旅44 大乱戦!それぞれの戦闘!!
「我々はルヘキサの者だ!!貴様らが誘拐した民を取り返しにやってきた!!大人しく返すのならこちらもすんなりと引き返すが、そうでないのならば力ずくでも見つけて取り返すぞ!!」
俺はトロンさんとは違い正面のチームなのだが、遠くからハッキリとトロンさんの声が聞こえた。
正面の門の向こう側にいる教団兵達もその声に驚いて少しざわめき始めた……これくらいの事で動揺するようなら、ここにいるのは皆雑魚という事かな。
「司教でも勇者でもいいが誰か返事をしろ!あと10分でしないのならば返さないとみて強引な手段をとらs」
ドオォォォンッ!!
「うおっと!?」
「どうしました団長!!」
「なに、相手が大砲を我々に打ち込んできただけだ。誰一人傷付いていないから安心しろ!!」
トロンさんが喋っている最中に大きな爆発音が聞こえてきた。
煙が上がっているのでもしやと思ったが、やはり相手が大砲をトロンさんに向けて放ったらしい。
ただトロンさん曰く無傷らしいので安心だ……あっちはたしかホルミや脇田が居たかな?
しかし、トロンさんに向けて大砲なんか撃ってきたという事は……
「これは、宣戦布告と取っていいんだよな?」
「そうだ!我々は貴様ら無法者共に屈する事は無い!!」
やはりそのまま誘拐した人達を返してはくれないらしい。
教団のおえらいさんらしき人が窓から身を乗り出してトロンさんが居るほうに叫んできた……あれ、魔術かなんかで狙い撃ち出来ないかな?
「わかった……では皆の者!乗り込んで捕えられ人体実験されている者達を救出するぞ!!」
「おおおおおっ!!」
「行くのだ兵士達よ!魔物や人を裏切った愚か者どもを根絶やしにするのだ!!」
「うおおおおおおおっ!!」
なんて思ってたら、決戦の開始のようだ。
それぞれが雄叫びを上げ、士気を高め始め……そして……
「皆行くぞ!!門を突破しろ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「奴らを中に入れるな!!何としても守り通せ!!」
戦闘が始まった!!
「こんな門一発で吹き飛ばしてやる!」
「うおらああああっ!!」
「ぶっ飛べ!!」
スズとプロメ、それに自警団のリザードマンが正面の鉄格子の門に向かって突進した。
パワー自慢な魔物が力任せに門を押したため……
「うおらあっ!!」
「わっ!?正面、門がいとも容易く破られました!!」
「慌てるな!数ではこちらが勝っているんだ、落ち着いて対処しろ!!」
頑丈そうな門も簡単に開き、俺達の前を邪魔するものは教団兵だけになった。
「おっしゃあっ!行くぞ!!」
「させるkもけっ!?」
「邪魔だどけっ!!」
先陣切ってプロメが兵隊の中に突っ込んでいき、何時ぞやのように素早い動きで兵士の間を掻い潜りながら顔や腹部を殴ったり蹴ったり、時には引っ掻きまわしたりしている。
それはさながら小さな竜巻のようで、プロメに殴られたりした兵士達は宙を舞っている……相変わらず凄いものだ。
「さて……アタイの血を浴びたいのかい?」
「ひっ……ま、魔術部隊、あのウシオニをこうgもぷっ!!」
「なんてな!あんたらの攻撃を喰らうつもりもないし、ウシオニに変えるつもりも無いね!!」
スズはスズで大勢に囲まれても特に気にする事無く相手を殴り飛ばしたり、糸で雁字搦めにして動けないようにしている。
やはりウシオニの血は怖いのか、なかなか相手もスズに剣などの接近武器で攻撃をしようとはしていない。
というか血で脅すとは凄い事を考え付いたな……あれじゃあうかつに剣で斬る事は出来ない。
「や、やはり裏切ったのかイヨシ!!」
「エルビ様の言う通りだったのか……」
「ふん、娘のおかげで自分の愚かさに気付けたからな……それに私は娘の味方だ!!」
「なんだtぐぅ!?」
猪善さんもつい先日までは同僚だった者をなんの躊躇も無しでばっさばっさと切り倒している……といっても峰打ちだが。
でもやっぱり相手は戸惑っているようで、何も出来ないまま峰打ちされて沈んでいる。
「わあっ!?虫が、虫が大量に身体に纏わりついて……!!」
「何言って……わあっ!?さっきまでいなかったのになんdぷぎゃっ!!」
「どうやウチの幻術は?効果テキメンやろ!」
カリンの周りを囲っている兵士達が行きなり何も居ないのにもかかわらず身体から何かを払う動作をし始めた。
どうやら花梨が幻術で虫が大量に纏わりつく様子を見せているらしい……毛虫やGとかなら想像するだけで少し気持ち悪くなるな……
とまあそんな感じで相手を惑わし、無防備になった兵士達を次々と棍棒で殴り倒しているカリン……十分に戦えている。
「余所見は禁物だおらあっ!」
「おっと……忠告ありがとよ!」
他の皆の様子を見ていたらガタイの良い奴が俺に向かって銅の剣を振り下ろしてきた。
それに気付いて難なく後ろに避け、手に持つ木刀で応戦する。
「てめぇ木刀だなんて俺達を嘗めてるのか?」
「お前こそ木刀嘗めてんじゃねえぞ?」
左右に切り掛かってくるのを俺は木刀で受け流し続け……
「木刀でもな……当たるところによっては痛いんだぜ!」
「ぐあっ!!」
自分は剣だから有利だと思い込んでいたのか大きな隙があったので、俺は相手の顎に突きをかました。
この木刀は切れ味の良すぎる剣相手でも全く劣らないドリアードお墨付きの木から作られた木刀だ……硬度もそこいらの棒なんか比じゃない程ある。
そんな物を顎に叩きつけられた相手は……
「うぁ……ぁうあぅ……」
ふらふらと力が抜けるように倒れ、白目を向きながら気絶した。
「さて……次はどいつだ?なんなら一気に掛かってこい!」
「生意気だぞ貴様!!」
「木刀使いが調子に乗るんじゃねえ!!」
「こいつの有り様を見てまだそんな事を言えるんだな……」
やはり正面だからか、まだまだ相手はかなり多い。
一番多く割り当てられているとはいえ、他2か所が合流するまでは突破は厳しそうだ。
「ふぅ……これは頑張らないとな!」
一息吐いた後、先程の挑発に掛かってくれた奴らを相手にすべく、一気に踏み込み始めたのだった……
=======[アメリ視点]=======
「おい、可愛い子供が混ざってるぞ!!」
「馬鹿!子供と言えど魔物…しかも姿からしておそらくリリムだぞ!!油断するな!!」
アメリのことリリムだってめずらしくわかってくれた……じゃなくて、教団の人たちに囲まれちゃった。
「なんでさらった人たちを返してくれないの?」
「知るか!上が決めた事に俺達が言える事なんかねーんだよ!」
「ふーん……」
ルヘキサからさらった人たちを返してくれたらたたかわなくてもよかったのに、返してくれないからたたかうことになってしまった。
こうなったらアメリもたたかうけど……魔力もつかなぁ……
「じゃあごめんね兵士さんたち。『エレクトリックディスチャージ』!!」
「うわあっ!?」
とりあえず兵士さんたちがアメリを囲んで剣を向けて来ているから、広はん囲に電気を放てるこうげきをしたんだけど……
「くっ……あんたの言う通り油断は禁物だな……」
「……あれ?」
兵士さんたちはアメリの魔法をなんとかこらえた……けど、なんか変だ。
「んー……『ロックスライド』!!」
「じょ、上空だー!!」
「うわあぁぁ……」
今度は本来ならけっこうつかれる岩を沢山落とす魔法を使って、兵士さんたちをおおぜい気絶させたけど……やっぱり変だ。
「あれぇ?」
なんでつかれないんだろう……というか、アメリの魔力がほとんどへっていないような……
もしかして……
「このネックレスのおかげかな?」
ちょっと前にユウロお兄ちゃん……より正確に言うとラインで会ったクウリお兄ちゃんがくれたネックレス。
魔術を使う人がもつといいってことらしいから何かあるのかと思って今日は首から下げてたけど……このネックレスについてるきれいな石がアメリの魔力に反応してるのかな?
「ん〜……『ドロップアイシクル』!!」
「な、なんだ!?氷の塊が飛んで……うわあああっ!」
「……やっぱりそうみたい……」
今度はいしきしてこのきれいな石に魔力を通してからこうげき魔法を使ってみた。
やっぱり思った通りで、この石を通して魔術を使えばほとんどアメリ自身の魔力を使わなくてすむみたいだ。
「これはいいものもらっちゃった♪」
ふだんはあまり使わないけど、こういう時にとても便利だ。
これがあれば魔力ののこりを気にしないで魔術を使えるし、後でおなかが鳴り続けてはずかしいなんてこともないもんね。
今度またクウリお兄ちゃんに会うことあったらきちんとお礼言っておこう。
「アメリちゃん大丈夫?」
「うん!いいものもってるからアメリいっぱい魔術使えるよ!!」
「大丈夫そうですね。やはりリリムですと子供の頃から戦闘訓練などもするものなんでしょうか?」
「ううん、アメリは旅に出るからってお父さんやお母さんやお姉ちゃん、それにおうちに住んでるお姉ちゃんや元勇者のお兄ちゃんたちに教えてもらったんだ……」
ひとまずアメリの周りにいた兵士さんたちを気絶させたら、レシェルお姉ちゃんとアフェルお姉ちゃんがアメリを心配して声をかけてくれた。
……ってあれ?
「なんでアフェルお姉ちゃんもいるの?」
「ああ……アフェルと私の旦那は戦闘も出来るからこっちに入れられてるのよ。旦那は元勇者だし、アフェルはアフェルで教団側で戦っていた事もあるしね」
「へぇ〜……」
なんでお医者さんのアフェルお姉ちゃんがサマリお姉ちゃんたちと同じサポートメンバーじゃなくてアメリたちといっしょにたたかってるんだろうって思ったら、アフェルお姉ちゃんとレシェルお姉ちゃんのだんなさまはお医者さんでもたたかえるからとのこと。
「それでちゆ魔法も使えるってすごいね!アメリちゆ魔法使えないからな〜……」
「あんなに強力な攻撃魔法を使えるのでしたらすぐ使えるようになりますよ」
ちゆも出来てたたかえるってすごいと思う。
アメリ相手にこうげきする魔法は使えるけど、ちゆ魔法は転移と同じでどうもむずかしくてまだ使えないもんな……
「おい!ここにはちんまいのしかいないぞ!!」
「チャンスか?いやでもこんな所にいるぐらいだ、見た目以上の力を持つかもしれん……」
「おっと、喋ってる暇は無かったわね」
「ですね。合図の前になるべく戦力を削っておかなければ……」
なんて感じに二人とおはなししていたらまた囲まれちゃっていた。
また広はん囲の魔術を使おうとしたけど、アフェルお姉ちゃんとレシェルお姉ちゃんがアメリの前に出てきて……
「いくわよアフェル!」
「ええ、行きますよお姉ちゃん!」
「「『クロッシングマーダー』!!」」
姉妹の息を合わせて、腕に真っ黒な刃を生み出して……
「くっ……気をつけろ!何かしてくr」
「お前達はもう……」
「斬られている!」
「……うぐぅ……」
目にも止まらない速さで兵士さんたちを切りさいた。
まあ切りさいたって言ってもお姉ちゃんたちの魔力の刃だから血が飛び出したりしたわけじゃなくて、精神的なダメージが入っただけだと思うけどね。
それでも効くものは効くからきられた兵士さんたちはみんな気絶しちゃった。
「お姉ちゃんたちカッコイー!!」
「ふふーん!さあまだまだ行くわよ!」
「そうですね。これなら合図前にかなり減らせるかと」
合流の合図はトロンお姉ちゃんがころあいを見て出す予定だからいつになるかわからない。
だからアメリたちはなるべく速く、おおぜいの兵士さんたちをやっつけるつもりだ。
「んー……アメリこのネックレスのおかげであまり魔力へらないし、『あれ』ためしてみようかなぁ……」
「あれって?」
「おうちに住むお姉ちゃんにおしえてもらったもの。アメリたちリリムは本来やらなくても問題ないけど、アメリまだ子供だからおぼえておいてそんはないからって」
ふだんはそんなに使う必要ないし、お姉ちゃんたちが言うには大人になったら使う必要がほとんどなくなるらしいし、つかれるからめったに使わない魔力の使い方……今のアメリならかんたんに出来るかもしれない。
「じゃあやってみてよ」
「うん!」
ちょっともったいぶってみたらレシェルお姉ちゃんがきょうみもってくれたから、アメリやってみることにした。
「ねえお兄ちゃんたち……」
「な、なんだ?」
アメリは兵士さんたちがカベみたいに集まってるとこの前に出て……
「アメリとぉ……」
アメリ自身の魔力を、周りに放出するように発生させて……
「いっしょにぃ……」
なるべく多くの兵士さんたちと目を合わせながら……
「なかよく……」
つばさや尻尾をお姉ちゃんたちにおしえてもらったようにピコピコと動かして……
「あそぼっ♪」
満面の笑みを浮かべながら、あそぼって言えば……魅了魔法の完成っと♪
「う、うん!おじちゃん達でよければいいよ!」
「そうそう、な、何して遊ぶ?」
「アメリちゃんハァハァ」
「き、気持ち良くて愉しい遊びを教えてあげようか?」
「えっなになにーおしえてー♪」
ざっと100人ぐらいはアメリの魅了魔法にかかったみたいだ。
もってた武器を投げ捨ててくれた兵士さんや、息をあらくしながらアメリをじっと見てくる兵士さん、それに着ている物をぬぎはじめた人もいる。
「……幼女に発情した変態とそのお仲間達は……」
「まとめて浄化です!!地に還りなさい恥さらし共!!」
「『パーガドリィフレイム』!!」
「ぐわああああああああああああっ!?」
「あちちちちちちちちちちちちちちっ!!」
そんな兵士さんたちをまるでサイテーなものを見る様な冷ややかな目で見ていたアフェルお姉ちゃんとレシェルお姉ちゃんが唱えた魔法によって、たちまちアメリに魅了されていた兵士さんたちはつよく燃えたぎる火の海の中に閉じ込められた。
ま、まあお姉ちゃんたちが放った魔法だし死んじゃうことはない……よね?
なんか今のお姉ちゃんたち……とくにこわいかおをしてるアフェルお姉ちゃんを見ていると本気でころしちゃうんじゃないかって思えてきちゃう……
「こんな変態が紛れ込んでいるなんて……塵も残さぬよう壊滅させるしかありませんね……」
「お、お姉ちゃんやりすぎ……」
でもアメリの魅了魔法にかかった人や、その人たちを正気に戻そうとした人たちもまきこんでかなりの人数が気絶したようだ。
こんなに大きな魔法使って大丈夫なのかなと思ったけど、お姉ちゃんたちからそれぞれのだんなさんの精の匂いがするから大丈夫かな。
こんな感じにアメリたちが担当した入口の兵士さんたちをいっぱい気絶させていたその時……
ブオォォォォォォォォォッ!!
「ん?あれは……」
「団長が吐いた火球……という事は合図ね!」
アメリたちがいる場所とは反対側の空に、夜空の中にかがやく太陽のように燃え上がる火の球が浮かび上がった。
どうやらトロンお姉ちゃんが自分で吐いた炎らしい……つまり合図だろう。
「行くわよ皆!!」
『はいっ!!』
だからアメリたちは、いっせいに上空にとび上がった。
そしてアメリたちはとびながら、もちろんとべない人は転移魔法でユウロお兄ちゃんたちがいる正面入り口に向かい始めた。
「くそっ!やっぱそうだったか!!」
「動けるものは正面に向かうぞ!!急げ!!」
アメリたちの行動がすぐわかったようで、下で兵士さんたちがざわめきながらも移動を始めた。
動ける人はかなりへったようだけど、それでもまだいっぱいいる……だから今移動している兵士さんたちが合流する前にアメリたちも急いで向かわないといけないけど……
「うぅ……」
「大丈夫ですか!しっかりして下さい!!」
「武器を弾き飛ばしていたから油断してた……後ろから思いっきり兜で殴られたわ……」
「私は捌き切れなくて腕を……一応動くから実生活をして行くのには問題は無いだろうけど……自力で飛ぶのはちょっと無理かな……」
アメリたちもみんながみんなけがしてないなんてことはなくて、サキュバスのお姉ちゃんは頭から血が流れてるし、ハーピーのお姉ちゃんもうでから血が溢れだしてて自分の力ではとべないようだ……昔の姿になってるワイバーンのお姉ちゃんの背中に乗せられて、アフェルお姉ちゃんに見てもらっている。
「やっぱりだれかがきず付いちゃうのはいやだな……」
「まあ、ね。それでもこれ以上傷付いちゃう人が出ないようにする戦いでもあるから……一緒に頑張ろうねアメリちゃん!」
「うんっ!」
2人とも、特にサキュバスのお姉ちゃんはすごくいたそうだ……アメリはあまりみんながきず付くのを見たくない。
でもアメリだって少なからず兵士さんにこうげきしてるし、きず付けないでだなんて言えないだろう。
だからこそ、もっときず付いてしまう人がふえるまえにこのたたかいを終わらせないと!
「よし、皆と合流するわよ!怪我人は『テント』まで戻って、それ以外はあっちから向かってくる団長達や正面組と一緒に一気に内部まで押し入るわよ!!」
アメリたちと反対側からとんでくるトロンお姉ちゃんたちが見えてきた……
下を見たら、兵士さんたちとたたかっているユウロお兄ちゃんたちも見えてきた……
「……よし、がんばるぞー!!」
押されてるわけでもないけど、押してるわけでもないユウロお兄ちゃんたちの手助けをするため、アメリは一言決意をさけんでから地面に下り立っていった……
=======[サマリ視点]=======
「包帯持ってきましたー!!」
「ありがと、そのまま治療も手伝って!!まずはその包帯を頭にそっと、それでいてきちんと巻いて!」
「はいっ!」
現在19時。
ユウロ達がこの『テント』を出て行ってから約1時間……激しい戦いをしているのか、数人ではあるが怪我人が運ばれ始めた。
普段は私達が夜寝る時に使うベッドに寝かせ、治療院の人達の指示に従って怪我の治療のお手伝いをしていた。
頭から血を流している者、背中を思いっきり斬りつけられている者、顔面に大きな痣を残し気絶している者……命を落とした人こそまだいないが、結構大怪我しているような人も居た。
ただ魔物の怪我人と人間の怪我人で比べるとやはり人間のほうが若干多い……ユウロやイヨシさん達が運ばれてきたらどうしようか……
「では安静に寝ていて下さいねユウキさん」
「うぅ……ありがとうサマリさん……やっぱ僕じゃあんな大人数相手に出来無かったよ……」
「いえいえ、生きて戻ってこれただけ良しとしましょうよ。旦那さんの陽太さんに会えるのですからね」
「まぁ……でも吉崎君達は戦ってるのに僕は怪我してベッドで寝込んでるなんて少し悔しいな……」
「何言ってるんですか!ユウキさんだって出来る事はきちんとやってますよ。それにもし皆やられたり、そうでなくてもこの『テント』の存在を知られてしまった場合は頼りにしてますから!だから今はよく休んでいて下さいね!」
「あ、うん……ありがと……」
それで数少ない魔物であるユウキさんの治療を一先ず終えた。
自分が簡単にやられてしまい、早々に戦闘から脱落してしまった事が悔しいようだ……
でも……最初から戦えない私よりはいいと思う……けど、悔しがっている暇なんて無い。
だからこそこうして私にも出来る事を一生懸命やっているのだ。
「ふぅ……」
「おつかれサマリさん」
「あ、ネオムさん……」
一先ず運ばれてきた人達の手当ても一段落ついたので、その場で一息吐いていたらプロメの旦那さんであるネオムさんが来た。
ネオムさんはネオムさんで他の人の治療の手伝いをしていたようだ……手には血で濡れたタオルを持っている。
「アメリちゃんやユウロ君の事、心配だったりするかい?」
「ええ……皆怪我とかしてないかなって……ネオムさんはプロメの事心配してないのですか?」
「まさか、今すぐにでも無事な姿を見たいぐらいには心配してるよ。プロメは強いって言ったって、怪我しない保障はどこにも無いのだからね」
「ですよね……」
平気そうに見えるネオムさんだってプロメの事を心配している……いや、きっとこの場にいる全員が教会に攻めていった人達の事を心配しているだろう……もちろん私だって心配している……
もしユウロやアメリちゃんが大怪我して運ばれてきたら……もし死んでしまったら……そんな悪い想像が頭から離れてくれないのだ……
「でもねサマリさん、そんなに心配そうな顔をしたり、悪い考えはやめた方が良いですよ?」
「へ?」
そんな私の考えがわかったのか、ネオムさんが私を励まし始めた。
「皆はそうならないように戦っているわけですからね。むしろそうやって悪い想像すると悪いものが集まってきて本当にそうなってしまうかもしれません」
「そ、そういうものですかね?」
「実際プロメと暮らしてる時にこのままで大丈夫かと不安がっていたら両親が変な届け出をしてディナマに攫われましたからね。全く的外れではないかなと」
「そうですか……」
「だからね、皆が無事に帰ってこれないかもって想像じゃなくてさ、皆が無事に帰ってくる想像をしようよ。サマリさんが暗い顔をしていると他の人だって暗くなっちゃうけど、サマリさんが明るい顔をしていると皆だって明るくなるからね」
「……はい、ちょっとは元気になってきました!皆無事に帰ってくるですね!」
そのおかげもあり、私は少し元気が出てきた。
そうだ……ネオムさんの言う通り、悪い方の想像ばかりしていては駄目だ。
皆が無事に帰ってこれる……そう願って私に出来る事をやらなければ!
「さてと……じゃあ僕はこのタオルや他のものの洗濯をしてきます!」
「そうですね……あ、私も洗濯手伝います!」
という事で私は、皆の無事を願いながらも、今自分が出来る事を元気にやる事にしたのだった。
=======[ユウロ視点]=======
「よし、道は開けた!!突入するぞ!!」
『おおおおおっ!!』
全員が集まった後、一丸になって突き進んで行った結果……1時間掛からない程で建物内の入口までの道が開けた。
「いよいよ突入だね!」
「ああ……というかアメリちゃんさっきから魔術使いまくりだけど大丈夫なのか?」
「うん!このネックレスのおかげでアメリ自身の魔力ほとんどへってないんだ!」
「そうか……どおりであんな大技連発出来てるわけか……」
相手が合流するどころかこんなにも早く突入出来た一因としては、アメリちゃんの大活躍のおかげでもあるだろう。
なぜなら合流するなり広範囲に攻撃できる魔法や、その無垢な笑顔を前面に引き出したうえにさらに相手に注目させる事が出来るという普通の人にはもちろんロリコンには効果が抜群な破壊力を持つ魅了魔法を駆使して教団兵達を薙ぎ払ったからだ。
つーかなんでリリムとはいえ子供であるアメリちゃんにやらしい想像出来る奴が居るんだよ……かなり引くわ……
「突き進め!!」
「おっし、行くよアメリちゃん!!」
「うん!」
まあそんな感じで正面を守っていた奴らを粗方気絶させたり一部夫婦になったりしながら無力化させたので、俺達は中に突入する事になった。
「奴らが内部に侵入してきたぞー!!」
「司教様達を御守りするんだ!!」
「別にあんな司教共我々は興味など無い!誘拐した者と人体実験されている者を解放しに来ただけだ!邪魔をするなら容赦しないぞ!」
内部もやはり大勢の兵士達が守っていた。
ここは広間のようだが……部屋の奥の方に上や下に行く階段が見える……まずはあそこを目指すとしよう。
「よし、いk」
「ここは私達にお任せを」
「皆は表の戦いで疲れてるだろうからな。ここはあたしとホルミだけで行く」
「ん?ホルミ?それにルコニも」
木刀を構え早速突撃しようとしたら、ホルミとルコニが一歩前に出てきた。
ルコニは一応ニオブの補助魔法が掛けられているようだが、ホルミは特に何も補助などは無いようだが……
「俺達を嘗めやがって……魔物2体だけでどうにか出来ると思ってるんじゃねーよ!!」
「外にいた奴らより俺達の方が強いんだよ!」
しかし……こいつらが持っている武器はコンステレーションシリーズだ……もしかしたら二人だけでも大丈夫かもしれない……
「はん!お前等だってあたし達を嘗めるんじゃないよ!」
「最初から本気で行かせてもらいます!」
ルコニはジェミとエミニ双方を顔の前に構え、ホルミは大斧を頭上に掲げ上げて……そのまま相手の軍勢の中に突っ込んで行った。
「くそっ!俺の剣戟を易々と……何者だこのドッペルゲンガーは!?」
「いやあっ!あんたらの攻撃は全部お見通しなんだよ!!」
「なっ!?私の攻撃が当たらな……きゃあ!」
「おっと安心しな!あたしの剣じゃ血こそ出ても死ぬ事は無いし、言う程魔力も込めて無いから簡単には魔物化もしないよ!!」
ルコニは相手の攻撃を易々とかわしつつジェミとエミニで相手を斬りつけていく……とは言っても、相手を殺さないように腕や足などを斬りつけ戦えなくしたり、頭を柄で殴りつけ気絶させるような感じだ。
それでも斬られた部分は痛いだろうし、柄で殴られるのは俺自身経験済みだが相当キツイ。
相手もまさか臆病なはずのドッペルゲンガーがここまで大暴れするとは思わなかったのだろう……驚きのあまりルコニの動きに対応できずになすすべも無くやられていく。
「あんたらみたいな雑魚の技コピーさせても意味無いしなぁ……最初から行くか!接合!!」
「な、なんだあの剣!?合体しやがった!」
「いっくぞおらあっ!!」
「う、うわああああああああああっ!?」
さらにはジェミとエミニを一つにしたジェミニを振り回し、掠めるように当てたり風圧で相手を吹き飛ばしている。
「血……血が……」
「……ん?」
そんな感じで大暴れしているルコニとは対照的に、ずっと立ちすくんでいたホルミが何かを呟き始めた。
「血……赤……ンモオオオオオオオオオッ!!」
「うわあっ!?」
「行きますよ!!タウロの力を存分に味わいなさい!!」
どうやらルコニが斬りつけた事によってそこらに飛び散った血を見て興奮し出したようだ。
心なしかタウロの刃も赤く輝いて見える……いや、実際に赤く輝いてる?
「うおりゃあああああああああああです!!」
赤く輝いているタウロを興奮を全く抑える気の無いホルミが振り上げ……
ドオオオオオオオオオオンッ!!
地面に叩きつけた瞬間、轟音と共に地面が裂けた。
……は?地面が裂けた!?
「う、うわあああああああああああああバケモノだああああああああああっ!!」
「たった一振りで床をぶち抜きやがったぞあのミノタウロス!!あんなの相手に出来るわけ無いだろ!!」
なんとホルミが赤い物……つまり血を映し、赤く輝いているタウロを叩きつけたら、そこから大きくヒビが入って床に穴が空いた。
そっと穴の中を覗いてみたら……なんと一つ下の階だと思われる部屋と、その部屋にも大きく入っている亀裂が見え、更に下の階に穴があるのも見えていた……つまり最低でも3階下まであの一振りだけで穴を空けた事になる。
そういえばルヘキサでタウロの性能の話をしていた時にサラッと言ってたけど、建物程度なら簡単に破壊できるって言ってたな……なんという恐ろしい武器だ。
俺達と戦っている時に赤い物が無くて本当に良かった……あったら今頃俺達はテトラスト付近の地面にしたいとして転がっていただろうな……
「なに、接近戦が駄目なら魔術であいつを倒せばいい!!『フレイムラジエーション』!!」
床が易々と破壊されたのを目の当たりにしたからか、ホルミ相手に接近戦はしない事にしたようだ。
相手の魔術師らしき男が放射状の炎をホルミに向けて発射した。
「甘いですね!私のタウロの力はただの馬鹿力だけじゃないですよ!!」
しかしホルミはそれに怯むどころか、向かってくる炎に向けてタウロをかざし……
「この炎を纏うのですタウロ!!」
「んな馬鹿な!?」
なんとその刃にその炎を纏わせた。
「さて、では今度はこちらからいかせてもらいます!!」
そして、タウロを後ろに引っ張り、思いっきり力を入れてその場で振りかざすと……
「喰らいなさい!!」
「うわあああっ!?」
跳ぶ斬撃というものだろうか……炎を纏った三日月状のエネルギーが飛んでいき、当たったところを綺麗に斬り裂いていた。しかも炎の効果で焦げ跡付きだ。
「当たっても死にはしないので安心して下さい。めちゃくちゃ痛いだけですから!」
「それのどこが安心できるんだよってやめて〜!!」
それをブンブンとタウロを振り回して飛ばし続けるホルミ……見事に命中してしまった兵士達から血が溢れる事こそ無いものの、当たった場所の鎧が裂けているか溶けているかのどっちかで、さらに当たった人はもれなく全員気絶している。
「……あのさユウロ……ウチさ、ルコニとホルミって性格逆じゃないんかと思っとったんやけどさ……」
「そうでもなさそうだな……」
カリンに言われて思ったが、本来なら臆病で大人しい筈なのに強気で暴れ回るルコニ(ドッペルゲンガー)と本来なら強気で凶暴なはずなのに丁寧な言葉遣いで大人しいホルミ(ミノタウロス)って逆な気がする……けど、興奮して暴れ回っているホルミを見るとただルコニが異常なだけのようだ。
「さあ、どんどん行きますよ!!私はこんな下層でじっとしている暇なんて無いのですから!!」
それでそんな興奮し続けているホルミはそのままの勢いで相手に突っ込んで行こうとして……
「私はエルビに会いに………………あっ……」
「あっ」
「あっ」
『あっ』
先程自分が作った穴に真っ直ぐ突っ込んで行き……
「きゃあああぁぁぁぁっ………………」
そのまま下に落ちていった。
「……あのドジ!何してんだよ!!」
「たぶんミノタウロスだから怪我まではしてないと思うが……私があれだけ斬りつけたけど生きているどころかこうしてピンピンしていたわけだしな……」
「アメリホルミお姉ちゃんの様子見てくる!」
「アタイも行ってくる!もし骨が折れてたりしたらアタイの糸で固定もしないとね」
「まかせたでスズ!アメリちゃん!ウチらはホルミの分まで頑張っとるからな!」
慌てて穴から覗いて様子を確認しようとしたが、運の悪い事に更に下の方まで落ちていったようだ。
助けに行きたいが流石に穴から下の階に下りるのは難しいし、かといって階段で向かうにしても倒しきれてない教団兵達を倒さないといけない。
なのでとりあえずアメリちゃんが飛んで、そしてスズが糸と頑丈な身体を駆使してホルミの様子を見に行く事になり、俺達はホルミが倒しきれなかった兵士たちの相手をして階段までの道を開く事になった。
「よ、よし!あの化物が居なくなったぞ!」
「馬鹿喜ぶのは早い!!まだ化物はあっちにもいるし、ドラゴンまでいるんだぞ!!」
「くそー!どう考えたって割りにあわねーよ!!」
「愚痴ってていいのか?アタシ達は容赦しないからな!!」
「皆行くぞ!」
『オーッ!!』
目の前で起きた惨状や、こちら側のメンバーを見て少し愚痴っている兵士達を全員倒す為、俺達は一斉に向かって行った。
そういえばエルビは愚かチモンすらいないが……あいつらはどこにいるのだろうか……?
=======[スズ視点]========
「おーい大丈夫か〜?」
「大丈夫ホルミお姉ちゃん?」
「い……痛い……けど大丈夫です……」
アメリと一緒に自分で作った穴に落ちていったホルミを探して、5階程下りて……というか、おそらく一番地下まで下りてようやく倒れているホルミを発見した。
見た感じ酷い怪我などはしていないようだが、興奮状態は醒めてしまったようだ。持っている大斧もいつの間にか炎どころか赤く輝きすらしていない。
「はぁ……またやっちゃいました……」
「またって……以前にも同じ事やってるのか?」
「はい……その時はまだ人間でしたので今以上に怪我をしまして……まあその時は下に空き箱などがあって大事には至ってませんがね……私よく階段を転げ落ちたりするのですよ……」
「ドジだねホルミお姉ちゃん……」
「うっ……」
やはり魔物の身体はとても丈夫なのか、ふらふらとしながらも普通に立ち上がったホルミだが、以前にも同じような事をしたらしい。
アメリちゃんの言う通りまさにドジだ……ホルミさんが転移するって話が上がった時にユウロが心配していた理由がよくわかった……
「それにしても……ここどこだ?」
「兵士さんが一人も居ないね……それにちょっと変な感じ……」
ホルミの無事も確認したので、改めて周りの様子を見てみたが……廊下なのに灯りがほとんどなくて薄暗く、人の姿が全く見えず、それでいてなんだか空気も変な感じがした。
簡単に言えば……かなり怪しい場所だ。
「いてて……ちょっと調べてみます?」
「えっなんで?早くもどってユウロお兄ちゃんたちにかせいしないと……」
「こういう場所に実験されている人達が監修されている事が多いと思うので調べてみる価値はあると思うのですが……」
「あーなるほど……攫われた人達が居るかもしれないって事か……」
こんな不気味な所に長居はしたくなかったので戻ろうとしたところで、ホルミが調べてみないかと言いだした。
たしかにホルミの言う通り怪しい場所だから捕らわれた人達や実験なんかを受けさせられている人達が居るかもしれない……
「じゃあちょっとさがしてみる?」
「そうだな……なるべく早く合流した方が良いから素早く調べてみるか……」
「ですね……」
そう思いアタイ達はこのフロアを詳しく調べてみることにした。
「とりあえず奥に行ってみましょうか……」
「そうだね……」
長い廊下には奥にある扉以外には階段に通じているだろう扉しかない。
なのでアタイ達はとりあえず奥の扉を目指す。
「特に仕掛けなどはなさそうですね……」
「まああったらあったでなんとか対処すれば問題無いしな」
見張りが誰一人としていないのは少し不気味だ……
もしかしたら何かしらの罠が張ってある可能性も考えて慎重に奥に向かっているが……その可能性も低そうである。
本気で気付きにくい罠が仕掛けてあるか、あるいはこの奥で誰かが待ち構えているのか……もしかしたらここに来るまでの地下2階から4階までの間に誰かが居たけどアタイ達が穴から下りたから無視して行けただけかもしれない。
まあどれにしても用心するのに越した事は無いので、ゆっくりと慎重に足を進め……
「……特に何もなかったな……」
「でもこの先に何かあるかもよ?気をつけていこうよ」
「ですね……では扉を開けますよ」
そのまま何も起こる事無く扉まで辿り着いたので、早速その扉を開けて奥を覗いてみた……
「……」
「どうしたホルミ……ってこれって……!」
「ん〜?どうしたの……ってああっ!」
その奥にあった光景……それは……
「ひっ!?ま、魔物!?」
「な、なんでこんなところに魔物なんか……もう私達おしまいなんだぁ……」
「いやだ……私まだ死にたくないよ……」
「お願い……なんでもしますから命だけはどうか……」
「……どうやら正解のようですね……」
「ああ……アタイ達を見た時の反応からしておそらくドデカルアの人間達だね……」
「こんなところにとじこめておくなんてひどい……」
ルヘキサで一時的に父ちゃんが入れられていた檻よりも頑丈そうな鉄格子の中に、数人の女性がボロボロの格好で監修されていた。
「あれ?お姉ちゃんたちって人間?」
「そ、そうよ!変な実験で魔物の魔力を身体に入れられたりしてるけど私は人間よ!!」
「いやだ……魔物になりたくない……魔物になったら殺されちゃう……」
しかもかなり怯えた様子だ……全員恐怖で身体が震えている……
きっと相当酷い事をされたのだろうし、おそらく魔物になってしまって殺された人も居るのだろう……
「あ、あなた達は何をしにきたんですか?ま、まさか私達を殺しに……」
「そんな訳あるか!逆だよ逆!」
「逆?まさか助けに来たとでもいうのですか!?」
「ええ。正確には攫われたルヘキサの人達を助けに来たのですが、人体実験を行っていると小耳に挟んだので、実験を受けているドデカルアの人達もついでに助けるつもりで来ました」
「そ、そうなの……いや嘘でしょ?」
助けに来た事を伝えたのだが、イマイチ信用していないようだ。
まあ反魔物領の人間が魔物の言う事を信じられないのは仕方ないか……なんて思っていたのだが……
「本当に……私達を助けてくれるのですか?」
「もちろん!アメリたちそのために来たんだもん!!」
「そうですか……ありがとうございます……」
「あんたはアタイ達の話を信じるのかい?」
「はい。わざわざ私達を殺しに来る魔物なんて居ないでしょうし、ルヘキサの名前が出た時点できっと彼女達を助けに来た自警団員だろうと思いましたから……」
「正確には自警団員とは違いますけどね。まあ協力しているので間違ってまではいないです」
数人……10人いる中でたった一人だけだが、私達の話を少しでも信用してくれる人が居た。
「今ルヘキサの自警団の皆さんが上であなた達を助ける為に戦っています。こんな理不尽な行い、許されるはずがありませんからね」
「じゃ、じゃあ……私達をここから出してくれるの?」
「ああ。こんな檻ぐらい簡単に壊してやるよ!あとは好きにしな!」
そう言いながらアタイは鉄格子を殴りつけたが……多少凹むだけで壊れてくれなかった。
「くっ……思ったより頑丈だな……ふんぬ〜!!」
今度は力を込めて鉄格子を曲げようとしたが、軋みこそするものの人が通れるようにはならなかった。
「はぁ……はぁ……鍵探した方が早いかな……」
「退いて下さいサクラさん……それに皆さんも……」
「ん?あわわっ!?」
さてどうしようかと一息つきながら思っていたら、ホルミが後ろでタウロを構えていた。
「よいしょ!」
そして、そのタウロを檻に向けて思いっきり振り抜いたら……
バゴォォォォォン!!
大きな音と衝撃波を出しながらも、檻を破壊する事に成功した。
「さて、これでもう逃げられます」
「な、なんと……」
「後は好きにして下さい。ここの兵士達に見つかってまた捕まるのが怖いのなら、ルヘキサの人達を助けた後で私達と一緒に行きましょう」
「あ……はい……」
呆然とする捕まっている人達……まあ無理も無い。
アタイだってまさかこんな簡単に斧で破壊出来るだなんて思っていなかったから驚いているしね……砂漠で会ったプラナもそうだったけど、やっぱりそのシリーズの武器ってなんかズルイな。
「ところで、ルヘキサの人達がどこに捕まっているか知りませんか?」
「えっと……ここから更に奥に行ったところの牢にいます。おそらく私達より酷い扱いを受けているかと」
「わかった、ありがとう。助けたらまたここに戻ってくるからアタイ達と一緒に行くって人はそれまでじっとしていてくれ」
そして肝心のルヘキサから攫われた人達はもっと奥にいるらしい……先程唯一簡単に信じてくれた人が教えてくれた。
一先ずはルヘキサの人達を助ける為に、アタイ達は奥に向かった。
…………
………
……
…
「ふぅ……これで全員か?」
「はい。ルヘキサ組は全員です」
あの女性が言ってくれた通り、あの檻からさらに奥に進んだところにルヘキサから攫われた人達はいた。
そしてたしかにドデカルアの人達と比べても酷い扱いであった……パッと見ただけでも傷の痕がこちらは目立っていたし、あっちは檻の中に布団やトイレなど最低限の生活用品はあるにはあったが、こちらにはそんなものすら無かった。
それに服だってボロボロだ……あっちは穴開き程度だったが、こっちはもうただのボロ布って言える程だ。
「よし……じゃあ行きますか……」
「そうですね……ドデカルアの皆さんも居るでしょうか?」
とりあえず攫われていたルヘキサの住民8人を連れて、さっきの場所まで戻ってみたら……
「あ、本当に戻ってきた……」
「あ、全員居た……」
アタイ達を信用していた人も、それ以外の人も檻の外でじっと待っていた。
信用していない人達は勝手に行くと思っていたのだが……まさか全員いるとは思っていなかった。
「だって……絶対見つかったら連れ戻されて……下手したら魔物化したって言って殺されてしまいますもの……」
「そう……なのか?」
「はい……5ヶ月程前、実験初期だった事もあり失敗して実際に魔物化した者が一人だけいたのですが……即死刑にされたかもしれません……」
「そんな……」
どうやら見つかると殺されてしまうかもしれないらしい。
魔物になったら即死刑されるかもしれないなんて……元人間だったアタイからしたら信じたくない話だ……
……ん?されたかもしれません?
「なんで『かもしれない』?」
「いえ……噂ですとその子は殺される寸前に魔物化した際に身に付いた魔力を使ってどうにか逃げ出したとか聞いたので……まあ魔物になった時点で……あ、いえ何でもないです……」
「あーそういう事……でも死刑にされるって事は確定なんだよね?」
「はい……」
「ひどい……」
どうやらその子に関してはもしかしたら魔物になって生きている可能性はあるらしい……
それでも反魔物領の人間からしたら魔物化は死んだと同じようなものだろう……ここで生活していた父ちゃんが最初アタイにそんな事を言ってきたし、おそらくそうだろう。
「じゃあ行くか……」
「あ……でも……」
「ん?どうしたアメリ?」
とりあえずこんなところにずっと居ても仕方ないので、さっさと行こうとしたところでアメリが口を開き……
「お姉ちゃんたち、このまま人間のままで生きていくのは多分ムリだよ……」
『……えっ……』
かなり衝撃的な事を、サラッと言ってのけた。
「お姉ちゃんたちは魔物の魔力を人間のまま定着させる実験をされていたって言ってたけど……定着どころか今かなり不安定なじょうたいなんだ」
「えっと……つまりどういう事ですか?」
「ちょっとしたきっかけで魔物化しちゃうってこと。それは何も魔界に行くとか、魔物の近くにいるからとかじゃなくて、たとえば好きな人にふれられたりしたとたんとかでも魔物になっちゃうと思う……」
「そ、そんな……じゃあ魔物になりたくないなら死ぬしかないの?」
「ううん。死んじゃったらそれこそゾンビさんやゴーストさんになると思うから……というかそんなこと言っちゃダメだよ!」
どうやらどう転んでもこの人達は魔物になってしまうらしい。
ルヘキサの人達はまあ仕方ないかって表情をしているが、ドデカルアの人達は絶望に染まっている……一部は泣いてしまっている人もいるし、今にも倒れてしまうんじゃないかって程青ざめている人も居る……
「なんで……そんな……」
「いや……これじゃあ私達に未来なんて無いじゃない……死んでも魔物になっちゃうだなんて……」
ドデカルア住民側のほとんどの人が絶望に打ちひしがれてブツブツと言っている……
「なあ……そんなに魔物になるのが嫌なのか?」
「当たり前じゃない!!自分が自分じゃなくなるのよ!!」
「そうか?アタイも元は人間だけど、別に見た目以外で変わった事は特にないけど?」
「……え?」
このままでは気が狂ってしまうんじゃないか……そう思ったアタイは、気休めになればと自分の事を話し始めた。
「一年前のある日、人間だったアタイは事故に巻き込まれて死に掛けていた。しかも治療しに町に行こうにもアタイを運べたのはウシオニだけだったのに近くにあった町はウシオニに怯えている町だった……当然運べるわけがない」
「そ、それで?」
「それでアタイは生きる為にウシオニになる事を選んだ。魔物なら丈夫だし、何よりウシオニの回復力なら助かる可能性が高かったからだ。そんな感じで実際にウシオニになったわけだが、別に人間だった頃と嗜好も性格もさほど変わってないよ」
「私も元は人間、しかも勇者でした。私の場合はこの斧が呪われた武器で、気付かないうちに魔力が私の身体に侵食してある日突然魔物化しました」
「そんな……じゃああなたは……」
「そう、私の場合はあなた達と似たような事例です。ですが、私も魔物になった事への後悔はありません。たしかにミノタウロスらしく強気で赤い物を見ると興奮してしまうようになりましたが、それ以外はそのままの自分です」
「まあそんな感じで、魔物になってしまえば『なんだそんなもんか』って言える程度しか変化したと感じないってわけさ」
「そう……ですか……」
途中からホルミもその話題に乗ってくれたのでより話しやすくなった。
それが少しは気を落ち着かせる事が出来たようで、全員多少は顔色がよくなった。
「それでどうするお姉ちゃんたち?」
「ん?何が?」
「お姉ちゃんたちは何時か魔物になっちゃう……その時に好きな人が居たらきっとおそっちゃうと思う……あ、この場合のおそうってのはラブラブするってことだよ!」
「はぁ……それはそれでかなり困るけど……でもどうしようもないんでしょ?」
「そうだね。でも、アメリがお姉ちゃんたちを魔物に変えたらすぐにおそわなくても大丈夫なようには出来るよ?」
「え?」
そしてアメリが、今度は自分が全員を魔物に変えると言い始めた。
「もしかしたらわかってないかもしれないけどアメリはリリムだからね。お姉ちゃんたちが好きな魔物に変えられるよ。もちろん性欲がひかくてき少ない魔物にも、基本的なサキュバスにもね」
「そうなんだ……リリムが居るだなんて思わなかったから子供のサキュバスだと思ってた……」
「むぅ……言うと思った……まあとにかく、何かなりたい魔物がいたら、言ってくれたらアメリがその魔物に変えてあげるからね!」
「あ、うん……」
たしかにここにいた人達は特定の魔物の魔力を入れられたわけではなさそうなので、このままなら全員レッサーサキュバスになるだろう。
しかしアメリの手に掛かれば大抵の魔物への変化は可能なはずだ……自分が望む種族への変化ならば多少はマシなのかもしれない。
「まあそれはとりあえず戻ってからだね……無事に帰れたらいいけど」
「え?」
しかし、誰をなんの魔物にするとかはまだ安心して話す事なんか出来ない……
「やれやれ……なんか下の階から破壊音が聞こえてきたと思ったら、まさか階段を使わずに下りていたなんてな……」
なぜならば、階段からサーベルを持ち赤茶色の髪と藍色の瞳を持った一人の男が現れたからだ……
俺はトロンさんとは違い正面のチームなのだが、遠くからハッキリとトロンさんの声が聞こえた。
正面の門の向こう側にいる教団兵達もその声に驚いて少しざわめき始めた……これくらいの事で動揺するようなら、ここにいるのは皆雑魚という事かな。
「司教でも勇者でもいいが誰か返事をしろ!あと10分でしないのならば返さないとみて強引な手段をとらs」
ドオォォォンッ!!
「うおっと!?」
「どうしました団長!!」
「なに、相手が大砲を我々に打ち込んできただけだ。誰一人傷付いていないから安心しろ!!」
トロンさんが喋っている最中に大きな爆発音が聞こえてきた。
煙が上がっているのでもしやと思ったが、やはり相手が大砲をトロンさんに向けて放ったらしい。
ただトロンさん曰く無傷らしいので安心だ……あっちはたしかホルミや脇田が居たかな?
しかし、トロンさんに向けて大砲なんか撃ってきたという事は……
「これは、宣戦布告と取っていいんだよな?」
「そうだ!我々は貴様ら無法者共に屈する事は無い!!」
やはりそのまま誘拐した人達を返してはくれないらしい。
教団のおえらいさんらしき人が窓から身を乗り出してトロンさんが居るほうに叫んできた……あれ、魔術かなんかで狙い撃ち出来ないかな?
「わかった……では皆の者!乗り込んで捕えられ人体実験されている者達を救出するぞ!!」
「おおおおおっ!!」
「行くのだ兵士達よ!魔物や人を裏切った愚か者どもを根絶やしにするのだ!!」
「うおおおおおおおっ!!」
なんて思ってたら、決戦の開始のようだ。
それぞれが雄叫びを上げ、士気を高め始め……そして……
「皆行くぞ!!門を突破しろ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「奴らを中に入れるな!!何としても守り通せ!!」
戦闘が始まった!!
「こんな門一発で吹き飛ばしてやる!」
「うおらああああっ!!」
「ぶっ飛べ!!」
スズとプロメ、それに自警団のリザードマンが正面の鉄格子の門に向かって突進した。
パワー自慢な魔物が力任せに門を押したため……
「うおらあっ!!」
「わっ!?正面、門がいとも容易く破られました!!」
「慌てるな!数ではこちらが勝っているんだ、落ち着いて対処しろ!!」
頑丈そうな門も簡単に開き、俺達の前を邪魔するものは教団兵だけになった。
「おっしゃあっ!行くぞ!!」
「させるkもけっ!?」
「邪魔だどけっ!!」
先陣切ってプロメが兵隊の中に突っ込んでいき、何時ぞやのように素早い動きで兵士の間を掻い潜りながら顔や腹部を殴ったり蹴ったり、時には引っ掻きまわしたりしている。
それはさながら小さな竜巻のようで、プロメに殴られたりした兵士達は宙を舞っている……相変わらず凄いものだ。
「さて……アタイの血を浴びたいのかい?」
「ひっ……ま、魔術部隊、あのウシオニをこうgもぷっ!!」
「なんてな!あんたらの攻撃を喰らうつもりもないし、ウシオニに変えるつもりも無いね!!」
スズはスズで大勢に囲まれても特に気にする事無く相手を殴り飛ばしたり、糸で雁字搦めにして動けないようにしている。
やはりウシオニの血は怖いのか、なかなか相手もスズに剣などの接近武器で攻撃をしようとはしていない。
というか血で脅すとは凄い事を考え付いたな……あれじゃあうかつに剣で斬る事は出来ない。
「や、やはり裏切ったのかイヨシ!!」
「エルビ様の言う通りだったのか……」
「ふん、娘のおかげで自分の愚かさに気付けたからな……それに私は娘の味方だ!!」
「なんだtぐぅ!?」
猪善さんもつい先日までは同僚だった者をなんの躊躇も無しでばっさばっさと切り倒している……といっても峰打ちだが。
でもやっぱり相手は戸惑っているようで、何も出来ないまま峰打ちされて沈んでいる。
「わあっ!?虫が、虫が大量に身体に纏わりついて……!!」
「何言って……わあっ!?さっきまでいなかったのになんdぷぎゃっ!!」
「どうやウチの幻術は?効果テキメンやろ!」
カリンの周りを囲っている兵士達が行きなり何も居ないのにもかかわらず身体から何かを払う動作をし始めた。
どうやら花梨が幻術で虫が大量に纏わりつく様子を見せているらしい……毛虫やGとかなら想像するだけで少し気持ち悪くなるな……
とまあそんな感じで相手を惑わし、無防備になった兵士達を次々と棍棒で殴り倒しているカリン……十分に戦えている。
「余所見は禁物だおらあっ!」
「おっと……忠告ありがとよ!」
他の皆の様子を見ていたらガタイの良い奴が俺に向かって銅の剣を振り下ろしてきた。
それに気付いて難なく後ろに避け、手に持つ木刀で応戦する。
「てめぇ木刀だなんて俺達を嘗めてるのか?」
「お前こそ木刀嘗めてんじゃねえぞ?」
左右に切り掛かってくるのを俺は木刀で受け流し続け……
「木刀でもな……当たるところによっては痛いんだぜ!」
「ぐあっ!!」
自分は剣だから有利だと思い込んでいたのか大きな隙があったので、俺は相手の顎に突きをかました。
この木刀は切れ味の良すぎる剣相手でも全く劣らないドリアードお墨付きの木から作られた木刀だ……硬度もそこいらの棒なんか比じゃない程ある。
そんな物を顎に叩きつけられた相手は……
「うぁ……ぁうあぅ……」
ふらふらと力が抜けるように倒れ、白目を向きながら気絶した。
「さて……次はどいつだ?なんなら一気に掛かってこい!」
「生意気だぞ貴様!!」
「木刀使いが調子に乗るんじゃねえ!!」
「こいつの有り様を見てまだそんな事を言えるんだな……」
やはり正面だからか、まだまだ相手はかなり多い。
一番多く割り当てられているとはいえ、他2か所が合流するまでは突破は厳しそうだ。
「ふぅ……これは頑張らないとな!」
一息吐いた後、先程の挑発に掛かってくれた奴らを相手にすべく、一気に踏み込み始めたのだった……
=======[アメリ視点]=======
「おい、可愛い子供が混ざってるぞ!!」
「馬鹿!子供と言えど魔物…しかも姿からしておそらくリリムだぞ!!油断するな!!」
アメリのことリリムだってめずらしくわかってくれた……じゃなくて、教団の人たちに囲まれちゃった。
「なんでさらった人たちを返してくれないの?」
「知るか!上が決めた事に俺達が言える事なんかねーんだよ!」
「ふーん……」
ルヘキサからさらった人たちを返してくれたらたたかわなくてもよかったのに、返してくれないからたたかうことになってしまった。
こうなったらアメリもたたかうけど……魔力もつかなぁ……
「じゃあごめんね兵士さんたち。『エレクトリックディスチャージ』!!」
「うわあっ!?」
とりあえず兵士さんたちがアメリを囲んで剣を向けて来ているから、広はん囲に電気を放てるこうげきをしたんだけど……
「くっ……あんたの言う通り油断は禁物だな……」
「……あれ?」
兵士さんたちはアメリの魔法をなんとかこらえた……けど、なんか変だ。
「んー……『ロックスライド』!!」
「じょ、上空だー!!」
「うわあぁぁ……」
今度は本来ならけっこうつかれる岩を沢山落とす魔法を使って、兵士さんたちをおおぜい気絶させたけど……やっぱり変だ。
「あれぇ?」
なんでつかれないんだろう……というか、アメリの魔力がほとんどへっていないような……
もしかして……
「このネックレスのおかげかな?」
ちょっと前にユウロお兄ちゃん……より正確に言うとラインで会ったクウリお兄ちゃんがくれたネックレス。
魔術を使う人がもつといいってことらしいから何かあるのかと思って今日は首から下げてたけど……このネックレスについてるきれいな石がアメリの魔力に反応してるのかな?
「ん〜……『ドロップアイシクル』!!」
「な、なんだ!?氷の塊が飛んで……うわあああっ!」
「……やっぱりそうみたい……」
今度はいしきしてこのきれいな石に魔力を通してからこうげき魔法を使ってみた。
やっぱり思った通りで、この石を通して魔術を使えばほとんどアメリ自身の魔力を使わなくてすむみたいだ。
「これはいいものもらっちゃった♪」
ふだんはあまり使わないけど、こういう時にとても便利だ。
これがあれば魔力ののこりを気にしないで魔術を使えるし、後でおなかが鳴り続けてはずかしいなんてこともないもんね。
今度またクウリお兄ちゃんに会うことあったらきちんとお礼言っておこう。
「アメリちゃん大丈夫?」
「うん!いいものもってるからアメリいっぱい魔術使えるよ!!」
「大丈夫そうですね。やはりリリムですと子供の頃から戦闘訓練などもするものなんでしょうか?」
「ううん、アメリは旅に出るからってお父さんやお母さんやお姉ちゃん、それにおうちに住んでるお姉ちゃんや元勇者のお兄ちゃんたちに教えてもらったんだ……」
ひとまずアメリの周りにいた兵士さんたちを気絶させたら、レシェルお姉ちゃんとアフェルお姉ちゃんがアメリを心配して声をかけてくれた。
……ってあれ?
「なんでアフェルお姉ちゃんもいるの?」
「ああ……アフェルと私の旦那は戦闘も出来るからこっちに入れられてるのよ。旦那は元勇者だし、アフェルはアフェルで教団側で戦っていた事もあるしね」
「へぇ〜……」
なんでお医者さんのアフェルお姉ちゃんがサマリお姉ちゃんたちと同じサポートメンバーじゃなくてアメリたちといっしょにたたかってるんだろうって思ったら、アフェルお姉ちゃんとレシェルお姉ちゃんのだんなさまはお医者さんでもたたかえるからとのこと。
「それでちゆ魔法も使えるってすごいね!アメリちゆ魔法使えないからな〜……」
「あんなに強力な攻撃魔法を使えるのでしたらすぐ使えるようになりますよ」
ちゆも出来てたたかえるってすごいと思う。
アメリ相手にこうげきする魔法は使えるけど、ちゆ魔法は転移と同じでどうもむずかしくてまだ使えないもんな……
「おい!ここにはちんまいのしかいないぞ!!」
「チャンスか?いやでもこんな所にいるぐらいだ、見た目以上の力を持つかもしれん……」
「おっと、喋ってる暇は無かったわね」
「ですね。合図の前になるべく戦力を削っておかなければ……」
なんて感じに二人とおはなししていたらまた囲まれちゃっていた。
また広はん囲の魔術を使おうとしたけど、アフェルお姉ちゃんとレシェルお姉ちゃんがアメリの前に出てきて……
「いくわよアフェル!」
「ええ、行きますよお姉ちゃん!」
「「『クロッシングマーダー』!!」」
姉妹の息を合わせて、腕に真っ黒な刃を生み出して……
「くっ……気をつけろ!何かしてくr」
「お前達はもう……」
「斬られている!」
「……うぐぅ……」
目にも止まらない速さで兵士さんたちを切りさいた。
まあ切りさいたって言ってもお姉ちゃんたちの魔力の刃だから血が飛び出したりしたわけじゃなくて、精神的なダメージが入っただけだと思うけどね。
それでも効くものは効くからきられた兵士さんたちはみんな気絶しちゃった。
「お姉ちゃんたちカッコイー!!」
「ふふーん!さあまだまだ行くわよ!」
「そうですね。これなら合図前にかなり減らせるかと」
合流の合図はトロンお姉ちゃんがころあいを見て出す予定だからいつになるかわからない。
だからアメリたちはなるべく速く、おおぜいの兵士さんたちをやっつけるつもりだ。
「んー……アメリこのネックレスのおかげであまり魔力へらないし、『あれ』ためしてみようかなぁ……」
「あれって?」
「おうちに住むお姉ちゃんにおしえてもらったもの。アメリたちリリムは本来やらなくても問題ないけど、アメリまだ子供だからおぼえておいてそんはないからって」
ふだんはそんなに使う必要ないし、お姉ちゃんたちが言うには大人になったら使う必要がほとんどなくなるらしいし、つかれるからめったに使わない魔力の使い方……今のアメリならかんたんに出来るかもしれない。
「じゃあやってみてよ」
「うん!」
ちょっともったいぶってみたらレシェルお姉ちゃんがきょうみもってくれたから、アメリやってみることにした。
「ねえお兄ちゃんたち……」
「な、なんだ?」
アメリは兵士さんたちがカベみたいに集まってるとこの前に出て……
「アメリとぉ……」
アメリ自身の魔力を、周りに放出するように発生させて……
「いっしょにぃ……」
なるべく多くの兵士さんたちと目を合わせながら……
「なかよく……」
つばさや尻尾をお姉ちゃんたちにおしえてもらったようにピコピコと動かして……
「あそぼっ♪」
満面の笑みを浮かべながら、あそぼって言えば……魅了魔法の完成っと♪
「う、うん!おじちゃん達でよければいいよ!」
「そうそう、な、何して遊ぶ?」
「アメリちゃんハァハァ」
「き、気持ち良くて愉しい遊びを教えてあげようか?」
「えっなになにーおしえてー♪」
ざっと100人ぐらいはアメリの魅了魔法にかかったみたいだ。
もってた武器を投げ捨ててくれた兵士さんや、息をあらくしながらアメリをじっと見てくる兵士さん、それに着ている物をぬぎはじめた人もいる。
「……幼女に発情した変態とそのお仲間達は……」
「まとめて浄化です!!地に還りなさい恥さらし共!!」
「『パーガドリィフレイム』!!」
「ぐわああああああああああああっ!?」
「あちちちちちちちちちちちちちちっ!!」
そんな兵士さんたちをまるでサイテーなものを見る様な冷ややかな目で見ていたアフェルお姉ちゃんとレシェルお姉ちゃんが唱えた魔法によって、たちまちアメリに魅了されていた兵士さんたちはつよく燃えたぎる火の海の中に閉じ込められた。
ま、まあお姉ちゃんたちが放った魔法だし死んじゃうことはない……よね?
なんか今のお姉ちゃんたち……とくにこわいかおをしてるアフェルお姉ちゃんを見ていると本気でころしちゃうんじゃないかって思えてきちゃう……
「こんな変態が紛れ込んでいるなんて……塵も残さぬよう壊滅させるしかありませんね……」
「お、お姉ちゃんやりすぎ……」
でもアメリの魅了魔法にかかった人や、その人たちを正気に戻そうとした人たちもまきこんでかなりの人数が気絶したようだ。
こんなに大きな魔法使って大丈夫なのかなと思ったけど、お姉ちゃんたちからそれぞれのだんなさんの精の匂いがするから大丈夫かな。
こんな感じにアメリたちが担当した入口の兵士さんたちをいっぱい気絶させていたその時……
ブオォォォォォォォォォッ!!
「ん?あれは……」
「団長が吐いた火球……という事は合図ね!」
アメリたちがいる場所とは反対側の空に、夜空の中にかがやく太陽のように燃え上がる火の球が浮かび上がった。
どうやらトロンお姉ちゃんが自分で吐いた炎らしい……つまり合図だろう。
「行くわよ皆!!」
『はいっ!!』
だからアメリたちは、いっせいに上空にとび上がった。
そしてアメリたちはとびながら、もちろんとべない人は転移魔法でユウロお兄ちゃんたちがいる正面入り口に向かい始めた。
「くそっ!やっぱそうだったか!!」
「動けるものは正面に向かうぞ!!急げ!!」
アメリたちの行動がすぐわかったようで、下で兵士さんたちがざわめきながらも移動を始めた。
動ける人はかなりへったようだけど、それでもまだいっぱいいる……だから今移動している兵士さんたちが合流する前にアメリたちも急いで向かわないといけないけど……
「うぅ……」
「大丈夫ですか!しっかりして下さい!!」
「武器を弾き飛ばしていたから油断してた……後ろから思いっきり兜で殴られたわ……」
「私は捌き切れなくて腕を……一応動くから実生活をして行くのには問題は無いだろうけど……自力で飛ぶのはちょっと無理かな……」
アメリたちもみんながみんなけがしてないなんてことはなくて、サキュバスのお姉ちゃんは頭から血が流れてるし、ハーピーのお姉ちゃんもうでから血が溢れだしてて自分の力ではとべないようだ……昔の姿になってるワイバーンのお姉ちゃんの背中に乗せられて、アフェルお姉ちゃんに見てもらっている。
「やっぱりだれかがきず付いちゃうのはいやだな……」
「まあ、ね。それでもこれ以上傷付いちゃう人が出ないようにする戦いでもあるから……一緒に頑張ろうねアメリちゃん!」
「うんっ!」
2人とも、特にサキュバスのお姉ちゃんはすごくいたそうだ……アメリはあまりみんながきず付くのを見たくない。
でもアメリだって少なからず兵士さんにこうげきしてるし、きず付けないでだなんて言えないだろう。
だからこそ、もっときず付いてしまう人がふえるまえにこのたたかいを終わらせないと!
「よし、皆と合流するわよ!怪我人は『テント』まで戻って、それ以外はあっちから向かってくる団長達や正面組と一緒に一気に内部まで押し入るわよ!!」
アメリたちと反対側からとんでくるトロンお姉ちゃんたちが見えてきた……
下を見たら、兵士さんたちとたたかっているユウロお兄ちゃんたちも見えてきた……
「……よし、がんばるぞー!!」
押されてるわけでもないけど、押してるわけでもないユウロお兄ちゃんたちの手助けをするため、アメリは一言決意をさけんでから地面に下り立っていった……
=======[サマリ視点]=======
「包帯持ってきましたー!!」
「ありがと、そのまま治療も手伝って!!まずはその包帯を頭にそっと、それでいてきちんと巻いて!」
「はいっ!」
現在19時。
ユウロ達がこの『テント』を出て行ってから約1時間……激しい戦いをしているのか、数人ではあるが怪我人が運ばれ始めた。
普段は私達が夜寝る時に使うベッドに寝かせ、治療院の人達の指示に従って怪我の治療のお手伝いをしていた。
頭から血を流している者、背中を思いっきり斬りつけられている者、顔面に大きな痣を残し気絶している者……命を落とした人こそまだいないが、結構大怪我しているような人も居た。
ただ魔物の怪我人と人間の怪我人で比べるとやはり人間のほうが若干多い……ユウロやイヨシさん達が運ばれてきたらどうしようか……
「では安静に寝ていて下さいねユウキさん」
「うぅ……ありがとうサマリさん……やっぱ僕じゃあんな大人数相手に出来無かったよ……」
「いえいえ、生きて戻ってこれただけ良しとしましょうよ。旦那さんの陽太さんに会えるのですからね」
「まぁ……でも吉崎君達は戦ってるのに僕は怪我してベッドで寝込んでるなんて少し悔しいな……」
「何言ってるんですか!ユウキさんだって出来る事はきちんとやってますよ。それにもし皆やられたり、そうでなくてもこの『テント』の存在を知られてしまった場合は頼りにしてますから!だから今はよく休んでいて下さいね!」
「あ、うん……ありがと……」
それで数少ない魔物であるユウキさんの治療を一先ず終えた。
自分が簡単にやられてしまい、早々に戦闘から脱落してしまった事が悔しいようだ……
でも……最初から戦えない私よりはいいと思う……けど、悔しがっている暇なんて無い。
だからこそこうして私にも出来る事を一生懸命やっているのだ。
「ふぅ……」
「おつかれサマリさん」
「あ、ネオムさん……」
一先ず運ばれてきた人達の手当ても一段落ついたので、その場で一息吐いていたらプロメの旦那さんであるネオムさんが来た。
ネオムさんはネオムさんで他の人の治療の手伝いをしていたようだ……手には血で濡れたタオルを持っている。
「アメリちゃんやユウロ君の事、心配だったりするかい?」
「ええ……皆怪我とかしてないかなって……ネオムさんはプロメの事心配してないのですか?」
「まさか、今すぐにでも無事な姿を見たいぐらいには心配してるよ。プロメは強いって言ったって、怪我しない保障はどこにも無いのだからね」
「ですよね……」
平気そうに見えるネオムさんだってプロメの事を心配している……いや、きっとこの場にいる全員が教会に攻めていった人達の事を心配しているだろう……もちろん私だって心配している……
もしユウロやアメリちゃんが大怪我して運ばれてきたら……もし死んでしまったら……そんな悪い想像が頭から離れてくれないのだ……
「でもねサマリさん、そんなに心配そうな顔をしたり、悪い考えはやめた方が良いですよ?」
「へ?」
そんな私の考えがわかったのか、ネオムさんが私を励まし始めた。
「皆はそうならないように戦っているわけですからね。むしろそうやって悪い想像すると悪いものが集まってきて本当にそうなってしまうかもしれません」
「そ、そういうものですかね?」
「実際プロメと暮らしてる時にこのままで大丈夫かと不安がっていたら両親が変な届け出をしてディナマに攫われましたからね。全く的外れではないかなと」
「そうですか……」
「だからね、皆が無事に帰ってこれないかもって想像じゃなくてさ、皆が無事に帰ってくる想像をしようよ。サマリさんが暗い顔をしていると他の人だって暗くなっちゃうけど、サマリさんが明るい顔をしていると皆だって明るくなるからね」
「……はい、ちょっとは元気になってきました!皆無事に帰ってくるですね!」
そのおかげもあり、私は少し元気が出てきた。
そうだ……ネオムさんの言う通り、悪い方の想像ばかりしていては駄目だ。
皆が無事に帰ってこれる……そう願って私に出来る事をやらなければ!
「さてと……じゃあ僕はこのタオルや他のものの洗濯をしてきます!」
「そうですね……あ、私も洗濯手伝います!」
という事で私は、皆の無事を願いながらも、今自分が出来る事を元気にやる事にしたのだった。
=======[ユウロ視点]=======
「よし、道は開けた!!突入するぞ!!」
『おおおおおっ!!』
全員が集まった後、一丸になって突き進んで行った結果……1時間掛からない程で建物内の入口までの道が開けた。
「いよいよ突入だね!」
「ああ……というかアメリちゃんさっきから魔術使いまくりだけど大丈夫なのか?」
「うん!このネックレスのおかげでアメリ自身の魔力ほとんどへってないんだ!」
「そうか……どおりであんな大技連発出来てるわけか……」
相手が合流するどころかこんなにも早く突入出来た一因としては、アメリちゃんの大活躍のおかげでもあるだろう。
なぜなら合流するなり広範囲に攻撃できる魔法や、その無垢な笑顔を前面に引き出したうえにさらに相手に注目させる事が出来るという普通の人にはもちろんロリコンには効果が抜群な破壊力を持つ魅了魔法を駆使して教団兵達を薙ぎ払ったからだ。
つーかなんでリリムとはいえ子供であるアメリちゃんにやらしい想像出来る奴が居るんだよ……かなり引くわ……
「突き進め!!」
「おっし、行くよアメリちゃん!!」
「うん!」
まあそんな感じで正面を守っていた奴らを粗方気絶させたり一部夫婦になったりしながら無力化させたので、俺達は中に突入する事になった。
「奴らが内部に侵入してきたぞー!!」
「司教様達を御守りするんだ!!」
「別にあんな司教共我々は興味など無い!誘拐した者と人体実験されている者を解放しに来ただけだ!邪魔をするなら容赦しないぞ!」
内部もやはり大勢の兵士達が守っていた。
ここは広間のようだが……部屋の奥の方に上や下に行く階段が見える……まずはあそこを目指すとしよう。
「よし、いk」
「ここは私達にお任せを」
「皆は表の戦いで疲れてるだろうからな。ここはあたしとホルミだけで行く」
「ん?ホルミ?それにルコニも」
木刀を構え早速突撃しようとしたら、ホルミとルコニが一歩前に出てきた。
ルコニは一応ニオブの補助魔法が掛けられているようだが、ホルミは特に何も補助などは無いようだが……
「俺達を嘗めやがって……魔物2体だけでどうにか出来ると思ってるんじゃねーよ!!」
「外にいた奴らより俺達の方が強いんだよ!」
しかし……こいつらが持っている武器はコンステレーションシリーズだ……もしかしたら二人だけでも大丈夫かもしれない……
「はん!お前等だってあたし達を嘗めるんじゃないよ!」
「最初から本気で行かせてもらいます!」
ルコニはジェミとエミニ双方を顔の前に構え、ホルミは大斧を頭上に掲げ上げて……そのまま相手の軍勢の中に突っ込んで行った。
「くそっ!俺の剣戟を易々と……何者だこのドッペルゲンガーは!?」
「いやあっ!あんたらの攻撃は全部お見通しなんだよ!!」
「なっ!?私の攻撃が当たらな……きゃあ!」
「おっと安心しな!あたしの剣じゃ血こそ出ても死ぬ事は無いし、言う程魔力も込めて無いから簡単には魔物化もしないよ!!」
ルコニは相手の攻撃を易々とかわしつつジェミとエミニで相手を斬りつけていく……とは言っても、相手を殺さないように腕や足などを斬りつけ戦えなくしたり、頭を柄で殴りつけ気絶させるような感じだ。
それでも斬られた部分は痛いだろうし、柄で殴られるのは俺自身経験済みだが相当キツイ。
相手もまさか臆病なはずのドッペルゲンガーがここまで大暴れするとは思わなかったのだろう……驚きのあまりルコニの動きに対応できずになすすべも無くやられていく。
「あんたらみたいな雑魚の技コピーさせても意味無いしなぁ……最初から行くか!接合!!」
「な、なんだあの剣!?合体しやがった!」
「いっくぞおらあっ!!」
「う、うわああああああああああっ!?」
さらにはジェミとエミニを一つにしたジェミニを振り回し、掠めるように当てたり風圧で相手を吹き飛ばしている。
「血……血が……」
「……ん?」
そんな感じで大暴れしているルコニとは対照的に、ずっと立ちすくんでいたホルミが何かを呟き始めた。
「血……赤……ンモオオオオオオオオオッ!!」
「うわあっ!?」
「行きますよ!!タウロの力を存分に味わいなさい!!」
どうやらルコニが斬りつけた事によってそこらに飛び散った血を見て興奮し出したようだ。
心なしかタウロの刃も赤く輝いて見える……いや、実際に赤く輝いてる?
「うおりゃあああああああああああです!!」
赤く輝いているタウロを興奮を全く抑える気の無いホルミが振り上げ……
ドオオオオオオオオオオンッ!!
地面に叩きつけた瞬間、轟音と共に地面が裂けた。
……は?地面が裂けた!?
「う、うわあああああああああああああバケモノだああああああああああっ!!」
「たった一振りで床をぶち抜きやがったぞあのミノタウロス!!あんなの相手に出来るわけ無いだろ!!」
なんとホルミが赤い物……つまり血を映し、赤く輝いているタウロを叩きつけたら、そこから大きくヒビが入って床に穴が空いた。
そっと穴の中を覗いてみたら……なんと一つ下の階だと思われる部屋と、その部屋にも大きく入っている亀裂が見え、更に下の階に穴があるのも見えていた……つまり最低でも3階下まであの一振りだけで穴を空けた事になる。
そういえばルヘキサでタウロの性能の話をしていた時にサラッと言ってたけど、建物程度なら簡単に破壊できるって言ってたな……なんという恐ろしい武器だ。
俺達と戦っている時に赤い物が無くて本当に良かった……あったら今頃俺達はテトラスト付近の地面にしたいとして転がっていただろうな……
「なに、接近戦が駄目なら魔術であいつを倒せばいい!!『フレイムラジエーション』!!」
床が易々と破壊されたのを目の当たりにしたからか、ホルミ相手に接近戦はしない事にしたようだ。
相手の魔術師らしき男が放射状の炎をホルミに向けて発射した。
「甘いですね!私のタウロの力はただの馬鹿力だけじゃないですよ!!」
しかしホルミはそれに怯むどころか、向かってくる炎に向けてタウロをかざし……
「この炎を纏うのですタウロ!!」
「んな馬鹿な!?」
なんとその刃にその炎を纏わせた。
「さて、では今度はこちらからいかせてもらいます!!」
そして、タウロを後ろに引っ張り、思いっきり力を入れてその場で振りかざすと……
「喰らいなさい!!」
「うわあああっ!?」
跳ぶ斬撃というものだろうか……炎を纏った三日月状のエネルギーが飛んでいき、当たったところを綺麗に斬り裂いていた。しかも炎の効果で焦げ跡付きだ。
「当たっても死にはしないので安心して下さい。めちゃくちゃ痛いだけですから!」
「それのどこが安心できるんだよってやめて〜!!」
それをブンブンとタウロを振り回して飛ばし続けるホルミ……見事に命中してしまった兵士達から血が溢れる事こそ無いものの、当たった場所の鎧が裂けているか溶けているかのどっちかで、さらに当たった人はもれなく全員気絶している。
「……あのさユウロ……ウチさ、ルコニとホルミって性格逆じゃないんかと思っとったんやけどさ……」
「そうでもなさそうだな……」
カリンに言われて思ったが、本来なら臆病で大人しい筈なのに強気で暴れ回るルコニ(ドッペルゲンガー)と本来なら強気で凶暴なはずなのに丁寧な言葉遣いで大人しいホルミ(ミノタウロス)って逆な気がする……けど、興奮して暴れ回っているホルミを見るとただルコニが異常なだけのようだ。
「さあ、どんどん行きますよ!!私はこんな下層でじっとしている暇なんて無いのですから!!」
それでそんな興奮し続けているホルミはそのままの勢いで相手に突っ込んで行こうとして……
「私はエルビに会いに………………あっ……」
「あっ」
「あっ」
『あっ』
先程自分が作った穴に真っ直ぐ突っ込んで行き……
「きゃあああぁぁぁぁっ………………」
そのまま下に落ちていった。
「……あのドジ!何してんだよ!!」
「たぶんミノタウロスだから怪我まではしてないと思うが……私があれだけ斬りつけたけど生きているどころかこうしてピンピンしていたわけだしな……」
「アメリホルミお姉ちゃんの様子見てくる!」
「アタイも行ってくる!もし骨が折れてたりしたらアタイの糸で固定もしないとね」
「まかせたでスズ!アメリちゃん!ウチらはホルミの分まで頑張っとるからな!」
慌てて穴から覗いて様子を確認しようとしたが、運の悪い事に更に下の方まで落ちていったようだ。
助けに行きたいが流石に穴から下の階に下りるのは難しいし、かといって階段で向かうにしても倒しきれてない教団兵達を倒さないといけない。
なのでとりあえずアメリちゃんが飛んで、そしてスズが糸と頑丈な身体を駆使してホルミの様子を見に行く事になり、俺達はホルミが倒しきれなかった兵士たちの相手をして階段までの道を開く事になった。
「よ、よし!あの化物が居なくなったぞ!」
「馬鹿喜ぶのは早い!!まだ化物はあっちにもいるし、ドラゴンまでいるんだぞ!!」
「くそー!どう考えたって割りにあわねーよ!!」
「愚痴ってていいのか?アタシ達は容赦しないからな!!」
「皆行くぞ!」
『オーッ!!』
目の前で起きた惨状や、こちら側のメンバーを見て少し愚痴っている兵士達を全員倒す為、俺達は一斉に向かって行った。
そういえばエルビは愚かチモンすらいないが……あいつらはどこにいるのだろうか……?
=======[スズ視点]========
「おーい大丈夫か〜?」
「大丈夫ホルミお姉ちゃん?」
「い……痛い……けど大丈夫です……」
アメリと一緒に自分で作った穴に落ちていったホルミを探して、5階程下りて……というか、おそらく一番地下まで下りてようやく倒れているホルミを発見した。
見た感じ酷い怪我などはしていないようだが、興奮状態は醒めてしまったようだ。持っている大斧もいつの間にか炎どころか赤く輝きすらしていない。
「はぁ……またやっちゃいました……」
「またって……以前にも同じ事やってるのか?」
「はい……その時はまだ人間でしたので今以上に怪我をしまして……まあその時は下に空き箱などがあって大事には至ってませんがね……私よく階段を転げ落ちたりするのですよ……」
「ドジだねホルミお姉ちゃん……」
「うっ……」
やはり魔物の身体はとても丈夫なのか、ふらふらとしながらも普通に立ち上がったホルミだが、以前にも同じような事をしたらしい。
アメリちゃんの言う通りまさにドジだ……ホルミさんが転移するって話が上がった時にユウロが心配していた理由がよくわかった……
「それにしても……ここどこだ?」
「兵士さんが一人も居ないね……それにちょっと変な感じ……」
ホルミの無事も確認したので、改めて周りの様子を見てみたが……廊下なのに灯りがほとんどなくて薄暗く、人の姿が全く見えず、それでいてなんだか空気も変な感じがした。
簡単に言えば……かなり怪しい場所だ。
「いてて……ちょっと調べてみます?」
「えっなんで?早くもどってユウロお兄ちゃんたちにかせいしないと……」
「こういう場所に実験されている人達が監修されている事が多いと思うので調べてみる価値はあると思うのですが……」
「あーなるほど……攫われた人達が居るかもしれないって事か……」
こんな不気味な所に長居はしたくなかったので戻ろうとしたところで、ホルミが調べてみないかと言いだした。
たしかにホルミの言う通り怪しい場所だから捕らわれた人達や実験なんかを受けさせられている人達が居るかもしれない……
「じゃあちょっとさがしてみる?」
「そうだな……なるべく早く合流した方が良いから素早く調べてみるか……」
「ですね……」
そう思いアタイ達はこのフロアを詳しく調べてみることにした。
「とりあえず奥に行ってみましょうか……」
「そうだね……」
長い廊下には奥にある扉以外には階段に通じているだろう扉しかない。
なのでアタイ達はとりあえず奥の扉を目指す。
「特に仕掛けなどはなさそうですね……」
「まああったらあったでなんとか対処すれば問題無いしな」
見張りが誰一人としていないのは少し不気味だ……
もしかしたら何かしらの罠が張ってある可能性も考えて慎重に奥に向かっているが……その可能性も低そうである。
本気で気付きにくい罠が仕掛けてあるか、あるいはこの奥で誰かが待ち構えているのか……もしかしたらここに来るまでの地下2階から4階までの間に誰かが居たけどアタイ達が穴から下りたから無視して行けただけかもしれない。
まあどれにしても用心するのに越した事は無いので、ゆっくりと慎重に足を進め……
「……特に何もなかったな……」
「でもこの先に何かあるかもよ?気をつけていこうよ」
「ですね……では扉を開けますよ」
そのまま何も起こる事無く扉まで辿り着いたので、早速その扉を開けて奥を覗いてみた……
「……」
「どうしたホルミ……ってこれって……!」
「ん〜?どうしたの……ってああっ!」
その奥にあった光景……それは……
「ひっ!?ま、魔物!?」
「な、なんでこんなところに魔物なんか……もう私達おしまいなんだぁ……」
「いやだ……私まだ死にたくないよ……」
「お願い……なんでもしますから命だけはどうか……」
「……どうやら正解のようですね……」
「ああ……アタイ達を見た時の反応からしておそらくドデカルアの人間達だね……」
「こんなところにとじこめておくなんてひどい……」
ルヘキサで一時的に父ちゃんが入れられていた檻よりも頑丈そうな鉄格子の中に、数人の女性がボロボロの格好で監修されていた。
「あれ?お姉ちゃんたちって人間?」
「そ、そうよ!変な実験で魔物の魔力を身体に入れられたりしてるけど私は人間よ!!」
「いやだ……魔物になりたくない……魔物になったら殺されちゃう……」
しかもかなり怯えた様子だ……全員恐怖で身体が震えている……
きっと相当酷い事をされたのだろうし、おそらく魔物になってしまって殺された人も居るのだろう……
「あ、あなた達は何をしにきたんですか?ま、まさか私達を殺しに……」
「そんな訳あるか!逆だよ逆!」
「逆?まさか助けに来たとでもいうのですか!?」
「ええ。正確には攫われたルヘキサの人達を助けに来たのですが、人体実験を行っていると小耳に挟んだので、実験を受けているドデカルアの人達もついでに助けるつもりで来ました」
「そ、そうなの……いや嘘でしょ?」
助けに来た事を伝えたのだが、イマイチ信用していないようだ。
まあ反魔物領の人間が魔物の言う事を信じられないのは仕方ないか……なんて思っていたのだが……
「本当に……私達を助けてくれるのですか?」
「もちろん!アメリたちそのために来たんだもん!!」
「そうですか……ありがとうございます……」
「あんたはアタイ達の話を信じるのかい?」
「はい。わざわざ私達を殺しに来る魔物なんて居ないでしょうし、ルヘキサの名前が出た時点できっと彼女達を助けに来た自警団員だろうと思いましたから……」
「正確には自警団員とは違いますけどね。まあ協力しているので間違ってまではいないです」
数人……10人いる中でたった一人だけだが、私達の話を少しでも信用してくれる人が居た。
「今ルヘキサの自警団の皆さんが上であなた達を助ける為に戦っています。こんな理不尽な行い、許されるはずがありませんからね」
「じゃ、じゃあ……私達をここから出してくれるの?」
「ああ。こんな檻ぐらい簡単に壊してやるよ!あとは好きにしな!」
そう言いながらアタイは鉄格子を殴りつけたが……多少凹むだけで壊れてくれなかった。
「くっ……思ったより頑丈だな……ふんぬ〜!!」
今度は力を込めて鉄格子を曲げようとしたが、軋みこそするものの人が通れるようにはならなかった。
「はぁ……はぁ……鍵探した方が早いかな……」
「退いて下さいサクラさん……それに皆さんも……」
「ん?あわわっ!?」
さてどうしようかと一息つきながら思っていたら、ホルミが後ろでタウロを構えていた。
「よいしょ!」
そして、そのタウロを檻に向けて思いっきり振り抜いたら……
バゴォォォォォン!!
大きな音と衝撃波を出しながらも、檻を破壊する事に成功した。
「さて、これでもう逃げられます」
「な、なんと……」
「後は好きにして下さい。ここの兵士達に見つかってまた捕まるのが怖いのなら、ルヘキサの人達を助けた後で私達と一緒に行きましょう」
「あ……はい……」
呆然とする捕まっている人達……まあ無理も無い。
アタイだってまさかこんな簡単に斧で破壊出来るだなんて思っていなかったから驚いているしね……砂漠で会ったプラナもそうだったけど、やっぱりそのシリーズの武器ってなんかズルイな。
「ところで、ルヘキサの人達がどこに捕まっているか知りませんか?」
「えっと……ここから更に奥に行ったところの牢にいます。おそらく私達より酷い扱いを受けているかと」
「わかった、ありがとう。助けたらまたここに戻ってくるからアタイ達と一緒に行くって人はそれまでじっとしていてくれ」
そして肝心のルヘキサから攫われた人達はもっと奥にいるらしい……先程唯一簡単に信じてくれた人が教えてくれた。
一先ずはルヘキサの人達を助ける為に、アタイ達は奥に向かった。
…………
………
……
…
「ふぅ……これで全員か?」
「はい。ルヘキサ組は全員です」
あの女性が言ってくれた通り、あの檻からさらに奥に進んだところにルヘキサから攫われた人達はいた。
そしてたしかにドデカルアの人達と比べても酷い扱いであった……パッと見ただけでも傷の痕がこちらは目立っていたし、あっちは檻の中に布団やトイレなど最低限の生活用品はあるにはあったが、こちらにはそんなものすら無かった。
それに服だってボロボロだ……あっちは穴開き程度だったが、こっちはもうただのボロ布って言える程だ。
「よし……じゃあ行きますか……」
「そうですね……ドデカルアの皆さんも居るでしょうか?」
とりあえず攫われていたルヘキサの住民8人を連れて、さっきの場所まで戻ってみたら……
「あ、本当に戻ってきた……」
「あ、全員居た……」
アタイ達を信用していた人も、それ以外の人も檻の外でじっと待っていた。
信用していない人達は勝手に行くと思っていたのだが……まさか全員いるとは思っていなかった。
「だって……絶対見つかったら連れ戻されて……下手したら魔物化したって言って殺されてしまいますもの……」
「そう……なのか?」
「はい……5ヶ月程前、実験初期だった事もあり失敗して実際に魔物化した者が一人だけいたのですが……即死刑にされたかもしれません……」
「そんな……」
どうやら見つかると殺されてしまうかもしれないらしい。
魔物になったら即死刑されるかもしれないなんて……元人間だったアタイからしたら信じたくない話だ……
……ん?されたかもしれません?
「なんで『かもしれない』?」
「いえ……噂ですとその子は殺される寸前に魔物化した際に身に付いた魔力を使ってどうにか逃げ出したとか聞いたので……まあ魔物になった時点で……あ、いえ何でもないです……」
「あーそういう事……でも死刑にされるって事は確定なんだよね?」
「はい……」
「ひどい……」
どうやらその子に関してはもしかしたら魔物になって生きている可能性はあるらしい……
それでも反魔物領の人間からしたら魔物化は死んだと同じようなものだろう……ここで生活していた父ちゃんが最初アタイにそんな事を言ってきたし、おそらくそうだろう。
「じゃあ行くか……」
「あ……でも……」
「ん?どうしたアメリ?」
とりあえずこんなところにずっと居ても仕方ないので、さっさと行こうとしたところでアメリが口を開き……
「お姉ちゃんたち、このまま人間のままで生きていくのは多分ムリだよ……」
『……えっ……』
かなり衝撃的な事を、サラッと言ってのけた。
「お姉ちゃんたちは魔物の魔力を人間のまま定着させる実験をされていたって言ってたけど……定着どころか今かなり不安定なじょうたいなんだ」
「えっと……つまりどういう事ですか?」
「ちょっとしたきっかけで魔物化しちゃうってこと。それは何も魔界に行くとか、魔物の近くにいるからとかじゃなくて、たとえば好きな人にふれられたりしたとたんとかでも魔物になっちゃうと思う……」
「そ、そんな……じゃあ魔物になりたくないなら死ぬしかないの?」
「ううん。死んじゃったらそれこそゾンビさんやゴーストさんになると思うから……というかそんなこと言っちゃダメだよ!」
どうやらどう転んでもこの人達は魔物になってしまうらしい。
ルヘキサの人達はまあ仕方ないかって表情をしているが、ドデカルアの人達は絶望に染まっている……一部は泣いてしまっている人もいるし、今にも倒れてしまうんじゃないかって程青ざめている人も居る……
「なんで……そんな……」
「いや……これじゃあ私達に未来なんて無いじゃない……死んでも魔物になっちゃうだなんて……」
ドデカルア住民側のほとんどの人が絶望に打ちひしがれてブツブツと言っている……
「なあ……そんなに魔物になるのが嫌なのか?」
「当たり前じゃない!!自分が自分じゃなくなるのよ!!」
「そうか?アタイも元は人間だけど、別に見た目以外で変わった事は特にないけど?」
「……え?」
このままでは気が狂ってしまうんじゃないか……そう思ったアタイは、気休めになればと自分の事を話し始めた。
「一年前のある日、人間だったアタイは事故に巻き込まれて死に掛けていた。しかも治療しに町に行こうにもアタイを運べたのはウシオニだけだったのに近くにあった町はウシオニに怯えている町だった……当然運べるわけがない」
「そ、それで?」
「それでアタイは生きる為にウシオニになる事を選んだ。魔物なら丈夫だし、何よりウシオニの回復力なら助かる可能性が高かったからだ。そんな感じで実際にウシオニになったわけだが、別に人間だった頃と嗜好も性格もさほど変わってないよ」
「私も元は人間、しかも勇者でした。私の場合はこの斧が呪われた武器で、気付かないうちに魔力が私の身体に侵食してある日突然魔物化しました」
「そんな……じゃああなたは……」
「そう、私の場合はあなた達と似たような事例です。ですが、私も魔物になった事への後悔はありません。たしかにミノタウロスらしく強気で赤い物を見ると興奮してしまうようになりましたが、それ以外はそのままの自分です」
「まあそんな感じで、魔物になってしまえば『なんだそんなもんか』って言える程度しか変化したと感じないってわけさ」
「そう……ですか……」
途中からホルミもその話題に乗ってくれたのでより話しやすくなった。
それが少しは気を落ち着かせる事が出来たようで、全員多少は顔色がよくなった。
「それでどうするお姉ちゃんたち?」
「ん?何が?」
「お姉ちゃんたちは何時か魔物になっちゃう……その時に好きな人が居たらきっとおそっちゃうと思う……あ、この場合のおそうってのはラブラブするってことだよ!」
「はぁ……それはそれでかなり困るけど……でもどうしようもないんでしょ?」
「そうだね。でも、アメリがお姉ちゃんたちを魔物に変えたらすぐにおそわなくても大丈夫なようには出来るよ?」
「え?」
そしてアメリが、今度は自分が全員を魔物に変えると言い始めた。
「もしかしたらわかってないかもしれないけどアメリはリリムだからね。お姉ちゃんたちが好きな魔物に変えられるよ。もちろん性欲がひかくてき少ない魔物にも、基本的なサキュバスにもね」
「そうなんだ……リリムが居るだなんて思わなかったから子供のサキュバスだと思ってた……」
「むぅ……言うと思った……まあとにかく、何かなりたい魔物がいたら、言ってくれたらアメリがその魔物に変えてあげるからね!」
「あ、うん……」
たしかにここにいた人達は特定の魔物の魔力を入れられたわけではなさそうなので、このままなら全員レッサーサキュバスになるだろう。
しかしアメリの手に掛かれば大抵の魔物への変化は可能なはずだ……自分が望む種族への変化ならば多少はマシなのかもしれない。
「まあそれはとりあえず戻ってからだね……無事に帰れたらいいけど」
「え?」
しかし、誰をなんの魔物にするとかはまだ安心して話す事なんか出来ない……
「やれやれ……なんか下の階から破壊音が聞こえてきたと思ったら、まさか階段を使わずに下りていたなんてな……」
なぜならば、階段からサーベルを持ち赤茶色の髪と藍色の瞳を持った一人の男が現れたからだ……
12/12/11 21:56更新 / マイクロミー
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