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第六話 我慢できない!
 ギルとの結婚式から、だいたい半年が経過した。
 ギルの両親との挨拶も無事に終え、今では私の屋敷で共に暮らしている。
 最初こそ魔界じゃないかと反対された物だったが、お腹にいる子供の為にも魔界で暮らす方が環境的にも適しているのだという医者の助言を得て、どうにか説得するに至った。
 今となっては、魔界での生活にもすっかり慣れてくれたようで私も嬉しい。

「んぅ……ぎるぅ…」

「あいだっ!!」

「…っ!? す、すまない、つい…」

 どうやら寝ぼけて彼の腕に噛み付いてしまったらしい。
 血こそ出る程ではなかったが、噛み跡はしっかりと残っている。
 驚いて眼が覚めた事もあって意識はすっかり覚醒した。

「最近多くなって来たね、それ…」

「うぅ……すまない…」

 お腹にいる赤ちゃんの事もあり、私達はすっかりご無沙汰なのだ。
 吸血がほとんど性行のスタートダッシュのように使っていた私にとって、ご無沙汰と言う事は即ち、吸血衝動に襲われやすい状態にある事も意味していた。
 屋敷に帰ってきた頃は、魔力にあてられがちなギルの相手をしていた事もあり、経口摂取とは言え精を口にしていて衝動は抑え込まれていた。
 だが、最近になってくると、どうにもギルの肌を見る度に喉が渇いて呼吸がし辛くなってしまう。

「生まれてくるまでの辛抱だから、頑張ってね」

「う、うむ…」

 ギルがお腹を撫でてくれるだけで、幸福感に身体が弛緩してしまう。
 表情まで弛緩してしまいそうだったが、ギルにそんなみっともない姿を見せる訳にはいかない。
 そりゃ、性行に臨んでいる時は蕩けきった顔をしたりもしていたが、あれは「ああいう状況だからこそ」する顔なのであって、いつでもしていい顔という訳ではないだろう。
 いつでもそんな顔をして生活している者がいるなら、病院へ行くべきだろうと思う。

「ご主人様がたー、朝食の準備が出来ましたよー?」

「おお、ピュアか…おい、ピュア?」

「はぁい?」

 食事の準備が出来たとピュアが私達を部屋まで呼びに来たのはいい。
 メイドとしての仕事を珍しく真っ当にこなしているのだから、本来なら褒めてやりたい所だ。

 胸の谷間に溜まった、精液さえ見なければ。

「準備が済んだのは何分前だ? 答えて見よ」

「んひゅぅ! いっ…いひひひゃんまえへふぅぅぅ!」

 ピュアが逃げられないようにしっかりと抱きしめ、腰に回した両手でピュアの尻尾を弄る。
 コイツの性感帯が尻尾の付け根なのは、とっくの昔にお見通しなのだ。
 そしてちょっとお仕置きしてやれば、あっという間に吐いてくれた。

「それまで貴様は、何をしていた?」

「だ、だんにゃひゃまといっひょにあしょんれ…」

「遊んでいた? ほぉう、どんな遊びをしていたのだ?」

 言うに事欠いて遊びと来たか。
 まあ確かに「遊び」なのだろう。
 ピュアは名前の通り、まだ幼い子供のように純粋な所がある。
 夫を見つけてからは淫らな方向へ進化しつつあるようだが。

「しょ…しょれはぁぁ…」

「ご主人様、ピュアをどうか許してやってください」

「ふむ、シュリヒトか」

 シュリヒト
 ピュアの夫であるインキュバスの男だ。
 名前を体現したかのように素直な男で、実によく働いてくれている。
 遊びの多いピュアより断然よく働いてくれているのだが、ピュアの仕事まで引き受けていたのを知ってからはピュアにもきちんと仕事をさせるように言ってある…はずなのだが。

「一つ聞きたい事があるのだが」

「はい、何でしょうか」

「お前、先程ピュアと何をしていた?」

 「あ、ダメ!」などと言っている時点で黒なのは確定だ。
 何をしていたのか聞きたい故、ピュアには私の胸に顔を突っ込んで黙って貰う。
 窒息するような事は無いだろうが、はてさて…

「ピュアとは「あさのいちばんしぼり」をしておりました」

「ほほぅ…? お前、その言葉の意味を正しく理解しているのか?」

「はい。ピュアは私が朝起きた時にいつも、口や胸を使って私の男性器を…」

 もういい。
 …何故そんな「これからが良い所なのに」みたいな感じの顔でしょんぼりする?!
 もしかしてこの話題が卑猥で恥ずかしい物なのだと理解していないのか?!
 ピュア…恐ろしい子…

「…そ、それより、食事にしないかい? お腹空いちゃったよ」

「そ、そうだな! ほら、行くぞ皆」

「ぷぁっはぁ! はーい! ごっはん〜ごっはん〜!」

 ギル、ナイスアシストだ。
 本当ならばピュアのようにご褒美をやりたいところだが、下手をすると私の方がムラムラしてしまう。
 お腹の子の為にも、今はまだ我慢せねば。
 さあ、食事の時間だ。

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 今日の食事も美味であった。
 が、それよりもある話題の所為で私とギルは現在、ベッドに二人仲良く寝転がっている。
 食後に不養生かとも思うかも知れないが、食後からそれなりに時間は経っているのだから何の問題もない。
 そして、ある話題と言うのが…

『そういえば、ご主人様たちはなんでエッチ我慢してるんですか?』

 食事中にピュアが聞いてきた、何気ない一言が始まりだった。

「……本当にするの…?」

「一緒に確認したではないか。我が友も「大丈夫、むしろ積極的にヤるべし」と言っていたのだぞ?」

 私が友に確認した事。
 それは「妊娠中の性行為について」だった。
 医者からは「普通の人間以上に絶対安静の事」と言われていたが、それはあくまで「人間視点」での話。
 魔物側の意見としては「出産までにセックスしていた方が母子共に丈夫となる」らしい。
 まぁ、この意見も魔物視点での話ではあるのだが。

「普通なら安定期でもなるべくしない方がいいんだけど…」

「我慢のし過ぎで夫婦共にストレスが溜まるよりはずっといいそうだぞ…どれ、脱がしてやろうか?」

 いつまでも乗り気になってくれないギルの服に手を掛ける。
 以前なら私を心配して手を止めさせるのだが、どうやら今の彼にはそうさせるだけの理由が見当たらないようだ。
 今からシようと言っているのだから、素直に私を抱いてほしい。

「は…恥ずかしいな…」

「何を言うか…妊娠が分かるまでの間、私の服を懇切丁寧に脱がせて攻めてきたのはどこの誰だったかな?」

 いつもの流れならば、甘く蕩けるような声音と吐息で私を焚きつけてきたギルが、私の服を脱がせてから事が始められていた。
 たまには仕返しをしたからとて罰は当たるまい。

「…? なんだ、もうこんなになっているではないか…どれ」

「はぅ…あ、ありすっ…」

 服を脱がし肌にそっと指を這わせるだけで、ギルの股間はすっかり元気になったようだ。
 少し言い方は下品になってしまうが、ギンギンにおっ立てたモノを見せつけられては、私の方も歯止めが効かなくなる。
 手で握ってやるだけで、今にも射精してしまいそうな程に苦しそうな顔をされては私も嗜虐心が滾ってしまう。
 熱した鉄を握ったような、とは言うが、男性器とはここまで熱くなるものなのか。

「あぅ! アリスっ!! もうっ…」

「まだダメだぞ…? 私が良いと言うまで出してはならん…」

 あまりにギルが可愛い物だから、つい虐めてしまいたくなった。
 射精してはダメだといいつつ、私の手は射精へ導こうと動きを早めて行く。
 少し可哀そうな気もするがギルの苦しいのか嬉しいのかよく分からない表情を見ているともっと攻めたくなる。

「はぁ…はぁ……うあぁぁ…あ、ありすぅ……もう…」

「この程度も我慢出来んと言うのか? 軟弱者め」

 さっきから逸物はいつ射精してもおかしくない程にビクビクと震えている。
 なのに射精しないのは、ひとえにギルが踏ん張っているからだろう。
 そんな彼を軟弱者呼ばわりとは、少し酷過ぎるのではないか、私?

「そ、そんなこと…うぁっ! い、いわれ…たってぇ…」

「はぁ……ギル、私の事は好きか?」

 私の問いにギルは間髪入れずにもちろんだと答えてくれる。
 続けて大好きかと問うても同じく一瞬で答えを返してくれた。
 それだけで、私の心は何物にも替え難い幸福感に包まれてしまう。

「ギル……良いぞ、出すがいい…はぶっ!」

「あ、あり…すぅっ?! うあぁぁぁぁぁ!!」

 私がギルの亀頭にしゃぶりつくのと、精液が私の口の中を満たして行ったのはほぼ同時だった。
 吐精の勢いだけで頬の肉が貫かれてしまいそうだ。
 それと同じく、頭がぶっ飛んでしまいそうな程に濃厚な精の匂いが私を満たしていく。

「んぅっ……ぷぁ…ほへ……ふぃへふは…?」

「はぁ…はぁ……う、うん…よくみえる……すっごくいやらしい顔してるね…」

 この際、恥ずかしい事だと認識するのも、それを指摘されているというのも後回しだ。
 むしろそう指摘させる事を目的にしていたのだから。
 精液を口に溜め込んで、クチュクチュと口の中で遊ばせている様をギルによぉく見せてやる。
 はみ出ている精液が顔を汚していてなんとも魅惑的だ、なんて事も言ってくれた。
 慌てて手で拭おうとした腕をギルに掴まれて、なるほど攻守交代かと悟る。

「アリス…その精液、一回手に出してみて?」

 なんとも変態じみた事を言う。
 君はいつからそんな趣味を持つようになったんだ。

「んぶぇ……これでいいか…?」

「うん…それじゃ、それを全部飲み干して?」

 なんだ、何がしたいのだ…?
 まぁ嫌という訳でも出来ない訳でも無いからやってやろうではないか。

「んくっ…んくっ……ぷはぁ…これで良いのか?」

「うん、口の中見せて?」

 あーんと口を開いて中を見せてやる。
 中を見た所で、精液など残っては居ないのだが…

「綺麗に呑み込んでくれたね…」

「…? あぁ、全て飲んだが…」

 一体何がしたかったのだろうか。

「それじゃ、アリス。君は今どんな格好をしているかな?」

 何って、寝間着のまま…っ?!
 ボタンが全て外されているだと?!
 下着のホックまで外されて、胸が丸見えになっているではないか!

「貴様、いつの間に…ひゃんっ…」

「僕の精液に夢中になってるからだよ…ほら、きもちいいでしょ?」

 ギルの手が、まるで餅でもこねるかのようにねちっこく私の胸を揉んでくる。
 愛撫と言うには力の入り過ぎたそれは、私には少し痛くすら感じられる。

「んぅ…やめっ……怒って…いるのか…?」

「うん…? 何の事かな? ほぉら、こんなのとかどう…かなっ!」

 乳首を摘ままれこねくり回すように弄られて、私は短い嬌声と共に身体をビクンと跳ねさせていた。
 背筋に電流でも走ったのではないかと思う程の刺激と快感。
 それは、私の思考を蕩けさせるきっかけとしては十分すぎた。

「はぁ…はぁ……あっ…」

「っ! ……はむっ」

 ギルめ、私の乳首に吸いつくなど、まるで赤ん坊ではないか。
 それにしても、私の胸から母乳が出た途端にむしゃぶりつくとは。
 母乳はお前に飲ませる為の物じゃないぞ。

「じゅるる……コリコリッ…」

「っっっ?!!?」

 ギルが、乳首を甘噛みしてくる。
 歯で捩じ切られそうな痛みは、快感となって私を襲う。
 私が喘ぎに身体を反らせたのと、母乳を勢いよく噴き出したのは同時だった。

「んっ…んむっ…ちゅるっ……」

「あ……あはぁ…あっ…」

 ギルが乳首を吸う度、胸を揉む度、私は快感に身を震わせて次々に母乳をギルに飲ませてしまう。
 やめてくれ、このままではお腹の子に飲ませる分が無くなってしまうではないか。

「ぷはっ…そんな事言って…もっと吸って欲しいんでしょ?」

「ひゃぅん!? ち、ちがっ…」

「あ、それとも早く欲しかったとか?」

 ニヤニヤしながら肉棒を秘部に擦り付けるのはやめてくれ!
 これではまるで、ギルが私を犯すみたいじゃないか。
 それはなんというか、言い表しにくいが…悲しい。

「アリスは僕に犯されたいの?」

「んっく…なぜそんな事を聞く…?」

「さっきから、君の膣口は僕の亀頭に吸い付いてきてるよ?」

 心の反応と身体の反応は別物だというのに。
 それは私より貴様の方が知っているだろうが。
 あっ。

「あっ……すっごい食い付きっ…」

「う…うるさ…いひぃ……うるさいぃ…」

 はずみで挿入って来たではないか!
 しかもギルの逸物はかなり熱い。
 これでは膣内が火傷してしまうではないか。

「でもっ…」

「んやぁ……何故抜くのだぁ…」

「名残惜しそうな声出さないで…さぁ、おいで?」

 ギルがベッドに座るような体勢で私を誘う。
 それだけで、どうしたいのかは手に取るように分かってしまう。

「行くぞ…?」

 ギルの膝に座るようにして、後ろから身体をゆっくりと預けて行く。
 腰を下ろしてギルの逸物を握り、位置を調節して私の膣内へと導いてやる。
 クチュクチュといやらしい音を立てながら、ギルが私の中へ入ってきた。

「あっ…はぁぁぁぁ…」

「うっ……久々だから感覚が…あうっ!」

 ギルの一発目なのか単に先走りなだけなのか、よく分からないが私の膣内をチクリと刺すのが感じ取れる。
 調子は衰えるどころか元気になる一方だしきっと先走りなのだろう。

「ぜん…ぶっ……はいったぞぉ…」

「うぐっ……あ、ありすっ…締め付けがっ…キツいっ…」

 久々に呑み込んだのだ、嬉しくてキュンキュンと締めつけてしまうくらいは許してくれ。
 貴様の逸物も私の一番奥を突いてきているのだからお互い様だ。

「もうちょっと…緩めてよっ!」

「ぴぎぃっ!」

「あぁぁぁ!! よ、余計に締まるっ!」

 当然だ、馬鹿者!
 よりにもよってクリトリスを潰しそうな勢いで摘まみおって。
 おかげで腰が抜けたかと思ったではないか。

「ご、ごめんよ……でも、アリスも悪いんだからね? こんなに締め付けっぱなしでさ…?」

「んひぃ! あっ…らめぇ! そこっ…敏感っ…って、にゃめろぉぉ!?」

 ギル、貴様はなぜそうまでしてGスポットを見つけた途端、執拗に責め始めるのだ。
 同じところを何度もズコズコと突かれては、頭がおかしくなってしまいそうだ。

「やめろって…さっきからっ…動いてるのはアリスの方…だよっ?」

「にゃにぃ…?」

 そんな馬鹿な。
 私はただ、貴様が敏感な所を抉るように突き上げてくるから、それに反応して身体が跳ねてしまっているだけで…

「だって…僕は腰…動かしてないよ…?」

「っ?! しょ、しょんにゃっ…やっ……うそっ…うそ…んひぃっ!」

 ギルの言っている事は正しい。
 そして腰を動かしているのは私の方だった。
 グチュグチュと腰を回して膣内をかき回しているのも、執拗に同じところにギルの先端が当たるように調節しているのも、全部私だった。
 これは一度止めるしかない。
 だが…

「はぁ…はぁ…はぁ……んぅっ?! ぎ、ギルのばかぁ!」

「誰が…馬鹿なもんか…はうっ! 僕は動かない、なんていつ言ったのさ…?」

 腰を止めて小休止しようとした矢先にこれだ。
 どうやらギルは絶え間ない刺激をご所望のようで、私の腰を両手でつかんで下から突き上げるように腰を打ち付けてくる。
 ベットの揺れるギシギシという音が、どうしようもなく卑猥に聞こえてしまう。

「ばかっ! ばかばかばかぁ!」

「全く…ほら、落ち着きなよ…」

 落ち着きなよ、とか言いながら敏感な場所を抉るのは新手のイジメか何かか?!
 おかげで私の方は…

「いひぃぃぃぃ!!」

 その強烈なたった一突きの為に果ててしまったではないか。
 だが、結果的に仕返しは成功していたらしい。

「あっ、キツっ…うあぁぁ!!」

 唐突な締め付けに耐え切れず、私の膣内を精液で満たしていく。
 股間を見下ろしていると、まるで私が白濁とした潮を噴いているかのようだ。

「はぁ…はぁ……どくどく出てるぅ…」

「あ、相変わらずの締め付けだったね…」

 それは果たして褒めてくれているのだろうか?
 さておき、ギルも精液の量が全く衰えていないようで何よりだ。
 逆に間隔を空けていたからまだまだ余裕があるのではないだろうか?

「はぁ…はぁ……んっ…まだ、行けるか…?」

「っつぅ……ちょっと休憩した方が…」

 なんだ、疲れているのか?
 突かれていたのは私の方だと言うのに。
 だが、それよりも気になる事がある。

「んしょ…少し待っていろ…」

 今生の別れをしている訳でも無いのだから、そんな悲しそうな顔をするな。
 私の方が悲しくなってしまうではないか。
 だが、私が気になっているのはそんな事ではない。
 扉の前に立っているお前だ…あ、逃げ出し…て、転んだな、コレは。

「おい、だいじょうb」

「んんっ! んっ…んんんぅ?!」

 まさか、こんな状態で覗いていたとは…
 それとピュア、今更口を自分で塞いでバレないようにした所で無駄だぞ?

「あ、ご主人さま…」

「お前たち…」

 覗き見ながらセックスしているなどと、なんとも器用な。

「すみません、ご主人さま方の魔力にあてられてしまって、仕事も満足に出来ないからとピュアに解して貰っていました」

「うっ…すまない…」

 素直な意見をありがとう。
 そして私の魔力がどうやらシュリヒトに影響を及ぼしていたらしい事をここに詫びよう。
 思った事もある事だし言わせてくれ。

「次からは、お前たちの部屋でやるように」

「はい。それでは失礼します…行くよ、ピュア」

「はひっ…ひぎぃ!」

 まさか尻尾の弱点を知っているとは。
 流石は夫と言った所だろうか。
 さておき、ムードが何だか…おっ?!

「ぎ…ぎるっ?!」

「どうしたの? 子供が宝物を見つけたような顔をして」

 そ、そんな顔をしていたのか私は?!
 だがこの際そんな些細な事はどうでもいい。

「お腹の子が…今、蹴ったぞ!」

「え、本当?」

 正確に言うと蹴ったかどうかなんて分からないが、確かに動いたような感覚があったのは事実だ。
 母体である私が保証しようではないか!

「……もしかして、精液が臭かったのかな」

「えっ、まあ確かに精液は匂うがどうしてそんな事を」

「だって、ほら」

 どうした、なぜ私の足元を指差す?
 …うわぁ?!
 まるで漏らしているかのように精液がどばどばと…これもギルのせいだ!
 あんなにドクドクと容赦なく出して…

「これは……静かに寝かせろって事かな」

「昼間から何をしているのかと言っているようにも思うな」

 互いの意見を纏めてみて、その内容に互いが笑う。
 夫婦とは、そうあるべきなのかもしれないな。
 それにしてもギルはよくやってくれるものだ。

「とりあえず安静にしておいた方がいいかな」

「そうだな…一緒に寝てはくれないか?」

「うん? いいよ? どうせ今日は仕事もないからね」

 そう言ってベッドまでエスコートしてくれる辺り、紳士力が高い。
 私が男性体だった頃に出会えていれば、良き友となれていたに違いない。
 まぁ、今は友以上の存在…最愛の夫とあいなった訳だが。

「それにしても、アリスがこんな甘え方してくるなんて珍しいね」

「ふむ…そうだったか?」

「うん。いつもなら僕の事を考えてくれるだろう?」

 そう言えばそうか。
 気が付けば私は、ギルに甘えてしまっていたようだ。
 子供が親に愛情を注ぐが如く、妻が夫を愛するように、しかしそれら全てを凌駕する程の甘えという形で。

「でも、そういうアリスも可愛くて、僕は好きだな」

「っ?! ば、馬鹿者っ! そんな急に可愛いなどと…恥ずかしいではないかっ!」

 気取らせるものか…今の一言でまた膣が疼いてしまった事を。
 枷を外してなるものか…今回はもう、お腹の子の為にも休憩するべきなのだ。

「っと…寝転がるとお腹大きくなってるのがよく分かるね」

「ギル…それ、昨夜も同じことを言っていたぞ?」

 よほど私達の子の事が気に入っているのだな。
 それでこそわが夫…おっ?

「ギル、また蹴ったぞ」

「おお…どれどれ…」

 私たちの惚気話を聞いて、鬱陶しくでも思ったのだろうか?
 だとしたらこの子はきっと、私なんて凌駕するほどの天才となるだろう。
 そう願いつつ、私たちは温かい日差しの中で昼寝と洒落こむ事にした。


 そして数か月後、元気な女子が生まれるのだった。

つづく
17/05/17 21:18更新 / 兎と兎
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