化け猫の穏返し
右からも左からも老若男女様々な人の声が聞こえてくる。
皆、目の前に出された物を競り落とすのに苦労しているのだろう。
店から買うよう指示されて買いに来た者や、自分の店に使うと言う理由から買い求めて来た者。
その他大勢の人々が大声で言い値を言い合って競っている。
次に目立つのは何と言ってもこの海独特の潮の香り。
そして次に、この様な場所でしか匂わないような魚臭さである。
「こっち!1万5000だ!」
「なら、こっちは16000!」
「おーい!2万で頼む!」
「ならこっちは22000だぁ!」
どうやら今は、アンコウか何かを競り落としているようだ。
相当に大きく長生きしていた物を捕えたらしく、今日一番の値張りモノになるだろう。
「はぁ、なんで俺はこんなに才能…ないんだろうなぁ……」
そんな中俺は、全然競り勝つ事も出来ずに一人さびしく隅の方でしゃがみ込んでいた。
声を出そうが金を持っていなくては意味が無い。
店から格安で競り落としてこいとは言われたものの、流石に渡された金が少なすぎるのだ。これだと、俺の給料1日分
よりも安いだろうな。
ニー……
「んっ?猫…」
俺の目の前に猫がやってきた。
どうやら腹を空かしている小さな子猫らしい。
何日も食べていないのだろうか、その足取りはフラフラしていて、見ていてハラハラさせられるばかり。
「どうした?腹減ってるなら…」
「まぁた子猫か。ボーズそこどけ。追っ払うからよ」
そう言って出しゃばって来たのは、どうやら大物も何も獲れず鰯や鯛などを売っているらしい男だった。
売上で言えば、そこそこ買いに来ている者も多いだろうに。
そんなにすぐ近くの者が大物ばかり獲って来た事を悔やんでいるのか。
まるで子供の様な理屈で笑いがこみ上げてきそうだ。
「しっしっ。テメェらに喰わせるメシなんざ無いんだよっ!」
「……オヤジ、売れ残ってる質の悪いヤツでいい。魚くれ」
今思えば、俺は何でこんなことをしようと思い至ったんだろうか。
別に、あの猫の買い主でも無ければ育てている訳でも無い。
だが何故か、あの猫に少しでも恵んでやりたいと思っていた。
オヤジが何度も止めようとすが止めるものか。
「……ほれほれ、うまいか?」
ニー……
「そうかそうか…」
どうやら味としては気に入ってくれたようだ。
物凄い勢いで鰯を一匹平らげてしまった。
もう頭のアラと骨程度しか残っていない。
マンガ等でそんな描写を見るだろうが、見た目と全然変わりが無い。
まるでわざとそういう形になるように遊びながら食べていたかのよう。
因みに内臓類は、保存によくない為釣りあげた時にでもかっ捌いて取り出した後だったのだろう。
「よっし、それじゃ俺もそろそろどこのを買うか探して…」
「次は〜、カリュブティスカイヨウマグロだよ〜?」
フジツボからマグロの身体が生えたような構造をしている、泳ぐのには絶対適さない身体を持つマグロの仲間である。
形状的にはカニの仲間と勘違いする人も多いと言われる。
海底の大きな岩や岩盤などに噛み付いてくっつき、そこで暫くの間は食事と休憩だけで過ごす。
その間は完全に無防備な為、素潜りでも捕まえる事が出来るほど。
しかも通常のマグロと比べて泳ぐのも遅いし逃げるのも下手だ。
以上、つたない魚知識でした。
「そういやアレだっけ?テンチョーが買ってこいって言ってたの…」
ニ〜♪
「よしよし、もう飯に困ったりするんじゃないぞ〜?」
そう言えば、何故この猫はとても人懐っこかったのだろう?
さっきだって、普通ならパッと奪っていくようなものを小さくお辞儀をして受け取っているのだ。
一発芸を仕込まれた事でもあるのだろうか。
そんな事を思いながらも、猫の食事風景を見ているのは少し癒される気分になる。
モリモリと魚を食べているのを見ていると、なんだか心の中が洗われるような感じ。
だって気が付けば3匹目をあげていたのだから。
ニ〜♪
「ん?どうした?親の所に帰らないのか?」
飯もやったし少しだったが遊んでやった。
そうまですれば疲れも出てきて帰るだろう。
その方が、店のオヤジも怒らないし、一番良い解決方法な訳だ。
そう思っていた俺の儚い予想は、音を立てて崩れ落ちた。
帰らないのだ、猫が。
足に摺りついて来て離れない。
「おいおい、俺は飼ってやれないぞ?ウチは動物禁止だからな?」
ニ〜……
「落ち込むなって。その内に、もっといい飼い主が見つかるさ」
正直、心底そうであってほしい物だ。
ここに来る途中で何匹もの猫の死骸を見つけたのだから。
こんな子猫があれの仲間入りは寝覚めが悪い。
だが、どうする事も出来はしない。
「……分かった、上と交渉するよ…」
ニ〜♪
結局、子猫は買い物を終えるまでベッタリくっ付いて離れなかった。
よく見ると、大型犬なんかに稀に見られるオッドアイのようで、毛並みも整えてやれば綺麗になりそうだ。
三毛猫のようだが、どうも頭がいいらしい。
人との接し方も分かっていたし、何より餌をやるとお辞儀する猫なんてそうそう聞く事も無いだろう。
これなら、もしかすると店長も気に入って飼う許可をくれるかもしれない。
と言う訳で、俺はこの猫を連れて帰る事にした。
よく小説などで猫や犬を拾って帰るとその内に恩返しに来るとか聞くが、そんな幻想に興味はない。
―――――――――――――――――
特に怒られる事も無く、店長は猫の飼育を許可してくれた。
なんと心の広い人なのだろうか。
本当は成長したら看板娘、基看板猫として許可したとかボロを出しはしたが、それでも嬉しい。
ついでに言うなら、俺の部屋はこの上の階なのだから更に嬉しさに拍車がかかる。
それはそれとして店の方は大丈夫なのだろうか。
「店長、今日は団体予約入ってるって…」
「あぁ、それなら心配いりませんよ?なんだか半数以上が都合が悪くなったらしくて、今日は私だけで応対出来そうで
すもの♪」
皆見て欲しい。
別に人を惑わす淫魔だったりする訳でもないのだが、それでもこの美貌である。
その割にこの大人しい性格。
まさに非の打ちどころがない。
「もぅ、口に出して言わないでくださいよ♪照れちゃうじゃないですか♪」
「いや、給料もう少し上がらないかなぁと思ったけどダメでした」
「そこはもっと隠すべきだと思うんですけど…」
と、まぁいつもの冗談を言い合った所で俺も部屋へ戻る事にする。
どうやらこの子猫に階段は大きすぎるのだろう。
階段を一段も上がれずに困惑しているようだ。
なんだかそれを上から見ているとサディストの気持ちが分かる気がして気味が悪い。
別にそんな趣味を持っている訳ではないし、そんな性癖を持ちたいとも思わない。
逆の被虐思考なんて以ての外だ。
「ほら、だっこしてやるよ…」
まるで、そうしてくれと言うかのように子猫はその場でジッとして動かなくなった。
普通の猫なら抱っこは少しくらい嫌がるかもしれないのに。
まぁ、とりあえずそのまま優しく抱っこしてやる。
ニー♪
どうやら抱っこされて嬉しいらしい。
地に足付かない感覚なのだから、多少怖い物なのだろうが、この猫はそれは全く気にしないようだ。
「…おっ?生えてない…って事はお前メスなのか」
ッ!?フニーーッ!!
どうやら♀である事に何らかの抵抗があるらしい。
それとも、女性と思われていなかった事に対して怒っているのか?
人間じゃあるまいし、そんな事で怒られてもしょうがない。
そうこうしてる間に自室に辿りついた。
4階建てのちょっとしたアパートを改造して大型の飲食店にしたらしいが、設立当時の事など俺は一つも知らない。
最初はここでバイトしていて、親の死がきっかけでここの4階に部屋を貰って住んでいるのだ。
多分、ここのバイトをしていて、しかも店長と両親が昔から仲の良い友達だと言う経緯が無ければ今頃俺はのたれ死ん
でいただろう。
「ふいぃ…今日も疲れたぁ…」
「ファル」と子供っぽい字で書かれた表札の掛かった扉を開けていつもと同じように自分の部屋に入る。
目の前にはいつもと同じ見なれた風景が広がる。
ベッドの布団はグチャグチャに乱されているし、床には数冊の本が転がっている。
どれもこれも読み終わった後に片付けるのが面倒になって放ってあるだけなのだが、最近こまめに片付けするようにな
ってこれでも散乱は比較的抑えられている方だ。
他には特に何も無く、ただただ帰ってきたと言う達成感に似た何かがあると言うだけに過ぎない。
「ほら、ちょっと汚いけどここがお前の家だぞ?」
ニー♪
喜んでいただけた様で幸いだ。
しかし、トイレとか小屋とか餌とかはどうすればいいのだろうか。
まぁ、今日はもう寝る時間も迫っている事だし寝る事にしよう。
そう思ったが早いか、俺は店長に猫を預けるとさっさと眠りに付く。
―――――――――――――――――
「―――ご主人さま!起きるにゃ!」
人は、意識が覚醒に近付くとついさっきまで見ていた夢の内容をブロック崩しで忘れて行くのだと何処かで聞いた事が
無くも無い。
まぁ、それはそれとして。
先程から誰かに身体を揺すられている。声もハッキリと聞こえてきた。
声の調子や喋り方の未熟さからまだ自分よりは年下だと分かる。
いや、もしかすると一回り程も幼い少女なのではなかろうか。
そう思いながらも、俺は自分の重い瞼をゆっくりと開く。
「良かったにゃ……ご主人様、返事ないから死んじゃったかと思ったにゃよ…」
俺の人生をもう一度振り返ってみよう。
俺は、親の死別が原因でこの店に住ませて貰っている。
それも店長が親の友人であるが故の事だ。
他にも何人か従業員は居るが、住み込みでいるのは俺だけ。
更に言ってしまえば、この店で働いている者は、俺以外は全員女性だと言う事。
それくらいだろうか。
そうなぞって行く中で、目の前の幼い少女の顔は一度たりとも見てはいない。
少なくとも、俺の知り合いにこの様な女の子はいない。
居たとしても、周りからは冷たい視線が送られるだけだろう。
「……誰?」
「あっ、この姿じゃ分からないにゃ?それじゃ…」
自分の身なりを確かめるように流し見た彼女は、そのまま突っ立つと眼を閉じた。
すると、彼女の身体が霞のように消えて行く。
一瞬だけ自分の目を疑いはしたが、彼女の姿は次の瞬間にはどこにもない。
代わりに、先程まで彼女の足元に当たる位置だった場所に昨日の猫がいた。
「これで分かった?」とでも言いたそうな笑顔を向けてくる辺りも考えて、先程の彼女は現在、この猫に化けているら
しい。
いや、猫が先程の様な少女に化けていたのだろうか。
「……ほれ、マグロ…」
ニャー♪
なんだかどちらでもいい気がしてきた。
適当にそこらに転がっていたマグロの刺身を与えてやると大喜びでがっつく。
まるでそれ以外には興味が無いように只管食べ続けている様は、さしずめ捕食者と言ったところだろうか。
頭を撫でてやっても気にせずムシャムシャ食べている。
ずっと見ているとすごく和む。
「よしよし♪まだまだあるからな?」
「それは嬉しいにゃ♪」
頭を撫でているといきなり先程の少女に化けて出る。
いや、元の姿になったのだろうか。
再びどっちでもいい。
今になって、彼女をよく見てみるとおかしい点は幾つもあった。
まずは頭頂部で時折ピクッと動くネコミミ。
そして、喜んだりした時に猫の様にブンブン振り回される猫の尻尾。
更には、腕の周りは体毛で覆われていて掌も猫の様な形に拡大されている。
体毛も含め、髪の毛も先程の猫を連想させる三毛だった。
所々に斑模様が出来ていて、それで三毛猫かと言いたくなる。
「ところでご主人」
「ん?なんだ?」
「アッチの経験はあるかにゃ?」
「んなっ?!」
いきなり唐突に電光石火で何を聞いて来やがりますかこの猫は。
勿論、俺の想像している『アッチ』の経験で間違いないのだろう。
言わずもがな、俺はそんな経験は一切ない。
女性自体とは沢山触れあっているが、言ってもここの店の従業員ばかり。
たまに女性客に誘惑の言葉を掛けられるがそれは丁重にお断りしている。
当然だ、ここは飲食店であってホストクラブじゃないのだから。
「あっ、あるわけないだろっっ?!」
「そうにゃ?それは嬉しいにゃ♪」
「…言っとくけど、寝込み襲ったりしたら金輪際飯あげないからな?」
「に”ゃ”っ?!」
最後の言葉が効いたのだろうか、彼女はゲッと言う感じの声を上げてその場に縮こまる。
炬燵ではないが丸くなる猫を見るのはとても和む。
もっとも、今の彼女は猫では無く人だが。
そこで、ふと思う。
「あれ?そういえばまだ名前決めて無かったな…」
「私も自分の名前はないにゃ」
「うぅん……それじゃ、三毛猫だしミk…」
「それだけはダメにゃ!!」
具体的な名前を出してやろうとしたら彼女の手が口を塞ぐ。
やっぱりポピュラーなだけの名前は嫌なのだろう。
他にも幾つか言い合ってみた。
ナナシ、ニャコ、ビクトリカ、デジコ、ミオ等々
だが、結局これになってしまう。
「んじゃ、最後のミカで行くにゃ♪」
「それでいいのかよ……」
何故だろう、色々と危ない橋を渡った気がする。
石橋は叩いて渡る人間であろうファルに対して、ミカは石橋は砕いて新しく鉄橋を作って渡るタイプなのだろう。
なんにせよ、彼女の名前が決定した。
『ミカ』ミケから少し弄っただけの簡単な名前だ。
そこらへんに転がっていそうな名前だがしょうがない。
他の案は皆危険極まりないのだから。
「それで、だミカ?」
「なんにゃ?」
「お前、もしかして発情期なのか?」
「お察し頂き嬉しいにゃ♪」
なぜいきなり畏まった口調になったのだろう。
と言うか、先程からミカの視線が微妙に低いと思っていたのだ。
思っていたらこのザマだ。
彼女の視線は先程から、ファルの顔から逸れてもう少し下の方、具体的には下半身に注がれている。
そこには、寝起きの所為か少し大きくなっている逸物が存在を主張して……いなかった。
「いやいや、朝勃ちとかしないって」
「ぅにぃ……」
そんなに残念そうな顔をされても。
しかし、ミカも本当にどうしたものか。
このまま発情期を過ごさせていては単なる淫乱ビッチ少女になりかねない。
そんな事になってしまえば、連帯責任でファルも白い目で見られるようにもなる。
もしかすると店長から追い出されるかもしれない。
だからといって、ファルに幼女趣味がある訳も無く。
だがこのままミカを放置していては…
――の無限連鎖が約10分ほど続いた。
その間、暇だったミカがファルの部屋の中を物色していたのは言うまでも無い。
「ご主人ご主人!こんなの見つけたニャ♪」
「…ん?なんだそれ………ゲッ!エロ本?!」
「ふむふむ……ご主人は小さい子が好みなんにゃね…」
ミカが不意にベットの下から引っ張り出して来たのは、ファルの見覚えのない本だった。
本の端の方には小さく18の数字に斜め線が引かれている。
表紙の方も、完全に眼の光を失った小さな少女が鎖で繋がれて白い液体に塗れている姿だった。
こんな表紙ではどこかの誰かも駆けつけてくるだろう。
だがそんな事は問題じゃない。
このようなエロ本に、ファルは全く見覚えが無いのだ。
ベットに入れた覚えも無いし、ましてや手に入れた覚えも読んだ覚えもない。
「うわぁ……この女の子かわいそうにゃ…」
とか言ってミカが本の一ページを見せつけてくる。
そこには、鎖に縛られながら数人の男に輪姦されている見た目小学生程度の女の子の姿があった。
だが、少女の姿はどこか人間とは違っており、下半身は蛇の姿をしていた。
この店にも一人働いている、ラミアと同じ魔物だろう。
しかし酷い有様だ。
口には猿轡をはめられており、乳首にリングを付けられ、首には犬に付けるものであろう首輪。
更には足元に人間では入らないような大きさのバイブがビショビショの状態で転がっていた。
「なんか……すっごい酷いな…」
「ご主人はこんな事絶対にしないにゃよね?」
「あぁ……こんなのだけはしない。と言うかしたくない…」
「にゃっ!?と言う事はご主人は優しくしてくれるにゃかっ?!」
なんだか話をねじ曲げられた気がする。
だが、この一瞬の間で話のねじ曲がりに気付くほどファルは器用では無かった。
「あぁ、優しくするさ……えっ?!」
「やったにゃ♪両者の承諾ゲットだにゃ♪」
とか言いながらミカがファルのズボンを降ろしにかかる。
というか、気付いた頃にはもう下半身は何も履いていなかった。
「えっ、いや…両者の承諾って俺は何も…」
「いいから大人しく銜えられるにゃ。はむっ♪」
ミカが唐突にファルの萎えて小さくなっているペニスを口に銜えた。
小さかった為なのか、ミカの口の中にすっぽりと収まってしまう。
それでもまだまだ大きくなるのを分かっているミカは、ペニスを至る方向から舐め回す。
そうすれば、たちまちにファルのモノがみるみる大きくなっていく。
「あぅ……ミカ…」
「にゃんにゃ?」
銜えたまま喋るものだから、振動がそのまま伝わってファルのモノもかなりの大きさになった。
今となっては、ミカの口に収まりきらないほど膨張している。
それに時折脈打っており、射精が近い事も知らせている。
「ミカの口……ざらざらしてっ………うぐっ…」
「ぐにゃっ?!……ゴックン……ジュルルルル…プハッ♪」
ロクに我慢も出来ずに迸ったファルの精液は、ミカの口の中をこれでもかと言うほどに汚す。
口の中が精液でドロドロになるのを感じながら、ミカは口の中のソレをまとめて飲み干す。
だが、まだまだ足りないのか残りも全てを吸い取って行く。
最終的には吸い終わった直後にもう一度射精している為、二回分の精液全てをミカが飲んだ事になる。
「あ……ハァ…ハァ……」
「ゴクン……ハァ…ハァ……まだまだ欲しいにゃ…」
すっかり発情して顔も真っ赤に染まっているミカを可愛く思い始めた頃にふとファルは気付いた。
部屋に嗅ぎ覚えのない匂いが充満していたのだ。
その匂いに気付くと、急に自分の逸物が自己主張を激しく始めた。
自分でも驚くほどに勃起して膨張して膨らんでいく。
それを見て、ミカも興奮気味なのか息がとても荒い。
「ハァ…ハァ……ご主人のぺにしゅ……ペロッ…」
「うぁ……ミカ…きもちぃ………って!アンタは何見てるんだ!?」
ミカが舌を使ってファルの逸物を舐め回し始めた時の事。
視界の隅で、見覚えのある人物が扉をほんの少しだけ開けて覗いているのが見えた。
それは明らかに、この店の店長であった。
だが、どこか様子がおかしい。
それに、良く見ると匂いは店長の居る方から漂っている様子。
どうやら、店長は媚香を持ちだして来ていたらしい。
それを用いてファルと今更感極まりないが既成事実でも作ろうとしたのか。
だが先客が居るとは知らなかったのだろう。
ミカの声を取り除くと、店長の荒い息遣いが聞こえてくる気がした。
「はふっ……ジュルルル…?……プハッ…ごしゅじん…?」
「……」
ミカからすれば、ファルが突然呻く事もしなくなって、それどころかミカへの興味も逸れていると見えた。
そうなれば、彼女のすることはただ一つ。
興味と視線をこちらに無理やり引きずり戻せばいい。
「ごしゅじーん!」
「えっ?うがあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
全然ミカの方を向かないファルに苛立ちを覚え始めた彼女が取った行動。
それは、ファルの膨れ切った逸物に噛み付く事だった。
甘噛みでもなければ本気噛みでもないので喰いちぎる事はない。
だが、確実にファルには激痛を伴った電撃の様な快感が走る。
それを証明付けるかのように、狂おしい程の快感を受けたファルは唸りながら泣き叫ぶ。
それと同時に溜まっていた射精感が一気に爆ぜる。
その精液は、驚いて顔を引っ込めていたミカの顔面を白く汚して行く。
「あ……ごしゅじん………ごめんにゃさい…」
涙目になりながら荒い息で必死の形相を作ってミカを睨みつけるファル。
今にも怒りそうなその表情を見て怯えたミカは、そのまま視線を落として涙目になりながら謝る。
「ハァ……ハァ……も、もうあれはしないでくれ…」
すっかり痛みで萎えた逸物からは、未だに精液が垂れ流れている。
だが、それは誰に飲まれるでもなく床に虚しく落ちていく
暫く沈黙は続いたが、唐突にファルの扉が開け放たれてその沈黙も終わりを告げる。
「ファルく〜ん!お店の方手伝って……ご、ごめーん、お楽しみ中だったのね〜…」
さっきまで扉の前に居たであろう店長が、さも今来たかのように装ってファルの部屋に入って来た。
そこで店長の視線に入ってきたのは、もちろんお楽しみ中のファルとミカだ。
良く見れば後ろから媚香の煙が昇っているとか、前掛けが何かで濡れているとか、顔が火照ったように紅いとか、ツッ
コミ所は満載だ。
だが、店長のお陰ですっかり興醒めになってしまっていたファルとミカはもう先へは進めない。
「あ……その…ごめんにゃ…」
「えっと……その…こちら…こそ…」
何度でも言おう。
店長の所為ですっかり興醒めしたっ!
すっかり勃起している、モニターの前のアタナ!
恨むんなら、こんな展開にした作者ではなく、空気をぶち壊した店長を恨みなさい!
―――――――――――――――
結局、ミカの発情期はフェラだけで解決した。
今となっては身体中の疼きも火照りも無く、健やかに業務に勤しんでいる。
「ファル〜?銀皿棚の上から取ってちょうだーい?」
店長が客への応対をしながらファルに皿を取るよう言う。
その皿のある場所は、周りの従業員を見るに全員が取れそうにない一にあった。
具体的には、この中で身長の大きい方である店長も、背伸びして手を伸ばしても頭一つ分届かない程度。
だが、その程度の高さならばファルにはどうという事はない。
「は〜い……これか……」
「にゃっ?!にゃぁぁぁ!ごしゅじ〜〜ん!?」
いつもと同じように軽い身のこなしで棚の上にある皿を取ろうとしたファル。
その横っ腹を、ミカが突撃してきた。
そのまま直撃を受けたファルは、皿を掴んでいた手を離してその場に倒れ込む。
「いっつつ……大丈夫か…ミカ…?」
「だ、だいじょうぶにゃ!」
「ちょっとー!今の音なんなのよ〜!」
二人が倒れたのを心配してか、一人の少女が不思議な入れ物から頭だけ出して声を掛ける。
彼女は、この店の中でもあらゆる客層から人気を集める所謂アイドル、カリュブティスのカルティーである。
カリュブティスと言う種族の性質上、ロクに歩く事も出来ない。
それなのにどうして移動できるのか。
答えは簡単だ。
カルティーは現在、大型のポリバケツに身体を埋めて動いている。
イメージ的には、ポリバケツから手と頭だけ出した少女がピョコピョコと入れ物を揺らして動いていると思って良い。
「カルティーちゃーん?オーダー入りまーす♪」
「あぁ、ちょっと待って―!」
遠くの方から女性の声が聞こえる。
その声の正体を、ファルは知っている。
特徴的な、澄み渡る海の様な声音。
それに混じってたまに聞こえる羽が擦れるような音。
その正体は、セイレーンであるレーネの物だ。
一部客層ではファンクラブを結成したいと言う動きもあると言われる程に人気がある。
因みにこの店では一番皿を割った回数が多いらしい。
「こんちわー!」
「あっ、いらっしゃいませー!」
こうして、楽しい毎日は過ぎて行く。
たまに、ミカが発情期を迎えてファルが苦労する事もある。
だが、それでもみんながみんな楽しく明るく暮らして行くのだ。
――――――――――――――――――
ここからは裏話。
時間的には、ファルがミカと本格的な子作りを始めてしまった頃の事。
ミカがファルと愛し合うようになってから、かれこれ4か月が経った。
その頃、とある一つの異変が起こる。
「店長?どうしたんですいきなり…」
買い出しも終えて、疲れ切った様子のファルがそっと店長の部屋の扉を開ける。
しかし、業務机の上には店長の姿は見当たらない。
代わりに、隣の寝室から微かに店長の声が聞こえる。
僅かな陶酔の声、そして快感に身体を震わせるような甘い声。
「……また後で来よう…」
そう思って、ファルが店長の部屋を出て行こうとした、その時だ。
荒い息と小さな喘ぎ声しか出さなかった店長が何かを言った。
「――――ファル――君―――もっと―――はげ―くぅ―――――っ!?!!?―」
「っ?!」
隣の寝室のベットの上で自慰に耽っていた店長の口から洩れたファルの名前。
それだけでも、ファルが店長は何をオカズにしているのかが大体予想が付く。
店長は、ファルをオカズに自慰をしているのだ。
そうだと知れば、不思議とファルの足は止まってしまう。
別に悪気なんて無い。
たまたま声を聞いてしまっただけであって、何も悪い事をしようとしていた訳ではない。
それでも、ファルの身体は少しづつ、少しづつ店長の寝室の扉を開こうとしていた。
「んっ……んはぁぁぁぁぁぁっ!?」
「っ?!」
つい扉を少し開いて中を覗き込んだファル。
そこに居たのは、いつもとは違う店長だった。
まず、いつも着ているであろうエプロンやらはベットの傍に脱ぎ散らかしてある。
まず、この時点で几帳面な店長らしからぬ事であった。
だが、もっと驚く事があった。
「て……店長が………さ、サキュバス…」
そう、店長の背中からは、悪魔をほうふつとさせるようなフォルムの翼と尻尾が生えていたのだ。
しかも、イッたらしくどちらも身体に合わせてピンッと伸びたりブルブルと震えたりしている。
その内にグッタリとその場に崩れ落ちた店長の姿が、だんだんとぼやけてくる。
「ぅぅん…?なんか……視界がぼやけて…」
暫くの間、視界のぼやけと格闘していたファルであったが、ハプニングは唐突に訪れた。
荒い息をしてグッタリしているであろう店長の姿が、まるで最初から誰も居なかったかのように消えたのだ。
更に変化に気付く。
よく見渡せば、この部屋は店長の部屋では無い。
だんだんと壁紙の色が白を基調としたベージュから変わって行き、心の底から性欲を引きだすようなピンク色へ変貌し
たのだ。
その内装はラブホテルを彷彿とさせるのかもしれない。
「覗き見はイケナイわねぇ……ねぇ、ミカちゃん?」
「そうにゃ!ごしゅじんは覗き魔だったのにゃ!いけない事なのにゃ!」
うっすらと残るような微かな意識を引き戻そうとしていたファルの背後に、店長とミカが立つ。
どうやらこれは、二人掛かりで仕掛けた物の様だ。
今ふと思い返してみれば、部屋の装飾の所々が猫っぽい装飾になっていた気もする。
と言うか、今まで見せていた物全てが幻覚だとすると、店長の部屋だと思って入った部屋が違っていたと言う事に。
「で〜も、ファル君だったら……してくれることしてくれたら許しちゃう♪」
「私もごしゅじんだったら何でも許すにゃ♪」
とか言って、麻酔魔法を撃ち込むのは止めて下さい店長。
身体は動かない、なのに店長たちの思うように動かされる、一部というか勃起出来る部分がすごく元気になる。
そんな意味不明な麻酔薬、もう二度と喰らいたくはない。
だが、そんな思いも虚しくファルは店長とミカに身ぐるみ剥がされた。
「ぅ……ぁ…」
「うふふ…苦しいでしょう?早くしたいわよね?でも、我慢なさい?」
「にゃにゃっ?!てんちょーさんいつもより数段ドSにゃ!?」
麻酔の所為で口すらも動かせなくなっていたファル。
本当にこれが麻酔なのか疑問に思い始めた頃に、異変は起こる。
唐突にファルの頭の中に靄の様な物が掛かった感覚があった後、意識が寝起きの時の様に不確かな感覚に陥った。
それは全員が同じ様で、ミカはトロンとした表情のままファルの方を見つめ、店長は顔を紅潮させてファルの腹に跨っ
た。
「うふふ……私もぉ……これすんごく欲しいけど…我慢してるのよぉ?」
「にゃにゃぁ……ごしゅじんすっごくえっちぃにゃ…」
ファルの上に跨っている店長が、後ろ手にファルのはちきれんばかりに膨れ上がった逸物を軽く撫でる。
それだけで逸物は何度も痙攣したようにビクビクと震えてしまう。
逸物とファルの顔の間で視線を行ったり来たりさせているミカはすっかり発情しているようだ。
ミカの尻尾が自分の秘部の辺りを擦っているのが見える。
「それじゃぁ……ぐっちょり犯してあ・げ・る♪」
「にゃぁ!てんちょーさんずるいにゃ!私もいっしょに犯るにゃ〜♪」
「う、うわぁぁぁぁぁぁ…」
こうして、三人は互いを互いに愛し合うようになっていく。
ミカ曰く、「ごしゅじんが好きで私も好きなら大歓迎にゃ♪」
だそうで。
これでは、ファルの身体が持ちそうにない。
しかしそんな時の各種秘薬と言う物を、店長は常備していた。
数週間もする頃には、ファルはもう立派なインキュバスになっているだろう。
FIN
皆、目の前に出された物を競り落とすのに苦労しているのだろう。
店から買うよう指示されて買いに来た者や、自分の店に使うと言う理由から買い求めて来た者。
その他大勢の人々が大声で言い値を言い合って競っている。
次に目立つのは何と言ってもこの海独特の潮の香り。
そして次に、この様な場所でしか匂わないような魚臭さである。
「こっち!1万5000だ!」
「なら、こっちは16000!」
「おーい!2万で頼む!」
「ならこっちは22000だぁ!」
どうやら今は、アンコウか何かを競り落としているようだ。
相当に大きく長生きしていた物を捕えたらしく、今日一番の値張りモノになるだろう。
「はぁ、なんで俺はこんなに才能…ないんだろうなぁ……」
そんな中俺は、全然競り勝つ事も出来ずに一人さびしく隅の方でしゃがみ込んでいた。
声を出そうが金を持っていなくては意味が無い。
店から格安で競り落としてこいとは言われたものの、流石に渡された金が少なすぎるのだ。これだと、俺の給料1日分
よりも安いだろうな。
ニー……
「んっ?猫…」
俺の目の前に猫がやってきた。
どうやら腹を空かしている小さな子猫らしい。
何日も食べていないのだろうか、その足取りはフラフラしていて、見ていてハラハラさせられるばかり。
「どうした?腹減ってるなら…」
「まぁた子猫か。ボーズそこどけ。追っ払うからよ」
そう言って出しゃばって来たのは、どうやら大物も何も獲れず鰯や鯛などを売っているらしい男だった。
売上で言えば、そこそこ買いに来ている者も多いだろうに。
そんなにすぐ近くの者が大物ばかり獲って来た事を悔やんでいるのか。
まるで子供の様な理屈で笑いがこみ上げてきそうだ。
「しっしっ。テメェらに喰わせるメシなんざ無いんだよっ!」
「……オヤジ、売れ残ってる質の悪いヤツでいい。魚くれ」
今思えば、俺は何でこんなことをしようと思い至ったんだろうか。
別に、あの猫の買い主でも無ければ育てている訳でも無い。
だが何故か、あの猫に少しでも恵んでやりたいと思っていた。
オヤジが何度も止めようとすが止めるものか。
「……ほれほれ、うまいか?」
ニー……
「そうかそうか…」
どうやら味としては気に入ってくれたようだ。
物凄い勢いで鰯を一匹平らげてしまった。
もう頭のアラと骨程度しか残っていない。
マンガ等でそんな描写を見るだろうが、見た目と全然変わりが無い。
まるでわざとそういう形になるように遊びながら食べていたかのよう。
因みに内臓類は、保存によくない為釣りあげた時にでもかっ捌いて取り出した後だったのだろう。
「よっし、それじゃ俺もそろそろどこのを買うか探して…」
「次は〜、カリュブティスカイヨウマグロだよ〜?」
フジツボからマグロの身体が生えたような構造をしている、泳ぐのには絶対適さない身体を持つマグロの仲間である。
形状的にはカニの仲間と勘違いする人も多いと言われる。
海底の大きな岩や岩盤などに噛み付いてくっつき、そこで暫くの間は食事と休憩だけで過ごす。
その間は完全に無防備な為、素潜りでも捕まえる事が出来るほど。
しかも通常のマグロと比べて泳ぐのも遅いし逃げるのも下手だ。
以上、つたない魚知識でした。
「そういやアレだっけ?テンチョーが買ってこいって言ってたの…」
ニ〜♪
「よしよし、もう飯に困ったりするんじゃないぞ〜?」
そう言えば、何故この猫はとても人懐っこかったのだろう?
さっきだって、普通ならパッと奪っていくようなものを小さくお辞儀をして受け取っているのだ。
一発芸を仕込まれた事でもあるのだろうか。
そんな事を思いながらも、猫の食事風景を見ているのは少し癒される気分になる。
モリモリと魚を食べているのを見ていると、なんだか心の中が洗われるような感じ。
だって気が付けば3匹目をあげていたのだから。
ニ〜♪
「ん?どうした?親の所に帰らないのか?」
飯もやったし少しだったが遊んでやった。
そうまですれば疲れも出てきて帰るだろう。
その方が、店のオヤジも怒らないし、一番良い解決方法な訳だ。
そう思っていた俺の儚い予想は、音を立てて崩れ落ちた。
帰らないのだ、猫が。
足に摺りついて来て離れない。
「おいおい、俺は飼ってやれないぞ?ウチは動物禁止だからな?」
ニ〜……
「落ち込むなって。その内に、もっといい飼い主が見つかるさ」
正直、心底そうであってほしい物だ。
ここに来る途中で何匹もの猫の死骸を見つけたのだから。
こんな子猫があれの仲間入りは寝覚めが悪い。
だが、どうする事も出来はしない。
「……分かった、上と交渉するよ…」
ニ〜♪
結局、子猫は買い物を終えるまでベッタリくっ付いて離れなかった。
よく見ると、大型犬なんかに稀に見られるオッドアイのようで、毛並みも整えてやれば綺麗になりそうだ。
三毛猫のようだが、どうも頭がいいらしい。
人との接し方も分かっていたし、何より餌をやるとお辞儀する猫なんてそうそう聞く事も無いだろう。
これなら、もしかすると店長も気に入って飼う許可をくれるかもしれない。
と言う訳で、俺はこの猫を連れて帰る事にした。
よく小説などで猫や犬を拾って帰るとその内に恩返しに来るとか聞くが、そんな幻想に興味はない。
―――――――――――――――――
特に怒られる事も無く、店長は猫の飼育を許可してくれた。
なんと心の広い人なのだろうか。
本当は成長したら看板娘、基看板猫として許可したとかボロを出しはしたが、それでも嬉しい。
ついでに言うなら、俺の部屋はこの上の階なのだから更に嬉しさに拍車がかかる。
それはそれとして店の方は大丈夫なのだろうか。
「店長、今日は団体予約入ってるって…」
「あぁ、それなら心配いりませんよ?なんだか半数以上が都合が悪くなったらしくて、今日は私だけで応対出来そうで
すもの♪」
皆見て欲しい。
別に人を惑わす淫魔だったりする訳でもないのだが、それでもこの美貌である。
その割にこの大人しい性格。
まさに非の打ちどころがない。
「もぅ、口に出して言わないでくださいよ♪照れちゃうじゃないですか♪」
「いや、給料もう少し上がらないかなぁと思ったけどダメでした」
「そこはもっと隠すべきだと思うんですけど…」
と、まぁいつもの冗談を言い合った所で俺も部屋へ戻る事にする。
どうやらこの子猫に階段は大きすぎるのだろう。
階段を一段も上がれずに困惑しているようだ。
なんだかそれを上から見ているとサディストの気持ちが分かる気がして気味が悪い。
別にそんな趣味を持っている訳ではないし、そんな性癖を持ちたいとも思わない。
逆の被虐思考なんて以ての外だ。
「ほら、だっこしてやるよ…」
まるで、そうしてくれと言うかのように子猫はその場でジッとして動かなくなった。
普通の猫なら抱っこは少しくらい嫌がるかもしれないのに。
まぁ、とりあえずそのまま優しく抱っこしてやる。
ニー♪
どうやら抱っこされて嬉しいらしい。
地に足付かない感覚なのだから、多少怖い物なのだろうが、この猫はそれは全く気にしないようだ。
「…おっ?生えてない…って事はお前メスなのか」
ッ!?フニーーッ!!
どうやら♀である事に何らかの抵抗があるらしい。
それとも、女性と思われていなかった事に対して怒っているのか?
人間じゃあるまいし、そんな事で怒られてもしょうがない。
そうこうしてる間に自室に辿りついた。
4階建てのちょっとしたアパートを改造して大型の飲食店にしたらしいが、設立当時の事など俺は一つも知らない。
最初はここでバイトしていて、親の死がきっかけでここの4階に部屋を貰って住んでいるのだ。
多分、ここのバイトをしていて、しかも店長と両親が昔から仲の良い友達だと言う経緯が無ければ今頃俺はのたれ死ん
でいただろう。
「ふいぃ…今日も疲れたぁ…」
「ファル」と子供っぽい字で書かれた表札の掛かった扉を開けていつもと同じように自分の部屋に入る。
目の前にはいつもと同じ見なれた風景が広がる。
ベッドの布団はグチャグチャに乱されているし、床には数冊の本が転がっている。
どれもこれも読み終わった後に片付けるのが面倒になって放ってあるだけなのだが、最近こまめに片付けするようにな
ってこれでも散乱は比較的抑えられている方だ。
他には特に何も無く、ただただ帰ってきたと言う達成感に似た何かがあると言うだけに過ぎない。
「ほら、ちょっと汚いけどここがお前の家だぞ?」
ニー♪
喜んでいただけた様で幸いだ。
しかし、トイレとか小屋とか餌とかはどうすればいいのだろうか。
まぁ、今日はもう寝る時間も迫っている事だし寝る事にしよう。
そう思ったが早いか、俺は店長に猫を預けるとさっさと眠りに付く。
―――――――――――――――――
「―――ご主人さま!起きるにゃ!」
人は、意識が覚醒に近付くとついさっきまで見ていた夢の内容をブロック崩しで忘れて行くのだと何処かで聞いた事が
無くも無い。
まぁ、それはそれとして。
先程から誰かに身体を揺すられている。声もハッキリと聞こえてきた。
声の調子や喋り方の未熟さからまだ自分よりは年下だと分かる。
いや、もしかすると一回り程も幼い少女なのではなかろうか。
そう思いながらも、俺は自分の重い瞼をゆっくりと開く。
「良かったにゃ……ご主人様、返事ないから死んじゃったかと思ったにゃよ…」
俺の人生をもう一度振り返ってみよう。
俺は、親の死別が原因でこの店に住ませて貰っている。
それも店長が親の友人であるが故の事だ。
他にも何人か従業員は居るが、住み込みでいるのは俺だけ。
更に言ってしまえば、この店で働いている者は、俺以外は全員女性だと言う事。
それくらいだろうか。
そうなぞって行く中で、目の前の幼い少女の顔は一度たりとも見てはいない。
少なくとも、俺の知り合いにこの様な女の子はいない。
居たとしても、周りからは冷たい視線が送られるだけだろう。
「……誰?」
「あっ、この姿じゃ分からないにゃ?それじゃ…」
自分の身なりを確かめるように流し見た彼女は、そのまま突っ立つと眼を閉じた。
すると、彼女の身体が霞のように消えて行く。
一瞬だけ自分の目を疑いはしたが、彼女の姿は次の瞬間にはどこにもない。
代わりに、先程まで彼女の足元に当たる位置だった場所に昨日の猫がいた。
「これで分かった?」とでも言いたそうな笑顔を向けてくる辺りも考えて、先程の彼女は現在、この猫に化けているら
しい。
いや、猫が先程の様な少女に化けていたのだろうか。
「……ほれ、マグロ…」
ニャー♪
なんだかどちらでもいい気がしてきた。
適当にそこらに転がっていたマグロの刺身を与えてやると大喜びでがっつく。
まるでそれ以外には興味が無いように只管食べ続けている様は、さしずめ捕食者と言ったところだろうか。
頭を撫でてやっても気にせずムシャムシャ食べている。
ずっと見ているとすごく和む。
「よしよし♪まだまだあるからな?」
「それは嬉しいにゃ♪」
頭を撫でているといきなり先程の少女に化けて出る。
いや、元の姿になったのだろうか。
再びどっちでもいい。
今になって、彼女をよく見てみるとおかしい点は幾つもあった。
まずは頭頂部で時折ピクッと動くネコミミ。
そして、喜んだりした時に猫の様にブンブン振り回される猫の尻尾。
更には、腕の周りは体毛で覆われていて掌も猫の様な形に拡大されている。
体毛も含め、髪の毛も先程の猫を連想させる三毛だった。
所々に斑模様が出来ていて、それで三毛猫かと言いたくなる。
「ところでご主人」
「ん?なんだ?」
「アッチの経験はあるかにゃ?」
「んなっ?!」
いきなり唐突に電光石火で何を聞いて来やがりますかこの猫は。
勿論、俺の想像している『アッチ』の経験で間違いないのだろう。
言わずもがな、俺はそんな経験は一切ない。
女性自体とは沢山触れあっているが、言ってもここの店の従業員ばかり。
たまに女性客に誘惑の言葉を掛けられるがそれは丁重にお断りしている。
当然だ、ここは飲食店であってホストクラブじゃないのだから。
「あっ、あるわけないだろっっ?!」
「そうにゃ?それは嬉しいにゃ♪」
「…言っとくけど、寝込み襲ったりしたら金輪際飯あげないからな?」
「に”ゃ”っ?!」
最後の言葉が効いたのだろうか、彼女はゲッと言う感じの声を上げてその場に縮こまる。
炬燵ではないが丸くなる猫を見るのはとても和む。
もっとも、今の彼女は猫では無く人だが。
そこで、ふと思う。
「あれ?そういえばまだ名前決めて無かったな…」
「私も自分の名前はないにゃ」
「うぅん……それじゃ、三毛猫だしミk…」
「それだけはダメにゃ!!」
具体的な名前を出してやろうとしたら彼女の手が口を塞ぐ。
やっぱりポピュラーなだけの名前は嫌なのだろう。
他にも幾つか言い合ってみた。
ナナシ、ニャコ、ビクトリカ、デジコ、ミオ等々
だが、結局これになってしまう。
「んじゃ、最後のミカで行くにゃ♪」
「それでいいのかよ……」
何故だろう、色々と危ない橋を渡った気がする。
石橋は叩いて渡る人間であろうファルに対して、ミカは石橋は砕いて新しく鉄橋を作って渡るタイプなのだろう。
なんにせよ、彼女の名前が決定した。
『ミカ』ミケから少し弄っただけの簡単な名前だ。
そこらへんに転がっていそうな名前だがしょうがない。
他の案は皆危険極まりないのだから。
「それで、だミカ?」
「なんにゃ?」
「お前、もしかして発情期なのか?」
「お察し頂き嬉しいにゃ♪」
なぜいきなり畏まった口調になったのだろう。
と言うか、先程からミカの視線が微妙に低いと思っていたのだ。
思っていたらこのザマだ。
彼女の視線は先程から、ファルの顔から逸れてもう少し下の方、具体的には下半身に注がれている。
そこには、寝起きの所為か少し大きくなっている逸物が存在を主張して……いなかった。
「いやいや、朝勃ちとかしないって」
「ぅにぃ……」
そんなに残念そうな顔をされても。
しかし、ミカも本当にどうしたものか。
このまま発情期を過ごさせていては単なる淫乱ビッチ少女になりかねない。
そんな事になってしまえば、連帯責任でファルも白い目で見られるようにもなる。
もしかすると店長から追い出されるかもしれない。
だからといって、ファルに幼女趣味がある訳も無く。
だがこのままミカを放置していては…
――の無限連鎖が約10分ほど続いた。
その間、暇だったミカがファルの部屋の中を物色していたのは言うまでも無い。
「ご主人ご主人!こんなの見つけたニャ♪」
「…ん?なんだそれ………ゲッ!エロ本?!」
「ふむふむ……ご主人は小さい子が好みなんにゃね…」
ミカが不意にベットの下から引っ張り出して来たのは、ファルの見覚えのない本だった。
本の端の方には小さく18の数字に斜め線が引かれている。
表紙の方も、完全に眼の光を失った小さな少女が鎖で繋がれて白い液体に塗れている姿だった。
こんな表紙ではどこかの誰かも駆けつけてくるだろう。
だがそんな事は問題じゃない。
このようなエロ本に、ファルは全く見覚えが無いのだ。
ベットに入れた覚えも無いし、ましてや手に入れた覚えも読んだ覚えもない。
「うわぁ……この女の子かわいそうにゃ…」
とか言ってミカが本の一ページを見せつけてくる。
そこには、鎖に縛られながら数人の男に輪姦されている見た目小学生程度の女の子の姿があった。
だが、少女の姿はどこか人間とは違っており、下半身は蛇の姿をしていた。
この店にも一人働いている、ラミアと同じ魔物だろう。
しかし酷い有様だ。
口には猿轡をはめられており、乳首にリングを付けられ、首には犬に付けるものであろう首輪。
更には足元に人間では入らないような大きさのバイブがビショビショの状態で転がっていた。
「なんか……すっごい酷いな…」
「ご主人はこんな事絶対にしないにゃよね?」
「あぁ……こんなのだけはしない。と言うかしたくない…」
「にゃっ!?と言う事はご主人は優しくしてくれるにゃかっ?!」
なんだか話をねじ曲げられた気がする。
だが、この一瞬の間で話のねじ曲がりに気付くほどファルは器用では無かった。
「あぁ、優しくするさ……えっ?!」
「やったにゃ♪両者の承諾ゲットだにゃ♪」
とか言いながらミカがファルのズボンを降ろしにかかる。
というか、気付いた頃にはもう下半身は何も履いていなかった。
「えっ、いや…両者の承諾って俺は何も…」
「いいから大人しく銜えられるにゃ。はむっ♪」
ミカが唐突にファルの萎えて小さくなっているペニスを口に銜えた。
小さかった為なのか、ミカの口の中にすっぽりと収まってしまう。
それでもまだまだ大きくなるのを分かっているミカは、ペニスを至る方向から舐め回す。
そうすれば、たちまちにファルのモノがみるみる大きくなっていく。
「あぅ……ミカ…」
「にゃんにゃ?」
銜えたまま喋るものだから、振動がそのまま伝わってファルのモノもかなりの大きさになった。
今となっては、ミカの口に収まりきらないほど膨張している。
それに時折脈打っており、射精が近い事も知らせている。
「ミカの口……ざらざらしてっ………うぐっ…」
「ぐにゃっ?!……ゴックン……ジュルルルル…プハッ♪」
ロクに我慢も出来ずに迸ったファルの精液は、ミカの口の中をこれでもかと言うほどに汚す。
口の中が精液でドロドロになるのを感じながら、ミカは口の中のソレをまとめて飲み干す。
だが、まだまだ足りないのか残りも全てを吸い取って行く。
最終的には吸い終わった直後にもう一度射精している為、二回分の精液全てをミカが飲んだ事になる。
「あ……ハァ…ハァ……」
「ゴクン……ハァ…ハァ……まだまだ欲しいにゃ…」
すっかり発情して顔も真っ赤に染まっているミカを可愛く思い始めた頃にふとファルは気付いた。
部屋に嗅ぎ覚えのない匂いが充満していたのだ。
その匂いに気付くと、急に自分の逸物が自己主張を激しく始めた。
自分でも驚くほどに勃起して膨張して膨らんでいく。
それを見て、ミカも興奮気味なのか息がとても荒い。
「ハァ…ハァ……ご主人のぺにしゅ……ペロッ…」
「うぁ……ミカ…きもちぃ………って!アンタは何見てるんだ!?」
ミカが舌を使ってファルの逸物を舐め回し始めた時の事。
視界の隅で、見覚えのある人物が扉をほんの少しだけ開けて覗いているのが見えた。
それは明らかに、この店の店長であった。
だが、どこか様子がおかしい。
それに、良く見ると匂いは店長の居る方から漂っている様子。
どうやら、店長は媚香を持ちだして来ていたらしい。
それを用いてファルと今更感極まりないが既成事実でも作ろうとしたのか。
だが先客が居るとは知らなかったのだろう。
ミカの声を取り除くと、店長の荒い息遣いが聞こえてくる気がした。
「はふっ……ジュルルル…?……プハッ…ごしゅじん…?」
「……」
ミカからすれば、ファルが突然呻く事もしなくなって、それどころかミカへの興味も逸れていると見えた。
そうなれば、彼女のすることはただ一つ。
興味と視線をこちらに無理やり引きずり戻せばいい。
「ごしゅじーん!」
「えっ?うがあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
全然ミカの方を向かないファルに苛立ちを覚え始めた彼女が取った行動。
それは、ファルの膨れ切った逸物に噛み付く事だった。
甘噛みでもなければ本気噛みでもないので喰いちぎる事はない。
だが、確実にファルには激痛を伴った電撃の様な快感が走る。
それを証明付けるかのように、狂おしい程の快感を受けたファルは唸りながら泣き叫ぶ。
それと同時に溜まっていた射精感が一気に爆ぜる。
その精液は、驚いて顔を引っ込めていたミカの顔面を白く汚して行く。
「あ……ごしゅじん………ごめんにゃさい…」
涙目になりながら荒い息で必死の形相を作ってミカを睨みつけるファル。
今にも怒りそうなその表情を見て怯えたミカは、そのまま視線を落として涙目になりながら謝る。
「ハァ……ハァ……も、もうあれはしないでくれ…」
すっかり痛みで萎えた逸物からは、未だに精液が垂れ流れている。
だが、それは誰に飲まれるでもなく床に虚しく落ちていく
暫く沈黙は続いたが、唐突にファルの扉が開け放たれてその沈黙も終わりを告げる。
「ファルく〜ん!お店の方手伝って……ご、ごめーん、お楽しみ中だったのね〜…」
さっきまで扉の前に居たであろう店長が、さも今来たかのように装ってファルの部屋に入って来た。
そこで店長の視線に入ってきたのは、もちろんお楽しみ中のファルとミカだ。
良く見れば後ろから媚香の煙が昇っているとか、前掛けが何かで濡れているとか、顔が火照ったように紅いとか、ツッ
コミ所は満載だ。
だが、店長のお陰ですっかり興醒めになってしまっていたファルとミカはもう先へは進めない。
「あ……その…ごめんにゃ…」
「えっと……その…こちら…こそ…」
何度でも言おう。
店長の所為ですっかり興醒めしたっ!
すっかり勃起している、モニターの前のアタナ!
恨むんなら、こんな展開にした作者ではなく、空気をぶち壊した店長を恨みなさい!
―――――――――――――――
結局、ミカの発情期はフェラだけで解決した。
今となっては身体中の疼きも火照りも無く、健やかに業務に勤しんでいる。
「ファル〜?銀皿棚の上から取ってちょうだーい?」
店長が客への応対をしながらファルに皿を取るよう言う。
その皿のある場所は、周りの従業員を見るに全員が取れそうにない一にあった。
具体的には、この中で身長の大きい方である店長も、背伸びして手を伸ばしても頭一つ分届かない程度。
だが、その程度の高さならばファルにはどうという事はない。
「は〜い……これか……」
「にゃっ?!にゃぁぁぁ!ごしゅじ〜〜ん!?」
いつもと同じように軽い身のこなしで棚の上にある皿を取ろうとしたファル。
その横っ腹を、ミカが突撃してきた。
そのまま直撃を受けたファルは、皿を掴んでいた手を離してその場に倒れ込む。
「いっつつ……大丈夫か…ミカ…?」
「だ、だいじょうぶにゃ!」
「ちょっとー!今の音なんなのよ〜!」
二人が倒れたのを心配してか、一人の少女が不思議な入れ物から頭だけ出して声を掛ける。
彼女は、この店の中でもあらゆる客層から人気を集める所謂アイドル、カリュブティスのカルティーである。
カリュブティスと言う種族の性質上、ロクに歩く事も出来ない。
それなのにどうして移動できるのか。
答えは簡単だ。
カルティーは現在、大型のポリバケツに身体を埋めて動いている。
イメージ的には、ポリバケツから手と頭だけ出した少女がピョコピョコと入れ物を揺らして動いていると思って良い。
「カルティーちゃーん?オーダー入りまーす♪」
「あぁ、ちょっと待って―!」
遠くの方から女性の声が聞こえる。
その声の正体を、ファルは知っている。
特徴的な、澄み渡る海の様な声音。
それに混じってたまに聞こえる羽が擦れるような音。
その正体は、セイレーンであるレーネの物だ。
一部客層ではファンクラブを結成したいと言う動きもあると言われる程に人気がある。
因みにこの店では一番皿を割った回数が多いらしい。
「こんちわー!」
「あっ、いらっしゃいませー!」
こうして、楽しい毎日は過ぎて行く。
たまに、ミカが発情期を迎えてファルが苦労する事もある。
だが、それでもみんながみんな楽しく明るく暮らして行くのだ。
――――――――――――――――――
ここからは裏話。
時間的には、ファルがミカと本格的な子作りを始めてしまった頃の事。
ミカがファルと愛し合うようになってから、かれこれ4か月が経った。
その頃、とある一つの異変が起こる。
「店長?どうしたんですいきなり…」
買い出しも終えて、疲れ切った様子のファルがそっと店長の部屋の扉を開ける。
しかし、業務机の上には店長の姿は見当たらない。
代わりに、隣の寝室から微かに店長の声が聞こえる。
僅かな陶酔の声、そして快感に身体を震わせるような甘い声。
「……また後で来よう…」
そう思って、ファルが店長の部屋を出て行こうとした、その時だ。
荒い息と小さな喘ぎ声しか出さなかった店長が何かを言った。
「――――ファル――君―――もっと―――はげ―くぅ―――――っ!?!!?―」
「っ?!」
隣の寝室のベットの上で自慰に耽っていた店長の口から洩れたファルの名前。
それだけでも、ファルが店長は何をオカズにしているのかが大体予想が付く。
店長は、ファルをオカズに自慰をしているのだ。
そうだと知れば、不思議とファルの足は止まってしまう。
別に悪気なんて無い。
たまたま声を聞いてしまっただけであって、何も悪い事をしようとしていた訳ではない。
それでも、ファルの身体は少しづつ、少しづつ店長の寝室の扉を開こうとしていた。
「んっ……んはぁぁぁぁぁぁっ!?」
「っ?!」
つい扉を少し開いて中を覗き込んだファル。
そこに居たのは、いつもとは違う店長だった。
まず、いつも着ているであろうエプロンやらはベットの傍に脱ぎ散らかしてある。
まず、この時点で几帳面な店長らしからぬ事であった。
だが、もっと驚く事があった。
「て……店長が………さ、サキュバス…」
そう、店長の背中からは、悪魔をほうふつとさせるようなフォルムの翼と尻尾が生えていたのだ。
しかも、イッたらしくどちらも身体に合わせてピンッと伸びたりブルブルと震えたりしている。
その内にグッタリとその場に崩れ落ちた店長の姿が、だんだんとぼやけてくる。
「ぅぅん…?なんか……視界がぼやけて…」
暫くの間、視界のぼやけと格闘していたファルであったが、ハプニングは唐突に訪れた。
荒い息をしてグッタリしているであろう店長の姿が、まるで最初から誰も居なかったかのように消えたのだ。
更に変化に気付く。
よく見渡せば、この部屋は店長の部屋では無い。
だんだんと壁紙の色が白を基調としたベージュから変わって行き、心の底から性欲を引きだすようなピンク色へ変貌し
たのだ。
その内装はラブホテルを彷彿とさせるのかもしれない。
「覗き見はイケナイわねぇ……ねぇ、ミカちゃん?」
「そうにゃ!ごしゅじんは覗き魔だったのにゃ!いけない事なのにゃ!」
うっすらと残るような微かな意識を引き戻そうとしていたファルの背後に、店長とミカが立つ。
どうやらこれは、二人掛かりで仕掛けた物の様だ。
今ふと思い返してみれば、部屋の装飾の所々が猫っぽい装飾になっていた気もする。
と言うか、今まで見せていた物全てが幻覚だとすると、店長の部屋だと思って入った部屋が違っていたと言う事に。
「で〜も、ファル君だったら……してくれることしてくれたら許しちゃう♪」
「私もごしゅじんだったら何でも許すにゃ♪」
とか言って、麻酔魔法を撃ち込むのは止めて下さい店長。
身体は動かない、なのに店長たちの思うように動かされる、一部というか勃起出来る部分がすごく元気になる。
そんな意味不明な麻酔薬、もう二度と喰らいたくはない。
だが、そんな思いも虚しくファルは店長とミカに身ぐるみ剥がされた。
「ぅ……ぁ…」
「うふふ…苦しいでしょう?早くしたいわよね?でも、我慢なさい?」
「にゃにゃっ?!てんちょーさんいつもより数段ドSにゃ!?」
麻酔の所為で口すらも動かせなくなっていたファル。
本当にこれが麻酔なのか疑問に思い始めた頃に、異変は起こる。
唐突にファルの頭の中に靄の様な物が掛かった感覚があった後、意識が寝起きの時の様に不確かな感覚に陥った。
それは全員が同じ様で、ミカはトロンとした表情のままファルの方を見つめ、店長は顔を紅潮させてファルの腹に跨っ
た。
「うふふ……私もぉ……これすんごく欲しいけど…我慢してるのよぉ?」
「にゃにゃぁ……ごしゅじんすっごくえっちぃにゃ…」
ファルの上に跨っている店長が、後ろ手にファルのはちきれんばかりに膨れ上がった逸物を軽く撫でる。
それだけで逸物は何度も痙攣したようにビクビクと震えてしまう。
逸物とファルの顔の間で視線を行ったり来たりさせているミカはすっかり発情しているようだ。
ミカの尻尾が自分の秘部の辺りを擦っているのが見える。
「それじゃぁ……ぐっちょり犯してあ・げ・る♪」
「にゃぁ!てんちょーさんずるいにゃ!私もいっしょに犯るにゃ〜♪」
「う、うわぁぁぁぁぁぁ…」
こうして、三人は互いを互いに愛し合うようになっていく。
ミカ曰く、「ごしゅじんが好きで私も好きなら大歓迎にゃ♪」
だそうで。
これでは、ファルの身体が持ちそうにない。
しかしそんな時の各種秘薬と言う物を、店長は常備していた。
数週間もする頃には、ファルはもう立派なインキュバスになっているだろう。
FIN
12/01/13 18:01更新 / 兎と兎