連載小説
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旅43 決戦の幕開け!それぞれの役割!!
「ほお!スズ記憶戻ったんか!!んで本名は何て言うん?」
「アタイの本名は桜……でもやっぱ花梨もそうだけど皆にはスズって呼ばれてるほうがしっくりくるからそのままでいいよ。そういえば花梨こそ父ちゃんの怪我はもう治ったのか?」
「順調に回復はしていっとるけど、まだ完治まではしとらん。ちょいと大陸での依頼があったからウチが引き受けたんや」
「なるほど……」

現在20時。
私達はルヘキサの自警団本部のロビーに集まっていた。
集まっているメンバーは自警団の皆さんと私達、そして懐かしい面々がいた。

「それにしてもカリン、依頼あるのにいいの?」
「まあ少しくらいはええやろ。依頼主が依頼主やし、アメリちゃんと一緒なら問題無いはずや」
「ん?もしかしてリリム?」
「まあ正確にはそのリリムの従者のバフォメットからの依頼やけどな。期限まではまだ十分あるから少しぐらい寄り道しても大丈夫なんや。ちなみに扱い大変な物やであまり他の人には見せとうないんや」
「なるほど……」

まずは、夕方にこのルヘキサを通り抜けようと街に来た刑部狸のカリンだ。とは言っても親魔物領、しかも自分が刑部狸だというのを既に周りに伝えてあるのにもかかわらず例の如く人間に化けている。
ジパングでカリンのお父さんが怪我していたからと実家のお店に残って別れたが、こんなに早く再開できるとは思っていなかった。相変わらず元気そうである。
どうやらお店にリリムの従者のバフォメットから依頼が来たらしく、その品物を運んでいる途中だったらしい。
それでルヘキサを横切った方が目的地に近いのでそうしようとしたところでトラブルに遭ったとか…

「でも面倒な事になる前に見せたほうが良かったんじゃねえのか?」
「まあ…でもユウロやアメリちゃんが来てくれたから助かったわ。おおきにな!」

でもそのトラブルがあったおかげで私達は再会できた。
このルヘキサでの一連が終わった後、私達はカリンに付いて行ってそのリリムに会いに行く……つまり、またカリンと一緒に旅をするつもりだ。
でもその前にこの街が直面している問題を解決しようとカリンも協力してくれる事になったのだ。

「なるほど……アタシと別れてからそんな旅してたのか……」
「結局ツバキさんの幼馴染みの子は生きてたのですね」
「うんそうだよ!プロメお姉ちゃんもネオムおじさんも元気そうだね!」
「まあな!アタシもネオムの両親に正式にお嫁さんって認めてもらったし、今はこうしてネオムと一緒に調査しに行ってるんだ!」

そして、ディナマ退治の時に一緒だったワーウルフのプロメ、あと夫のネオムさんも居る。
私達と別れた後、プロメはネオムさんの両親にきちんと挨拶をしに言ったらしい。
ネオムさんの両親はネオムさんの事をとても大事にしているので下手したら殺されると内心ビクビクしながら行ったらしいのだが、ネオムさんが本気でプロメの事を愛していると言った事によってワーウルフである事も含め案外すんなりと認めてもらえたようだ。
今ではご両親とも仲良くなり、このようにネオムさんと一緒に自然調査をしているとの事。
そして今回はルヘキサとドデカルアの境目付近の自然調査をしていたところでイヨシさんに襲われ、プロメ一人ならともかくネオムさんも居たので必死にルヘキサまで逃げ込んだとの事。

「本当にすまなかった!お二人にはとんだご迷惑を……」
「あ、いいですよ。事情が事情ですし、こうして何事も無かったのですから」
「アタシはまだちょっとネオムに襲いかかった事は許せないけど…スズのお父さんだしネオムも許すって言ってるから仕方ないけど許す」

なお、ほんの数刻前までは教団兵だったスズのお父さんのイヨシさんも危険性は無いどころかこちらの味方になったという事でここにいる。
今まで何人もの自警団の人達を傷付けたからと、さっきからいろんな人に土下座しに回っている。
敵でいた時は恐怖の対象だった故に味方になると心強い……そんな想いもあるのかプロメ達のように皆にもすんなりと許してもらえているようだ。

「つーか一番驚いたのはニオブとルコニ、お前達がここで自警団やってた事だよ」
「まあ驚くわな。あたしだって見回りから一時的に戻った時にお前等がいて驚いたしな」
「僕達は君達と別れた後、遠くまで2人で旅してたからね。それで辿り着いた街がこのルヘキサってわけさ」
「あたし達って元勇者のコンビだからさ、あっという間に団長に認められて即戦力として投入されたってわけだ」
「なるほどな……」

そして集まっている自警団のメンバーの中には、ジパングに行く為の旅の途中で私達の前に立ち塞がった元勇者コンビ、サポート系の魔術が得意なニオブさんと強い性能を誇る武器「コンステレーションシリーズ」の一つ、ジェミニを持つドッペルゲンガーのルコニさんもいた。
どうやら私達と別れた後にこのルヘキサに辿り着いて、ここで暮らしながら自警団の仕事をしているらしい。
お昼過ぎにユウロとスズが出ていった後、アメリちゃんと一緒に行く人達を待っていたらこの二人が現れたから本当にビックリした。

「脇田…ユウキとはどっちのが先なんだ?」
「僕のほうがルコニさん達より前だよ。でもまあ実力はルコニさん達の方が恐ろしく上だけどね」
「それは違いない。少なくともルコニは俺より強いしね」
「まあ……ドッペルゲンガーになったせいで自分でもわかるぐらい臆病になっちゃったけどな」
「でもその分隠れた気配とかには敏感になったから弱くはなって無いんだよね……」
「へへ、まあな……ドッペルゲンガーになっても戦えるのは近くにニオブがいてくれるからさ」
「へいへいおアツいこって……」

黒い衣装を身に着けてニオブさんの腕にくっつくルコニさん……その顔は幸せそうな笑顔を浮かべている。
まだ男の人がいないこちらとしては少し羨ましいって思うのは、やっぱり少しは私自身が魔物らしくなってきたからかな。



「皆!お喋りはそこまでにして!!」

と、別室にいたレシェルさんがロビーに出てきて、雑談していた私達に静かにするよう言った。

「今から会議を始めるわよ。団長、準備出来たので始めて下さい」
「ああ……皆の者、今からドデカルア教会攻略作戦の会議を始める!」

そして、反魔物領ドデカルアにある非人道的な実験を行っている教会を崩す為の作戦会議が始まった。

「今回こちらから仕掛けるのは、そこにいる元教団兵であるイヨシの情報で我々の街の住民が拉致されていたという情報を得られたからだ」
「団長!それは確証を得られるものですか?」
「ああ…先月行方不明になった人数とイヨシが言っていた人数が一致したので、治療院の協力でイヨシの記憶を見させてもらった。そして連れ去ったと言ってイヨシが他の兵士に見せつけられた人物はこの街に住んでいて行方不明になった人間女性だった」
「なんと!!では……」
「ああ、その人達を取り返すという名目で攻め入る。その際人体実験の被害に遭っているドデカルアの住民達も無理矢理にでも救出する事!」

まずは大前提である、誘拐された人の救出の話だ。
しかも話では人体実験をしているらしい……なんでも人間の状態で魔物の魔力を定着させ、一般人でも戦えるようにしているとか。

「ところで団長、その人達が我々に向かってくる事はありますか?」
「全く無いとは言い切れないが、まだ最終段階直前らしいのでおそらく大丈夫だろう。それに結構キツイ事されているらしいので、説得次第ではドデカルアの人達もこちら側に付いてくれるかもしれない……まあこれは淡い望みだがな」
「ちなみにその実験の最終目的が魔物に近付けるって事だから感情はちゃんとあるみたいよ。無感情の人形と違って人の話を聞く事は出来るそうだから、ちゃんとした対応をすればおそらく無力化は可能よ」

その人達と戦わなければいけない可能性はどうやらほとんど無いらしい。
それは一先ず安心できる……救出する対象と戦うなんて馬鹿げてるからね。

「それでだ、我々は早い内に攻め込む必要がある。後手に回れば確実に不利になるからな」
「おそらく私がこちらに捕まった事はもう知られているはずだ。攻めの準備、もしくは守りの強化をし始めるだろうから、こちらから攻めるなら早めの方が良いという訳だな?」
「そういう事だ。イヨシがこっちの仲間になってくれた事や、被害を受けた人達やたまたま旅で立ち寄ってくれたアメリ達がいるが、戦力や人数でこっちが圧倒的不利なのには変わりないからな」

相手は一つの街の教会と言え、人数ではたいして強くない一般兵も合わせれば1000人は余裕で越えるとの事。
対するこちら側は私達やプロメ達、それにアフェルさんなど治療院の人達のサポートメンバーを含めても100人ちょっとしか居ない。
こちら側は魔物が多いとしても、相手にはあのエルビだっている。人数差は圧倒的不利である。

「それにだ……相手の教会に乗り込むとして、その近くまでどうやって移動するかなんだが……」
「ドデカルアの街中を堂々と向かって行くわけにもいかないし、転移魔法か何かで移動したいんだけど、この人数を一気に運べるほどの転移魔法を使える人物は居ないのよね……」
「数人のグループに分けるっていうのはどうですか?」
「それもありと言えばありなんだが……そんなに一気に数人が転移すると相手に感付かれる可能性も高くなる。もちろん少人数で時間差を置いたって連続で移動すれば気付かれるだろうし、かといって一グループの時間を開き過ぎると先に行ったグループが敵に見つかり交戦になると非常にマズいからな……」
「あーそっか……」

そしてもう一つの問題が、攻め込み方法だ。
教会はドデカルアの中心にあるのでそこまで移動しなければならないが、昼だろうが夜だろうが街中を駆け抜けるのはよろしくない。
かといって転移魔法を使うとしても、一気に移動できないうえに敵に見つかる可能性があると……いったいどうすればいいのだろうか?


「あのー、ちょっといいですか?」
「何アフェル?何か思いついたの?」

皆が悩み始めて1分程沈黙が続いた後、アフェルさんが何か思いついたのか手を上げた。

「はい。えっと…今うちで入院しているミノタウロスさんなのですが……彼女は転移魔法が得意だそうで、おそらく大人数や大きな物でも転移させる事は可能かと……」
「それ本当?」
「はい。目を覚まされた後、身体の調子を確かめる為に大型のベッドを転移してもらったので…本人もどうやらドデカルアに行きたいらしいので、協力はしてくれるかと……」
「そうか……しかし、そのミノタウロスの怪我はいいのか?」
「治療の甲斐もあって順調に回復しています。おそらくそこにいるイヨシさんが斬り付けた傷もさほど深くなかったですし、毒も基本的な治癒魔術で治す事が出来たので……」
「う……後で……というか今すぐにでもその者に謝りたいのだが……」
「丁度良い。そのミノタウロスを連れて来てくれないか?」
「わかりました。ではイヨシさん、わたしと一緒に来てください」

どうやらイヨシさんがやたらめったら斬り付けたミノタウロスさんは転移魔法が得意らしい……
なんだろう……何かが引っかかるような気がする……ミノタウロスの知り合いなんて居たかな?

「まあそのミノタウロスの実力にもよってくるけど、それだけじゃ大変である事には変わらないわね」
「そうだ。だからまた別の方法も考えなければな……大量の人数を一気に転移させる方法をな……」
「ここに残る人数を考えても、60から70人を一気に移動か……難しいわね……」

アフェルさんとイヨシさんが出ていった後も、移動をどうするかの会議は続く……
一気に大人数を移動させる方法か……ピクシーさんがいたら皆を小さくしてベッドか何かの上に乗せてそのミノタウロスさんに転移してもらうってのもアリかと思うけど……あいにくピクシーどころか妖精型の魔物の姿は無い。
森にいたピクシーさんを探しに行く余裕も無いし……どうにかならないものか……
そんなに大きくない物で、大量に人を乗せられるような乗り物とか無いかな……

「……いや、まてよ……」
「ん?どうしたのサマリお姉ちゃん?」



そんなに大きくないけど、大量に人を入れられるもの…………あった。



「ねえアメリちゃん……アメリちゃんの『テント』ってさ、転移魔法で移動させる事出来る?」
「うん。あっ!」
「テントって広いしさ、身動きはあまり取れなくなるけど60から70人なら入るよね?」
「うん!ベッドでねたりは出来ないけど、つくえどかしたりすればここと同じぐらいの大きさだし、入って床に座るなら70人ぐらいは大丈夫だと思うよ」

普段私達が使っているアメリちゃんの『テント』……あれなら大人数が入れるし、外見上の大きさはさほど大きくないから大型ベッドを転移出来る人物なら余裕で転移出来るだろう。
つまり、一人が一回の転移魔法を使うだけで全員を運ぶ事が可能だ。
しかもあの『テント』、人避けの魔法が掛けられているからなおさら適任な気がする。

「という事でどうですかトロンさん?」
「んー…ちょっと実物を見せてくれないか?それ次第で決める」
「わかった。じゃあちょっと外に来てトロンお姉ちゃん」
「私も一緒に見るわ」

なので私はその事をトロンさんに伝えたら、実物を見てから決めたいと言い出した。
という事でアメリちゃんが本部の入口にテントを広げて、その中にトロンさんとレシェルさんが入って行った。


そして数分後……


「……完璧だ。キッチンやトイレまで完備だから簡易的な基地にもなるしこれ以上の物は無いほどだ」
「見た目こんなに小さいのに内部はあんなに広いなんて……魔王城の技術は恐ろしいものね……」

凄い物を見たと言いたそうな表情で二人がそう話しながら出てきた。

「じゃあアメリのテント使うってことでいいんだね?」
「ああ。貸してくれるのならこんなに良い物は無い」
「さっきの話からしてこの『テント』のサイズなら容易に転移出来そうだしね……」

どうやら二人ともアメリちゃんの『テント』に満足したようで、このテントは使われる事が決まった。

「よし、あとはアフェルが連れてくるミノタウロスに確認して、大丈夫そうなら移動面や基地についての心配はなさそうね」
「ああ、あとはどう乗り込んでいくかだが……これも後でイヨシに教団内部の部屋の位置とかを教えてもらってから決めるとして……アフェルが戻ってくるまでは一先ず休憩にするか」


とりあえず決められる事はこれで決めたので、アフェルさん達が戻ってくるまで休憩になり、またあちこちでざわざわと会話が始まったのだった……



………



……







「あ、じゃあカリンも戦うの?」
「まあ人化の術さえ解いとる状態ならある程度妖術も使えるしな……でも人数が足りとるならサマリと同じくサポートの方に回りたいわ……」
「うーん…そんなに居ないのでおそらく最低限戦える人は乗り込み組に入れられると思いますよ?僕ですら乗り込み組になってますしね」
「あーさっきお前レシェルさんに言われてたもんな。たぶん俺達の中じゃ戦えないサマリとネオムさん以外は皆乗り込み組だと思うぜ」
「そっかー……まあそうだよね……」
「せやな……死なんように頑張ろ……」

現在21時。
アフェルさん達が戻ってくるのを待つ事数十分……

「皆さん、ただいま連れてきました!!」
「来たわね。それじゃあ皆静かにして!!」

アフェルさんとイヨシさんが、転移魔法が得意なミノタウロスを連れてきた。


「……あれ?あのミノタウロスの顔、どこかで……」


しかし、そのミノタウロスは……

「紹介します。こちらが先程話に上がっていた、転移魔法が得意な……」
「ミノタウロスのホルミです。この度は助けていただき誠にありがとうございました」

どこかで見た事あると思ったら……

「あーっ!!あの時のサマリお姉ちゃんころそうとした勇者さんだ!!」
「えっ……あーっ!あなた達はたしかテトラスト付近で……」
「やっぱりそうか!お前あのホルミか!!」

旅に出たばかりの頃にテトラスト近辺で出会った、コンステレーションシリーズの一つ『タウロ』を持った人間の女勇者、ホルミさんだった。
そういえばタウロにはミノタウロスの魔力が込められているって話だった……だから今はミノタウロスになっているのだろう。

「という事はそこにいるワーシープは……」
「はい、あなたが吹き飛ばして川に落とされた元人間のサマリです」
「ごごごごめんなさいっ!!本当にあの時は取り返しのつかなくなるような事をしてしまい誠に申し訳ありませんでした!!」

あの時はまだ人間だった私を魔物だと思い込んで川に落とされた事もあったな……それ以上に怖い思いを後にしているからそこまでトラウマにはなっていないけど、あれは本当に死ぬかと思ったもんな……

ホルミさんの方もその事を覚えていたようで、私達を見た途端全力で土下座し始めた。

「何?知り合い?」
「はい……私もホルミさんも人間だった時に襲われた事があります」
「アメリだけじゃなくてサマリお姉ちゃんもころそうとしたんだよ!!アメリまだゆるせないもん!!」
「はい……あの……ほんっとうにごめんなさい!!」

私としてはもうそこまで気にしてないのだが……皆の前で土下座を続けるホルミさん。
それと……そんなに私が殺されそうになった事が気にいらないのか、未だに許してはいないと怒るアメリちゃん……目がキリッとしてていつもと違う感じではあるけど、可愛く見えるのでそこまで怒ってはないのだろう。
私は直接見て無いけど、ユウロ曰く本気で怒ったアメリちゃんの顔はちょっと怖かったらしいからね。

「えーっと……話が見えないのだが……お前等知り合いか?」
「はい。簡単に言いますと、ホルミさんはルコニさんと同じです」
「あーなるほどね。あんたも聖なる武器の謳い文句に騙された感じか」
「はい……まあ魔物になったから気付く事が出来た事もあるので、後悔はしていませんけどね」

そんな私達のやりとりを見てトロンさんが疑問を投げかけてきたので、超簡単に説明しておいた。
ホルミさんもルコニさんも魔物になった後悔は無いようだ……まあ私も両親の事を除けば特に無いし、魔物化というのはそんなものなのだろう。

「で、だ。ホルミ、貴様はこの『テント』を敵陣近くまで転移出来るか?」
「え?はい。これぐらいなら全く問題ありませんが……このテントでいいのですか?」
「これはアメリの持つテントなのだが……内部はこのロビー程の広さはあって、キッチンやベッドまで付いてるからな。これを基地がわりにして全員を一気に転移させるつもりだ」
「なるほど……了解しました。私もドデカルアまで同行してもいいのなら引き受けます」
「もちろん。ルコニと同じく元勇者ならば立派な戦力になるのでこちらからお願いしたい程だ。よろしく頼む」

そんなホルミさんもこの戦闘に参加するらしい。
アメリちゃんとユウロに嵌められてこそいるが、戦力としては十分期待できるだろう。
しかもあの時と違って力の強いミノタウロスになっているし、パワーだけならこの中の全員と比べても上位にはいるだろう。

「よし……これならば数日の内にでも決行可能だろう。という事で皆の者、今日はゆっくりと休んで、作戦決行は明後日か明々後日の夕方とする!」
「ま、また急ですね…」
「そうゆっくり出来ないからな。明日か明後日で行くメンバーや突入ルートなどを正式に決めて、明後日か明々後日の一番警備が薄い夕方頃に転移、夜になったら内部に攻め込むという流れだ。なので見回りのシフトに入っている者以外は明日と明後日はゆっくりと決戦に向けて休んでいてくれ」
「あと、アメリちゃん達みたいに自警団のメンバーじゃない子も明日のお昼にここに来てね。いろいろと特徴を知っておきたいからね」
「わかった!」

とりあえず大体決めなければならない事は決まったので、今日は解散する事になった。
自警団の人達は次々に自分の家やここの寮に戻っていく……

「あ、私達どうしようか。どこかに宿があればいいんだけど……」
「あ、それなら心配ご無用。既に泊まる所は取ってある……というか、私とアフェルの家に2グループに分かれて来てもらうわ」
「あ、そうですか。ありがとうございます!」

という事で、私とアメリちゃんとユウロはアフェルさんの家に、カリンとスズ、それにイヨシさんはレシェルさんの家に泊めてもらう事になった。
この組み合わせになった理由は、まずイヨシさんは自警団員であるレシェルさん監視の下という建前が必要で、スズは娘だから一緒に、またアメリちゃんはアフェルさんの娘の一人が同い年だからという理由で、残りは適当に別れた。
ちなみにプロメ達は使わせてもらっている部屋があるし、ホルミさんはある程度回復したとはいえ入院中だ。

「それじゃあまた明日!」
「おう!また明日な!!」

星が散らばる夜空の下で、私達はそれぞれの家に案内されたのだった……



====================



「ふぁ〜……おはようございます……」
「おはようございます。昨日はぐっすりと寝られましたか?」
「はい……」

現在7時。
昨日はアフェルさんの家に案内された後、娘さん達の紹介をされ、時間も遅かったのですぐに皆寝てしまった。
とは言ってもおそらくアフェルさんとレイルさんはその後にする事シてたとは思うが……目が覚めてリビングに行ったら居たアフェルさんの蒼い肌が昨日より艶やかになっているしきっとそうだろう。

「朝食はそろそろ出来あがるので、ここに来てもらってからなんですが皆さんを起こしに行ってもらえませんか?」
「わかりました……ところで今日の朝食はなんですか?いい匂いがしますが……」
「今日は……といいますか、昨日娘達の為に作り置きしてあったクリームシチューの残りですね。皆さんを泊めると決まったのは昨日の夕方で急なお話だったので、昨日の夕飯を多めに作っておいて今日の朝食にもしようと…」
「なるほど……というかすみません泊めてもらって……」
「いえいえ、娘達の相手をして下さると言う事でこちらも助かりますし、それに一緒に戦って下さると言う事ですし、こちらがお礼を言いたいぐらいですよ」
「そうですか、そう言っていただけると助かります」

丁寧な口調で話をするアフェルさん。
彼女も昔はイヨシさんと同じように見当違いな復讐心で魔物を討伐していた教団の天使だったそうだが、今のアフェルさんしか知らない私から見たら全くそんな面影は無い。
レイルさんが言ったので多少は持ちあがっているかもしれないが、ルヘキサ内で2番目に治癒魔法が得意で、大勢の人や魔物の命を救っている医療のエキスパートだし、戦う姿が想像できない。

「ではアメリちゃんとユウロを起こしてきます……リテルちゃんとシャエルちゃんも起こした方が良いですか?」
「あ、はい。娘達もお願いします。レイルはこの後わたしが搾r……起こしに行きますので、それ以外の人全員お願いします」
「わかりました。朝食ですのでほどほどにお願いしますね」

という事で、朝ご飯の時間なので私は皆を起こしに行く事にした。
まあアフェルさん達は少し時間掛かるだろうから、ゆっくりと起こしに行けばいいか……



……………………



「ごちそーさまー!!」
「シチュー、とてもおいしかったです」
「ありがとうございます。喜んでもらえたようで、作った甲斐がありました」

現在8時。
やはり30分程掛けてレイルさんを起こしに行ったアフェルさんが戻ってきた後、皆で朝ご飯を食べた私達。

「では皆さん、私は治療院の方にお勤め、レイルは見回りのシフトがありますので出掛けますが、家の中は自由にしていて構いませんので」

食べ終わったところで、それぞれ仕事がある二人はこの家を出ようとし始めた。

「わかりました。それと、今日は私達何時ぐらいに本部の方に行けばいいですか?」
「大体13時頃で構わない。ここから本部までの道のりはわかるか?」
「うーん……微妙ですね……」
「じゃあわたし達が案内します」
「パパの仕事場ならわかるよ!!」
「じゃあそういう事で。リテル、シャエル、アメリちゃん達をきちんと案内するのよ?」
「「うん!」」

私達も昼過ぎから自警団本部に赴かなければならない。
でも昨日は暗かったし、自分達だけでいけるか微妙なので、二人の娘であるエンジェルのリテルちゃんとダークエンジェルのシャエルちゃんに案内してもらう事にした。
ちなみにアフェルさんがダークエンジェルなのにリテルちゃんがエンジェルなのは、ダークエンジェルになる前に産んだ子だからとの事。
折角エンジェルとして生まれたのだから、勝手に堕とさずエンジェルのまま育てようとなったらしい……まあとは言っても親魔物領で育っているので魔物を敵視など微塵もしてない。

「じゃあシャエル、リテルお姉ちゃん、お昼までアメリとあそぼっか!!」
「そうだね!」
「うん!」

そしてお昼までは暇なので、アフェルさん達が行った後すぐにアメリちゃんとリテルちゃん、それにシャエルちゃんの3人で遊び始めた。

「まあ好きにしててって言われたし、とりあえずお茶でも飲もうか……」
「だな……俺にも頼む」
「ん、わかった」

元気にお絵かきを始めた3人を見ながら、私とユウロは椅子にゆったりと座って冷たい麦茶を飲んでいた。
お昼前になったらお昼ご飯を作ろうと思うけど、まだ朝ご飯食べ終わったところでやる事は無いからね。


「しっかし……昨日も思ったんだけどさー……」
「ん?」

アメリちゃん達が何かたぶん魔物の絵を描いているのを見ていたら、突然ユウロが話しかけてきた。

「なんか、俺とサマリ、それにアメリちゃんの3人って久しぶりじゃね?」
「あー……そういえば最初は私達3人だったね」
「そうそう、昨日ホルミ見てからそう思ったんだよ。あの頃は俺達3人で、そういえばそれからも俺達3人はずっと一緒に旅してるなって」

ユウロに言われて気付いたが、そういえばテトラストに向かう時からプロメとツバキに会うまでは私達3人で旅してたな。
それからもプロメ、ツバキ、リンゴ、カリン、スズ、フランちゃんといろんな仲間と一緒に旅をしたり別れたりしてるけど……私達3人はずっと一緒に旅をしている。

「まあ…私は世界中を旅するのが目的だし、ユウロだって同じようなものでしょ?」
「まあな。きっかけはともかく、今はこの世界を見てみたいってのが強いな」
「それでアメリちゃんもお姉さん探しで世界を回ってるわけだし、これから先も私達3人はずっと一緒なんじゃないかな?」
「かもな。特別何かが起こらなければ別れる理由はねえしな……」

そしてそれは、これから先も続くと思う。
何か特別な事…そう、例えば明日か明後日に行う戦争みたいなもので誰かが死んでしまったりとか、シャレにならない事が起きない限りは私達3人はずっと旅をすると思う。

「あーでもスズはどうするんだろな?」
「あー……記憶も戻ったし、お父さんもいるしね。これからも旅するのかな?」
「どうだろな。昨日はいろんな事があり過ぎて聞く余裕なかったしな。まあ落ち着いてから聞いてみるか」
「そうだね……」

そして、そのままの流れでスズの話になった。
どうやらイヨシさんはこのままルヘキサで自警団に入る流れになりそうだし、おそらくここに住むのだろう。
そうしたら、スズは私達との旅を止めてイヨシさんと暮らすのだろうか?
元々旅をするのが好きだったようだけど……一年以上もお父さんと離れていたわけだし、しばらくは一緒に暮らす可能性もあるだろう。
どうするかは……この戦いが終わった後に聞いてもいいだろう。
スズはウシオニだし、イヨシさんも強いから死ぬ事はまず無いだろうしね。

「まあ本人が居ない中で考えても仕方ねえし、この話はやめにしようぜ」
「やめにしようって振ったのユウロじゃんか……まあいいけど……」

まあスズがどうするのかなんて本人しかわからないし、今この場にいないのでこの話を止める事にした。

「あの、サマリさんとユウロさん、ちょっといいですか?」
「ん?どうしたのリテルちゃん?」

そして次は何の話をしようかなと考えていたら、リテルちゃんが私の腰の毛を引っ張って呼んだ。

「わたしたち3人の中でだれが一番上手?」
「アメリ負けないからねー!!」
「あー絵の審査をしろって事ね」

どうやら誰が一番上手に描けているかを比べてほしいようだ。
3人がそれぞれおそらく同じものを描いた絵を私達に見せてきた。

「そうだな……って元々のお題は何だ?」
「触手です」
「しょく……実物見た事無いからわからないな……」
「同じく……」

それで3人が描いた絵に描かれていたのは……なんだか植物とは言い切れない気味の悪そうなうねうねしたものだった。
これは何かと聞いたら触手と言われたが……未だに実物は一度も見た事は無い。

「でもまあ想像だけで言えば……私はシャエルちゃんが一番上手だと思う」
「俺はアメリちゃんかな……」
「なっ!?ぐぬぬ……年上として負けていられません!もう一度別のお題で勝負です!!」

それでも想像だけならば蠢いていそうなシャエルちゃんが一番上手だと感じた。
ユウロはアメリちゃんのなんか目玉が付いているのを選んだようだ。
とまあそれを伝えたら、一人選ばれなかったリテルちゃんがムキになって二人に再戦を要求したけど……見た感じでは一番絵が上手じゃないから勝てるかは微妙なところだろう。

「じゃあおだいはサマリお姉ちゃんに決めてもらおう!」
「えっ、んーじゃあ……今朝食べたシチューで」
「シチューか……かんたん♪」

お題は私が決めてという事だったので、なるべく簡単そうなものを選んだ。
3人とも一生懸命描き始めたが……果たしてどうなるのやら。

「なんかこうやって子供達が遊んでいるのを見てると数日のうちに戦争みたいな事するとは思えないな……」
「だね……みたいなって何よ?」
「いや……戦争って言う程大規模でも無いかなと思ったけど……まあルヘキサとドデカルアの今後がこれで決まるようなものだからそうでもないか……」

こうして私達は、絵描き勝負を眺めながらお昼過ぎまでゆっくりと過ごした。



…………



………



……








「う〜……シャエルはいつも絵が上手だから諦めつくけど、なんでアメリも上手なのですか〜……」
「アメリ絵のおべんきょうもよくしてたもん!」

現在13時。
私達はお昼ご飯を食べ終わった後、リテルちゃんとシャエルちゃんの案内で自警団本部に向かっていた。
ちなみに絵の勝負の結果だけど……リテルちゃんも頑張っていたけど、嘘つくのは良くないという事で素直に思ったとおりに選んでいたら数十回のうち3回しか勝てなかった。

「でもシャエルは絵上手だよね。どうしてあんなに上手なの?」
「ん〜お姉ちゃんがあそんでくれない時とかずっと絵ばかり描いてたからかなぁ?」
「たしかに気付くと何時も絵を描いてるよね……そこの差か……」


子供達が仲良くお話しているのを聞きながら歩く事数十分……


「あ、ついたー!」
「だな。昨日案内された時とは違った印象だったからリテルちゃんとシャエルちゃんが居なかったら確実に迷子になってたな……」
「2人共案内してくれてありがとうね!」
「「どういたしまして!!」」

私達は自警団本部に辿り着いた。

「お、やっと来たか!トロンさんが呼んどるではよ来な!!」
「あ、カリン。そっちはもう来てたんだ」
「もうスズも猪善さんも、ついでにホルミさんやプロメ達も中におる。あんたらで最後や」
「了解!そんじゃ急いで中に入るか!!」

入口の前に、何故か人化の術を解いて刑部狸としての姿をしたカリンが立っていた。
どうやらもう私達以外は着いていたらしい……なので、私達も急いで中に入る事にした。

「サマリとユウロとアメリちゃん到着したで!」
「よし、これで全員揃ったな……レイル、お前は自分の娘の相手をしていろ」
「了解!ほらリテル、シャエル、ロビーでお父さんと一緒にいような」
「うん!」
「じゃあアメリまた後でねー!」
「うん、また後でね!!」

トロンさんが居る部屋に着くと、そこには私たち以外の皆が席に着いていて、またレシェルさんとレイルさん、それに数名自警団の古株らしき人達が居た……といっても、レイルさんだけは私達と一緒に来たリテルちゃんとシャエルちゃんを連れて部屋を出ていったが。

「さて、ここに集まってもらった者は我々に協力してもらえる、と考えていいんだな?」
『はい!』
「ありがとう。皆の協力感謝する。では今から皆にいろいろと質問を投げかけるが、それに対して素直に答えてくれ」

レイルさん達が出ていった後、すぐにトロンさんが仕切って話が始まった。

「まず、この中で戦う力が無いというものは名乗り上げてくれ」
「僕は全くと言っていいほどありません。基本盗賊とかはプロメに退治してもらってます」
「私も……隙が大きい相手や不意打ちでならこの自前のワーシープウールを押し付けて眠らせたりは出来ますが、戦う力は無いと言っていいです」

まずは戦えない者は名乗り上げてくれと言われたので、私とネオムさんが手を上げた。
私はネオムさんよりは戦えるかもしれないが、これから戦う相手は統率のとれた相手だ……私では足手まといもいいところだろう。

「では二人にはサポートとして協力してもらう。具体的に言えば治療院の者達と『テント』内で怪我した者の介護や食事の提供をしてくれ」
「わかりました」
「それなら得意なので任せて下さい!!」

なので私とネオムさんは『テント』の中で戦う人達のサポートをする事になった。
出来れば食事を作る時以外は暇であってほしいが……全員が全員無傷でいられはしないだろうから、かなり忙しくなりそうだ。

「では残りの者は戦えるとして、戦闘スタイルはどんなものか答えてもらおう……そうだな、まずはいろんな意味で顔馴染みのイヨシから頼む」
「ああ……まあこちらの自警団の人達とは何度も戦った経験があるからわかっているとは思うが、私は刀を中心とした剣術で戦う。ただ刀などなくとも戦えるように体術も得意だ」

そして今度は戦える人達の特徴を聞き出し始めた。

「それと、昔依頼のついでに教えてもらった申し訳程度の術なら使える。身体をほんの少しだけ丈夫にするものだから妖怪に使っても意味は無いと思うがな」
「ほお……ならうちの人間達にその術の使用を頼む」

まずはイヨシさんの特徴からだ。
やっぱり見た目通り刀をメインに使うようだけど、少しだとしても術を使えるのは以外だ。

「では次は…サクラ」
「アタイはまあ肉弾戦……基本は相手を殴る感じだ。あとは自分の蜘蛛糸を使って足場を作ったり相手を拘束したりもできるな。それと、父ちゃんに教えてもらった剣術も少しは使える」
「なるほど…ウシオニならば相手もうかつに攻撃は出来ないだろうし、前線を張ってくれるか?」
「まかせなっ!」

次はサクラ…つまりスズだ。
どうやらイヨシさん譲りの剣術も使えるらしい……あの手で剣や刀を握っている想像がつかない……と思ったけど、包丁持ってたりしてるから出来るか。

「じゃあ次はカリン」
「ウチはあまり強くはないけど、基本的に商品として扱っとる武器なら宣伝もせなアカンから一通りは使えるで。あとは簡単な幻術も使えるで!」
「えっ!?カリンお姉ちゃんそんなの使えるの?」
「まあな。人化の術使用しとると疲れるから普段は使わへんだけや」

その次はカリン……まさか幻術だなんて高度なものが使えるとは。
いやでも人化の術と同じく人を惑わす系統だから使えるのもなんとなくわかる気もする。

「次は……ユウロ」
「俺はまあ木刀で戦えるだけだが、一応元勇者だしそこそこは戦える。それと避けるのは得意だ」
「あー前にツムリもそんな事言ってたよね。ユウロに攻撃しても流される事多いってさ」
「そうか……まあイヨシを殴り倒したほどの実力、期待してるぞ」
「あ、はい……あと猪善さんあの時はすみませんでした」
「いや…ユウロ君が謝る事は無い。君の言ったとおりだったわけだしな」

そしてユウロは……まあ基礎が出来てる上に攻撃を流すのが得意だからそこそこ強いだろう。

「じゃあ次は……ホルミ」
「私はこのタウロを使った接近戦主体です。あとは転移魔法で移動は出来ますが、自分を転移させるのは少し時間掛かるのでタウロを手元に持ってくる事以外では戦闘に応用はできません」
「そうか……そのタウロはどんな性能が?」
「まず持ち主である私は重さを感じないようになっています。後はこの刃に赤い物を映すと斬撃を跳ばせたり魔力を弾き返したり纏ったり出来るようになりますし、建物程度でしたら簡単に破壊できる程強度も上がります」
「なるほど……ルコニの持つジェミニと一緒でインチキくさい高性能武器ね……」

お次はホルミさんだ。
やはりタウロもコンステレーションシリーズ、私達を襲った時には見せなかったインチキ性能がまだまだあるらしい。
これが味方となると結構頼もしいものだが……たしかこの人ちょっとドジだった気がするんだよね……そこがちょっと不安だ。

「あとは……プロメは?」
「アタシもホルミと同じく接近戦が得意だ。この爪と格闘主体で戦うからある程度の限界はあるけど、持ち前の体力で普通の兵士ぐらいなら楽々吹き飛ばせられるぞ!」
「それは頼もしいな。では多分サクラと同じく前線を張ってもらう事になるから、よろしく頼む」

そしてプロメは、ディナマの時に見せた高い身体能力を活かした戦い方だろう。
また人が宙に浮くのだろうか……

「そして……というか、アメリは戦えるのか?」
「うん!アメリ魔法とくいだよ!!」
「実際俺達の中で一番強いのはアメリちゃんだったりします。子供でもリリムなだけあってかなり強力な攻撃魔法も扱えますしね」
「ほぉ……なら期待しているけど、あまりムチャはするんじゃないぞ?」
「わかった!アメリムチャしないようにがんばる!!」

最後はアメリちゃんだ。
一見戦えなさそうなのにアメリちゃんが私達の中で一番強いもんな……やはりリリム、高い魔力と強い魔術と高い機動力は伊達じゃない。

「これで一応全員ね……今までの話でなんとなくわかってるとは思うけど、ここにいる皆はドデカルアに攻めていくほうに入ってもらうからね」
『はいっ!』

という事で、私達の強さに関する話は終わった。

「しかし……ここで一つ聞いておきたいのだが……なぜお前達は我々に協力してくれるのだ?」

次は、動機について聞いてきたトロンさん。

「まあ私達は、この先の旅を安全に出来るようにってのと……」
「あとはまあ単純にそいつらを許せねえってとこかな」
「アタシ達は自警団の皆に助けられたしな。その恩返しのようなもんさ」
「そうか……もし何かが起きても、自分の責任でいいか?」
「もちろん!」

私にユウロにアメリちゃん、それにスズやカリンにプロメ夫妻はこんなところだろう。

「私は娘が参加するからと……それと……」
「大丈夫、イヨシはわかっている。我は攻めるつもりも無いし、文句を言う事も無い」
「そうか……ありがとう……」

イヨシさんは……スズが参加するからって事以外にも、おそらく罪滅ぼしの念もあるのだろう。
そして、ここまではわかるのだが……

「ではホルミ、お前は何故協力してくれるのだ?」

ホルミさんはなんで協力してくれるのだろうか?
エルビによって痛い目に遭わされているのだから、むしろ行きたくは無いと考えるのではないだろうか?

「それは……私、あのエルビという少年にもう一度会いたいからです」
「は?あの眼鏡勇者に会いたいだと?」
「はい……」

どうやらあのエルビに会いたいらしいが……自分を痛めつけた相手に会いたいってどういう事だろうか?

「少し気になる事がありまして……あの子、もしかしたら私が探している子なんじゃないかなと……」
「ん?どういう事だ?」
「実は私、魔物化した時になにかとお世話になった魔物の頼みでその人の義理の息子を探していまして……エルビの特徴がその子にかなり当て嵌まってるので、もしかしたらそうじゃないかなと……」
「なるほどね……」

どうやらホルミさんは今人探しをしているところだったらしい。
その探している人物、お世話になった人の義理の息子とやらがエルビと特徴が当て嵌まっているらしいが……

「その人物ってエルビっていう確証あるの?」
「いえ……名前を聞き忘れてましたし、勇者なので確証どころか自身すらないですが……金髪で茶色い瞳、それに年齢も14だと聞いたので……」
「たしかにエルビの特徴と一致してるな……」

話だけを聞くとたしかにエルビっぽい……たしか金髪で茶色い瞳だったし、年齢もそれぐらいだ。
でも……義理とはいえ魔物の息子だし、違う気はする。

「それに……私自身が彼に会いたいのです」
「ん?それはどういう……」
「そうですね……なんて言えばいいか……とりあえず、彼を救いたいのです」

そして、探している人っぽいから以外の理由で、ホルミさん自身がエルビに会いたいのだという……しかも理由はエルビを救いたいと……どういう事だろうか?
皆の顔を見てみたけど、意味がよくわからないのは私だけではなさそうだった。

「あの眼鏡を救う?それってどういう事?」
「私にエルビが「魔物のその人間を愛するってところが嫌いだ、魔物以上に魔物に着いて行った男の方が嫌いだ」と言って来た時……なんだかあの子は……凄く寂しそうでした。私はその時の顔が忘れられません……」

レシェルさんがホルミさんに聞いたら、そう答えが返ってきた。

「なるほど……やっぱあいつ魔物以上に魔物の伴侶になった男の方が嫌いだったか」
「ん?ユウロお兄ちゃん、やっぱって?」
「ほら、祇臣であいつらと戦った時、エルビの奴俺と椿しか狙ってなかっただろ?魔物の体液で汚れたくないなんて言ってたけど、それだけじゃないような気がしてたんだよ」
「そういやその坊主「魔物なんかに婿入りしてるクソ共は皆殺しにしてやる」みたいな事言うとったなぁ……」
「へぇ……」

どうやらエルビは魔物以上にその魔物に恋した男性の方が気に食わないらしい。
何故だかわからないが、ホルミさん以外にユウロやカリンもそう言うのだからきっとそうなのだろう。

「だから私はもう一度エルビに会いたいのです。会って何をするかまでは考えてませんが……とにかく彼を悲しみから助けたいのです!」
「そうか……」

エルビがどんな事を考えているのかなんか私達はおろか、その事を見ていたホルミさんにすらわからない。
それでも、ホルミさんがエルビを想う気持ちは強い……もう一度会って、エルビを何かの悲しみから救い出すという覚悟が表面に滲み出ているようだ。


「もしかして……ホルミさん、エルビさんのこと好きなの?」
「へっ!?な、何を言うのですか!!」

こんな感じで話がまとまりかけていた時、不意にアメリちゃんがホルミさんにこう質問をした。
この場合の好きというのはおそらく恋愛感情の事だろうけど……

「べ、別に好きとかそういうわけじゃ……た、たしかに彼の事は気になりますがまだ子供ですし……」
「かお真っ赤にしながら言われてもね〜」
「だ、だからえっと……その……」

聞かれたホルミさんは否定しつつも、その顔は鏡を見たら興奮してしまうんじゃないかと思う程真っ赤に染まっていた。
なんだか喋り方もぎこちないし……もしかしたら……

「どうなの?」
「え〜っと……正直なところですとわかりません……」
「わからないって?」
「その……たしかに彼の顔や声を思い出すとドキドキしたりはしますが……それが好きだからと聞かれたらハッキリとわからないので……」
「へぇ〜……」
「な、なんでニヤニヤしているんですか!!」

レシェルさんも面白そうにホルミさんをからかうように話に混じったが……実際の所は本人もよくわかってないらしい。
まあ私も恋とかさっぱりだし、相手は自分を殺しかけた人だしよくわからないってのもわかる。
それでもホルミさんも嬉しそうではあるし、ひょっとしたらそうなのかもしれない。

「まあいいや……頑張ろうねホルミ『お姉ちゃん』!」
「えっ……あ、はい……」

そんなホルミさんを応援したくなったのか、『さん』呼びだったホルミさんの事を『お姉ちゃん』と呼びだしたアメリちゃん。
一緒に戦う仲間だから嫌ったままはよくないよなって思ってはいたけど、これなら大丈夫そうだ。


「さて……大体スムーズに決める事が出来たし、トラブルさえなければ予定通り明日の夕方から作戦を開始する。詳しい作戦などはまた明日言うので、今日は皆決戦に備え休んでくれ」
「わかりました。それじゃあ皆さんは昨日と同じようにお願いね」
「はい!」

とりあえず話はまとまったので、私達は明日の決戦に備えて休む事になった。

「うーなんだか緊張してきた……」
「ええやんサマリはサポートなんやから。ウチらより命の危険性は無いと思うで?」
「そうそう、俺達は気を抜いたら殺されちまうんだぜ?サマリはまだ安全だよ」
「そうだけど……というか殺されるだなんてそんな縁起無い事言わないでよ……」

戦い自体は初めてではないけど……それでも緊張はする。
皆無事に生き残れるといいな……

「……って弱気にならないようにしないとね!」
「そうそう、その意気だよお姉ちゃん!!」

決意と覚悟を胸に、私達は昨日のように別れ、そして戦いに備える事にしたのだった……



=======[ユウロ視点]=======



「では、これよりドデカルアの教会に乗り込む……皆、準備は良いな!」
『はいっ!!』

決戦当日の夕方……俺達はアメリちゃんの『テント』の中に集まっていた。
いつもは数人で使っているからだだっ広く感じるけど……今日は90人程が中に居るので少しだけ狭く感じる。
それでもこんな人数が集まって床に座れるのだからやはりこの『テント』はかなり大きいと思う……

「ではホルミ頼むぞ。くれぐれもミスはするなよ?」
「わかりました。気をつけます」

そしていよいよ俺達はドデカルアに攻め込む……
この間に相手が数にまかせてルヘキサに来る可能性もあるので自警団やサポートとして一緒にいる治療院のメンバーはおおよそ半分ずつに別れたとはいえ、レシェルさんやトロンさんなど実力のありそうな者はこちらにいるし、そうそう簡単に全滅などはしないとは思う。
それでも相手はエルビやチモンも居るし、そう簡単にはいかないだろう。

「では、おそらく1分もすれば転移完了するのでそのままでいて下さい」


そう言いながらホルミが出ていって……

「ドキドキするねユウロお兄ちゃん……」
「ああ……無茶はするなよアメリちゃん」
「お兄ちゃんもね……サマリお姉ちゃん大丈夫かなぁ……」
「まあ今サポートメンバーは風呂場で打ち合わせ中らしいし、さっき食べたおにぎりもサマリ達が作った物だって話だし、あっちはあっちでやってるんだろ」
「そっかー……がんばろうねお兄ちゃん!」
「ああ!」


あちらこちらでヒソヒソと話をすること約1分……


「指定された場所への転移、完了しました。周りに人の様子は無かったので大丈夫だと思います」
「え、もう終わったの!?」

出ていったホルミが転移終わったと言って入ってきた。

「マジかよ……ちょっとすみません、外見てみたいんで……」


本当に終わったのかどうか確かめる為に、入口をそっと開いて外を見てみたら……


「……マジだ……」
「だから転移終わったと言ったじゃないですか。私転移魔法は得意なんですよ」

さっきまで『テント』を広げていたルヘキサの広場ではなく、トロンさんが言っていたドデカルアの教団支部の近くにある森林に移動していた。

「すごいねホルミお姉ちゃん!」
「これ以外の魔術は何も使えないんですけどね。あなたのほうがいろいろ使えて凄いですよ」
「えへへ、ありがと!」

ホルミが凄いのか、それともこの『テント』の効果なのかはわからないけど、全く転移時の変な感覚とかしなかったから気付かなかった……


「さて、無駄話はここまでだ。これから再度乗り込み時の作戦を確認するぞ。これが最終確認だからよく聞け」

と、ここでずっと黙っていたトロンさんが口を開いて、作戦の最終確認を始めた。

「まずは3か所ある門に3チームに別れて攻め込む。各自自分がどこの役割かは覚えているな?」
『はい!』
「そこから少しだけ相手をして、すぐに正面組に全員合流するんだ。正面組以外は転移魔法か飛行のどちらかが行えるものを集めたから容易に出来るな?」
『はいっ!』

まずは猪善さんの情報から得た教会の地理情報、それを元に考えられた他方同時に攻めるように見せかける作戦だ。
こちらは少ないのでバラバラになると不利になる……その為突入まではなるべく全員で固まりたいが、そんな感じで相手の守りを固められたら内部に侵入するのも一苦労する事になる。
なのでまずはバラバラに入口を攻めて相手の戦力を分散させ、ある程度相手をしたらすぐに合流して皆で分担された守りを突破する。
壁や建物などがあり地上からそれぞれの入口から正面入り口に向かうのは時間が掛かる……だが壁は高くても宇宙まで続いているわけではないので飛べる魔物なら楽々合流も可能だろう。

「そして内部に無事侵入出来た後は、捕えられている人達を探せ。残念ながら兵士には詳しい実験場所までは知らされていないらしいから、こちらもどこにいるかはわからないのだ」
「まあ怪しい場所があったら調べてみて。戦いのほうが大変だったらまずは相手を倒す事に集中よ」

内部に侵入した後はおそらく外部よりも守りは固めてくるだろう。
実験されている人を助けるにはまずその兵士共を片付けなければならないが、相手も盗賊とかじゃないので簡単には行かないだろう。

「そして最後に大前提の事を言うが、誰も殺すな。そして誰も死ぬな!わかったか!!」
『はいっ!!』

そして、俺達は殺し合いをしにきたわけでは無い。
誰一人掛ける事無く……それは敵までもを含めて掛ける事無くこの戦いを終わらせる……これが俺達の目標だ。



「よし……全員準備はできたな?行くぞ!」
『おおーっ!!』



トロンさんの掛け声に合わせ俺達は叫んだ。


「じゃあアメリちゃん気をつけて!」
「ユウロお兄ちゃんも気をつけてねー!!」


そして『テント』から出て、それぞれの持ち場に向かった。




さあ、決戦の幕開けだ!!
12/12/02 22:40更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
本当は内部突入辺りまで書こうと思ったけどほのぼの(幼女3人の絵心バトル)書きたかったし2万字超えたのでここまで。
今回はフラグ立てつつちょっと小休止的なお話。今回のお話で出てくる味方側を改めて紹介って感じになりました。
エルビもといドデカルアとの決戦は次回へ。

という事で次回は教団対ルヘキサ自警団本番!エルビの運命は!?そして決戦の行方は!?……の予定。

あと、どうでもいいといえばいいのですが、アイフォンに変えたついでにツイッター始めて見ました。
「マイクロミー」でやってます……が、今日始めた事もあってよくわからない……

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