さま? どうしたんですか?」

「………いや、なんでもない。 誰か来客はあったか?」

 なんでもない訳がない。
 少し離れた樹の陰から誰かが覗き見る気配がしたのだ。
 まぁ、それを言った所で空気が嫌悪になるだけだから黙っておく。
 すぐにその気配も消えてくれたようだし何よりだ。

 さて、これから先、もっと警備を強化する必要があるかもしれんな…

つづく
17/05/27 21:25更新 / 兎と兎
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