連載小説
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旅40 MAGENTABI 凍てつかぬコラボ
「うおー!すげえっ!!」
「あれ……ここって大陸だよね?」
「うん……そのはずだよ……」
「でも……これってどう見てもなぁ……」

現在13時。
魔物の棲む森を無事に抜けた後数日歩いて、私達は目的地であるシャインローズ領に辿り着いたのだが……

「アタイが居た場所の近くでよく見た事あるようなものが…」
「やっぱり…ジパングっぽいよね?」
「大陸のジパング村ってところだな!」
「うれしそうだねユウロお兄ちゃん…」
「まあな。アメリちゃんはジパング嫌いなのか?」
「ううん。アメリもジパング好きだよ!」

ここは大陸にある街のはずなのだが…所々にジパング風の家やジパングの魔物がいる。
かといって完全にジパングと言う訳ではなく…異文化交流とでもいうのだろうか、まさに異国同士の交流が多い街だと思う。
ここまでジパングと大陸の要素が混ざった街はいままで見た事無かったけど…なんだか不思議な気分だ。
ただ、この街についてハッキリと言える事は…活気がある良い街であるという事だ。

「で、ここにアメリちゃんのお姉さんがいるんだよね?」
「たぶん…一応この街にお姉ちゃんの魔力を感じるよ」
「まあ領主やってるって話しだし、領主の家に向かえば会えるんじゃないか?」
「それもそうだね」

今回私達がこの街に来た目的は観光だけでなく、アメリちゃんのお姉さんに会いにきたのだ。
アイラさんの話だとたしかこの街の領主がアメリちゃんのお姉さんらしいので、まずは領主の家に向かう事にした。
なので、とりあえず誰か適当な街の人に領主の屋敷の場所を聞いてみようとしたのだが……

「アンタ達、さっきからキョロキョロと見渡してるが何か探してるのかい?」
「あ、うん……この街の領主のお屋敷ってどこにあるか……ってウシオニ?」
「ああ、アタシはお前さんと同じウシオニでこの街の自警団の松という者だけど……そんなに驚いた顔してどうしたんだ?」

誰に聞いてみようかと辺りを見回していたら、後ろから松と名乗る赤い鉢巻と半被を身に付けた自警団のウシオニに声を掛けられた。

「いや……松さんは自警団って事は……この街でもウシオニは嫌われて無いんだよね?」
「もちろん…ああ、もしかして怖がられた経験でもあるのか?」
「うん……大陸きてからはそんな事無かったけど、ちょっとジパングぽかったから不安だったんだ……」
「なるほどな…」

この街に着いてからスズがどうもオドオドしてるなと思っていたが、どうやらジパングっぽいという事で拒絶されないか不安だったらしい…まあ弥雲での事がトラウマになっているのだろう。
だけどこの街ではウシオニが自警団をしている…なのでそんな心配はいらないだろう。
それがわかってスズはホッとした表情を浮かべていた。

「それで最初の話に戻るが、何か探しものかい?」
「あ、そうだった…えっと…領主様のお屋敷の場所ってわかります?」
「もちろんわかるが…嬢ちゃんに何の用だい?」

一通り松さんと会話した後、私は改めてこの街の領主の屋敷がどこにあるかを聞いてみた。

「この街のりょうしゅさまってアメリのお姉ちゃんなんだよね?」
「ん……リリムか?ならそうなるかな」
「アメリ会ったことないお姉ちゃんたちに会いたくて旅してるの!」
「で、俺達はそんなアメリちゃんの旅のお供ってとこです」
「なるほどね…それなら警備も兼ねながらだが案内しよう」
「ありがとうございます!」

会いに行く理由もきちんと話したら案内してもらえる事になったので、私達は観光がてら領主の屋敷まで松さんに案内してもらう事にした。



「しかし…こうして街中を歩くと本当にジパングっぽい所があるなぁ…」
「嬢ちゃんはジパングの文化が好きだからねぇ…」
「ジパング好きのリリムかぁ……やっぱ結構居るんだな…」

シャインローズ領には茶屋やうどん屋、ジョロウグモさんが経営してる呉服屋に…ジパング文化の一つ、落語を公演してる場所まである。
もちろん大陸風の建物もあるにはあるのだが、こうしてみるとまたジパング旅行をしているみたいである。
それも松さん曰くこの街の領主のリリムがジパング好きだからだとか……
ジパング好きのリリムは過去にジパングで会ってるけど…街をジパング風にするとは……
流石リリム、やる事の規模が大きい。

「マツお姉ちゃん、そーいえばこの街のりょうしゅさまをしてるアメリのお姉ちゃんの名前ってなんていうの?」
「へ?ああ…会った事無いって言ってたっけか…レンジェって名前だよ」
「へぇ〜レンジェお姉ちゃんか〜…早く会いたいな〜」
「そろそろ見えてくるところだからもう少し待ってな」
「うん!」

そんなジパング好きのリリムはレンジェさんというらしい。
レンジェさんは…ジパング好きという事以外は、どんな人なんだろうか……

「ほら見えてきた。あの屋敷が嬢ちゃんの住んでる館だ」
「おおー、やっぱり大きな家だ」
「やっぱり?」
「あ、いえ…今まで出会ったリリムで領主をやってる人は立派な家を持っていたので…一部領主でなくても立派な家を持っていた人も居た気もしますが…」
「なるほど」

そうこうしているうちに領主であるレンジェさんの住む館に着いたようだ。
松さんが指差した建物は…リリスさんやアイラさんにセラさんなど他の立派な家を持っていたリリムに負けない程大きな屋敷だった。

「あとはまあ玄関から堂々と用件言って入れば会えると思う。アタシは警備があるからこれで」
「はい、ありがとうございます」

案内してもらったと同時に、警備があるからと松さんは去っていった。

「いや〜ウシオニだってちゃんと受け入れられてるんだな〜♪」
「つーか弥雲以外は大体皆気にしてなかっただろ?」
「いや…町全体はともかく一部怖がってる人も居たには居たからね…」
「えっそうなの?アメリ気付かなかった……」
「まあ…アタイが気にし過ぎてるだけだったかもしれないけどね…ま、そんな事より早く入ろう!」

取り留めのない会話をちょっとだけした後、私達は言われた通り玄関から堂々と入ってレンジェさんに会いに行く事にしたのだった……



…………



………



……







「ようこそ皆さん。私がこの街の領主のレンジェです」
「はじめまして!」
「はじめましてレンジェお姉ちゃん!アメリだよ!!」

現在13時半。
玄関から堂々と入った私達は、ダークエルフのメイドさんによってレンジェさんの元へ案内された。
ある部屋に案内され中に入ると、まごう事無きリリムが…レンジェさんが知らせを聞いていたのか笑顔で迎えてくれた。
特徴と言えば……顔の両脇に束ねた黒い髪飾りをしているというところだろうか。

「アメリは今まであった事無い姉妹に会う旅をしているって聞いたのですが…」
「うん!だから会ったことなかったレンジェお姉ちゃんに会いにきたんだ!」
「わざわざありがとうございます。私もアメリと会えて嬉しいですよ」

ジパング好きが性格にも表れているような、とても清楚で御淑やかな印象である。

「それでレンジェお姉ちゃん、あそこにいるがくせいふくみたいなのをきてるお兄ちゃんって…」
「ええ、私の夫のシンヤさんです。アメリは学生服を知っているのですね」
「うん。フィオナお姉ちゃんのだんなさんのユウタお兄ちゃんがきてた」
「なるほど…ユウタさんを知っていたからわかったのですね」

そんなレンジェさんの部屋にはもう一人、いつぞやに出会ったユウタさんと同じような服を着た少年がいた。
どうやらレンジェさんの旦那さんで、名前はシンヤさんと言うらしいが……

「それでレンジェお姉ちゃん…シンヤお兄ちゃんは何してるの?」
「えっと……きゅ、休憩中です……」

そのシンヤさんは、ベッドの上でぐったりと倒れていた。
少し恥ずかしそうに頬を染めて目を泳がしているレンジェさんの様子を見るに、つまりそういう事なんだろう。

「す、すまないな客人……無礼だとは思うが、身体が思うように動かないんだ……」
「あ、いえ、お気になさらず……リリムの旦那さんなら仕方ありませんよ」
「い、いや、それだけでは無いのだが……まあ説明しようにも力を相当消費してしまったから難しいが……」
「ん〜よくわかりませんが朝から色々と忙しかったうえにとどめを刺されたってことですか?」
「えっと……じゃあそういう事にして下さい……」

顔をあげて私達の方を見てきたシンヤさんは…黒髪のショートヘアで、年齢も見た目だけなら同じ位の男の子であった。

「まあ立ち話も疲れますし、どうぞお掛け下さい」
「あ、はい。では…」

レンジェさんに言われた通り、用意されていた椅子に腰かけた私達。

「ところでアメリ、今までどんな旅を?それとどんな姉妹にお会いになられました?」
「あ、やっぱり他の姉妹の事も気になるのですね」
「ええまあ…会った事の無い姉妹の話は気になります」
「やっぱりそういうものなんだ…じゃあアメリちゃん、順番に話していこうか」
「そうだね。え〜っと……アメリが旅に出てまずはデルエラお姉ちゃんがいるレスカティエに向かったんだけど……」



そのまま私達の旅について聞いてきたので、順番に話をしていく事にした。
リリムに会う度に似たような事を聞かれる事が多いけど…やっぱり他の姉妹に会う為の旅をしてるのって珍しいのかな……


「……で、アメリ達はジパングに行ったけど……」
「えっ!?ジパングにも行かれたのですか?」
「あ、はい。一月無い程度ですが行きましたよ」

私達の旅…正確にはアメリちゃんのした旅を順番に話していて、ジパングに向かったという話しになった瞬間、今まで相槌を打ったり静かに聞いていたレンジェさんが身を乗り出してきた。

「ジパングはどうでした?」
「そうですね……大陸とは違う植物や食べ物、あと魔物が見れて楽しかったですね」
「やはりジパングの文化は素晴らしいですよね!!」

流石は街の随所にジパング文化を取り入れているレンジェさん。
ジパングの話になってから先程まで以上に目を輝かせながら話しに食い付いてきている。

「他の皆さんもそう思いません?」
「たべものおいしかったー!けどわさびは苦手……」
「山葵は…子供にはちょっと早いかもしれませんね」
「まあ…俺も楽しかったですね。自分の故郷に近いとこもあったので…」
「へぇ……近いという事はジパングでは無いのですか…」
「ジパング出身はアタイだよ。と言っても記憶喪失だから皆と旅した分しかわからないけどね」
「あ、そうなのですか。たしかにウシオニならそうかもしれませんね……って記憶喪失なのですか!?」
「あーまあ…でも気にしないで。昔の記憶も気になるけど、皆との旅の記憶が鮮明に残ってるからね!」
「そうですか…では、その鮮明に残っている記憶の事…と言いますか、旅のお話の続きを聞いてもよろしいですか?」
「もちろん!え〜っとじゃあスズお姉ちゃんとあったとこから……」


皆の話も混ぜながら、今までしてきた旅の話を続ける私達。


「シンヤさんも聞いてます?」
「ああ……なかなか楽しそうな旅をしているのだな……」
「シンヤさんとレンジェさんは旅…というか旅行をしたりはしないのですか?」
「私はこの街の領主ですからね…そう簡単に旅行は行くのは難しいですからね」
「あ〜それもそうですね……」
「まあこの世界をゆっくりと見て周りたいという気持ちも無いわけではないが…他の者に迷惑を掛けるのも良くないだろうしな……」
「『この世界』…って事はやっぱりシンヤさんも異世界人ですか?」
「ああ…その通りだ」

途中からある程度回復したのか、ベッドの淵に腰掛けて私達の話に混ざってきたシンヤさん。
そんなシンヤさんはやはりこの世界の人間では無く、異世界から来た人だったらしい。
まあ学生服を着ている時点でそんな気はしていたが……それでも驚きである。

「そういえば…話を聞いているというのは俺だけではなさそうだ」
「へ?」
「ほらあれ…覗き見などせず堂々と混ざればいいものを……」

と、シンヤさんが話の途中で意味ありげにそう言いだしたが……よく意味がわからない。
それはシンヤさんにも伝わったようで、部屋の隅のほうを突然指差した。
その指先のほうへ視線を移してみたところ……

「あれは……」
「おそらく式神だろう…しかも物見のな……誰のとは言わなくてもわかるな」
「……紺さーん!?」

何か良くわからないものが目立たないように設置されていた。
シンヤさんの説明やレンジェさんの叫びからして誰か知り合いの式神で、覗き見していたらしいが…


コンコン……


「し、失礼します……」
「紺さん…それにセシウとヴィーラまで……」

と、しばらくしたら覗き見していた犯人なのか…五つの尻尾の稲荷とデュラハンと眼鏡を掛けたヴァンパイアが部屋に入ってきた。

「何故覗き見を?」
「えーまあ…理由は2つありまして…一つはこの方達と別のお客様が来た事を知らせに行くタイミングを見計らっていたのと…

もう一つは会話が面白かったのでついそのまま……」
「もう…お話なら皆さん来て混ざればいいのに…」

そして覗き見していた理由を、紺さんと呼ばれた稲荷が言ったのだが……

「ん?他のお客?」
「あ、はい。夢乃が街中で遭遇したそうで今対応しているらしいです」

どうやら他にもお客さんが来ているらしい。

「お客と言うか…リトラさん達がたまたま旅行に来たついでに会いにきたそうです」
「あ、そうでしたか。リトラさん達が…」

しかも、どうやら知り合いの方らしい。

「んーどうしましょうか……リトラさん達にもお会いしたいですが、アメリ達を置いておくのも悪いですし…」
「あ、私達はリトラさんって方達と一緒でもいいですよ。もちろん相手もよろしければですが…」
「まあ、俺達は旅で知らない人とよく会って話しをするわけだし…レンジェさん達の知り合いであるその人達にも会ってみたいですしね」
「そうですか…では直接聞いてきます。皆さんはこの部屋でゆっくりとしていらして下さい」
「うんわかった。アメリたちここでまってるね!」

レンジェさんの知り合いならば会ってみたいので、私達はその趣旨をレンジェさんに伝えた。
そしてレンジェさんはそのリトラさんに会いに、翼を広げて文字通り飛んで行ったのだった……



…………



………



……







「では改めて…こちらが私の妹の一人であるアメリとその旅仲間さん達です」
「アメリだよ!よろしくね!」
「某が夢乃です。よろしくお願いします」

現在15時。
しばらく待っているうちに、レンジェさんが他に4人連れて戻ってきた。
そのうちの一人、巫女服を着たサキュバスの少女は、レンジェさんが居ない間に紺さん達から聞いた、この街に住みレンジェさんを慕っている夢乃さんだ。
で、残りの3人…サキュバスの女性と男の人、そしてアメリちゃんより幼く見えるサキュバスの子供が……おそらくこの親子だと思われる3人が……

「どうもはじめまして、僕はマニウスと申します」
「自分はリトラだ。話はレンジェ様から聞いている」
「はじめまして、娘のユナです」
「あ、どうもです」

やはりサキュバスのリトラさんとその旦那さんのマニウスさん、そして二人の娘のユナちゃんだった。

「ユナちゃんは今何歳?」
「今は5歳です」
「ホント!?じゃあアメリの方がお姉ちゃんだね!アメリは8さいだよ!!」
「そうですか…」

どうやらユナちゃんはまだ5歳の子供らしい…
たしかにアメリちゃんより背も小さいし、見た目は子供っぽいけど…歳に似合わず落ち着いているせいでアメリちゃんの方が子供に見えるのは私だけじゃないはずだ。

「姫様の妹と言う事は…アメリ様もリリムですよね?」
「うん…でも様って言ってほしくないな……せめてアメリさんにして!」
「わかりました」

いやしかし本当に礼儀正しい子だ…
姿勢もきちっとしてるし、話に聞いたところマニウスさんとリトラさんは騎士らしいけど、ユナちゃんも騎士のように見える位だ。

「ところでリトラさん達はどうしてここへ?」
「なに、休暇を貰ったので家族旅行のついでに寄っただけです。そちらはレンジェ様に会いにとか…」
「うん。アメリ会ったことないお姉ちゃんたちに会うために旅してるんだ!それでレンジェお姉ちゃんのこと聞いたから会いに来てたんだよ!」
「なるほど……ここであったのも何かの縁だ。よろしくアメリさん」
「よろしくねお兄ちゃんたち!」

まあリトラさん達も特にこれと言った用が会って来たわけではなさそうだ。

「では続きからお話を聞かせてもらってもよろしいですか?」
「あ、はい…ってさっきどこまで話しましたっけ?」
「たしかジパングで暮らしていらっしゃるゆったりとしたリリム様の話辺りだったかと…でも夢乃やリトラさんは今来たところですし、最初の方からそこ辺りまで掻い摘んでお話してもらってもよろしいですか?」
「わかりました…じゃあまたアメリちゃんがデルエラっていうお姉さんに会いに行ったところから……」

なので私達は、リトラさん達が来る前までしていた事を……今までの旅の話を続けたのであった……



========[スズ視点]=======



「……という事で、森を無事抜けてこの街に着いたという事です」
「ほぉ……なるほどな……」

ようやく今までの旅の話が終わった時、外は既に夕方だった。
まあそれだけアタイ達の旅は話す事がいろいろあるくらい濃厚なものだという事ではあるけど。

「いやぁ…面白い旅をしてるのですね!」
「まあそうですね。旅立ってから一年はおろか半年すらまだ経ってないけど、それでもいっぱいいろんな体験をしていますからね」

たしかにまだそんなに旅に出てから時間は過ぎていないけど……それでもいろんな思い出がアタイの記憶にある。
それは記憶がない不安で過ごした1年よりも濃厚で、楽しい数ヶ月間の思い出だ。

「しかし…もう夕方か……」
「結構長く話しちゃいましたね……そろそろ夕飯の準備に取り掛からないと……」

そして話が一段落ついたところで、じゃあどうしようかという感じになったその時……

「あ、そうだ皆さん。日も暮れてきましたしこの街の温泉に行きませんか?」
「へ?温泉?」
「はい。この屋敷の近くにありますので、ぜひ皆さんで入りませんか?」

レンジェさんが温泉に行かないかと言いだした。

「おんせん!?アメリ行きたい!!」
「アタイも行きたいかな……」

広い浴槽は何度かアメリの姉ちゃんの家で入ったけど、温泉となるとジパング以来だから是非入りたい。
料理長である紺さんが今までここでお話していたので夕食もまだだろうし、時間的にもちょうどいいしね。

ちなみにアタイ達は今日はこの屋敷に泊めてもらう事になった。
まだこの街を観光出来ていないってのと、旅の話以外にもいろいろとお話を聞きたいとレンジェさんが言ったので2日程泊めてもらう事になったのだ。

「その温泉混浴じゃないですよね?」
「男女別ですよ。なのでユウロさんでも安心かと…」
「そうですか。それなら俺も行きたいです!」
「混浴もあるにはありますが…この大人数では入れませんからね」
「なるほど……なら仕方ないか……」

どうやら温泉は男女別になっているらしい。
それなら安心だとユウロは喜んでいるが……サマリが若干残念そうな表情をしているのはそういう事なのかな?

「じゃあ決まりですね!私以外で行くのはアメリにサマリさんにユウロさんにスズさん、それとリトラさんにマニウスさんにユナちゃん、後はシンヤさんに夢乃にセシウですね」
「……ん?紺さん……は料理をするから行かないとして、ヴィーラさんは?」
「私はヴァンパイアだからな……」
「……ああ、そうですね……」

という事でアタイ達は、紺さんとヴィーラさん以外の全員で温泉に向かう事にしたのだった。

「あ、でも本日は貸切にはできませんが…」
「私達はまあ…この街の人や旅人とも親交を深めるだけですからいいですけど…」
「まあリリムがいるのに悪い事をしようと思う若造や娘子など居ないだろうし、それはそれでいいのでは?」
「う〜ん…まあそれならいいでしょう……」

貸切である必要は全く無いので、急いで温泉に行く準備を進めたのであった。



……なんとなくセシウさんやレンジェさんの胸の大きさ的にイヤな予感もするけど……まあなんとかなるだろう……




…………



………



……








「わ〜おんせんだ〜♪」
「結構広いなぁ……」

レンジェさんの案内で温泉『花びらの湯』に着いたアタイ達。
結構な大人数だが、全員が余裕で入れるほどの広さがある。

「はしゃぎすぎて転ばないようにね」
「うん!わかってrわわっ!?」
「よいしょっと…言った傍から転びそうになってちゃ心配だね…」
「う〜……ありがとスズお姉ちゃん……」

あまりにも広いからとはしゃぎながら奥まで走って行こうとしたアメリ。
危ないからとその事をレンジェさんに注意された矢先に滑って尻餅を突きそうになったので、アタイは腕を伸ばしてアメリを支えどうにか転ばないようにした。

「アメリさん、まずは身体を洗ってからゆっくりと入りましょう。温泉は逃げていきませんよ」
「うぅ……ユナちゃんの言う通りだよね……」

ユナに窘められているアメリ……どっちが年上だかわからなくなる。
特にユナはサキュバスだからアメリの姉ちゃんに見えなくもないから余計にだ。

「そうそう、まずは身体を洗おう!」
「そうだな……ほらユナ、背中洗うぞ」
「うんっ!」「はいっ!」

という事でまずは身体を洗う事にした。

「しっかし…温泉まであるとは本当にジパングっぽいな……」
「まあ姫様はジパング好きですからね。と言いましてもこの温泉は別にどこかから運んで来たわけでは無く、たまたま湧き出たものだそうですが」
「へぇ〜……」
「なるほど…以前来た時は見当たらなかったが、最近掘り当てたのか…」
「はい、そうですよ」

なんとなく呟いただけだったけど、隣に座っていた夢乃が答えてくれた。
どうやら温泉は偶然の産物らしい……ジパング好きが引きよせたような気もするのはアタイだけじゃないと思う。

「でもまあジパング出身のアタイからしたら大陸の文化は目を輝かせるものだったけど…多分レンジェさんはその逆だよな?」
「まあそういう事になりますね…ホントたまにレンジェ様のジパングかぶれには頭を抱えたくなりますよ……」

アタイも自分が知らなかったものを見てワクワクした……いや、今でも大陸の建物や食べ物を見る度にワクワクする。
きっとレンジェさんも同じなのだろう……
と言っても、側近であるセシウさんは苦労しているみたいで、頭を洗いながら抱えている……もちろんその頭はちゃんと首の上に乗っているが。
で、そんなセシウさんの小言を聞いたレンジェさんが、皆に聞こえるように……

「そんなにかぶれてないでござる〜」
『…………』
「冗談ですよ♪」


……一瞬場の空気が固まったのは気のせいでは無いと思う。


「……まあセシウさんが頭を抱えたくなるのはわかった気がします……」
「サマリさん!?」

そしてサマリがそう呟きたくなったのもわかる。
アメリですら口をポカーンと開けて動きが止まっているぐらいだからね。



「……ふ〜さっぱり♪じゃあおんせんの中に入ろうよユナちゃん!」
「そうですね。一緒に入りましょうアメリさん」

それからしばらくして、最初に身体を洗い終えた子供2人がお湯の方に移動していく。

「じゃあ私もそろそろ……スズは?」
「アタイは皆より身体が大きいからまだ洗ってる途中だよ。今日はお喋りに夢中だったからまだ洗いきれてない」
「ん。じゃあ行きましょうかセシウさん……」
「え、あ、ああ……」
「では私も…アメリ、ユナちゃん、お話しましょう!」
「うん!」「はい!」

そしてサマリも洗い終えたようで、セシウさんを誘って温泉の中に入っていき、その後でレンジェさんもアメリ達が居る場所へ入っていった。
……サマリの表情が少し無表情に近いところと言い、どうにも嫌な予感しかしない。

「よし、自分達も行くか……」
「そうですね、某も今身体を洗い終えたので……」

その後すぐにリトラさんと夢乃のサキュバスコンビも温泉に浸かりに行ってしまい……身体を洗っているのがアタイ一人になってしまった。
ちょっと寂しいので急いで身体を洗う事にしよう。


「ねーねーリトラお姉ちゃん、リトラお姉ちゃんってアルプさんだよね?」
「そうだ。自分は元は男だ」
「え、そうなのですか!?」
「あら?サマリさんはお気づきにならなかったのですか」
「まあアルプとサキュバスなど一目では見分けがつくものではないだろうしな」
「へぇ……どおりで胸が……じゃあユナちゃんもアルプなの?」
「いえ違います」
「サマリお姉ちゃん、アルプさんの子供はサキュバスなんだよ!」
「へぇ……じゃあユナちゃんはサキュバスで合ってるんだ」
「はいそうです」
「まあサマリさんは元反魔物領出身の人間だって先程聞きましたし、知らないのも無理ありませんね」
「いやあお恥ずかしい…」


……やっぱり一人だけ身体を洗っていて話しに入れないと疎外感を感じてしまう……
早く話に混ざろうと、大きな下半身を素早く洗おうとした丁度その時……


「お、何やら今日は人が多いと思ったら嬢ちゃん達か!」
「あ、あんたはたしか……」
「おう、また会ったな……えっと……スズだったか?」

浴衣場へ続く扉が開いて、この街に到着した時に案内してくれたウシオニの松さんが入ってきた。

「あ、松さん。仕事上がりですか?」
「おう!午前中は忙しかったから温泉で疲れを抜こうとしてね」

どうやら仕事の疲れを癒しにきたらしい。
そういえばここに来る途中でシンヤさんが「今日の午前に教団の奴らが来て疲れた」とか言ってたから、おそらくその対応を松さんもしていたのだろう。

「隣いいかい?」
「はい。というかむしろ隣にいてほしい……身体を洗ってるのがアタイだけでちょっと寂しかったんだ」
「そうか!じゃあアタシと楽しくお喋りしながら身体を洗うとするかね!」

そのままアタイの隣に移動してきた松さん。
これでアタイも寂しい思いをしなくて済むのでとてもありがたかった。

「そういえばスズ、あんたは怖がられた経験があるんだっけ?」
「うん……思い出せる範囲で、サマリ達に会うまでは大体出会った人全員が逃げてたし…その後最初に行った町でもアタイを見た途端逃げていったから……」
「あーまあ地域によっては仕方ないかもしれないな。なんたってジパングじゃあウシオニは恐れられているとこもあるからねぇ……」
「でも……そんなアタイをサマリ達は怖がったり避けたりしないから気が楽でいられるんだ」
「良かったじゃねえか!」

そしてアタイは松さんと、ウシオニであるが故の話をし始めた。
やはり誰かに相談できると少し気が楽になる……


「ねぇセシウさん……」
「……なんですサマリさん……そんな怖い顔して……」

と、アタイが松さんに合わせてゆっくりと身体を洗っていたら、ふと温泉の方から不穏な声が聞こえてきた。
これはもしや……

「セシウさんは首取れるんですよね?」
「あ、はい……デュラハンだから取れますけど……それがどうかしました?」
「じゃあおっぱいも取れるよね。私に頂戴」
「…………はい?」
「その無駄にデカイおっぱい頂戴」
「え、ちょっとサマリさん?」

……やっぱり始まった……
サマリの胸への嫉妬で起こる大暴走が……

「ん?ワーシープの嬢ちゃんはどうしたんだ?」
「あー松さん、松さんも胸大きいから今のサマリに近付かない方が良いよ」
「へ?どういう事だい?」
「えっと……その……」

なんとなく温泉にくる前から予想できてたけど、やっぱり標的はセシウさんだったか。
以前リリムであるナーラさんに向かって行った時は一瞬で返り討ちにあったからレンジェさんは外すと思ってたけど……まさに予想通りになったな……

「いや流石にこれは外れない……」
「え?試さないとわからないですよという事でもらったあ!!」
「うわちょっとやめてこれは旦那専用うひゃいっ!?」

サマリは無表情のままセシウさんの胸を正面から鷲掴みにした。
いくらリリムの護衛をしているデュラハンでもこの不意打ちは想定外だったらしく、なすすべも無く揉みしだかれている。

「えっと……サマリさんはいったい……」
「え〜っと……たまに大きなおっぱいもってるお姉ちゃんをみるとサマリお姉ちゃんはあんな感じになっちゃうんだ……」
「自分も気持ちはわからんでもないが……恐ろしいな……」
「ちょ、ちょっと怖いです……」
「某もサマリさんに恐怖を感じてます……」
「そこ!話してないで助けひぃっ!」
「ほら〜多分もうちょっとで取れると思うんだけど〜……もっと強くしないと駄目かなぁ……」

「……ああなります」
「……了解。じゃあしばらくは身体を温めつつ二人で喋ってるか」
「そのほうが良いかな……」

セシウさんを責めているサマリや、その様子を遠くで見てる他の皆を尻目に、アタイは松さんと楽しくお喋りをする事にしたのだった。

だって、サマリに襲われたくないからね……



=======[ユウロ視点]=======



「や、やめ……ひゃっ!?」
「何?私は取ろうとしてるだけなのに変な声出してますけど…どうかしました?」

「……なんだか向こうが騒がしいな」
「そうですね……リトラとユナは大丈夫かな……」
「レンジェさんはともかく、多分その二人は大丈夫です。それにいつもの事ですからそんなに気にしないで下さい」

女湯の方が騒がしくなってきた……まあいつもどおりサマリが暴走しているだけだからそんなに気にする事も無いだろう。

「いやしかし…何か叫び声が……」
「しばらくしたら冷静になると思うので放置しておきましょう。まあ被害者の……おそらくセシウさんだけか、もしくはレンジェさんだと思いますが……旦那さんは後でいっぱい搾られる覚悟をしておいて下さいね」

胸の事でそんなに気になるのはまあ本人曰く昔から周りの同世代が全員自分より大きかったからとの事だけど…それにしてもやり過ぎではある。

「風呂ぐらい静かに入れないのか……」
「まあこっちと違って大人数なうえに暴走する奴が居ては無理でしょ」
「はは……」

本当に風呂ぐらい静かにゆっくりと入れないのだろうか……


「ところでユウロ、君は魔物と居る割には人間そのものであるようだが……」
「あーまあシンヤさん達と違って俺は誰かの伴侶ってわけじゃないですから。あいつらとは一緒に旅している仲間ってだけですよ」
「え、そうなのですか?僕はてっきりサマリさんかスズさんの旦那さんだと思ってました」

と、ここでシンヤさんが俺に質問をしてきた。
たしかに俺はここにいる他の人と違い、当たり前ではあるがインキュバスでは無くただの人間だ。

「ちょっと事情があって俺は誰ともそういった関係になるわけにはいかないのでね……」
「ほぉ……その事情とやらは言えないものか?」
「ええまあ…言えないっていうより言いたくない、言っていいものじゃないってとこですかね……」



俺は絶対に彼女とか作ってはいけないんだ……
だって俺は……『ああならない』って自信がない……
実際……俺は拓真(たくま)に手を出してしまったし……実内(じつない)寮の皆も……
それに……山本(やまもと)さんだって……



「そうですか…まあ無理に聞くのは良くないのでこの話はやめましょうか」
「そうだな……」

そんな俺の様子を察してくれたのか、シンヤさんも他の人も深く聞いてこなかったので一安心だ。
流石に言いたくはない……というか、言っていいものではないのだからな……


「ま、この話はやめにして……シンヤさんって何か特別な力を使えるのですよね?」
「ああ…万物の式神の事なら使えるが……今見せろとか言わないよな?」
「いえ、今じゃなくて夕食後でいいですので見てみたいなって…俺もですけど多分アメリちゃん達も言うかと」
「ふむ……わかった。簡単なものなら後で見せよう」
「ありがとうございます!」

そういえばシンヤさんは万物の式神といって、物を具現化する能力があるらしい。
聞いた話だとバスなんかの大きな物ですら創り出せるとか……
ぜひ見てみたいのでシンヤさんに見せてと頼んだら二つ返事で了承してくれた。なので後で皆と一緒に見てみようと思う。

「さて……あと少しあっちの騒ぎを音楽にしながらゆっくり浸かって、それから出るか……」
「なんとも騒々しいBGMですけどね……」

約束もしてもらったことだし、あとちょっとだけ入って温泉から出ようとなった、その時であった。


「ふぅ……二人と離れて一人で入るのは少し寂しい気もするけど、逆に言えば一人でいられるのはこういう時ぐらいだし……あっ!」
「ん……あ、小僧か…久しぶりだな」
「あーあの時の……お久しぶりです」

ちょうど新たなお客さんが……金髪の少年が温泉に入ってきた。そしてその少年がこちらを見た瞬間、驚いた顔して固まっていた。
シンヤさんとマニウスさんの反応からして知り合いらしいが……

「えっと……誰です?」
「スリップス領の話は先程したよな?そこの元勇者だ」
「はぁ……なるほど……」
「あ、どうも…僕はレグアと言います」
「レグアか……俺はユウロ、あんたと同じ元勇者って言ってもそう立派じゃないけどね」

どうやら先日とある事件が起きて崩壊してしまった反魔物領『スリップス』の勇者だった人物らしい。
『だった』って事や親魔物領の温泉に来ている事からすでに勇者はやめて、たぶん魔物の伴侶をしているのだろう。

「しかし珍しいではないか。何故ここに?」
「えーっと…現在僕達3人はあの事件で亡くなった方の弔いで来てたのですが…粗方周り終えて疲れがたまっていた所で温泉を見つけて……」
「それで一休憩に来たという事か……今日はいろいろとタイミングが凄いな……」

どうやら事件で亡くなった人への弔いをしていたらしい。
やっぱ勇者はこういう根は良い奴じゃないとな……俺とは大違いだ。

「あら?あなた達は……」
「あ、どうもお久しぶりです」
「ん?このダークプリーストのお姉ちゃんとダークエンジェルのお姉ちゃんはだれ?」
「えっとですね…ちょっとした事件での知り合いですよ」
「はじめまして。私はダークエンジェルのリリエルです」
「私はダークプリーストのメイアです。あなたは…リリム?」
「うん!リリムのアメリだよ!!」
「そう、私の妹の一人です…と言いましても今日初めて会ったのですけどね」
「そうですか、可愛い妹さんですね……ところで温泉の縁で小さくなっているワーシープさんがいるのですが……」
「あーどうやら自分のしてる事を冷静に考えられるようになって恥ずかしがってるみたいだね…あ、アタイはスズ、よろしくな!」

と、向こうも誰かが入ってきたみたいで、サマリの動きも止まり会話が聞こえてきた。
さっきレグアさんは「僕達3人」って言ってたし、その残り二人だろう。
しかしダークプリーストとダークエンジェルって……勇者堕落セットだな……

「……で、俺はそのアメリちゃんやスズ、後小さくなっているワーシープの連れってわけ。よろしく」
「ああ、よろしく。察しの通りリリエル様とメイアの伴侶だよ」

そんなレグアとも一緒に、まだまだ温泉での会話は続いて行くのであった……




…………



………



……








「ごちそーさま!ごはんおいしかった!!」
「そうですか。ありがとうございますアメリちゃん」

温泉から出た後、レンジェさんの屋敷で夕飯をいただいた俺達。
松さんは仕事場に忘れ物をしたからと、レグアさん達はまだ回らなければいけないところがあるからと別れたが、それ以外の人は皆一緒に食べていた。

「じゃあシンヤお兄ちゃん、本当に式神みせてくれるの?」
「ああもちろん。でもその前にアメリ達は何か決めるのではないのか?」
「あ、そうだった……ねえみんな、次はどこに行く?」

それで俺達は夕飯を食べ終わった後、次の目的地を決める事にした。
まだまだこのシャインローズにいるつもりではあるが、早いうちに決めておこうと思ったのだ。

「う〜ん……ここら辺結構反魔物領もあるからな……どうするユウロ?」
「どれどれ……そうだな〜……」

俺達はレンジェさんから貰ったここら一帯の地図を広げながら、次の目的地をどこにしようか考えていたのだが……

「……ん?そう遠くないところに『ルヘキサ』がある……」
「へ?ああここか……どうやら親魔物領みたいだけど、知ってるの?」

丁度地図の淵の方に、とても大きな親魔物領である『ルヘキサ』があるのを発見した。

「ああ、俺が居た教団では結構有名だったぜ。なんせドラゴンが治めている街だからな」
「へぇ〜そうなんだ……」
「そもそもそこら辺は反魔物領しかなかったんだけど、密かに暮らしていた6つの魔物の集落をそのドラゴンがまとめあげて創った街らしい。当然周りの反魔物領は黙って無かったけど、なんせ相手はドラゴンで、それ以外にも実力を持った者が多くて逆に土地を拡げられて現在ここまで大きくなったらしいぜ」

その街は俺が勇者をやっている時によく耳にした街だった。

「なるほど……ここにアメリちゃんのお姉さんは居るかな?」
「う〜ん…それはわからないけど、俺はちょっと行ってみたいな……」
「なんで?」
「そりゃ……ドラゴン見てみたいからさ」
「なるほど……まあ私も見てみたいし、スズとアメリちゃんが良ければ行こうか」

ドラゴン……それは男なら聞いただけでワクワクする伝説の存在だ。
初めて聞いた時は本当に魔物としているんだと興奮したものだ…なので是非一度は見てみたい。
ただまあドラゴンがって話が広まっているわけだからアメリちゃんのお姉さん…リリムがいる可能性は低いとは思う。
なので行くかどうかはアメリちゃん次第だが……

「アタイは別にいいよ。アメリは?」
「う〜ん…ドラゴンさんがめずらしいってのはよくわからないけど、ユウロお兄ちゃんが行きたいんだったら行こうよ。お姉ちゃんも会いたいけど、いろんな街も見たいもん!」
「じゃあ決まりだな!次の目的地はルヘキサにしよう!」
「そうだね……って今アメリちゃんさりげなく凄い事言ったような……」

まあアメリちゃんは魔王城に住んでいるわけだし、ドラゴンの一人や二人見た事もあるだろう。
ただとりあえずそんなアメリちゃんも行く気満々なので、次の目的地はルヘキサに決まった。

「どうやら話はまとまったようだな……では簡単な物を披露しよう」
「おねがいします」
「ユナちゃん、いっしょに見ようよ!」
「はい!」

という事で、俺達は温泉で頼んだシンヤさんの式神での創造能力を見せてもらう事になった。

「ではまずは…これだな……」


キィィィィ……


「……おお!」
「すっごーい!!」

前に出たシンヤさんの右手が青い輝きを発したと思ったら、段々と形を作っていき……輝きを失ったところで一羽の雀みたいなものが現れた。
それはまるで本物のように手から飛び立ち、アメリちゃんの手のひらへ降り立った。

「このように生物や物など俺が見た事があるものをそのままそっくり創り出す事が出来る能力だ。このように見世物にするのではなく、戦闘にも使えるぞ」
「へぇ……」
「たとえばこんな物だって……」

そう言ってシンヤさんが創り上げた物……いや者は…

「……レンジェお姉ちゃん?」
「そうだ。このように人の形に創り出す事も出来る…もちろん能力もそのままにな」
「へぇ……」

そう言っている時にシンヤさんが創り上げたレンジェさんは翼で空を飛んだ…たしかに動きもレンジェさんそのままだ。

「他にはどんなの作れるの!?」
「ぜひ見たいです!」
「まあまてお子様達。慌てなくてもいろいろ見せてあげるさ」

シンヤさんの能力で作られた鳥や蝶たちの舞を見たり、この世界には無い筈の乗り物に乗ったりしながら、俺達は夜遅くまで楽しんだのだった。





それはまるで、これから起こる激戦前の休息のようであった……




……………………




…………




……









=======[ホルミ視点]=======



「…残念だけど大斧なんか持った相手とまともに戦うなんて事はしないよ。『ムーブシーリング』!」
「くっ……か、身体が動か……」
「まあ動きを封じる魔法だからね。結構魔力消費するからあまり使いたくないんだけど、長期戦をやる気は無いからね」

目の前の勇者…にしては若い男の子にやられ、私の身体は思うように動かなくなってしまった。

「ふん…ミノタウロスが聖なる武器を使うだなんててんでおかしいと思ったら元人間の勇者だったんだ…残念だったね人間やめる羽目になっちゃってさ」
「そ、そんな事……」
「ふーん…残念と思えないって事は、もうキミは立派な魔物…討伐対象だね」

たしかに私は少し前まで人間の女勇者だった。
だが一月程前、遠征帰りに野宿は嫌だったので仕方なく立ち寄った親魔物領『ウンデカルダ』の宿で休んでいたら、突然身体が火照って…無意識のうちに自分を慰めていたら牛の尻尾や角、それに茶色の毛が足に生えていた。
親魔物領だからといって突然の魔物化、しかもミノタウロス化するとは思えず原因を調べていたら、どうやら古代の聖なる武器と思っていたタウロが実はミノタウロスの魔力が籠められたものだったようで、そんなタウロをずっと身に着けていた結果私は魔物化してしまったようであった。
魔物になったのが親魔物領にいる時で良かったと思いつつ、最初こそは魔物になった事で愕然としていたけれど……それでも私であるという事実は変わらなければ、魔物も人と同じように優しくて話しもわかりちょっぴりエッチなだけだってわかったのだからそこまで残念だとは思わなかった。

「ま、本当なら魔物なんか殺したら穢れちゃうから殺さない主義なんだけど、キミは特別に殺してあげるよ」
「そ、それどこが特別なnきゃっ!?」
「あまり喋らないでよ。魔物の戯言なんか耳に入れたくないんだからさ」
「うっ……傷口を抉るなんて……」

だがそのまま教団に帰るわけにもいかなくなった私はどうしようかと適当に歩いていたら、『ウンデカルダ』で出会ってタウロの事を教えてくれたリリムに

「えっと……その……実は私には見た事のない義理の息子がいるのですが……えっと…見た事無いってのは……その……旦那様の亡くなられた前妻との子供なのですが……私とこの街に戻ってきた時には家にいるはずのその子がいなくて……それで……金髪で茶色い瞳をしている子って事しかわかりませんが……あの……その……探し出してくれませんか……?」

ってな感じで頼まれた義理の息子の捜索をしてほしいと頼まれた。
困っていた私を助けてくれた恩もあるし、頼まれたからには断るわけにはいかない。
そう思って私はいろいろな街を周っていたところで、丁度反魔物領と親魔物領の境界付近でこの眼鏡を掛けた少年勇者と遭遇してしまった。

「金髪と茶色の瞳まで一緒なのに……よりにもよって勇者に会ってしまうとは……」
「……いきなり何の話?てか喋るなって言ったよね?」
「あぐっ……うっ……」

この勇者も金髪で茶色い瞳と結構一致してる点はあるけど、あの旦那さんとは似ていないし違うと思う。
万が一もあるかもしれないけど……名前を聞かなかったのは手痛いミスだ……

「……で、エルビ様、いつまでそうしているつもりですか?」
「ん〜飽きるまでかな……なにチモン、ボクのしてる事に何か文句ある?」
「いえ……ただ待たされてる身にもなってほしいって思ってるだけですよ」
「……最近言うようになってきたね。まあそういうところは嫌いじゃないからいいけど」

私をじわじわといたぶってくる勇者はエルビ、その近くでずっと待機している青年兵士はチモンと言うらしい。
こんな状況でなければ兄弟みたいで微笑ましいのだが……今の私にそんな事思っている余裕はない。

「まあいいや。それじゃあ……『ポイズンパウダー』」
「うぐっ!?」

なぜなら、エルビは何かしらの魔法を私にむけて放ったからだ。
紫色の粉状の物がエルビの掌から出てきて、私の傷口から体内に入った途端……身体中が焼けるように熱を持ち始めた。

「な、何を……ごほっ!何をしたの!?」
「ん〜まあ簡単に言えばじわじわと体力を減らしていく毒を盛っただけだよ。キミが治癒魔法が使えれば簡単に治せるから安心しなよ」
「く……私が転移以外の魔法を使えない事わかってて……」
「へーそーなんだー知らなかったよー」
「く……わざとらしいですよ……」

やはり毒の類だったらしい。
エルビが言う通り、徐々に私の体力が減っていくのを自分でも感じ取れてしまう。

「ま、このまま放っておけば勝手に死んでいくだろうし、ボク達はそろそろ帰るとしようか」
「…ふん、これだから子供は甘いのだ……」
「……げ、頭の固いのが来た」

もはや身体を痙攣させる事しか出来ない私をそのまま放って帰ろうとしたエルビだったが……また別の物が森の奥から姿を現した。

「誰が頭の固い物だ。全く……妖怪はその場で殺せばいいだろ?」
「なんだよボクのやり方にケチ付けるのかよ……これだからジパング人の頑固親父は……」
「ふん、私としては貴様のようなクソガキにこれだからと言いたいわ」

それはエルビの言う通り、黒目黒髪のジパング人の男性だった。
年齢もたしかに高そうで、親父と言うのがピッタリと当てはまるようなものだ。

「猪善(イヨシ)さん、どうしてここへ?あなたの担当はもっと別の方角では……」
「ふん……ここらの自然を調査してるとぬかしていたワーウルフと男を討伐しようとしたが逃げられてしまっただけだ」
「うわダサッ!魔物に逃げられてやんの!」
「ふん…万が一の為に目暗まし用に砂を持っていたからな……そんな物持っているとは思っていなかったっていうのが……」
「言い訳お疲れ様!」
「黙れクソガキ。貴様の根性を叩き直してやろうか?」
「やれるものならやってみなよおっさん。逆にあんたを柔らかくしてやるよ!」

そのまま二人で揉め始め、睨み合いながらお互いの武器を掲げ合う。
どうやら互いに相性は良くないらしい……親子喧嘩に見えない事も無いけど。

「ち、ちょっとお二人ともやめて下さい!魔物の前で何喧嘩始めようとしてるのですか!?」
「……ふん」
「ちぇ……まあたしかにチモンの言う通り、ここで喧嘩してても仕方ないね……」

そんなエルビとイヨシの間に、慌ててチモンが割って入って喧嘩を止めさせた。

「お前がこの場で殺さぬというなら私がこの妖怪を殺してやると言っているのだ」
「だからなんども言わせないでよ。こいつはボクのだから、ボクのやり方で殺させてもらうよ」

だがお互いに納得はしていないようで、まだ喧嘩腰である……



「なぜ、ですか……」
「ん?」
「何だ急に……」

でも、私にはそんな喧嘩よりも、どうしても一言だけ言っておきたい事があった……


「なぜ……魔物を……殺すのですか……」


方法はともかく、どうしてそこまでして魔物を殺したがるのか…それが気になったのだ。
私自身、危険な魔物はこの手で倒してきた……その命を奪った事も無いわけではない……
それは私が、魔物は人間に害を成し、人を殺める存在だと思っていたからだ。


「魔物になったからわかります……魔物は……人間を愛しています……」


でも実際は、そんな事は決してなかったのだ。
むしろ魔物達は生きていくのに、子孫を残すために人間が必要だ。
そんな今の魔物が、人間に害を成すわけがない……


「魔物は人を殺さないのに……どうしてあなた達は……」


もしかしたらこの人達もその事実を知らないから殺そうとしているだけかも知れない…
そう思った私は、毒にやられている身体を必死に動かし、出しにくくなっている声を絞り出してこの場にいる教団の者全員にそう言ったのだが……







だまれええええええええっ!!」
「があっ!!」






私が言い終わるより前に、イヨシが私の背中を腰に掲げていた刀で斬り裂いた。


「ぅ……ぅぅ……」
「何が人を殺さないだ!!よくそんな事が言えたもんだ!!」


痛みで呻く私になおも斬りつけながら、鋭い目をしてイヨシは……


















「私の娘は……私の妻の忘れ形見だった大切な一人娘は……貴様ら妖怪の手によって殺されたんだ!!」















とても信じられない事を、私に向かって叫んだのだ。

「妖怪は人を殺さない?じゃあ何故私の娘は……桜(サクラ)は殺されたんだ!!」
「ぅ……!ぁぅっ……!!」
「貴様らが……貴様ら妖怪が……ただ私と一緒にいただけで何もしていなかった桜を殺したんだ!!」
「ぅ……ぅぁ……!!」

怒りを私にぶつけながら、なおも私の背中を斬りかかるイヨシ。

「この……この……っ!!」
「はいストップ〜。何度も言わせないでよ、こいつはボクの獲物だよ。何勝手に殺そうとしてるんだよ」

そんなイヨシを止めたのは、自分の獲物を横取りされそうになって不機嫌になっているエルビだった。

「チモン、このおっさんを本部まで連れて行ってよ。おっさんも怒り任せに奇行に走らず冷静になりな」
「わ、わかりました……行きますよイヨシさん…」
「チッ……」

そのままイヨシはチモンによって連れてかれた。

でももう私は……毒の効果と斬り掛かれたダメージで、既に満身創痍であった。
このままではやがて死ぬ……その時がもうそんなに遠くない物となっていた。

「あーあ…本当はもっと痛めつけてから捨てようと思ったのに、あのおっさんに全部持ってかれちゃったよ……」
「うっ……」

そう言いながら斬られた場所を踏みつけるエルビ……もう痛すぎて本当に痛いのかどうかすらわからなくなっている私……

「ま、いいや。あんたはそのままここに放っていくよ。運が良ければルヘキサの自警団達が見つけてくれて助かるかもね〜」

そういいながら去っていくエルビ……


「あ、そうそう、質問の答えなんだけどさ…ボクは魔物のその人間を愛するって部分が嫌いなんだ」
「……」

しかし、思い出したかのように私の方を向いて、そう答えたのだった。

「あと、ボクは魔物以上に、魔物に着いて行った男の方が嫌いなんだ……」

もう声すら出す事が出来なくなった私を見ながら、エルビは独り言のように呟く……


「そう…『アイツ』みたいに、大切な存在だと言っていたのにほっぽり出して魔物とどこかに消える様なゴミなんか……死ねばいいんだよ……」


それは怒りを含んでいるようで……


「だから……ボクはそんな男達を殺す……大切な存在よりも大切な魔物の前で、無残に死んでいく姿を見せながら殺す……」


いや、それ以上に悲しみを含んだ表情で、私に語りかけるように呟いた……


「じゃあね。生きていたらまた殺しに来てあげるよ……」
「……」

そしてそのまま私に背を向けて、ゆっくりと教団があると思われるほうへ歩いて行った。


「…………」

エルビの姿が見えなくなり、それからしばらくしたら、意識が遠のいてきた……
もう私は……死ぬ……


「…………」


そんな死の間際だって言うのに、私が思い浮かべるのは……



……何故か知らないけど、悲しそうな表情を浮かべている、エルビの姿だった……



「……おい、あそこに誰か倒れてるぞ!!」
「あれは……ミノタウロスだわね……って凄い怪我!それに毒に侵されてるわ!このままじゃ命が危ないわ!!」
「なっ!?マズイ、早く診治療院に運ばないと…」
「私とユウキが運ぶわ!だからレイル君は旦那やアフェル達に連絡しに急いで行って!」
「わかりました!よろしく頼みますよレシェルさん、ユウキ!」
「はい!でもレシェルさん、まずは応急手当をしたほうが……」
「そうね……このままじゃあ運んでる最中に命を落としてしまうかも……」




どこか近くで、それでいて遠くで、複数の声が聞こえたが……



私の意識はそこで途切れてしまった…………
12/11/12 00:07更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
リアルで切羽詰まってて中々書けなかったくせに2万字超えた今回は本編を入れつつも『エックス』さんの作品『MAGENTA』とのコラボでした!
作中で出ていた事件の事や、レンジェとシンヤ、レグア達の活躍は緊張感も凄く、怒涛の展開が続くので未読の方は是非読んでみて下さい!
またリトラとマニウスについては『凍てついた苦痛』という作品の主要キャラでもあります。読む際にはこちらも読んでおくとより感動するかもしれません。
エックスさん、おかしな点がありましたら感想欄かメールにてズバリと言って下さい!確認次第訂正します!

そして最後の久々登場ホルミさんのシーンですが……もちろん次回以降に繋がるお話です。
ここからはホルミもエルビもスズもユウロもと怒涛の伏線回収が続いていきますのでお楽しみに。
あ、もちろん猪善さんが言っていた事はそのままでは無いのでご安心を。

そんな次回は、ルヘキサについた一向…そこで出会ったユウロの過去を知る人物とは!?そして戦いに巻き込まれていく……の予定。

あ、もしルヘキサという街の名前を僕のこの作品以外で見た覚えがあるという方がいましたら大感謝します。
一番人気のない作品に登場した街の十数年後だったりしますので……
いいじゃない使いまわしでも……

あと旅裏も更新しました。

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